説明

双ロール式連続鋳造法によるNb含有フェライト系ステンレス鋼の鋳造方法

【目的】 本発明は、双ロール式連続鋳造法によりNb含有フェライト系ステンレス鋼を鋳造する方法に関し、鋳片凝固時の割れ発生と鋳片冷却時の割れ拡大とを同時に防止することにより鋳片の表面割れ発生を防止する鋳造方法を提供することを目的とする。
【構成】 C:0.001-0.05%, Si:0.2-1.0%, Mn:0.05-0.8%, P:0.03% 以下, S:0.01% 以下, Nb:0.1-5.0%, N:0.001-0.05%を含有するフェライト系ステンレス鋼を双ロール式連続鋳造法により鋳造する方法において、鋳造に供される溶鋼中のNbと結合し得る遊離〔C+N 〕量を0.030%以下とするのに十分な量のTiを添加し、且つ鋳片を、少なくとも1200℃までを10000 ℃/分以上、800 ℃までを1500℃/分以上の冷却速度で冷却し、その後は水冷することにより、Nbマクロ偏析部へのC,Nの集積と高温でのNbCNの析出とを防止するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、双ロール式連続鋳造法により表面割れのないNb含有フェライト系ステンレス鋼を鋳造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】双ロール式連続鋳造法は、平行配置した一対の冷却ロールとその両端面をシールするサイド堰とによって構成した湯溜部に金属溶湯を注入し、両冷却ロールの円周面状にそれぞれ凝固殻を生成させ、回転する両冷却ロールの最近接位置(いわゆる「キスポイント」あるいは「キッシングポイント」)付近で凝固殻同士を合体させて一体の薄帯状鋳片として送出する連続鋳造方法である。
【0003】双ロール式連続鋳造法により鋳造される薄帯状鋳片は、厚さ数mm(通常1〜6mm程度)であり、熱間圧延を経ずに冷間圧延を行って薄板製品を製造することができる。そのため、振動鋳型等を用いる連続鋳造により数100mm角の熱間圧延用スラブとしての鋳片を鋳造し、これを熱間圧延してから冷間圧延する製造方法(スラブ鋳片/熱間圧延プロセス)に比べて、生産効率およびコストが格段に有利になる。
【0004】従来、双ロール式連続鋳造法によってNb含有フェライト系ステンレス鋼を鋳造することは現実的にほとんど不可能とされていた。それは、冷却ロール間から送出された薄帯状鋳片を冷却する途中で鋳片表面に置き割れが発生し、冷間圧延時の著しい歩留り低下や破断等の原因になるためである。その対策としてNb/(C+N)比を調整したり、Laves相の析出温度である850〜650℃を急冷する等の方法が取られていたが、実用上問題の無い程度に割れを軽減するには至っていなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、鋳片の凝固時の割れ発生と鋳片の冷却時の割れ拡大とを同時に防止することにより鋳片の表面割れ発生を防止するようにした双ロール式連続鋳造法によるNb含有フェライト系ステンレス鋼の鋳造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の目的は、本発明によれば、重量で、C: 0.001〜0.05%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.05〜0.8%、P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Nb:0.1〜5.0%、N: 0.001〜0.05%を含有するフェライト系ステンレス鋼を双ロール式連続鋳造法により厚さ6mm以下の薄帯状鋳片に鋳造する方法において、鋳造に供される溶鋼中にNbと結合し得る遊離Cおよび遊離Nの合計量C+Nを0.030%以下とするのに十分な量のTiを添加し、且つ鋳片の冷却速度を、鋳片が冷却ロール間から出現した後少なくとも1200℃までを10000℃/分以上とし、800℃までを1500℃/分以上とし、その後は水冷することにより、Nbマクロ偏析部へのCおよびNの集積を防止すると同時に高温でのNbCNの析出を防止することを特徴とする双ロール式連続鋳造法におるNb含有フェライト系ステンレス鋼の鋳造方法によって達成される。
【0007】
【作用】本発明者は、Nb含有フェライト系ステンレス鋼の双ロール式連続鋳造法において、下記の機構によって鋳片の表面割れが発生することを見出した。すなわち、鋳片の凝固時に先ずNbのミクロ偏析が起こり、ついで凝固応力により発生した内部割れ部に周囲のNb偏析が集積してマクロ的な偏析を生じる。鋳片の温度低下に伴ってこのマクロ偏析部にC,Nが集積し融点が低下するため、その部分の高温強度(特に引張り強さ)が低下し、割れが発生する。さらに温度が低下するとNbCNが析出し、NbCNクラスターに沿って割れが拡大し、冷間圧延時の破断の原因となる上、製品板に疵として残存する。
【0008】本発明においては、マクロ的な偏析部のC,N集積とNbCNの析出とを防止して、割れの発生および拡大を防止する。そのために、Nbよりも高温でCおよびNと結合するTiを添加してCおよびNをそれぞれTiCおよびTiNとして固定することにより、マクロ偏析部へのC,Nの集積を低減して高温強度の低下を防止し且つNbCN析出を軽減して割れ拡大を防止する。また、Nbは鋳片凝固組織のデンドライト樹間部に偏析する傾向が強いが、Tiにはほとんど偏析傾向がないので、鋳片に対して悪影響を及ぼさない。本発明はこのようなTiの性質を利用したものである。
【0009】Tiの添加量は、Nbと結合し得る遊離したCおよびNの合計量を0.030%以下に抑制するのに十分な量とする。ただし通常は、注湯ノズル閉塞防止およびコスト低減の観点から、Ti添加量は0.2%以下とすることが望ましい。このTi添加量の制約により、C含有量およびN含有量の上限は、それぞれ0.05%とした。また、C含有量およびN含有量それぞれの下限は、現在の精錬技術で精錬可能な最低量である0.001%とした。
【0010】鋳片の冷却速度は、Nbマクロ偏析部の高温強度を確保するために少なくとも1200℃までを10000℃/分以上の急冷とし、800℃までを1500℃/分以上、それ以降を水冷とする。鋳片がキスポイントから送出された以降の鋳片冷却速度を本発明の規定範囲とする手段は特に限定しない。一つの望ましい手段として、一対の冷却ロールの直下に配置した押付ロールで鋳片をいずれか一方の冷却ロールの円周面にキスポイントから引き続き押し付けることができる。押付ロールを1個または複数個使用することにより1000℃までを10000℃/分以上の冷却速度で冷却することができる。
【0011】また、1200℃から800℃までを1500℃/分以上の冷却速度で冷却するには、鋳片厚さが2mm未満の場合には放冷(放熱による自然冷却)で十分であるが、鋳片厚さが2mm以上の場合にはガス等を鋳片表面に供給して強制冷却する必要がある。以下に、添付図面を参照し、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0012】
【実施例】表1に示す化学組成のNb含有フェライト系ステンレス鋼を、双ロール式連続鋳造法により薄帯状鋳片(厚さ1.6〜4mm)に鋳造した。同表中、鋳造No.1〜7は本発明実施例、鋳造No.8〜16は比較例である。
【0013】
【表1】


【0014】
【表2】


キスポイント以降の冷却速度は、2段階に制御した。すなわち、キスポイント通過から初期冷却速度終了温度(TA )までの平均冷却速度(CR )と、それ以降800℃までの冷却速度の2段階であり、それ以降は水冷とした。この内、初期冷却速度は、冷却ロール直下に配置した1個または複数個の押付ロールで鋳片を一方の冷却ロールの円周面にキスポイントから引き続き押し続けることにより実現した。また、初期冷却速度終了以降800℃までの一定冷却速度1500℃/分は、鋳片厚さが2mm未満の場合は自然空冷によって実現し、鋳片厚さが2mm以上の場合は不活性ガス、好ましくは窒素ガスを鋳片表面に吹きつけて冷却速度をコントロールすることにより実現した。
【0015】図2に、用いた双ロール式連続鋳造装置の構成例を示す。タンディッシュ1からノズルを介して冷却ロール2とサイド堰により形成された湯溜まり部3へ溶湯が注入される。両冷却ロール2の円周面上にそれぞれ凝固殻4を生成させ、回転する両冷却ロールの両冷却ロール2の最近接位置付近で一対の凝固殻4を合体させて鋳片5として送出する。鋳片5は1200℃までの冷却速度を10000℃/分とするため、押付ロール6で一方の冷却ロール2へ押し付けて冷却を助長する。
【0016】800℃までの冷却速度は1500℃/分以上とするため、押し付けロール6直下の位置に複数のガス吹き出し管7を鋳片5の幅方向に並べて設置し、放射温度計で鋳片温度を関ししながら冷却を制御する。800℃以下の冷却は水冷装置10によって行う。鋳片5はピンチロール8により搬送され、コイラー9で巻き取られる。
【0017】上記各鋳造により得られた鋳片に、酸洗−50%冷間圧延−最終焼鈍−酸洗−調質圧延を行い薄板製品とした。表2に、鋳造条件、鋳片の割れ発生量および薄板製品の冷間圧延検定歩留りを示す。また遊離〔C+N〕量と1200℃までの平均冷却速度の組合せに対する薄板製品良否判定結果を図1に示す。図1中に記したように、1200℃までの冷却速度の上限40000℃/分は用いた装置における冷却ロールの冷却能力の限界である。
【0018】
【表3】


【0019】
【表4】


表2に示したように、本発明による鋳造No.1〜7は鋳片の割れ発生が全く認められず、冷間圧延歩留り98%以上であった(図1中に○で表記)。これに対し、溶鋼成分(特にNb量)、Ti添加量および/または800℃までの冷却速度が不十分であった鋳造No.8〜19は最少の2.0cm/m2 (鋳造No.16)から最多の25.0cm/m2 (鋳造No.8)の量の鋳片割れが発生し、冷間圧延歩留りが最高でも50%(鋳造No.16)、最低では15%(鋳造No.8)と著しく低かった(図1中に△または×で表記)。特に、800℃までの冷却速度が遅い鋳造No.14、15、16、17(図1中に△で表記)は、フェライト粒が粗大化したため靱性が劣化し鋳片コイルの巻き戻しが不可能であった。更にこの内、Tiを添加せずAODによる長時間の脱炭処理によって遊離〔C+N〕量を低下させた鋳造No.15、16はこの処理のためにコストも高くなる。また、1200℃から800℃までの冷却速度が遅い鋳造No.13も同様に靱性が低下し、鋳片コイルの巻き戻し時に加温処理を必要とした。鋳造No.18、19はNb含有量が5%を超えたため、本発明の冷却条件下でも割れが発生した。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、双ロール式連続鋳造法によりNb含有フェライト系ステンレス鋼を鋳造する際に、鋳片の凝固時の割れ発生と鋳片の冷却時の割れ拡大とを同時に防止することにより鋳片の表面割れ発生を防止し、冷間圧延歩留りを著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】遊離〔C+N〕量と1200℃までの平均冷却速度の組合せに対する薄板製品良否判定結果を示すグラフである。
【図2】双ロール式薄板連続鋳造装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1…タンディッシュ
2…冷却ドラム
3…湯溜まり部
4…凝固シェル
5…薄肉鋳片
6…押付ロール
7…ガス吹き出し管
8…ピンチロール
9…コイラー
10…水冷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量で、C: 0.001〜0.05%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.05〜0.8%、P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Nb:0.1〜5.0%、N: 0.001〜0.05%を含有するフェライト系ステンレス鋼を双ロール式連続鋳造法により厚さ6mm以下の薄帯状鋳片に鋳造する方法において、鋳造に供される溶鋼中にNbと結合し得る遊離Cおよび遊離Nの合計量C+Nを0.030%以下とするのに十分な量のTiを添加し、且つ鋳片の冷却速度を、鋳片が冷却ロール間から出現した後少なくとも1200℃までを10000℃/分以上とし、800℃までを1500℃/分以上とし、その後は水冷することにより、Nbのマクロ偏析部へのCおよびNの集積を防止すると同時に高温でのNbCNの析出を防止することを特徴とする双ロール式連続鋳造法におるNb含有フェライト系ステンレス鋼の鋳造方法。

【図2】
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【図1】
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