説明

反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビ、および、反射型スクリーンの製造方法

【課題】簡単な構成で容易にコントラストを向上できる反射型スクリーンを提供する。
【解決手段】スクリーン1は、プロジェクター2の投射光を反射する反射型スクリーンである。スクリーン1は、一つの面に凹面状の複数の凹部11Aが形成された基板11を有する。基板11の凹部11Aは、反射領域と非反射領域とが設定される。反射領域には反射膜12が形成され、非反射領域には反射防止膜13が形成される。反射防止膜13は、斜方蒸着された透明な柱状構造物を複数有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビ、および、反射型スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクター等の投射光を反射させて画像を視認可能とする反射型スクリーンが知られている。この反射型スクリーンとして、スクリーン基板における投影画像が投影される前面に、同一形状の多数の凸状の単位形状部が2次元的に配置された構成が知られている(特許文献1)。
この特許文献1の反射型スクリーンは、単位形状部における投射光の入射方向に向かう一部の表面部分にのみ反射面を設けている。例えば、プロジェクターを反射スクリーンの前方の斜め下方側に配置し、プロジェクターから反射スクリーンに向けて斜め上方に投影画像を照射した場合、単位形状部における投射光が当たる下側の部分に反射面を設け、この投射光が当たらない上側の部分には反射面が設けられていない。この下側の反射面により、プロジェクターからの投射光を反射型スクリーンの前方の観察側へより多く反射させ、投影画像のコントラストを向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−215162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の反射型スクリーンでは、単位形状部の反射面が設けられていない部分に、投射光以外の外光、例えば天井の照明光などが当たると、この外光が観測側へ反射される。この外光が観測側へ反射することにより、スクリーン特性の黒輝度が上がり、コントラストが悪化してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構成で容易にコントラストを向上できる反射型スクリーン、投影システム、フロントプロジェクションテレビ、および、反射型スクリーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の反射型スクリーンは、投射光を反射する反射型スクリーンであって、一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板を有し、前記基板の曲面部には、反射領域と非反射領域とが設定され、前記反射領域には反射膜が形成され、前記非反射領域には反射防止膜が形成され、前記反射防止膜は、斜方蒸着された透明な柱状構造物を複数有して構成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明では、基板の一つの面に凹面状または凸面状の曲面部を複数形成し、この曲面部に反射領域と非反射領域とを設定している。この反射領域および非反射領域は、反射型スクリーンが用いられるプロジェクターの種類などに応じて設定される。例えば、スクリーンに近接して配置されるプロジェクター用として用いられる反射型スクリーンであれば、前記プロジェクターからの投射光が各曲面部に入射する入射角度によって、曲面部において投射光が入射される領域が設定される。従って、曲面部において、前記投射光が入射される領域を反射領域とし、それ以外の領域を非反射領域にすればよく、これはスクリーンの設計時に設定できる。
そして、本発明では、複数の曲面部における反射領域に反射膜を形成し、非反射領域に斜方蒸着された透明な柱状構造物を複数有して構成されるいわゆるモスアイ構造の反射防止膜を形成している。
このことにより、投射光から照射される方向とは異なる方向から基板へ外光が照射されても、外光は非反射領域の反射防止膜に照射される状態となり、外光はいわゆるモスアイ構造の反射防止膜により観測側へ反射されない。このため、スクリーン特性の黒輝度が上がることを防止でき、反射膜により反射された投射光におけるコントラストの悪化を防止できる。したがって、斜方蒸着された透明な柱状構造物を複数有した反射防止膜を形成する簡単な構成で、容易にコントラストを向上できる。
【0008】
そして、本発明では、反射防止膜は、二酸化ケイ素が斜方蒸着されて形成されたことが好ましい。
この発明では、二酸化ケイ素を斜方蒸着することで反射防止膜を形成している。このことにより、例えば二酸化チタンや二酸化スズなどの他の材料で形成した場合に比べて屈折率が小さい反射防止膜を形成できる。また、例えばフッ化マグネシウムなどの他の材料は、常温での成膜時の密着力が弱いため、樹脂製の基板上には成膜できないが、斜方蒸着した二酸化ケイ素は常温での密着力も高く、樹脂製の基板上にも成膜できる。このため、反射防止膜として二酸化ケイ素を用いて基板に斜方蒸着すれば、基板の材質上の制約が少なくなり、様々な製品に用いることができる。
【0009】
また、本発明では、基板は、黒色であることが好ましい。
この発明では、基板を黒色とすることで、反射膜や反射防止膜が設けられない領域が存在して基板が露出する状態となっても、基板の黒輝度が大きく上がってコントラストが悪化することを防止できる。従って、反射膜や反射防止膜を形成する際の位置精度をそれほど高くする必要が無く、反射膜や反射防止膜の形成工程を容易に行うことができる。
【0010】
本発明に記載の投影システムは、上述した反射型スクリーンと、この反射型スクリーンの前記曲面部が設けられた面に投射光を投影する投影機と、を備えることを特徴とする。
本発明に記載のフロントプロジェクションテレビは、上述した反射型スクリーンと、この反射型スクリーンの曲面部が設けられた面に投射光を投影する投影ユニットと、反射型スクリーンおよび投影ユニットが収納された筐体と、を備えることを特徴とする。
【0011】
これらの投影システムやフロントプロジェクションテレビによれば、上述した反射型スクリーンを備えているので、上述した反射型スクリーンによる作用効果が得られる。このため、黒輝度の増大が防止されて良好なコントラストを提供できる。
【0012】
本発明に記載の反射型スクリーンの製造方法は、投射光を反射する反射型スクリーンを製造する製造方法であって、一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板を成形する基板成形工程と、前記基板の曲面部に非反射領域を設定し、この非反射領域に対して斜方蒸着により透明な柱状構造物を複数有した反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、前記基板の曲面部に反射領域を設定し、この反射領域に反射膜を形成する反射膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
この発明は、反射防止膜形成工程で、基板の曲面部に設定した非反射領域に対向する位置から、二酸化ケイ素等の反射防止膜の材料を斜方蒸着させて透明な柱状構造物を複数有した反射防止膜を形成している。また、反射膜形成工程で、曲面部の反射領域に反射膜を形成している。
このため、上述したいわゆるモスアイ構造の反射防止膜により外光が観測側へ反射されず、基板特性の黒輝度が上がることを防止してコントラストの悪化を防止できる反射型スクリーンを製造できる。
【0014】
そして、本発明では、前記反射膜形成工程は、前記基板の曲面部の反射領域に対して斜方蒸着により前記反射膜を形成することが好ましい。
この発明では、基板の曲面部に設定した反射領域に対向する位置から、アルミなどの反射膜の材料を斜方蒸着させて反射膜を形成している。このため、反射膜の材料が設置された蒸発源の位置と、各反射領域との位置関係を、スクリーンに投射光を投射する際のプロジェクターの位置と、各反射領域との位置関係にほぼ合わせることで、反射領域に反射膜をセルフアライメントで形成できる。このため、例えばマスキングやエッチングなどの別処理を実施する必要がなく、上述した反射型スクリーンを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における反射型スクリーンを備えた画像投影システムの概略構成を示す図。
【図2】上記実施形態での反射型スクリーンを示す部分断面図。
【図3】上記実施形態での凹部に設けた反射防止膜の柱状構造体の概略構成を示す断面図。
【図4】上記実施形態での反射型スクリーンを製造する工程を示すフローチャート。
【図5】上記実施形態での反射防止膜を斜方蒸着により形成する工程を説明する図。
【図6】上記実施形態での反射膜を斜方蒸着により形成する工程を説明する図。
【図7】本発明の変形例におけるフロントプロジェクションテレビを示す斜視図。
【図8】本発明の実施例における反射防止膜である二酸化ケイ素の厚みと反射率との関係を示すグラフ。
【図9】本発明の実施例における反射防止膜である二酸化ケイ素の斜方蒸着時の角度と屈折率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[スクリーン]
図1は、本発明の一実施形態によるスクリーン1を備えた画像投影システム3の一例である。この画像投影システム3は、スクリーン1と、プロジェクター(投影機)2とを備えた構成とされている。
スクリーン1は、プロジェクター2からの投影像を反射して観察側である視聴者に画像を視認させる反射型のスクリーンである。
プロジェクター2は、スクリーン1との距離が短くてよい(例えば投射距離が60cm程度)、近接投射型のものが利用できる。
【0017】
プロジェクター2から出射される投射光は、スクリーン1で反射され、これによってスクリーン1の正面方向にいる視聴者は、スクリーン1の画像を見ることができる。
なお、スクリーン1は、プロジェクター2からの投射光を視聴者側に効率よく反射させて、視認性よくスクリーン1に映し出すための光学機能を有している。具体的には、以下に説明する凹部(凹面状の曲面部)11Aと、凹部11Aに設けられた反射膜12および反射防止膜13とによって所定の角度に視野角を持たせた構成(所定の角度においてコントラストが良好な構成)とされている。以下、本実施形態のスクリーン1について詳しく説明する。
【0018】
図1に示すように、スクリーン1は、基板11を有している。この基板11は、投射光が照射される一面に、多数の凹面状の曲面部としての凹部11Aが形成されている。これら凹部11Aは、略半球面状の凹面を有している。
基板11の材料は、通常スクリーン1の基板として用いられるものであればよく、特に限定されるものではない。この材料としては、具体的には、紫外線硬化樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられ、後述する製造方法において離型性のよいものが好ましい。
【0019】
そして、スクリーン1は、図1および図2に示すように、凹部11Aの凹面上に形成された反射膜12と反射防止膜13とを備えた構成を有している。なお、図1および図2は、説明の都合上、凹部11Aは基板11に対して実際の寸法比よりも拡大して示す。同様に、反射膜12および反射防止膜13も、凹部11Aに対して実際の寸法比よりも拡大して示す。
【0020】
スクリーン1において、反射膜12の表面が露出している領域は、設定された所定の位置に設置されたプロジェクター2からの投射光が照射されて効率よく視聴者側に反射させる領域として設定された反射領域である。また、反射防止膜13の表面が露出している領域は、設定された所定の位置に設置されたプロジェクター2からの投射光が照射されない反射領域以外の領域として設定された非反射領域である。
【0021】
すなわち、図1に示すように、スクリーン1の鉛直方向での上側(図中上側)の凹部11Aと、鉛直方向の下側(図中下側)の凹部11Aとでは、プロジェクター2からの投射光が照射される角度が異なることから、反射領域が設定される位置も凹部11Aが設けられている位置で異なる。このように、反射領域は、スクリーン1に対して所定の位置で設置されるプロジェクター2の位置に対応する位置から臨む領域に設定される。したがって、反射膜12は、詳細は後述するが、スクリーン1に対して設置されるプロジェクター2の位置に対応する位置から斜方蒸着することで、設定された反射領域にセルフアライメントで形成される。
【0022】
一方、非反射領域は、設定されたスクリーン1からの所定の位置に設置されたプロジェクター2からの投射光が照射されない領域であり、反射膜12を形成しておく必要が無い領域である。この非反射領域に例えば天井の照明光などが照射されて反射することを防止してコントラストを向上する必要があることから、この非反射領域に反射防止膜13が形成される。この反射防止膜13は、詳細は後述するが、反射膜12の形成と同様に、非反射領域に臨む位置から斜方蒸着すれば、設定された非反射領域に形成される。
【0023】
このように、スクリーン1の反射膜12が、プロジェクター2からの投射光を効率よく反射して画像を映し出す反射面となる。さらに、スクリーン1の反射防止膜13が、例えば天井の照明光などのプロジェクター2からの投射光が照射される方向と異なる方向からの外光の反射を防止し、スクリーン1の黒輝度が増大することによるコントラストの悪化を防止する。
【0024】
なお、凹部11Aの形状は、同一形状が複数配置された構成に限らず、異なる曲率や異なる径寸法の凹部11Aが配置された構成としてもよい。また、半球面状に限らず、半楕円球状などを用いた構成としてもよい。
また、基板11は、黒色に形成されていることが好ましい。黒色に形成する構成としては、例えば、顔料や染料などが含有された材料にて基板11を形成したり、基板11を形成した後に、黒色に表面処理したりすればよい。
【0025】
反射膜12の材料は、高反射率を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)などの金属が挙げられる。なお、材料コストや取扱性などを考慮して、アルミニウムが好適に利用できる。そして、高反射率を有する材料を用いることによって、近接型のプロジェクター2からの投射光の反射効率を向上でき、明るい画像を映し出すことができる。なお、図示しないが、必要に応じて反射膜12上に保護膜等の薄膜をさらに形成してもよい。
反射膜12の厚さは、使用する材料やスクリーン1の種類に応じて適切な厚さとすればよい。
そして、反射膜12は、上述したように、所定の位置に設置されたプロジェクター2からの投射光が照射され投射光を効率よく反射する領域として設定された反射領域に、詳細は後述するが反射膜12の材料を斜方蒸着(図6参照)してセルフアライメントで形成する。
【0026】
反射防止膜13の材料は、低屈折率を有するものであれば特に限定されるものではないが、蒸着容易性、透光性などを考慮し、例えば、二酸化チタン(TiO2:屈折率2.2〜2.4)、二酸化ジルコニウム(ZrO2:屈折率2.20)、二酸化ケイ素(SiO2:屈折率1.40〜1.48)、フッ化マグネシウム(MgF2:屈折率1.39)、フッ化カルシウム(CaF2:屈折率1.39)、二酸化セリウム(CeO2:屈折率2.45)、二酸化スズ(SnO2:屈折率2.30)、酸化タンタル(V)(Ta25:屈折率2.12)、酸化インジウム(In23:屈折率2.00)などが挙げられる。
ここで、二酸化ケイ素は、上述したように、例えば二酸化チタンや二酸化スズなどの他の材料で形成した場合に比べて屈折率が小さい反射防止膜13を形成できる。また、二酸化ケイ素は、例えば屈折率が小さいフッ化マグネシウムなどの他の材料で形成した場合と比べて常温でも密着力が高い反射防止膜13を形成でき、樹脂製の基板11にも成膜できる。さらに、二酸化ケイ素は、取り扱いが容易で、広く流通され、入手が容易な材料である。これらのことから、反射防止膜13の材料としては、二酸化ケイ素が好適に利用できる。
【0027】
そして、反射防止膜13は、上述したように設定された凹部11Aの非反射領域に、詳細は後述するが反射防止膜13の材料を斜方蒸着(図5参照)して形成される。この反射防止膜13は、斜方蒸着により、例えば図3に示すように、斜方蒸着する方向に透明な柱状構造物13Aの軸が沿うように複数の柱状構造物13Aが配置する、いわゆるモスアイ構造のような構造に形成される。すなわち、斜方蒸着により反射防止膜13を形成することで、可視光の波長よりも小さい柱状構造物13Aの配列によりモスアイ構造を実現できる。そして、反射防止膜13をモスアイ構造とすることで、空気から反射防止膜13に入射する光の屈折率変化を抑えることで光の反射を防止することができる。
この反射防止膜13は、好ましくは800〜1000オングストロームの厚さに形成されることが好ましい。ここで、厚さ寸法が800オングストロームより薄い、あるいは1000オングストロームより厚くなると、反射防止膜13の反射率が増大する傾向となるためである。
なお、反射防止膜13は、反射膜12と間隙を介して形成、すなわち凹部11Aの一部が被覆されない領域があってもよい。また、反射膜12の一部が反射防止膜13に積層する状態となってもよい。
【0028】
[スクリーンの製造方法]
次に、本実施形態におけるスクリーンの製造方法について説明する。
図4は、スクリーンを製造する工程を示すフローチャートである。図5は、反射防止膜を斜方蒸着により形成する工程を示す説明図である。図6は、反射膜を斜方蒸着により形成する工程を示す説明図である。
【0029】
スクリーン1の製造では、図4に示すように、図示しないスクリーン成形型を用いて、基板11を転写にて成形する基板成形工程S1が実施される。
この基板成形工程S1では、基板11の材料として例えば紫外線硬化樹脂を用いた場合、スピンコート法によってスクリーン成形型上に紫外線硬化樹脂を塗り広げ、紫外線を照射して硬化させる。そして、スクリーン成形型から離型することで、凹部11Aが形成された基板11が成形される。
なお、基板11の成形において、離型性のよい材料を用いることが好ましいが、離型性がよいものでない材料でも、スクリーン成形型の転写面に離型剤を塗布しておくとよい。
【0030】
この基板成形工程S1の後、基板11に反射膜12および反射防止膜13を形成する基板処理工程S2が実施される。
具体的には、基板処理工程S2では、基板成形工程S1で成形した基板11を図示しない蒸着装置に設置する設置工程S21を実施する。
【0031】
この後、図5に示すように、基板11にSiO2を斜方蒸着して反射防止膜13を形成する反射防止膜形成工程S22を実施する。
ここで、図1に示すように、スクリーン1から所定の位置に設置されたプロジェクター2からの投射光は、スクリーン1の平面に対して所定の角度範囲でスクリーン1に照射される。このため、スクリーン1から設定された所定の位置に設置されるプロジェクター2の位置が、各凹部11Aにそれぞれ設定された反射領域が臨む蒸着位置となるので、プロジェクター2からの投射光のスクリーン1の平面に対する角度範囲に対応する角度範囲で反射膜12を蒸着すればよい。したがって、この反射膜12が形成されない非反射領域は、凹部11Aの凹面全体に対して設定される反射領域の位置関係とは反対の関係となる。このため、スクリーン1に対して設置させるプロジェクター2の位置に対して、スクリーン1の平面の中心を通る法線を中心として、180度反対側の位置が、各凹部11Aに設定される非反射領域が臨む位置となる。この位置に蒸発源となる二酸化ケイ素を配置して斜方蒸着することで、非反射領域に反射防止膜13が形成される。
従って、反射防止膜13の材料をスクリーン1の凹部11Aに斜方蒸着する蒸着角度範囲は、プロジェクター2からの投影光を照射する角度範囲と同程度の角度範囲とすればよい。
【0032】
さらに、この蒸着角度範囲は、基板11の平面に対して10°以上90°未満の範囲が好ましい。すなわち、斜方蒸着する蒸着角度が基板11の平面に対して10°より小さい角度となると、蒸発された材料が基板11に当たらなくなるため、反射防止膜13を成膜できなくなる。
一方、蒸着角度が90°となる法線方向からの蒸着では、反射防止膜13の屈折率があまり低くならないため、反射率の低減が図れず十分なコントラストの向上が得られなくなるおそれがあるためである。
そして、反射防止膜13は、例えば800〜1000オングストロームの厚さ寸法に形成される条件で斜方蒸着により形成され、反射防止膜形成工程S22が完了する。
【0033】
この反射防止膜形成工程S22の後、反射膜形成工程S23を実施する。この反射膜形成工程S23では、図6に示すように、上述した反射領域が臨む位置からアルミニウムを斜方蒸着し、反射膜12をセルフアライメントで形成する。
そして、基板処理工程S2の反射膜形成工程S23の後、保護膜などを形成する表面処理工程S3が適宜実施され、スクリーン1が製造される。
【0034】
[実施形態の作用効果]
上記実施形態では、基板11に形成された凹面状の複数の凹部11Aに設定した反射領域に反射膜12を形成している。さらに、基板11の凹部11Aに設定した非反射領域には、斜方蒸着された透明な柱状構造物13Aを複数有した反射防止膜13を形成している。
このことにより、投射光が照射されない非反射領域に照射される外光は、反射防止膜13により観測側に反射されず、基板11の黒輝度が上がることを防止でき、反射膜12により効率よく反射された投射光におけるコントラストの悪化を防止できる。このため、投射光が照射されない凹部11Aの領域に斜方蒸着された透明な柱状構造物13Aを複数有した反射防止膜13を形成する簡単な構成で、容易にコントラストを向上できる。
【0035】
そして、上記実施形態では、SiO2を斜方蒸着することで反射防止膜13を形成している。
このことにより、他の材料で蒸着した場合に比べて屈折率が小さい反射防止膜13を形成でき、樹脂製の基板11でも他の材料を蒸着した場合と比べて密着力が大きい反射防止膜13を形成できる。したがって、長期間安定して、良好なコントラストを提供できる。
【0036】
また、基板11を黒色としている。このことにより、非反射領域のうち、反射防止膜13が一部形成されない領域が存在しても、その部分に外光があたっても殆ど反射されず、スクリーン1の黒輝度が大きく上がってコントラストが悪化することを防止できる。
【0037】
前記実施形態では、反射防止膜13を形成した後に反射膜12を形成している。このため、反射防止膜13の一部が反射領域に形成された場合でも、その上から反射膜12が形成されるため、反射領域に確実に反射膜12を形成することができ、スクリーン1の反射特性の低下を防止できる。
【0038】
さらに、この反射領域のみに反射膜12を設ける方法として、各凹部11Aの反射領域が臨む位置からの斜方蒸着によりセルフアライメントで形成している。
このため、例えばマスキングやエッチングなどの処理を利用することなく、所定の位置から斜方蒸着するのみで、反射領域のみに反射膜12を形成でき、製造効率を向上できる。
【0039】
また、反射膜12は、反射防止膜13と同様に蒸着により形成している。このため、蒸着装置内に基板11とともに反射防止膜13の材料および反射膜12の材料を設置すれば、蒸着のために減圧する処理が1回で済む。このため、反射膜12を反射防止膜13と同様に蒸着により形成すれば、反射型スクリーン1の製造効率をさらに向上できる。
【0040】
また、上記実施形態では、基板11に凹部11Aを設けている。このため、例えば凸部とする構成に比して、スクリーン1の取り扱い時に摩擦力が作用しにくく、摩擦力の作用による反射膜12および反射防止膜13が剥離するなどの損傷を生じにくく、長期間安定した特性を提供できる。
【0041】
[実施形態の変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
すなわち、反射膜12を斜方蒸着によりセルフアライメントで形成したが、この方法に限られない。例えば、マスキングにより凹部11Aの反射領域に蒸着したり、凹部11Aの領域全体的に蒸着した後にエッチング処理して反射領域に形成したり、凹部11Aの領域全体的に蒸着した後に非反射領域に反射防止膜13を斜方蒸着により形成したりしてもよい。
【0042】
また、基板11に凹面状の凹部11Aを設けた構成を例示したが、例えば凸面状の複数の曲面部を設けた構成としてもよい。この凸面状の曲面部においても、上述した実施形態の製造方法と同様にして、投射光を効率よく反射させる反射領域に反射膜12を設け、非反射領域に斜方蒸着により反射防止膜13を設ければよい。
そして、凸面状の曲面部についても、上記実施形態と同様に、同一形状に限られるものではない。
【0043】
また、本発明の反射型スクリーンは、図1に示すような画像投影システム3に用いられるものに限られない。
例えば図7に示すように、反射型スクリーン301と、プロジェクター302と、これらを支持する筐体としてのフレーム303とを備えたフロントプロジェクションテレビ300に適用してもよい。
また、スクリーン1,301は、平板状に限らず、湾曲する形状でも適用できる。
【0044】
そして、基板11の製造では、スクリーン成形型を用いる構成に限られない。
また、成形方法としても、上述したスピンコート法に限られるものではなく、例えば押出成形など、各種方法を利用できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
なお、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実験1]
基板11の材料、蒸着方向および反射率の関係について、実験1を実施して確認した。
実験内容としては、塩化ビニル製の基板と、ガラス製の基板とを用い、これら基板上に、SiO2を基板の平面に対して30°傾斜する斜方蒸着と、基板の平面に対して90°となる法線方向に沿った法線蒸着とを実施した。この結果を、図8に示す。図8は、横軸をSiO2の厚み、縦軸を反射率としたグラフで、異なる材料の基板にSiO2を異なる方向から蒸着した際のSiO2の厚さ寸法と反射率との関係を示すグラフである。
この図8に示すように、厚さ寸法が400オングストロームでは、SiO2を蒸着しないブランクのガラス製の基板の反射率(4%)と大差はないが、厚さ寸法が800〜1000オングストローム程度に厚く形成することで、反射率が低下する。また、厚さ寸法が1000オングストロームより厚くなると、反射率が増大する傾向が認められた。
これらの結果から、SiO2を蒸着する場合、800〜1000オングストローム程度の厚さ寸法に形成することが好ましいことが分かる。
【0047】
また、斜方蒸着した場合と、法線蒸着した場合とでは、特に800〜1000オングストロームの厚さ寸法に形成した条件で、斜方蒸着する方が反射率を大きく低減できることがわかる。
このため、斜方蒸着により反射防止膜を形成することで、効率よく外光の反射を防止でき、コントラストの向上が得られることが分かる。
【0048】
さらに、ガラス製の基板状に斜方蒸着することで、樹脂製の基板に斜方蒸着する場合に比して、厚さ寸法が1000オングストロームより厚くなっても、反射率があまり増大せず、反射防止機能が得られることがわかる。
このことから、可撓性が要求されない例えばフロントプロジェクションテレビなどでは、耐久性の要請などにより膜厚を厚くする場合でも反射率が増大しないことから、有効であることがわかる。
【0049】
[実験2]
SiO2を斜方蒸着する角度と屈折率との関係について、実験2を実施して確認した。
実験内容としては、基板にSiO2を異なる角度でそれぞれ蒸着し、屈折率を測定した。この結果を図9に示す。図9は、横軸をSiO2の斜方蒸着の角度、縦軸を屈折率とし、SiO2の斜方蒸着の角度と屈折率との関係を示すグラフである。
この図9に示すように、基板の平面に対して90°となる法線に沿った方向から蒸着した場合に比べ、角度が小さくなるに従って次第に屈折率が小さくなることが認められた。特に、30°から小さい角度となると、屈折率が小さくなる割合が増大することが認められた。なお、基板の平面に対して10°より小さい角度では、蒸着させることができなかった。
これらのことから、平面に対して10°以上90°未満、特に10°〜30°の角度で斜方蒸着することが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1…反射型スクリーンであるスクリーン、2,302…投影機としてのプロジェクター、3…投影システムである画像投影システム、11…基板、11A…曲面部としての凹部、12…反射膜、13…反射防止膜、13A…柱状構造物、300…フロントプロジェクションテレビ、301…反射型スクリーン、303…筐体としてのフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投射光を反射する反射型スクリーンであって、
一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板を有し、
前記基板の曲面部には、反射領域と非反射領域とが設定され、
前記反射領域には反射膜が形成され、
前記非反射領域には反射防止膜が形成され、
前記反射防止膜は、斜方蒸着された透明な柱状構造物を複数有して構成されている
ことを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項2】
請求項1に記載の反射型スクリーンにおいて、
前記反射防止膜は、二酸化ケイ素が斜方蒸着されて形成された
ことを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の反射型スクリーンにおいて、
前記基板は、黒色である
ことを特徴とする反射型スクリーン。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の反射型スクリーンと、
この反射型スクリーンの前記曲面部が設けられた面に投射光を投影する投影機と、を備える
ことを特徴とする投影システム。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の反射型スクリーンと、
この反射型スクリーンの前記曲面部が設けられた面に投射光を投影する投影ユニットと、
前記反射型スクリーンおよび前記投影ユニットが収納された筐体と、を備える
ことを特徴とするフロントプロジェクションテレビ。
【請求項6】
投射光を反射する反射型スクリーンを製造する製造方法であって、
一つの面に凹面状または凸面状の複数の曲面部が形成された基板を成形する基板成形工程と、
前記基板の曲面部に非反射領域を設定し、この非反射領域に対して斜方蒸着により透明な柱状構造物を複数有した反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、
前記基板の曲面部に反射領域を設定し、この反射領域に反射膜を形成する反射膜形成工程と、を備える
ことを特徴とする反射型スクリーンの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の反射型スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、前記基板の曲面部の反射領域に対して斜方蒸着により前記反射膜を形成する
ことを特徴とする反射型スクリーンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−221272(P2011−221272A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90159(P2010−90159)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】