説明

反射型フロントスクリーン

【課題】反射型フロントスクリーンの正面側に生じるところ、その領域に存在する外光が表示画像を乱す領域を狭くし、スクリーンが設置される部屋の、その領域に存在する外光が表示画像に悪影響を与えない領域をより広くする。
【解決手段】鏡形成エリア8のスクリーン法線に対する傾きθa1〜θanを、スクリーン面内の鏡形成エリア8に直交する断面内で、プロジェクタから遠い位置の鏡形成用エリア8よりもプロジェクタに近い側の鏡形成用エリア8の方が大きくなるように、異ならせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントプロジェクション型表示装置に用いる反射型フロントスクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクション型表示装置には、リアプロジェクション型とフロントプロジェクション型とがあり、リアプロジェクション型はスクリーンの後側にプロジェクタを配置する必要があることから、例えば、壁際や窓際にスクリーンを置いて画像を視認するようにすることができず、会議室等の限られた空間を有効に利用できないという欠点がある。
それに対して、フロントプロジェクション型表示装置は、壁際や窓際にスクリーンを置いて画像を視認することができ、会議室等の限られた空間を有効に利用できるものが多く、利用数や用途が急激に増えつつある。
【0003】
そして、フロントプロジェクション型のプロジェクション型表示装置は、例えば特許第3563397号公報(:特許文献1)、特開2009−271263号公報(:特許文献2)により紹介されている。フロントプロジェクション型のものは、スクリーン、即ち、反射型フロントスクリーンを略垂直に配置し、その正面側に画像光を投射するフロントプロジェクタを配置した構成を有している。
そして、そのフロントプロジェクタは、反射型フロントスクリーンの真正面に比較的近い位置に配置しそこから反射型フロントスクリーンに画像光を照射するタイプのものが従来一般であったが、正面の斜め前方下側に配置しそこから斜め上向きに反射型フロントスクリーンに画像光を照射するようにした特許文献2に記載されるようなものが増えつつある。
【0004】
プロジェクタを正面の斜め前方下側に配置しそこから斜め上向きに反射型フロントスクリーンに画像光を照射するようにしたものが増えつつあるのは、プロジェクタ光の投射距離を短くでき、従ってより空間を有効に利用できるからである。
一方、上から斜め下向きに入射する外光がある場合、プロジェクタから反射型フロントスクリーンに対する画像光の向きを斜め上向きにすることにより、反射型フロントスクリーンが外光を吸収し、画像光は反射するようにでき易く、室内の照明が明るくても画像が良好なコントラストを以て表示されるようにし易いというメリットが生じ、そのことの重要性が高まりつつある。
【0005】
というのは、プロジェクション型表示装置を用いて映画や動画等を鑑賞する場合には、照明を落とし部屋を暗くしても良いが、スクリーンに映った画像を視つつも手元に用意した資料を参照し、更には、メモを取ったり、集まった人どうしで互いに相手の顔を見ながらディスカッションしたりして会議を進める場合、或いは、学校(小学校、中学校、高校、大学、各種学校)、各種研修、各種セミナー等において教育等に用いる場合、資料、教科書その他テキスト、プリント類等を視たり読んだり、メモやノートを取ることができなければならない。
それには、室内照明を点けて充分に部屋を明るくしなければならない。そして、部屋を明るくしてもスクリーンに表示される画像は部屋の明るさによる外光に対して充分なコントラストを有するものでなければならない。
【0006】
そして、その要望に応える技術として顕著な成果を納めているのが、上記特開2009−271263号公報(:特許文献2)により公開されたものであり、図5はそのような特開2009−271263号公報(:特許文献2)により紹介された反射型フロントスクリーンの一例2aを示す垂直切断断面図である。
その図5に示すフロントスクリーン2aは、特定の角度領域から入射した光のみを拡散透過させ、それ以外の角度領域から入射した光を直進透過させる性質を有する拡散板4を前側に配置し、この拡散板4の裏側に、裏面が鋸歯状に折れ曲がった面を有する光透過層6を配置したものである。
【0007】
その光透過層6の裏面の鋸歯状に折れ曲がった面は、具体的には、或る傾きを持った鏡形成エリア8とそれとは異なる傾きを持った鏡非形成領域10とを垂直方向に沿って交互に配置した形状を有しており、一つの鏡形成エリア8とそれに隣接する一つの鏡非形成用エリア10との組み合わせを本願の明細書においてはエリア対ということとする。
各鏡形成エリア8、8、・・・には鏡面反射性を有する鏡面反射膜14、14、・・・が形成されている。
【0008】
上記拡散板4は、例えば拡散シートからなり、フロントプロジェクタからの画像光を拡散させるように配置される。すなわち画像光が鏡面反射膜14で反射する前後どちらかにおいて拡散板4に入射する角度範囲が拡散角度範囲となるように配置される。例えば画像光が鏡面反射膜14で反射した後に拡散するように配置した場合、正面方向の拡散角度範囲から入射する光を拡散透過させ、その角度範囲外(前述の場合上方、および下方)からの入射光は直進透過させる性質を有する。このような異方性拡散板は、例えば特許文献1(:特許第3563397号公報)で用いられている拡散フィルムがある。
上記光透過層6は例えば樹脂からなり、各鏡非形成領域10、10、・・・の面は粗面化処理により光拡散性を帯びるようにされている。鏡面反射膜は、金属、例えばアルミニウムAl、銀Agを用い、例えば異方性スパッタリングにより形成される。
【0009】
図5に示す反射型フロントスクリーン2aによれば、斜め下側に配置されたプロジェクタから投射された画像光は、各鏡形成用エリア8、8、・・・に入射し、そこに形成された鏡面反射膜14、14、・・・により正面側に反射され、拡散板4により拡散され、反射型フロントスクリーン2aをその正面側にて視る人々により視認される。
【0010】
また、室内照明光或いは太陽光の如き外光は、反射型フロントスクリーン2aに対して斜め下向きに入射するので、拡散板4を直進透過し主として各鏡非形成エリア10、10、・・・に入射する。その入射した光はそこで拡散され、反射型フロントスクリーン2aの正面側に拡散されたり、反射されたりはしないようにできる。そのエリア10、10、・・・に、ここに達した光の透過を許容する屈折率調整膜や光吸収膜を設ける等して正面側への拡散や反射を有効に阻止するようにすることができる。
従って、画像光は反射型フロントスクリーン2a正面に有効に反射され、外光は反射型フロントスクリーン2aによって正面以外の方向に反射、あるいは吸収されることになる。
【0011】
依って、照明を明るくしつつ、高いコントラストの画像を表示できるようにし、テキストを読みながら、或いはメモ、ノートをとりながら画像を視認することができる。その点で、特許文献2(:特開2009−271263号公報)に記載のフロントスクリーンは特に優れていると言える。
そして、従来のフロントスクリーン2aは、各鏡形成用エリア8、8、・・・の傾きが、スクリーン2a最上部に位置するものからスクリーン2a最下部に位置するものに至る全てのエリアにおいて同じであり、鏡非形成エリアの傾きも、同様に、スクリーン最上部に位置するものからスクリーン最下部に位置するものに至る全てのエリアにおいて同じであった。
この点に関して、特許文献1(:特許第3563397号公報)のフロントスクリーンも、特許文献2(:特開2009−271263号公報)に記載のフロントスクリーンとは、異なるところがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3563397号公報
【特許文献2】特開2009−271263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、特許文献2のフロントスクリーンには、画像を視認する観客の存在するエリアに占める画像光が外光に影響されてしまうエリアの割合が高いという問題があった。この問題について図6、図7及び図8を参照して説明する。
図6は、フロントプロジェクション型表示装置のプロジェクタ22のフロントプロジェクション用スクリーン2aに対する配置角度、画像光の光軸の向き、拡散角度領域等を詳細に説明するための垂直に切断して示す縦断面図、図7は、更に入射許容角度領域が詳細に分かるようにそのスクリーン2aを垂直に切断して示す縦断面図である。
尚、図6及び図7において、フロントプロジェクション用スクリーン2aは、便宜上、拡散層4及び光透過層6のみを示し、他の部材(部分)の図示を省略する。図6、7共にプロジェクタ光の光路をわかりやすくするため観察者がスクリーン2aを上から見下ろすように書いてあるが、本来観察者はスクリーン2aの正面方向に存在するのが一般的である。
以降全ての図において角度の定義は反時計回り方向を正とし、水平面が0度、鉛直下方向が−90度、鉛直上方向が90度とする。
【0014】
図において、θaは鏡形成エリア8のスクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度(尚、引用文献2の図4では、θ1となっている。本願明細書、図面では便宜上「θa」とした。)であり、θbは鏡非形成用エリア10のスクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度(尚、引用文献2の図4では、θ2となっている。本願明細書、図面では便宜上「θb」とした。)である。
θpはフロントプロジェクタ22から出射されフロントプロジェクション用スクリーン2aに入射する画像光の入射角[スクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度]、θpbはフロントプロジェクタ22からの画像光の入射角度領域の下側境界角度、θptは入射角度領域の上側境界角度(外光に近い側の境界の角度)である。
【0015】
θp’はフロントプロジェクション用スクリーン2aに入射した画像光のその光透過層6内部におけるスクリーンの法線に対する角度である。θd’は各鏡形成用エリア8、8、・・・に入射し、図6では図示しない鏡面反射膜14で反射された画像光の光透過層6内部におけるスクリーンの法線に対する角度、θdは光透過層6を透過し、空気中に屈折して出射した場合の画像光のスクリーンの法線に対する角度、θdbは画像光の拡散角度領域の下側境界角度、θdtは画像光の拡散角度領域の上側境界角度である。ここで画像光の拡散角度領域とは画像光(プロジェクタ光)が拡散反射して出射する領域のことである。例えば画像光が各鏡形成用エリア8で反射した後に拡散するように配置した場合、画像光の拡散角度領域と拡散板4の拡散角度領域は等しい。一方画像光が各鏡形成用エリア8で反射する前に拡散するように配置した場合、画像光の拡散角度領域は拡散板4の拡散角度領域の鏡形成用エリア8に対する鏡面対称な領域に等しい。
θoは観察者Eが存在する角度のスクリーンの法線(一点鎖線に示す)に対する角度、θobはその観察角度範囲の下側境界角度、θotは観察角度範囲の上側限界角度である
また、一つの鏡形成エリア8とその下に隣接する一つの鏡非形成エリア10との組み合わせをエリア対とし、各エリア対に12という符号を付することとする。
【0016】
ここで、拡散角度領域について考察する。
観察者が画像を観察するためには、θdt>θotで、θdb<θobでなければならない。
そして、上記入射角度領域の下側境界(下限)角度θpbで空気中から光透過層6に入射した画像光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθpb’、上側境界(上限)角度θptで空気中から光透過層6に入射した画像光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθpt’とし、画像光の拡散角度領域の下側境界角度θdbで空気中から光透過層6に入射した仮想光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθdb’、画像光の拡散角度領域の上側境界角度θdtで空気中から光透過層6に入射した仮想光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθdt’とする。
【0017】
すると、上記θa即ち、鏡形成エリア8のスクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度の上限、θamax及び下限θaminは下記の式で表される条件を満たすことが好ましい。
θamax=[(θpt’+θdt’)/2]+90°
θamin=[(θpb’+θdb’)/2]+90°
さもないと、フロントプロジェクタ22からの入射角度範囲内の画像光が拡散板4の拡散角度領域に入射しないからである。ただし設計、あるいは制作の都合上、有効な反射でなく、一部のプロジェクタ光が無駄になってもやむを得ない場合がある。このような場合であっても最低でもフロントプロジェクタの入射角度範囲から入射した光の50%が、拡散角度領域に反射することが望まれる。
【0018】
また、θptよりθdbが大きいこと、即ち、
θpt<θdb
であることが好ましい。
さもないと、即ち、θpt>θdbであると、フロントプロジェクタ22から斜め上側に向けた画像光の入射角度領域と、画像光の拡散角度領域とが一部オーバーラップし、良好な表示ができないからである。
【0019】
また、上記θbはθpt’−20°より大きいこと、即ち、
θb>θpt’−20°
であることが好ましい。
というのは、先ず、θbをθpt’以上にすると、フロントプロジェクタ22からの画像光が鏡非形成用エリア10、10、・・・に入射するおそれを完全になくし、画像光の損失を完全になくすことができるからである。
次に、θpt’より小さくても20°程度であれば、画像光の損失を極めて小さくすることができるからである。
【0020】
尚、上記の好ましい条件は、水平方向における位置を異ならせても成立する。
また、これまでスクリーン下方からプロジェクタ光を入射させ正面から観察することを想定していたが、スクリーン上方からプロジェクタ光を入射させ正面から観察する場合であっても、座標を上下逆に取って同様の議論が成り立つ。更に上下逆だけでなく、左右、あるいは斜めに対して座標をとっても同様の議論が成り立つ。
ところで、従来においては、θa、即ち、鏡形成エリア8のスクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度が、スクリーン2aの上端の鏡形成エリア8から下端の鏡形成エリア8に渡る全エリア8、8、・・・について同じであった。
そのため、スクリーン2a全体の内少なくとも一部分が外光により影響されて視認される観察位置が広くなると言う問題がある。このことを説明するためにはプロジェクタ光が入射することを許容される領域(以降プロジェクタ光入射許容角度領域とする)を定義する必要があり、図7はその領域を示す説明図である。
図7において、角度θdt’で鏡形成エリア8に入射し反射された仮想光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθcb’、角度θdb’ で鏡形成エリア8に入射し反射された仮想光の光透過層6内におけるスクリーンの法線に対する角度をθct’とする。また、角度θct’で光透過層6から空気中に屈折して出射した仮想光のスクリーンの法線に対する角度をθct、角度θcb’ で光透過層6から空気中に屈折して出射した仮想光のスクリーンの法線に対する角度をθcbとする。このときプロジェクタ光入射許容角度領域はθcb以上、θct以下で定義される。プロジェクタ光入射許容角度領域から入射した光はプロジェクタ光であっても外光であっても鏡形成エリア8により拡散板4の拡散角度領域に反射され、従って観察者方向に拡散反射される。
なお、当然プロジェクタ光はプロジェクタ光入射許容角度領域から入射しなければならず、以下の条件が存在する。
θcb<θpb、θpt<θpt
先ほどのθamaxおよびθaminに関する式は上記と同じことを鏡形成エリア8のスクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度θaについての条件として記述した式であり、本質的に同じ条件である。
【0021】
次に、プロジェクタ光入射許容角度をもとに、画像が外光に影響されて視認される領域を図8に示す。図8において、3はスクリーン2aが一内壁面に設置される部屋、3aはその部屋3の天井、3bは部屋3の床面、3c、3c、・・・はその部屋3の天井3aに設置された照明、3dはスクリーン2aが設置されるスクリーン設置壁面、3eはプロジェクタの設置される水平面、具体的には床面3bからプロジェクタが設置される高さhの水平面である。Hはほぼ垂直なスクリーン2aの縦方向の長さ(高さ)であり、θct1はスクリーン2aの鏡形成エリア8、8、・・・のうち最も高い位置にある鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度(:外光に近い側の境界の角度)θctである。
【0022】
θctmはスクリーン2aの鏡形成エリア8、8、・・・のうち高さ方向で中央にある鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度(:外光に近い側の境界の角度)である。また、θctnはスクリーン2aの鏡形成エリア8、8、・・・のうち最も低い位置にある鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度(:外光に近い側の境界の角度)である。
つまり、スクリーンのエリア8、8、・・・に上から順番に番号を1、2、・・・と振り、エリアの最後の番号をnとし、真ん中の番号をmとし、その番号をθctに添え字として付して或る高さの鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度を示すこととしたのである。ちなみに、θcbはフロントプロジェクタ22からのプロジェクタ光入射許容角度領域の下側境界角度(:外光から遠い側の境界の角度)であることは前述の通りである。
【0023】
ところで、従来の場合、スクリーン2aの鏡形成エリア8、8、・・・(図6、図7を参照)は、その傾斜角度θaが高いところにあるものも、低いところにあるものも、中間の高さにあるものもすべて同じであるので、各鏡形成エリア8、8、・・・のプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度θct1 、θct2 、・・・・、θctmは、すべて同じであった。
図中のL1は、最も高い鏡形成エリア8を起点としたその鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度θct1方向に進む仮想光線のラインで、そのラインL1と部屋3のプロジェクタの設置される水平面3eとの交点がP1である。
【0024】
この交点P1よりも後の(スクリーンから離れる方向の)領域Cは、その位置に外光源が存在した場合にスクリーン2aが外光を拾わない領域となる。
そして、その交点P1からそれよりも前(スクリーンへ近づく方向)のスクリーン2aの設置位置(内壁面)に至る領域Bは、その位置に外光源が存在した場合にスクリーン2aの少なくとも画面の一部が外光を拾う領域となる。
【0025】
また、Lnは、最も低い鏡形成エリア8を起点としたその鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度θctn方向に進む仮想光線のラインで、そのラインLnと部屋3のプロジェクタの設置される水平面3eとの交点がPnである。
【0026】
尚、Lmは中央にある鏡形成エリア8を起点としたその鏡形成エリア8におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度θctm方向に進む仮想光線のラインで、そのライン(仮想光線のライン)L1と部屋3のプロジェクタの設置される水平面3eとの交点がPmである。
【0027】
ところで、スクリーン2aに表示された画像を視認(観察)するには領域Bに外光源が存在しないことが好ましい。というのは、この領域は少なくともスクリーンの一部分にとってプロジェクタ光入射許容角度領域であり、そこに存在する外光源からの外光はスクリーン2aによって観察者方向に拡散反射され、表示画像が乱されるからである。
しかし、従来においては、領域Bの長さ(上記交点P1のスクリーン2a設置壁面3dからの距離)が長く、部屋3の前の部分(スクリーン2a側の部分)に、その領域に存在する外光が表示画像を乱す比較的広い領域Bができてしまうという問題があった。
【0028】
図8において、Wは上記交点Pnから上記仮想光線のラインL1へ下ろした垂線の幅であり、スクリーンの高さH×cosθct1(〜θctn)であるが、これはすべての仮想光線L1〜Lnが通る最小径の円の直径に他ならず、従来においては、この大きさが領域Bの長さを決定していたのである。
本発明はそのような問題を解決すべく為されたもので、反射型フロントスクリーンの正面側の部分に生じるところ、その領域に存在する外光が表示画像を乱す領域を狭くし、スクリーンが設置される部屋の中の、その領域に存在する外光が表示画像に悪影響を与えない領域をより広くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
請求項1の反射型フロントスクリーンは、特定の角度領域から入射した光のみを拡散透過させ、それ以外の角度領域から入射した光を直進透過させる光拡散層と、裏側に所定の傾きを持つ鏡形成用エリアとそれとは傾きの異なる所定の傾きを持つ鏡非形成用エリアとが所定の方向に沿って交互に配置されて鋸歯状に折れ曲がった面が形成され、その面とは反対側の面にて上記拡散層の裏側に接合された光透過層と、上記各鏡形成用エリア裏面に形成された反射性を有する材質からなる鏡面反射膜と、を有し、鏡形成エリアのスクリーンの法線に対する傾きが、スクリーン面内の鏡形成エリアに直交する断面内で、プロジェクタから遠い位置の鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い側の鏡形成用エリアの方が大きくなるように、異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の反射型フロントスクリーンによれば、鏡形成エリアのスクリーン法線に対する傾きが、スクリーン面内の鏡形成エリアに直交する断面内で、プロジェクタから遠い位置の鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い側の鏡形成用エリアの方が大きくなるように、異ならしめたので、図8における、スクリーン2a正面側のスクリーンの少なくとも一部が外光を拾う領域Bをより小さくすることができ、延いては、スクリーンが外光を拾わない領域Cをその分長くすることができる。
【0031】
これは、スクリーンの全エリア対の仮想光線ラインが通る最小径の円の直径の幅Wをスクリーンの高さH×cosθct1よりも小さくすることができたことに他ならない。つまり、その幅Wがスクリーンの高さH×cosθct1の1倍よりも小さな値、例えば0.8×H×cosθct1であれば、本発明の効果を享受することができるのである。
尚、各鏡形成用エリア及び各鏡非形成エリアは、スクリーン正面から視て、水平方向(横方向)に真っ直ぐに延びた形状を有するのが一般的であろうが、正面から視て円弧状になるような形状になるような場合もあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例(:実施例2A)を示す表示装置設置室内の反射型フロントスクリーンの概略縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例(:実施例2A)を示すスクリーン2Aの鏡形成エリア8及び鏡非形成用エリア10を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例(:実施例2B)を示す表示装置設置室内の反射型フロントスクリーンの概略縦断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例(:実施例2C)を示す表示装置設置室内の反射型フロントスクリーンの概略縦断面図である。
【図5】背景技術を説明するための反射型フロントスクリーンの一部を示す垂直に切断した断面図である。
【図6】背景技術に関して、反射型フロントスクリーン及びそれに対するプロジェクタを、そのプロジェクタの配置角度及び画像光の光軸の向き等が詳細に説明できるように垂直に切断して示す断面図である。
【図7】背景技術に関して、反射型フロントスクリーン及びそれに対するプロジェクタを、そのプロジェクタの配置角度及び画像光の光軸の向きの他拡散角度領域及び入射許容角度領域をも詳細に説明できるように垂直に切断して示す断面図である。
【図8】発明が解決しようとする課題を説明するための表示装置設置室内の反射型フロントスクリーンの従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、基本的に、鏡形成エリアのスクリーン法線に対する傾きが、スクリーン面内の鏡形成エリアに直交する断面内で、プロジェクタから遠い位置の鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い側の鏡形成用エリアの方が大きくなるように、異なるようにすることが特徴であり、このようにすれば、スクリーンの全エリア対におけるプロジェクタ光入射許容角度領域の上側境界角度θctを示す仮想光線ラインが通る最小径の円の直径をスクリーンの高さH×cosθct1よりも小さくすることができ、延いては、従来よりも領域B(図8参照)の大きさを小さくすることができるのであるが、鏡形成エリアのスクリーン法線に対する傾きの異なり方は、段階的であっても良いし、連続的(無段階的)であっても良い。
【0034】
段階的というのは、スクリーンを横方向(水平方向)に延びる複数の分割エリアに上下方向に沿って分け、各分割エリア内における鏡形成エリアのスクリーン法線に対する傾きθaは同じであるが、各分割エリア毎にθaは異なり、プロジェクタから遠い分割エリアの鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い分割エリアの鏡形成用エリアの方がθaが大きくなるようにするものである。
連続的(無段階的)とは、スクリーンを水平方向に延びる複数の分割エリアに上下方向に沿って分けることはせず、プロジェクタから遠い鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い鏡形成用エリアの方がθaが大きくなるようにするものである。
【0035】
また、本発明は、スクリーンに対して正面斜め下側(床側)からプロジェクタにより画像光を照射し、正面側の視聴者に対して画像表示し、外光となる照明が天井側に配置される使用条件で使用される反射型フロントスクリーンに対しても、それとは逆に、スクリーンに対して正面斜め上側(天井側)からプロジェクタにより画像光を照射し、正面側の視聴者に対して画像表示し、外光となる照明が床側に配置される使用条件で使用される反射型フロントスクリーンに対しても適用することができる。前者の場合はここまで説明した通りに、後者の場合は垂直断面内で角度の定義をプラスマイナス逆転させるように座標をとる必要がある。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の詳細を図示実施例に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明の第1の実施例(:実施例2A)を示すもので、図1は表示装置設置室内の反射型フロントスクリーンの概略縦断面図、図2はスクリーン2Aの鏡形成エリア8及び鏡非形成用エリア10を示す縦断面図である。
本実施例の反射型フロントスクリーン2Aは、一つの鏡形成エリア8とそれに隣接する非鏡形成エリア10との組み合わせ(:エリア対)12が上から下に行くに従って鏡形成エリア8のスクリーンの法線に対する角度θaが少しずつ大きくなっているという特徴を有するという点で従来のものと大きく異なる。
【0037】
しかし、本実施例(:実施例2A)は、それ以外の点で構造が従来のものと基本的に同じであるので、改めて図示することはせず、また、図1の図5〜図8との共通部分を示す符号は図1、図2でもそのまま用いる。
そして、本実施例については既に説明済みの従来例と異なる点についてのみ説明し、従来例と共通する説明は可及的に省略する。これらの点は、後述する第2、第3の実施例(実施例2B、2C)についても同様である。
【0038】
本スクリーン2Aは、図5に示した従来例2aと同様に、スクリーンに対して正面斜め下側(床側)からプロジェクタにより画像光を照射し、正面側の視聴者に対して画像表示し、外光となる照明が天井側に配置される使用条件で使用されるものである。
本実施例2Aの特徴は、図2に示すように、一つの鏡形成エリア8とそれに隣接する一つの鏡非形成エリア10との組み合わせであるエリア対12、12、・・・のうち、最も高いエリア対から低いエリア対に行くに従って鏡形成エリア8のスクリーンの法線に対する角度θaが少しずつ大きくなっている。
【0039】
具体的に説明すると、上から1番目のエリア対12の角度θaをθa1、2番目のエリア対12の角度θaをθa2、一番下、即ちn番目のエリア対12の角度θaをθanというように、角度θaに上からのエリア対の番号を添字にした場合、各エリア対12の角度θaの関係は下記の式で表される。
θa1<θa2<θa3・・・・・<θan
これは、図1に示すように、各エリア対121〜12nの各鏡形成エリア8、8、・・・の入射角度領域の上側境界角度θct1 、θct2 、・・・・、θctnのラインL1〜Lnがプロジェクタ22の投射開口(レンズ)付近の点Pを通るように、θa1<θa2<θa3・・・・・<θanの関係にされている。尚、θct1 、θct2 、・・・・、θctnは、各エリア対121〜12nのθctを示すが、そのθctについては図7を参照されたし。
【0040】
従って、本実施例2Aにおいては、全エリア対121〜12nの仮想光線ラインL1〜Lnが通る最小径の円の直径Wはほぼ0となり、反射型フロントスクリーンの正面側の部分に生じるところの、その領域に存在する外光が表示画像を乱す領域Bを狭くし、その領域に存在する外光が表示画像に悪影響を与えない領域Cをより広くすることができる。なお、プロジェクタ光はスクリーン2Aの各エリア対121〜12nに対応する位置に対してθct1 、θct2 、・・・・、θctn以下で入射しなければならないため、プロジェクタ22の投射開口(レンズ)は点P(仮想光線ラインL1〜Lnが通る最小径の円の直径Wがほぼ0となる位置)よりスクリーンから見てそれ以下の角度の方向に位置しなければならない。
【実施例2】
【0041】
図3は本発明の第2の実施例(:実施例2B)を示す反射型フロントスクリーンの概略縦断面図である。
本実施例2Bは、第1の実施例(:実施例1)とは、各エリア対12の角度θaの関係が、θa1<θa2<θa3・・・・・<θanである点では共通するので、図2に相当する図面を記載しなかったが、全エリア対121〜12nの仮想光線ラインL1〜Lnが通る最小径の円の直径Wが0よりもやや大きい点でのみ異なっている。
このように、全エリア対121〜12nの仮想光線ラインL1〜Lnが通る最小径の円の直径Wが0よりもやや大きくなる態様でも本発明を実施することができるのである。要は、この幅Wが、上述したスクリーンの高さH×cosθct1よりも小さければ、本発明の効果を享受することができるのである。
【実施例3】
【0042】
図4は本発明の第3の実施例(:実施例2C)を示す反射型フロントスクリーンの概略縦断面図である。
本実施例2Cは、第1の実施例(:実施例1)2A、第2の実施例(:実施例2)2Bとは、各エリア対12の角度θaが段階的に大きくなっていく点で異なる。即ち、図1、図2に示す第1の実施例2A及び図3に示す第2の実施例2Bにおいては、互いに隣接する各エリア対12・12の各角度θaは互いに異なっており、角度θaの異なり方は連続的、無段階的であった。
【0043】
しかるに、本実施例2Cは、図4に示すように、スクリーン2Cを高さ方向に複数に分割、例えば5分割し、分割領域毎に上の方から下の方へ行くに従って角度θaが大きくなるようにしたものである。
このように、角度θaを上から下へ行くに従って変化させる態様として段階的に変化させる態様があり得る。全エリア対121〜12nの仮想光線ラインL1〜Lnが通る最小径の円の直径Wが、上述したスクリーンの高さH×cosθct1よりも小さければ、本発明の効果を享受することができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、フロントプロジェクション型表示装置に用いる反射型フロントスクリーンに広く産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0045】
2A〜2C・・・フロントプロジェクション用スクリーン、
3・・・スクリーン及びプロジェクタ設置室、3a・・・天井、
3b・・・床面、3c・・・照明、3d・・・スクリーン設置壁面、
3e・・・プロジェクタ設置高さ面、
H・・・スクリーンの高さ、h・・・プロジェクタの設置高さ、
L(L1、L2、・・・Ln)・・・仮想光線、
θp・・・フロントプロジェクタから出射されフロントプロジェクション用スクリ ーンに入射する画像光の入射角[スクリーンの法線(一点鎖線)に対する角度]、
θpt・・・入射角度領域の上側(外光に近い側)境界角度(仮想光線)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の角度領域から入射した光のみを拡散透過させ、それ以外の角度領域から入射した光を直進透過させる光拡散層と、裏側に所定の傾きを持つ鏡形成用エリアとそれとは傾きの異なる所定の傾きを持つ鏡非形成用エリアとが所定の方向に沿って交互に配置されて鋸歯状に折れ曲がった面が形成され、その面とは反対側の面にて上記拡散層の裏側に接合された光透過層と、上記各鏡形成用エリア裏面に形成された反射性を有する材質からなる鏡面反射膜と、を有する反射型フロントスクリーンであって、
鏡形成エリアのスクリーン法線に対する傾きが、スクリーン面内の鏡形成エリアに直交する断面内で、プロジェクタから遠い位置の鏡形成用エリアよりもプロジェクタに近い側の鏡形成用エリアの方が大きくなるように、異なる
ことを特徴とする反射型フロントスクリーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−226237(P2012−226237A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95823(P2011−95823)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】