説明

反射率割出方法

【課題】該当個所の日射反射率を、簡単に且つ短時間で割り出せるようにする。
【解決手段】測定対象部1における該当個所S0の表面の反射率を割り出す反射率割出方法において、予め、表面の反射率が異なる既知の値である少なくとも二つ以上の指標体S1,S2を用意し、各指標体S1,S2を、測定対象部1上に表面を暴露させた状態に配置し、該当個所S0と各指標体S1,S2とを含む範囲を赤外線サーモグラフィ装置2によって撮影し、その撮影結果から、各指標体S1,S2の温度と、該当個所S0の温度とを求め、その結果から、各指標体S1,S2の温度と反射率との相関性をもとにして、該当個所S0の温度に相関する反射率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一例として、屋上や屋根に設置された防水シートの劣化の度合を太陽光の反射状態に基づいて認識したり、別の例として、屋上や屋根の塗装を行った際の「塗りむら」の有無を太陽光の反射状態に基づいて調べたりするのに、測定対象部における該当個所の表面の反射率を割り出す反射率割出方法に関する。但し、反射率を割り出す目的は、上述した記載内容は一例に過ぎず、他の目的によって実施されることもある。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の反射率割出方法としては、上向き・下向きの各日射計(太陽光スペクトルの全範囲)を備えた長短波放射計を用意し、その長短波放射計を、測定対象部における該当個所の上方に距離をあけて設置して測定を行っていた。
反射率の割り出しは、前記該当個所の全天日射量と反射日射量とをそれぞれ測定すると共に、それらの比から日射反射率を求めていた。
尚、この様な従来技術に関しては、当業者の間で広く知られているものであるが、該当する反射率割出方法に関して詳しく言及した特許文献などは見あたらないので、先行技術文献は示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の反射率割出方法によれば、前記該当個所の測定面が充分に広く一様である場合を除いては、周囲表面からの日射の影響を受けることになり、これを補正するための別の測定を行う必要がある。
また、測定値は、日射量が異なることで変動する可能性があり、より精度良く該当個所の日射反射率を求めるためには、例えば、朝、昼、午後等、太陽の日射状況の異なる環境で夫々の測定を行う必要があった。
即ち、該当個所の日射反射率を求めるのに、長い時間と多くの手間がかかる問題点があった。
【0004】
従って、本発明の目的は、上記問題点を緩和し、該当個所の日射反射率を、簡単に且つ短時間で割り出すことができる反射率割出方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の特徴構成は、測定対象部における該当個所の表面の反射率を割り出す反射率割出方法において、予め、表面の反射率が異なる既知の値である少なくとも二つ以上の指標体を用意し、前記各指標体を、前記測定対象部上に表面を暴露させた状態に配置し、前記該当個所と各指標体とを含む範囲を赤外線サーモグラフィ装置によって撮影し、その撮影結果から、各指標体の温度と、該当個所の温度とを求め、その結果から、各指標体の温度と反射率との相関性をもとにして、前記該当個所の温度に相関する反射率を求めるところにある。
【0006】
日射を受けている測定対象部においては、反射率が異なれば、それに相関して温度も異なることが知られている。
また、このような相関性を、発明者によって実測したデータを温度軸と反射率軸とからなるグラフに示すと、図4に示すように、ほぼ直線状になる。即ち、温度と反射率とは、直線上にのる相関性を備えている。
また、ここで言う反射率は、吸収率との間に、次のような関係が成り立つことを前提にしている。
1.0−反射率=吸収率
本発明の第1の特徴構成によれば、表面の反射率が異なる既知の値である少なくとも二つ以上の指標体と、該当個所とを、同じ環境下で太陽光に曝すことができる。これらを赤外線サーモグラフィ装置によって撮影することで、同様(又はほぼ同様)の環境下で、それぞれの温度を求めることができる。
従って、少なくとも二つ以上の指標体における温度と反射率との相関性に基づいて、前記該当個所の撮影結果から求まる温度を使用して、簡単に前記該当個所の反射率を求めることができる。
以上のように、従来においては、該当個所の反射率を求めるのに、長い時間と多くの手間がかかっていたのに比べて、本発明によれば、赤外線サーモグラフィ装置で撮影した結果を使用して、簡単に且つ短時間に該当個所の反射率を求めることができる。
更には、赤外線サーモグラフィ装置に示される温度表示画面には、該当個所と指標体のみならず、その周囲を含めた広い範囲が撮影され、該当個所とそれ以外の個所との比較も簡単に行うことができる。
従って、例えば、屋上に設置された防水シートの劣化の度合を太陽光の反射状態に基づいて認識したり、別の例として、屋根の塗装を行った際の「塗りむら」の有無を太陽光の反射状態に基づいて調べたりするのに、測定対象部の全体の状況を相対的に認識することができる。
但し、赤外線サーモグラフィ装置による撮影は、必ずしも、一つの画面内に収める必要はなく、複数枚の画面にわたって撮影されるものであってもよい。
【0007】
本発明の第2の特徴構成は、前記指標体は、前記該当個所を挟む位置に配置するところにある。
【0008】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、指標体と該当個所との測定環境差をより少ない状態にでき、測定精度の向上を図ることが可能となる。
また、赤外線サーモグラフィ装置での撮影を行う上で、前記該当個所を中心として各指標体も一つの画面に収めやすい。
【0009】
本発明の第3の特徴構成は、前記指標体と前記該当個所とは、前記赤外線サーモグラフィ装置の一画面に収めて撮影するところにある。
【0010】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第1又は2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、測定対象部の全体を一画面に表示することができ、温度分布状況を認識しやすくなる。
また、測定対象部全般の撮影時期が同じであるから、例えば、撮影時期がずれることによって環境温度が変化して、測定精度が悪くなるといった問題を防止できる。
即ち、精度良く温度計測を行うことができる。
【0011】
本発明の第4の特徴構成は、赤外線サーモグラフィ装置の撮影結果から求める前記指標体の温度は、所定の範囲の各温度データを平均した平均温度であるところにある。
【0012】
前記指標体は、測定対象部の上に表面を暴露させた状態に配置して測定するため、例えば、測定対象部の上に板状の指標体を載置するような場合は、被載置面と指標体との接当状態にバラツキが生じることがあり、その結果、指標体の温度にもバラツキが発生し易い。従って、指標体の表面上の点部分の温度情報は、全体的なものと異なる危険性がある。
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第1〜3の何れかの特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、指標体の温度を点部分で捉えるのに比べて精度良く求めることができる。
その結果、複数の指標体から求める温度と反射率との相関性を導き出す上での精度も向上し、該当個所の反射率をより精度良く割り出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の反射率割出方法の一例を示す模式図である。
ここでは、建物の屋上(測定対象部の一例)1に敷設されている防水シート1Aの該当個所S0を対象として反射率を求める例を示している。
【0015】
前記屋上1は、例えば、コンクリートスラブ1Bと、その上面の全域にわたって敷設された防水シート1Aとを備えて構成されている。前記コンクリートスラブ1Bが防水下地となっている。
【0016】
前記防水シート1Aは、一例として、塩化ビニル製のシート材によって構成されている。防水シート1Aは、経年劣化により、表面の日射反射率が減少する傾向がある。従って、建築当初に比べて、年月が経過すればするほど、日照によって屋上1の温度上昇が顕著になる傾向がある。
【0017】
前記該当個所S0の反射率R0を割り出すには、次の手順で行う。
[1] 予め、表面の反射率Rが異なる既知の値である少なくとも二つの指標体S1,S2を用意する。
因みに、指標体S1の反射率は、R1で表し、指標体S2の反射率は、R2で表す。
具体例としては、指標体S1は、矩形形状の塩化ビニル製の白色系防水シートで構成してあり、指標体S2は、同様に矩形形状で、塩化ビニル製の黒色系防水シートで構成してある。
従って、両指標体の反射率は、R1>R2の関係にある。
また、指標体S1,S2の材質を選択する上では、該当個所S0と同質の材料で構成してあることが精度の向上を目指すために重要である。また、下地の状況(材質や配置環境等)についても、大きな差の無い状態にすることが好ましい。例えば、双方の放射率が大きく異なるような場合は、精度の低下につながる危険性がある。
[2] 前記両指標体S1,S2を、屋上1の上に表面を暴露させた状態に配置する。両指標体S1,S2の配置は、図1、図2に示すように、前記該当個所S0を挟む両側方に配置する。尚、両指標体S1,S2や、該当個所S0は、例えば、一部のみが日陰となるような状況は避け、同様の日照状態となるように場所設定を行う必要がある。
[3] 前記屋上1が、充分な日照を受けて温度の変動が少なくなった状態で、前記該当個所S0と両指標体S1,S2とを含む範囲を赤外線サーモグラフィ装置2によって撮影する。その際、前記指標体S1,S2と前記該当個所S0とは、前記赤外線サーモグラフィ装置2の一画面に収めて撮影する。
[4] 赤外線サーモグラフィ装置2の撮影結果から、両指標体S1,S2の温度T1,T2と、該当個所S0の温度T0とを求める。
撮影結果から求めるのは、図2に示すように、「所定の範囲」の各温度データを平均した平均温度である。ここでいう「所定の範囲」とは、両指標体S1,S2については、外縁部分に温度分布の乱れが生じ易いので、指標体の外形より一回り小さい矩形形状(図中の破線表示部)を範囲として設定している。また、前記該当個所S0に対しても、両指標体で設定した破線表示の矩形と同寸法の矩形を平均温度の算定範囲としている。
[5] 両指標体S1,S2の温度T1,T2と反射率R1,R2との相関性をもとにして、前記該当個所S0の温度T0に相関する反射率R0を求める。
反射率R0を求める具体例は、所謂「2点校正法」によって求めるもので、図3に示すように、X軸に反射率、Y軸に温度を当てはめたグラフを用い、両指標体S1,S2についての温度T1,T2と反射率R1,R2との交点をプロットし、両交点にわたる直線Lを引く。直線L上の温度T0に該当する点から、X軸に垂線を引き、対応した反射率R0を求める。
【0018】
本実施形態の反射率割出方法によれば、赤外線サーモグラフィ装置で撮影した結果を使用して、簡単に且つ短時間に該当個所の反射率を求めることができる。また、屋上1の全体の反射率状況を相対的に認識することができる。
従って、例えば、屋上1に設置された防水シート1Aの劣化の度合を太陽光の反射状態に基づいて認識することができる。
温度の測定そのものは、該当個所S0を挟んだ両側方に指標体S1,S2を配置していることや、一回の撮影で同じ時間の温度状況を一つの画面に記録することで測定環境に差がでるのを防止していることや、測定温度のデータを、所定の範囲の平均温度としていること等から、測定精度の向上を図ることができている。
【0019】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0020】
〈1〉 前記測定対象部は、先の実施形態で説明した屋上に限るものではなく、例えば、屋根や、壁や、その他の構造体であってもよく、それらを総称して測定対象部という。
また、該当個所S0は、必ずしも防水シート1Aの特定個所に限るものではなく、例えば、金属板等の下地上に塗装を施したものであってもよい。この場合、前記指標体に関しても、同様の材質のものを選択する必要がある。
〈2〉 前記赤外線サーモグラフィ装置2は、先の実施形態では、単独での使用形態を説明したが、これに限るものではなく、例えば、コンピュータとデータを送受信自在な状態に接続し、コンピュータ側で、データ記録・処理、並びに、結果の描写、演算等をリアルタイムに行えるように構成してあってもよい。
従って、撮影によって求めた各指標体S1,S2の温度T1,T2と反射率R1,R2との相関性を求めるプロセスや、その相関性をもとにして前記該当個所S0の温度T0に相関する反射率R0を求めるプロセスは、先の実施形態で説明したグラフを作成して求める方法に限るものではなく、コンピュータの演算によって自動解析を行うものであってもよい。
〈3〉 前記指標体は、先の実施形態で説明した二つのみ用意することに限るものではなく、例えば、三つ以上で、互いに異なる既知の反射率を備えたものであってもよい。
また、形状は、先の実施形態で説明した矩形形状に限るものではない。
また、指標体は、前記該当個所S0とは別体に形成したシートに限るものではなく、例えば、該当個所S0が塗料を塗装したものである場合には、指標体も、測定対象部の上に塗料を塗装して構成してもよい。
【0021】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】赤外線サーモグラフィ装置による撮影状況を示す斜視図
【図2】指標体と該当個所との位置関係を示す平面図
【図3】反射率の割り出し手順を示す説明図
【図4】反射率と温度との関係を示す説明図
【符号の説明】
【0023】
1 屋上(測定対象部の一例)
2 赤外線サーモグラフィ装置
R0 該当個所の反射率
R1 指標体S1の反射率
R2 指標体S2の反射率
S0 該当個所
S1 指標体
S2 指標体
T0 該当個所S0の温度
T1 指標体S1の温度
T2 指標体S2の温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部における該当個所の表面の反射率を割り出す反射率割出方法であって、
予め、表面の反射率が異なる既知の値である少なくとも二つ以上の指標体を用意し、
前記各指標体を、前記測定対象部上に表面を暴露させた状態に配置し、
前記該当個所と各指標体とを含む範囲を赤外線サーモグラフィ装置によって撮影し、
その撮影結果から、各指標体の温度と、該当個所の温度とを求め、
その結果から、各指標体の温度と反射率との相関性をもとにして、前記該当個所の温度に相関する反射率を求める反射率割出方法。
【請求項2】
前記指標体は、前記該当個所を挟む位置に配置する請求項1に記載の反射率割出方法。
【請求項3】
前記指標体と前記該当個所とは、前記赤外線サーモグラフィ装置の一画面に収めて撮影する請求項1又は2に記載の反射率割出方法。
【請求項4】
赤外線サーモグラフィ装置の撮影結果から求める前記指標体の温度は、所定の範囲の各温度データを平均した平均温度である請求項1〜3の何れか一項に記載の反射率割出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−54459(P2010−54459A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222202(P2008−222202)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000178619)アーキヤマデ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】