説明

反射防止加工用賦形型、及びその製造方法、並びに反射防止物品の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止加工用賦形型、その製造方法、及び反射防止物品の製造方法を提供する。
【解決手段】反射防止加工用賦形型は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有している。加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして無機酸化物粒子が基材に固定されてなる。無機酸化物粒子は、加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像においては基材を視認不能としている。反射防止加工用賦形型の製造方法は、無機酸化物粒子と金属アルコキシドの縮合物とを含む塗工液を前記基材に塗布する塗布工程と、基材に塗布された塗工液を乾燥する工程とを含む。反射防止物品の製造方法は、加熱及び加圧により加圧面の表面形状を熱可塑性樹脂材の外面に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止物品を得るための反射防止加工用賦形型、及びその製造方法、並びに反射防止物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL、液晶表示パネル等の表示素子や、ディスプレイ装置の表示部では、反射を防止又は抑制するために反射防止物品が用いられている。こうした反射防止物品としては、基材に凹凸を形成したものが知られている(特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2には、基材に凹凸を形成するに際して賦形型を用いる方法が開示されている。賦形型を用いた凹凸の形成は、反射防止物品の生産性の観点から有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−193332号公報
【特許文献2】特開2003−240904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1は、賦形フィルムに粒子を固定した賦形型について開示している。ここで、賦形型の基材に粒子を固定するに際して、樹脂バインダー又は樹脂粒子を用いるとともに、その賦形型を用いて熱可塑性樹脂材に凹凸を転写した場合、賦形型に熱及び圧力が加わることになる。こうした過酷な条件で使用される賦形型では、加圧面の表面状態が変化しやすくなる。すなわち、樹脂バインダーを用いて粒子を固定した賦形型や、樹脂粒子により表面に凹凸を形成した賦形型では、加圧及び加熱を伴う熱可塑性樹脂材の賦形において、加圧面の表面状態が維持され難くなる。この結果、同じ賦形型を用いて、複数の反射防止物品を製造した場合、得られる反射防止物品の性能に、ばらつきが発生しやすくなる。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止加工用賦形型、その製造方法、及び反射防止物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有してなり、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を得るための反射防止加工用賦形型であって、前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としていることを要旨とする。
【0007】
この構成によれば、基材に対する無機酸化物粒子の接合、及び無機酸化物粒子同士の接合が強固になるとともに、加圧面の耐熱性が得られる結果、反射防止加工用賦形型の使用に際して無機酸化物粒子の脱落を抑制することができるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の反射防止加工用賦形型において、前記基材上に固定されている前記無機酸化物粒子の平均一次粒子径が、20〜500nmの範囲であることを要旨とする。
【0009】
この構成によれば、反射防止加工用賦形型を用いて得られる反射防止物品のヘイズ値及び反射率を所定の範囲にすることが容易となる。
請求項3に記載の発明は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有してなり、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を得るための反射防止加工用賦形型の製造方法であって、前記反射防止加工用賦形型は、前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としてなり、前記無機酸化物粒子と前記金属アルコキシドの縮合物とを含む塗工液を前記基材に塗布する塗布工程と、前記基材に塗布された前記塗工液を乾燥する工程とを含むことを要旨とする。
【0010】
この方法によれば、基材に対する無機酸化物粒子の接合、及び無機酸化物粒子同士の接合が強固になるとともに、加圧面の耐熱性が得られる。この結果、無機酸化物粒子の脱落を抑制することのできる反射防止加工用賦形型が容易に得られるようになる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の反射防止加工用賦形型の製造方法において、前記塗工液中において、前記金属アルコキシドの縮合物が前記無機酸化物粒子100質量部に対して5〜70質量部の範囲で含有されることを要旨とする。
【0012】
この方法によれば、金属アルコキシドの縮合物の含有量が無機酸化物粒子100質量部に対して5質量部以上であることで、無機酸化物粒子がより強固に固定されやすくなる。しかも、金属アルコキシドの縮合物の含有量が無機酸化物粒子100質量部に対して70質量部以下であることで、バインダーの量が適度に抑えられるため、無機酸化物粒子の粒子形状が加圧面の表面形状に反映されやすくなる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有する反射防止加工用賦形型を用いて、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を製造する反射防止物品の製造方法であって、前記反射防止加工用賦形型は、前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としていることを要旨とする。
【0014】
この方法によれば、基材に対する無機酸化物粒子の接合、及び無機酸化物粒子同士の接合が強固になるとともに、加圧面の耐熱性が得られる結果、反射防止物品の製造に際して加圧面からの無機酸化物粒子の脱落を抑制することができるようになる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の反射防止物品の製造方法において、前記反射防止加工用賦形型及び前記熱可塑性樹脂材はシート状をなし、前記反射防止加工用賦形型及び前記熱可塑性樹脂材は、各別に巻き取られたロールから繰り出されるとともに、対向して配置された第1ベルトと第2ベルトとの間に連続して供給されることで、前記反射防止加工用賦形型と前記熱可塑性樹脂材とを重ね合わせてなる成形用基材として前記第1ベルトと前記第2ベルトとの間で搬送され、前記第1ベルト及び第2ベルトを通じて前記成形用基材が加熱及び加圧されることで、前記反射防止物品を連続して製造するようにしたことを要旨とする。
【0016】
この方法によれば、反射防止物品の生産性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止加工用賦形型、その製造方法、及び反射防止物品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、実施例1における反射防止加工用賦形型の走査型電子顕微鏡写真、(b)は、その反射防止加工用賦形型を用いて得られた反射防止物品の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】(a)は、実施例3における反射防止加工用賦形型の走査型電子顕微鏡写真、(b)は、その反射防止加工用賦形型を用いて得られた反射防止物品の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】(a)は、比較例1における反射防止加工用賦形型の走査型電子顕微鏡写真、(b)は、その反射防止加工用賦形型を用いて得られた反射防止物品の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】反射防止物品を製造する製造ラインを示す概略図である。
【図5】反射防止物品について、波長と反射率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の反射防止加工用賦形型は、熱可塑性樹脂材から反射防止物品を得るためのものである。反射防止加工用賦形型は、熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有している。反射防止物品は、加熱及び加圧により加圧面の表面形状を熱可塑性樹脂材の外面に転写することで得られる。
【0020】
反射防止加工用賦形型は、基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備えている。基材は、加圧面の表面形状を熱可塑性樹脂基材に転写する際の加熱に対して耐熱性を有している。基材の材質としては、例えば銅、アルミニウム、銅とアルミニウムとの合金、ステンレス鋼等の金属、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート等の耐熱性樹脂が挙げられる。こうした材質の中でも、反射防止加工用賦形型を繰り返して使用したときの耐久性が得られやすいという観点から、金属であることが好ましい。また、金属製の基材を用いることで、熱伝導性に優れる反射防止加工用賦形型とすることができる。基材の形状は、特に限定されないが、反射防止加工用賦形型の連続生産に好適であるという観点から、シート状であることが好ましい。シート状の基材を用いる場合、基材又は反射防止加工用賦形型の取り扱い性の観点から、例えば5〜150μmの範囲であることが好ましい。
【0021】
無機酸化物粒子は、凹凸状をなす加圧面を形成する。無機酸化物粒子は中実であるとともに球状をなすものであって、例えばシリカ粒子、チタニア粒子、及びアルミナ粒子が挙げられる。これらの無機酸化物粒子は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。無機酸化物粒子の中でも、比較的安価であるという観点から、シリカ粒子が好ましい。
【0022】
ここで、凹凸形状をなす加圧面について製造単位毎のばらつきを抑制するという観点から、原料として用いる無機酸化物粒子、すなわち原料粒子群としては、一次粒子径の粒度分布がより狭い原料粒子群を用いることが好ましい。この点、原料粒子群のCV値(粒度分布の変動係数)は、50%以下の範囲であることが好ましい。CV値は、下記式により求められる。
【0023】
CV値(%)=D1/D2×100
但し、D1は一次粒子径の標準偏差(nm)を示し、D2は平均一次粒子径(nm)を示している。
【0024】
なお、原料粒子群としては、平均一次粒子径の異なる複数種の原料粒子群を組み合わせて用いてもよい。この場合、各原料粒子群のCV値は、いずれも上記範囲であることが好ましい。
【0025】
基材上に固定されている無機酸化物粒子の平均一次粒子径は、個数平均において好ましくは20〜500nmの範囲である。平均一次粒子径が20nm以上の場合、得られる反射防止物品の反射率を低めることが容易となる。一方、無機酸化物粒子の平均一次粒子径が500nm以下の場合、得られる反射防止物品の透明性が維持されやすくなる。すなわち、平均一次粒子径が20〜500nmの範囲の無機酸化物粒子であることにより、得られる反射防止物品のヘイズ値が高まることを抑制しつつも、反射率を低減させることが容易となる。
【0026】
こうした無機酸化物粒子はバインダーによって基材上に固定されている。バインダーは、金属アルコキシドの縮合物から構成されている。金属アルコキシドの縮合物は、下記一般式(1)で表される金属アルコキシドを、酸性条件下で加水分解及び縮合反応させることにより得られたものである。なお、バインダーは、下記一般式(1)で表される金属アルコキシドのオリゴマーを酸性条件下で加水分解及び縮合反応させることにより得られたものであってもよい。
【0027】
M(ORm−n ・・・(1)
一般式(1)において、Rは非加水分解性基を示している。Rとしては、例えば炭素数1〜20のアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数7〜20のアラルキル基を示す。なお、(メタ)アクリロイルオキシ基とは、メタクリロイルオキシ基又はアクリロイルオキシ基を示している。
【0028】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、またこのアルキル基は直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。このアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリロイルオキシ基若しくはエポキシ基を有する炭素数1〜20のアルキル基としては、これら置換基を有する炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、またこのアルキル基は直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。こうしたアルキル基としては、例えばγ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、及び3,4−エポキシシクロヘキシル基が挙げられる。
【0030】
炭素数2〜20のアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルケニル基が好ましく、また、このアルケニル基は直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。このアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、及びオクテニル基が挙げられる。
【0031】
炭素数6〜20のアリール基としては、炭素数6〜10のものが好ましく、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。炭素数7〜20のアラルキル基としては、炭素数7〜10のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、及びナフチルメチル基が挙げられる。
【0032】
一般式(1)中のRは、炭素数1〜6のアルキル基であって、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよい。Rとしては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基が挙げられる。
【0033】
一般式(1)中のMは、ケイ素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる金属原子を示している。一般式(1)中のmは、金属原子Mの価数であって、3又は4であり、nは、mが4の場合は0〜2の整数であり、mが3の場合は0〜1の整数である。Rが複数ある場合、各Rは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよく、またORが複数ある場合、各ORは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
一般式(1)で表される金属アルコキシドにおいて、Mが4価のケイ素、チタン、又はジルコニウムであって、mが4、かつ、nが0〜3の整数である場合の金属アルコキシドとしては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、及びメチルフェニルジメトキシシラン、並びにこれらシラン化合物のシランをチタン又はジルコニウムに置き換えた化合物を挙げることができる。
【0035】
一般式(1)で表されるアルコキシド化合物において、Mが3価のアルミニウムであって、mが3、かつ、nが0〜2の整数である場合のアルコキシド化合物としては、例えばトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム、メチルジメトキシアルミニウム、メチルジエトキシアルミニウム、メチルジプロポキシアルミニウム、エチルジメトキシアルミニウム、エチルジエトキシアルミニウム、及びプロピルジエトキシアルミニウムが挙げられる。
【0036】
これらの金属アルコキシドは、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。すなわち、無機酸化物粒子のバインダーとしては、単独種の金属アルコキシドから得られる縮合物であってもよいし、複数種の金属アルコキシドから得られる縮合物であってもよい。
【0037】
こうした金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして無機酸化物粒子が基材に固定されることで、加圧面は形成される。ここで、基材に固定されている無機酸化物粒子は、加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において基材を視認不能としている。すなわち、基材が視認不能となるように無機酸化物粒子が集積した状態で固定されている。こうした無機酸化物粒子の配置によれば、バインダーは、粒子間をネットワーク状となって、無機酸化物粒子同士を結合するため、無機酸化物粒子は強固に固定されると推測される。
【0038】
このように構成された加圧面の最大高さ(Ry)は、反射防止物品の反射防止効果がより得られやすいという観点から、好ましくは100nm以上であり、より好ましくは150nmである。ここで、高度な透明性を要求される反射防止物品では、熱可塑性樹脂材の透明性をできる限り維持しつつ反射防止効果を得る加工であることが好ましい。この点、加圧面の最大高さ(Ry)は、熱可塑性樹脂材のヘイズ値が維持されやすいという観点から、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは800nm以下である。
【0039】
次に、反射防止加工用賦形型の製造方法について説明する。
反射防止加工用賦形型の製造方法は、無機酸化物粒子と金属アルコキシドの縮合物とを含む塗工液を基材に塗布する塗布工程と、基材に塗布された塗工液を乾燥する工程とを備える。
【0040】
まず、金属アルコキシドの縮合物を含むバインダー液の調製方法について説明する。バインダー液は、上記一般式(1)で表される金属アルコキシド、又はその金属アルコキシドのオリゴマーを加水分解及び縮合反応させる。その加水分解及び縮合反応は、極性溶媒中において酸の存在下で行われる。極性溶媒としては、例えばアルコール系溶媒、セロソルブ系溶媒、ケトン系溶媒が挙げられる。酸としては、例えば塩酸、硫酸、及び硝酸が挙げられる。なお、カチオン交換樹脂を用いることで、反応系を酸の存在下にすることもできる。こうした加水分解及び縮合反応により、上記金属原子Mと酸素原子Oとの結合であるM−O−Mが主骨格となった縮合物が生成される。こうして、金属アルコキシドの縮合物を含むバインダー液が得られる。ここで、金属アルコキシドの縮合物は、前記主骨格を有することから、無機酸化物粒子との接着性と、耐熱性とを兼ね備えている。
【0041】
次に、バインダー液と無機酸化物粒子とを混合することで、塗工液を得る。無機酸化物粒子は、その分散性を高めるという観点から、予め分散媒に分散した分散液を調製した後に、その分散液とバインダー液とを混合することが好ましい。無機酸化物粒子の分散媒としては、例えばアルコール系溶媒、セロソルブ系溶媒、ケトン系溶媒が挙げられる。
【0042】
塗工液中における金属アルコキシドの縮合物の含有量は、無機酸化物粒子100質量部に対して5〜70質量部の範囲であることが好ましい。金属アルコキシドの縮合物の含有量が無機酸化物粒子100質量部に対して5質量部以上であることで、無機酸化物粒子がより強固に固定されやすくなる。ここで、無機酸化物粒子に対するバインダー量が過剰になると、無機酸化物粒子のうちバインダーに埋設されている部分が多くなる傾向となる。この点、金属アルコキシドの縮合物の含有量が無機酸化物粒子100質量部に対して70質量部以下であることで、バインダーの量が適度に抑えられるため、無機酸化物粒子の粒子形状が加圧面の表面形状に反映されやすくなる。
【0043】
このように調製された塗工液を基材に塗工する。塗工方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。塗工方法としては、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、及びグラビアコート法が挙げられる。なお、基材の表面には塗工液の濡れ性を改善すべく、各種表面処理が施されていてもよい。
【0044】
基材に塗工液が塗工された後に、基材上の塗工液を乾燥させることで、無機酸化物粒子が上記バインダーにより基材に固定された加圧面が形成される。乾燥温度及び乾燥時間は、塗工液に含まれる溶剤の種類に応じて適宜調整することが好ましい。なお、塗工液を乾燥させる工程において、乾燥温度は基材の耐熱温度未満に設定される。
【0045】
ここで、加圧面を形成する無機酸化物粒子は、加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において基材を視認不能としている。つまり、無機酸化物粒子は、基材上において複数の層をなすように堆積された状態で固定される。こうした加圧面は、無機酸化物粒子の平均一次粒子径に応じて、上記塗工液中における無機酸化物粒子の含有量の調整、又は、基材上における塗工液の厚みの調整を通じて、基材上に十分な量の無機酸化物粒子を塗工すればよい。なお、基材上における塗工液の厚みは、例えば5〜30μmの範囲に設定される。
【0046】
次に、反射防止加工用賦形型を用いた反射防止物品の製造方法について説明する。
反射防止物品は、上記の反射防止加工用賦形型を用いて、加熱及び加圧により加圧面の表面形状を熱可塑性樹脂材の外面に転写することで製造される。
【0047】
熱可塑性樹脂材は、反射防止物品の用途に応じて適宜選択される。熱可塑性樹脂材を構成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えばエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、及びアクリル系樹脂が挙げられる。エステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。オレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。塩化ビニル系樹脂としては、例えばポリ塩化ビニリデンが挙げられる。セルロース系樹脂としては、例えばセルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、及びセルローストリアセテートが挙げられる。アクリル系樹脂としては、例えばアクリル酸エステル樹脂、及びメタクリル酸エステル樹脂が挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂材の形状は、特に限定されず、例えばシート状、及びフィルム状が挙げられる。熱可塑性樹脂材は、可撓性を有していてもよいし、可撓性を有していなくてもよい。また、熱可塑性樹脂材は、全体が熱可塑性樹脂から構成されていてもよいし、反射防止加工する面のみが熱可塑性樹脂の層から形成されるものであってもよい。すなわち、熱可塑性樹脂材としては、例えば熱硬化性樹脂から形成される基材に熱可塑性樹脂の層が積層された構成であってもよい。なお、熱可塑性樹脂の層は、加圧面の凹凸が十分に転写される厚みを有するという観点から、例えば1μm以上であることが好ましい。
【0049】
こうした熱可塑性樹脂材の外面に、上述した反射防止加工用賦形型の加圧面を重ね合わせるとともに、その加圧面によって熱可塑性樹脂材の外面を加熱及び加圧する。このとき、加圧される熱可塑性樹脂材の外面は、それを形成する熱可塑性樹脂の熱変形温度よりも高い温度まで加熱される。この温度は熱変形温度以上、融点以下で適宜選択すればよい。またこのとき、前記加圧面の形状は加圧によって前記外面に転写される。この加圧時の圧力は、例えば1MPa以上となるように設定される。
【0050】
加熱及び加圧を行うための加熱加圧装置としては、特に限定されず、例えば平坦面状の加熱及び加圧部を有するプレス機、加熱ロールプレス機、及びベルト間で加熱及び加圧するダブルベルトプレス装置が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂材の予備加熱を行った後に、反射防止加工用賦形型を用いた加熱及び加圧を行ってもよい。
【0051】
このようにして得られた反射防止物品は、上記加圧面に固定された無機酸化物粒子の形状に由来して、多数の凹部が形成される。ここで、無機酸化物粒子は、上述した像において基材を視認不能としている。すなわち、無機酸化物粒子同士は強固に固定されているため、反射防止加工用賦形型を複数回使用したときに、無機酸化物粒子の脱落を抑制することができる。また、加圧面は、基材が視認不能となるように無機酸化物粒子が集積されているため、加圧面の面内における温度のばらつきが抑制される。これにより、熱可塑性樹脂材の外面をより均一に加工することができるようになる。
【0052】
反射防止面に形成されている凹部は半球状をなし、凹部の内径は無機酸化物粒子の平均一次粒子径にほぼ一致する。すなわち、平均一次粒子径が20〜500nmの範囲の無機酸化物粒子を用いた場合では、半球状の凹部の内径は、約20〜500nmの範囲となる。
【0053】
反射防止物品としては、有機EL、液晶表示パネル等の表示素子や、ディスプレイ装置の表示部、建造物又は自動車のガラス窓、交通標識の表面層等が挙げられる。また、偽造防止対策となるレリーフホログラムを構成する反射防止層が挙げられる。レリーフホログラムは、反射層と反射防止層とを備えて構成されてなり、例えばカード、紙幣、商品券等に設けられる。
【0054】
反射防止物品としては、各種光学物品が挙げられる。光学物品としては、光源としての有機EL素子、LED素子、フロントライト等が挙げられる。また、発電効率を向上させる用途、すなわち各種太陽電池パネルが挙げられる。更に、光学物品としては、偏光板、回折格子、波長フィルター、導光板、光拡散フィルム、サブ波長光学素子、カラーフィルター、集光シート、照明器具のカバー(有機EL照明用カバー、LED照明用カバー等)が挙げられる。
【0055】
また、反射防止物品としては、ナノレベルの微細凹凸パターンの形成により高機能化が期待されている物品、すなわち燃料電池の高分子電解質膜、色素増感太陽電池の酸化チタン層、バイオデバイス、撥水又は撥油材料、細胞培養シート、手術癒着防止材料、高密度磁気記録パターンドメディア、固体表面の艶消し材等が挙げられる。
【0056】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして無機酸化物粒子が基材に固定されることで形成されている。こうした無機酸化物粒子の固定は、加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において基材を視認不能としている。この構成によれば、基材に対する無機酸化物粒子の接合、及び無機酸化物粒子同士の接合が強固になるとともに、加圧面の耐熱性が得られる結果、反射防止加工用賦形型を複数回使用したときに、無機酸化物粒子の脱落を抑制することができるようになる。このため、加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止加工用賦形型を提供することができる。従って、反射防止物品の製造効率を高めることが可能となる。また、反射防止加工用賦形型を繰り返し使用することで、反射防止物品をより安価に製造することも可能となる。
【0057】
(2)基材上に固定されている無機酸化物粒子の平均一次粒子径が、20〜500nmの範囲であることで、反射防止加工用賦形型を用いて得られる反射防止物品のヘイズ値及び反射率を所定の範囲にすることが容易となる。このため、透明性に優れる反射防止物品を提供することが容易になる。
【0058】
(3)反射防止加工用賦形型の製造方法では、無機酸化物粒子と金属アルコキシドの縮合物とを含む塗工液を前記基材に塗布する塗布工程と、基材に塗布された前記塗工液を乾燥する工程とを含む。この方法によれば、無機酸化物粒子の脱落を抑制することのできる反射防止加工用賦形型が容易に得られるようになる。このため、加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止加工用賦形型の製造方法を提供することができる。
【0059】
(4)反射防止加工用賦形型の製造方法では、塗工液中において、金属アルコキシドの縮合物が無機酸化物粒子100質量部に対して5〜70質量部の範囲で含有されることが好ましい。この方法によれば、無機酸化物粒子がより強固に固定されやすくなるとともに、無機酸化物粒子の粒子形状が加圧面の表面形状に反映されやすくなる。
【0060】
(5)反射防止物品の製造方法では、上記(1)欄で述べた反射防止加工用賦形型を用いている。この方法によれば、加圧面からの無機酸化物粒子の脱落を抑制することができるようになる。このため、加圧面の表面状態を維持することの容易な反射防止物品の製造方法を提供することができる。従って、反射防止物品の製造効率を高めることが可能となる。また、反射防止加工用賦形型を繰り返し使用することで、反射防止物品をより安価に製造することも可能となる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<粒子分散液及びバインダー液の調製>
(粒子分散液A1)
シリカ粒子(平均1次粒子径100nm)をイソプロピルアルコールに分散させることでシリカ粒子30質量%の粒子分散液A1を調製した。
【0062】
(粒子分散液A2)
シリカ粒子(平均1次粒子径200nm)をイソプロピルアルコールに分散させることでシリカ粒子30質量%の粒子分散液A2を調製した。
【0063】
(粒子分散液A3)
シリカ粒子(平均1次粒子径500nm)をイソプロピルアルコールに分散させることでシリカ粒子30質量%の粒子分散液A3を調製した。
【0064】
(粒子分散液A4)
アクリル粒子(平均1次粒子径100nm)をイソプロピルアルコールに分散させることでアクリル粒子30質量%の粒子分散液A4を調製した。
【0065】
(バインダー液B1)
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン306.84gとテトラメトキシシランとのオリゴマー(コルコート(株)製、商品名「メチルシリケート−51」)146.88gをメタノール256.68gに溶解させた。この溶液に0.1モル/L濃度の硝酸31.86g、水221.08g及びメタノール36.67gの混合液を滴下した後、30℃にて24時間反応させて、固形分濃度30質量%のバインダー液B1を調製した。
【0066】
(バインダー液B2)
PMMA樹脂300.00gとメチルイソブチルケトン700.00gに溶解させることで、固形分濃度30質量%のバインダー液B2を調製した。
【0067】
<塗工液の調製>
(塗工液C1)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル337.3g、メチルイソブチルケトン337.3g、プロピレングリコール168.7gの混合溶液に116.7gの粒子分散液A1を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B1を40.0g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度4.7質量%の塗工液C1を調製した。
【0068】
(塗工液C2)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル385.3g、メチルイソブチルケトン385.3g、プロピレングリコール192.7gの混合溶液に34.1gの粒子分散液A1を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B1を2.6g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度1.1質量%の塗工液C2を調製した。
【0069】
(塗工液C3)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル328.0g、メチルイソブチルケトン328.0g、プロピレングリコール164.0gの混合溶液に117.0gの粒子分散液A2を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B1を63.0g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度5.4質量%の塗工液C3を調製した。
【0070】
(塗工液C4)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル290.7g、メチルイソブチルケトン290.7g、プロピレングリコール145.3gの混合溶液に164.0gの粒子分散液A3を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B1を109.3g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度8.2質量%の塗工液C4を調製した。
【0071】
(塗工液C5)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル385.3g、メチルイソブチルケトン385.3g、プロピレングリコール192.7gの混合溶液に29.7gの粒子分散液A1を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B2を7.0g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度1.1質量%の塗工液C5を調製した。
【0072】
(塗工液C6)
エチレングリコール−t−ブチルエーテル770.6g、プロピレングリコール192.7gの混合溶液に29.7gの粒子分散液A4を撹拌しながら添加し、次いでバインダー液B1を7.0g滴下し、室温にて1時間撹拌することにより、固形分濃度1.1質量%の塗工液C6を調製した。
【0073】
<反射防止加工用賦形型の製造>
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
表1に示されるように、所定の大きさにカットされた基材に塗工液をバーコート法により塗工した後、120℃にて2分間乾燥させることで、各例の反射防止加工用賦形型を製造した。
【0074】
(実施例6)
マルチコーター((株)ヒラノテクシード製)を用いて、ロールから繰り出した基材に連続して塗工し、得られた反射防止加工用賦形型を巻き取ることで、同賦形型のロールを得た。塗工の詳細については、表1に示す。
【0075】
【表1】

<反射防止加工用賦形型の評価>
各例の反射防止加工用賦形型の加圧面について、原子間力顕微鏡(株式会社キーエンス製、VN−8010)を用いて、面積200×200μmの表面形状を測定し、傾き補正及びノイズ除去(強)を実施した後、上記面積における最大高さ(Ry)をJIS B 0601:1994に準拠して算出した。さらに、各例の反射防止加工用賦形型の加圧面について、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と省略する)により観察した。このように観察した像において、基材が視認不能か否かについて判定した。これら最大高さ(Ry)の算出結果、及びSEM観察結果を表2に示す。図1(a)及び図2(a)には、それぞれ実施例1及び実施例3のSEM写真を示している。図3(a)には、比較例3のSEM写真を示している。
【0076】
【表2】

<反射防止加工>
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
表3に示されるように、各例の反射防止加工用賦形型(3×4cm)の加圧面上に、熱可塑性樹脂材としての樹脂フィルムを載置し、ホットプレス機(Mini Test Press 10(株式会社東洋精機製作所製)で所定温度、圧力(3MPa)で5分間プレスした。これにより、加圧面の凹凸を樹脂フィルムの面に転写することで、反射防止フィルムを製造した。
【0077】
(実施例6)
図4に示される製造ラインを用いて反射防止フィルムを製造した。この製造ラインは、ダブルベルトプレス装置51に反射防止加工用賦形型11と熱可塑性樹脂材21とを連続して供給する繰出部91と、ダブルベルトプレス装置51から搬出された反射防止フィルム22及び反射防止加工用賦形型11を各別に巻き取る巻取部92とを備えている。繰出部91には、賦形型ロール11Rと、熱可塑性樹脂材ロール21Rとが配置され、反射防止加工用賦形型11及び熱可塑性樹脂材21が各別に繰り出されるようになっている。反射防止加工用賦形型11及び熱可塑性樹脂材21は、重ね合わせるようにしてダブルベルトプレス装置51に連続して供給される。賦形型ロール11R、及び熱可塑性樹脂材ロール21Rの上下には、第1保護用金属箔ロール41R及び第2保護用金属箔ロール42Rがそれぞれ配置されている。各保護用金属箔ロール41R,42Rから繰り出される第1保護用金属箔41及び第2保護用金属箔42は、反射防止加工用賦形型11及び熱可塑性樹脂材21を保護するために、ダブルベルトプレス装置51に供給される。各保護用金属箔41,42としては、例えば銅箔、アルミニウム箔、及び銅とアルミニウムとの合金からなる箔等を用いることができる。本実施例では、各保護用金属箔ロール41R,42Rとして銅箔のロール(古河電工(株)製、GTS18μm)を繰出部にセットしている。
【0078】
ダブルベルトプレス装置51は、反射防止加工用賦形型11と熱可塑性樹脂材21とを重ね合わせてなる成形用基材31を搬送するとともに、成形用基材31を加熱及び加圧する。ダブルベルトプレス装置51は、搬送方向の上流側に位置する第1搬送部52と、同方向の下流側に位置する第2搬送部53とを有している。第1搬送部52には、上側第1ドラム52a及び下側第1ドラム52bが装着されている。第2搬送部53には、上側第2ドラム53a及び下側第2ドラム53bが装着されている。上側第1ドラム52a及び上側第2ドラム53aには、無端状の上側ベルト54が架け渡されている。下側第1ドラム52b及び下側第2ドラム53bには、無端状の下側ベルト55が架け渡されている。そして、各第1ドラム52a,52bは、各第2ドラム53a,53bの駆動により各ベルト54,55を介して従動されるように構成されている。各ベルト54,55は、金属製であり、本実施例ではステンレス鋼から形成されている。
【0079】
このように装着された各ベルト54,55間に成形用基材31が供給される。反射防止加工用賦形型11と上側ベルト54との間には、第1保護用金属箔41が供給されるとともに、熱可塑性樹脂材21と下側ベルト55との間には、第2保護用金属箔42が供給される。そして、成形用基材31及び各保護用金属箔41,42は、各ベルト54,55間にて同期して搬送される。
【0080】
第1搬送部52と第2搬送部53との間には、上側加熱加圧装置56及び下側加熱加圧装置57が各ベルト54,55を介在させて対向するように配置されている。各加熱加圧装置56,57は、流体の温度及び圧力により、各ベルト54,55を介して成形用基材31を加熱及び加圧する。
【0081】
巻取部92では、ダブルベルトプレス装置51から搬出された反射防止加工用賦形型11及び反射防止フィルム22が各別に連続して巻き取られることで、賦形型ロール11R及び反射防止フィルムロール22Rとされる。また、巻取部92では、各保護用金属箔41,42は、各保護用金属箔ロール41R,42Rとして巻き取られることで回収される。表3に製造の条件を示す。
【0082】
【表3】

表3中の“熱可塑性樹脂材”欄において、“アクリル”は、アクリル樹脂フィルム(三菱レイヨン株式会社製、商品名:アクリプレンHBL−002、厚み50μm)を示し、“COP”はシクロオレフィンポリマーフィルム(日本ゼオン株式会社製、商品名:ゼオノアZF14、厚み100μm)を示し、“PET”は、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラーT60、厚み125μm)を示している。
【0083】
さらに、同じ反射防止加工用賦形型を用いて、反射防止加工を9回繰り返し行うことで、各例について各10枚の反射防止フィルムを製造した。図1(b)及び図2(b)には、それぞれ実施例1及び実施例3の各反射防止加工用賦形型を用いて1回目に製造した反射防止フィルムのSEM写真を示している。図3(b)には、比較例3の反射防止加工用賦形型を用いて1回目に製造した反射防止フィルムのSEM写真を示している。
【0084】
<加圧面の状態の評価>
各例の反射防止加工用賦形型の加圧面について、反射防止加工後の最大高さ(Ry)を上記<反射防止加工用賦形型の評価>欄で述べた方法と同じ方法で算出した。表4には、1回転写した後、5回転写した後、及び10回転写した後の最大高さ(Ry)を示している。また、表4には、反射防止加工を行う前の最大高さ(Ry)を“Ry(初期値)”とするとともに、1回、5回及び10回の転写後の最大高さ(Ry)を“Ry(転写後)”として、Ry(初期値)に対するRy(転写後)の比率を示している。この比率の低下は、加圧面に固定されていた粒子が脱落したり、変形したりする現象を間接的に示している。
【0085】
【表4】

表4に示されるように、比較例1及び2では、Ry(転写後)/Ry(初期値)の比率は、1回転写後において0.76以下まで低下していることが分かる。比較例1では、1回の転写によって、粒子の多くが脱落した。この原因は、無機酸化物粒子と樹脂系バインダーとの接着不良によるものと考えられる。比較例2では、1回の転写によって、粒子の扁平化及び脱落が観察された。この原因は、樹脂粒子の柔らかさ、及び無機系バインダーとの接着不良による悪影響であると考えられる。
【0086】
また、比較例3の前記比率は、5回転写後において0.51まで低下していることが分かる。この比較例3では、2回目の転写から粒子の脱落が進行していた。この原因は、単位面積当たりの粒子数が少ないため、粒子間の接着においてネットワークが形成されておらず、その結果、粒子が脱落しやすいと考えられる。
【0087】
各実施例の前記比率は、5回転写後においても、1に近い値を示している。この結果から、各実施例の反射防止加工用賦形型では、各比較例よりも加圧面の表面状態が維持されていることが分かる。なお、各実施例の前記比率は、10回転写後においても0.9以上の範囲に維持されていることが分かる。なお、例えば実施例1において前記比率が1よりも高まる原因は、粒子の脱離ではなく、反射防止加工用賦形型から樹脂フィルムを剥離させる際に、加圧面を構成する粒子が熱可塑性樹脂に引っ張られることで、加圧面の凹部位の深さが僅かに深くなったと考えられる。
【0088】
<反射防止物品の物性評価>
実施例1、実施例5及び実施例6において、1回目の転写で得られた反射防止フィルム、及び10回目の転写で得られた反射防止フィルムのヘイズ値、及び反射率を測定した。ヘイズ値(Hz)は、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH−2000)を用いて測定した。反射率R(%)は、転写した面と反対側の面に艶消し黒色塗料を塗布する前処理をした後、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V−670)を用いて、入射角5°及び光線波長550nmとして測定した絶対反射率である。この結果を表5に示している。なお、表5には、反射防止加工を施していない熱可塑性樹脂材のヘイズ値(Hz)及び反射率をブランクとして示している。さらに、上記<反射防止加工用賦形型の評価>欄で述べた方法と同じ方法で最大高さ(Ry)算出した。
【0089】
また、図5には、実施例6の反射防止フィルムについて、波長と反射率との関係を示すグラフ、すなわち反射波形を示している。
【0090】
【表5】

表5に示されるように、各実施例で得られた反射防止フィルムは、ブランクのヘイズ値に近いヘイズ値を示す一方で、反射率は低減されていることが分かる。
【符号の説明】
【0091】
11…反射防止加工用賦形型、11R…賦形型ロール、21…熱可塑性樹脂材、21R…熱可塑性樹脂材ロール、22…反射防止フィルム、31…成形用基材、54…上側ベルト(第1ベルト)、55…下側ベルト(第2ベルト)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有してなり、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を得るための反射防止加工用賦形型であって、
前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、
前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としていることを特徴とする反射防止加工用賦形型。
【請求項2】
前記基材上に固定されている前記無機酸化物粒子の平均一次粒子径が、20〜500nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の反射防止加工用賦形型。
【請求項3】
熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有してなり、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を得るための反射防止加工用賦形型の製造方法であって、
前記反射防止加工用賦形型は、前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としてなり、
前記無機酸化物粒子と前記金属アルコキシドの縮合物とを含む塗工液を前記基材に塗布する塗布工程と、前記基材に塗布された前記塗工液を乾燥する工程とを含むことを特徴とする反射防止加工用賦形型の製造方法。
【請求項4】
前記塗工液中において、前記金属アルコキシドの縮合物が前記無機酸化物粒子100質量部に対して5〜70質量部の範囲で含有されることを特徴とする請求項3に記載の反射防止加工用賦形型の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂材に加圧される加圧面を有する反射防止加工用賦形型を用いて、加熱及び加圧により前記加圧面の表面形状を前記熱可塑性樹脂材の外面に転写して前記熱可塑性樹脂材から反射防止物品を製造する反射防止物品の製造方法であって、
前記反射防止加工用賦形型は、前記加熱に対して耐熱性を有する基材と、その基材上に固定された無機酸化物粒子とを備え、前記加圧面は、金属アルコキシドの縮合物をバインダーとして前記無機酸化物粒子が固定されてなり、前記無機酸化物粒子は、前記加圧面を走査型電子顕微鏡により観察した像において前記基材を視認不能としていることを特徴とする反射防止物品の製造方法。
【請求項6】
前記反射防止加工用賦形型及び前記熱可塑性樹脂材はシート状をなし、
前記反射防止加工用賦形型及び前記熱可塑性樹脂材は、各別に巻き取られたロールから繰り出されるとともに、対向して配置された第1ベルトと第2ベルトとの間に連続して供給されることで、前記反射防止加工用賦形型と前記熱可塑性樹脂材とを重ね合わせてなる成形用基材として前記第1ベルトと前記第2ベルトとの間で搬送され、
前記第1ベルト及び第2ベルトを通じて前記成形用基材が加熱及び加圧されることで、前記反射防止物品を連続して製造するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の反射防止物品の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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