説明

反射防止膜用組成物

【課題】 PFAS(Perfluoroalkyl sulfonates)フリーで、かつ皮膜安定性に優れた反射防止膜用組成物を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(1)
2n+1(CHCHSOH (1)
(式中、nは1〜20の整数を示し、mは1〜20の整数である。)
で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)とN置換エチレンジアミン(B)及び/又はN−アルキルモルホリン(C)を含有することを特徴とする反射防止膜用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜の経時安定性に優れる、PFAS(Perfluoroalkyl sulfonates)を含有しない反射防止膜用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造においては、シリコンウェハなどの基板上にフォトレジスト膜を形成し、これに活性光線を選択的に照射した後、現像処理を行い、基板上にレジストパターンを形成するリソグラフィー技術が応用されている。
【0003】
近年、LSIにおいてより高い集積度を得るために、リソグラフィープロセスにおける加工線幅の微細化が急速に進められている。この加工線幅の微細化を進めるに際し、フォトレジスト、反射防止膜、露光方法、露光装置、現像剤、現像方法、現像装置等をはじめとして、リソグラフィーのあらゆる工程、使用材料について様々な提案がなされている。
【0004】
例えば、レジスト層上に該レジストの屈折率よりも低い屈折率を有する反射防止膜を設けると、レジスト膜厚対感度曲線の振幅の幅が小さくなり、レジスト層の膜厚がばらついた場合でも、感度ばらつきが小さくなり、ひいては寸法ばらつきが小さくなると言う利点がある。また、このような反射防止膜を用いると入射光と反射光或いは反射光同士の干渉によるスタンディングウエーブを低減できる利点を有する。
【0005】
一方、フッ素原子を含有する化合物は、フッ素原子の大きな分子容と小さな原子屈折を有するという特徴により低屈折率を示すことから、前記反射防止膜用の組成物としてフッ素系化合物含有組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に提案されている反射防止膜組成物の必須成分であるPFAS(Perfluoroalkyl sulfonates)は、人体や環境への蓄積性の観点等から安全性に関し問題視されている。例えば米国EPA(Environment Protection Agency)のSNUR(Significant New Use Rule,2002年3月11日付等)などでは輸入、製造時には制限を設けようとする動きもある。そのような環境下においてPFASを使用しない、すなわちPFASフリーの反射防止膜用組成物が強く望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平10−003001号公報(第4−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような状況に鑑み、PFASフリーで、かつ皮膜安定性に優れた反射防止膜用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸と特定の有機アミンを組み合わせて使用することにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、下記一般式(1)
2n+1(CHCHSOH (1)
(式中、nは1〜20の整数を示し、mは1〜20の整数である。)
で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)とN置換エチレンジアミン(B)及び/又はN−アルキルモルホリン(C)を含有することを特徴とする反射防止膜用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、人体や環境中への蓄積性が高く、環境安全上問題視されているPFASを用いることなく、皮膜の経時安定性に優れた低屈折率のフッ素系化合物を含有してなる反射防止膜用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる下記一般式(1)
2n+1(CHCHSOH (1)
(式中、nは1〜20の整数を示し、mは1〜20の整数である。)
で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)は、フッ素原子に由来する低屈折率を有し、かつ水現像可能であり、反射防止性能を発揮させる上で必須の成分である。上記一般式(1)で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)が欠如すると皮膜の屈折率が増大することになり、十分な反射防止性能を発揮することができない。
【0013】
一般にパーフルオロアルキル基中の炭素数が大きいものほど、フッ素原子含有量が多くなることから、低屈折率性に優れるものであるが、前記一般式(1)中のnが20を超えるものについては、結晶性が高くなるため、得られる皮膜に割れ等が生じ、経時安定性が不良であり好ましくない。さらに、皮膜の経時安定性やフッ素含有率による屈折率の最適化を考えると式中のnとしては4〜12の化合物であることが好ましく、さらに好ましくはn=6〜8である。また、式中のmが20を超えるものを用いると、得られる反射防止膜としての低屈折率性を維持できなくなるために好ましくない。さらに、低屈折率性を容易に発現できる観点から、mとしては1〜3の範囲である化合物である事が好ましく、さらに、パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)の水溶性、得られる皮膜の経時安定性や合成の容易さの点から、特に好ましくはm=1の化合物である。また、前記一般式(1)で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)としては、単独でも、2種以上の混合物として使用しても良い。
【0014】
パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)の製造方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、米国特許第3825577号明細書に記載されている方法、即ち、フッ素化アルキル基含有スルホニルハライドを約100倍当量の水と約5倍当量の濃硫酸の存在下で、100℃で8時間加熱することにより加水分解反応を行い、反応終了後、反応液をジエチルエーテルを用いた抽出によって、該エーテル中にパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸を溶解させ、その後、該エーテルを蒸留によって取り除く方法が挙げられる。
【0015】
本発明で用いるN置換エチレンジアミン(B)としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(2)
(R)(R)N−CHCH−N(R)(R) (2)
(式中、R、R、R、Rは水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、少なくとも一つは炭素数1〜4のアルキル基である。)
で表されるものが、得られる皮膜の経時安定性に優れるために好ましい。中でも特にジメチルエチレンジアミン、ジエチルエチレンジアミンが好ましい。
【0016】
本発明で用いるN−アルキルモルホリン(C)としては、特に限定されるものではないが下記一般式(3)
RN(CO (3)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
で表されるものが、得られる皮膜の経時安定性に優れるために好ましい。
【0017】
前記N置換エチレンジアミン(B)、前記N−アルキルモルホリン(C)は前記パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)を中和し、反射防止膜用組成物のpHを調製する役割がある。これらのアミンは、単独あるいは2種以上を併用して使用することができる。
【0018】
また、得られる反射防止膜の低屈折率を維持し、且つ皮膜の経時安定性が良好である点から、(A)成分を1とした場合、(B)成分と(C)成分との合計が重量比で、0.01〜0.3であることが好ましい。
【0019】
本発明の反射防止膜用組成物は、前記パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)と前記N置換エチレンジアミン(B)及び/又は前記N−アルキルモルホリン(C)を用いること以外にはなんら制限されるものではなく、通常反射防止膜用組成物に用いられる種々の水性重合体、添加剤、有機溶剤及び水等を、目的とする皮膜の性能、塗布方法等に応じて任意に選択して用いる事が出来る。
【0020】
前記水性重合体は、優れた経時的な皮膜形成安定性能を得たい場合に、目的とする反射防止性を損なわない範囲で、水に可溶或いは分散する樹脂として使用するものである。反射防止膜をフォトレジスト用に用いる場合、フォトレジスト工程終了後、反射防止膜を容易に除去、即ち水で除去できる水性重合体であることが好ましく、例えば、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(α−トリフルオロメチルアクリル酸)、ポリ(ビニルメチルエーテル−コ−無水マレイン酸)、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−酢酸ビニル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−ビニルアルコール)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−アクリル酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−アクリル酸メチル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−メタクリル酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−メタクリル酸メチル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−マレイン酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−マレイン酸ジメチル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−無水マレイン酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−イタコン酸)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−イタコン酸メチル)、ポリ(N−ビニルピロリドン−コ−無水イタコン酸)、フッ素化ポリエーテルなどが挙げられ、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ビニルピロリドン)、フッ素化ポリエーテルなどが好ましいものである。これら水性重合体は、単独でまたは2種類以上を混合して使用することができる。
【0021】
前記水性重合体の分子量としては、目的とする皮膜の伸度、強度等の力学特性、膜厚、相溶性、塗工方法等により適当なものを選択されるものであり、特に制限されないが、重量平均分子量で1,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜100,000のものがより好ましい。また、前記水性重合体としては、水に溶解あるいは分散し易い親水性単位の単独重合体であっても、他の成分との共重合体であってもよく、共重合体である場合、皮膜の強度、相溶性等によって、共重合する成分を選択することも可能である。また、単独重合体、共重合体何れの場合もその製造方法としては、特に制限はない。
【0022】
前記添加剤としては、得られる反射防止膜用組成物を基材上に塗布する際のレベリング性の向上、作業性、膜厚の制御ひいては反射防止膜としての性能発現の観点から所望の性能に応じて適宜選択して使用されるものであり、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなど、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アセチレングリコール誘導体などが、またアニオン系界面活性剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびそのアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、およびそのアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸、およびそのアンモニウム塩または有機アミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、およびそのアンモニウム塩または有機アミン塩、アルキル硫酸、およびそのアンモニウム塩または有機アミン塩などが、両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなどが挙げられる。
【0023】
前記有機溶剤としては、塗布性の向上を目的として用いるものであり、水に対して0.1重量%以上溶解する有機溶剤である事が好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、アルキルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、カルビトールアセテート等の極性溶媒が挙げられる。
【0024】
本発明の反射防止膜用組成物を塗布する基材としても特に制限はなく、例えばガラス、石英、シリコン等の無機物、鉄、銅、フェライト、コバルト、ニッケル、アルミニウム等の金属及びそれらの合金、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート等のポリエステル類、ポリパラフェニレンサルファイト、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック、NBR、SBR、EPDM、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の各種ゴム類、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリカーボネート樹脂、紙、木材等が挙げられる。これら基材は、密着性良く被覆する場合、必要に応じて種々のプライマー処理、プラズマ処理等の前処理を施すことも可能である。
【0025】
また塗布方法に関しても特に制限はなく、必要に応じて水あるいは前記有機溶剤で適当な濃度または粘度に調整した後、例えばグラビアコーター、リバースコーター、スピンコーター、刷毛塗り、デイッピング塗布、スプレー塗布等の方法により前述の各種基材上に塗布することができる。
【0026】
さらに、本発明の反射防止膜用組成物を目的とする基材上に塗布し、形成した反射防止膜は、種々の用途に用いることができる。例えばフォトレジスト用の様に加工工程上必要とされる一時的なものから、テレビ、パソコン、屋外大型掲示板等のディスプレイ、携帯電話、電子手帳、電卓、オーディオ等各種電子・電気機器の表示部分等の様に、それぞれの機器を使用する上で半永久的なものまで何れの用途にも用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これらの説明によって本発明が何等限定されるものではないことは勿論である。
【0028】
実施例1
パーフルオロオクチルエチルスルホン酸を2.58重量部、水性重合体として重量平均分子量4,000のポリ(ビニルピロリドン)(BASF武田ビタミン社製)を0.74重量部、純水(蒸留水)を96.28重量部加え室温(23℃)にて均一に溶解させた後、ジエチルエチレンジアミンを0.45重量部加えて均一に溶解させた。この溶液を0.1μmのフィルターを通して濾過して反射防止膜用組成物を得た。
【0029】
この反射防止膜用組成物を押鐘社製スピンコーター(SC−308)を用いて4インチのシリコンウェハ上に塗布し、90℃、60秒間ホットプレートにて乾燥を行い、シリコンウェハ上に膜厚およそ0.5μmの反射防止膜(皮膜)を形成した。皮膜を形成したシリコンウェハをデシケーター中で保存し、外観を観察評価した。皮膜の経時安定性に関し表1にその結果を記した。皮膜の外観は、目視にて行い、透明であり、表面が均質で平滑であり、剥がれや割れのないものを○とした。
【0030】
実施例2〜5、及び比較例1〜3
用いるアミンの種類と添加量を表1のようにすること以外は、実施例1と同様にし、表1および表2の結果を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
比較例4
表3の配合組成で実施例1と同様にしてシリコンウェハ上に皮膜を形成し、外観を評価した。
【0034】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
2n+1(CHCHSOH (1)
(式中、nは1〜20の整数を示し、mは1〜20の整数である。)
で表されるパーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)とN置換エチレンジアミン(B)及び/又はN−アルキルモルホリン(C)を含有することを特徴とする反射防止膜用組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のnが4〜12であり、mが1である請求項1記載の反射防止膜用組成物。
【請求項3】
N置換エチレンジアミン(B)が下記一般式(2)
(R)(R)N−CHCH−N(R)(R) (2)
(式中、R、R、R、Rは水素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基であり、少なくとも一つは炭素数1〜4のアルキル基である。)
で表される化合物である請求項1記載の反射防止膜用組成物。
【請求項4】
N−アルキルモルホリン(C)が下記一般式(3)
RN(CO (3)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
で表される化合物である請求項1記載の反射防止膜用組成物。
【請求項5】
N置換エチレンジアミン(B)がジメチルエチレンジアミン及び/又はジエチルエチレンジアミンである請求項3記載の反射防止膜用組成物。
【請求項6】
前記パーフルオロアルキルアルキルスルホン酸(A)とN置換エチレンジアミン(B)及び/又はN−アルキルモルホリン(C)成分の割合が重量比で、(A)成分を1とした場合、(B)成分と(C)成分との合計が0.01〜0.3である請求項1〜5の何れか1項記載の反射防止膜用組成物。

【公開番号】特開2006−23450(P2006−23450A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200465(P2004−200465)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】