説明

反復配列タンパク質複合体及びその調製

1以上の反復配列タンパク質ポリマー、及び1以上の金属酸化物又は1以上の可塑剤のいずれかの複合体は、反復配列タンパク質ポリマーの形状、弾性率、及び引張り強さを含めた物性を変化させる。前記複合体の形状は、配向し、概して平行なナノファイバー(nanofibers)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反復配列タンパク質ポリマー、及び金属酸化物又は可塑剤の結合により形成された複合体に関する。さらに、本発明は、これら複合体の合成方法を提供するものである。
【0002】
関連特許
本願に係る特許請求の範囲は、2005年8月22日に出願された米国仮特許出願番号60/710098を優先権の基礎とするものである。
【背景技術】
【0003】
ポリマーと無機充填剤物質とを結合させることにより、非修飾ポリマーに比べ、優れた機械的、熱的、バリア(遮断)特性を備えた複合体を生成することが知られている。複合体の詳細な説明は、Ajayan、P.M.、Composite Science and Technology (Wiley、2003) で述べられている。
【0004】
スメクタイト粘土としても知られている金属酸化物とポリマーの結合は、複合体の合成方法として開発されてきた。この件に関しては、Alexandre、Dubois (2001) 及びPinnavaia、T. J.; Beall、G. W. Polymer Clay Composites Wiley: New York、2000に包括的に述べられている。また、スメクタイト粘土については、Grim、R. E. Clay Mineralology 2nd edition; McGraw-Hill: New York 1968に記載されている。
【0005】
ポリマーと粘土の複合体のいくつかの合成方法は、当該技術分野で議論されてきた。例えばナイロン/粘土複合体は、Usuki他よって最初に論じられた (1993)。A. Usuki他、”ナイロン6-粘土ハイブリッドの合成(Synthesis of nylon 6-clay hybrid)”、J. Mater. Res.、vol. 8、No. 5、May 1993、pp. 1179-1184参照。この製法では、ナイロンとモンモリロナイト(montmorillonite)が高温で結合する。
【0006】
天然ポリマーと、可塑剤と、層構造を有し、100グラム当たり30〜350ミリグラム当量の陽イオン交換能を持つ剥離粘土と、から成る生体分解性熱可塑性材料が、米国特許第6811599 B2に開示されている。前記天然ポリマーは、多糖類である。
【0007】
有機化学組成物及びポリマーで修飾されたスメクタイト粘土は、米国特許第6521690に開示されている。
【0008】
金属酸化物及び合成ホモポリマーであるポリL-リジン-シリケート複合体で形成された複合体も、開示されている(Krikorian, V. 他、J. Polym. Sci. B: Polym. Phys. 2002、40、2579)。
【0009】
歯周膜のような生物医学分野で応用されている再吸収性材料を生成するための、ハイドロキシアパタイト (HA) 及びポリ (イプシロン-カプロラクトン-オキシエチレン-イプシロン-カプロラクトン)ブロック共重合体 (PCL-POE-PCL) の混合により形成された複合体も知られている。HA細粒子は、共重合体基質の中でHA細粒子との密接な結合を可能とするPCLのフィルムに囲まれている (Cerrai P. et al. J Mater Sci Mater Med. 1999;10:283-9)。
【0010】
複合体の生体材料としての、その他の応用例として、表面修飾添加物 (SMA)として設計されたワーファリン-PEO-MDI-PEO-ワーファリンの5重ブロック結合ポリマー(penta-block-coupling polymer)がある。前記ワーファリンPEO-MDI-PEO-ワーファリンの5重ブロック結合ポリマーは、SPUで新規なSMAを単純にコーティングすることにより可逆的にアルブミンを結合するのに用いられる(Ji J et al. J Mater Sci Mater Med. 2002;13:677-84)。
【0011】
親水性細孔表面を有する規則的ナノ多孔質プラスチック(ordered nanoporous plastics)は、自己組織化され、2つのブロック共重合体を含む多成分複合体からポリラクチドを分解除去することにより用意される。そして、この2つのブロック共重合体とは、ポリスチレン-ポリラクチド及びポリスチレン-酸化ポリエチレンのことを言う。
【0012】
生体内のほとんどの組織の主な構造要素は、多彩な機能性をもたらす複雑なアミノ酸配列でできたタンパク質により作られる。構造タンパク質の最も熱心な研究の一つにカイコガ蚕シルクがある。前記カイコガ蚕シルクは、クモの糸にさえ匹敵する顕著な力学的特性を有することから多大な関心を得てきた。一方のよく知られた構造タンパク質であるエラスチンは、体内における動脈壁、肺、腸、皮膚で主に見られる。シルク-エラスチン様タンパク質 (SELP) は、シルク様アミノ酸及びエラスチン様アミノ酸の交互ブロックにより成る組み換えタンパク質である。SELPのような組み換えタンパク質の力学的特性は、天然由来の構造タンパク質に比べ、弱かったり、異なることが多い。
【0013】
前記組み換えタンパク質の優れた自己組織化能は、他の広範囲に及ぶタンパク質の特性の改良と同じように、組み換えタンパク質のin vivoでの応用や体外での応用を目的として要求されるだろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要約
本発明は、少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマー、及び少なくとも一の金属酸化物又は少なくとも一の可塑剤から成る複合体に関するものである。
【0015】
本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーは、次式で表される。すなわち、
Ty [ (An) x (B) b (A' n' ) x' (B' ) b' (A" n" ) x"] iT' y'
ここで式中、T及びT’は、それぞれ1〜100アミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一又は異なり、
y及びy’は、それぞれ0〜1の整数を示し、整数y’は、整数yと同一又は異なり、
A、A’及びA”は、3〜30アミノ酸からなるそれぞれ個々の反復配列単位であり、アミノ酸配列A’及びアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一又は異なり、
n、n’及びn’’は、2以上、250以下の整数であり、
x、x’及びx’’は、それぞれ0又は1以上の整数であり、それぞれの整数が変化して、個別の反復配列単位A、A’及びA”において少なくとも30アミノ酸を与え、整数x’と整数x’’は、整数xと同一又は異なり、
B及びB’は、それぞれ4〜50のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一又は異なり、
b及びb’は、それぞれ0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一、又は異なり、また、
iは、1〜100の整数である。
【0016】
本発明の方法は、
少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーを選択するステップと、
少なくとも一の金属酸化物又は少なくとも一の可塑剤を選択するステップと、
少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーの溶解液及び少なくとも一の金属酸化物の溶解液を調製するステップと、
前記少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーの溶解液と前記少なくとも一の金属酸化物の溶解液とが混合液を形成するための混合するステップと、
前記混合液を表面に設置し膜を形成させるステップ
を含む。
【0017】
本発明は、金属酸化物又は可塑剤及び1以上の反復配列タンパク質ポリマーから成る複合体からなる組成物を対象とする。本発明の最初の実施形態では、金属酸化物は、チタン、イットリウム、及び/又は酸化ゲルマニウムであり、反復配列タンパク質ポリマーは、SELPと称されるシルクとエラスチンから由来する配列から成る共重合体である。
【0018】
本発明の次の実施形態では、可塑剤は、ポリエチレングリコール及び/又はグリセロールであり、反復配列タンパク質ポリマーは、SELPから由来する配列から成る共重合体である。
【0019】
本発明に係る組成物は、RSPP単独の複合体に比べ、物性が強化される。
【0020】
最初の実施形態では、複合体が、金属酸化物及び組み換えタンパク質の混合物であり、前記混合物はさらに、ナノフィラメント(nanofilaments)が概して平行なパターンで整列及び配向するタンパク質の自己組織化を示す。
【0021】
第二の実施形態では、複合体は、可塑剤と組み換えタンパク質の混合物であり、前記複合体は、単なる組み換えタンパク質の特性と比べて優れた特性を持つ。前記複合体は、RSPP単独の弾性率(elastic modulus values)よりも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、及び100%以上高い弾性率により示される優れた耐屈曲性を有する。反復配列たんぱく質ポリマー及び可塑剤のタンパク質ベース複合体は、工業材料を含め、組織骨格基礎材(a tissue scaffold)、人工組織、又は生体分解性構造材料に用いる縫合材料として応用できる複合体の特性を有する反復配列タンパク質ポリマーを生成する。
【0022】
本発明に係る複合体はさらに、様々な量の水分、又は複合体の特性を調整する目的で選択される他の添加物とともに、複合体を構成する目的で用いられる他の溶媒も含有することが出来る。
【0023】
本発明はさらに、金属酸化物と反復配列タンパク質ポリマーから成る複合体の生成方法、及び、可塑剤と反復配列タンパク質ポリマーから成る複合体の生成方法をも提供する。
【0024】
前記方法は、反復配列タンパク質ポリマー溶解液に、金属酸化物、又は可塑剤を加えることから成る。その結果得られた金属酸化物と反復配列タンパク質ポリマーとの混合物から、自己組織化し、反復配列タンパク質ナノフィラメントが整列・配向された膜に、スピンキャスト(spin-cast) することが出来る。
【0025】
SELP剤溶解液に加えられる金属酸化物の量は、所望のナノフィラメント、自己整列・配向性を有する複合体を得る目的で選択することが出来る。SELP剤溶解液に加えられる可塑剤の量は、所望の弾性率の特性を有する複合体を得る目的で選択することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、金属酸化物と1以上の反復配列タンパク質ポリマーの複合体である組成物を提供する。本発明に係る最初の実施形態では、金属酸化物は、チタン、イットリウム及び/又は酸化ゲルマニウムであり、反復配列タンパク質ポリマーは、SELPと称されるシルクとエラスチンから由来する配列を有する共重合体である。制御された条件(controlled conditions)の下に生成される高配向ナノフィラメントの複合体が最初の実施形態において開示される。
【0027】
本発明に係る次の実施形態では、反復配列タンパク質ポリマーはSELP、可塑剤はポリエチレングリコール及び/又はグリセロールであり、また、その結果得られた複合体の弾性率の調整には制御された条件が使用される。
【0028】
本発明はさらに、複合体の生成方法も開示する。前記方法では、混合及び/又は超音波処理を用いて反復配列タンパク質ポリマー溶解液に、金属酸化物又は可塑剤のいずれかを加える。その結果得られた反復配列タンパク質ポリマーと金属酸化物との混合物は、様々な量の水分又は他の溶媒を保持した膜にスピンキャスト(spin-cast)することが出来る。
【0029】
添加物は、複合体の特性を変える目的で使用及び添加される可能性がある。
【0030】
定義
本発明のために、以下の定義が適応されるものとする。
【0031】
「弾性率」、又は耐屈曲性モジュールとは、圧力の除去後にその従来の寸法に戻る物質の能力を表した計測値を意味し、公式E = S/δ(Sは単位圧力、δは単位変形率)で計算される。本発明に係る複合体は、可塑剤を含まないRSPPの弾性率よりも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、及び100%以上高い弾性率を有する。
【0032】
「整列又は配向されたナノフィラメント複合体」とは、複合体でナノフィラメントが概して相互に並んだ複合体の形状を意味する。原子間力顕微鏡による観察では、金属酸化物を含まないRSPP剤単独は、ナノフィラメント間の顕著な整列又は配向が見られないことが示されている。
【0033】
「物性」とは、引張り強さ、弾性率、及び形状を意味する。本発明に係る複合体は、反復配列タンパク質ポリマー単独の場合と比べ1つ以上の優れた力学的特性が示された。
【0034】
「複合体」とは、2以上の物理的に異なる材料が密接に結合した物質を意味する。
【0035】
「ナノフィラメント」とは、糸状に自己組織化したRSPP剤を意味し、前記糸状の少なくとも一の寸法がナノメーターサイズの範囲(すなわち1000ナノメーターよりも小さい)である。
【0036】
複合体に適用される「引張り強さ」は、張力試験において複合体が破損(損傷)するまでの最大の圧力を意味する。この値は、弾性モジュールの傾きで決定される。
【0037】
反復配列タンパク質ポリマー
反復配列タンパク質ポリマー(RSPP)とは、全体の配列を通して2度以上反復された配列を有するドメインを個別に2以上有する任意の修飾ペプチドとすることが出来る。本発明に適合する前記RSPPの2以上から成る反復ドメインは、天然による修飾、化学的修飾、組み換えタンパク質、又はこれらの混合物に由来する可能性がある。例えば、反復配列単位は、シルク、エラスチン、及びコラーゲンのような物質を構成する天然構造の修飾に由来する。あるいは、反復配列単位は、合成又は設計された構造に由来する。
【0038】
当該技術分野での知識を有する者は、本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーの設計と生成に使用し、また修飾することが出来る反復配列単位を含む多彩で自然に生じるタンパク質は本発明の実施に使用出来ることを理解されよう。600以上の反復アミノ酸配列単位が特に、生物学的システムにおいて存在することが知られている。前記天然又は合成タンパク質反復アミノ酸配列単位は、以下の物質に合わせて修飾されたものに由来する。すなわち、それらの物質とは、エラスチン、コラーゲン、アブダクチン(abductin)、バイサス(byssus)、エクステンシン (extensin) 、むち状シルク (flagelliform silk)、ドラグラインシルク(dragline silk) 、グルテン高分子量サブユニット、チチン (titin)、フィブロネクチン (fibronectin)、レミニン (leminin)、グリアジン (gliadin)、膠状ポリペプチド、氷核活性タンパク質、ケラチン、ムチン、RNAポリメラーゼII、レザリン (resalin) 又はこれらの混合物のことを言う。
【0039】
上述した天然又は合成材料に用いられるRSPP反復配列単位は、アミノ酸配列と共にWO 04080426A1に開示されている。この開示は本明細書に全体として援用し、本明細書に組み込まれる。
【0040】
前記反復配列タンパク質ポリマー(RSPP)は、下記の化学式で示される。すなわち、
Ty [ (An) x (B) b (A' n' ) x' (B' ) b' (A" n" ) x"] iT' y'
ここで式中、T及びT’は、それぞれ1〜100アミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一又は異なり、
y及びy’は、それぞれ0〜1の整数を示し、整数y’は、整数yと同一又は異なり、
A、A’及びA’’は、3〜30アミノ酸からなるそれぞれ個々の反復アミノ酸配列単位であり、アミノ酸配列A’及びアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一又は異なり、
n、n’及びn’’は、それぞれ2以上、250以下の整数であり、
x、x’及びx’’は、それぞれ0又は1以上の整数であり、それぞれの整数が変化して、個別の反復配列単位A、A’及びA”において少なくとも30アミノ酸を与え、整数x’と整数x’’は、整数xと同一又は異なり、x、x’及びx、x’、x”は、合計数がゼロとなることはなく、
B及びB’は、それぞれ約4〜約50のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一又は異なる。b及びb’は、それぞれ0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一、又は異なり、また、
iは、1〜500の整数である。
【0041】
反復アミノ酸配列単位は、ブロック共重合体又は交互ブロック共重合体を形成する連結した異なる反復配列単位結合体又は個々の反復配列単位から成ることが出来る。また、反復配列タンパク質ポリマーの個々の反復アミノ酸配列単位は、3〜30アミノ酸、又は3〜8アミノ酸から成る。さらに、同一の反復配列単位で同一のアミノ酸を2以上含むことが出来る。
【0042】
さらに、本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーは、単分散、又は多分散となり得ることが、当該技術分野での知識を有する者により理解されよう。本発明を定義し記載するために、「単分散」ポリマーは、単一に限定される分子量を有するポリマーとする。同様に、本発明を定義し記載するため、「多分散」ポリマーは、タンパク質分解、又は他の細分方法を施された分子量の分布があるポリマーとする。
【0043】
一つの実施形態では、前記共重合体は、シルク-エラスチン共重合体を供給するシルク単位とエラスチン単位の結合体である。前記シルク-エラスチン共重合体は、同一のモノマー単位だけを有するポリマーから区別できる特性を有する。
【0044】
シルク-エラスチンポリマー、SELP47Kは、本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーとして使用されることが出来る。前記SELP47Kは、専らシルク様結晶ブロック及びエラスチン様可撓性ブロックから成るホモブロックタンパク質ポリマーである。SELP47Kは、70%プロリン、バリン、及びアラニンの修飾物質で、疎水性の特性を有する。前記反復配列タンパク質ポリマーは、またSELP47-E13、SELP47R-3、SELP47K-3、SELP47E-3、SELP67K、及びSELP58から成ることが出来る。
【0045】
発明の一つの実施形態では、シルク-エラスチン様タンパク質の構造は、Head- [S2E3EKE4S2) 13-Tailである。ここで、Sはアミノ酸GAGAGSのシルク様配列、Eはエラスチン様配列GVGVP、EKは、リジン残基GKGVPにより修飾されたエラスチン様配列である。アミノ酸の先頭配列は、MDPVVLQRRD WENPGVTQLN RLAAHPPFAS DPMであり、末端配列は、AGAGSGAGAM DPGRYQDLRS HHHHHH.である。前記共重合体は、反復配列単位の780アミノ酸と、886のアミノ酸を含む。前記SELP47Kは、約7万ダルトンの分子量を有し、pIは、10.5である。他のSELP変異体の特性は、下記の表1に示される。
【表1】

【0046】
当該技術分野での知識を有する者は、本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーの種々の生成方法があり、それらの方法は本発明の実施に使用出来ることを理解されよう。例えば、反復配列タンパク質ポリマーは、一般的に認識されている化学合成方法 (例、L Andersson他、 Large-scale synthesis of peptides、Biopolymers 55(3)、227-50 (2000))、遺伝子操作 (例、 J. Cappello、Genetically Engineered Protein Polymers、Handbook of Biodegradable Polymers、Domb、A.J.;Kost, J.;Wiseman、D. (Eds.)、Harvard Academic Publishers、Amsterdam;pages 387-414)、酵素合成 (例、C.H. Wong & K. T. Wang、New Developments in Enzymatic Peptide Synthesis、Experientia 47(11-12)、1123-9 (1991))により生成することが出来る。例えば、本発明に係る反復配列タンパク質ポリマーは、米国特許第5,243,038号、米国特許第6,355,776号、及びWO 07080426A1に記載されている方法から生成することが出来る。これらの開示は、本明細書で具体に記載されている。その他の例として、反復配列タンパク質ポリマーは、非リボソームペプチド合成酵素(例、H.V.Dohren、他、Multifunctional Peptide Synthase, Chem.Rev. 97, 2675-2705(1997))を用いて生成することが出来る。
【0047】
Protein Polymer Technologies, Inc. of San Diego, Californiaからも、特定のシルク-エラスチン反復タンパク質共重合体SELP47K、SELP37K、及びSELP27K組み換えDNAを含む大腸菌株を取り寄せた。SELP67K、SELP58、SELP37K、及びSELP27K変異体タンパク質は、上述した標準SELP47K生成プロトコールを使用して14L流加培養法で生成した。タンパク質は、次の方法で精製、特性評価した。14L培養から収集された40グラムの細胞ペーストは、フレンチプレス(French-press)を経て溶解し、続いてポリエチレンイミン (0.8 w/v%)を添加した。遠心分離し、細胞抽出液から細胞破片を分離した。SELPポリマーは、硫酸アンモニウム(30%飽和)を用いて、細胞抽出液から沈殿した後、遠心分離で収集し、水中で復元(reconstituted)した。
【0048】
変異体SELP47E、SELP47 K -3、SELP47 R -3、及びSELP47E-3の遺伝子操作に用いるプロトコールは、市販されているキット(QUIKCHANGE(登録商標) Multi (Site-Directed Mutagenesis Kit) , Stratagene cat #200513)を改良したものである。前記市販されているキットは、特定のDNA配列に沿った複数個所で一塩基対の変化を生じさせるよう設計されたものである。前記標準プロトコールを使用し、単一方向の5’リン酸化プライマーを構築する。前記プライマーにより、所望のプラスミド鋳型領域にハイブリダイズさせ、配列上に点変異を組み入れる。熱サイクルでは、各合成ラウンドの間にマルチプライマーが結合するようデザインされた連結反応(a ligation reaction)も行う。
【0049】
金属酸化物
本発明に適合する金属酸化物剤は、例えば、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、及び/又は酸化ゲルマニウムの任意の金属酸化物である。好ましい金属酸化物は、酸化チタン、酸化イットリウム、及び酸化ゲルマニウムである。
【0050】
本発明で用いられる金属酸化物の重量濃度は、約0.001%〜約10%、約0.001%〜約5%、約0.01%〜約10%、約0.01%〜約5%、及び約0.01%〜約2%である。
【0051】
複合体は、様々な量の水分又は他の溶媒を含有することが出来る。例えば、複合体は、約15%以上、約10%以上、約5%以上、約1%以上の水分又は他の溶媒を含有することが出来る。
【0052】
複合体は、特性を調整及び多様化させるための添加物を含むことが出来る。例えば、添加物は、ヒドロキシアパタイト、酸化ポリエチレン、酸化ポリプロピレン、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(lactide-co-glycolide、PLGA)、ポリ乳酸、カプロラクトン(caprolactones)、ポリエチレン、イミン(imine)、デキストラン、糖質、DNA、ケイ素、シラン、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、脂肪酸、タルク、イオン性、及び/又は非イオン性界面活性剤、又はこれらの混合物とすることが出来る。
【0053】
本発明に係る第二の実施形態では、可塑剤は、糖(例えば、グルコース、果糖、ショ糖)、ポリオール(例えば、ソルビトール、キシリトール、及びマルチトール又は他のグリコール)のような低分子量有機化合物、尿素又は他のアミンのような極性低分子量有機化合物、又はその他として知られている水分やグリセロールのような可塑剤とすることが出来る。好ましい可塑剤としては、ポリエチレングリコール及びグリセロールがある。可塑剤の量は、所望の複合体の弾性率の調整により選択されることが出来る。可塑剤は、複合体の10%, 8%, 6%, 4%, 2%, 1%, 0.5% w/wで構成されることが出来る。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は、本発明に係る実施形態を例示するものであり、本発明をこれらに限定する目的ではない。
【0055】
実施例1
シルク‐エラスチン様タンパク質(SELP)の生成:
US2004/0180027A1で記載されるように単分散シルク‐エラスチン様タンパク質ポリマーSELP47Kを、単分散SELP47Kを含む細胞ペーストを生成する組み換え大腸菌株の培養(fermenting)により生成した。前記細胞ペーストを、氷冷水内に置き均一化(homogenize)することにより、細胞抽出液を得た。前記細胞抽出液を、ポリエチレンイミン及びろ過助剤(filter-aid)と混合した後、1時間7℃で放置した。ポリエチレンイミンにより、細胞破片と大部分の大腸菌タンパク質が沈殿を引き起こした。次に遠心分離、微小ろ過装置(microfiltration device)、回転円筒型減圧濾過器(Rotary Drum Vacuum Filter、RVDF)のような細胞破片分離装置を用いて混合反応物を含むSELP47Kをろ過した。ろ過されたSELP47K溶解液は、SELP47Kを沈殿させる25%飽和硫酸アンモニウムと混合した。沈殿されたSELP47K及び母液をろ過助剤と混合し、再びRVDFを用いてろ過した。前記SELP47Kを含むRVDFのろ塊とろ過助剤は、冷水と混合し、SELP47Kを溶解した。前記沈殿及び可溶化のステップを繰り返すことで、SELP47Kの純度分布を改善した。次に精製した単分散SELP47KをSELP溶解液の伝導率が50 μS/cm2に達するまで水交換した。前記単分散SELP溶解液を次に、10 % wt/volに濃縮した後、凍結乾燥し、粉状の単分散SELP47Kタンパク質ポリマーを生成した。前記で得られた物質は、複合材料準備、物性試験、応用試験で必要となるまで-70℃で保存した。
【0056】
実施例2
RSPP/金属酸化物複合体の調製:
SELP47Kの13%水溶液を用意し、次に、3つの金属酸化物(チタン、イットリウム、ゲルマニウム)の0.01wt/wt%と混合した。その結果得られた3つの混合物は、次に厚みで2μmのステインレス-スチール基質上の薄膜にスピンキャスト(spin-cast)し、SELP47K/金属酸化物複合タンパク質フィルムを作成した。
【0057】
実施例3
原子間力顕微鏡(AFM)による膜分析:
実施例2により作成した膜は、AFMを用いて分析した。前記調査で、デジタル・インストルメント・ナノスコープ(a Digital Instruments Nanoscope)をAFM測定器具として使用した。スキャンサイズを、1μmで、スキャンレート(the scan rate)を、2.815 Hz.とした。スキャン数で512を収集し、振幅は0.11〜0.15Vであった。データZ域高度(the data z-range height)は、15nmとした。金属酸化物を除いたコントロールSELP47K膜は、自己組織化によるナノフィラメントの形状構造を有していたが、前記フィラメントは、図1で示されるように、相互に並んだ整列又は配向ではなかった。
【0058】
図2,3、及び4で示されるように、SELP47Kと金属酸化物の両方が存在する場合には、SELP47K膜はナノフィラメントに自己組織化され、また、ナノフィラメントは概して並行で相互に並んだ整列又は配向であった。
【0059】
実施例4
SELP及び複合可塑剤の調製:
20%SELP47K溶解液に、2%wt/wt可塑剤、特にPEG200とグリセロールを混合した。これらの複合物質の膜は、成形(cast)及びインストロン(Instron)試験装置を用いて物性の分析を行った。
【0060】
下記表2の結果は、可塑剤により、SELPポリマー剤の弾性率が改善したことを示している。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、SELP47K RSPP膜の原子間力顕微鏡の画像である。
【図2】図2は、本発明に係る0.01%の酸化チタンを含む複合SELP47K RSPP膜の原子間力顕微鏡の画像である。
【図3】図3は、本発明に係るSELP47K及び0.01%酸化ゲルマニウムを含む別の複合膜の原子間力顕微鏡の画像である。
【図4】図4は、さらに本発明に係るSELP47K及び0.01%酸化イットリウムを含む別の複合膜の原子間力顕微鏡の画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマー、及び少なくとも一の金属酸化物又は少なくとも一の可塑剤を含む複合体。
【請求項2】
前記反復配列タンパク質ポリマーが、次式
Ty [ (An) x (B) b (A' n' ) x' (B' ) b' (A" n" ) x"] iT' y'
を有し、
ここで式中、T及びT’は、それぞれ1〜100アミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一又は異なり、
y及びy’は、それぞれ0〜1の整数を示し、整数y’は、整数yと同一又は異なり、
A、A’及びA’’は、3〜30アミノ酸からなるそれぞれ個々の反復配列単位であり、アミノ酸配列A’及びアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一又は異なり、
n、n’及びn’’は、2以上、250以下の整数であり、
x、x’及びx’’は、それぞれ0又は1以上の整数であり、それぞれの整数が変化して、個別の反復配列単位A、A’及びA”において少なくとも30アミノ酸を与え、整数x’と整数x’’は、整数xと同一又は異なり、
B及びB’は、それぞれ約4〜約50のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一又は異なり、
b及びb’は、それぞれ0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一又は異なり、また、
iは、1〜100の整数であるように設けられる、
請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
少なくとも一の前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、及び酸化ジルコニウムから選ばれる、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
少なくとも一の前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化イットリウム、及び酸化ゲルマニウムから選ばれる、請求項2に記載の複合体。
【請求項5】
少なくとも一の前記可塑剤が、糖質、ポリオール、極性低分子量有機組成物、グリセロール、水分、及び、ポリエチレングリコールから選ばれる、請求項2に記載の複合体。
【請求項6】
少なくとも一の前記金属酸化物又は少なくとも一の可塑剤いずれも含まない反復配列タンパク質ポリマーの物性と比べて改善された物性を有する、請求項2に記載の複合体。
【請求項7】
前記物性が、引張り強さ、弾性率、及び形状から選ばれる、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体が、反復配列タンパク質ポリマーと少なくとも一の金属酸化物から成り、かつ、前記形状が整列・配向されたナノフィラメントから成る、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記ナノフィラメントが概して並行に整列・配向されている、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記複合体が、反復配列タンパク質ポリマーと少なくとも一の可塑剤から成り、かつ、形状が、前記可塑剤を含まない前記反復配列タンパク質ポリマーの弾性率よりも、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上高い弾性率から成る、請求項7記載の複合体。
【請求項11】
次式
Ty [ (An) x (B) b (A' n' ) x' (B' ) b' (A" n" ) x"] iT' y'
を有する反復配列タンパク質ポリマー、及び複合体重量の0.01%の少なくとも一の金属酸化物を含む複合体であり、
ここで式中、T及びT’は、それぞれ1〜100アミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一又は異なり、
y及びy’は、それぞれ0〜1の整数を示し、整数y’は、整数yと同一又は異なり、
A、A’及びA’’は、3〜30アミノ酸からなるそれぞれ個々の反復配列単位であり、アミノ酸配列A’及びアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一又は異なり、
n、n’及びn’’は、2以上、250以下の整数であり、
x、x’及びx’’は、それぞれ0又は1以上の整数であり、それぞれの整数が変化して、個別の反復配列単位A、A’及びA”において少なくとも30アミノ酸を与え、整数x’と整数x’’は、整数xと同一又は異なり、
B及びB’は、それぞれ約4〜約50のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一又は異なり、
b及びb’は、それぞれ0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一又は異なり、また、
iは、1〜100の整数であるように設けられ、
前記少なくとも一の金属酸化物は、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、及び酸化ジルコニウムから選ばれる複合体。
【請求項12】
次式
Ty [ (An) x (B) b (A' n' ) x' (B' ) b' (A" n" ) x"] iT' y'
を有する反復配列タンパク質ポリマー、及び複合体重量の2%である少なくとも一の可塑剤を含む複合体であり、
ここで式中、T及びT’は、それぞれ1〜100アミノ酸からなるアミノ酸配列を示し、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一又は異なり、
y及びy’は、それぞれ0〜1の整数を示し、整数y’は、整数yと同一又は異なり、
A、A’及びA’’は、3〜30アミノ酸からなるそれぞれ個々の反復配列単位であり、アミノ酸配列A’及びアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一又は異なり、
n、n’及びn’’は、2以上、250以下の整数であり、
x、x’及びx’’は、それぞれ0又は1以上の整数であり、それぞれの整数が変化して、個別の反復配列単位A、A’及びA”において少なくとも30アミノ酸を与え、整数x’と整数x’’は、整数xと同一又は異なり、
B及びB’は、それぞれ約4〜約50のアミノ酸からなるアミノ酸配列であり、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一又は異なり、
b及びb’は、それぞれ0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一又は異なり、また、
iは、1〜100の整数であるように設けられ、
前記少なくとも一の可塑剤が、糖質、糖アルコール、極性低分子量有機組成物、グリセロール、水分、及び、ポリエチレングリコールから選ばれる複合体。
【請求項13】
前記複合体が、生体分解性構造材料である、請求項2に記載の複合体。
【請求項14】
前記複合体が、生体分解性構造材料である、請求項11に記載の複合体。
【請求項15】
前記複合体が、生体分解性構造材料である、請求項12に記載の複合体。
【請求項16】
複合体を生成する方法であり、
少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーを選択するステップと、
少なくとも一の金属酸化物又は少なくとも一の可塑剤を選択するステップと、
少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーの溶解液及び少なくとも一の金属酸化物の溶解液を調製するステップと、
前記少なくとも一の反復配列タンパク質ポリマーの溶解液と前記少なくとも一の金属酸化物の溶解液とが混合液を形成するための混合するステップと、
前記混合液を表面に設置し膜を形成させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項17】
前記混合液の表面上の設置が、混合液を膜又はヒドロゲルとして表面に成形(casting)することを含む、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507942(P2009−507942A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527995(P2008−527995)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/032114
【国際公開番号】WO2007/024618
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】