説明

反応及び/又は検出容器、並びにこれを含む反応及び/又は検出キット

【課題】
核酸増幅反応を実施する場合に、反応に必要な試薬を予め反応チューブに投入する時、試薬の保持部位によっては試料溶液を添加した途端に反応が開始する。また、試薬を乾燥する場合においても、反応チューブの奥にて乾燥させると乾燥試薬の剥離が生じる。
【解決手段】
チューブ容器内の反応部と接触しない蓋部、反応チューブ側部等の内面に、核酸増幅反応に必要な試薬の保持・溶解部を設けて試薬を保持することにより、均一な試薬の溶解が得られ、安定した増幅反応結果が得られる。また、乾燥試薬化する場合においても、蓋部、反応チューブ側部等の内面を用いることにより、乾燥試薬の剥離を抑制する効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の微量分析に適したチューブ容器、並びにこれを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
血液、尿、糞便、唾液等の生体試料をはじめとして、食品中、環境水中等の遺伝子分析を行う際に、標的核酸を効率よく分析するために核酸増幅法が利用される。一方、分析対象となる検体から得られる核酸は少なく、ごく微量の溶液中、通常は10μL単位の溶液中で核酸増幅を実施することとなる。そのため、核酸増幅反応に用いる、容量の小さい、さまざまな蓋付き反応チューブが提案されている。
【0003】
蓋を容易に開閉でき、加温による容器内圧の上昇によって開放される虞が殆どなく、閉鎖された蓋が確実に保持されるように、蓋と容器開口部との嵌合性や、蓋と連結体が検討された一体型のプラスチック容器が提案されている(特許文献1)。また、蓋の開閉頻度を下げ、一度に処理できる検体数を増大させた、容器と一体型の隔壁を設けた反応チューブが提案されている(特許文献2)。さらに、前記蓋が極薄の膜を有し、蓋と容器連結部の折畳み蝶番に2個の刻み溝が設けられた、一体型反応容器が提案されている(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−183362号公報
【特許文献2】実開平7−34935号公報
【特許文献3】特表平9−504690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記反応チューブを用いて核酸増幅反応を実施する場合、予め反応チューブ内に核酸増幅反応に必要な試薬を投入することにより、試薬の調製を簡便化させることができる。特に、試薬を乾燥状態で投入することにより、冷凍設備等の多大な機器を必要とせず、簡便に核酸増幅反応を実施することが可能となる。しかし、容器内下部の反応部に直接試薬を投入して乾燥させると、減圧乾燥時の突沸による乾燥試薬の剥離が生じる。そのため、乾燥試薬を反応チューブの下部に落とす必要があるだけでなく、核酸増幅反応を迅速かつ良好に実施できず、検出が不十分となって分析精度が著しく落ちるという問題点を有していた。
【0006】
また、試料溶液を用いて試薬を溶解する際の溶解速度は均一性に乏しく、安定な反応結果を得るためには試薬調製時に氷冷する必要がある。さらに、連結した反応チューブを用いて多検体の増幅反応を同時に実施する場合、最初と最後の反応チューブに試料溶液を投入する時間差が生じ、安定した反応結果を得るための障害となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意研究を行った結果、蓋部の内面若しくは反応チューブ側部の内面において核酸増幅反応に必要な試薬を乾燥させることにより、乾燥試薬の剥離がなく、試料溶液による溶解も均一に行えることを見出した。その結果、均一な溶解速度と反応チューブ間の時間差のない反応により、安定した反応結果が得られた。
【0008】
さらに、本発明者らは、乾燥状態の試薬に限らず、ガラス状態、ゲル状態若しくは溶液状態の試薬においても、蓋部の内面若しくは反応チューブ側部の内面に試薬を保持することにより、試料溶液による溶解が均一に行えることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)試料中の標的物質の反応及び/又は検出を行う、蓋部と反応チューブを組み合わせた密閉可能なチューブ容器で、反応部と接触しない部分に試薬を保持したチューブ容器。
(2)チューブ容器に含まれる試薬が、乾燥状態である(1)記載のチューブ容器。
(3)チューブ容器に含まれる試薬が、ガラス状態である(1)記載のチューブ容器。
(4)チューブ容器に含まれる試薬が、ゲル状態である(1)記載のチューブ容器。
(5)チューブ容器に含まれる試薬が、溶液状態である(1)記載のチューブ容器。
(6)チューブ容器に含まれる試薬が、周囲から遮断されている(1)〜(5)のいずれか1項に記載のチューブ容器。
(7)試薬保持・溶解部が、蓋部の内面である(1)〜(6)のいずれか1項に記載のチューブ容器。
(8)試薬保持・溶解部が、反応チューブ側部の内面である(1)〜(6)のいずれか1項に記載のチューブ容器。
(9)2個又は2個以上のチューブ容器が、連結部を介して連結している(1)〜(8)のいずれか1項に記載のチューブ容器。
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の試薬を含むチューブ容器を含む、反応及び/又は検出キット。
【発明の効果】
【0010】
容器内下部の反応部において増幅反応に必要な試薬を乾燥させることに比較して、蓋部の内面若しくは反応チューブ側部の内面において乾燥させることは、円滑に試薬の乾燥が行われ、乾燥試薬の剥離をなくすことを可能にする。
【0011】
また、本発明のチューブ容器は、蓋部の内面若しくは反応チューブ側部の内面に増幅反応に必要な乾燥状態、ガラス状態、ゲル状態若しくは溶液状態の試薬を保持することにより、試料溶液を反応容器に注入し、蓋部により密封した後に、転倒若しくは横転し、試料溶液を用いて試薬を溶解する。この方法を用いることにより、試料溶液による試薬の溶解が速やかに行われる。
【0012】
さらに、連結したチューブ容器を用いて多検体の増幅反応を同時に実施する際に、全ての試料溶液を反応チューブに注入し、蓋部により密封した後に、転倒若しくは横転し、試料溶液を用いて試薬を溶解する。この方法を用いることにより、試薬が瞬時にかつ均一に溶解でき、全ての検体の反応が、遅滞なく同時に行われるため、安定した増幅反応結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、反応チューブと、その上面の開口部を密閉する蓋部を組み合わせたチューブ容器に基づく。すなわち、予めチューブ容器内に核酸増幅反応に必要な試薬を乾燥状態、ガラス状態、ゲル状態若しくは溶液状態で保持することにより、試料溶液を投入するだけで簡単に反応液の調製を行なうことができる。
【0014】
しかし、試料溶液を投入する際に乾燥状態、ガラス状態、ゲル状態若しくは溶液状態で保持されている試薬と試料溶液が接触すると、試薬の溶解が始まり、反応液の均一な調製に支障を来たす虞がある。それゆえ、試薬を乾燥状態、ガラス状態、ゲル状態若しくは溶液状態で保持する部位として、反応チューブの下部を避けることが、安定した増幅反応結果を得るための必要条件となる。
【0015】
上記条件を満たす第一の態様としては、乾燥状態の試薬をチューブ容器の蓋部の内面に保持することがある。具体的には、図1に示すとおり、チューブ容器の蓋部に核酸増幅反応に必要な試薬を注入し、風乾、減圧乾燥、凍結乾燥等を用いて乾燥させることによって完成する。
【0016】
上記条件を満たす第二の態様としては、乾燥状態の試薬をチューブ容器の反応チューブ側部の内面に凹部を設け、そこに保持することがある。具体的には、図2に示すとおり、チューブ容器の反応チューブ側部の内面に凹部に核酸増幅反応に必要な試薬を注入し、風乾、減圧乾燥、凍結乾燥等を用いて乾燥させることによって完成する。
【0017】
ガラス状態、ゲル状態又は溶液状態の試薬の場合も、同様の位置に試薬を保持することによって完成する。また、試薬の保持、安定性を高めるため、必要に応じて薄膜を用いて試薬を被覆することもある。
【0018】
試料溶液を用いて核酸増幅反応を開始するとき、上記第一の態様のようにチューブ容器の蓋部の内面で試薬を保持している場合には、反応チューブに試料溶液を注入し、蓋部を用いて反応チューブ上面の開口部を密閉した後にチューブ容器を転倒させて、試料溶液と保持試薬を接触させることにより、反応液が復元されて調製が完成する。図3に具体的な工程を示す。
【0019】
上記第二の態様のようにチューブ容器の反応チューブ側部の内面で試薬を保持する場合には、反応チューブに試料溶液を注入し、蓋部を用いて反応チューブ上面の開口部を密閉した後にチューブ容器を横転させて、試料溶液と保持試薬を接触させることにより、反応液が復元されて調製が完成する。図4に具体的な工程を示す。
【実施例】
【0020】
以下に簡易な核酸増幅法であるLAMP法を例に挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、反応試薬中の成分のFIP、BIP、LPF、LPB、F3及びB3は、LAMP法に用いるプライマーを示す。
【0021】
1.実施例
反応試薬(14mM dNTPs、4μM FIP、4μM BIP、2μM LPF、2μM LPB、0.5μM F3、0.5μM B3、62.5μM Calcein、1.25mM MnCl、40U Bst polymerase)を調製する。調製した反応試薬を蓋部の内面に10μLずつ分注する。分注した反応試薬が蓋部よりこぼれ出ないように置き、減圧乾燥を実施した。
【0022】
2.比較例
実施例と同様に調製した反応試薬を反応チューブの下部に10μLずつ分注する。チューブ容器を立てておき、実施例と同様に減圧乾燥を実施した。
【0023】
3.減圧乾燥後の乾燥試薬
比較例では、減圧乾燥時に突沸が生じ、試薬の内壁からの剥離が12例中1例に認められた。一方、実施例では、減圧乾燥時の乾燥面積が増大したことにより突沸が生じなくなり、12例全てに試薬の全剥離並びに一部剥離は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
核酸増幅用のチューブ容器内の反応部と接触しない部分の試薬保持・溶解部に、核酸増幅に必要な試薬を予め担持させることにより、試料溶液中の対象核酸の核酸増幅を容易に行うことができる。また、チューブ容器を連結させることにより、多検体の核酸増幅を、均一な条件で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】蓋部の内面に核酸増幅反応試薬を注入し、乾燥させる模式図
【0026】
【図2】反応チューブ側部の内面に核酸増幅反応試薬を注入し、乾燥させる模式図
【0027】
【図3】蓋部の内面に乾燥試薬を保持したチューブ容器の試料溶液による乾燥試薬の溶解工程
【0028】
【図4】反応チューブ側部の内面に乾燥試薬を保持したチューブ容器の試料溶液による乾燥試薬の溶解工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的物質の反応及び/又は検出を行う、蓋部と反応チューブを組み合わせた密閉可能なチューブ容器で、反応部と接触しない部分に試薬を保持したチューブ容器。
【請求項2】
チューブ容器に含まれる試薬が、乾燥状態である請求項1記載のチューブ容器。
【請求項3】
チューブ容器に含まれる試薬が、ガラス状態である請求項1記載のチューブ容器。
【請求項4】
チューブ容器に含まれる試薬が、ゲル状態である請求項1記載のチューブ容器。
【請求項5】
チューブ容器に含まれる試薬が、溶液状態である請求項1記載のチューブ容器。
【請求項6】
チューブ容器に含まれる試薬が、周囲から遮断されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のチューブ容器。
【請求項7】
試薬保持・溶解部が、蓋部の内面である請求項1〜6のいずれか1項に記載のチューブ容器。
【請求項8】
試薬保持・溶解部が、反応チューブ側部の内面である請求項1〜6のいずれか1項に記載のチューブ容器。
【請求項9】
2個又は2個以上のチューブ容器が、連結部を介して連結している請求項1〜8のいずれか1項に記載のチューブ容器。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の試薬を含むチューブ容器を含む、反応及び/又は検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−201458(P2009−201458A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49242(P2008−49242)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】