説明

反応容器用補助具及びそれを用いた反応方法

【課題】本発明の課題は、反応容器の外側から反応溶液の温度を制御する場合に、反応溶液の温度追随性を改善することである。
【解決手段】本発明の補助具は、底部と、側壁と、上端の開口とを有する反応容器内に反応溶液を収納し、該反応溶液の温度を外部から制御して反応を行う際に、前記反応溶液の温度追随性を改善するために用いられる補助具であって、前記反応容器の内壁面の少なくとも一部と間隔を持って前記反応容器に挿入可能であることを特徴とする補助具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器の外側から反応溶液の温度を制御して反応を行う場合に、反応溶液の温度追随性を改善するための補助具及びそれを用いた反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種生物のゲノム解析が進められる中で、多数の遺伝子の発現情報やゲノムの変異・多型性の検出を大規模、同時並行で行う手段としてDNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いた遺伝子発現解析が行われている。DNAチップは基板上に疾病や薬の副作用等に関与するDNA断片が固定化されたチップであり、このチップ上で増幅させた標的核酸と固定化したDNA断片とを反応させて解析を行う。標的核酸の増幅方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)法が広く利用されている。PCR増幅技術に関する詳細な内容は、特許文献1乃至4に記載されている。
【0003】
通常、PCR法は、適当な間隔で温度を上下させる恒温槽と恒温槽に使用できる反応容器を利用し、反応溶液の温度を上昇・下降させることにより実施される。最も一般的には、加熱・冷却装置が装備された金属ブロックの穴にプラスチック製の反応容器(例えば、マイクロチューブ)を密着させ、金属ブロックを介してマイクロチューブ内の反応溶液に温度サイクルを与える。サンプル数が多い場合には、一度に多数のサンプルのPCRを行うために、PCR用マイクロタイタープレート(96ウェル)を用いて96サンプルを反応させる装置も開発されている。金属ブロックの冷却方式には、コンプレッサーを用いるものと、ペルチェ冷却方式のものの2種類がある。最近、金属ブロックを温度制御部(温度を制御する部分)に使用する代わりに、気体または液体のような流体を温度制御部に使用して反応容器と高効率に接触できるようにし、反応時間を縮める技術が開発され製品化されている。また、反応容器または反応溶液自体を移動させる方法、赤外線を使って反応溶液を直接加熱する方法などが開発されている。
【0004】
通常、目的の増幅量を得るために、例えば95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で60秒を1サイクルとして30〜40サイクル反応させる。この反応を通常の反応装置および反応容器を用いて行うと完了するまでに2時間程度の時間を要する。
【0005】
また、PCR法とは異なる原理に基づく方法である増幅反応としてLCR(Ligase Chain Reaction)法が知られている。LCR増幅技術に関する詳細な内容は、特許文献5に記載されている。LCR法も温度サイクルに依存する方法である。
【0006】
とくに、生物学分野、化学分野等では、PCR法や酵素反応等に代表されるように温度制御を必要とする反応が多い。
【特許文献1】米国特許第4,683,202号明細書
【特許文献2】米国特許第4,683,195号明細書
【特許文献3】米国特許第4,800,159号明細書
【特許文献4】米国特許第4,965,188号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第320308号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DNAチップ等での遺伝子解析において標的核酸を増幅する際に、標的核酸量が少ないなどの理由から反応に使用する検体量を増やすため大容量の反応溶液で反応を行う場合がある。しかし、従来の反応容器及び反応装置を用いて大容量でPCR反応を行うと、少量で反応を行った場合と比較して、図1に示すように、反応溶液(3)の液幅(2)が広くなる。結果的に反応溶液中での温度制御部との距離の違いが大きくなり、反応溶液中に温度差が生じ反応の精度に影響が出る。また、反応溶液が設定した温度になるまでに時間がかかり、温度追随性が悪くなる。これらの理由から、PCRのような加熱及び冷却を必要とする反応を大容量で行うと反応効率の低下に繋ってしまう。
【0008】
また、従来の反応容器では、反応容器の容量に対して反応溶液の量が少ない状態で反応を行うため、反応容器に空間が残され、蒸発した反応溶液がこの空間内で液化する。これにより、反応液の量が少なすぎると、反応の途中で反応溶液が蒸発し反応が停止したり、反応溶液の濃度が不均一となるため反応の効率が低下したりする傾向が見られる。
【0009】
そこで、本発明の目的は上記問題の少なくとも一つを解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の補助具は、底部と、側壁と、上端の開口とを有する反応容器内に反応溶液を収納し、該反応溶液の温度を外部から制御して反応を行う際に、前記反応溶液の温度追随性を改善するために用いられる補助具であって、
前記反応容器の内壁面の少なくとも一部と間隔を持って前記反応容器に挿入可能であることを特徴とする補助具である。
【0011】
また、本発明の反応方法は、上記構成の補助具を反応容器内に配置し、該反応容器内の反応溶液の温度を制御して反応を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる補助具を、反応容器内に配置することにより、反応溶液と反応容器の内壁との接触面積が増加した状態で反応が行われるため、反応溶液に有効に温度変化を伝えることができる。また、補助具を反応容器の中心領域を占める位置に配置させることにより、反応溶液を温度変化が速く伝わる反応容器の内壁付近に移行させることができる。さらに、反応溶液の液幅が狭くなる結果、反応溶液中での温度制御部との距離の違いが小さくなるため、反応溶液中における温度勾配が小さくなる。また、反応溶液の液幅が狭くなることで、反応溶液への熱伝導性がよくなり、反応溶液の温度上昇および下降を速やかに行うことができる。以上の理由から、反応溶液の温度追随性が向上する。さらに、補助具を反応容器内に配置することで、補助具を反応容器内に配置しない場合と比較して反応溶液の液面が上昇するため、反応容器中の空間が減少する。これにより、反応容器内の空間への反応溶液の蒸発を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
従来の容器を用いて大容量の反応溶液を用いてPCR反応を行うと、上述の図1で説明したように、反応溶液の液幅(2)が広くなり、反応溶液における中央付近と外壁付近で温度差が生じ、反応むらが生じてしまう。つまり、反応溶液における中央付近と外壁付近では、温度制御部までの距離が異なり、温度勾配が生じる。したがって、大容量でPCR反応を行うと、内壁付近の反応溶液ではPCR反応が進んでいるにも関わらず、中央付近の反応溶液ではPCR反応が進んでいないということがあり得る。さらには、中央付近の反応溶液に望む温度サイクルを与えることが難しい場合も起こり得る。
【0014】
以上のように、一般に汎用されている容器を用いて、加熱や冷却等の温度制御による反応を行おうとすると、その熱の伝達具合によって反応むらが生じてしまう場合がある。本発明に係る補助具は、反応溶液の温度追随性を改善し、上記のような反応むらを低減するのに用いることができる。なお、温度追随性とは、反応溶液が設定した温度(温度制御部の温度)になりやすい性質を表す言葉である。
【0015】
そこで、本発明に係る補助具は、反応容器の反応溶液が投入される内側形状に適合し、反応容器の内壁面の少なくとも一部と間隔を持って挿入可能となっている。この補助具の挿入により反応容器内での反応溶液が存在する領域を制御(調整)することができる。すなわち、これを反応容器内に挿入することで、温度制御に好適な反応溶液の層を反応容器の内周面に沿って形成可能となる。本発明において用いられる反応容器は、底部と側壁と上端の開口を有する構造からなり、補助具の先端部を反応容器の底部に向けて挿入する。その際、補助具の少なくとも一部が反応溶液中に位置し、補助具の形状が反応容器の内側形状に適合していることによって、補助具と反応容器の内壁面との間に、反応溶液の層が形成される。
【0016】
このように形状に適合性を持たせた反応容器と補助具とから反応用のセットを形成することもできる。
【0017】
このように、本発明に係る補助具を反応容器内に配置することで、反応溶液と反応容器との接触面積を増加させることができ、温度制御部により反応溶液に有効に熱を伝える、又は反応溶液から有効に熱を奪うことができるようになる。また、温度伝達の遅延が生じやすい反応容器の中心位置に補助具を配置させることで、温度伝達が速い反応容器の内壁付近に反応溶液を移行させることができる。以上より、反応溶液の温度追随性を上げることができる。さらに、補助具を反応容器内に配置することで、補助具が反応溶液に入った分だけ反応溶液の液面が上昇するため、反応容器中の空間が減少する。これにより、反応容器内の空間への反応溶液の蒸発を抑制することができる。
【0018】
本発明に係る補助具は、反応溶液が存在する領域を制御する部分を少なくとも有して構成される。図2は、図1に示した反応溶液(3)を収容した反応容器(1)に、本発明に係る補助具の一例を配置した状態を示す概念図である。図2において、(1)は、下端部を閉管して底部とし、上端を開口とする直円管状の部分を有する反応容器、(3)は反応溶液、(4)は補助具を示す。図2に示すように、温度伝達の遅延が生じやすい反応容器(1)の中心領域に補助具(4)を配置することで、その領域にある反応溶液は反応溶液の内壁付近に移動する。これにより、少なくとも反応容器の側壁の内周面の全体と間隔をもって補助具が挿入された状態となる。また、補助具の配置により、反応容器の内壁と反応溶液(3)との接触面積が増えるため、温度変化の伝達具合も向上する。なお、図2における補助具は、その全体が、反応溶液が存在する領域を制御する部分として機能するものである。また、本発明に係る補助具には、反応容器の内周面との間隔を規定するスペーサーとなる突起を設けることができる。例えば、その例を図4に示す。例えば図4(a)においては、断面が円形である柱状の部分(円柱状の部分)(5)の側面に突起(6)が設けられた補助具(4)が示されている。
【0019】
本発明に係る補助具を、反応容器の中心領域にくるように配置することで、補助具と反応容器との間に反応溶液が存在する領域を形成するものである。つまり、補助具を反応溶液が収容された反応容器内に挿入することにより、補助具の少なくとも一部が反応溶液内に入り、その入った分だけ反応溶液を反応容器の内壁付近に押しやることができる。そして、反応溶液は補助具と反応容器との間に保持される。
【0020】
反応容器が管状の部分を有する構造である場合は、管状の部分の軸(管の伸びる方向、直円管であれば中心軸方向)に直交する切断面の形状は、特に限定されない。反応容器を製造する際の成形性、反応容器の取扱性、温度制御効率などの点からは、切断面が円形、楕円形、矩形の直管状のものが好ましい。この場合、反応容器の管状の部分の上端から下端に向かって切断面の面積が一定である円筒状、楕円筒状のもの、切断面の面積が徐々に変化する部分を有する、例えば樽状のものなどを好ましい具体例として挙げることができる。反応容器の底部は、平面や、おわん型、尖頭状などの曲面で構成することができ、反応の種類に応じて適宜選択される。
【0021】
補助具の形状としては、反応容器の中心領域に配置できる形状であることが必要であり、その大きさや形状は用いる反応容器を考慮して適宜決定・選択することができる。そして、補助具の形状は、補助具を配置したときに、補助具と反応容器の内壁面との間になるべく一定の間隔が開くような形状が好ましい。このような形状の部分を有する補助具とすることで、反応溶液を反応容器の内壁付近に移行できるとともに、液幅を一定にすることができる。したがって、温度制御部の温度変化に迅速に反応溶液が対応できるようになり、反応溶液の温度追随性を大幅に改善することができる。
【0022】
補助具の形状としては、反応容器の内側の反応溶液を収納する空間に対して立体的に相似形である形状が好ましい。このような相似の関係を有する組合せとしては、反応容器が直管状の部分を有し、補助具が柱状の部分を有する場合を挙げることができる。この場合、反応容器に補助具を挿入した際に、直円管状の部分と柱状の部分との軸方向に直交する断面に、直管状の部分の内周面と柱状の部分の外周面とに均一な間隔をとることができる。更に、柱状の部分の軸方向における各断面の全てにおいて間隔が均一である組合せは特に好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、「反応容器の中心領域」とは、反応容器の内壁面から或る程度の間隔おいて位置し、効率よい温度制御が困難となる場合のある領域である。反応容器が直管状であればそれが伸びる方向(軸方向)に直交する切断面が円形などの点対称図形をなす場合は、各断面の中心を通る線及びその周辺付近を含む領域を言うこととする。 例えば、反応容器がロケット形状である場合、補助具もロケット形状であることが好ましい。なお、ロケット形状とは、円柱の部分(胴部、又は円柱部)と尖頭状の先端部分を有して構成される形状であって、先端部分が反応容器の底部となる形状である。その先端部分は円筒部分から窄んで閉部を構成する形状であり、例えば、その断面が曲線や直線を描いて先が閉じる形状である。代表的なロケット形状の反応容器としては、例えば一般に使用されているマイクロチューブ等が挙げられる。反応容器と補助具とを両方ともロケット形状とすることで、補助具の中心軸と反応容器の中心軸が一致するように配置でき、その結果反応溶液の液幅を均一にすることができる。
【0024】
同様に、反応容器が円柱状である場合、補助具も円柱状であることが好ましい。また、反応容器が他の形状のものを用いる場合も、補助具は、反応容器から一定の間隔をとれるような形状であることが好ましい。
【0025】
また、補助具の形状は、これを反応容器に配置した場合に、補助具の一部が反応溶液の液面からでる形状であることが好ましい。また、反応容器内に全体が収容可能な形状であることが好ましい。
【0026】
上述のように、補助具の大きさは特に限定されず、反応容器の大きさや収容する反応溶液量等に応じて適宜決定・選択でき、補助具と反応容器の内壁との距離が一定である部分がなるべく多いことが好ましい。特に制限されるものではないが、例えば、反応容器の容量として0.5mLのものを用い、反応溶液を50μL収容し反応を行う場合、補助具と反応容器との間隔は0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。この間隔は、更に、0.1mm以上0.5mm以下であることがより好ましい。この反応容器と補助具との間隔は、特に反応溶液の量に応じて変わってくる。反応溶液の量が少ない場合は、この間隔が小さくても、補助具を反応容器に配置した際に、反応溶液が溢れることはない。しかし、反応溶液の量が多い場合、この間隔が小さいと、補助具の配置時に反応溶液が溢れる可能性がある。したがって、その間隔は、主に反応容器の大きさと反応時の反応溶液の量とを考慮して適宜選択することが望ましい。
【0027】
また、本発明に係る補助具は、反応溶液中に入りやすくするために、その比重や重さを調節することが好ましい。
【0028】
以下、補助具の形状について、特に、反応溶液と接触する部分の形状について、図3乃至5を用いて説明する。図3は、反応容器がロケット形状のチューブタイプである場合の、補助具の好ましい形態を示す概念図である。このような反応容器としては、例えば、(株)ハイテックからマイクロチューブ1.5mLとして市販されている。また、小容量のものから大容量ものまで広く揃えられており、本発明に係る補助具もその大きさ・形状に合わせて選択することができる。つまり、サイズが異なる複数の補助具を用意しておき、反応容器の容量・型・形状、反応溶液の量又は反応の性質等を考慮して、適宜選択することができる。
【0029】
図3(a)では、補助具が反応容器(1)の中心領域に配置されており、反応容器の内壁から補助具(5)までの距離はほぼ一定である。このように配置するためには、補助具の少なくとも一部を磁性材料を用いて形成し、外部から磁力で配置位置を制御すればよい。つまり、補助具と反応容器との間隔を一定にするために、補助具の一部を磁性材料で構成し、外部から磁界を作用させることにより補助具の配置位置を制御することができる。また、補助具と反応容器との間隔を一定にするために、反応溶液を考慮して補助具の比重を調整することにより補助具の配置位置を制御してもよい。補助具の比重を調整するために、補助具の一部に空洞を有しても良い。
【0030】
図3(a)では、補助具(5)の全体が反応溶液(3)中に入っている状態が示されている。この状態でも反応溶液全体としての温度追随性を向上できることは確かであり、なんら問題はない。しかし、補助具(5)の上部にある反応溶液は、反応容器の内壁から離れており、この部分の反応溶液の温度追随性はあまり改善されていない。したがって、補助具は、図3(b)に示すように、反応容器の溶液収容部に対応する長さを確保しておくことが好ましい。
【0031】
また、図3(c)に示すように、補助具の先端部分(反応容器の底部側の部分)を尖らせて、先端が反応容器に接するように構成してもよい。この場合、さらに、先端部分に重心がくるように構成することで、補助具の倒れ・傾きを低減することができ、反応容器と補助具との間隔を一定に保つことができる。例えば、先端部分を重くし、それ以外の部分を軽くすることで、重心を先端部分にもってくることができる。図3(a)、(b)では、補助具と反応容器との間隔を一定にするように配置するためには、特別な工夫や手段が必要となるが、図3(c)の形態では、特に複雑な構成を必要としないため好ましい。
【0032】
また、図3(a)から(c)では、好ましい状態を示すものであり、場合によっては補助具が傾き、補助具と反応容器との間隔が一定に保たれない場合も考えられる。しかし、例えその間隔が一定にならなくとも、補助具によって反応溶液の温度追随性を改善することができ、本発明の効果を奏する限り、このような補助具や状態を排除するものではない。
【0033】
また、本発明に係る補助具には、図3(d)乃至(h)に示すように、突起を設けることができる。このスペーサーとしての機能を有する突起(5)により、補助具と反応容器との間隔を一定に保つことができ、また、反応容器内での傾きや倒れを防ぐことができる。突起を設けた突起設置部は、補助具の少なくとも一箇所設けることができる。図3(g)の例では突起設置部が3箇所、図3(h)では2箇所設けられている。後述する図5(c)においても同様である。図4に、補助具(5)に突起(6)を取り付けた補助具の例を示す。なお、図4は、反応容器がロケット形状のチューブ型の場合における好ましい補助具の例を示すものである。この場合、突起は補助具の側面に円周方向に2つ以上取り付けることが好ましく(図4(a))、3つ以上取り付けることがより好ましい(図4(b))。図4(b)に示すように、各々の突起が同一円周上に等間隔になるように3つ以上の突起を取り付けることで、水平方向の断面が円形である反応容器(ロケット形状や円柱状の反応容器)に配置した場合にでも、補助具の傾きや倒れを防ぐことができる。また、この突起は補助具(5)と反応容器(1)との距離を一定に保つ役割を果たしているため、反応容器の内周面の軸方向に直交する切断面及び補助具の軸方向に直行する断面がともに円形(円柱)の場合、それぞれの突起は同一高さとすることが好ましい。また、突起は、反応の効率を低下させないために、反応溶液を区切らないような形状にすることが好ましい。突起の形状としては、特に制限するものではないが、例えば、円錐・角錐状、半球状、円錐台・角錐台状等の形状が挙げられる。また、各突起間の配置間隔を全て等間隔とすることが特に好ましい。例えば、対角線上に2個設けることができる(図4(a))。
【0034】
また、突起は、図4(c)に示すように、補助具の先端部分にも取り付けることが好ましい。また、図4(d)に示す、突起5’のように、先端を丸くし、角をなくすことが好ましい。
【0035】
図3(e)は、図3(c)に示した補助具の側面に、突起を取り付けた形態を示す概念図である。突起は補助具の側面に少なくとも3つ取り付けることが好ましい。このような形態にすることで、補助具の倒れ・傾きを防ぐことができる。
【0036】
図3(f)は、図3(d)に示した補助具の先端に突起を設けた形態を示す概念図である。補助具の側面には3つ以上の突起が円周方向に等間隔に取り付けられている。このような補助具とすることで、磁界制御装置等、特に複雑な外部装置を必要とすることなく、ただ反応容器内に入れるのみで、反応容器と反応領域制御部との間隔を一定とすることができる。
【0037】
図3(g)は、図3(f)に示した補助具の側面にさらに突起を設けた形態を示す概念図である。例えば、補助具の一部を磁性材料で構成することで、外部から磁界を作用させることにより、補助具を制御することができる。磁界による補助具の制御は、反応容器内の配置位置の制御のみならず、補助具を振動又は回転させることも含まれる。したがって、補助具を磁界で制御することにより、反応溶液を撹拌することが可能となる。反応溶液の撹拌方法は、補助具を上下方向や横方向等に振動させる、又は回転させることにより行ってもよい。また、撹拌できれば特に制限はないが、反応溶液と温度制御部との接触を妨げないように撹拌するのが好ましい。そして、この撹拌を行う際に、図3(g)に示すように、補助具に複数の突起物を取り付けることが好ましい。特に、補助具の側面に突起を設けることにより、撹拌効率を上げることができる。撹拌を目的として取り付ける突起の場合は、それぞれの高さを異にしてもよく、撹拌効率を高める配置位置や形状を適宜設計・選択することができる。また、突起の配置としては、例えば、反応領域制御部の側面の円周方向に2箇所以上設けることが好ましく、3箇所以上設けることがより好ましい。撹拌には、少なくとも一部が磁性材料を用いて構成された補助具に外部から磁界を作用させるために、電磁石を使用しても良いし、または永久磁石を使用しても良く、特に制限されるものではない。例えば、撹拌子を回転させるスターラーの機構を、補助具を回転させるのに利用することができる。
【0038】
図3(h)は、反応容器に引っかかるように、補助具に突起物を設けた形態を示す概念図である。例えば、ロケット形状のチューブタイプの反応容器では、先端が窄んでおり、その窄んでいる部分のどこかに引っかかるように突起を設けることができる。図3(h)では、窄みはじめの部分に引っかかるように突起が設けられているが、特に限定されるわけでなく、窄みの途中で引っかかるように突起を設けることもできる。
【0039】
上述の説明は、反応容器がロケット形状のチューブ型の場合における、好ましい補助具について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、反応容器が直方体の形状の場合は、好ましい補助具の形状も直方体となる。突起の好ましい数もそれに応じて変わってくる。
【0040】
また、図5(b)乃至(d)に、反応容器が円柱状のチューブ型の場合に好適な補助具の例を示す。なお、図5(a)に示す補助具は、図5(b)乃至(d)の形態に比べて反応容器と補助具との間隔が一定でないが、反応溶液の温度追随性を十分改善できるものであり、特に排除されるものではない。
【0041】
本発明の補助具の構成材料としては、特に限定されるものではなく、比重、反応溶液の性質、試薬や温度に対する耐久性、試薬の吸着性等を考慮して適宜選択することができる。また、磁性材料を少なくとも一部に使用することで、外部から磁界により補助具を制御することができる。特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、プラスチック、金属又は磁性材料等が挙げられる。
【0042】
プラスチックとしては、例えば、塩化ビニール樹脂、ポリイミド、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、テフロン樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂又はポリカーボネート樹脂等が挙げられる。金属としては、市販の純金属および合金のほとんどが好適に用いられ、例えばニッケル、モリブデン、アルミニウム合金、銀、銅、金又はアルミニウム、あるいはこれらの合金等が挙げられる。磁性材料としては、磁界が作用し得るものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、金属鉄、Fe34、γ−Fe23、Co−γ−Fe23、(NiCuZn)O・(CuZn)O・Fe23、(MnZn)O・Fe23、(NiZn)O・Fe23、SrO・6Fe23、BaO・6Fe23等が挙げられる。また例えば磁性材料を樹脂バインダ等で結着したものや、その表面を適当な材料でコーティングしたものであってもよい。また、補助具は、上述の材質を組み合わせて作製してもよく、プラスチックを金属薄膜や磁性材料により被覆した材料から形成されていてもよい。また、例えば、磁性材料を用いて補助具の形状を形成し、その表面を樹脂材料でコーティングしてもよい。特に表面をコーティングする樹脂材料としては、試薬に対する耐久性等を考慮することが望ましい。
【0043】
補助具は複数個収容してもよい。収容する補助具の材質は、それぞれ異なるものでも良いが、反応を均一に行うために同じ材質で作製された同様の補助具を収容するのが望ましい。
【0044】
また、本発明は、上述の補助具を反応容器内に配置して、反応溶液の温度を制御して反応を行う反応方法を提供するものである。本発明に係る反応方法により、反応溶液の温度追随性を改善することができる。
【0045】
本発明の反応方法によれば、上述の補助具を反応容器内に配置することにより、反応溶液と反応容器の内壁との接触面積が増加した状態で反応が行われるため、反応溶液に有効に温度変化を伝えることができる。また、補助具を反応容器の中心位置に配置させることにより、反応溶液を温度変化が速く伝わる反応容器の内壁付近に移行させることができる。さらに、反応溶液の液幅が狭くなる結果、反応溶液中での補助具との距離の違いが小さくなるため、反応溶液中における温度勾配が小さくなる。また、反応溶液の液幅が狭くなることで、反応溶液への熱伝導性がよくなり、反応溶液の温度上昇および下降を速やかに行うことができる。以上の理由から、反応溶液の温度追随性が向上する。さらに、補助具を反応容器内に配置することで、補助具を反応容器内に配置しない場合と比較して反応溶液の液面が上昇するため、反応容器中の空間が減少する。これにより、反応容器内の空間への反応溶液の蒸発を抑制することができる。
【0046】
反応としては、反応容器の中で反応溶液の温度制御を行うことにより達成されるものであれば限定されない。特に広く行われているPCRやLCRに本発明は好適に用いられる。これらの反応は、例えば、40℃以上100℃以下の温度の範囲で反応が行われる。またPCRやLCRのように温度を変化させるのではなく、一定の温度で反応させるLAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)、SDA(Strand Displacement Amplification)、NASBA(Nucleic Acids Sequence−Based Amplification)、TMA(Transcription−Medicated Amplification)、制限酵素反応、ライゲーション反応、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類、脂肪などの生体に含まれる機能性分子)を利用した反応も好適である。また、上述の方法を利用して反応中に標識を入れる反応も好適である。また、本発明は、とくに小容量の反応の場合に有用であり、例えば、反応溶液の量が10μl以上200μl以下のような小容量の場合に特に有効である。
【0047】
例えば、PCR反応を行う場合、増幅対象となる標的核酸としては、例えば生物由来の核酸が挙げられる。より具体的には、例えば、細菌の核酸、真菌の核酸、ウイルスの核酸、ヒトの核酸、または細菌もしくはウイルス感染細胞中に見出される核酸等が挙げられる。
【0048】
さらに、行う反応を考慮して補助具に適当な加工を施しても良い。例えば、補助具の表面に反応に必要な乾燥試薬を付着させておき、検体を含む溶液により水和させ反応を行ってもよい。PCRや酵素反応を行う場合には、補助具の表面にシリコナイズ加工を行うことで、酵素やDNAの吸着を抑制することができる。また、補助具の表面をシリカでコーティングすることで、反応産物を吸着させ、反応後の精製を簡便に行えるようにしてもよい。また、補助具の表面の一部に、特定のオリゴヌクレオチドを固定させたものであってもよい。これにより、固相PCR反応を行う場合のプライマーとして、或いはハイブリダイゼーション反応のためのプローブとして利用することもできる。
【0049】
反応後の反応溶液を回収する際に、反応溶液の回収を容易にするため、磁力の制御により補助具を反応容器から取り出してもよい。さらに、反応後の反応溶液を回収する際のコンタミネーションによる問題を軽減するため、磁力の制御により補助具を制御し、補助具を反応容器内にとどめた状態で反応溶液を回収してもよい。
【0050】
また、反応容器に反応溶液を収容する際には、補助具をあらかじめ反応容器に存在させた状態で反応容器に反応溶液を収容してもよいし、反応容器に反応溶液を収容後に反応容器に補助具を配置してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
図6に示すように、反応容器(1)としてポリプロピレンから成る市販の0.5mlチューブ(商品名:セイフロックチューブメーカー:エッペンドルフ)を用いた。また、蓋としても機能する突起(6)を頭部に有する補助具(4)としては、0.2mlチューブ(商品名:MicroAmp Reaction Tube、メーカー: Applied Biosystems)を用いた。この0.2mlチューブは前記0.5mlチューブの中に配置可能であり、補助具として利用することができる。0.5mlチューブ(反応容器)は、深さが30mm、開口部の外径が9.8mm、肉厚がmmのロケット形状のチューブタイプであり、ポリプロピレンから成る。0.2mlチューブ(補助具)は、深さが21mm、開口部の外径が6mm、肉厚が0.3mmのロケット形状のチューブタイプであり、ポリプロピレンから成る。反応容器と補助具との間隔は0.5mmとなるように配置した。
【0053】
反応容器(1)の中に補助具(4)を収容し、反応溶液(3)の昇温速度試験を行った。
【0054】
まず、0.1mlの反応溶液を入れた反応容器を恒温槽の反応容器挿入孔に挿入した。次に、加熱を開始し、恒温槽及び反応溶液の温度が25℃から95℃までに上昇するのに要した時間をそれぞれ測定して、反応溶液の恒温槽の温度上昇からの遅れ(昇温遅れ)を算出した。反応溶液の温度は、反応容器内に挿入した熱電対にて測定した。
【0055】
比較例として、0.5mlチューブに0.1mlの反応溶液を入れ、同様の昇温速度試験を行った(比較例1)。
【0056】
これらの結果を表1に示す。表1より、補助具を配置することにより、補助具を配置しない比較例に比べて、昇温速度が増加し、昇温遅れが小さくなることが分かった。したがって、補助具を反応容器内に配置することで、反応容器の温度追随性が改善されることが確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
図7に示すように、ポリプロピレンから成る市販の0.5mlチューブ(反応容器)の中に0.2mlチューブ(補助具)を収容し、PCR反応を行った。補助具は、深さが21mm、外形が6mm、肉厚が0.3mmの円筒形状であるポリプロピレンから成る。また、0.2mlチューブ(補助具)の中に磁石(6)を収容し、その外壁をスパッタリング法を用いて金属薄膜(7)で被覆した。
【0059】
PCR反応溶液100μlを調製し、PCR反応を行って、鋳型を増幅した。PCRは、最初に95℃10分間の熱変性を行った後で、92℃45秒・65℃45秒・72℃45秒を1サイクルとして20サイクル行い、最後に72℃10分間の伸長反応を行った。反応後に反応容器の外側から磁石で調節用物体を固定し、反応産物の回収を行った。比較例として、従来の0.5ml用反応容器を用いて同様の反応を行った。
【0060】
これらの反応産物を電気泳動して得られた電気泳動写真を図8に示す。図8においてレーン1はマーカー、レーン2は調節用物体を収容して反応を行ったサンプル、レーン3は調節用物体を収容しないで反応を行ったコントロールを示す。レーン2はレーン3のコントロールと比較して明確にバンドが確認でき増幅効率が向上していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】反応容器に収容された反応溶液を示す概念図である。
【図2】本発明の補助具を反応容器に配置した状態の例を示す概念図である。
【図3】本発明の補助具の例を示す概念図である。
【図4】本発明の補助具に突起物を取り付けた例を示す概念図である。
【図5】反応容器が円柱状のチューブである場合に好適な補助具の例を示す概念図である。
【図6】(a)実施例1で用いた1.5mlチューブ(反応容器)の形状を表す概念図である。(b)実施例1で用いた0.2mlチューブ(補助具)の形状を表す概念図である。(c)1.5mlチューブ(反応容器)の中に0.2mlチューブ(補助具)を配置した状態を表す概念図である。
【図7】実施例2で用いた、1.5mlチューブ(反応容器)の中に0.2mlチューブ(磁石入り)を配置した状態を表す概念図である。
【図8】本発明によるPCR増幅産物の電気泳動写真を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 反応容器
2 反応溶液の液幅
2’ 反応溶液の液幅(補助具の配置後)
3 反応溶液
4 補助具
5 反応領域制御部
6 突起物
6’ 突起物(角なし)
7 磁石
8 金属薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と、側壁と、上端の開口とを有する反応容器内に反応溶液を収納し、該反応溶液の温度を外部から制御して反応を行う際に、前記反応溶液の温度追随性を改善するために用いられる補助具であって、
前記反応容器の内壁面の少なくとも一部と間隔を持って前記反応容器に挿入可能であることを特徴とする補助具。
【請求項2】
少なくとも前記側壁の内周面の全体と間隔を持って挿入可能である請求項1に記載の補助具。
【請求項3】
前記反応容器内の反応溶液を収納する領域と相似形をなす請求項1または2に記載の補助具。
【請求項4】
前記反応容器が直管状の部分を有し、該直管状の部分に挿入可能な柱状の部分を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の補助具。
【請求項5】
前記直管状の部分がその軸方向に直行する断面が円形の直円管状であり、前記柱状の部分が円柱状である請求項4に記載の補助具。
【請求項6】
前記反応容器内の空間がロケット形状をなす請求項5に記載の補助具。
【請求項7】
前記反応容器に挿入された際に、前記直管状の部分と前記柱状の部分との軸方向に直交する断面に、前記直管状の部分の内周面と前記柱状の部分の外周面とに均一な間隔をとりえる請求項4乃至6のいずれかに記載の補助具。
【請求項8】
前記柱状の部分の軸方向における各断面の全てにおいて前記間隔が均一である請求項7に記載の補助具。
【請求項9】
前記反応容器の底部と接し得る形状を有する請求項1乃至8のいずれかに記載の補助具。
【請求項10】
前記間隔を規定する突起を有する請求項1乃至9のいずれかに記載の補助具。
【請求項11】
前記円柱状の部分の軸方向に直交する断面の円周に、前記間隔を規定する同一高さの突起の少なくとも3つを等間隔で配置した突起設置部を少なくとも1つ有する請求項5乃至9のいずれかに記載の補助具。
【請求項12】
前記円柱状の部分が円柱部と尖頭状の先端部とを有するロケット形状をなし、前記突起設置部が、少なくとも該円柱部の下端に設けられている請求項11に記載の補助具。
【請求項13】
前記突起を前記反応容器の底部に対する先端部に有する請求項10乃至12のいずれかに記載の請求項に記載の補助具。
【請求項14】
少なくとも一部が金属で形成されている請求項1乃至13のいずれかの請求項に記載の補助具。
【請求項15】
少なくとも一部が磁性材料で形成されている請求項1乃至14のいずれかの請求項に記載の補助具。
【請求項16】
前記磁性材料により形状を形成し、該形状に樹脂材料をコーティングして製造したものである請求項15に記載の補助具。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれかの請求項に記載の補助具を反応容器内に挿入し、該反応容器内の反応溶液の温度を制御して反応を行うことを特徴とする反応方法。
【請求項18】
前記反応は、PCR(Polymerase Chain Reaction)又はLAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法であることを特徴とする請求項17に記載の反応方法。
【請求項19】
前記反応における温度制御が40℃以上100℃以下の範囲であることを特徴とする請求項17又は18に記載の反応方法。
【請求項20】
前記反応溶液の量が10μl以上200μl以下であることを特徴とする請求項17乃至19のいずれかの請求項に記載の反応方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−4(P2010−4A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159125(P2008−159125)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】