説明

反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステル、および有機・無機ハイブリッド高分子材料

1分子当りに多数の反応性ケイ素含有基を有し、無機成分と強固に結合した有機・無機ハイブリッド高分子材料を調製できる、反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルを提供する。このポリカーボネート又はポリエステルは、下記式で示される部分を有する。


[式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよく、Rはアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基である。]

【発明の詳細な説明】
本特許出願は、平成15年6月23日に日本国特許庁に特許出願された特願2003−178328に基づく優先権主張出願であり、これを参照して本明細書中に導入している。
【技術分野】
本発明は、無機官能基を有する有機重合体、およびこの重合体から調製される有機・無機ハイブリッド高分子材料に関するものである。
【背景技術】
プラスチックは成形加工性、生産性、軽量性、柔軟性、機械的特性や電気的特性等に優れているため、金属、ガラス、木材、紙等の既存材料と置き換えることができ、今日では建築資材、電気、電子製品の構造部品や機構部品、自動車、車両、航空機、船舶の外装や内装部品、日常雑貨、包装材等、多岐にわたる分野で用いられている。そのため、プラスチックの各種特性の向上やコストに対する市場からの要求は強い。しかし、これらの要求に合致した新規なプラスチックを次々と開発することは困難であるため、異なる種類のプラスチックを組み合わせたり、プラスチックと他の材料を複合化することにより特性を改良する試みが盛んに行われている。
異なる種類のプラスチックの組み合わせとして、例えば、共重合化やポリマーブレンドが挙げられる。共重合化は種類が異なる複数のモノマーからポリマーを合成する手法であり、モノマーの組み合わせによってはそれぞれの単一モノマーから構成されるホモポリマーと異なる特性が生じたり、高性能化することができる。また、ポリマーブレンドは2種類以上のプラスチックを混合して成形することにより、各ポリマーの長所を活かそうとする手法である。これらの技術については、多くの書籍や報告が出されている。
プラスチックと他の材料の複合化の例として、代表的には繊維強化プラスチックが挙げられる。このプラスチックはFRP(Fiber−Reinforced−Plastic)とも呼ばれ、数種類が上市されている。また、近年は、プラスチックと他の材料の複合化として、有機・無機ハイブリッド高分子材料の研究も盛んに行われている。繊維強化プラスチックにおける無機材料の分散粒子径がミクロン(μm)オーダー以上であるのに対し、有機・無機ハイブリッド高分子材料では分子レベルでの分散も可能であるため、プラスチックの高性能化や高機能化が図れるだけでなく、新素材としての可能性も秘めている。
有機・無機ハイブリッド高分子材料の調製方法として特開平7−97499号公報および特開平7−324389号公報には、エチレン系二重結合を有するアルコキシシランとエチレン系不飽和モノマーを共重合させ、得られるアルコキシシリル基含有エチレン系ポリマーを加水分解・縮合する方法が記載されている。このように、エチレン系不飽和モノマーのラジカル重合やイオン重合によって合成されるエチレン系ポリマーの場合には、分子末端だけでなく分子の内部に多数の反応性ケイ素含有基を導入できることから、無機成分と強固に結合した有機・無機ハイブリッド高分子材料の調製が可能である。このようなエチレン系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、AS樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。
しかし、エチレン系ポリマー以外の有機ポリマー、例えば塩基や酸の二官能性モノマーの重縮合により合成される縮合系ポリマーでは、重合時に使用可能な二官能性アルコキシシラン(シランカップリング剤)等が市販されていないため、無機成分と反応可能なアルコキシシリル基等の官能基を重合段階で分子内部に導入することは不可能である。また、活性な官能基は耐候性、耐光性、着色といった面で悪影響をおよぼすことから一般に縮合系ポリマーの分子内部には残されておらず、ポリマーの種類によってはかろうじて分子の両末端に存在するだけであった。
これより縮合系ポリマーの場合には、Polymer第39巻、第4号、第855頁、1998年(ポリカプロラクトン)、Polymer第37巻、第17号、第3983頁、1996年(ポリカプロラクトン)、Polymer第38巻、第17号、第4523頁、1997年(ポリフェニレンテレフタラミド)に記載されているように反応性ケイ素含有基を導入できるのは分子の両末端だけであり、分子内部に導入することは困難であった。
そのため、縮合系ポリマーを用いた有機・無機ハイブリッド高分子材料は、無機成分との結合が十分ではなく、課題を残していた。縮合系ポリマーの例としてはポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリアセタール等が挙げられる。
一方、オキシラン化合物とエステル化合物のエステル交換反応は有機合成化学上、有用な反応のひとつである(Chem.Lett.No.9、第1043頁、1978年、Makromol.Chem.第180巻、第2号、第501頁、1979年等)。
これを有機ポリマーに応用した例として、特開昭54−137093号公報には、ポリアリレーンジカルボキシレートとオキシラン化合物を反応させ、変性ポリアリレーンジカルボキシレートを製造する方法が記載されている。また、有機合成化学、第49巻、第3号、第218頁、1991年には、オキシラン化合物とカルボン酸ジエステルの反応によるポリエステルの合成方法やポリエステルのエステル結合へのオキシラン化合物の挿入反応等が記載されている。しかし、この反応をポリエステル以外の有機ポリマーに応用した例はなかった。また、有機・無機ハイブリッド高分子材料に関しても応用例はなかった。
【発明の開示】
発明が解決しようとする技術的課題
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、1分子当りに多数の反応性ケイ素含有基を有するために、無機成分と強固に結合した有機・無機ハイブリッド高分子材料を調製できる、反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルを提供することにある。さらには、高性能化および機能化が可能である、炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルを提供することにある。
その解決方法
本発明は、主鎖中に、式

[式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよく、Rはアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基である。]
で示される部分を有するポリカーボネート又はポリエステルを提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
また本発明によって、主鎖中に、式

[式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよく、Rはアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基である。]
で示される部分を有するポリカーボネート又はポリエステル、も提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートのH−NMRスペクトルである。
図2は、実施例2の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリアリレートのH−NMRスペクトルである。
図3は、実施例3の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートのH−NMRスペクトルである。
図4は、原料に使用したポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製のユーピロンH4000)のH−NMRスペクトルである。
図5は、原料に使用したポリアリレート(ユニチカ社製のポリアリレートU100)のH−NMRスペクトルである。
図6は、実施例1の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートのFT−IRスペクトルである。
図7は、実施例2の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリアリレートのFT−IRスペクトルである。
図8は、実施例3の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートのFT−IRスペクトルである。
図9は、原料に使用したポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製のユーピロンH4000)のFT−IRスペクトルである。
図10は、原料に使用したポリアリレート(ユニチカ社製のポリアリレートU100)のFT−IRスペクトルである。
図11は、原料に使用したポリエチレンテレフタレート(アルドリッチ社製)のIRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルは、例えば、ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程を包含する方法によって製造される。
オキシラン化合物とは、式(A)で示されるオキシラン(エポキシ基)を有する化合物の総称である。

ここでいう挿入反応は、例えば、有機合成化学、第49巻、第3号、第218頁、1991年に「ポリマー鎖中のエステル結合へのエポキシ化合物の挿入反応」として説明されている反応をいう。
式(1)で特定されている構造は、オキシランの挿入反応が生じた後のエステル結合部を示している。式(1)中のQ及びQのいずれか一方で表される、反応性ケイ素含有基を有する側基は、挿入反応に用いられるオキシラン化合物の残基である。つまり、式(1)の構造は、オキシラン化合物の残基がポリカーボネート又はポリエステルの主鎖にグラフトした形態を示している。Q及びQのうち、反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基である。Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。式(1)中のR、Rは、同一の原子又は基であってもよく、異なる原子又は基であってもよい。Rは、ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に骨格としてもともと含まれている、アルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基等を表している。式(1)によって構造が特定されていない主鎖の部分は、通常のポリカーボネート又はポリエステルと同一の構造である。式(1)の構造は、主鎖中に複数存在する。
また、本発明の炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルは、ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、不飽和基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程を包含する方法によって製造される。式(5)で特定されている構造もまた、オキシランの挿入反応が生じた後のエステル結合部を示している。式(5)中のQ及びQのいずれか一方で表される、炭素間不飽和結合含有基を有する側基は、挿入反応に用いられるオキシラン化合物の残基である。つまり、式(5)の構造は、オキシラン化合物の残基がポリカーボネート又はポリエステルの主鎖にグラフトした形態を示している。Q及びQのうち、反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基である。Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。式(5)中のR、Rは、同一の原子又は基であってもよく、異なる原子又は基であってもよい。Rは、ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に骨格としてもともと含まれている、アルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基等を表している。式(5)によって構造が特定されていない主鎖の部分は、通常のポリカーボネート又はポリエステルと同一の構造である。式(5)の構造は、主鎖中に複数存在する。
上記の反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステル、そして炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルについて、ポリカーボネートとポリエステルとに分けて、より具体的に説明する。
(1−1)主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネート
本発明の、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートは、一般に、式

[式中、Rはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Xは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示す部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰り返し単位を有するポリカーボネート、と表現することができる。
式(2)中のRは、例えば、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基を示し、これらは直鎖状でも分岐状でも良い。もちろんRは同一であっても構わない。また、Rは反応性ケイ素含有基に悪影響を与えない置換基を有していてもよい。Rの好ましい例には、メタフェニレン基、パラフェニレン基、メチレンジフェニレン基、エチリデンジフェニレン基、プロピリデンジフェニレン基、イソプロピリデンジフェニレン基、ブチリデンジフェニレン基、ベンジリデンジフェニレン基、シクロヘキシリデンジフェニレン基、エチレンジフェニレン基、オキシジフェニレン基、チオジフェニレン基、スルフィニルジフェニレン基、スルホニルジフェニレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基等がある。
反応性ケイ素含有基は、加水分解・重縮合反応などによって相互に結合することができる官能基であればよい。反応性ケイ素含有基は、具体的には、トリアルコキシシリル基、ジアルコキシアルキルシリル基及びアルコキシジアルキルシリル基などのアルコキシシリル基であることが好ましい。アルコキシシリル基はゾルゲル法によりシラノール基(−SiOH)を経由して簡便にシロキシ結合(−Si−O−Si−)に変換でき、また取扱いも比較的容易であるからである。これらの中でも、トリアルコキシシリル基を有するのが特に好ましい。トリアルコキシシリル基を有する場合は、モノまたはジアルコキシシリル基を有する場合と比べて、ゾルゲル法により生成する有機・無機ハイブリッド高分子材料において架橋が密となり、機械的強度、耐熱強度、硬度等をより向上させることができるからである。また、反応性ケイ素含有基のSiの部分が他の金属、例えばGe、Sn、Al、TiまたはZrなどであってもよいと思われる。
及びQのいずれか一方で示されている、反応性ケイ素含有基を有する側基は、例えば、式

[式中、Lは接続基であり、R及びRはそれぞれ独立してアルコキシシリル基を形成することができる基又は原子であり、pは1〜3の整数である。]
で示す構造を有する。
接続基とはポリカーボネートの主鎖と反応性ケイ素含有基とを接続する機能を奏する基をいう。Lで示される接続基は、一般に、炭素数1〜20のアルキレン基や炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基、酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子から構成される連鎖である。活性な官能基は有しないことが好ましい。接続基の具体例には、式

[式中、m及びnはそれぞれ独立して1〜4の整数であり、pは0〜3の整数である。]
で示される基等がある。
式(3)中のRは、例えば、炭素数2〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アセチル基及びアセトアセチル基等であってよい。Rは、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基等であってよい。
及びQのうち反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。ここでいうアルキル基は、例えば炭素数1〜12のアルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基は、例えば炭素数6〜20のアリール基を示し、具体的にはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アロイル基は、例えば炭素数6〜20のアロイル基を示し、具体的にはベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられる。また、アラルキル基は、例えば炭素数6〜20のアラルキル基を示し、具体的にはベンジル基、フェニルエチレン基、ナフチルメチレン基等が挙げられる。R、Rは、同一の原子又は基であってもよく、異なる原子又は基であってもよい。
及びQが互いに連結して環構造を成す場合の環構造は、例えば、Q及びQのいずれか一方で示されている反応性ケイ素含有基を有する側基の接続基と、Q及びQの他方とが互いに連結して構成される環構造であってよい。このような環構造は、例えば構成原子数5〜20の環構造を示し、置換基及び/又は置換原子を有してもよい。これらの環構造は単環であってもよく、複数の環を有してもよく、また架橋炭素環であってもよい。これらの環構造の具体例として、例えばシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、ノルボルニレン基等が挙げられる。
及びRが互いに連結して環構造を成す場合の環構造は、例えば構成原子数5〜20の環構造を示し、置換基及び/又は置換原子を有してもよい。これらの環構造は単環であってもよく、複数の環を有してもよく、また架橋炭素環であってもよい。R及びRが互いに連結して成す環構造の具体例として、例えばシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、ノルボルニレン基等が挙げられる。
上記の有してもよい置換基として、例えば−R’、−OR’、−SR’、−NR’R’’[式中、R’及びR’’は、それぞれ独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数6〜20のアラルキル基を示す。]、ニトロ基又はシアノ基等が挙げられる。また、上記の有してもよい置換原子として、例えばハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)等が挙げられる。
及びQのうち反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rとして、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ベンゾイル基である。また、Q及びQが互いに連結して環構造を成す場合の環構造として、好ましくはシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基である。R及びRが互いに連結して環構造を成す場合の環構造として、好ましくはシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基である。
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートは、ポリカーボネートとオキシラン化合物の反応、詳しくはポリカーボネートのカーボネート部位とオキシラン化合物のオキシラン部位の付加反応を利用して合成される。この反応機構は、簡単なモデル式で表わすと、式

[式中、A及びBはポリカーボネートの構成部を示し、Cはオキシラン化合物の構成部を示す。]
で示される(スキーム1)。オキシラン(エポキシ基)の開環にはα開裂とβ開裂があることから2種類の化合物ができるが、いずれもポリカーボネートのカーボネート結合へオキシラン化合物が挿入された形、言い換えればオキシラン化合物のオキシラン部位を除く構成部位がポリカーボネートにグラフトした形となる。
更に、この反応を詳しく説明すると、オキシランが付加反応する部位はカーボネート基のカルボニル炭素(スキーム1におけるI)と、これに隣接する酸素原子(スキーム1におけるII)である。カーボネート基にはカルボニル炭素に隣接する酸素原子が2個あることから、1個のカーボネート基に対して2個のオキシラン化合物の付加が可能である。
原料となるポリカーボネートには特に制約はなく、骨格は脂肪族系、芳香族系のいずれでも良い。もちろん、市販されているポリカーボネートを用いることができる。本発明の方法に用いるのに好ましい市販品の例には、三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユーピロン」シリーズおよび「ノバレックス」シリーズ、住友ダウ社製の「カリバー」シリーズ、バイエル社製の「アペック」シリーズ、テイジン社製の「パンライト」シリーズ、出光石油社製の「タフロン」シリーズ等が挙げられる。
オキシラン化合物が反応性ケイ素含有基を有するものであれば、スキーム1に示した機構により、1ステップで主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートを合成できる。このようなオキシラン化合物としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等が例示される。しかし、反応の途中で反応性ケイ素含有基が反応しないように反応条件を調節する必要がある。
これを避けるためにはビニル基、メタクリル基(メタクリロイル基)、アリル基、アクリル基(アクリロイル基)等のエチレン系不飽和結合、アセチレン基(エチニル基)等のアセチレン系不飽和結合のような炭素同士の不飽和結合(以下、「炭素間不飽和結合含有基」、または単に「不飽和基」という。)を有するオキシラン化合物を、まずポリカーボネートに反応させ、ポリカーボネートに不飽和基をグラフトさせる。
そして、その後、この不飽和基にSi−H結合を有するシランカップリング剤を付加反応させたら良い(ヒドロシリル化反応)。不飽和基を有するオキシラン化合物としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、1―ビニル−1,2−エポキシシクロヘキサン(1−ビニル−1−シクロヘキセン1,2−エポキシド)、4−ビニル−1,2−エポキシシクロヘキサン(4−ビニル−1−シクロヘキセン1,2−エポキシド)、グリシジルビニルエーテル、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、9−オキサビシクロ[6.1.0]ノン−4−エン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、エチニルグリシジルエーテル、グリシジルプロパルギルエーテル等が挙げられる。
Si−H結合を有するシランカップリング剤としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が挙げられる。2ステップにはなるが、この方法を用いると目的とする主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートを確実に得ることができる。
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートの代表的な製造方法を以下に示す。もちろん、これら以外の方法で製造したものであっても構わない。
製造法例1
反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物、ポリカーボネート、触媒を反応装置に仕込み、加熱撹拌する。触媒としては3級アミン、4級オニウム塩、金属塩化物、クラウンエーテル錯体等が挙げられる。反応溶媒は使用しても良いし、加熱または撹拌設備が強力で全ての原料を十分に混合できる場合には使用しなくても構わない。反応装置には特に限定はなく、有機合成の分野で一般的に用いられる各種反応槽や混合機、高分子(プラスチック)分野で各原料の配合や混合、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機等が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に50〜300℃、1分〜24時間の範囲で処理される。また、反応工程では原料の加水分解を防止、抑制する目的で不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。その後、反応混合物を貧溶媒に投入したり、冷却した後、洗浄や乾燥操作を行って目的物が得られる。
製造法例2
不飽和基を有するオキシラン化合物、ポリカーボネート、触媒を反応装置に仕込み、前述した製造法例1と同様の処理を施すことにより、主鎖に不飽和基がグラフトしたポリカーボネートが得られる。次にこのポリカーボネート、Si−H結合を有するシランカップリング剤、触媒を反応装置に仕込み、加熱撹拌する。触媒としては金属塩、金属酸化物、金属錯体等が挙げられる。反応溶媒は使用しても良いし、加熱または撹拌設備が強力で全ての原料を十分に混合できる場合には使用しなくても構わない。反応装置には特に限定はなく、有機合成の分野で一般的に用いられる各種反応槽や混合機、高分子(プラスチック)分野で各原料の配合や混合、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機等が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に室温〜300℃、1分〜24時間の範囲で処理される。また、この反応工程でも原料の加水分解を防止、抑制する目的で不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。その後、反応混合物を貧溶媒に投入したり、冷却した後、洗浄や乾燥操作を行うことにより目的物が得られる。
上記製造法例1および2の方法において、さらに具体的な製造方法として、溶液系での反応による製造方法、固相状態での反応による製造方法、および溶融状態での反応による製造方法、が挙げられる。
溶液系での反応による製造方法は、反応装置に、オキシラン化合物などの材料と共に有機溶媒を加えて、撹拌する方法である。有機溶剤は、反応混合物を均一に混合できるものであれば特に制限はないが、できれば全ての原料を溶解できるものが好ましい。このような溶剤の例として塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トリクロロベンゼン等が挙げられる。反応装置としては、有機合成の分野で一般に用いられる各種反応槽が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に室温〜200℃、30分〜24時間の範囲で処理される。
固相状態での反応による製造方法は、まず、反応装置に、オキシラン化合物などの材料と共に有機溶媒を加えて、撹拌する。有機溶剤は、上記の溶融系での反応による製造方法で用いることができる溶剤を使用することができる。これらを撹拌した後、反応混合物中で各成分が相分離しないように注意しながら、有機溶剤を揮発させて反応混合物を固化させる。次に、この固化物を適当な加温装置を用いて加熱処理することにより反応させる。加温装置としては、有機合成の分野で一般に用いられる各種反応槽や乾燥器等が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、加温装置の種類や能力等に左右されるが、一般に50〜200℃、1〜24時間の範囲で処理される。
溶融状態での反応による製造方法は、上記方法に用いられる有機溶剤は使用してもよく、また加熱または撹拌設備が強力で、全ての原料と触媒を十分に混合できる場合には使用しなくても構わない。反応装置としては、有機合成の分野や高分子(プラスチック)分野で各原料の配合や混合、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機等が使用可能である。好ましい反応装置として、例えば2軸押出機などが挙げられる。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に200℃〜300℃、1分〜10分の範囲で処理される。
これらの製造方法は、製造法例1の、反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物、ポリカーボネートおよび触媒を用いて製造する方法、そして製造法例2の不飽和基を有するオキシラン化合物、ポリカーボネートおよび触媒をまず撹拌して、主鎖に不飽和基がグラフトしたポリカーボネートを調製し、次いでシランカップリング剤を加える方法、の何れにも使用することができる。
本発明の方法によって、ポリカーボネート1分子に導入できる反応性ケイ素含有基の数は、各原料や触媒の仕込み量、反応条件によりコントロールできる。例えば、式

で示されるビスフェノールAタイプのポリカーボネートの場合、平均分子量を30,000と仮定すると繰返し単位数nは118となる。1分子中のカーボネート基の数はこれと同数であり、1個のカーボネート基に導入できるオキシランは2個までであることから、本発明の方法により導入できる反応性ケイ素含有基の数は、この場合1〜236個である。
(1−2)主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネート
上記の製造法例2の方法のように、不飽和基を有するオキシラン化合物を、ポリカーボネートに反応させることによって、主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートが得られる。この、主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートは、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートを製造する工程における中間体ということができる。主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートに、シランカップリング剤を付加反応させることによって、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートが得られる。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートは、一般に、式

[式中、Rはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Yは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示される部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリカーボネート、と表現することができる。
式(6)中のRは、上記式(2)中のRと同様である。また、Q及びQのうち炭素間不飽和結合含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rの具体例等も、上記Q及びQにおける場合の具体例等と同様である。さらに、Q及びQが互いに連結して環構造を成す場合の環構造の具体例等も、上記Q及びQにおける場合の具体例と同様である。
炭素間不飽和結合含有基として、具体的には、ビニル基、メタクリル基(メタクリロイル基)、アリル基、アクリル基(アクリロイル基)およびエチニル基などが挙げられる。これらの2種以上を含んでもよい。炭素間不飽和結合含有基として、好ましくは、ビニル基、メタクリル基、アリル基またはエチニル基を有するのが好ましい。
及びQのいずれか一方で示されている、炭素間不飽和結合含有基を有する側基は、例えば、式

[式中、Lは接続基であり、Rは、炭素間不飽和結合含有基である。]
で示す構造を有する。Rで示される炭素間不飽和結合含有基として、ビニル基、メタクリル基、アリル基、アクリル基およびエチニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上の基であるのが好ましい。
で示される接続基は、ポリカーボネートの主鎖と炭素間不飽和結合含有基とを接続する機能を奏する基を意味する。このような接続基(L)の具体例として、式

[式中、mは1〜4の整数である。]
で示される基等がある。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートが有する炭素間不飽和結合含有基は、反応性基である。この炭素間不飽和結合含有基は、付加反応または重合反応することができる。このような主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートは、ポリカーボネートの機能化や高性能化を提供することができる。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートは、上記の通り、不飽和基を有するオキシラン化合物を、ポリカーボネートに反応させることによって得ることができる。この反応によって、ポリカーボネートの主鎖に含まれるエステル結合に、不飽和基を有するオキシラン化合物が挿入される。ポリカーボネートおよび不飽和基を有するオキシラン化合物として、上記したものを用いることができる。具体的な製造方法として、上記した、溶液系での反応による製造方法、固相状態での反応による製造方法、および溶融状態での反応による製造方法、が挙げられる。この中で、溶融状態での反応による製造方法を用いて、炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートを調製するのが好ましい。この方法は、溶液系での反応による製造方法および固相状態での反応による製造方法と比較して、反応前後における有機溶媒からの分離等の煩雑な操作が必要とされないという利点がある。さらには反応時間もより短く効率的である。この、溶融状態での反応による製造には、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機が使用される。好ましい反応装置としては2軸押出機などが挙げられる。
(2−1)主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステル
本発明の、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステルは、一般に、式

[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Xは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示す部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリエステル、と表現することができる。
式(4)中のRはポリエステルの原料であるジカルボン酸成分に由来するアルキレン基等である。Rはポリエステルの原料であるジオール成分に由来するアルキレン基等である。例えば、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基等を示し、これらは直鎖状でも分岐状でも良い。また、これらは反応性ケイ素含有基に悪影響を与えない置換基を有していてもよい。
の好ましい例には、フェニレン基、ナフチレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等がある。また、Rの好ましい例には、エチレン基、ブチレン基、メチレンジフェニレン基、イソプロピリデンジフェニレン基、オキシジフェニレン基、チオジフェニレン基、スルホニルジフェニレン基等がある。
なお、Q、Q、R及びRの具体例等は上記と同様である。
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステルは、ポリエステルとオキシラン化合物の反応、詳しくはポリエステルのエステル部位とオキシラン化合物のオキシラン部位の付加反応を利用して合成される。この反応機構は、簡単なモデル式で表わすと、式

[式中、D及びEはポリエステルの構成部を示し、Fはオキシラン化合物の構成部を示す。]
で示される(スキーム2)。オキシラン(エポキシ基)の開環にはα開裂とβ開裂があることから2種類の化合物ができるが、いずれもポリエステルのエステル結合へオキシラン化合物が挿入された形、言い換えればオキシラン化合物のオキシラン部位を除く構成部がポリエステルにグラフトした形となる。
原料となるポリエステルには特に制約はなく、骨格は脂肪族系、芳香族系のいずれでも良い。もちろん、市販されているポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルを用いることができる。これらのポリマーは、ユニチカ社、テイジン社、東レ社、デュポン社、三井化学社等から市販されている。
使用しうるオキシラン化合物及び反応方法は原則としてポリカーボネートの場合と同様である。
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステルの代表的な製造方法を以下に説明する。もちろん、これら以外の方法で製造したものであっても構わない。
製造法例3
反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物、ポリエステル、触媒を反応装置に仕込み、加熱撹拌する。触媒としては3級アミン、4級オニウム塩、金属塩化物、クラウンエーテル錯体等が挙げられる。反応溶媒は使用しても良いし、加熱または撹拌設備が強力で全ての原料を十分に混合できる場合には使用しなくても構わない。反応装置には特に限定はなく、有機合成の分野で一般的に用いられる各種反応槽や混合機、高分子(プラスチック)分野で各原料の配合や混合、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機等が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に50〜300℃、1分〜24時間の範囲で処理される。
また、反応工程では原料の加水分解を防止、抑制する目的で不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。不活性ガスとしては窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。その後、反応混合物を貧溶媒に投入したり冷却した後、洗浄や乾燥操作を行って目的物が得られる。
製造法例4
不飽和結合基を有するオキシラン化合物、ポリエステル、触媒を反応装置に仕込み、前述した製造法例3と同様の処理を施すことにより、主鎖に不飽和結合基がグラフトしたポリエステルが得られる。次にこのポリエステル、Si−H結合を有するシランカップリング剤、触媒を反応装置に仕込み、加熱撹拌する。触媒としては金属塩、金属酸化物、金属錯体等が挙げられる。反応溶媒は使用しても良いし、加熱または撹拌設備が強力で全ての原料を十分に混合できる場合には使用しなくても構わない。反応装置には特に限定はなく、有機合成の分野で一般的に用いられる各種反応槽や混合機、高分子(プラスチック)分野で各原料の配合や混合、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機等が使用可能である。反応温度と時間は原料の種類や仕込み比、反応装置の種類や能力等に左右されるが、一般に室温〜300℃、1分〜24時間の範囲で処理される。また、この反応工程でも原料の加水分解を防止、抑制する目的で不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。その後、反応混合物を貧溶媒に投入したり冷却した後、洗浄や乾燥操作を行うことにより目的物が得られる。
上記製造法例3および4の方法において、さらに具体的な製造方法として、製造法例1および2で記載した、溶液系での反応による製造方法、固相状態での反応による製造方法、および溶融状態での反応による製造方法、が挙げられる。これらの製造方法は、製造法例3の、反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物、ポリエステルおよび触媒を用いて製造する方法、そして製造法例4の不飽和基を有するオキシラン化合物、ポリエステルおよび触媒をまず撹拌して、主鎖に不飽和基がグラフトしたポリエステルを調製し、次いでシランカップリング剤を加える方法、の何れにも使用することができる。
本発明で、ポリエステル1分子に導入できる反応性ケイ素含有基の数は、各原料や触媒の仕込み量、反応条件によりコントロールできる。例えば、式

で示される全芳香族ポリエステル(ポリアリレート)の場合、平均分子量を30,000と仮定すると繰返し単位数nは約84となる。1分子中のエステル基の数はこの2倍となることから、本発明で導入できる反応性ケイ素含有基の数は、この場合1〜168個となる。
また、式

で示される半芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)の場合、平均分子量を30,000と仮定すると繰返し単位数nは約156となる。1分子中のエステル基の数はこの2倍となることから、本発明で導入できる反応性ケイ素含有基の数は、この場合1〜312個となる。
(2−2)主鎖に炭素間不飽和記含有基がグラフトしたポリエステル
上記の製造法例4のように、不飽和基を有するオキシラン化合物を、ポリエステルに反応させることによって、主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルが得られる。この、主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルは、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステルを製造する工程における中間体ということができる。主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルに、シランカップリング剤を付加反応させることによって、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエステルが得られる。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルは、一般に、式

[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Yは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示す部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリエステル、と表現することができる。
式(7)中のR及びRの具体例等は、上記式(4)におけるR及びRと同様である。また、炭素間不飽和結合含有基、Q及びQの具体例等は、上記と同様である。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルが有する炭素間不飽和結合含有基は、反応性基である。この炭素間不飽和結合含有基は、付加反応または重合反応することができる。このような主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルは、ポリエステルの機能化や高性能化を提供することができる。
主鎖に炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルは、上記の通り、不飽和基を有するオキシラン化合物を、ポリエステルに反応させることによって得ることができる。この反応によって、ポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、不飽和基を有するオキシラン化合物が挿入される。ポリエステルおよび不飽和基を有するオキシラン化合物として、上記したものを用いることができる。具体的な製造方法として、上記した、溶液系での反応による製造方法、固相状態での反応による製造方法、および溶融状態での反応による製造方法、が挙げられる。この中で、溶融状態での反応による製造方法を用いて、炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリエステルを調製するのが好ましい。この方法は、溶液系での反応による製造方法および固相状態での反応による製造方法と比較して、反応前後における有機溶媒からの分離等の煩雑な操作が必要とされないという利点がある。さらには反応時間もより短く効率的である。この、溶融状態での反応による製造には、リアクティブプロセッシングに用いられる混練機や分散機が使用される。好ましい反応装置としては2軸押出機などが挙げられる。
(3)有機・無機ハイブリッド高分子材料
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルを加水分解・重縮合させることにより、有機・無機ハイブリッド高分子材料を製造することができる。この工程は主にゾル−ゲル反応が利用される。
ゾル−ゲル法による加水分解・重縮合とは、溶液中において溶質が有する金属アルコキシ基と水を反応させることでアルコキシ基を水酸基に変換し、次いでこの水酸基を同時進行的に重縮合させることにより、ヒドロキシ金属基(例えば−Si−OH)を有する化合物が隣接した分子または官能基と脱水あるいは脱アルコール反応を生じ、無機的な共有結合を介して三次元に架橋する反応を言う。
用いられる溶媒は、溶質となる化合物を良好に溶解できるものであれば構わないが、加水分解ということを考慮すれば、水を溶解する極性溶媒が好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル(セロソルブ)類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジエーテル(グライム)類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類、蟻酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトニトリル、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。また、これらの混合溶媒でも構わない。
加水分解に用いられる水は、全てのアルコキシ基を水酸基に変換するのに必要な量を添加しても良いし、反応系あるいは大気中の水分を利用しても良い。反応条件としては、室温〜100℃で0.5〜24時間程度が望ましい。またその際、塩酸、酢酸、硫酸、硝酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の酸性触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、DBU等の塩基性触媒を用いても良い。この際、条件によっては加水分解だけでなく、縮合反応も同時に進行する。その後、ゲル化、溶媒の蒸発、試料の乾燥に伴って縮合反応は進行するが、更に縮合反応を進めて架橋をより強固なものとしたい場合は、適当な条件で熱処理を行う。また、ゲル化、乾燥、熱処理の際に生じる可能性があるクラックを抑制するためにホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、しゅう酸、ジオキサン等を加えても良いし、添加物としてアセチルアセトン等を加えても良い。
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルを加水分解・重縮合させた場合には、ポリマー内部の反応性ケイ素含有基が加水分解してシラノール基(−Si−OH)となった後に、隣接する他のシラノール基又は反応性ケイ素含有基と縮合してシロキシ鎖(−Si−O−Si−)を形成し、三次元に架橋した有機・無機ハイブリッド高分子材料となる。この際、ポリマー中の反応性ケイ素含有基の数が多いほど架橋密度は高くなる。架橋密度は有機・無機ハイブリッド高分子材料の物性に影響を及ぼし、架橋密度が高くなるほど一般に柔軟性は低下するが逆に硬度や弾性率は向上するため、目的の物性に合わせてポリマーへの反応性ケイ素含有基の導入度をコントロールすれば良い。
また、本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルをSi、Ti、Zr、Al、Fe、Cu、Sn、B、Ge、Ce、TaまたはW等の金属元素を有する金属、金属アルコキシド化合物、金属酸化物、金属錯体、無機塩等と共に加水分解・重縮合させても良い。そうすることによって、ポリマー内部の反応性ケイ素含有基と金属アルコキシド化合物等が共に加水分解して縮合し、ポリマーと微小な金属酸化物が共有結合し、相互に微分散した有機・無機ハイブリッド高分子材料となる。その結果、無機物含有量やポリマー間の架橋密度等を調整することができ、有機・無機ハイブリッド高分子材料の特性や機能を向上させることができる。
かかる用途に好適な金属アルコキシド化合物の例を以下の式に示す。

式中、Rは水素、ハロゲンまたは炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、アラルキル基を示す。Aは炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。MはSi、Ti、Zr、Al、Fe、Cu、Sn、B、Ge、Ce、Ta、W等からなる群、好ましくはSi、Ti、Zr、Alからなる群から選択される金属元素を示す。Rは炭素数1〜4、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルキリデン基を示す。Xはイソシアナト基、エポキシ基、カルボキシル基、酸ハロゲン化物基、酸無水物基、アミノ基、チオール基、ビニル基、メタクリル基、ハロゲン基等の一般的な官能基を示す。kは0〜5、lは1〜6、mは0または1、nは0〜5の整数を示す。
MがSiである場合の金属アルコキシド化合物を例示するとテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;
トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリn−プロポキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジイソプロポキシシラン、モノメトキシシラン、モノエトキシシラン、モノブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジイソプロピルイソプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリn−プロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジブチルジブトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシラン、トリn−プロピルn−プロポキシシラン、トリブチルブトキシシラン、フェニルトリメトキシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン類;
3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、2−イソシアナトエチルトリn−プロポキシシラン、3−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、2−イソシアナトエチルエチルジブトキシシラン、3−イソシアナトプロピルジメチルイソプロポキシシラン、2−イソシアナトエチルジエチルブトキシシラン、ジ(3−イソシアナトプロピル)ジエトキシシラン、ジ(3−イソシアナトプロピル)メチルエトキシシラン、エトキシトリイソシアナトシラン等のイソシアナト基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシブチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
カルボキシメチルトリエトキシシラン、カルボキシメチルエチルジエトキシシラン、カルボキシエチルジメチルメトキシシラン等のカルボキシル基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
3−(トリエトキシシリル)−2−メチルプロピルコハク酸無水物等の酸無水物基を有するアルコキシシラン類;
2−(4−クロロスルフォニルフェニル)エチルトリエトキシシラン等の酸ハロゲン化物基を有するアルコキシシラン類;
3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のチオール基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニル基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシピロピルメチルジメチルシラン等のメタクリル基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;
トリエトキシフルオロシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルメチルジメトキシシラン等のハロゲン基を有する(アルキル)アルコキシシラン類;を挙げることができる。
Siだけではなく、Ti、Zr、Fe、Cu、Sn、B、Al、Ge、Ce、Ta、W等の他の金属においても同様の化合物を例示することができる。
これらの金属アルコキシド化合物は1種類だけでも良く、2種以上を併用しても良い。また、Mg[Al(iso−OC、Ba[Zr(OC、(CO)Zr[Al(OC等の1分子内に2種以上の金属元素が含まれているような金属アルコキシド化合物や、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシランオリゴマー等の1分子内に2個以上の繰り返し単位を有するオリゴマータイプの金属アルコキシド化合物を用いても良い。また、アルコキシ基がアセトキシ基やアセチルアセトキシ基であっても良い。
また、本発明では前述したような無機化合物だけでなく、他のプラスチックや有機化合物を添加しても良い。特に、市販のプラスチックの添加はコスト面で有利となるため望ましいが、本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルと相溶するものでなければならない。このようなプラスチックの例としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリサルホン等が挙げられる。
これらのプラスチックを本発明で併用した場合には、本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルが相溶化剤として働き、通常は非相溶なプラスチックと無機化合物を馴染ませる。
本発明の有機・無機ハイブリッド高分子材料の具体的な製造方法については特に限定はない。また、反応装置にも特に限定はなく、有機合成、無機合成、高分子(プラスチック)の分野で一般的に用いられる各種反応槽、混合機、混練機、分散機、成型機等を適宜使用して製造される。
【発明の効果】
本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルは、分子の内部および末端に複数の反応性ケイ素含有基を有しており、一分子に含まれる反応性ケイ素含有基の数が多い。従って、本発明の主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルを含む組成物を加水分解・重縮合することにより、ポリマーと微小な金属酸化物が共有結合して相互に微分散した架橋密度が高い有機・無機ハイブリッド高分子材料を得ることができる。
その結果、無機材料が有する耐熱性、耐候性、硬度、剛性、耐薬品性、耐汚染性、機械的強度、難燃性等の特性を有機ポリマーに良好に付与することができる。
本発明による有機・無機ハイブリッド高分子材料は、工業用プラスチック材料、特に構造材料、光学材料、プラスチック成形品・フィルム、シーリング材、高分子シランカップリング剤、相溶化剤、表面改質剤、ハードコート剤、樹脂添加物等に用いることができる。
さらに本発明によって、炭素間不飽和結合含有基含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルが提供される。これは、分子の内部および末端に複数の炭素間不飽和結合含有基を有している。この炭素間不飽和結合含有基は、付加反応または重合反応することができる。この炭素間不飽和結合含有基がグラフトしたポリカーボネートまたはポリエステルに、各種の修飾を行うことにより、ポリカーボネートまたはポリエステルの骨格を有する樹脂に対して、高性能化や機能化を行うことができる。
【実施例】
以下に合成例、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。ことわりのない限り各例中の「部」は「重量部」を表し、「%」は「重量%」を表す。
実施例1:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートの合成
実施例1−1:主鎖にアリル基がグラフトしたポリカーボネートの合成
20.0g(0.95mmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH4000)、10.8g(95mmol)のアリルグリシジルエーテル、3.2g(9.5mmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを200mLのアニソールに投入し、窒素雰囲気下、約125℃で5時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物を大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。この回収物を200mLのクロロホルムに溶解し、再度大過剰のメタノールに投入することにより精製し、乾燥後、主鎖にアリル基がグラフトしたポリカーボネートを得た(収量11.5g、収率40.2%)。GPC測定の結果、平均分子量は4800であった。得られたポリカーボネートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR測定(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.2〜6.7(13H,m,Ar−H);
5.9(1H,m,HC=CH−CH−);
5.2(3H,m,=CH−CH−,−CHCH
CH−);
4.2(2H,w,−CH−CH−CH−);
4.0(2H,w,HC=CH−CH−);
3.8(2H,w,−CH−CH−CH−);
1.6(10H,s,−C−CH
FT−IR測定(Neat)

1508(ν,C=C);1232(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:4800(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:73.3;H:6.2
実測値(%) C:72.8;H:6.4
また、原料に使用したポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンH4000)の分析結果を比較用として示す。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.3(4H,d,Ar−H);
7.2(4H,d,Ar−H);
1.7(6H,s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1504(ν,C=C);1230(ν,C−O−C)
元素分析
理論値(%) C:75.6;H:5.6
実測値(%) C:75.2;H:5.5
H−NMR測定により約2個のカーボネート基に対して1個の割合でアリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたアリル基は約8個であった。
実施例1−2:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートの合成
実施例1−1により得られた、アリル基がグラフトしたポリカーボネート8.0g(1.7mmol)、触媒量の塩化白金酸を150mLのクロロホルムに投入した後、5.9g(36mmol)のトリエトキシシランを注加して窒素雰囲気下、約61℃で5時間加熱撹拌した。放冷後、固形物をろ別した反応混合物から溶媒と揮発分を留去、乾燥し、主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリカーボネートを得た(収量8.9g、収率89.0%)。GPC測定の結果、平均分子量は5200であった。また、H−NMR測定により、ポリカーボネート1分子に平均7個のトリエトキシシリル基がグラフトしていることが確認された。また、このトリエトキシシリル基の一部には、過剰なトリエトキシシランが反応していることも判った。Si値を含む元素分析結果とスペクトルデータは次の通りである。また、H−NMRデータとFT−IRデータをそれぞれ図1と6に示す。
元素分析
理論値(%) C:63.0;H:6.9;Si:6.4
実測値(%) C:62.4;H:7.2;Si:5.4
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm):6.7〜7.2(14H,m,Ar−H);3.9(8H,q,SiO−CH);1.6(11H,s,C−CH);1.2(11H,t,SiOCHCH
FT−IR(film)

1230(ν,C−O−C);1103(ν,Si−O−C)
原料に使用したポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH4000)のスペクトルデータは次の通りである。また、H−NMRデータとFT−IRデータをそれぞれ図4と9に示す。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm):7.3(4H,d,Ar−H);7.2(4H,d,Ar−H);1.7(6H,s,C−CH
FT−IR(film)

1230(ν,C−O−C)
これらの分析結果の比較と解析により、実施例1で合成した化合物は、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートであることが特定された。
実施例2:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリアリレートの合成
実施例2−1:主鎖にアリル基がグラフトしたポリアリレートの合成
8.0g(0.13mmol)のポリアリレート(ユニチカ社製ポリアリレートU100)、25.4g(223mmol)のアリルグリシジルエーテル、0.8g(2.23mmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを50mLの三口フラスコに投入し、窒素雰囲気下、約75℃で3時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物を100mLのクロロホルムに溶解した後、溶液を大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。この回収物を50mLのクロロホルムに溶解し、再度大過剰のメタノールに投入することにより精製し、乾燥後、主鎖にアリル基がグラフトしたポリアリレートを得た(収量5.2g、収率57.9%)。GPC測定の結果、平均分子量は6700であった。得られたスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 9.0〜7.6(7H,m,Ar−H);
7.3〜6.7(11H,m,Ar−H);
5.9(1H,b,HC=CH−CH−);
5.6(1H,b,−CHCH−CH−);
4.3(2H,w,−CH−CH−CH−);
4.0(2H,b,HC=CH−CH−);
3.8(2H,b,−CH−CH−CH−);
1.7〜1.6(8H,2s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1203(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:6700(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:74.5;H:5.8
実測値(%) C:74.4;H:5.6
また、原料に使用したポリアリレート(ユニチカ製ポリアリレートU100)の分析結果を比較用として示す。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 9.0〜7.6(8H,m,Ar−H);
7.3(8H,d,Ar−H)
7.2(8H,d,Ar−H);
1.7(12H,s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1203(ν,C−O−C)
元素分析
理論値(%) C:77.1;H:5.1
実測値(%) C:77.0;H:5.2
H−NMR測定により、約3個のエステル基に対して1個の割合でアリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたアリル基は約10個であった。
実施例2−2:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリアリレートの合
製造例2−1により得られた、アリル基がグラフトしたポリアリレート5.0g(0.75mmol)、および触媒量の塩化白金酸を、75mLのクロロホルムに投入した後、1.3g(7.6mmol)のトリエトキシシランを注加して窒素雰囲気下、約62℃で6時間加熱撹拌した。放冷後、固形物をろ別した反応混合物から溶媒と揮発分を留去、乾燥し、主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリアリレートを得た(収量6.1g、収率96.8%)。GPC測定の結果、平均分子量は7800であった。また、H−NMR測定により、ポリアリレート1分子に平均10個のトリエトキシシリル基がグラフトしていることが確認された。Si値を含む元素分析結果とスペクトルデータは次の通りである。また、H−NMRデータとFT−IRデータをそれぞれ図2と7に示す。
元素分析
理論値(%) C:68.5;H:6.6;Si:3.4
実測値(%) C:67.9;H:6.4;Si:3.3
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm)=7.6〜9.0(8H,m,Ar−H);6.8〜7.3(14H,m,Ar−H);3.9(8H,q,SiO−CH);1.7(12H,w,C−CH);1.3(10H,t,SiOCHCH
FT−IR(film)

1203(ν,C−O−C);1103(ν,Si−O−C)
原料に使用したポリアリレート(ユニチカ社製ポリアリレートU100)のスペクトルデータは次の通りである。また、H−NMRデータとFT−IRデータをそれぞれ図5と10に示す。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm):7.6〜9.0(8H,m,Ar−H);7.3(8H,d,Ar−H);7.2(8H,d,Ar−H);1.7(12H,s,C−CH
FT−IR(film)

1203(ν、C−O−C)
これらの分析結果の比較と解析により、実施例2で合成した化合物は、主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリアリレートであることが特定された。
実施例3:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートの合成
実施例3−1:主鎖にアリル基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートの合成
60.0g(3.3mmol)のポリエチレンテレフタレート(アルドリッチ社製)、350g(3.1mol)のアリルグリシジルエーテル、64.5g(154mmol)のテトラフェニルホスホニウムブロマイドを1Lの三口フラスコに投入し、窒素雰囲気下、約153℃で6時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物を大過剰のメタノールに投入して固形物を回収した。この回収物を200mLのクロロホルムに投入して、約56℃で6時間加熱撹拌することによりクロロホルム溶解物を抽出した。この溶液を約10倍に濃縮した後、大過剰のメタノールに再度投入することにより精製し、乾燥後、主鎖にアリル基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートを得た(収量3.0g、収率2.3%)。
GPC測定の結果、平均分子量は2000であった。得られたポリエチレンテレフタレートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 8.1(11H,w,Ar−H);
5.9(1H,b,HC=CH−CH−);
5.3〜5.1(2H,b,=CH−CH−);
4.7,4.5(11H,b,−CHCH−);
4.0(3H,m−b,HC=CH−CH−,−CH
CH−CH−);
3.8〜3.5(4H,m−b,−CH−CH−CH
−);
FT−IR(Neat)

GPC測定
重量平均分子量:2000(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:62.6;H:4.9
実測値(%) C:61.3;H:4.9
原料に使用したポリエチレンテレフタレート(アルドリッチ製)のスペクトルデータを比較用として示す。
FT−IR(ATR)

H−NMR測定により、約6個のエステル基に対して1個の割合でアリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたアリル基は約3個であった。
実施例3−2:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートの合成
実施例3−1により得られた、アリル基がグラフトしたポリエチレンテレフタレート2.0g(1.0mmol)、および触媒量の塩化白金酸を、40mLのクロロホルムに投入した後、1.3g(7.9mmol)のトリエトキシシランを注加して窒素雰囲気下、約62℃で22時間加熱撹拌した。放冷後、固形物をろ別した反応混合物から溶媒と揮発分を留去、乾燥し、主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートを得た(収量2.3g、収率95.1%)。GPC測定の結果、平均分子量は2200であった。また、H−NMR測定により、ポリエチレンテレフタレート1分子に平均3個のトリエトキシシリル基がグラフトしていることが確認された。またこのトリエトキシシリル基の一部には、過剰なトリエトキシシランが反応していることも判った。Si値を含む元素分析結果とスペクトルデータは次の通りである。また、H−NMRデータとFT−IRデータをそれぞれ図3と8に示す。
元素分析
理論値(%) C:55.9;H:6.0;Si:5.9
実測値(%) C:53.6;H:5.2;Si:5.4
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm):8.1(16H,s,Ar−H);4.4〜4.7(14H,w,O−CHCH−O);3.8(9H,q,SiO−CH);1.2(12H,t,SiOCHCH
FT−IR(film)

1099(ν,Si−O−C)
原料に使用したポリエチレンテレフタレート(アルドリッチ社製)のスペクトルデータは次の通りである。また、FT−IRデータを図11に示す。
FT−IR(film)

これらの分析結果の比較と解析により、実施例3で合成した化合物は、主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリエチレンテレフタレートであることが特定された。
実施例4:ゾル−ゲル反応による有機・無機ハイブリッド高分子材料の作製
実施例1で合成した主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリカーボネート1.0gを10mLのテトラヒドロフランに溶解後、0.22gの1mol/L塩酸水を添加し、室温下で10分間攪拌した。この溶液を二つに分け、一方はガラス基板へのスピンコートに使用した。また、もう一方はポリエチレン製シャーレ上にキャストして溶媒を蒸発させ、約50μmのフィルム厚を有する透明で良好なフィルムを得た。
実施例5:ゾル−ゲル反応による有機・無機ハイブリッド高分子材料の作製
実施例2で合成した主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリアリレート1.0gを10mLのテトラヒドロフランに溶解後、0.21gの1mol/L塩酸水を添加し、室温下で10分間攪拌した。この溶液を二つに分け、一方はガラス基板へのスピンコートに使用した。また、もう一方はポリエチレン製シャーレ上にキャストして溶媒を蒸発させ、約50μmのフィルム厚を有する透明で良好なフィルムを得た。
実施例6:ゾル−ゲル反応による有機・無機ハイブリッド高分子材料の作製
実施例3で合成した主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリエチレンテレフタレート1.0gを10mLのテトラヒドロフランに溶解後、0.18gの1mol/L塩酸水を添加し、室温下で10分間攪拌した。この溶液を二つに分け、一方はガラス基板へのスピンコートに使用した。また、もう一方はポリエチレン製シャーレ上にキャストして溶媒を蒸発させ、約50μmのフィルム厚を有する透明で良好なフィルムを得た。
実施例7:主鎖に反応性ケイ素含有基がグラフトしたポリカーボネートの合成、およびゾル−ゲル反応による有機・無機ハイブリッド高分子材料の作製
5.0g(0.24mmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH4000)、6.6g(24mmol)の3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、0.08g(0.24mmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを50mLの三口フラスコに投入し、約200℃で30分間加熱混合した。放冷した反応混合物をクロロホルムに溶解後、大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。その後、回収物を再度クロロホルム/メタノール系で再沈殿することにより精製した(収量5.3g、収率51.0%)。GPC測定の結果、回収物の平均分子量は4000であった。また、H−NMR測定によりδ:5.2ppmと4.1ppmに、エステル交換反応に伴うオキシランの開環により出現するメチン基とメチレン基の特徴的なピークが見られ、ポリカーボネートの主鎖にトリエトキシシリル基が導入されたことを確認した。
この主鎖にトリエトキシシリル基がグラフトしたポリカーポネートをテトラヒドロフランに溶解後、1mol/L塩酸水を添加して調製したゾル液をガラス基板へスピンコート、またはポリエチレン製シャーレにキャストすることにより透明で良好なフィルムを得た。
実施例8:主鎖にメタクリル基がグラフトしたポリカーボネートの合成
3.0g(83μmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンE2000)、8.3g(59mmol)のグリシジルメタクリレート、0.04g(117μmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを25mLの三口フラスコに投入して、約100℃で1時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物をクロロホルムで希釈した後に大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。この回収物をクロロホルムに溶解し、再度大過剰のメタノールに投入することにより精製した。乾燥後の収量は4.1g(収率87%)であった。得られたポリカーボネートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.2〜6.8(8H,m,Ar−H);
6.1,5.6(2H,2S,HC=C−);
5.5〜5.3(1H,m,−CHCH−CH−);
4.6〜4.3(2H,m,−CH−CH−CH−);
4.2〜4.1(2H,w,−CH−CH−CH−);
1.9(3H,s,HC=C−CH);
1.6(6H,s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1508(ν,C=C);1236(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:11500(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:69.7;H:6.1
実測値(%) C:69.0;H:6.1
これらの分析結果の解析により、実施例8で合成した化合物は1個のカーボネート基に対して1個の割合でメタクリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたメタクリル基は約29個であった。
実施例9:主鎖にビニル基がグラフトしたポリカーボネートの合成
1.0g(28μmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンE2000)、5.7g(59mmol)の1,2−エポキシ−5−ヘキセン、0.2g(390μmol)のテトラフェニルホスホニウムブロマイドを25mLの三口フラスコに投入して窒素雰囲気下、約122℃で15時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物を大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。この回収物をクロロホルムに溶解し、再度大過剰のメタノールに投入することにより精製した。乾燥後の収量は0.3g(収率24%)であった。得られたポリカーボネートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.2〜6.8(6H,m,Ar−H);
5.8(1H,m,HC=CH−CH−);
5.0(1H,m,=CH−CH−CHCH−C
−);
4.1〜3.8(2H,m,−CH−CH−CH−);
2.2(2H,m,HC=CH−CH−);
1.9(2H,m,−CH−CH−CH−);
1.6(5H,s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1508(ν,C=C);1255(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:4800(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:74.9;H:7.1
実測値(%) C:73.8;H:7.1
これらの分析結果の解析により、実施例9で合成した化合物は1個のカーボネート基に対して1個の割合でビニル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたビニル基は約16個であった。
実施例10:主鎖にメタクリル基がグラフトしたポリアリレートの合成
2.0g(32μmol)のポリアリレート(ユニチカ製ポリアリレートU100)、7.9g(56mmol)のグリシジルメタクリレート、0.04g(111μmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを25mLの三口フラスコに投入して、約97℃で1時間加熱撹拌した。放冷後、反応混合物をクロロホルムで希釈した後に大過剰のメタノールに投入して析出物を回収した。この回収物をクロロホルムに溶解し、再度大過剰のメタノールに投入することにより精製した。乾燥後の収量は2.5g(収率69%)であった。得られたポリアリレートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR(300MHz,CDCl
δ(ppm): 9.0〜7.5(3H,m,Ar−H);
7.3〜6.7(6H,m,Ar−H);
6.1〜5.5(3H,m,=C−,−CHCH
−CH−);
4.7〜4.1(4H,m,−CH−CH−CH−);
1.9(3H,s,HC=C−CH);
1.7〜1.5(5H,3s,−C−CH
FT−IR(Neat)

1238(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:10100(標準ポリスチレン換算)
元素分析
理論値(%) C:71.0;H:5.8
実測値(%) C:70.2;H:5.7
これらの分析結果の解析により、実施例10で合成した化合物は2個のエステル基に対して1個の割合でメタクリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたメタクリル基は約24個であった。
実施例11:主鎖にアリル基がグラフトしたポリカーボネートの合成(固相反応:MC6−1)
10.0g(0.2mmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンS2000)、4.5g(39mmol)のアリルグリシジルエーテル、0.07g(0.2mmol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを200mLのクロロホルムに溶解した後、ガラスシャーレにキャストしてクロロホルムを揮発させ、固形の原料混合物を得た。この原料混合物を熱風乾燥器に入れ、約70℃で9時間処理した後に放冷し、再度クロロホルムに溶解した後に大過剰のメタノールに投入して反応物を析出させた。ろ別、乾燥後の収量は9.2g(収率64%)であった。得られたポリカーボネートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR測定(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.2〜6.7(176H,m,Ar−H);
5.9(1H,m,HC=CH−CH−);
5.2(3H,m,=CH−CH−,−CHCH
−CH−);
4.2(2H,w,−CH−CH−CH−);
4.0(2H,w,HC=CH−CH−);
3.8(2H,w,−CH−CH−CH−);
1.6(132H,s,−C−CH
FT−IR測定(Neat)

1508(ν,C=C);1232(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:18400(標準ポリスチレン換算)
これらの分析結果の解析により、実施例11で合成した化合物は22個のカーボネート基に対して1個の割合でアリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたアリル基は約3個であった。
実施例12:主鎖にアリル基がグラフトしたポリカーボネートの合成(溶融反応:MC4−1)
1500g(40mmol)のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス製ユーピロンH4000)、134g(1.2mol)のアリルグリシジルエーテル、36g(0.1mol)のテトラブチルホスホニウムブロマイドを三井三池加工機製ヘンシェルミキサーFM10B型を用いて均一に混合した。この混合物をテクノベル製小型高速2軸押出機KZW15−45MG型に投入し、フィーダー回転数50rpm、スクリュー回転数200rpm、温度280℃で溶融混練した。排出されたストランドは冷却し、ペレタイザーを用いてペレット化した。このペレットの一部をクロロホルムに溶解した後に、大過剰のメタノールに投入して精製し、分析した。得られたポリカーボネートのスペクトルデータは次の通りである。
H−NMR測定(300MHz,CDCl
δ(ppm): 7.2〜6.7(92H,m,Ar−H);
5.9(1H,m,HC=CH−CH−);
5.2(3H,m,=CH−CH−,−CHCH
−CH−);
4.2(2H,w,−CH−CH−CH−);
4.0(2H,w,HC=CH−CH−);
3.8(2H,w,−CH−CH−CH−);
1.6(69H,s,−C−CH
FT−IR測定(Neat)

1508(ν,C=C);1232(ν,C−O−C)
GPC測定
重量平均分子量:8400(標準ポリスチレン換算)
これらの分析結果の解析により、実施例12で合成した化合物は12個のカーボネート基に対して1個の割合でアリル基がグラフトしていることが確認された。また、1分子中に導入されたアリル基は約3個であった。
比較例1
0.2gのポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ユーピロンH4000)を5mLのクロロホルムに溶解した後、ガラス基板へスピンコートした。
比較例2
0.2gのポリアリレート(ユニチカ社製ポリアリレートU100)を5mLのクロロホルムに溶解した後、ガラス基板へスピンコートした。
比較例3
0.2gのポリエチレンテレフタレート(アルドリッチ社製)を5mLのm−クレゾールに溶解した後、ガラス基板へスピンコートした。
実施例4〜7、および比較例1〜3で作製したガラス基板へのコーティングフィルムを用いて、鉛筆硬度による表面硬度測定を行った。その結果、本発明のアルコキシシリル基を有するポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレートから作製した有機・無機ハイブリッド高分子材料は、良好な表面硬度を有することが確認された。この結果をキャストフィルム外観の評価結果と併せて、下表に示す。
高分子材料の外観と表面硬度

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖中に、式

[式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよく、Rはアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基である。]
で示される部分を有するポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項2】


[式中、Rはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Xは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示される部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリカーボネート。
【請求項3】
前記Rは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基を示し、および
前記Q及びQのうち反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアロイル基又は炭素数6〜20のアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい、
請求項2記載のポリカーボネート。
【請求項4】


[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Xは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は反応性ケイ素含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示す部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリエステル。
【請求項5】
前記R及びRは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基を示し、および
前記Q及びQのうち反応性ケイ素含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアロイル基又は炭素数6〜20のアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい、
請求項4記載のポリエステル。
【請求項6】
前記反応性ケイ素含有基がアルコキシシリル基である請求項1〜5のいずれか記載のポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項7】
前記反応性ケイ素含有基を有する側基が、式

[式中、Lは接続基であり、Rは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基、アセチル基又はアセトアセチル基であり、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアラルキル基であり、pは1〜3の整数である。]
で示す構造を有する請求項1〜5のいずれか記載のポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項8】
ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、反応性ケイ素含有基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程を包含する、反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルの製造方法。
【請求項9】
ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、不飽和基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程;及び
生成したポリカーボネート又はポリエステルに含まれる不飽和基に反応性ケイ素含有基を有するケイ素化合物をヒドロシリル化反応させる工程;
を包含する、反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルの製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載の方法によって得られる、反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか又は請求項10記載の反応性ケイ素含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルを加水分解・重縮合させる工程を包含する有機・無機ハイブリッド高分子材料の製造方法。
【請求項12】
Si、Ti、Zr、Al、Fe、Cu、Sn、B、Ge、Ce、Ta、Wからなる群から選択される金属、金属アルコキシド化合物、金属酸化物、金属錯体または無機塩の存在下で、請求項1〜7のいずれか又は請求項10記載のポリカーボネートを加水分解・重縮合させる工程を包含する有機・無機ハイブリッド高分子材料の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載の方法によって得られる、有機・無機ハイブリッド高分子材料。
【請求項14】
主鎖中に、式

[式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよく、Rはアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基である。]
で示される部分を有するポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項15】


[式中、Rはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Yは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示される部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリカーボネート。
【請求項16】
前記Rは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基を示し、および
前記Q及びQのうち炭素間不飽和結合含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアロイル基又は炭素数6〜20のアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい、
請求項15記載のポリカーボネート。
【請求項17】


[式中、R及びRはそれぞれ独立してアルキレン基、アリーレン基又はそれらを組み合わせた2価の基であり、Yは式

{式中、Q及びQのいずれか一方は炭素間不飽和結合含有基を有する側基であり、それらの他方及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよいアルキル基、アリール基、アロイル基又はアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい。}
で示す部分であり、h及びiは、共に0でないという条件で0又は1であり、mは0以上の整数であり、nは1以上の整数である。]
で示される繰返し単位を有するポリエステル。
【請求項18】
前記R及びRは、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数3〜20のアリーレン基、又はそれらを組み合わせた2価の基を示し、および
前記Q及びQのうち炭素間不飽和結合含有基を有する側基ではない他方、及びR、Rは、それぞれ独立して、水素原子、あるいは置換基及び/又は置換原子を有してもよい、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアロイル基又は炭素数6〜20のアラルキル基であり、Q及びQは互いに連結して環構造を成していてもよく、R及びRは互いに連結して環構造を成していてもよい、
請求項17記載のポリエステル。
【請求項19】
前記炭素間不飽和結合含有基が、ビニル基、メタクリル基、アリル基、アクリル基およびエチニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上の基である、請求項14〜18のいずれか記載のポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項20】
前記炭素間不飽和結合含有基が、ビニル基、メタクリル基、アリル基またはエチニル基である、請求項14〜18のいずれか記載のポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項21】
ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、不飽和基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程を包含する、炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルの製造方法。
【請求項22】
前記挿入反応させる工程が、混練機内で原料を加熱して溶融させることによって行われる、請求項21記載の炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルの製造方法。
【請求項23】
前記混練機が二軸押出機である、請求項22記載の炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステルの製造方法。
【請求項24】
請求項21〜23のいずれか記載の方法によって得られる、炭素間不飽和結合含有基を有するポリカーボネート又はポリエステル。
【請求項25】
ポリカーボネート又はポリエステルの主鎖に含まれるエステル結合に、炭素同士の不飽和基を有するオキシラン化合物を挿入反応させる工程により得られる、ビニル基、メタクリル基、アリル基またはエチニル基がグラフトしたポリカーボネート又はポリエステル。

【国際公開番号】WO2004/113416
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507290(P2005−507290)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008925
【国際出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月26日社団法人高分子学会主催の「第53回高分子学会年次大会」において文書をもって発表
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】