説明

反応性有機−無機ハイブリット成分含有の重合性有機モノマー液状組成物、その製造方法及びその用途

【課題】疎水性の重合性モノマー液状媒体中に、金属系無機元素が、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している疎水性の重合性有機モノマー組成物及び工業的に低廉でシンプルなプロセスで、しかも、著しく簡便に調製できる疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法及びそのモノマー組成物を用いてなる光学的、電気的及び機械的特性等のポリマー特性が改質され、各種の産業分野に有用な変性有機ポリマー材を提供させることである。
【解決手段】疎水性の重合性モノマー液状媒体中に、重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドと間で、化学量論的反応比で表して[重合性シランカップリング剤]:[金属系無機元素アルコキシド]=1:1.2〜1.7の範囲で形成され透明ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として、高濃度で高均質に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分を溶解する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物に関し、より詳細には、疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、金属系無機元素が、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として、高濃度に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物であって、さらに詳細には、その重合化有機ポリマーには、金属系無機元素がポリマー骨格成分としてハイブリットされて、例えば、
(1)光学屈折率、光透過性及び光吸収性等の光学特性、
(2)絶縁性、誘電性及び導電性等の電気特性、
(3)柔軟性、引張り強さ及び耐擦傷性等の機械特性、
(4)耐溶剤性、難燃性及び耐候性等の化学特性、
等のポリマー特性を著しく改質させる貯蔵安定性、取り扱いハンドリング性等に優れる反応性有機−無機ハイブリット骨格成分を高濃度で溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、金属系無機元素アルコキシドのゾル−ゲル化反応を制御させながら、この金属系無機元素を、工業的に低廉でシンプルなプロセスで、ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の簡便な製造方法に関する。
【0003】
更に、本発明は、このように調製される疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の重合化有機ポリマーには、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来する金属系無機元素が、ポリマー骨格成分として高密に均質にハイブリットされて、例えば、光学特性や、電気特性や、機械特性又は化学特性等のポリマー特性を著しく改質させてなる変性有機ポリマー材を、各種の産業分野に有用なフィルム材、造膜材、コーティング材又は成型体材として提供することにも関する。
【背景技術】
【0004】
従来から、有機ポリマー中に、金属系無機元素を、金属微細薄片(又は金属微細粒)として、又はその金属酸化物微粉体として、又はその金属塩及び複合酸化物塩化合物微粉体として、更にはその金属錯塩化合物として分散させた有機ポリマーが、例えば、導電性、絶縁性、誘電性、耐摩耗性、耐擦傷性、光学屈折性、光吸収性、難燃性、耐候性又は耐溶剤性等のポリマー特性を発揮させる変性有機ポリマー材として各種の産業分野に用いられている。
【0005】
しかしながら、これらのポリマー特性を賦与された何れもの変性有機ポリマー材は、有機ポリマー・マトリックス中に、例えば、上記する金属系無機元素に係わる添加材を、何れも物理的に混合分散又は混練分散させてコンポジットさせたものである。
【0006】
そこで、上記するような添加材を、有機ポリマー中に分散混合させて変性有機ポリマー材に化工させるには、従来から(1)予め添加材を混合分散させた重合性モノマーを重合ポリマー化させる。(2)添加材を前駆体のポリマーコンパンドに機械的に混練分散させてフィルム(又はシート)又は成型体に成形させる等の対処法が挙げられる。
【0007】
従って、このように「有機ポリマー・マトリックス」−「無機添加材」の互に非相容性の異質分散系にあって、物理的に均質に混合分散又は混練分散させるには、従来から、これらの添加材種に、予めカップリング剤や、金属セッケンや、界面活性剤等で表面処理を施して分散性、相容性等を向上させるのが一般的である。また、有機ポリマー・マトリックス中に、このように表面処理済みの添加材種を、機械的に混合又は混練させて高度に分散させるには、それだけ時間的にもコスト的にも、その処理化工には著しく高負荷を余儀なくされるのが一般的であった。
【0008】
そこで、近年、このような有機−無機の異質分散系の均質化を達成させるに、従来の如く、物理的に混合分散又は混練分散させるのではなく、有機ポリマー・マトリックス中に、金属系無機元素を化学的に取り組ませる対処法が種々提案されている。
【0009】
例えば、[特許文献1]には、脱アルコール型の反応性ラジカルを有するチタン又はジルコンの金属シラン縮合体に、重合性アクリル系モノマーを含有させた水性分散体を乳化重合させて金属元素成分を内包する有機ポリマー球状粒子の調製法が提案されている。すなわち、チタン又はジルコン等の金属元素オキシ化合物とシランカップリング剤とで形成させた金属シラン縮合体に、これらシラン化合物から導入される反応性有機ラジカルを介して、金属元素を内包させて高光学屈折率のアクリル系ポリマー球状微細粒子とするものである。
【0010】
また、[特許文献2]には、アクリル系ハイブリッドポリマーの製造方法として、予めアクリル系モノマーと、アルコキシシリル基を有するアクリル系モノマー(例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)とを共重合させて、前駆体としてのアルコキシシリル基を有するアクリル系ポリマーを調製し、この前駆体に酸性水溶液の存在下に、シリコンアルコキシドと間でのゾル−ゲル化反応で縮合重合させて、前駆体のシロキサン基を介してポリシロキサン骨格としてシリコン無機元素をハイブリットさせたアクリル系ハイブリットポリマー及びその製造方法が提案されている。
【0011】
また、[特許文献2]には、実質的には全く開示されてはいないが、このシリコンアルコキシドに換えて金属アルコキシド(アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド)と間で、同様にして金属元素をハイブリットさせたアクリル系ハイブリットポリマーが得られると記載されている(なお、[特許文献2]には、シリコンアルコキシドを、金属アルコキシドと記載されているが、シリコンは典型的な非金属元素である)。
【0012】
また、[特許文献3]には、アミド基、イミド基、ウレタン及び尿素結合成分等を有するラジカル又はカチオン重合性の有機モノマーの存在下に、金属アルコキサイド(なお、[特許文献3]には、Si、Ti、Zr、Al及びGeを含めて金属アルコキサイドと記載されているが、正しくは、Siは典型的な非金属元素である。)を酸で加水分解させて、脱水縮合のゾル−ゲル化で得られる金属酸化物[正確には、これら金属元素の水酸化物(又はこれら金属元素のポリオキシサン)のゲル状物と思われる。]と有機モノマーの混合物のアルコール溶液が得られ、これを重合させてなる無機微粒子をポリマー中に分散する有機−無機複合ポリマーが提案されている。
【0013】
また、 [特許文献4]には、光学透明プラスチック・レンズに対する被覆組成物であって、その硬化膜の屈折率が1.60以上であって、有機ケイ素化合物と、ルチル型酸化チタン、酸化スズ及び酸化ジルコニウム等の平均粒子径1〜300nmのゾル状の複合酸化物微粒子を主成分に、EDTA系金属キレート化合物等を含有するコーティング用組成物が提案されている。すなわち、塗膜の屈折率がレンズ屈折率より低いことによる塗膜に干渉縞を生じさせることを防止させる高屈折性を賦与させ、しかも、高屈折率プラスチック・レンズ面に耐擦傷性、耐摩耗性且つ透明性の高屈折率硬化膜を形成させるコーティング組成物である。
【0014】
また、[特許文献5]には、バインダー樹脂中に、磁性粉等の粒子の表面に化学的に結合するアルキル基及びアルコキシ基を有するシラン化合物を存在させた電子写真用トナーが記載され、その製造法として、水不溶性のモノマー中に磁性粉を分散するモノマー分散体に、反応性ラジカルのアルキル基及びアルコキシ基を有するシラン化合物を添加したモノマー分散体を調製し、水性媒体中に、このモノマー分散体液を懸濁重合させて、磁性粉を内包するスチレン−アクリル系樹脂トナーを調製させる。
【0015】
【特許文献1】特開2003−192791
【特許文献2】特開2004−277512
【特許文献3】特許第3419570号
【特許文献4】特開2002−129102
【特許文献5】特開平8−211649
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のような状況下にあって、上述する[特許文献1〜3]に種々提案されているように、シリコン、アルミニュウム、チタン、ジルコン等の無機元素のアルコキシドを用いて、そのゾル−ゲル化による脱水縮合反応を、重合性有機モノマーの存在下に又は前駆体として予め調製したアルコキシシリル基を有するアクリル系ポリマーの存在下に実施させて、これらの無機元素をポリマー中に化学的に分散又はハイブリットさせる提案である。
【0017】
しかしながら、提案されている有機−無機ハイブリット化ポリマーにおいても、従来からの技術的課題であって、このような脱水縮合反応下には、これらの無機元素アルコキシドのゲル化を十分に制御させ難い傾向にある。その結果、これら金属系無機元素は、水酸化物(又金属元素のポリオキシサン)としてゲル化生成する。従って、上記に提案する[特許文献1〜3]においても、有機ポリマー・マトリックス中に、これらの無機元素を化学的に(又はポリマーの骨格成分として)均質にハイブリットさせるには、未だ十分満足させるに至っていないのが実状である。
【0018】
そこで、本発明の目的は、有機ポリマー・マットリックス中の繰り返し単位構造の主鎖及びその近傍部位に、金属系無機元素を高密に化学的に取り込ませるために、そのポリマーの前駆体である疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、金属系無機元素が、ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として、高濃度に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を提供することである。
【0019】
また、本発明の他の目的は、疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、金属系無機元素アルコキシドのゾル−ゲル化反応を制御させながら、この金属系無機元素を、ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解させる工業的に低廉でシンプルなプロセスで、しかも、著しく簡便に調製できる疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法を提供することである。
【0020】
更に、本発明の他の目的は、このように調製される疎水性の重合性有機モノマー液状組成物をポリマー化させることで、金属系無機元素が化学的に(又はポリマー骨格成分として)高密にハイブリットされ、その結果、例えば、光学特性や、電気特性や、機械特性又は化学特性等のポリマー特性が著しく改質され、各種の産業分野にフィルム材、造膜材、コーティング材又は成型体材として有用な変性有機ポリマー材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで、本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドとを用いて、ポリマーの前駆体である疎水性の液状重合性有機モノマー媒体中で、従来からの技術的課題であった金属系無機元素アルコキシドのゲル化反応を防止させることに着目して脱水縮合させたところ、従来法に相違して、金属系無機元素がシロキサン結合を介して透明ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として、高濃度で重合性有機モノマー媒体に溶解することを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0022】
そこで、本発明によれば、重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドとを特定する配合割合で用いて、疎水性の重合性モノマー媒体中に、金属系無機元素が、透明又は半透明なゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解していることを特徴とする疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を提供する。
【0023】
すなわち、本発明によれば、疎水性の重合性モノマー媒体中において、重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドと間で、化学量論的反応比で表して[重合性シランカップリング剤]:[金属系無機元素アルコキシド]=1:1.2〜1.7の範囲で形成される反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が、透明又は半透明なゾル状であって、しかも、高濃度で高均質に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物である。
【0024】
また、本発明によれば、反応性重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドを用いて、従来法の金属系無機元素のハイブリット化反応とは著しく相違して、疎水性の重合性モノマー液状媒体中において、金属系無機元素アルコキシドのゲル化を完全に防止させながら、シロキサン結合を介して、金属系無機元素を、反応性の有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度で高均質に溶解させる工業的に低廉でシンプルなプロセスで、しかも、著しく簡便に調製できることを特徴とする疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法を提供する。
【0025】
すなわち、本発明によれば、疎水性の重合性モノマー媒体中で、化学量論的反応比で表して[下記重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[下記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量+下記金属系無機元素アルコキシドの(A2)量]=1:1.2〜1.7の範囲を満足する関係下に、重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシド間でのゾル−ゲル化反応を防止させながら以下のように2段処理を行う。
【0026】
その第1段目処理として、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A1)量を含有する所定量の重合性モノマーの疎水性媒体中に、所定量の重合性シランカップリング剤の(B1)量を添加させた後、酸性水溶液の(C1)量を添加させて脱水縮合させる。
次いで、第2段目処理として、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A2)量を含有する所定量の重合性モノマーの疎水性媒体を添加させた後、酸性水溶液の(C2)量を添させて脱水縮合させる。
このように2段処理を行うことで、反応系は、水溶性液相/油溶性液相の2液相分離体として得られる。この2液相分離体から容易に分離回収される油溶性液相は、疎水性の重合性モノマー媒体であって、しかも、金属系無機元素が、シロキサン結合を介して透明又は半透明なゾル状の有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度で高均質に溶解している。
【0027】
また、本発明によれば、このように調製される金属系無機元素が、ゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度で高均質に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を、重合ポリマー化させることで、例えば、下記(A)〜(D)に記載する如く、ハイブリットさせる金属系無機元素種及び/又はそのハイブリット化量に関係して、光学特性や、電気特性や、機械特性又は化学特性等のポリマー特性が著しく改質されて、各種の産業分野に有用なフィルム材、造膜材、コーティング材又は成型体材として用いられることを特徴とする各種の変性有機ポリマー材を提供する。
【0028】
すなわち、本発明によれば、
(A)光学屈折率又は光透過性又は光吸収性等が、変成前のベース樹脂ポリマーに対して著しく改質されている光学特性改質の変性有機ポリマー材を提供することができる。
(B)導電性又は絶縁性又は誘電性等が、ベース樹脂ポリマーに対して著しく改質されている電気特性改質の変性有機ポリマー材を提供することができる。
(C)柔軟性又は引張り強さ又は耐擦傷性等が、ベース樹脂ポリマーに対して著しく改質されている機械特性改質の変性有機ポリマー材を提供することができる。
(D)耐候性、難燃性、耐溶剤性等が、ベース樹脂ポリマーに対して著しく改質されている化学的特性改質の変性有機ポリマー材を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上から、本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の特徴は、ゾル−ゲル化反応で脱水縮合させた金属系無機元素アルコキシドが、透明又は半透明なゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として、重合性有機モノマー媒体に高濃度で均質に溶解している。すなわち、これらゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分は、従来の如く、金属系無機元素アルコキシドの脱水縮合下に生成する金属系無機元素のポリオキシサン・ゲル状物(又は遊離生成している金属水酸化物)でないことが特徴である。
【0030】
より詳細には、既に説明する如く、疎水性の重合性有機モノマー媒体中で、特定する配合割合にある「有機反応性基を有する重合性シランカップリング剤」と「金属系無機元素アルコキシド」を用いて、ゾル−ゲル化反応の制御下に金属系無機元素アルコキシドを脱水縮合させて有機反応性基を有するシロキサン又はオルガノポリシロキサンを継ぎ手に、金属系無機元素のオキシサン又はそのポリオキシサン結合を形成させているゾル状の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分である。
【0031】
従って、本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を重合ポリマー化させることで、得られる有機ポリマー・マトリックスを構成する繰り返し単位構造の主鎖又はその近傍にブランチする例えば、ヒドロキシル基、ヒドロペルオキシ基、エポキシ基、ジオキシ基、カルボニル基等をターゲットに、シロキサン継ぎ手を介して金属系無機元素が結合したポリマー骨格成分として、金属系無機元素が高密に均質にハイブリットされる有機−無機ハイブリットポリマー材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明による重合性有機モノマー媒体中に、金属系無機元素が反応性有機−無機ハイッブリット骨格成分として溶解する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物及びその製造方法及びその用途の実施形態について、更に説明する。
【0033】
<本発明による金属系無機元素の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分>
本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物に溶解している反応性有機−無機ハイブリット骨格成分は、既に詳細に説明しているように、疎水性の重合性有機モノマー媒体中で、特定する配合割合で用いてなる「反応性有機ラジカルを有するシランカップリング」と「金属系無機元素アルコキシド」間で脱水縮合させて生成させたシロキサン継ぎ手を介して、金属系無機元素のオキシサン結合が形成されている「反応性有機ラジカルを有するシロキサン−金属系無機元素のオキシサン」なる反応性有機−無機ハイブリット骨格成分である。
【0034】
すなわち、本発明においては、疎水性の重合性有機モノマー媒体中で、有機反応性基を有する重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドと間での化学量論的反応比で表して[重合性シランカップリング剤]:[金属系無機元素アルコキシド]=1:1.2〜1.7なる特定する配合割合で形成される「反応性有機−無機ハイブリット骨格成分」である。また、本発明において、金属系無機元素アルコキシドのゾル−ゲル化反応下に金属系無機元素のポリオキシサン(又は金属系無機元素の水酸化物)の遊離生成をより効果的に防止させる観点から、好ましくは、1:1.25〜1.5の配合割合で適宜好適に用いることができる。
【0035】
また、本発明においては、疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、この金属系無機元素の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が溶解する濃度については、液状物(又はゾル状物)として加水分解を起こし難く貯蔵安定性に優れる観点から、一般的に低濃度より高濃度であることが望ましい。そこで、本発明においては、固形分換算で表して、好ましくは30%以上で、更に好ましくは50%以上で、特に好ましくは70%以上の高濃度であって、しかも、液状物としての取り扱いハンドリング性の観点から80%を超えないゾル状物として適宜調製することができる。
【0036】
<本発明に用いる有機反応性基を有する反応性シランカップリング剤>
そこで、本発明において、シラン化合物から導入される反応性有機ラジカルとしは、例えば、従来から市販されているシランカップリング剤として、特にビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)クリル基等の有機反応性基を有する通常、Rn−Si(OR1)4−nなる一般式で表される[式中、Rが反応性基であって、ビニル基、アリル基、ビニレン基、ビニリデン基、エチニル基、エポキシ基、アミノ基、アミノアルキル基、(メタ)クリル基で、その他の反応性基Rとしては、エステル基、アシル基、アルケニル基、ヒドロペルオキシ基、オキシ基、カルボニル基等が挙げられて、R1は、アルキル基またはアルコキシアルキル基であり、nは1〜3の整数である。]反応性シランカップリング剤(以後、単にアミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシランと記すこともある)を挙げることができる。
【0037】
そこで、アミノシラン;γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン,γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルシラン;ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリ(2−メトキシエトキシ)シラン,ビニルトリアセトキシシラン,トリエトキシビニルシラン,アリルトリメトキシシラン,アリルトリエトキシシラン,ジエトキシメチールビニールシラン,アリルトリクロロシラン、エポキシシラン;3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン,3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン,2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン,3−(トリエトキシル)プロピルイサシアネート,1−[3−(トリメトキシル)プロピル]ユリア、アクリルシラン;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0038】
<本発明に用いる金属系無機元素アルコキシド>
本発明においては、元素周期律表に分類するMg,Sr,Zn,Bi,Al,In,Sb,Ga,Snの金属元素群及びCe,Ti,Zr,V,Mo,Ta,Laの遷移金属元素群から選ばれる金属系無機元素アルコキシドを適宜好適に用いることができる。例えば、Alアルコキシド;アルミニウムエトキシド,アルミニウムトリエトキシド,イソブチルアルミニウムメトキシド,イソブチルアルミニウムエトキシド,アルミニウムイソプロポキシド,イソブチルアルミニウムイソプロポキシド,アルミニウムブトキシド,アルミニウムt−ブトキサイド;スズt−ブトキサイド;アルミニウムトリ−n−プロポキシド,アルミニウムトリ−n−ブトキシド、Tiアルコキシド;テトラエトキシチタン,テトラ−n−プロポキシチタン,テトラ−n−ブトキシチタン,テトラ−i−プロポキシチタン,チタンメトキサイド,チタンエトキサイド,チタン−n−プロポキサイド,チタンイソプロポキサイド,チタン−n−ブトキサイド,チタンイソブトキサイド、Zrアルコキシド;ジルコニウムエトキサイド,ジルコニウム−n−プロポキサイド,ジルコニウムイソプロポキサイド,ジルコニウム−n−ブトキサイド,エトキサイドテトラ−n−プロポキシジルコニウム等を挙げることができる。また、Mg,Sr,Zn,Bi,In,Sb,Ga,Sn等の金属元素群及びCe,V,Mo,Ta,La等の遷移金属元素群のアルコキシド化合物も同様にして適宜好適に用いることができる。
【0039】
<本発明に用いる疎水性の重合性有機モノマー液状媒体>
本発明に用いる疎水性の重合性有機モノマー媒体として、疎水性で、しかも、常温下に液体状であれば特に限定することなく用いられる。例えば、アクリル系、メタクリル系、スチレン系、マレイイミド系、ビニール系、アクリル−スチレン系、フッ素含有アクリル系、フッ素含有アクリル−スチレン系等の疎水性の重合性有機モノマー媒体を適宜好適に用いることができる。
【0040】
その具体例として、例えば、アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸ラウリル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸フェニル,(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等のアクリル酸アルキルエステル;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド;N−メチロール(メタ)アクリルアミド及びジアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類並びにグリシジル(メタ)アクリレート;エチレングリコールのジアクリル酸エステル,ジエチルグリコールのジアクリル酸エステル,トリエチレングリコールのジアクリル酸エステル,ポリエチレングリコールのジアクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジアクリル酸エステル,トリプロピレングリコールのジアクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジアクリル酸エステル類;エチレングリコールのジメタクリル酸エステル,ジエチレングリコールのジメタクリル酸エステル,トリエチレングリコールのジメタクリル酸エステル,ポリエチレングリコールのジアクリル酸エステル,プロピレングリコールのジメタクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジメタクリル酸エステル,トリプロピレングリコールのジメタクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジメタクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0041】
また、フッ素置換アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル,(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロメチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル−2−パ−フルオロブチルエチル,(メタ)アクリル酸−2−パ−フルオロエチル,(メタ)アクリル酸パ−フルオロメチル,(メタ)アクリル酸ジパ−フルオロメチルメチル等のフッ素置換(メタ)アクリル酸系モノマー等を挙げることができる。
【0042】
また、スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン,メチルスチレン,ジメチルスチレン,トリメチルスチレン,エチルスチレン,ジエチルスチレン,トリエチルスチレン,プロピルスチレン,ブチルスチレン,ヘキシルスチレン,ヘプチルスチレン及びオクチルスチレン等のアルキルスチレン;フロロスチレン,クロルスチレン,ブロモスチレン,ジブロモスチレン,クロルメチルスチレン等のハロゲン化スチレン;ニトロスチレン,アセチルスチレン,メトキシスチレン、α−メチルスチレン,ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0043】
また、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,n−酪酸ビニル,イソ酪酸ビニル,ピバリン酸ビニル,カプロン酸ビニル,パーサティック酸ビニル,ラウリル酸ビニル,ステアリン酸ビニル,安息香酸ビニル,p−t−ブチル安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニリデン、クロロヘキサンカルボン酸ビニル、アクリル酸−2−クロロエチル、メタクリル酸−2−クロロエチル等が挙げられる。また、アクリル酸シクロヘキシル等の脂環式アルコールのアクリル酸エステルや、メタクリル酸シクロエキシル等の脂環式アルコールのメタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0044】
また、必要に応じて、官能基を有するモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられ、また、これらの誘導体として、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、また、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル系誘導体類、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミンなどのビニルアミン系誘導体類、アリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのアリルアミン系誘導体、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系誘導体、p−アミノスチレンなどのアミノスチレン類、6−アミノヘキシルコハク酸イミド、2−アミノエチルコハク酸イミド等のアミノ基含有エチレン性不飽和結合を有するモノマーが適宜好適に使用することができる。
【0045】
また、ポリマー質の耐熱性等を考慮した場合のその他の重合性モノマーとして、例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系誘導体、p−アミノスチレンなどのアミノスチレン類、マレイミド,N−メチルマレイミド,N−フェニルマレイミド,N−シクロヘキシルマレイミド,6−アミノヘキシルコハク酸イミド,2−アミノエチルコハク酸イミド等のイミド類、更には、重合性二重結合を二個有するブタジエン,イソプレイン,シクロペンタジエン,1,3−ペンタジエン,ジシクロペンタジエン等のジエン類を挙げることができる。
【0046】
また、本発明において、必ずしも架橋構造を形成させる必要がないが、必要に応じて、形成されるポリマーの機械的強度を高める観点から、架橋構造を適宜導入させることができる。このような架橋構造を形成させるに、2官能性以上の多官能性モノマーを適宜好適に使用することができる。その多官能性モノマーとして、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート,トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート,1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート,N−メチロールアクリルアマイド等を挙げることができる。
【0047】
<本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法>
既に説明済みのように、疎水性の重合性モノマー媒体中に、金属系無機元素が、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を調製させるに、本発明において、下記(1)〜(4)に記載するプロセス要件下に調製させることを特徴にしている。
(1)ゾル−ゲル化反応下に金属系無機元素アルコキシドを脱水縮合させるに際して、この金属系無機元素アルコキシドのゲル化を防止させるために、従来法に相違して疎水性の媒体中で脱水縮合させている。
(2)本発明においては、その媒体が、疎水性の液状重合性有機モノマーである。
(3)この液状媒体中に酸性水溶液を添加させて金属系無機元素アルコキシドのゲル化を防止させながら脱水縮合反応を進捗させることで、本発明の目的である疎水性の重合性モノマー媒体に溶解する反応性有機−金属系無機元素ハイブリット骨格成分を形成させる。
(4)このような反応性有機−金属系無機元素ハイブリット骨格成分を形成させるために、本発明においては、下記(4−a)〜(4−c)なるプロセス要件下に脱水縮合反応を実施させる。
(4−a)この液状媒体中に上記する如くの重合性シランカップリング剤を介在させている。
(4−b)この媒体中で、化学量論的反応比で表して[下記重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[下記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量+下記金属系無機元素アルコキシドの(A2)量]=1:1.2〜1.7の配合割合下に、脱水縮合反応を進捗させる。
(4−c)しかも、重合性シランカップリング剤、金属系無機元素アルコキシド及び酸
性水溶液を用いてなる脱水縮合反応を、以下の如くの2段処理に分けて実施させる。
【0048】
すなわち、その第1段処理は、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A1)量を含有する所定量の重合性有機モノマーの疎水性媒体中に、所定量の重合性シランカップリング剤の(B1)量を添加させた後、酸性水溶液の(C1)量を添加させて脱水縮合させる。
次いで、第2段処理として、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A2)量を含有する所定量の重合性有機モノマーの疎水性媒体を添加させた後、酸性水溶液の(C2)量を添加させて脱水縮合させる。
このような2段処理を実施させることで、本発明における反応系は、油溶性液相/水溶性液相の2液相分離体として得られる。
次いで、この2液相分離体から容易に分離回収される油溶性液相は、液状媒体として使用した疎水性の液状重合性有機モノマー中に、「重合性シランカップリング剤」と「金属系無機元素アルコキシド」とが化学的に係わって形成された透明又は半透明ゾル状の金属系無機元素の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が、高濃度に溶解している。
【0049】
以上から、本発明においては、これらゾル状の「金属系無機元素の反応性有機−無機ハイブリット骨格成分」は、疎水性の液状重合性有機モノマー中で酸性水溶液によって進捗させた「重合性シランカップリング剤」と「金属系無機元素のアルコキシド化合物」と間での加水分解反応下に生成させた脱アルコール型の金属シラン縮合物であって、脱水型の金属シラン縮合物は殆ど生成されないことを特徴にしている。
【0050】
更に、金属系無機元素アルコキシドのゲル化を防止させる観点から、上記する脱水縮合反応の2段処理をより効果的に実施させるには、好ましくは、第1段処理を、化学量論的反応比で表して[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量]=1:8.00×10−4〜2.4×10−2の範囲で適宜好適に実施させることができる。特に、脱水縮合下に、この上限値を超えて実施させると金属系無機元素アルコキシドがゲル化する傾向から好ましくない。
【0051】
しかも、この第1段処理における脱水縮合は、化学量論的反応比で表して[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量]:[前記酸性水溶液の(C1)量]=1:0.1〜2.2の範囲を満足する関係下に適宜好適に実施させることができる。特に、下限値を満たさないと脱水縮合(又は加水分解)は進捗されず、また、上限値を超えると金属系無機元素アルコキシドはゲル化して好ましくない。
【0052】
次いで、第2段処理における脱水縮合は、同じく化学量論的反応比で表して[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A2)量]:[前記酸性水溶液の(C2)量]=1:0.4〜5.0の範囲で、好ましくは「1:0.6〜4.0」の範囲を満足する関係下に適宜好適に実施させることができる。特に、下限値を満たさないと脱水縮合(又は加水分解)が進捗されず、また、上限値を超えると金属系無機元素アルコキシドはゲル化及び2段処理後の油溶性液相/水溶性液相の2液相分離体からの油溶性液相の分離回収を煩雑にさせて好ましくない。
【0053】
<本発明による各種の変性有機ポリマー材>
このように調製した本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物は、容易に重合ポリマー化させることができる。既に説明する如く、得られた変性有機ポリマー材は、重合ポリマー・マトリックスを構成する繰り返し単位構造の主鎖又はその近傍に、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来する「シロキサン」−「金属元素オキシサン」結合を有するポリマー骨格成分として、ハイブリット形成されてなる変性有機ポリマー材である。
【0054】
本発明によるこれらの変性有機ポリマー材は、その金属系無機元素種及び/又はそのハイブット化量によって著しく異なるが、例えば、下記(イ)〜(ニ)等の特性機能を適宜好適に発揮させることができ、各種の産業分野にこれらの特性機能を有するフィルム材、造膜材、コーティング材又は成型体材として有用な各種の変性有機ポリマー材を提供することができる。
(イ)光学屈折率、光透過性及び光吸収性等の光学特性
(ロ)導電性、絶縁性及び誘電性等の電気特性
(ハ)柔軟性、引張り強さ及び耐擦傷性等の機械特性
(ニ)耐候性、難燃性及び耐溶剤性等の化学特性
【0055】
<その他の配合材>
また、本発明においては、本発明による疎水性の重合性有機モノマー液状組成物中に、必要に応じて、予めその他の配合材として、重合開始剤、硬化剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤、可塑剤、滑剤、分散剤、導電剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、タレ止め防止剤、AB剤、顔料、染料、蛍光剤、難燃剤、消泡剤、抗菌・防カビ剤、各種の薬効成分等を適宜単独又は組み合わせて配合することができる。
以下に、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は、これらの実施例にいささかも限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<反応性有機−無機ハイブリット骨格成分;50%>
第1段処理
温度計、撹拌装置を備えた容量300mlのフラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;46質量部に、メチルメタクリレート(MMA)の疎水性重合性有機モノマー媒体の50質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A1)量;0.3質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[Tiアルコキシドの(A1)量]=1:3.52×10−3であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:1.06であった。
第2段処理
MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の56質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウムの(A2)量;60質量部を添加して、30分撹拌した。さらに2時間かけて同様の塩酸水溶液の(C2)量;40gを加えて、脱アルコール型の反応性ラジカルを有する反応性有機−無機ハイブリット骨格成分(又は反応性シラン・チタン縮合体)が溶解するMMA液状組成物を調製した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量+Tiアルコキシドの(A2)量]:[塩酸水溶液の(C2)量]=1:0.58であった。
得られた水溶性液相/油溶性液相の2液相分離体の上層水溶液を分離後、下層油溶液に無水硫酸マグネシウムを添加させて脱水処理した油溶性液相中には、固形分としての反応性シラン・チタン縮合体(又は反応性有機−無機ハイブリット骨格成分)が固形分換算として52%含有していた。
【0057】
なお、赤外線吸収分析(IR)にて、上層水溶液には有機樹脂分が含有していないことを確認した。また、得られた油溶性液相である疎水性の重合性有機モノマー液状組成物中には、排除体積液体クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量≒41000の有機ポリマー成分を含有していた。また、得られた油溶性液相である疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を、室温下に6ヶ月保存後、その粘度を測定したが、全く粘度変化が見られなかった。
【0058】
(実施例2)
<反応性有機−無機ハイブリット骨格成分;75%>
第1段処理
実施例1と同様のフラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;46質量部に、MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の15質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A1)量;0.3質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[金属系無機元素アルコキシドの(A1)量]=1:3.52×10−3であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:1.06であった。
第2段処理
MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の30質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウムの(A2)量;60質量部を添加して、30分撹拌した。さらに2時間かけて同様の塩酸水溶液の(C2)量;40gを加えて、脱アルコール型の反応性ラジカルを有する反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が溶解するMMA液状組成物を調製した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量+Tiアルコキシドの(A2)量]:[塩酸水溶液の(C2)量]=1:0.58であった。
得られた水溶性液相/油溶性液相の2液相分離体の上層水溶液を分離後、下層油溶液に無水硫酸マグネシウムを添加・脱水処理した油溶性液相中には、固形分としての反応性シラン・チタン縮合体(又は反応性有機−無機ハイブリット骨格成分)が固形分換算として74%含有していた。
なお、赤外線吸収分析(IR)にて、上層水溶液には有機樹脂分が含有していないことを確認した。また、得られた油溶性液相である疎水性の重合性有機モノマー液状組成物中には、排除体積液体クロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量≒43000の有機ポリマー成分を含有していた。また、得られた油溶性液相である疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を、室温下に6ヶ月保存後、その粘度を測定したが、全く粘度変化が見られなかった。
【0059】
(実施例3)
<疎水性の重合性有機モノマー媒体;スチレン>
第1段処理
実施例1と同様のフラスコに、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;43質量部に、スチレンの疎水性重合性有機モノマー媒体の15質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A1)量;0.3質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[Tiアルコキシドの(A1)量]=1:6.4×10−3であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:1.01であった。
第2段処理
スチレンの疎水性重合性有機モノマー媒体の30質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウムの(A2)量;60質量部を添加して、30分撹拌した。さらに2時間かけて同様の塩酸水溶液の(C2)量;40gを加えて、脱アルコール型の反応性ラジカルを有する反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が溶解するスチレン液状組成物を調製した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量+Tiアルコキシドの(A2)量]:[塩酸水溶液の(C2)量]=1:0.57であった。
得られた水溶性液相/油溶性液相の2液相分離体の上層水溶液を分離後、下層油溶液に無水硫酸マグネシウムを添加・脱水処理した油溶性液相中には、固形分としての反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が75%含有していた。なお、赤外吸収分析(IR)にて、上層水溶液には有機樹脂分が含有していないことを確認した。また、得られた油溶性液相中には、同様にして測定した重量平均分子量≒41000の有機ポリマー成分を含有していた。
【0060】
(実施例4)
<金属系無機元素アルコキシド;ブチルチタネートダイマー>
第1段処理
実施例1と同様のフラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;46質量部に、MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の15質量部と、ブチルチタネートダイマー(Tiアルコキシド)の(A1)量;0.3質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[Tiアルコキシドの(A1)量]=1:5.64×10−3であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:1.06であった。
第2段処理
MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の30質量部と、ブチルチタネートダイマーの(A2)量;60質量部を添加して、30分撹拌した。さらに2時間かけて同様の塩酸水溶液の(C2)量;40gを加えて、脱アルコール型の反応性ラジカルを有する反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が溶解するMMA液状組成物を調製した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量+Tiアルコキシドの(A2)量]:[塩酸水溶液の(C2)量]=1:0.58であった。
得られた水溶性液相/油溶性液相の2液相分離体の上層水溶液を分離後、下層油溶液に無水硫酸マグネシウムを添加・脱水処理した油溶性液相中には、固形分としての反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が75%含有していた。なお、赤外吸収分析(IR)にて、上層水溶液には有機樹脂分が含有していないことを確認した。また、同様にして得られた油溶性液相の樹脂分の分子量を測定したところ重量平均分子量≒40000の有機ポリマー成分を含有していた。
【0061】
(比較例1)
<反応性有機−無機ハイブリット骨格成分;90%>
実施例1と同様のフラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;46質量部に、MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の15質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A1)量;0.3質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[Tiアルコキシドの(A1)量]=1:3.52×10−3であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:1.06であった。次いで、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A2)量;60質量部を添加したところ5分後にゲル化した。
【0062】
(比較例2)
<Tiアルコキシドの[(A1)+(A2)]量;過剰添加>
実施例1と同様のフラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの重合性シランンカップリング剤の(B1)量;46質量部に、MMAの疎水性重合性有機モノマー媒体の15質量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A1)量;1.5質量部を添加して5分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[Tiアルコキシドの(A1)量]=1:0.03であった。
次いで、pH2の塩酸水溶液の(C1)量;10gを加え15分間攪拌混合した。その結果、[重合性シランカップリング剤の(B1)量+Tiアルコキシドの(A1)量]:[塩酸水溶液の(C1)量]=1:2.5であった。次いで、MMAの30重量部と、テトラ−n−プロポキシチタンニウム(Tiアルコキシド)の(A2)量;60質量部を添加した直後にゲル化した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上から、本発明によって、重合性有機モノマーを重合ポリマー化させることで、その重合ポリマー・マトリックス中に、金属系無機元素を「シロキサン」継ぎ手を介した「金属オキシサン」結合からなるポリマー骨格成分として化学的にハイブリット形成できる金属系無機元素が反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している貯蔵安定性及び取り扱いハンドリング性に優れる疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を提供することができた。
【0064】
また、本発明によって提供する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物は、その金属系無機元素種及び/又はそのハイブット化量によって、例えば、(イ)光学屈折率、光透過性及び光吸収性等の光学特性、(ロ)導電性、絶縁性及び誘電性等の電気特性、(ハ)柔軟性、引張り強さ及び耐擦傷性等の機械特性、(ニ)耐候性、難燃性及び耐溶剤性等の化学特性等の特性機能を適宜好適に発揮させることができ、各種の産業分野に有用な特性機能を有するフィルム材、造膜材、コーティング材又は成型体材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の重合性モノマー媒体中に、金属系無機元素が、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している疎水性の重合性有機モノマー液状組成物であって、 重合性シランカップリング剤と金属系無機元素アルコキシドと間で、化学量論的反応比で表して[重合性シランカップリング剤]:[金属系無機元素アルコキシド]=1:1.2〜1.7の範囲で形成される前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が、前記モノマー媒体中に、高濃度で、高均質に溶解していることを特徴とする疎水性の重合性有機モノマー液状組成物。
【請求項2】
前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が、固形分換算で表して70%を超える分散濃度であることを特徴とする請求項1に記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物。
【請求項3】
前記金属系無機元素が元素周期表に分類するMg,Sr,Zn,Bi,Al,In,Sb,Ga,Snの金属元素群及びCe,Ti,Zr,V,Mo,Ta,Laの遷移金属元素群から選ばれる少なくとも1種の金属系無機元素であることを特徴とする請求項1又は2に記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物。
【請求項4】
前記重合性モノマーが、アクリル系,メタクリル系,スチレン系,マレイイミド系,フッ素含有アクリル系,ビニール系の群から選ばれる何れか単独又は何れか2種類以上の混合物モノマーであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物。
【請求項5】
疎水性の重合性モノマー媒体中に、金属系無機元素が、反応性有機−無機ハイブリット骨格成分として高濃度に溶解している請求項1〜4の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法において、
化学量論的反応比で表して[下記重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[下記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量+下記金属系無機元素アルコキシドの(A2)量]=1:1.2〜1.7の範囲を満足する関係下に、第1段処理として、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A1)量を含有する所定量の重合性有機モノマーの疎水性媒体中に、所定量の重合性シランカップリング剤の(B1)量を添加させた後、酸性水溶液の(C1)量を添加させて脱水縮合させ、
次いで、第2段処理として、所定量の金属系無機元素アルコキシドの(A2)量を含有する所定量の重合性有機モノマーの疎水性媒体を添加させた後、酸性水溶液の(C2)量を添加させて脱水縮合させ、
得られる油溶性液相/水溶性液相の2液相分離体の油溶性液相である疎水性の重合性有機モノマー媒体中に、前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分が、高濃度で高均質に溶解していることを特徴とする疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法。
【請求項6】
前記第1段処理が、化学量論的反応比で表して[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量]:[前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量]=1:8.00×10−4〜2.4×10−2の範囲で、且つ[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量]:[前記酸性水溶液の(C1)量]=1:0.1〜2.2の範囲にあって、
前記第2段処理が、化学量論的反応比で表して[前記重合性シランカップリング剤の(B1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A1)量+前記金属系無機元素アルコキシドの(A2)量]:[前記酸性水溶液の(C2)量]=1:0.4〜5.0の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー液状組成物を重合させてなる有機ポリマーが、前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来して、光学特性なるポリマー特性が改質されていることを特徴とする変性有機ポリマー材。
【請求項8】
請求項1〜4の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー組成物を重合させてなる有機ポリマーが、前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来して、電気特性なるポリマー特性が改質されていることを特徴とする変性有機ポリマー材 。
【請求項9】
請求項1〜4の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー組成物を重合させてなる有機ポリマーが、前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来して、機械特性なるポリマー特性が改質されていることを特徴とする変性有機ポリマー材。
【請求項10】
請求項1〜4の何れかに記載する疎水性の重合性有機モノマー組成物を重合させてなる有機ポリマーが、前記反応性有機−無機ハイブリット骨格成分に由来して、化学特性なるポリマー特性が改質されていることを特徴とする変性有機ポリマー材。

【公開番号】特開2007−126491(P2007−126491A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317865(P2005−317865)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】