説明

反応装置及び吸光度分析装置

【課題】水の中に含まれる特定物質と試薬とを完全に反応させることにより、水の中に含まれるイオン状シリカの濃度を繰り返し測定した場合に、測定値のばらつきが実用上無視可能な程度に小さい分析結果を得ることのできる反応装置、及びその反応装置を組み込んでなる吸光度測定装置を提供すること。
【解決手段】試料水に含有されるイオン状シリカと試薬とを反応させるように形成された反応セルと、前記反応セル内の全液体を排出する廃液管と、廃液管中に介装された開閉弁と、前記廃液管を流通する液体を反応セルに導入する復液管と、を有する反応装置。前記反応装置と、前記反応セル内の液体中を通過可能に光を出射する光源と、前記液体中を通過した光を受光する受光器と、前記受光器から出力される信号に基づいて試料水中のイオン状シリカの濃度を算出する演算部とを備えて成ることを特徴とする吸光度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応装置及び吸光度分析装置に関し、更に詳しくは、例えば火力発電所のボイラ水などを初めとする工業用水中に含まれるイオン状シリカ濃度を分析するのに好適に採用することができる反応装置及びその反応装置を備えてなる吸光度分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所のボイラ水に含まれるシリカは、ボイラ内でスケールを生成したり、蒸気中にキャリオーバしてタービン翼に付着したりして、効率低下などの障害を生じるので、ボイラ水のシリカ濃度を常に計測して厳しく管理する必要がある。ここで、天然水中のシリカは、イオン状シリカと懸濁状のシリカとコロイド状のシリカとの三形態で存在している。この天然水を蒸留し、イオン交換樹脂及びフィルタなどを通すことにより、シリカなどの不純物を除去した後に、この天然水をボイラ水として使用している。このボイラ水はアルカリ性で、かつ高温であるので、ボイラ水に懸濁状のシリカとコロイド状のシリカとが含まれていたとしても、加水分解してイオン状シリカに変る。したがって、ボイラ水のシリカの含有量は、通常、イオン状シリカの濃度を測定して管理されている。
【0003】
このようなボイラ水などの水に含まれるイオン状シリカの濃度を測定する方法として、被測定物質と発色試薬との発色反応を利用する、モリブデン黄吸光光度法とモリブデン青吸光光度法とが知られている。これらの吸光光度法では、水中に含まれるイオン状シリカと発色試薬とを反応させ、黄色又は青色を呈する化合物を生成させた後、光源から発した光をこの化合物を含む液体を通過させて、この通過光を受光器で受光して、この光の吸光度又は透過率を測定することにより、水中のイオン状シリカの濃度を測定する。
【0004】
従来、ボイラ水の中のイオン状シリカ濃度は、手分析により定期的に測定されていたが、最近はボイラ水のイオン状シリカ濃度を連続的に監視するために、シリカ濃度自動測定器が導入されてきている。通常、ボイラ水中のイオン状シリカ濃度は、このシリカ濃度自動計測器により、次のように分析される。ボイラ水及び発色試薬が反応容器に注入され、スターラーなどを用いて反応容器内のボイラ水と発色試薬とが攪拌され、ボイラ水の中に含まれるイオン状シリカと発色試薬とが反応する。この反応容器には反応容器内にある液体を排出するための廃液管が設けられており、廃液管には開閉弁が介装されている。この開閉弁は、イオン状シリカと発色試薬とを反応容器内で混合する際には閉状態とされている。数種類の発色試薬が反応容器に注入されて完全に反応が終了した後に、反応容器内の液体を光が通過するように配置された発光素子及び受光素子を備えた分光光度計によりボイラ水中のイオン状シリカの濃度が分析され、分析が終了した液体はその全量が反応容器に設けられた廃液管から排出される。
【0005】
このシリカ濃度自動計測器で用いられる反応容器は、シリカ濃度自動計測器の小型化及び発色試薬の節約などのために、次第に小型化してきている。したがって、測定に供されるボイラ水と発色試薬との総量が数mlと少なくなる傾向にある。反応容器が小型化するにつれて、イオン状シリカの濃度を繰り返し測定した場合に、測定値のばらつきが大きくなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水の中に含まれる特定物質と試薬とを完全に反応させることにより、水の中に含まれるイオン状シリカの濃度を繰り返し測定した場合に、測定値のばらつきが実用上無視可能な程度に小さい分析結果を得ることのできる反応装置、及びその反応装置を組み込んでなる吸光度測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、
「試料水に含有されるイオン状シリカと試薬とを反応させるように形成された反応セルと、
前記反応セル内の全液体を排出する廃液管と、
廃液管中に介装された開閉弁と、
前記廃液管を流通する液体を反応セルに導入する復液管と、
を有する反応装置」であり、
請求項2は、
「前記廃液管は、開閉弁を開放状態にしたときに、反応セル中に存在する液体の全量が排出することができるように反応セルに取り付けられて成る前記請求項1に記載の反応装置」であり、
請求項3は、
「前記開閉弁は、廃液管からの入口、廃液管への出口、及び復液管への出口を有する三方切換え弁であり、反応セル中の液を排出するときには復液管への出口を閉鎖状態にし、反応セル中で試料液と試薬とを混合するときには廃液管への出口を閉鎖状態にするとともに復液管への出口を開放状態に駆動可能に形成されてなる前記請求項1又は2に記載の反応装置」であり、
請求項4は、
「前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応装置と、前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応セル内の液体中を通過可能に光を出射する光源と、前記液体中を通過した光を受光する受光器と、前記受光器から出力される信号に基づいて試料水中のイオン状シリカの濃度を算出する演算部とを備えて成ることを特徴とする吸光度測定装置」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る反応装置においては、反応セル中にイオン状シリカ含有の試料水と試薬とを収容する。反応セルに供給された試料水と試薬とを混合するに際し、本発明に係る反応装置は、復液管を有するので、廃液管に存在する液体を反応セルに導入することができ、したがって試料水又は試薬がデッドスペースに滞留することがなくなり、試料水と試薬とを十分混合することができる。かくして、試料水に含有される特定物質と試薬とを完全に反応させることができるので、水の中に含まれるイオン状シリカの濃度を繰り返し測定しても測定値のばらつきのない分析結果を得ることのできる反応装置を提供することができる。
【0009】
廃液管の反応セルに対する取付位置は特に制限がないものの、開放弁を開放状態にしたときに、反応セル中に存在する液体の全量が自然に排出されることができる位置に廃液管を取り付けると、廃液管中の液を強制移動するポンプ等を廃液管に取り付ける必要がなくなり、装置構成の簡単化が実現される。
【0010】
開閉弁として三方切換え弁を採用すると、反応セル中で試料水と試薬とを混合する際に廃液管から開閉弁に至る流路中の液が復液管を通じて反応セルに戻される。したがって、開閉弁に至る廃液管の途中で復液管を分岐する場合に比べてデッドスペースが全く存在しない循環路を備えた反応装置を提供することができる。
【0011】
この発明によると、反応セル内の液体中を通過可能に光を出射する光源と前記液体中を通過した光を受光する受光器と受光器から出力される信号に基づいて試料水中のイオン状シリカの濃度を算出する演算部とを備えることにより、反応セル中でイオン状シリカと試薬との反応を行った後にその反応生成液について直ちに光学測定することができるので、簡易に試料水中に存在するイオン状シリカの濃度を測定することができる吸光度測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る反応装置の実施例を示す概略図である。
【0014】
本発明に係る反応装置1は、試料水に含有されるイオン状シリカと試薬とを反応させることができるように形成された反応セル2と前記反応セル2内の全液体を排出することができる廃液管3と廃液管3中に介装された開閉弁4と前記廃液管3を流通する液体を反応セル2に導入する復液管5とを有する。
【0015】
この例においては、反応セル2は、試料水注入ノズル6と3本の試薬注入ノズル7を有しており、ボイラ水などの試料水が試料水注入ノズル6から反応セル2に注入され、試薬が試薬注入ノズル7から反応セル2に注入される。この試料水と試薬とは反応セル2において、スターラーなどの撹拌手段により十分に混合される。
【0016】
本発明に係る反応セルの形状は円柱状、直方体状、球状、円錐状など、試料水と試薬とが完全に混合されるのであれば、特に限定されない。スターラー等の撹拌子を用いて混合する場合には、底面が平面となっている形状が好ましい。なおこの例においては、撹拌子は反応セル外に存在する駆動源の磁力によって回転するスターラーが採用されているが、この発明においてはこのスターラーに限定されることはなく、駆動源による機械的力により回転する回転軸に撹拌羽根を設けて成る撹拌子であってもよい。
【0017】
反応セルの材質は、特に限定されないが、反応セルを挟むように分光光度計を設けて、反応セル内にある液体の吸光度又は透過率の測定を行うのであれば、イオン状シリカと試薬とが反応した結果として得られる反応生成液が呈する色を吸収しない材料、例えば黄色の波長帯域である400nm付近から青色の波長帯域である800nm付近の光を吸収しない材料であることが好ましく、例えば、石英ガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0018】
本発明に係る反応セルの容量は、特に限定されないが、2〜10mlのような低容量にすることができる。イオン状シリカの濃度を正確に測定するには試料液中のイオン状シリカと試薬とを完全に反応させることが必要である。復液管が設けられていない場合に反応セルの容積が開閉弁までの廃液管の内容積よりも十分に大きいときには、廃液管内に存在する液中でイオン状シリカと試薬とが反応しなくても反応セル中でのイオン状シリカと試薬との反応の進行だけで試料液中のイオン状シリカの濃度を無視可能な程度のばらつきで測定することができる。しかしながら、反応セルを小型化すると、廃液管の前記内容積が反応セルの内容積に比べて無視できないほどの比率で大きくなる。その場合に、復液管が存在すると、この復液管によって、廃液管に存在する液体を反応セルに戻すことができるので、試料水中のイオン状シリカ全量と試薬とを反応させることができる。かくして、試料水に含有される特定物質と試薬とを完全に反応させることができるので、試料水に含まれるイオン状シリカの濃度を繰り返して測定した場合に、無視可能な程度の小さなばらつきでイオン状シリカの分析結果を得ることができる。したがって、本発明に係る反応装置を使用することにより、測定精度を下げることなくイオン状シリカの濃度分析装置を小型化することができる。
【0019】
このとき、廃液管及び復液管の容量は、試料水と試薬とを撹拌する際に生じる反応セル中の液の遠心力によって、廃液管及び復液管中に存在する液体を反応セルに移送することができる範囲であればよく、特に限定されない。
【0020】
廃液管3は、反応セル2の下方側面部に設けられ、廃液管3中に介装された開閉弁を開放状態にすると、反応セル2内の全液体を自然に排出できるように形成されている。なお、廃液管の反応セルにおける取り付け位置は、廃液管を通じて反応セル中の液を全て排出することができる限り、反応セルの下方側面部に限ることはなく、例えば反応セルの底面であっても良い。廃液管3には開閉弁4が介装されており、開閉弁4により廃液管3の開放状態及び閉鎖状態が実現される。
【0021】
開閉弁については、廃液管中の液が例えば廃液処理施設の方向に排出するように開放状態にし、復液管を通じて反応セルに開閉弁までの廃液管中に存在する液を戻すことができるように閉鎖状態にすることができる限り、特に制限がない。
【0022】
図1に示される例では、復液管5は、反応セル2と開閉弁4との間の廃液管3から分岐しており、廃液管3を流通する液体が復液管に導入されるように形成され、反応セル2の底部中央付近に接続されている。復液管を廃液管に取り付ける位置は、廃液管における復液管への分岐位置から開閉弁までの距離ができるだけ小さくなるように、設計される。廃液管における復液管への分岐位置から開閉弁までの距離をできるだけ小さく設計することにより、反応セル中で試料水と試薬とを混合しているときに、廃液管中の液が復液管を通じて反応セル中に戻されることにより形成される廃液管及び復液管からなる循環路中を流通する液流により、廃液管における復液管への分岐位置から開閉弁までに存在する液が吸い出されて復液管に戻され、最終的には廃液管中に存在する液が反応セルに戻されることになるからである。
【0023】
また、反応セルにて試料水と試薬とを混合する際に、廃液管中にデッドスペースを形成しないようにするには、開閉弁として三方切換え弁を採用するのが好ましい。この三方切換え弁としては、図2に示されるように、廃液管3からの入口、廃液管3への出口、及び復液管5への出口を有する三方切換え弁4aを、採用することができる。反応セル2にて試料水と試薬とを混合するときには、廃液管3への出口が閉鎖状態にされ、復液管5への出口が開放状態にすることができ、反応セル2中の液の全量を排出する場合には、廃液管3への出口が開放状態にされ、復液管5への出口が閉鎖状態にすることができるように、この三方切換え弁4aが形成される。この態様では、反応セル2中の液を排出する場合に、復液管5に液が残ることがある。したがって、イオン状シリカ濃度を測定する前には、三方切換え弁4aを数回切換えて、廃液管3への入口及び出口を開放状態にして、又は復液管5への出口及び廃液管3への出口を開放状態にすることにより、試料水を廃液管3と復液管5とに流通させて、十分に廃液管3と復液管5とを試料水で洗浄するのが好ましい。
【0024】
図1に示される反応装置1の作用を以下に説明する。
【0025】
図1に示されるように、試料水と試薬とを混合する際には、開閉弁4は閉状態とされ、スターラーが回転することにより反応セル2内に旋回流が生じ、試料水と試薬とが混合される。このとき、反応セル2の側面付近の水圧は相対的に高くなるので、反応セル2の下方側面部に設けられた廃液管3から反応セル2内にある液体が排出され、廃液管3及び復液管5で形成される循環路を流通して、前記液体が反応セル2内に再度導入される。したがって、廃液管3及び/又は復液管5に液体が滞留することが無いので、完全に試料水と試薬とを混合することができる。
【0026】
この実施形態では、廃液管3は反応セル2の下方側面部から導出され、復液管5は反応セル2の底部中央付近に液体が導入されるように設けられているが、試料水と試薬とを混合する際に、これらの液体が廃液管3及び/又は復液管5に滞留することなく流通し、反応セル2に戻るようになっていれば、廃液管3及び復液管5の反応セル2への接続位置は特に限定されない。スターラーを回転させることにより、試料水と試薬とを混合する場合には、反応セル2への廃液管3の接続位置は、相対的に水圧が高くなる場所に設けるのが好ましく、反応セル2への復液管5の接続位置は、相対的に水圧が低くなる場所に設けるのが好ましい。
【0027】
ここで、試料水中に含まれるイオン状シリカは、JIS B 8224及びJIS K 0101に記載されているように「イオン状シリカは七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ化合物の黄色を生成するシリカ」等を挙げることができる。
【0028】
試料水としては、イオン状シリカを含む水であれば特に限定されず、例えば、火力発電所のボイラ水及び供給水などの工業用水、耐候性試験機における試料表面に人工降雨させるスプレー用水、並びに蒸留装置用水などが挙げられる。
【0029】
ボイラ水は、pHの調節及びリン酸イオン濃度の調節が必要な場合には、リン酸ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムが注入されるので、シリカ以外にリン酸イオンを多量に含んでいることがある。リン酸イオンはイオン状シリカと同じ黄色又は青色を呈する化合物を生成するので、この化合物が光の吸光度又は透過率を測定する際に測定液中に残存していた場合には、これがイオン状シリカの濃度と誤って加算されることになってしまう。しかし、本発明に係る反応装置によれば、試料水と試薬との混合が十分に行われるので、試料水中の特定物質と試薬とを完全に反応させることができ、イオン状シリカの濃度を繰り返し測定した場合に、ばらつきのない分析結果を得ることができる。
【0030】
ボイラ水中に含まれるイオン状シリカの濃度を測定する場合の試薬としては、モリブデン酸アンモニウム溶液とシュウ酸とアスコルビン酸溶液とが用いられる。モリブデン酸アンモニウム溶液は、JIS K 8905に、シュウ酸は、JIS K 8519に、アスコルビン酸溶液は、JIS K 9502に規定されている。
【0031】
本発明に係る反応装置は、モリブデン黄吸光光度法及びモリブデン青吸光光度法(JIS B 8224)により水中の、例えばボイラ水中のイオン状シリカ濃度を測定する際に使用することができる。前記反応装置を使用して試料水中のイオン状シリカと試薬とを完全に反応させた液体の光の吸光度又は透過率を分光光度計により測定することで、水中のイオン状シリカ濃度を測定することができる。この分光光度計は、図2に示されるように、光源8例えば発光素子と受光器9例えば受光素子と受光器から出力される検知信号に基づいてイオン状シリカ濃度を演算部10にて測定することができる。光源8から出た光は、イオン状シリカと試薬とを完全に反応させた液体を通過して、受光器9に到達する。イオン状シリカの濃度測定にはモリブデン黄吸光光度法、及び、モリブデン青吸光光度法のいずれかを採用することができる。モリブデン黄吸光光度法は、イオン状シリカが七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ化合物の黄色の吸光度を測定してシリカを定量する。受光器によりモリブデン黄吸光光度法では波長400nm付近の吸光度又は透過率を測定することにより、シリカ濃度が演算部により算出される。モリブデン青吸光光度法では波長800nm付近の吸光度又は透過率を測定することにより、シリカ濃度が演算部10により算出される。モリブデン青吸光光度法は、イオン状シリカが七モリブデン酸六アンモニウムと反応して生成するヘテロポリ酸をシュウ酸及びアスコルビン酸で還元してモリブデン青に変え、このモリブデン青の吸光度を測定する。
【0032】
この分光光度計は、図2に示されるように、反応装置を挟むように設けても良いし、廃液管に介装された開閉弁より下流側に廃液管を挟むように設けても良いし、廃液管に介装された開閉弁より下流側に測定セルを設けて測定セルを挟むように設けても良い。
【0033】
次に、イオン状シリカの濃度の分析方法について説明する。
【0034】
まず、25〜45℃に温められた試料水を一定時間試料水注入ノズルから反応セルに注入する。試料水を加温することにより、試料水中の物質と試薬との反応を促進させることができるので、全測定時間を短縮することができ、迅速な分析が実現するからである。このとき、スターラーを回転させつつ開閉弁を間欠的に開閉し、反応セル、廃液管、及び復液管の洗浄を行う。
【0035】
次に、試料水の注入及びスターラーの回転を停止し、開閉弁を閉状態として、反応セル内に適量の試料水が保持されるようにする。その後、試薬注入ノズルから試薬Xと硫酸の混合液を適量注入し、スターラーを回転させて混合する。この試薬Xとしては、モリブデン酸アンモニウム溶液を挙げることができ、試料水中のイオン状シリカA及びリン酸イオンBと反応して、それぞれ化合物AX、BXを生成し、試料水を黄色に呈色させる。
【0036】
次いで、一時的にスターラーの回転を停止して、試薬注入ノズルから試薬Yを適量注入し、再度スターラーを回転させて混合する。この試薬Yとしては、シュウ酸溶液を挙げることができ、化合物BXと反応して、透明な化合物BXYとなる。ここで、分光光度計により黄色に呈色した液体の光の吸光度又は透過率を測定すれば、2〜20mg/Lの高濃度範囲のイオン状シリカ濃度を、測定することができる。ここまでの測定法はモリブデン黄吸光光度法に準拠する。つまり、ボイラ水中に高濃度でイオン状シリカが含有されるときには、モリブデン黄吸光光度法が適している。
【0037】
さらに、低濃度のイオン状シリカ濃度を測定する場合には、次に、試薬注入ノズルから試薬Zを適量注入し、試料水と試薬とを十分に混合する。この試薬Zとしては、アスコルビン酸溶液を挙げることができ、化合物AXとアスコルビン酸溶液とが反応し、青色を呈する化合物AXZとなる。スターラーの回転を停止し、一定時間放置した後に分光光度計により青色に呈色した液体の光の吸光度又は透過率を測定する。これにより1〜2000μg/Lの濃度範囲のイオン状シリカ濃度を測定することができる。ここまでの測定法はモリブデン青吸光光度法に準拠する。つまり、ボイラ水中に低濃度でイオン状シリカが含有されるときには、モリブデン青吸光光度法が適している。
【0038】
測定が終了した後、開閉弁を開状態にして、反応セル中の液体を排出する。
【0039】
なお、前記イオン状シリカの濃度の分析方法において、混合時間、放置時間、及び試薬注入のタイミングなどは適宜に決定することができる。
【0040】
リン酸イオンBと試薬Xとが反応して生成した化合物BXが試薬Yと完全に反応せずに残っていた場合に、この化合物BXと試薬Zとが反応すると、青色を呈する化合物BXZが生成する。そうすると、この化合物BXZの青色の吸光度の測定値がシリカ濃度であると誤って加算されてしまうことになる。したがって、試薬X、Y、Zと試料水との混合が完全に行われることが、測定誤差を小さくすることになる。
【0041】
本発明に係る反応装置は、これまでの従来装置乃至従来方法では廃液管に滞留していた液体を、復液管を設けることにより再度反応セルに戻して混合することができるので、試薬が順次注入される毎に試料水中のイオン状シリカ、リン酸イオン及び生成した化合物と試薬とを完全に反応させることができる。したがって、試料水中のイオン状シリカの濃度を繰り返し測定した場合に、ばらつきのない分析結果を得ることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
市販のリン酸イオン標準液(1000mg/l)を希釈して、リン酸イオン濃度30mg/lのサンプルを調整した。このサンプルのイオン状シリカ濃度分析を、JIS K 8224に準拠して手分析で行った。その結果、イオン状シリカ濃度は3μg/Lであることを確認した。
【0043】
試薬は、モリブデン酸アンモニウム溶液は、JIS K 8905に、シュウ酸は、JIS K 8519に、アスコルビン酸溶液は、JIS K 9502に規定されているものを用いた。
【0044】
このサンプルを図1に示す反応セルに注入した。スターラーを回転させつつ、上記試薬をモリブデン酸アンモニウム溶液、シュウ酸、アスコルビン酸溶液の順に反応セルに注入して、試薬とサンプルとを十分に混合した。このとき使用した反応セルの容積は、4.0ml、廃液管と復液管の総容量は、0.55mlであった。
【0045】
スターラーの回転を停止し、一定時間放置した後に分光光度計により青色の吸光度(815nm付近)を測定した。分光光度計は、反応セルを挟むように設置した。
【0046】
上記測定を繰り返し3回行った結果を表1に示す。測定値のばらつきが小さく、繰り返し測定精度が高かった。
【0047】
(比較例1)
実施例1において、復液管が設けられていない、従来のシリカ濃度分析装置を用いたこと以外は、同様にしてイオン状シリカ濃度の測定を行った。繰り返し3回測定した結果を表1に示す。測定値のばらつきが大きく、繰り返し測定精度は実施例1より低かった。
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明に係る反応装置の実施例を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明に係る反応装置の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0050】
1 反応装置
2 反応セル
3 廃液管
4 開閉弁
4a 三方切換え弁
5 復液管
6 試料水注入ノズル
7 試薬注入ノズル
8 光源
9 受光器
10 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に含有されるイオン状シリカと試薬とを反応させるように形成された反応セルと、
前記反応セル内の全液体を排出する廃液管と、
前記廃液管中に介装された開閉弁と、
前記廃液管を流通する液体を反応セルに導入する復液管と、
を有する反応装置。
【請求項2】
前記廃液管は、開閉弁を開放状態にしたときに、反応セル中に存在する液体の全量が排出することができるように反応セルに取り付けられて成る前記請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記開閉弁は、廃液管からの入口、廃液管への出口、及び復液管への出口を有する三方切換え弁であり、反応セル中の液を排出するときには復液管への出口を閉鎖状態にし、反応セル中で試料液と試薬とを混合するときには廃液管への出口を閉鎖状態にするとともに復液管への出口を開放状態に駆動可能に形成されてなる前記請求項1又は2に記載の反応装置。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応装置と、前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応セル内の液体中を通過可能に光を出射する光源と、前記液体中を通過した光を受光する受光器と、前記受光器から出力される信号に基づいて試料水中のイオン状シリカの濃度を算出する演算部とを備えて成ることを特徴とする吸光度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−286552(P2008−286552A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129669(P2007−129669)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】