説明

収縮低減性AEコンクリート組成物

【課題】それ自体が優れた流動性を有し、また得られる硬化体が優れた圧縮強度を発現することに加えて、1)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、2)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、3)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、以上の1)〜3)の多機能を同時に充足する収縮低減性AEコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】特定の水溶性ビニル共重合体からなるセメント分散剤、特定の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルからなる乾燥収縮低減剤、いずれも特定の有機リン酸エステル、ポリエーテル化合物及びポリビニール系水溶性重合体からなる空気量調節剤、以上をそれぞれ所定割合で用いて、連行空気量が3〜8容量%、水/セメント比が35〜65%の収縮低減性AEコンクリート組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は収縮低減性AEコンクリート組成物に関する。近年、AEコンクリート組成物に対する高品質化や高耐久性化の要求がますます強くなっている。かかる要求に応えるためには、AEコンクリート組成物が優れた流動性を有し、また得られる硬化体が優れた圧縮強度を発現することを前提として、1)AEコンクリート組成物から得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、2)AEコンクリート組成物から得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、3)AEコンクリート組成物から得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、以上の1)〜3)の多機能を同時に備えることが必要である。本発明は、以上のような多機能を同時に備える収縮低減性AEコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート組成物に優れた流動性を付与すると共に得られる硬化体に優れた圧縮強度を発現させる混和剤として、ポリカルボン酸系化合物を主成分とする各種のセメント分散剤が知られている。またコンクリート組成物から得られる硬化体の乾燥収縮率を低減する混和剤として、各種の乾燥収縮低減剤も知られている(例えば特許文献1及び2参照)。更にAEコンクリート組成物用のものとしては、AEコンクリート組成物に優れた流動性を付与すると共に得られる硬化体の乾燥収縮率を低くする混和剤も知られている(例えば特許文献3及び4参照)。
【0003】
しかし、これら従来の混和剤を用いてAEコンクリート組成物を調製しても、得られる硬化体の乾燥収縮率を低くし、また凍結融解作用に対する抵抗性を強くして、更に中性化速度を遅くする上で、満足するには至っていないというのが実情である。
【特許文献1】特開昭56−037259号公報
【特許文献2】特開平2−307849号公報
【特許文献3】特開2001−10853号公報
【特許文献4】特開2004−262715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、調製したAEコンクリート組成物が優れた流動性を有し、また得られる硬化体が優れた圧縮強度を発現することに加えて、1)得られる硬化体の乾燥収縮率が低いこと、2)得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強いこと、3)得られる硬化体の中性化速度が遅いこと、以上の1)〜3)の多機能を同時に充足する収縮低減性AEコンクリート組成物を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のセメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気量調節剤を所定量用いて、水/セメント比及び連行空気(AE)量を所定範囲内に調製した収縮低減性AEコンクリート組成物が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、セメント、水、細骨材、粗骨材、セメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気量調節剤を含有する連行空気量が3〜8容量%の収縮低減性AEコンクリート組成物であって、水/セメント比が35〜65%であり、且つセメント100質量部当たり下記のセメント分散剤を0.1〜1.5質量部、下記の乾燥収縮低減剤を0.5〜10質量部及び下記の空気量調節剤を0.01〜1.0質量部の割合で含有して成ることを特徴とする収縮低減性AEコンクリート組成物に係る。
【0007】
セメント分散剤:下記のセメント分散剤A及び下記のセメント分散剤Bから選ばれる一つ又は二つ以上
【0008】
セメント分散剤A:分子中に下記の構成単位Dを45〜85モル%、下記の構成単位Eを15〜55モル%及び下記の構成単位Fを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜70000の水溶性ビニル共重合体
構成単位D:メタアクリル酸から形成された構成単位及びメタアクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位E:分子中に炭素数1〜3のアルキル基と5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基とを有するアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位F:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0009】
セメント分散剤B:分子中に下記の構成単位Gを40〜60モル%及び下記の構成単位Hを40〜60モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体
構成単位G:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位H:いずれも分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するものである、α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
【0010】
乾燥収縮低減剤:下記の化1で示される(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル
【0011】
【化1】

【0012】
化1において、
:炭素数3〜5のアルキル基
:分子中に1〜5個のオキシエチレン単位のみ又は合計2〜7個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する(ポリ)アルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0013】
空気量調節剤:下記の化2で示される有機リン酸エステルを5〜90質量%、下記の化3で示されるポリエーテル化合物を0.01〜10質量%及び下記のポリビニール系水溶性重合体を5〜94.99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る混合物
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
化2及び化3において、
:炭素数8〜18のアルキル基
:炭素数8〜20の脂肪族炭化水素基
,M:水素原子、アルカリ金属又は有機アミン
:分子中に合計23〜70個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とがブロック状に結合したポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0017】
ポリビニール系水溶性重合体:ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコール
【0018】
本発明に係る収縮低減性AEコンクリート組成物(以下、単に本発明のAEコンクリート組成物という)はセメント、水、細骨材、粗骨材、セメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気量調節剤を含有して成るものである。これらのうちで、本発明のAEコンクリート組成物に供するセメント分散剤は、1)セメント分散剤A、2)セメント分散剤B、3)セメント分散剤Aとセメント分散剤Bとの混合物が挙げられる。
【0019】
セメント分散剤Aとしては、1)構成単位Dと構成単位Eとで構成された水溶性ビニル共重合体から成るセメント分散剤、2)構成単位Dと構成単位Eと構成単位Fとで構成された水溶性ビニル共重合体から成るセメント分散剤が挙げられる。
【0020】
構成単位Dとしては、1)メタクリル酸から形成された構成単位、2)メタクリル酸塩から形成された構成単位、3)メタクリル酸から形成された構成単位とメタクリル酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここでメタクリル酸塩から形成された構成単位としては、イ)メタクリル酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)メタクリル酸のカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩から形成された構成単位、ハ)メタクリル酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位等が挙げられる。なかでも、構成単位Dとしては、メタクリル酸塩から形成された構成単位が好ましく、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位がより好ましい。
【0021】
構成単位Eは、分子中に炭素数1〜3のアルキル基と5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基とを有するアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である。かかるアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位としては、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位、エトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位、プロポキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位、イソプロポキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位等が挙げられる。なかでも、構成単位Eとしては、分子中に7〜75個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位が好ましい。
【0022】
構成単位Fとしては、1)(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位、2)メチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位、3)(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位とメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位の双方が挙げられる。かかる(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位としては、アリルスルホン酸塩から形成された構成単位、メタリルスルホン酸塩から形成された構成単位が挙げられ、また塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。
【0023】
セメント分散剤Aが以上説明したような構成単位Dと構成単位Eとで構成された水溶性ビニル共重合体から成る場合、かかる水溶性ビニル共重合体は分子中に構成単位Dを45〜85モル%、構成単位Eを15〜55モル%(合計100モル%)の割合で有するものとするが、構成単位Dを50〜80モル%、構成単位Eを20〜50モル%(合計100モル%)の割合で有するものとするのが好ましい。またセメント分散剤Aが以上説明したような構成単位Dと構成単位Eと構成単位Fとで構成された水溶性ビニル共重合体から成る場合、かかる水溶性ビニル共重合体は分子中に構成単位Dを45〜85モル%、構成単位Eを15〜55モル%、構成単位Fを5モル%以下(合計100モル%)の割合で有するものとするが、構成単位Dを50〜80モル%、構成単位Eを20〜50モル%、構成単位Fを0.3〜4.5モル%(合計100モル%)の割合で有するものとするのが好ましい。いずれの場合も、以上説明した水溶性ビニル共重合体は、質量平均分子量が2000〜70000のものとするが、3000〜50000のものとするのが好ましい。
【0024】
セメント分散剤Bは、構成単位Gと構成単位Hとで構成された水溶性ビニル共重合体から成るセメント分散剤である。構成単位Gとしては、1)マレイン酸から形成された構成単位、2)マレイン酸塩から形成された構成単位、3)マレイン酸から形成された構成単位とマレイン酸塩から形成された構成単位の双方が挙げられる。ここでマレイン酸塩から形成された構成単位としては、イ)マレイン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩から形成された構成単位、ロ)マレイン酸のカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩から形成された構成単位、ハ)マレイン酸のジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩から形成された構成単位等が挙げられるが、なかでもマレイン酸のアルカリ金属塩から形成された構成単位が好ましく、マレイン酸のナトリウム塩から形成された構成単位がより好ましい。
【0025】
構成単位Hとしては、1)分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位、2)分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位、3)前記1)の構成単位と前記2)の構成単位の双方が挙げられる。なかでも、構成単位Hとしては、分子中に12〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位が好ましい。
【0026】
セメント分散剤Bは、分子中に以上説明したような構成単位Gを40〜60モル%、構成単位Hを40〜60モル%(合計100モル%)の割合で有する水溶性ビニル共重合体とするが、構成単位Gを45〜55モル%、構成単位Hを55〜45モル%(合計100モル%)の割合で有する水溶性ビニル共重合体とするのが好ましい。セメント分散剤Bとして供する以上説明した水溶性ビニル共重合体は、質量平均分子量が2000〜50000のものとするが、3000〜40000のものとするのが好ましい。
【0027】
以上説明したセメント分散剤AやBそれ自体は公知の方法で合成できる。例えば、セメント分散剤Aの合成には、特開昭58−74552号公報や特開平1−226757号公報に記載されているような方法が適用できる。またセメント分散剤Bの合成には、特公昭58−38380号公報や特開2005−132955号公報に記載されているような方法が適用できる。
【0028】
本発明のAEコンクリート組成物に供する乾燥収縮低減剤は、化1で示される(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルである。化1中のRは炭素数3〜5のアルキル基である。これには例えは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基等が挙げられるが、なかでもノルマルブチル基が好ましい。また化1中のAは、1)分子中に1〜5個のオキシエチレン単位のみで構成された(ポリ)オキシエチレン基を有する(ポリ)エチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基、2)分子中に合計2〜7個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成されたポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である。ここで、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の結合様式はランダム状でもブロック状でもよい。以上説明した乾燥収縮低減剤のなかでもジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0029】
本発明のAEコンクリート組成物に供する空気量調節剤は、化2で示される有機リン酸エステルと化3で示されるポリエーテル化合物とポリビニール系水溶性重合体とから成る混合物である。
【0030】
化2で示される有機リン酸エステルにおいて、化2中のRは炭素数8〜18のアルキル基とするが、炭素数8〜16のアルキル基が好ましい。また化2中のM及びMは水素原子、アルカリ金属又は有機アミンである。したがって、化2で示される有機リン酸エステルには、アルキルリン酸モノエステル、該アルキルリン酸モノエステルの塩が含まれる。
【0031】
化2で示される有機リン酸エステルそれ自体は公知の方法で合成できる。例えば、炭素数8〜18の高級アルコールに無水リン酸を反応させた後、有機溶媒を用いて再結晶することにより、アルキルリン酸モノエステルを合成する方法が挙げられ、またこのアルキルリン酸モノエステルを水酸化アルカリで中和することにより、アルキルリン酸モノエステルのアルカリ金属塩を合成する方法が挙げられる。
【0032】
化3で示されるポリエーテル化合物において、化3中のRとしては、1)炭素数8〜20の飽和脂肪族炭化水素基、2)炭素数8〜20の不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられるが、炭素数12〜18の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。また化3中のAは分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成され且つ該オキシエチレン単位と該オキシプロピレン単位とがブロック状に結合したポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である。Aを構成するオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の合計数は23〜70とするが、25〜60とするのが好ましい。
【0033】
化3で示されるポリエーテル化合物それ自体は公知の方法で合成できる。例えば、炭素数8〜20の脂肪族アルコール1モルに対してエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドを合計で23〜70モルの割合となるようブロック状に付加させる方法が挙げられる。
【0034】
空気量調節剤を構成するポリビニール系水溶性重合体は、ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコールである。なかでもその4質量%水溶液の20℃における粘度が1〜50mPa・sのものが好ましく、1〜30mPa・sのものがより好ましい。
【0035】
本発明のAEコンクリート組成物に供する空気量調節剤は、以上説明した化2で示される有機リン酸エステルと化3で示されるポリエーテル化合物とポリビニール系水溶性重合体とから成る混合物であって、化2で示される有機リン酸エステルを5〜90質量%、好ましくは20〜80質量%、化3で示されるポリエーテル化合物を0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、及びポリビニール系水溶性重合体を5〜94.99質量%、好ましくは20〜79.9質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである。
【0036】
本発明のAEコンクリート組成物は、以上説明したようなセメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気量調節剤の他に、セメント、水、細骨材及び粗骨材を含有して成るものである。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントの他に、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の各種混合セメント、更には超早強セメントやアルミナセメント等が挙げられる。必要に応じて、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム微粉末等の潜在水硬性物質、石灰石微粉末等を併用することもできる。細骨材としては、川砂、山砂、海砂、砕砂等が挙げられ、粗骨材としては、川砂利、砕石、軽量骨材等が挙げられる。
【0037】
本発明のAEコンクリート組成物は、セメント100質量部当たり、前記したセメント分散剤を0.1〜1.5質量部、好ましくは0.15〜0.8質量部、前記した乾燥収縮低減剤を0.5〜10質量部、好ましくは1〜6質量部、及び前記した空気調節剤を0.01〜1.0質量部、好ましくは0.02〜0.4質量部の割合で含有するものとする。
【0038】
また本発明のAEコンクリート組成物において、連行空気量は3〜8容量%とするが、4〜7容量%とするのが好ましい。
【0039】
更に本発明のAEコンクリート組成物において、水/セメント比は35〜65%とするが、40〜55%とするのが好ましい。
【0040】
更にまた本発明のAEコンクリート組成物は、得られる硬化体の圧縮強度が材齢28日で20〜55N/mmの範囲内となるものが好ましく、また得られる硬化体の気泡間隔係数が100〜350μmの範囲内となるものが好ましい。
【0041】
本発明のAEコンクリート組成物は、公知の方法で調製できるが、一方でセメント、水、細骨材及び粗骨材をミキサーで空練りし、他方でセメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気連行剤を練り混ぜ水で希釈して、しかる後に双方を練り混ぜる方法が好ましい。本発明のAEコンクリート組成物の調製に際しては、本発明の効果を損なわない範囲内で、凝結促進剤、凝結遅延剤、防水剤、防腐剤、防錆剤等の他の添加剤を併用することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明のAEコンクリート組成物は、優れた流動性を有すると共に得られる硬化体が優れた圧縮強度を発現し、しかもその上で得られる硬化体の乾燥収縮率が低く、また得られる硬化体の凍結融解作用に対する抵抗性が強く、更に得られる硬化体の中性化速度が遅いという多機能を同時に充足する。
【0043】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0044】
試験区分1(セメント分散剤としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・水溶性ビニル共重合体(A−1)の合成
メタクリル酸57g、メトキシポリ(オキシエチレン単位が23個、以下n=23)エチレングリコールメタクリレート313g及びメタリルスルホン酸ナトリウム6.5g、3−メルカプトプロピオン酸4.5g及び水540gを反応容器に仕込んだ後、48%水酸化ナトリウム水溶液33gを加え、攪拌しながら部分中和して均一に溶解した。反応容器内の雰囲気を窒素置換した後、反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液25gを加えてラジカル重合反応を開始し、5時間反応を継続して反応を終了した。その後、48%水酸化ナトリウム水溶液26gを加えて反応物を完全中和し、水溶性ビニル共重合体(A−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(A−1)を分析したところ、メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位/メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位/メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位=66/30/4(モル%)の割合で有する質量平均分子量32600の水溶性ビニル共重合体であった。
【0045】
・水溶性ビニル共重合体(A−2)〜(A−6)及び(a−1)〜(a−3)の合成
水溶性ビニル共重合体(A−1)の場合と同様にして、表1記載の水溶性ビニル共重合体(A−2)〜(A−6)及び(a−1)〜(a−3)の40%水溶液を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
表1において、
D−1:メタクリル酸ナトリウムから形成された構成単位
D−2:メタクリル酸から形成された構成単位
E−1:メトキシポリ(n=23)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
E−2:メトキシポリ(n=68)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
E−3:メトキシポリ(n=10)エチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
F−1:メタリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
F−2:アリルスルホン酸ナトリウムから形成された構成単位
F−3:メチルアクリレートから形成された構成単位
【0048】
・水溶性ビニル共重合体(B−1)の合成
無水マレイン酸98g(1.0モル)及びα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)512gを反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水中にて80℃に保ち、アゾビスイソブチロニトリル3gを投入しラジカル重合反応を開始した。更にアゾビスイソブチロニトリル5gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して反応を完結した。得られた共重合体に水を加えて加水分解して、水溶性ビニル共重合体(B−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(B−1)を分析したところ、マレイン酸から形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量23500の水溶性ビニル共重合体であった。
【0049】
・水溶性ビニル共重合体(B−1)〜(B−6)及び(b−1)〜(b−3)の合成
水溶性ビニル共重合体(B−1)の場合と同様にして、表2記載の水溶性ビニル共重合体(B−1)〜(B−6)及び(b−1)〜(b−3)の40%水溶液を合成した。
【0050】
【表2】

【0051】
表2において、
G−1:マレイン酸から形成された構成単位
G−2:マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位
H−1:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位
H−2:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=55)から形成された構成単位
H−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=68)から形成された構成単位
H−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=20)から形成された構成単位
H−5:α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=15)から形成された構成単位
【0052】
試験区分2(空気量調節剤の調製)
・空気量調節剤(T−1)の調製
ガラス容器にオクチルリン酸モノエステルのカリウム塩(L−1)25部、α−オレイル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=6)ポリオキシプロピレン(オキシプロピレン単位が43個、以下m=43、尚付加形態はブロック状)(Q−1)0.3部、ポリビニール系水溶性重合体(S−1)74.7部、水900部を投入して混合し、空気量調節剤(T−1)の10%水溶液を調製した。
【0053】
・空気量調節剤(T−2)〜(T−6)及び(t−1)〜(t−3)の調製
空気量調節剤(T−1)の調製の場合と同様にして、表3記載の空気量調節剤(T−2)〜(T−6)及び(t−1)〜(t−3)の10%水溶液を調製した。
【0054】
【表3】

【0055】
表3において、
L−1:オクチルリン酸モノエステルカリウム塩
L−2:ラウリルリン酸モノエステル
Q−1:α−オレイル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=6)ポリオキシプロピレン(m=43)ブロック状付加体
Q−2:α−ラウリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(n=3)ポリオキシプロピレン(m=32)ブロック状付加体
S−1:鹸化度88モル%、4%水溶液の20℃における粘度が5mPa・sのポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJP−05)
S−2:鹸化度88モル%、4%水溶液の20℃における粘度が25mPa・sのポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJP−18)
S−3:鹸化度99モル%、4%水溶液の20℃における粘度が10mPa・sのポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製の商品名J−ポバールJP−10)
【0056】
試験区分3(AEコンクリート組成物の調製及び評価)
実施例1〜26及び比較例1〜16
表4に記載した調合条件で、50リットルのパン型強制練りミキサーに普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm、ブレーン値3300)、細骨材(大井川水系砂、密度=2.58)及び粗骨材(岡崎産砕石、密度=2.68)を順次投入して15秒間空練りした。次いで、目標スランプが18±1cm、目標空気量が5.5±1.5%、すなわち4〜7%の範囲となるよう、試験区分1で調製したセメント分散剤、試験区分2で調製した空気量調節剤及び乾燥収縮低減剤のそれぞれ所定量を練り混ぜ水で希釈した後に投入して練り混ぜ、各例のAEコンクリート組成物を調製した。調製した各例のAEコンクリート組成物の内容を表5にまとめて示した。






【0057】
【表4】

【0058】
・AEコンクリート組成物の物性評価
調製した各例のAEコンクリート組成物について、連行空気量、スランプ、スランプ残存率を下記のように求め、結果を表5にまとめて示した。また、各例のAEコンクリート組成物から得た硬化体について、乾燥収縮率、気泡間隔係数、凍結融解耐久性指数、促進中性化深さ及び圧縮強度を下記のように求め、結果を表6にまとめて示した。
【0059】
・連行空気量(容量%):練り混ぜ直後のもの及び90分間静置後のものについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・スランプ(cm):連行空気量の測定と同時に、JIS−A1101に準拠して測定した。
・スランプ残存率(%):(90分間静置後のスランプ/練り混ぜ直後のスランプ)×100で求めた。
・乾燥収縮率:JIS−A1129に準拠し、各例のAEコンクリート組成物を20℃×60%RHの条件下で保存した材齢26週の供試体についてコンパレータ法により乾燥収縮ひずみを測定し、乾燥収縮率を求めた。この数値は小さいほど、乾燥収縮が小さいことを示す。
・気泡間隔係数(μm):各例のAEコンクリート組成物を20℃×60%RHの条件下で26週間保存し、得られた硬化体の表面を研磨仕上げした供試体について、気泡組織を顕微鏡で観察し、ASTM−C457のリニアトラバース法に準拠して測定した。
・凍結融解耐久性指数(300サイクル):各例のAEコンクリート組成物について、JIS−A1129付属書2に準拠して測定した値を用い、ASTM−C666−75の耐久性指数で計算した数値を求めた。この数値は、最大値が100で、100に近いほど、凍結融解に対する抵抗性が優れていることを示す。
・促進中性化深さ(mm):各例のAEコンクリート組成物について、10×10×40cmの角型供試体の上面を残して他の5面をエポキシ樹脂でシールし、20℃×60%RH、炭酸ガス濃度5%の条件下で促進試験を行なった。材齢13週に供試体を切断し、1%フェノールフタレイン溶液を吹き付けて赤色化しない部分を中性化しない部分とし、外側からの幅を促進中性化深さとした。この数値は小さいほど中性化が進まず、耐久性が優れていることを示す。
・圧縮強度(N/mm):各例のAEコンクリート組成物について、JIS−A1108に準拠し、材齢7日と材齢28日で測定した。









【0060】
【表5】

【0061】
表5において、
*1:セメント100質量部に対する各剤の固形分換算した添加質量部
*2:目標とする流動性(スランプ値)が得られなかったので測定しなかった
*3:AE剤(竹本油脂社製のアルキルエーテルサルフェート系AE剤、商品名AE−200)
*4:消泡剤(竹本油脂社製のコンクリート用消泡剤、商品名AFK−2)
J−1:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
J−2:ジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテル
J−3:プロピレングリコールジエチレングリコールモノプロピルエーテル
【0062】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、細骨材、粗骨材、セメント分散剤、乾燥収縮低減剤及び空気量調節剤を含有する連行空気量が3〜8容量%の収縮低減性AEコンクリート組成物であって、水/セメント比が35〜65%であり、且つセメント100質量部当たり下記のセメント分散剤を0.1〜1.5質量部、下記の乾燥収縮低減剤を0.5〜10質量部及び下記の空気量調節剤を0.01〜1.0質量部の割合で含有して成ることを特徴とする収縮低減性AEコンクリート組成物。
セメント分散剤:下記のセメント分散剤A及び下記のセメント分散剤Bから選ばれる一つ又は二つ以上
セメント分散剤A:分子中に下記の構成単位Dを45〜85モル%、下記の構成単位Eを15〜55モル%及び下記の構成単位Fを0〜5モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜70000の水溶性ビニル共重合体
構成単位D:メタアクリル酸から形成された構成単位及びメタアクリル酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位E:分子中に炭素数1〜3のアルキル基と5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基とを有するアルコキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位
構成単位F:(メタ)アリルスルホン酸塩から形成された構成単位及びメチル(メタ)アクリレートから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
セメント分散剤B:分子中に下記の構成単位Gを40〜60モル%及び下記の構成単位Hを40〜60モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜50000の水溶性ビニル共重合体
構成単位G:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位H:いずれも分子中に5〜100個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するものである、α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及びα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
乾燥収縮低減剤:下記の化1で示される(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル
【化1】

(化1において、
:炭素数3〜5のアルキル基
:分子中に1〜5個のオキシエチレン単位のみ又は合計2〜7個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する(ポリ)アルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基)
空気量調節剤:下記の化2で示される有機リン酸エステルを5〜90質量%、下記の化3で示されるポリエーテル化合物を0.01〜10質量%及び下記のポリビニール系水溶性重合体を5〜94.99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る混合物
【化2】

【化3】

(化2及び化3において、
:炭素数8〜18のアルキル基
:炭素数8〜20の脂肪族炭化水素基
,M:水素原子、アルカリ金属又は有機アミン
:分子中に合計23〜70個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とがブロック状に結合したポリオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基)
ポリビニール系水溶性重合体:ポリ酢酸ビニルから合成された鹸化度80〜95モル%のポリビニルアルコール
【請求項2】
連行空気量が、4〜7容量%である請求項1記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項3】
水/セメント比が、40〜55%である請求項1又は2記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項4】
セメント分散剤が、構成単位Eが分子中に7〜75個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレートから形成された構成単位である場合のセメント分散剤Aから選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項5】
セメント分散剤が、構成単位Hが分子中に12〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位である場合のセメント分散剤Bから選ばれる一つ又は二つ以上である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項6】
乾燥収縮低減剤が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はジプロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテルである請求項1〜5のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項7】
空気量調節剤が、有機リン酸エステルを20〜80質量%、ポリエーテル化合物を0.1〜5質量%及びポリビニール系水溶性重合体を20〜79.9質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る混合物である請求項1〜6のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項8】
ポリビニール系水溶性重合体が、その4質量%水溶液の20℃における粘度が1〜50mPa・sのものである請求項1〜7のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項9】
セメント100質量部当たり、セメント分散剤を0.15〜0.8質量部、乾燥収縮低減剤を1〜6質量部及び空気量調節剤を0.02〜0.4質量部の割合で含有して成る請求項1〜8のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。
【請求項10】
得られる硬化体の気泡間隔係数が、100〜350μmの範囲内となるものである請求項1〜9のいずれか一つの項記載の収縮低減性AEコンクリート組成物。

【公開番号】特開2008−273766(P2008−273766A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117060(P2007−117060)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】