説明

受信信号積算方法及び受信装置

【課題】周期ずれを考慮した適切な受信信号積算手法を提案すること。
【解決手段】GPS衛星信号の受信信号がサンプリング時間間隔である1クロック毎にサンプリングされて複数のサンプリングデータが取得される。そして、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードの想定周期で受信信号を時分割した場合のコード周期を異にするサンプリングデータ組を用いて、各コード周期それぞれについて、CAコードの真の周期と想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数が算出される。そして、受信信号が周期ずれ係数を用いて積算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信信号積算方法及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵されたGPS受信装置に利用されている。GPS受信装置は、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から受信装置までの擬似距離等の情報に基づいて受信装置の位置を示す3次元の座標値と時計誤差とを求める位置算出処理を行う。
【0003】
GPS衛星信号は、スペクトラム拡散変調方式として古くから知られるCDMA(CodeDivision Multiple Access)方式で拡散変調された通信信号の一種である。受信信号からGPS衛星信号を捕捉する際には、受信信号と、GPS衛星信号の拡散符号であるCA(Coarse and Acquisition)コードのレプリカ信号との相関処理を、周波数及びコード位相を変化させながら行って(いわゆる周波数方向及び位相方向の相関演算。周波数サーチや位相サーチとも呼ばれる。)決定する手法が一般的である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−256111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GPS衛星信号の受信信号が弱電界となる環境(例えばインドア環境、以下「弱電界環境」と称す。)では受信信号が微弱であるため、相関処理を行うことで得られる相関値に差が現れず、相関値のピークが埋もれてしまう場合がある。そこで、弱電界環境等においては、受信信号を所定期間に亘って積算し、積算した信号に対する相関処理を行うことで、相関値のピークの判別を容易にする手法が用いられる。
【0006】
ところで、GPS衛星信号の搬送波周波数は1.57542[GHz]である。また、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、チップレートは1.023[MHz]である。従って、理論上は、1チップ当たりの搬送波の周期数は1540周期であり、CAコードの1コード周期当たりでは1540×1023=1,575,420周期である。
【0007】
しかし、GPS衛星信号を実際に受信した際の受信周波数には、いわゆるドップラー周波数や、ローカルクロックの誤差(時計誤差)に起因する周波数誤差が含まれる。これらの周波数誤差の存在により、本来繰り返し周期1msであるはずのCAコード1周期分を受信機側で推測したコード周期(以下、この周期を「想定周期」と称する。)は、真の周期からずれることとなる。搬送波が1,575,420周期する毎にCAコードは1コード周期となり、この周期が「真の周期」となる。しかし、受信機は搬送波の周期をカウントしてコード周期を決定しているわけではない。コード周期は、搬送波の周期をカウントせずに、想定して決定している。より詳細には、コード周期を直接想定するのではなく、周波数を決定することで、等価的にコード周期を想定している。
【0008】
このため、想定周期で受信信号を時分割した場合、搬送波が1,575,420周期ちょうどで時分割されるとは限らず、いくらかの位相のずれが生じる。すなわち、コード周期を想定して時分割しているために、あるコード周期の開始時点における搬送波の位相と、次のコード周期の開始時点における搬送波の位相との間にはずれが生じる(以下、このずれのことを「周期ずれ」と称する。)。周期ずれは、CAコードの真の周期と想定周期とのずれと等価である。上記のように、コード周期の想定とは、受信周波数を求めることとも言える。受信周波数に周波数誤差が含まれることにより、周期ずれが生じるのである。
【0009】
弱電界環境において、相関値のピークの判別を容易にするために受信信号を積算しようとしても、周期ずれが生じた状態で受信信号を積算した場合には、受信信号の振幅が却って小さくなる場合がある。周期を正確に把握できずに積算していくと、積算する信号の位相がずれていき、振幅の正負が入れ替わった信号を積算してしまう可能性があるためである。また、周期ずれが生じた状態で受信信号を積算し、相関処理を行った場合、判別された相関値のピークが正しい結果でない可能性もある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、周期ずれを考慮した適切な受信信号積算手法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するための第1の形態は、衛星信号を受信する際に前記衛星信号の拡散符号の符号周期時間を推測した想定周期で前記衛星信号の受信信号を時分割した場合に、前記受信信号のうちの第1受信信号部分と前記第1受信信号部分とは想定周期が異なる第2受信信号部分とを用いて、前記拡散符号の真の周期と前記想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数を算出することと、前記受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算することと、を含む受信信号積算方法である。
【0012】
この第1の形態によれば、衛星信号の拡散符号の想定周期で衛星信号の受信信号を時分割した場合に、受信信号のうちの第1受信信号部分と、想定周期が異なる第2受信信号部分とを用いて、拡散符号の真の周期と想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数を算出する。そして、受信信号を周期ずれ係数を用いて積算する。
【0013】
周期ずれは、衛星信号の拡散符号の真の周期と想定周期との差である。詳細は後述するが、本願発明者は、拡散符号の想定周期で衛星信号の受信信号を時分割することで得られる受信信号部分のうち、想定周期が異なる受信信号部分を用いることで、周期ずれを表す係数(指数)が算出可能であることを発見した。この周期ずれ係数を用いて受信信号を積算することで、周期ずれを考慮した適切な積算受信信号を得ることができる。
【0014】
また、第2の形態として、第1の形態の受信信号積算方法であって、前記受信信号を積算することは、前記第1受信信号部分及び前記第2受信信号部分と前記周期ずれ係数とを積和することで前記受信信号を積算した信号を生成することである、受信信号積算方法を構成してもよい。
【0015】
この第2の形態によれば、第1受信信号部分及び第2受信信号部分と周期ずれ係数とを積和することで、受信信号を積算した信号を生成する。受信信号部分に周期ずれ係数を乗算することで、周期ずれに起因する誤差成分を除去することができる。そのため、受信信号を積算した信号は、周期ずれに起因する信号劣化の生じていない高品質な信号となる。
【0016】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の受信信号積算方法であって、前記周期ずれ係数を算出することは、前記受信信号のうち、前記想定周期がn個分(nは自然数)異なる前記第2受信信号部分それぞれについての前記周期ずれ係数を算出することを含み、前記受信信号を積算することは、前記想定周期がn個分異なる前記第2受信信号部分それぞれを積算する際に、対応する前記周期ずれ係数を用いて積算することを含む受信信号積算方法を構成してもよい。
【0017】
この第3の形態によれば、拡散符号の想定周期がn個分異なる第2受信信号部分それぞれについての周期ずれ係数を算出する。そして、想定周期がn個分異なる第2受信信号部分それぞれを積算する際に、対応する周期ずれ係数を用いて積算する。複数の受信信号部分を周期ずれ係数を用いて積算することで、より品質の高い積算信号を得ることができる。
【0018】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の受信信号積算方法であって、前記周期ずれ係数を算出することは、前記第1及び前記第2受信信号部分において、前記想定周期内で同一タイミングとなる信号部分を用いて、前記周期ずれ係数を算出することを含む、受信信号積算方法を構成してもよい。
【0019】
この第4の形態によれば、第1及び第2受信信号部分において、想定周期内で同一タイミングとなる信号部分を用いて、周期ずれ係数を算出する。想定周期内でタイミングが一致する信号部分を用いることで、周期ずれ係数を適切に算出することができる。
【0020】
また、第5の形態として、第1〜第4の何れかの形態の受信信号積算方法であって、前記周期ずれ係数を算出することは、前記第1受信信号部分と、前記第2受信信号部分の複素共役とを乗算することで前記周期ずれ係数を算出することを含む、受信信号積算方法を構成してもよい。
【0021】
この第5の形態によれば、第1受信信号部分と、第2受信信号部分の複素共役とを乗算するといった簡易な演算により、周期ずれ係数を算出することができる。
【0022】
また、第6の形態として、第4の形態の受信信号積算方法であって、前記周期ずれ係数を算出することは、前記第1受信信号部分のうちの前記想定周期内で異なるタイミングとなる信号部分と、第n番目(nは自然数)の前記第2受信信号部分のうちの対応する同一タイミングとなる信号部分の複素共役とを乗算することと、第n番目の前記第2受信信号部分に関して得られた前記各タイミングの前記乗算結果の平均を、前記第1受信信号部分と第n番目の前記第2受信信号部分との周期ずれ係数とすることと、を含む、受信信号積算方法を構成してもよい。
【0023】
この第6の形態によれば、第1受信信号部分のうちの想定周期内で異なるタイミングとなる信号部分と、第n番目の第2受信信号部分のうちの対応する同一タイミングとなる信号部分の複素共役とを乗算する。そして、第n番目の第2受信信号部分に関して得られた各タイミングの乗算結果の平均を、第1受信信号部分と第n番目の第2受信信号部分との周期ずれ係数とする。このような処理を行うことで、より正確な周期ずれ係数を算出することができる。
【0024】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の受信信号積算方法であって、前記受信信号を積算することは、前記衛星信号の搬送波が除去されていない状態の受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算することである、受信信号積算方法を構成してもよい。
【0025】
この第7の形態によれば、衛星信号の搬送波が除去されていない状態の受信信号を周期ずれ係数を用いて積算する。受信信号から衛星信号の搬送波を除去する必要がないため、衛星信号の受信回路の簡素化が実現される。
【0026】
また、第8の形態として、衛星信号を受信する際に前記衛星信号の拡散符号の符号周期時間を推測した想定周期で前記衛星信号の受信信号を時分割した場合に、前記受信信号のうちの第1受信信号部分と前記第1受信信号部分とは前記想定周期が異なる第2受信信号部分とを用いて、前記拡散符号の真の周期と前記想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数を算出する周期ずれ係数算出部と、前記受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算する受信信号積算部と、前記受信信号積算部により積算された信号に対する相関処理を行う相関処理部と、前記相関処理の結果に基づいて前記衛星信号を捕捉する捕捉部と、を備えた受信装置を構成してもよい。
【0027】
この第8の形態によれば、周期ずれ係数算出部により、拡散符号の真の周期と想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数が算出される。そして、受信信号積算部により周期ずれ係数を用いて受信信号が積算され、積算された信号に対する相関処理が、相関処理部により行われる。そして、捕捉部により、相関処理の結果に基づいて衛星信号が捕捉される。かかる構成により、第1の形態と同様の効果が発揮されるとともに、周期ずれを考慮した積算受信信号に対する相関処理を行うことで、衛星信号を捕捉するための相関値を適切に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】受信信号積算の原理の説明図。
【図2】受信信号積算処理の流れを示すフローチャート。
【図3】周期ずれ係数算出の原理の説明図。
【図4】受信信号積算の原理の説明図。
【図5】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図6】ベースバンド処理回路部の回路構成の一例を示す図。
【図7】周期ずれ係数算出処理の流れを示すフローチャート。
【図8】受信信号積算処理の流れを示すフローチャート。
【図9】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図10】コード位相検出処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。以下では、GPS(Global Positioning System)衛星から発信されているGPS衛星信号を受信・捕捉するGPS受信装置に本発明を適用した場合について説明する。尚、本発明を適用可能な実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0030】
1.原理
先ず、本実施形態における受信信号積算の原理について説明する。
GPS衛星は、測位用衛星の一種であり、6つの地球周回軌道面それぞれに4機以上ずつ配置され、原則、地球上のどこからでも常時4機以上の衛星が幾何学的配置のもとで観測できるように運用されている。
【0031】
GPS衛星は、アルマナックやエフェメリス等の航法メッセージを、測位用信号の一種であるGPS衛星信号に含めて発信している。GPS衛星信号は、拡散符号の一種であるCA(Coarse and Acquisition)コードによって、スペクトラム拡散方式として知られるCDMA(Code Division Multiple Access)方式によって変調された1.57542[GHz]の通信信号である。CAコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音符号であり、GPS衛星毎に異なるものである。
【0032】
GPS衛星がGPS衛星信号を発信する際の周波数(搬送波周波数)は、1.57542[GHz]と予め規定されているが、GPS衛星やGPS受信装置の移動により生ずるドップラーの影響等により、GPS受信装置がGPS衛星信号を受信する際の周波数は、必ずしも搬送波周波数とは一致しない。そのため、従来のGPS受信装置は、受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉するための周波数方向の相関演算である周波数サーチ及び位相方向の相関演算である位相サーチを行ってGPS衛星信号を捕捉する。
【0033】
周波数サーチ及び位相サーチでは、受信信号とGPS衛星信号の拡散符号のレプリカであるレプリカコードの発生信号との相関処理を行って相関値を取得し、相関値が最大となった周波数及び位相を検出する。GPS衛星信号の受信信号が強電界の信号となる環境(例えば屋外環境、以下「強電界環境」と称す。)では、受信信号に対して相関処理を行った場合に相関値に明確な差が現れやすいため、相関値のピーク検出は比較的容易である。
【0034】
しかし、GPS衛星信号の受信信号が弱電界の信号となる環境(例えば屋内環境、以下「弱電界環境」と称す。)では、受信信号に対して相関処理を行った場合に相関値に明確な差が現れず、相関値のピークの判別が容易ではない場合が多い。そのため、弱電界環境等では、受信信号を所定期間に亘って積算し、積算した受信信号(以下、「積算受信信号」と称す。)に対して相関処理を行って相関値を取得する手法が用いられる。
【0035】
図1は、従来における受信信号積算の概念の説明図である。GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードは周期性を有している。具体的には、コード長1023チップを1PNフレームとし、繰返し周期を1msとして、GPS衛星から繰り返し送信されている。そのため、GPS衛星信号の受信信号をCAコードの周期時間間隔で足し上げていけば、振幅(パワー)が大きな積算信号が得られるはずである。
【0036】
具体的に説明すると、GPS衛星信号の受信信号を所定のサンプリング時間間隔でサンプリングすることで、受信信号のサンプリングデータを取得する。本実施形態では、受信信号のサンプリング単位を「クロック」と称し、1クロックの経過時間を「T」で表す。サンプリングの時間間隔(すなわち時間T)は、CAコードの1チップ分の時間間隔としてもよいし、1チップをより細かく細分化した時間間隔としてもよい。
【0037】
ここで、時刻「t」における受信信号「r(t)」は、次式(1)のように表現することができる。
【数1】

式(1)において、「I(t)」と「Q(t)」はそれぞれ受信信号「r(t)」のIQ成分を示している。すなわち「I(t)」は受信信号「r(t)」の同相成分(実部)を示し、「Q(t)」は「r(t)」の直交成分(虚部)を示す。「CA(t)」はGPS衛星信号のCAコードを示しており、「+1」と「−1」の何れかの値である。また、「exp(iωt)」は、GPS衛星信号の搬送波を表す項である。
【0038】
式(1)において「ω」は受信信号の周波数であり、次式(2)で表される。
【数2】

但し、「ωc」はGPS衛星信号の搬送波周波数であり、「ωd」は周波数誤差(例えば、ドップラー周波数やローカルクロックの誤差(時計誤差))である。
【0039】
受信信号「r(t)」を1クロック毎にサンプリングしていき、1つのCAコードの周期につき、例えばM+1(m=0,1,2,・・・,M)個のサンプリングデータを取得する。そして、例えばN+1(n=0,1,2,・・・,N)周期分サンプリングを行うと、全部で(M+1)×(N+1)個のサンプリングデータが得られる。
【0040】
注意しなければならないのは、ここで言うCAコードの周期は、GPS受信装置がCAコードの周期時間を推測した周期(想定周期)であって、CAコードの真の周期とは異なることである。前述したように、GPS受信装置は、GPS衛星信号の周波数を決定することで、等価的にCAコードの周期を決定している。しかし、ドップラーの影響によりGPS受信装置がGPS衛星信号を受信する際の周波数は搬送波周波数とは完全に一致しない。そのため、見かけ上のCAコードの周期はCAコードの真の周期と乖離する場合がある。
【0041】
また、GPS受信装置内のローカルクロックの誤差(時計誤差)により、GPS受信装置が内部で計測した1msの周期が正確ではなく、想定周期と真の周期とが乖離する場合もある。そのため、通常は、真の周期と想定周期との間には「周期ずれ」が生ずる。この周期ずれは、前述したように、あるコード周期の開始時点における搬送波の位相と、別のコード周期の開始時点における搬送波の位相とのずれと等価である。
【0042】
本実施形態では、CAコードの想定周期「TCA」でGPS衛星信号の受信信号「r(t)」を時分割した場合における各想定周期の番号「n」を「コード周期番号」と称し、各コード周期における受信信号のサンプリングの番号「m」を「サンプリング番号」と称する。但し、「n」と「m」は共に自然数である。
【0043】
そして、コード周期番号「n」におけるサンプリング番号「m」のサンプリングデータを「rn,m(t)」と表記する。すなわち、コード周期番号及びサンプリング番号をこの順で下付きの添え字で表し、対応する時刻を括弧書きで表す。また、対応するCAコードを「CAn,m(t)」と表記する。
【0044】
図1では、第0コード周期(n=0)については{r0,0(t),r0,1(t+T),r0,2(t+2T),・・・,r0,M(t+MT)}の「M+1個」のサンプリングデータが得られる。同様に、第1コード周期(n=1)については{r1,0(t+TCA),r1,1(t+T+TCA),r1,2(t+2T+TCA),・・・,r1,M(t+MT+TCA)}が,・・・,第Nコード周期(n=N)については{rN,0(t+NTCA),rN,1(t+T+NTCA),rN,2(t+2T+NTCA),・・・,rN,M(t+MT+NTCA)}のサンプリングデータが得られる。すなわち、各コード周期「n」について「M+1個」のサンプリングデータが得られる。
【0045】
次いで、各サンプリング番号「m」それぞれについて、各コード周期(n=0〜N)のサンプリングデータを合算して、積算サンプリングデータ「Rm」を取得する。具体的には、次式(3)に従って積算サンプリングデータ「Rm(t)」を算出する。
【数3】

但し、CAコードの周期性から「CAn,m(t)=CAn,m(t+nTCA)」となる性質を利用している。
【0046】
例えば、サンプリング番号「m=1」に着目して説明する。図1に示すように、第0コード周期のサンプリングデータ「r0,1(t+T)」と、第1コード周期のサンプリングデータ「r1,1(t+T+TCA)」と、第2コード周期のサンプリングデータ「r2,1(t+T+2TCA)」と,・・・,第Nコード周期のサンプリングデータ「rN,1(t+T+NTCA)」とを合算して、積算サンプリングデータ「R1(t+T)」を算出する。
【0047】
ここで、式(3)を見ると、積算サンプリングデータ「Rm(t)」には、「Σexp(iωnTCA)」で表される項が含まれている。この項の絶対値は、次式(4)で表されるように、最大で「N+1」、最小で「0」となる項である。
【数4】

【0048】
従って、「Σexp(iωnTCA)」で表される項の値が「1」よりも小さければ、積算サンプリングデータ「Rm(t)」は、元のサンプリングデータ「rn,m(t)」と比べて値が小さくなる。
【0049】
この意味を考察する。式(4)の「exp(iωnTCA)」は、第0コード周期の開始時点における搬送波の位相と、第nコード周期の開始時点における搬送波の位相とのずれ、すなわち第nコード周期における周期ずれを表していると考えられる。従って、各コード周期における周期ずれの大きさによっては、受信信号を積算した場合に積算した信号の振幅(パワー)が小さくなる場合があることを意味している。
【0050】
上記の計算式からわかるように、このような問題が生ずる原因は、搬送波「exp(iωt)」の存在によるものである。すなわち、受信信号「r(t)」から搬送波「exp(iωt)」を除去せずに受信信号を積算していくと、周期ずれの存在により、信号が強め合うどころか逆に弱め合う場合があるということである。
【0051】
この問題を解決するため、本願発明者は、各コード周期における周期ずれを表す指数として「周期ずれ係数」と呼ぶ係数を算出し、この周期ずれ係数を用いて受信信号を積算する全く新しい受信信号の積算手法を考案した。
【0052】
図2は、本実施形態における受信信号積算処理を示すフローチャートである。
最初に、受信信号のサンプリング処理及び蓄積処理を行う(ステップA1)。具体的には、受信信号を所定のサンプリング時間間隔(1クロック毎のタイミング)でサンプリングし、そのサンプリングデータ「rn,m(t)」を記憶部に蓄積する。
【0053】
次いで、周期ずれ係数算出処理を行う(ステップA3)。周期ずれ係数算出処理では、各コード周期(n=0〜N)それぞれについて、異なるコード周期の受信信号部分を用いて、周期ずれを表す周期ずれ係数を算出する。具体的には、例えば第0コード周期(n=0)を基準コード周期とした場合に、他のコード周期(n=1〜N)の周期ずれ係数「Sn」を、次式(5)に従って算出する。
【数5】

但し、「CA0,m(t)×CAn,m(t+nTCA)=1」となる性質を利用している。また、上付きの添え字の「*」は複素共役を示している。
【0054】
図3は、周期ずれ係数算出の原理の説明図である。基準コード周期(第0コード周期)のサンプリングデータ(第1受信信号部分)と、他のコード周期(第nコード周期)のサンプリングデータ(第2受信信号部分)とを用いて周期ずれ係数を算出する。具体的には、図3に示すように、第0コード周期で異なるタイミングとなる信号部分、すなわち各サンプリング番号「m」(m=0〜M)のサンプリングデータ「r0,m」と、第nコード周期内で対応する同一タイミングとなる信号部分、すなわち対応するサンプリング番号「m」(m=0〜M)のサンプリングデータの複素共役「{rn,m」とを、サンプリング番号「m」を揃えてそれぞれ乗算する。
【0055】
そして、M+1個のサンプリングデータそれぞれについて得られた乗算結果「r0,m・{rn,m」の平均を、基準コード周期(第0コード周期)と第nコード周期との周期ずれ係数「Sn」とする。すなわち、受信信号のうち、各コード周期における受信信号部分としてのサンプリングデータの組のうち、コード周期内で同一タイミングとなるサンプリングデータを用いて、各コード周期それぞれについて周期ずれ係数を算出する。
【0056】
図2の受信信号積算処理に戻って、周期ずれ係数算出処理を行った後、受信信号積算処理を行う(ステップA5)。受信信号積算処理では、受信信号のサンプリングデータ「rn,m」と、周期ずれ係数算出処理で算出された周期ずれ係数「Sn」とを用いて、次式(6)に従って積算サンプリングデータ「Rm」を算出する。
【数6】

但し、「CAn,m(t+nTCA)=CAn,m(t)」となる性質を利用している。
【0057】
図4は、受信信号積算の原理の説明図である。各コード周期それぞれにおけるサンプリングデータ「rn,m」と、対応するコード周期の周期ずれ係数「Sn」とを積和することで積算サンプリングデータ「Rm」を算出する。具体的には、図4に示すように、各サンプリング番号「m」(m=0〜M)それぞれについて、第nコード周期のサンプリングデータ「rn,m」と、第nコード周期の周期ずれ係数「Sn」とを乗算して、乗算値「rn,m・Sn」を算出する。そして、N+1個のコード周期それぞれについて得られた乗算値「rn,m・Sn」を合算することで、各サンプリング番号「m」それぞれについて積算サンプリングデータ「Rm」を算出する。最終的に、各サンプリング番号「m」それぞれについて得られた1周期分の積算サンプリングデータ「Rm」の組が、積算された受信信号(以下、「積算受信信号」と称す。)となる。
【0058】
式(5)からわかるように、周期ずれ係数「Sn」は、第0コード周期のサンプリングデータ「r0,m(t)」と、第nコード周期のサンプリングデータの複素共役(複素数の虚部の符号を反転させたもの)「{rn,m(t+nT)}」とを乗算することで算出され、「Sn=exp(−iωnTCA)」で表される。これを見ると、周期ずれ係数「Sn」は、式(3)及び(4)で問題となった「exp(iωnTCA)」の部分の複素共役となっていることがわかる。従って、サンプリングデータ「rn,m」に周期ずれ係数「Sn」を乗算することで「exp(iωnTCA)」の部分を消去することができる。
【0059】
このようにして、各コード周期「n」について「exp(iωnTCA)」の部分を消去し、その上で、各コード周期nについて得られた乗算値「rn,m・Sn」を足し上げることで、「Σexp(iωnTCA)」の項を含まない積算受信信号を得ることができる。
【0060】
式(3)と式(6)とを比較すると、積算サンプリングデータ「Rm」の式中の「Σexp(iωnTCA)」の項が、コード周期の総数である「N+1」に置き換わっていることがわかる。「N+1」は定数であり、値が変化することはない。従って、式(6)に従って算出される積算サンプリングデータ「Rm」は、利得が増した強い信号となる。
【0061】
以上により、周期ずれ係数「S」を用いて受信信号「r(t)」を積算することで、GPS衛星信号の受信信号から搬送波「exp(iωt)」を除去することなく、利得が増した高品質な積算受信信号を得ることができる。
【0062】
尚、式(2)の「ωd」をドップラー周波数及びGPS受信装置内のローカルクロックの誤差(時計誤差)に起因する周波数誤差としたが、その他の周波数誤差を更に含めて考えることができる。「ωd」がいかなる値であっても、上記の受信信号積算手法により相関処理に適した信号を得ることができる。
【0063】
2.実施例
次に、上述した原理を適用したGPS受信装置の実施例について説明する。ここでは、GPS受信装置を搭載した電子機器の一種である携帯型電話機1を具体例として説明する。
【0064】
2−1.構成
図5は、携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ9と、GPS受信部10と、ホストCPU(Central Processing Unit)30と、操作部40と、表示部50と、携帯電話用アンテナ60と、携帯電話用無線通信回路部70と、記憶部80とを備えて構成される。
【0065】
GPSアンテナ9は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信信号をGPS受信部10に出力する。
【0066】
GPS受信部10は、GPSアンテナ9から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の位置を計測する位置算出回路であり、いわゆるGPS受信装置に相当する機能ブロックである。GPS受信部10は、RF(Radio Frequency)受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とを備えて構成される。尚、RF受信回路部11と、ベースバンド処理回路部20とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0067】
RF受信回路部11は、RF信号の処理回路ブロックであり、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ9から出力されたRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部20に出力する。
【0068】
ベースバンド処理回路部20は、RF受信回路部11から出力されたIF信号に対して相関演算処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して航法メッセージや時刻情報等を取り出す回路部である。
【0069】
図6は、ベースバンド処理回路部20の回路構成の一例を示す図である。ベースバンド処理回路部20は、衛星信号捕捉部21と、CPU25と、記憶部27とを備えて構成される。
【0070】
衛星信号捕捉部21は、RF受信回路部11から出力されたIF信号である受信信号からGPS衛星信号を捕捉する回路部であり、受信信号積算処理回路部211と、レプリカ信号発生部213と、相関処理部215とを備えて構成される。
【0071】
受信信号積算処理回路部211は、RF受信回路部11から出力されたIF信号である受信信号「r(t)」を積算する処理を行う回路部であり、積算受信信号「R(t)」を相関処理部215に出力する。本実施形態では、受信信号積算処理回路部211は、デジタルシグナルプロセッサー(DSP(Digital Signal Processor))等のプロセッサーとメモリとを備え、図2で説明したフローチャートに従って、受信信号積算処理をデジタル信号処理として実行することとして説明する。
【0072】
受信信号積算処理回路部211は、各種のデータを格納するメモリとしての記憶部212を備えている。記憶部212には、例えば、受信信号をサンプリングすることで得られる受信信号のサンプリングデータ2121と、各コード周期について算出された周期ずれ係数のデータである周期ずれ係数データ2122と、積算された受信信号のデータである積算受信信号データ2123とが格納される。
【0073】
受信信号積算処理回路部211は、受信信号のサンプリングデータ2121を用いて周期ずれ係数を算出する周期ずれ係数算出部として機能するとともに、受信信号のサンプリングデータ2121を周期ずれ係数を用いて積算する受信信号積算部として機能する。
【0074】
従来のGPS受信装置では、受信信号「r(t)」から搬送波「exp(iωt)」を除去してから受信信号「r(t)」を積算する必要があったため、例えば受信信号積算処理回路部211に搬送波を除去するための検波部(キャリア再生部)を設ける必要があった。しかし、本実施形態では、原理で説明したように周期ずれ係数を用いて受信信号を積算するため、受信信号積算処理回路部211に検波部を設ける必要がない。
【0075】
レプリカ信号発生部213は、GPS衛星信号のCAコードの拡散符号レプリカの発生信号であるレプリカ信号を生成する回路部である。レプリカ信号発生部213は、CPU25から出力されるCAコード指示信号(捕捉対象衛星の指示信号)に従ったレプリカ信号「CAR(t)」を生成して、相関処理部215に出力する。
【0076】
相関処理部215は、受信信号積算処理回路部211から入力した積算受信信号「R(t)」と、レプリカ信号発生部213から入力したレプリカ信号「CAR(t)」との相関処理を行う回路部である。相関処理部215は、CPU25から入力した位相指示信号に従って、レプリカ信号の位相「Δt」を変化させながら「R(t)」と「CAR(t+Δt)」との相関を計算し、その相関値「P(Δt)」をCPU25に出力する。
【0077】
CPU25は、記憶部27に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従ってベースバンド処理回路部20の各部を統括的に制御するプロセッサーである。CPU25は、各捕捉対象衛星について、相関処理部215から出力される相関値「P(Δt)」に基づいてコード位相を検出する処理を行う。そして、検出したコード位相を用いて当該捕捉対象衛星と携帯型電話機1間の擬似距離を算出し、算出した擬似距離を利用した位置算出計算を行って、携帯型電話機1の位置を算出する。
【0078】
CPU25は、捕捉対象衛星のCAコード(捕捉対象衛星のPRN番号)を指示するためのCAコード指示信号をレプリカ信号発生部213に出力し、捕捉対象衛星のレプリカ信号「CAR(t)」をレプリカ信号発生部213に生成させる。また、レプリカ信号「CAR(t)」の位相「Δt」を指示するための位相指示信号を相関処理部215に出力し、相関処理部215に、レプリカ信号「CAR(t)」の位相「Δt」を変化させながら相関処理を実行させる。
【0079】
記憶部27は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置によって構成され、CPU25がベースバンド処理回路部20を制御するためのシステムプログラムや、位置算出機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、CPU25により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0080】
ホストCPU30は、記憶部80に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサーである。ホストCPU30は、ベースバンド処理回路部20から入力した位置情報を表示部50に表示させる処理を行ったり、当該位置情報を利用した各種のアプリケーション処理を行う。
【0081】
操作部40は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU30に出力する。この操作部40の操作により、通話要求やメール送受信要求、位置算出要求等の各種指示入力がなされる。
【0082】
表示部50は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU30から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部50には、位置表示画面や時刻情報等が表示される。
【0083】
携帯電話用アンテナ60は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0084】
携帯電話用無線通信回路部70は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0085】
記憶部80は、ホストCPU30が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、位置算出機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶する記憶装置である。
【0086】
2−2.処理の流れ
(1)受信信号積算処理回路部211の処理
図7は、受信信号積算処理回路部211が、図2の受信信号積算処理のステップA3において実行する周期ずれ係数算出処理の流れを示すフローチャートである。特に説明しないが、受信信号積算処理の実行中は、GPSアンテナ9によるRF信号の受信や、RF受信回路部11によるRF信号のIF信号へのダウンコンバージョンが行われ、IF信号に変換された受信信号「r(t)」がベースバンド処理回路部20に随時出力される状態にあるものとする。
【0087】
先ず、受信信号積算処理回路部211は、RF受信回路部11から出力された受信信号「r(t)」を所定のサンプリング時間間隔でサンプリングして受信信号のサンプリングデータ「rn,m」を取得し、記憶部212にサンプリングデータ2121として記憶させる(ステップB1)。
【0088】
次いで、受信信号積算処理回路部211は、基準コード周期である第0コード周期(n=0)の周期ずれ係数「S0」を「1」に設定して、記憶部212の周期ずれ係数データ2122に記憶させる(ステップB3)。
【0089】
その後、受信信号積算処理回路部211は、基準コード周期を除く他のコード周期番号(n=1〜N)それぞれについてループAの処理を実行する(ステップB5〜B19)。また、ループAの処理では、各サンプリング番号「m」(m=0〜M)それぞれについてループBの処理を実行する(ステップB7〜B13)。
【0090】
ループBの処理では、受信信号積算処理回路部211は、サンプリングデータ「rn,m」の複素共役「{rn,m」を演算する(ステップB9)。そして、基準コード周期のサンプリングデータ「r0,m」と、演算した複素共役「{rn,m」とを乗算する(ステップB11)。そして、次のサンプリング番号へと処理を移行する。
【0091】
全てのサンプリング番号「m」についてステップB9及びB11の処理を行った後、受信信号積算処理回路部211は、ループBの処理を終了する(ステップB13)。そして、各サンプリング番号「m」それぞれについて得られた乗算値「r0,m・{rn,m」を合算する(ステップB15)。
【0092】
そして、受信信号積算処理回路部211は、その合算値をサンプリング番号の総数M+1で除算することで第nコード周期の周期ずれ係数「Sn」を算出し、記憶部212の周期ずれ係数データ2122に記憶させる(ステップB17)。そして、次のコード周期番号へと処理を移行する。
【0093】
全てのコード周期番号「n」についてステップB7〜B17の処理を行って周期ずれ係数「Sn」を算出したら、受信信号積算処理回路部211は、ループAの処理を終了して(ステップB19)、周期ずれ係数算出処理を終了する。
【0094】
図8は、受信信号積算処理回路部211が、図2の受信信号積算処理のステップA5において実行する受信信号積算処理の流れを示すフローチャートである。
【0095】
先ず、受信信号積算処理回路部211は、各サンプリング番号(m=0〜M)それぞれについてループCの処理を実行する(ステップC1〜C11)。また、ループCの処理では、各コード周期番号(n=0〜N)それぞれについてループDの処理を実行する(ステップC3〜C7)。
【0096】
ループDの処理では、受信信号積算処理回路部211は、サンプリングデータ「rn,m」と周期ずれ係数「Sn」とを乗算する(ステップC5)。そして、次のコード周期番号へと処理を移行する。
【0097】
全てのコード周期番号「n」についてステップC5の処理を行った後、受信信号積算処理回路部211は、ループDの処理を終了する(ステップC7)。その後、各コード周期番号「n」それぞれについて得られた乗算結果「rn,m・Sn」を合算することで、積算受信信号「R」のうちのサンプリング番号「m」の部分を算出し、記憶部212の積算受信信号データ2123に記憶させる(ステップC9)。そして、次のサンプリング番号へと処理を移行する。
【0098】
全てのサンプリング番号「m」についてステップC3〜C9の処理を行うことで積算受信信号「R(t)」を算出した後、受信信号積算処理回路部211は、ループCの処理を終了して(ステップC11)、受信信号積算処理を終了する。
【0099】
(2)CPU25の処理
図9は、ベースバンド処理回路部20のCPU25が実行するベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0100】
先ず、CPU25は、捕捉対象衛星判定処理を行う(ステップD1)。具体的には、不図示の時計部で計時されている現在時刻において、所与の基準位置の天空に位置するGPS衛星を、アルマナックやエフェメリス等の衛星軌道データを用いて判定して、捕捉対象衛星とする。基準位置は、例えば、電源投入後の初回の位置算出の場合は、いわゆるサーバーアシストによって携帯型電話機1の基地局から取得した位置とし、2回目以降の位置算出の場合は、前回の位置算出で求めた最新のGPS算出位置とする等の方法で設定できる。
【0101】
次いで、CPU25は、ステップD1で判定した各捕捉対象衛星について、ループEの処理を実行する(ステップD3〜D11)。ループEの処理では、CPU25は、当該GPS衛星信号に含まれる航法メッセージに基づいて、当該捕捉対象衛星の衛星位置、衛星移動速度及び衛星移動方向等の衛星情報を算出する(ステップD5)。そして、CPU25は、コード位相検出処理を行う(ステップD7)。
【0102】
図10は、コード位相検出処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU25は、当該捕捉対象衛星のCAコードの指示信号をレプリカ信号発生部213に出力する(ステップE1)。そして、CPU25は、位相のサーチ範囲及びサーチ間隔を設定して、位相サーチに使用するサーチ位相を決定する(ステップE3)。
【0103】
次いで、CPU25は、ステップE3で設定した各サーチ位相について、ループFの処理を実行する(ステップE5〜E11)。ループFの処理では、CPU25は、当該サーチ位相「Δt」の指示信号を相関処理部215に出力する(ステップE7)。
【0104】
ステップE7が実行されると、前述したように相関処理部215は、受信信号積算処理回路部211が図1〜図4で説明した原理に基づいて算出した積算受信信号「R(t)」と、レプリカ信号発生部213から入力したレプリカ信号「CAR(t)」との相関処理を行う。相関処理部215は、CPU25から入力した位相指示信号に従って、レプリカ信号の位相「Δt」を変化させながら「R(t)」と「CAR(t+Δt)」との相関を計算し、その相関値「P(Δt)」をCPU25に出力する。
【0105】
CPU25は、相関処理部215から相関値「P(Δt)」を入力すると、当該相関値「P(Δt)」を記憶部27に記憶させる(ステップE9)。そして、CPU25は、次のサーチ位相へと処理を移行する。
【0106】
全てのサーチ位相についてステップE7及びE9の処理を行った後、CPU25は、ループFの処理を終了する(ステップE11)。そして、CPU25は、記憶部27に記憶されている相関値「P(Δt)」が最大となったサーチ位相「Δt」をコード位相に決定する(ステップE13)。そして、CPU25は、コード位相検出処理を終了する。
【0107】
図9のベースバンド処理に戻って、コード位相検出処理を終了した後、CPU25は、ステップD5で算出した衛星情報と、ステップD7で検出したコード位相とを用いて、当該捕捉対象衛星と携帯型電話機1間の擬似距離を算出する(ステップD9)。擬似距離の整数部分は、例えば最新のGPS算出位置と衛星位置とを用いて算出することができ、擬似距離の端数部分は、コード位相を用いて算出することができる。擬似距離を算出した後、CPU25は、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0108】
全ての捕捉対象衛星についてステップD5〜D9の処理を行った後、CPU25は、ループEの処理を終了する(ステップD11)。その後、CPU25は、ステップD9で各捕捉対象衛星について算出された擬似距離を利用したGPS位置算出処理を行って携帯型電話機1の位置を算出する(ステップD13)。尚、擬似距離を利用した位置算出計算の詳細については従来公知であるため、詳細な説明を省略する。
【0109】
次いで、CPU25は、GPS位置算出処理で算出した位置をホストCPU30に出力する(ステップD15)。そして、CPU25は、位置算出を終了するか否かを判定し(ステップD17)、まだ終了しないと判定した場合は(ステップD17;No)、ステップD1に戻る。また、位置算出を終了すると判定した場合は(ステップD17;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0110】
2−3.作用効果
ベースバンド処理回路部20の衛星信号捕捉部21において、RF受信回路部11から出力された受信信号が受信信号積算処理回路部211により積算される。すなわち、受信信号がサンプリング時間間隔である1クロック毎にサンプリングされて複数のサンプリングデータが取得される。そして、GPS衛星信号の拡散符号であるCAコードの想定周期で受信信号を時分割した場合のコード周期を異にするサンプリングデータ組を用いて、CAコードの真の周期と想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数が算出される。そして、受信信号が周期ずれ係数を用いて積算される。
【0111】
周期ずれは、CAコードの真の周期と想定周期との差である。CAコードの想定周期でGPS衛星信号の受信信号を時分割することで得られるサンプリングデータの組のうち、想定周期を異にするサンプリングデータの組を用いることで、周期ずれを表す係数を算出することができる。そして、この周期ずれ係数を用いて受信信号を積算することで、周期ずれを考慮した適切な積算受信信号を得ることができる。
【0112】
すなわち、受信信号をサンプリング時間間隔である1クロック毎にサンプリングして、1つのコード周期につきM+1個のサンプリングデータを取得する。そして、例えば第0コード周期を基準コード周期として、基準コード周期のサンプリングデータ(第1受信信号部分)と、他のN個のコード周期のサンプリングデータ(第2受信信号部分)とを用いて、各コード周期それぞれについて周期ずれ係数を算出する。そして、基準コード周期及び他コード周期のN+1個のコード周期のサンプリングデータを積算する際に、対応するコード周期の周期ずれ係数を用いて積算する。
【0113】
サンプリングデータを積算する際に、予めサンプリングデータに周期ずれ係数を乗算することで、周期ずれによる誤差成分を除去することができる。そして、周期ずれによる誤差成分が除去された信号を積算することで、振幅(パワー)が定数倍された相関処理に適した信号を得ることができる。これは言い換えるならば、搬送波が除去されていない状態のGPS衛星信号の受信信号を周期ずれ係数を用いて積算することで、周期ずれに起因する誤差成分を含まない高品質な積算受信信号を得ることができることを意味する。搬送波の除去が不用であるため、ベースバンド処理回路部20にキャリア再生部を設ける必要がなく、GPS受信回路の簡素化が実現される。
【0114】
3.変形例
3−1.適用システム
上述した実施形態では、GPS衛星信号の捕捉を例に挙げて説明したが、GPS衛星信号以外の信号を受信する受信装置についても、本発明を同様に適用可能である。すなわち、拡散符号で拡散変調された衛星信号の受信信号を積算し、積算した信号に対する相関処理を行って衛星信号を捕捉する受信装置であれば本発明を適用可能である。
【0115】
3−2.電子機器
また、上述した実施形態では、電子機器の一種である携帯型電話機に本発明を適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な電子機器はこれに限られるわけではない。例えば、カーナビゲーション装置や携帯型ナビゲーション装置、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)、腕時計といった他の電子機器についても同様に適用することが可能である。
【0116】
3−3.衛星位置算出システム
上述した実施形態では、衛星位置算出システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星位置算出システムであってもよい。
【0117】
3−4.周期ずれ係数算出処理
上述した実施形態では、サンプリングデータ「r0,m」とサンプリングデータの複素共役「{rn,m」とをサンプリング番号「m=0〜M」を揃えてそれぞれ乗算することでM+1個の乗算結果「r0,m・{rn,m」を取得し、それらを平均して第nコード周期の周期ずれ係数「Sn」とするものとして説明したが、次のようにして周期ずれ係数を算出してもよい。すなわち、各コード周期の全てのサンプリングデータの組を用いるのではなく、各コード周期について任意に選択した1又は2以上の受信信号部分としてのサンプリングデータを用いて周期ずれ係数「Sn」を算出する。
【0118】
任意に選択したL個(1≦L≦M+1)のサンプリング番号のサンプリングデータを用いる場合は、選択したサンプリング番号それぞれについての乗算結果をL個で平均することで、周期ずれ係数「Sn」を同様に算出することができる。例えば、任意に選択した1個のサンプリング番号「m」のサンプリングデータを用いる場合は、次式(7)に従って周期ずれ係数「Sn」を算出すればよい。
【数7】

【0119】
3−5.受信信号積算処理
上述した実施例では、受信信号積算処理回路部211が受信信号の積算をデジタル信号処理としてソフトウェア的に行うものとして説明した。しかし、ソフトウェア的に行うのではなく、論理回路等の回路素子を用いたデジタル回路で構成することも可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 携帯型電話機、 10 GPS受信部、 11 RF受信回路部、
20 ベースバンド処理回路部、 21 衛星信号捕捉部、 25 CPU、
27 記憶部、 30 ホストCPU、 40 操作部、 50 表示部、
60 携帯電話用アンテナ、 70 携帯電話用無線通信回路部、 80 記憶部、
211 受信信号積算処理回路部、 213 レプリカ信号発生部、
215 相関処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号を受信する際に前記衛星信号の拡散符号の符号周期時間を推測した想定周期で前記衛星信号の受信信号を時分割した場合に、前記受信信号のうちの第1受信信号部分と前記第1受信信号部分とは前記想定周期が異なる第2受信信号部分とを用いて、前記拡散符号の真の周期と前記想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数を算出することと、
前記受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算することと、
を含む受信信号積算方法。
【請求項2】
前記受信信号を積算することは、前記第1受信信号部分及び前記第2受信信号部分と前記周期ずれ係数とを積和することで前記受信信号を積算した信号を生成することである、
請求項1に記載の受信信号積算方法。
【請求項3】
前記周期ずれ係数を算出することは、前記受信信号のうち、前記想定周期がn個分(nは自然数)異なる前記第2受信信号部分それぞれについての前記周期ずれ係数を算出することを含み、
前記受信信号を積算することは、前記想定周期がn個分異なる前記第2受信信号部分それぞれを積算する際に、対応する前記周期ずれ係数を用いて積算することを含む、
請求項1又は2に記載の受信信号積算方法。
【請求項4】
前記周期ずれ係数を算出することは、前記第1及び前記第2受信信号部分において、前記想定周期内で同一タイミングとなる信号部分を用いて、前記周期ずれ係数を算出することを含む、
請求項1〜3の何れか一項に記載の受信信号積算方法。
【請求項5】
前記周期ずれ係数を算出することは、前記第1受信信号部分と、前記第2受信信号部分の複素共役とを乗算することで前記周期ずれ係数を算出することを含む、
請求項1〜4の何れか一項に記載の受信信号積算方法。
【請求項6】
前記周期ずれ係数を算出することは、
前記第1受信信号部分のうちの前記想定周期内で異なるタイミングとなる信号部分と、第n番目(nは自然数)の前記第2受信信号部分のうちの対応する同一タイミングとなる信号部分の複素共役とを乗算することと、
第n番目の前記第2受信信号部分に関して得られた前記各タイミングの前記乗算結果の平均を、前記第1受信信号部分と第n番目の前記第2受信信号部分との周期ずれ係数とすることと、
を含む、
請求項4に記載の受信信号積算方法。
【請求項7】
前記受信信号を積算することは、前記衛星信号の搬送波が除去されていない状態の受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算することである、
請求項1〜6の何れか一項に記載の受信信号積算方法。
【請求項8】
衛星信号を受信する際に前記衛星信号の拡散符号の符号周期時間を推測した想定周期で前記衛星信号の受信信号を時分割した場合に、前記受信信号のうちの第1受信信号部分と前記第1受信信号部分とは前記想定周期が異なる第2受信信号部分とを用いて、前記拡散符号の真の周期と前記想定周期との周期ずれを表す周期ずれ係数を算出する周期ずれ係数算出部と、
前記受信信号を前記周期ずれ係数を用いて積算する受信信号積算部と、
前記受信信号積算部により積算された信号に対する相関処理を行う相関処理部と、
前記相関処理の結果に基づいて前記衛星信号を捕捉する捕捉部と、
を備えた受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−137802(P2011−137802A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220172(P2010−220172)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2009−294831(P2009−294831)の分割
【原出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】