説明

受信装置及びそのアンテナ方向調整方法

【課題】受信信号レベルが低く、C/Nが約−10dB程度になる受信アンテナの方向調整の初期段階であっても、受信信号のレベルを検出する。
【解決手段】単一周波数の所定周期を有する受信信号の受信装置において、直交周波数変換し直交補正しながら直交A/D変換した受信信号と送信部で挿入したプリアンブル信号の複素共役信号との複素乗算を行う。得られた複素乗算結果は1サンプル後の信号との差分演算を行うことで、キャリア周波数ずれによる回転成分を除去する。その後、プリアンブル期間での積分処理、フレーム方向の平均処理を施した後、最大値を検出する。この結果は低C/Nでの受信信号レベルを高精度に表現した値になることを利用し、低電界時の受信電力を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送装置における受信アンテナの方向調整に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中継現場の映像をテレビ局まで無線伝送するFPU(Field Pickup Unit)では、映像信号だけではなく、映像信号を圧縮符号化した伝送データ列(Transport Stream:以下映像TS)も伝送する。
また、中継現場では電波の到来する方向にアンテナを正確に向けるアンテナ方向調整が必要になる。アンテナ方向調整のためにデジタル変調信号の電界強度の測定方法としては、直交周波数多重方式(OFDM)では、相関の最大値を検出している(特許文献1参照)。しかし、固定無線中継の伝送方式の一つとして、シングルキャリア直交振幅変調(Quadrature Amplitude Modulation:QAM)伝送方式が採用され、ARIB
STD−B11として規格化された。
【0003】
以下、従来のアンテナ方向調整方式について図3を用いて説明する。送信ベースバンド部31、及び送信高周波部32にて生成された伝送信号は送信アンテナ33により電波として送出される。送出された電波は伝送路34を経由して受信アンテナ1に到達するが、伝送路34では建物等による遮断や大気、降雨によるレベル減衰が生じる。受信アンテナ1で受信した電波は、受信高周波部2により最適なレベルになるように増幅される。この際、受信電界レベルを検出して最適レベルになるように自動利得制御する。こうして得られた受信信号は最終的に受信ベースバンド部37により復調される。
【0004】
アンテナの方向調整の段階では、高周波部36で得られた受信信号レベルを受信信号レベル表示器38でメータや音などに変換し、受信信号レベル表示器38にて表示される受信信号レベルに基づいて、送信アンテナ33、及び受信アンテナ35の方向を上下左右に微妙に動かしながら、受信信号レベルが最大になる方向を探索して調整する方法が取られてきた。
【0005】
アンテナの方向調整方法においては、受信高周波部2のアナログ検波器により受信信号レベルを検出していた。しかし、受信信号レベルが低くなると、受信信号は受信高周波部2の初段増幅器の雑音に埋もれてしまい、精度の良い検出が困難であった。そのため、検波器の精度にも依存するが、精度の良い検出を行うためには、例えば7dB以上のC/Nが必要であった。従って、受信信号レベルが−90dBm程度でC/Nが約7dBとなる場合には、受信信号が−90dBmを下回るようなレベルを検出することは困難であった。
【0006】
FPUでは高いアンテナ利得を得るため、狭い指向角のアンテナを使用することが多い。そのため、送受間のアンテナの方向調整が正しくない、アンテナ方向調整の初期段階では、受信信号レベルは非常に低く−90dBmを下回ることも多い。上記にそのため、送信信号が受信部に僅かながら到達していたとしても、受信信号を捕らえることができなかった。
【0007】
ところで、携帯電話の直交変調方式はQAMやOFDMに限らず、単一周波数を用いる符号分割多元接続(Code Division Multiple Access:CDMA)や時分割多元接続
(Time Division Multiple Access:TDMA)も用いられる。QAMやOFDMやCDMAやTDMAも周期を有する信号方式である。
そして、携帯電話の各直交変調の復調用のデュアルADC(Analog to Digital Converter)は、直交誤差補正や直流補正やクロック・デューティ・サイクルの大きな変動を補償するようになった(非特許文献1参照)。N分周位相同期と電圧制御発信器を含み、高周波受信信号をI軸Q軸に直交周波数変換するICも製品化された(非特許文献2参照)。また、インターリ−ビーングして3GbpsまでI軸Q軸でデジタル信号に変換するデュアルADCも、製品化された(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4107824号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】アナログデバイセズ製直交誤差補正デュアルADC AD9269 PR08220-0-10/09(PrC)
【非特許文献2】アナログデバイセズ製IQ復調器ADRF6801 D09576-0-1/11(0)
【非特許文献3】ナショナルセミコンダクタ製12bit3.2GbpsADC ADC12D1600 300916
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
所定周期を有する受信信号レベルが低く、C/Nが約−10dB程度になる受信アンテナの方向調整の初期段階であっても、受信信号のレベルを検出する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
映像(信号またはTS)を伝送する第一の所定周期を有する受信信号を、(I/Qで)直交周波数変換する手段および該直交周波数変換した信号を(I/Qで)直交補正しながら直交AD変換する手段と直接(I/Qで)直交AD変換し直交補正する手段の一方との(I/Qで)直交AD変換し直交補正する手段と、該直交周波数変換した信号を(I/Qで)直交補正しながら直交AD変換する手段と、該直交AD変換した信号を(独立に)復調する手段と、該(独立に)復調した信号を映像(信号またはTS)に復号する手段と、該直交補正しながら直交AD変換した信号における第二の所定周期で自己相関値または差動相関値を算出する相関計算手段と、該相関計算手段による相関値から所定周期毎の相関最大値を検出する最大値検出手段または該相関計算手段による相関値から所定周期毎の積分値を検出する積分値検出手段と、との少なくとも一方と、該最大値検出手段または積分値検出手段との少なくとも一方により前記受信信号の電界強度を概算する電力概算手段と、を備え、概算した前記受信信号の電界強度に基づき受信アンテナの方向調整用信号を生成する手段と、概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示する表示手段と、概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を映像信号に重畳する映像重畳手段の少なくとも一方と、を備え、 該電力概算手段による概算値に基づいて、該受信機に入力される前記受信信号の電界強度を推定し、推定した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示手段に表示するまたは映像重畳手段で映像信号に重畳することを特徴とする受信機。
【0012】
請求項1に記載の受信機において、前記第一の所定周期を有する受信信号が単一周波数の変調信号であることを特徴とする受信機。(Single-QAM、位相変調、CDMA、TDMA等)
【0013】
映像(信号またはTS)を伝送する第一の所定周期を有する受信信号を、
(I/Qで)直交周波数変換し(I/Qで)直交補正しながら直交AD変換するかまたは直接(I/Qで)直交AD変換し直交補正し、復調し、映像に復号し、該直交補正しながら直交A/D変換した信号における所定周期で入力された同一データの自己相関値または差動相関値を算出し、該相関値から第二の所定周期毎の相関最大値を検出または相関値から第二の所定周期毎の積分値を検出との少なくとも一方を行い、該最大値検出手段または積分値検出手段との少なくとも一方により前記受信信号の電界強度を推定し、推定した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示手段に表示するまたは映像重畳手段で映像信号に重畳することの少なくとも一方と、を行うことを特徴とする受信電界強度表示方法。
【発明の効果】
【0014】
所定周期を有する受信信号レベルが低く、C/Nが約−10dB程度になる受信アンテナの方向調整の初期段階であっても、受信信号のレベルを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図。((a)本発明の一実施例の差動相関、(b)本発明の一実施例の自己相関)
【図2】送信フレームフォーマット
【図3】従来のアンテナ方向調整システム
【図4】複素乗算部5の構成
【図5】キャリア周波数ずれによる複素乗算信号M(m)の回転を説明する図
【図6】差分処理部6及び積分器7の構成
【図7】積分信号I(m)とフレームタイミングの関係
【図8】入力C/N対積分器出力S/N
【図9】マルチパスが混入したときの加算平均部8と矩形フィルタ部9の出力信号
【図10】受信電力変換部10の変換特性の一例
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による実施例について、図示の実施形態により詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図であり、(a)は本発明の一実施例の差動相関であり、(b)本発明の一実施例の自己相関である。
図1において、1は受信アンテナ、2は受信高周波部、5は複素乗算部、6は差分処理部、7は積分器、8は加算平均部、9は矩形フィルタ部、10は最大値検出部、11は最大値平均部である。また、20は非特許文献2等の受信信号をI軸信号とQ軸信号とに直交周波数変換する直交ミキサ部、21はASK(Amplitude Phase Shift Keying)等の独立に復調する復調部、22は復号部、23は多重部、24は自己相関部、25は受信電力変換受信状態信号作成部、26は受信状態信号表示器、27は非特許文献1等のI軸信号とQ軸信号の直交誤差を補正しながらデジタル信号に変換する2chADCである。さらに、31は送信ベースバンド部、32は送信高周波部、33は送信アンテナ、34は伝送路、37は受信ベースバンド部、38は受信信号レベル表示器、41はシフトレジスタ、42は複素乗算器、61は複素乗算器、71は複素加算器、72は絶対値二乗演算器である。
【0017】
また、受信信号をI軸信号とQ軸信号とに直交周波数変換する直交ミキサ部の20とI軸信号とQ軸信号の直交誤差を補正する2chADCの27とを統合して直交補正ADC部の19として、非特許文献3等のインターリ−ビーングして高周波受信信号を直接I軸Q軸でデジタル信号に変換するデュアルADCを複数用いて、直接にI軸Q軸のデジタル信号に変換し直交誤差を補正しても良い。さらに直交補正ADC部の19として、高速化され内部インターリ−ビーング化されたI軸信号とQ軸信号の直交誤差を補正する2chADCを用いても良い。
【0018】
本発明は、QAMやOFDMやCDMAやTDMAも周期を有する信号方式の第一の所定周期を有する映像信号または映像TSを伝送する第一の所定周期を有する受信信号をI軸信号とQ軸信号とに周波数変換する手段の直交ミキサ部21と、該周波数変換した受信I軸信号と受信Q軸信号を、非特許文献1の直交誤差補正や直流補正やクロック・デューティ・サイクルの大きな変動を補償する直交変調の復調用のデュアルADCのADC3を直交補正しながら直交A/D変換する手段に用いる。該AD変換した信号を復調する手段の復調部21と、該復調した信号を映像信号または映像TSに復号する手段の復号部を備える。
【0019】
該直交補正しながら直交A/D変換した信号における第二の所定周期で自己相関値を算出する相関計算手段(図1(b))または、差動相関値を算出する相関計算手段(図1(a))を備える。
【0020】
該相関計算手段による相関値から所定周期毎の相関最大値を検出する最大値検出手段または該相関計算手段による相関値から所定周期毎の積分値を検出する積分値検出手段の最大値検出部10、最大値平均部11を備える。
【0021】
該最大値検出手段または積分値検出手段との少なくとも一方により前記受信信号の電界強度を概算し受信状態信号を作成する、電力概算手段または概算した前記受信信号の電界強度に基づき受信アンテナの方向調整用信号を生成する手段の受信電力変換受信状態信号作成部25を備える。
【0022】
概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示する表示手段の受信状態信号表示器26と、概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を映像信号に重畳する映像重畳手段の多重部23の少なくとも一方と、を備える。
【0023】
つまり、本発明は、マイクロ波特に1200MHz等のUHFで周期を有する信号方式で伝送し、周波数変換を送信と受信で各一回以下として直交誤差を低減する。そして、直交誤差補正や直流補正やクロック・デューティ・サイクルの大きな変動を補償するデュアルADCを用い、直交復調せずに、差動相関または自己相関により低電界時の受信信号の電界強度を推定する。
また、ASK(Amplitude Phase Shift Keying)等で直交信号を独立に復調し、復号し、映像信号または映像TSを出力する。
【0024】
そして、本発明は、前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示するか、概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を映像信号に重畳する。
【0025】
本発明は、QAMに限らず、OFDM等周期を有する信号方式に適用できる。本発明は特に、QAMやCDMAやTDMA等の単一周波数で周期を有する信号方式に最適である。また、直交誤差が少なくし易いUHF以下の周波数に最適であるが、半導体の微細加工化やGaN等化合物の半導体の改良が進めば、SHF以上の周波数にも適用できる。
【実施例1】
【0026】
以下、本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図の(a)本発明の一実施例の差動相関の実施例について、図示の実施形態により詳細に説明する。
具体的な実施例について説明する前に、伝送する信号の信号フォーマットについて説明する。
【0027】
図2に示すように送信信号は受信部での等化処理を容易にするためのプリアンブル期間とデータを伝送するためのデータ期間でフレームが構成される。プリアンブル期間の信号P(m)(mはサンプル番号)はNPサンプル期間の間、振幅、位相が既知の信号で生成される。既知信号の生成方法としては、既知の擬似ランダム信号(PN)などを用いてBPSKやQPSKなどの変調方式を用いた信号とすることが多い。データ期間の信号D(m)はBPSKから64QAMなど、伝送レートに応じた変調方式を用いてデータを伝送する。データ期間長はNDサンプルとする。このようにフレーミングされた信号を繰り返し伝送する。
【0028】
本発明は、プリアンブル期間の信号P(m)を用いて、受信信号レベルを推定し、推定結果に基づいたアンテナ方向調整方法及びその装置を提供するものである。以下、本発明の実施例について図1を用いて詳細に説明する。前述したように、受信部に到達した信号は受信アンテナ1で受信され、受信高周波部2で周波数変換してベースバンド信号に変換される。ベースバンド信号はA/D3に入力され受信サンプリング系列Rin(m)(mはサンプル番号)を得る。得られた受信サンプリング系列Rin(m)は直交検波器4に入力される。直交検波器4では実数信号からIQ複素信号への変換処理を行い、受信複素サンプリング系列Z(m)を出力する。直交検波処理はデジタル信号処理で行ってもよいが、アナログの直交ミキサを用いて行い、IQそれぞれにA/D変換器を用いてサンプリングすることで実現してもよい。受信複素サンプリング系列Z(m)は複素乗算部5に入力される。複素乗算部5では図4に示すように、プリアンブルサンプル期間Nと同程度の長さを有するシフトレジスタなどの記憶素子41に受信複素サンプリング系列Z(m)を入力し、式(1)に示すようにシフトレジスタ41の各段の値Z(m+t)と、送信側であらかじめ規定されたプリアンブル信号P(t)に対する複素共役信号P(t)との複素乗算を演算し、複素乗算信号M(m+t)を得る。

(1)
特に、プリアンブル信号がBPSK変調されている場合には、複素乗算処理はZ(m+t)の符号を反転/非反転する処理で簡易に実現できる。
【0029】
受信装置で送信側のクロック周波数とキャリア周波数が正確に再生できている場合であって、シフトレジスタ41に入力されるタイミングが受信サンプル系列Z(m)のプリアンブル期間と一致している場合、複素乗算信号M(m+t)は全て同位相の信号となる。
【0030】
しかし、本発明では低C/Nでの受信信号電力推定を目的としているため、C/Nが低い領域での正しいキャリア再生処理は非常に困難であり、キャリア周波数がずれる可能性が高い。このような場合、複素乗算信号M(m)はNサンプル期間内で一定の位相ずれが生じ、図5に示すように回転する。この回転量はキャリア周波数ずれ量をΔfとすると、プリアンブル期間の複素受信サンプリング系列Z(m)は


(2)
で表される。ここで、fCLKは受信クロック周波数、θは固定位相、N(m)は雑音信号を示している。従って、回転が生じた時の式(1)で示した複素乗算信号M(m+t)は


(3)
である。ただし、

(4)
とした。
【0031】
一般的な相関処理では、M(m+t)を積分範囲Nで積分処理するが、このような回転が生じた信号をそのまま積分処理すると、逆極性の信号同士で相殺してしまい、その結果は0に近い値となってしまう。
そのため、本発明では複素乗算信号M(m+t)を差分処理部6に入力し、この回転成分を除去する。差分処理部6では図6及び式(5)に示すように複素乗算信号M(m+t)とその1サンプル後の信号M(m+t+1)の複素共役信号との複素乗算を行う。


(5)
式(3)で示すキャリア周波数ずれによる回転が生じた複素乗算信号M(m)を式(5)に代入すると


(6)
となる。
式(6)において、第一項は信号成分を示し、第二〜四項は雑音成分であり、N’(m+t)で置換える。


(7)
式(7)において、受信キャリア再生周波数に急激な変動がないと仮定すると、即ちΔfが一定であるとすると、差分結果D(m)はサンプル時間mによらず一定値となり、回転成分を除去することが可能となる。積分器7では差分信号D(m+t)をtについて積分を行い、積分結果を絶対値二乗演算することで、積分信号I(m)を出力する。

(8)
差分処理により、差分信号D(m+t)は全ての位相はほぼ一致しているため、図7に示すように、積分結果は受信信号のプリアンブル期間と、積分期間が一致した時に大きな値を有する。
【0032】
次に、積分器7の出力信号I(m)のS/Nについて説明する。信号成分Sは積分器7の出力I(m)の最大値であり、信号電力の約N倍となる。また、雑音成分は式(6)よりと

なる。ここで、

は入力段でのC/Nで定義した雑音電力を示している。以上のことより、積分器出力のS/Nは式(9)となる。


(9)
【0033】
式(9)の一例として、ARIB STD−B11で規定されるFPU規格について言及する。プリアンブル期間はN=240サンプルであり、この時の積分器7の出力I(m)のS/Nの結果を図8に示す。C/Nが−10dBの時のS/Nは約3dB程度である。S/Nが3dB程度では信号と雑音の分別が困難であるため、積分器7の出力結果I(m)を加算平均部8に入力し、加算平均部7ではフレーム方向に加算平均を行い、S/Nを改善する。図2で示したようにフレーム長は(N+N)であり、移動平均型の加算平均処理では過去Kフレームの積分結果I(m)を加算平均処理する。この平均処理を式(10)を用いて表す。


(10)
式(10)において、例えば加算回数Kを100とすると、約20dBのS/N改善効果がある。従って、先のFPUの例において、入力C/Nが−10dBの環境では加算平均部8の出力結果I(m)のS/Nは約23dBとなり、信号成分と雑音成分の分別が容易になる。
【0034】
以上では、伝搬路のモデルが単純な加法性白色雑音モデル(AWGN)について説明を行ってきたが、実際の伝搬路では複数の反射波が存在するマルチパス環境が想定される。そこで、加算平均結果F(m)を矩形フィルタ部9に入力し、矩形フィルタ部9では複数存在するマルチパスのエネルギーの総和を演算する。具体的な構成について、図9を用いて説明する。図9の上部に示すようなマルチパスが混入した加算平均結果F(m)に対して、所定の時間幅Wを有する矩形窓を畳み込み演算し、図9の下部に示すような出力信号C(m)を得る。設ける窓幅Wは、予め想定されるマルチパスの最長遅延時間をLとすると、窓幅WはL以上であることが望ましい。しかし、窓幅Wを必要以上に長く設定すると、窓幅W内の雑音成分が多くなり、S/Nが劣化してしまうため、適切な幅に設計する必要がある。また、受信機側でマルチパス遅延時間を逐次算出できる場合には、窓幅Wを受信環境に応じて適応的に制御しても良い。矩形フィルタ部9の出力信号C(m)は最大値検出部10に入力され、フレーム毎にC(m)の最大値MAXを算出する。最大値MAXは最大値平均部11にて更に平均化され、擾乱成分を除去する。
【0035】
最大値平均部11からの出力信号は受信電力変換部12に入力され、入力値に対応する受信電力レベルを変換して出力する。この変換について図10を用いて説明する。通常、受信装置では、受信条件で大きく変化する受信信号のレベルを自動利得制御(AutomaticGain
Control:AGC)回路にて一定のレベルになるような制御を行った後に、各種の信号処理を実施する方式が用いられている。そのため、A/D3に入力される信号Rin(m)の電力も一定に保たれる。このような制御が行われている場合には、最大値平均部11の出力信号は図10の点線で示した理想特性にならず、鎖線で示すようにC/Nが高くなると、即ち受信信号レベルが大きくなると最大値平均部11の出力レベルは、ある一定値に漸近してしまう。そのため、図11の実線で示したように、最大値平均部11の出力レベルにその逆特性を乗じることで、理想特性になるように変換し、その結果を方向調整信号Aとして出力する。図10の例では、受信レベル信号の値をdB単位に変換しているが、アンテナの方向調整が容易になる単位系の値に変換しても良い。
【0036】
以上説明した処理により、低C/Nでも受信信号レベルに応じた信号レベルを出力することが可能となり、受信アンテナの方向調整の初期段階においても微弱な受信信号を捉えることができる。
この方向調整信号Aは、受信信号レベル表示器13に入力され、受信信号レベル表示器13では、アンテナ方向調整者が実施しやすいように方向調整信号Aをメータ表示や波形、色など視覚的情報に変換する。また、音階、音量等の聴覚的な情報に変換しても良い。
【0037】
このように、本実施例による受信装置を用いると、受信信号のC/Nが−10dB程度になり、従来方法即ち受信検波レベルを用いる方法では、受信信号の存在すら検出できないような受信アンテナの方向調整の初期段階においても、受信信号のレベルを正確に検出できるようになる。これにより、受信アンテナの方向を変えながら、受信信号レベルが最大になる方向を探すことができるようになり、算出した方向調整信号Aを用いて、容易に受信アンテナの方向調整ができるシステムを構築することができるようになる。
【実施例2】
【0038】
本発明の実施例1と同様の部分の説明は省略する。
【0039】
図1の本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図の実施例1の(a)本発明の一実施例の差動相関を行う手段の複素乗算部5、差分処理部6、積分器7、加算平均部8、矩形フィルタ部9、最大値検出部10、最大値平均部11のかわりに、本発明の実施例2では、図1の本発明の一実施例の全体構成を示すブロック図の実施例2の(b)本発明の一実施例の自己相関を行う手段の自己相関部24を備える。
そして、該直交補正しながら直交A/D変換した信号における第二の所定周期で自己相関値を算出する。
【0040】
本発明は、実施例1の差動相関や実施例2の自己相関に限らず、各種の所定周期を有する受信信号の受信状態を算出する方法が適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1:受信アンテナ、2:受信高周波部、5:複素乗算部、6:差分処理部、
7:積分器、8:加算平均部、9:矩形フィルタ部、10:最大値検出部、
11:最大値平均部、19:直交補正ADC部、21:直交ミキサ部、
21:復調部、22:復号部、23:多重部、24:自己相関部、
25:受信電力変換受信状態信号作成部、
26:受信状態信号表示器、27:直交誤差補正する2chADC、
31:送信ベースバンド部、32:送信高周波部、33:送信アンテナ、
34:伝送路、37:受信ベースバンド部、38:受信信号レベル表示器、
41:シフトレジスタ、42:複素乗算器、61:複素乗算器、
71:複素加算器、72:絶対値二乗演算器、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
映像(信号またはTS)を伝送する第一の所定周期を有する受信信号を、
(I/Qで)直交周波数変換する手段および該直交周波数変換した信号を(I/Qで)直交補正しながら直交AD変換する手段と直接(I/Qで)直交AD変換し直交補正する手段の一方との(I/Qで)直交AD変換し直交補正する手段と、
該直交AD変換した信号を(独立に)復調する手段と、該(独立に)復調した信号を映像(信号またはTS)に復号する手段と、
該直交補正しながら直交A/D変換した信号における第二の所定周期で自己相関値または差動相関値を算出する相関計算手段と、
該相関計算手段による相関値から所定周期毎の相関最大値を検出する最大値検出手段または該相関計算手段による相関値から所定周期毎の積分値を検出する積分値検出手段と、との少なくとも一方と、
該最大値検出手段または積分値検出手段との少なくとも一方により前記受信信号の電界強度を概算する電力概算手段と、を備え、
概算した前記受信信号の電界強度に基づき受信アンテナの方向調整用信号を生成する手段と、概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示する表示手段と、
概算した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を映像信号に重畳する映像重畳手段の少なくとも一方と、を備え、
該電力概算手段による概算値に基づいて、該受信機に入力される前記受信信号の電界強度を推定し、
推定した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示手段に表示するまたは映像重畳手段で映像信号に重畳することを特徴とする受信機。
【請求項2】
請求項1に記載の受信機において、前記第一の所定周期を有する受信信号が単一周波数の変調信号であることを特徴とする受信機。
【請求項3】
映像(信号またはTS)を伝送する第一の所定周期を有する受信信号を、直交周波数変換し(I/Qで)直交補正しながら直交A/D変換するかまたは直接(I/Qで)直交AD変換し直交補正し、(独立に)復調し、映像に復号し、
該直交補正しながら直交A/D変換した信号における所定周期で入力された同一データの自己相関値または差動相関値を算出し、
該相関値から第二の所定周期毎の相関最大値を検出または相関値から第二の所定周期毎の積分値を検出との少なくとも一方を行い、
該最大値検出手段または積分値検出手段との少なくとも一方により前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を推定し、
該推定した前記受信信号の電界強度または受信アンテナの方向調整用信号を表示手段に表示するまたは映像重畳手段で映像信号に重畳することの少なくとも一方と、を行うことを特徴とする受信電界強度表示方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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