説明

受光素子

【課題】視感度特性に近い分光感度特性を有し、分光感度特性を視感度特性に近づけるための光学フィルタを不要とすることができる、受光素子を提供すること。
【解決手段】受光素子1では、n型基板2の表層部にp型層3が埋設され、そのp型層3の表層部にn型層4が埋設されている。そして、p型層3に接続された第2アノード電極8とn型層4に接続された第2カソード電極9とが配線14で接続されることにより、p型層3とn型層4とのpn接合からなる第2のフォトダイオードPD2は、そののアノード−カソード間が短絡されている。これにより、受光素子1からは、n型基板2とp型層3とのpn接合からなる第1のフォトダイオードPD1での光電変換によって生じる光電流のみが、n型基板2に接続された第1カソード電極6から光検出信号として出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フォトダイオード構造を有する受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistants)、ノートPC(Personal Computer)などのモバイル機器では、周囲の明るさを検出するための照度センサが備えられている。そして、この照度センサにより検出される周囲の明るさに応じて、液晶画面の輝度が自動調整される。
照度センサには、フォトダイオード構造を有する受光素子が用いられている。従来の典型的な受光素子は、たとえば、n型基板の表層部に、p型不純物領域が形成された構造を有している。この受光素子では、p型不純物領域の表面(受光面)から入射する光が、p型不純物領域とn型基板とのpn接合からなるフォトダイオードにより光電変換され、この光電変換により生じる光電流が、n型基板に接続されたカソード電極から出力される。
【特許文献1】特開平7−38136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、光に対する人間の目の感度(視感度)は、波長が約555nmの光に対してピークとなり、波長が約400nm以下の範囲および約720nm以上の範囲の光に対して零となる。また、波長が約400〜555nmの範囲の光に対しては、短い波長の光ほど視感度が小さく、波長が約555〜720nmの範囲の光に対しては、長い波長の光ほど視感度が小さくなる。
【0004】
そこで、従来の受光素子では、分光感度が約555nmの波長を有する光に対してピークとなるように、フォトダイオードの受光面からの深さ(p型不純物領域の深さ)が設定されている。しかし、このような深さでは、p型不純物領域の表面から入射する波長400nm以下の光がフォトダイオード(pn接合)に達するために、波長400nm以下の光に対する感度が零にならない。このような分光感度特性を有する受光素子が照度センサに用いられ、たとえば、その照度センサがモバイル機器に備えられた場合、周囲の明るさの変化に対して、液晶画面の輝度が良好に調整されないおそれがある。そのため、従来の受光素子を照度センサに用いる場合には、p型不純物領域の表面に入射する光から波長400nm以下の光を除去するための高価な光学フィルタが必要であった。
【0005】
そこで、この発明の目的は、視感度特性に近い分光感度特性を有し、分光感度特性を視感度特性に近づけるための光学フィルタを不要とすることができる、受光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、第1導電型を有する第1半導体層と、この第1半導体層の表層部に埋設され、前記第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2半導体層と、この第2半導体層の表層部に埋設され、前記第1導電型を有する第3半導体層と、前記第2半導体層と前記第3半導体層とを接続する配線とを含むことを特徴とする、受光素子である。
【0007】
この受光素子では、第1導電型(p型またはn型)の第1半導体層の表層部に、第2導電型(n型またはp型)の第2半導体層が埋設され、この第2半導体層の表層部に、第1導電型の第3半導体層が埋設されている。これにより、受光素子には、第1半導体層と第2半導体層とのpn接合からなる第1のフォトダイオードと、第2半導体層と第3半導体層とのpn接合からなる第2のフォトダイオードとが、受光面をなす第1半導体層、第2半導体層および第3半導体層の表面からの深さを異ならせて形成されている。すなわち、受光面から相対的に深い位置に第1のフォトダイオードが形成され、受光面から相対的に浅い位置に第2のフォトダイオードが形成されている。
【0008】
この受光素子では、第2のフォトダイオードが形成されているので、受光面から入射する光のうち、第2のフォトダイオードで光電変換されない光のみが第1のフォトダイオードに到達する。したがって、従来の受光素子(に形成されているフォトダイオード)の分光感度と比較して、第1のフォトダイオードの分光感度を、短波長域で下げることができる。
【0009】
たとえば、第1のフォトダイオードの受光面からの深さを従来の受光素子におけるフォトダイオードの受光面からの深さとほぼ同じに設定し、波長400nmの光に対する第2のフォトダイオードの感度が従来の受光素子とほぼ同じとなるように、第2のフォトダイオードの受光面からの深さを設定すれば、第1のフォトダイオードの分光感度特性を、波長が約555nmの光に対する感度がピークとなり、波長が400nm以下の光に対する感度が零である分光感度特性とすることができる。つまり、第1のフォトダイオードの分光感度特性を、視感度特性に近づけることができる。
【0010】
そして、この受光素子では、第2半導体層と第3半導体層とが配線を介して接続されることにより、第2のフォトダイオードのアノード−カソード間が短絡されている。そのため、第2のフォトダイオードでの光電変換によって生じる光電流は取り出されず、第1のフォトダイオードでの光電変換によって生じる光電流のみが光検出信号として取り出される。したがって、この受光素子は、視感度特性に近い分光感度特性を有し、分光感度特性を視感度特性に近づけるための高価な光学フィルタを不要とすることができる。よって、この受光素子は、明るさを検出するための照度センサに好適に用いることができる。
【0011】
また、第2のフォトダイオードでの光電変換により生じる光電流が取り出されないので、その光電流に基づいて分光感度を演算する回路が不要である。したがって、そのような演算回路を配置するためのスペースを省略することができ、受光素子のサイズの小型化を図ることができる。また、この受光素子を、演算回路などを有しないディスクリート製品として構成することもできる。さらには、第2のフォトダイオードでの光電変換により生じる光電流に基づいて分光感度を演算する演算回路が不要であるので、この受光素子は、その演算回路が有するノイズの影響を受けるおそれがなく、良好な光検出信号を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る受光素子の構造を示す断面図である。
この受光素子1は、第1半導体層としてのn型基板2を備えている。このn型基板2の表面は、光が入射する受光面をなしている。
n型基板2の表層部には、平面視において、n型基板2の周縁から所定幅を隔てた内方の領域に、その表面からp型不純物をドーピングすることによって、第2半導体層としてのp型層3が埋設されている。これにより、受光素子1には、n型基板2とp型層3とのpn接合からなる第1のフォトダイオードPD1が形成されている。p型層3の受光面からの深さは、その第1のフォトダイオードPD1で波長555nmの光が最も効率よく光電変換される深さとされている。
【0013】
p型層3の表層部には、平面視において、p型層3の周縁から間隔を隔てた内方の領域に、その表面からn型不純物をドーピングすることによって、第3半導体層としてのn型層4が埋設されている。これにより、受光素子1には、第1のフォトダイオードPD1よりも受光面に近い位置に、p型層3とn型層4とのpn接合からなる第2のフォトダイオードPD2が形成されている。一般に、フォトダイオード構造を有する受光素子では、受光面から入射する光は波長が短いものほど浅い位置で吸収されるので、第2のフォトダイオードPD2では、555nmよりも短い波長の光が最も効率よく光電変換されることになる。
【0014】
n型基板2の表面は、SiO2またはSiNからなる透明な保護膜5で覆われている。この保護膜5上には、第1カソード電極6、第1アノード電極7、第2アノード電極8および第2カソード電極9が形成されている。
第1カソード電極6は、保護膜5に形成された開口11を介して、n型基板2に接続されている。第1アノード電極7は、保護膜5に形成された開口10を介して、p型層3に接続されている。また、第1アノード電極7は、グランドライン(図示せず)に接続されて、グランド電位とされている。これにより、第1のフォトダイオードPD1での光電変換によって生じる光電流は、第1カソード電極6から光検出信号として出力される。
【0015】
第2アノード電極8は、保護膜5に形成された開口12を介して、p型層3に接続されている。第2カソード電極9は、保護膜5に形成された開口13を介して、n型層4に接続されている。そして、第2アノード電極8と第2カソード電極9とは、保護膜5上に形成された配線14を介して接続されている。また、第2アノード電極8は、グランドライン(図示せず)に接続されている。
【0016】
以上のように、この受光素子1では、n型基板2の表層部にp型層3が埋設され、そのp型層3の表層部にn型層4が埋設されている。これにより、受光素子1には、n型基板2とp型層3とのpn接合からなる第1のフォトダイオードPD1と、p型層3とn型層4とのpn接合からなる第2のフォトダイオードPD2とが、受光面をなすn型基板2の表面からの深さを異ならせて形成されている。
【0017】
第1のフォトダイオードPD1は、波長が約555nmの光が最も効率よく光電変換される深さに形成されている。第2のフォトダイオードPD2が形成されていなければ、第1のフォトダイオードPD1は、背景技術の項で説明した従来の受光素子と同様の分光感度特性を有する。すなわち、図2に曲線C1で示すように、波長が約720nm以下の光に対して感度を有し、波長が約555nmの光に対する感度がピークとなり、波長が400nm以下の光に対する感度が零にはならない。
【0018】
この受光素子1では、第2のフォトダイオードPD2が形成されているので、受光面から入射する光のうち、第2のフォトダイオードPD2で光電変換されない光のみが第1のフォトダイオードPD1に到達する。したがって、第2のフォトダイオードPD2が、図2に曲線C2で示すように、波長が400nmの光に対して従来の受光素子とほぼ同じ感度を有し、かつ、約400nmの波長を有する光に対する感度がピークとなり、それよりも長い波長の光ほど感度が低下するような分光感度特性を有していれば、第1のフォトダイオードPD1は、図2に曲線C3で示すように、波長が約720nm以下の光に対して感度を有し、波長が約555nmの光に対する感度がピークとなり、波長が400nm以下の光に対する感度が零である分光感度特性を有する。つまり、第1のフォトダイオードPD1は、視感度特性に近い分光感度特性を有する。
【0019】
そして、p型層3に接続された第2アノード電極8とn型層4に接続された第2カソード電極9とが配線14を介して接続されることにより、第2のフォトダイオードPD2のアノード−カソード間が短絡されている。また、第2アノード電極8は、グランドラインに接続されている。そのため、第2のフォトダイオードPD2での光電変換により生成される光電流は、グランドラインに逃がされ、この受光素子1からは、第1のフォトダイオードPD1での光電変換によって生じる光電流のみが第1カソード電極6から光検出信号として出力される。したがって、この受光素子1は、視感度特性に近い分光感度特性を有し、分光感度特性を視感度特性に近づけるための高価な光学フィルタを不要とすることができる。よって、この受光素子1は、明るさを検出するための照度センサに好適に用いることができる。
【0020】
また、この受光素子1では、第2のフォトダイオードPD2での光電変換により生じる光電流が取り出されないので、その光電流に基づいて分光感度を演算する回路が不要である。したがって、そのような演算回路を配置するためのスペースを省略することができ、受光素子1のサイズの小型化を図ることができる。また、この受光素子1を、演算回路などを有しないディスクリート製品として構成することもできる。さらには、第2のフォトダイオードPD2での光電変換により生じる光電流に基づいて分光感度を演算する演算回路が不要であるので、この受光素子1は、その演算回路が有するノイズの影響を受けるおそれがなく、良好な光検出信号を出力することができる。
【0021】
以上、この発明の一実施形態を説明したが、この発明は他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、第1アノード電極7および第2アノード電極8が別々に形成されているが、第1アノード電極7および第2アノード電極8を一体に形成してもよい。また、第1アノード電極7および開口11を省略してもよい。さらにまた、第2アノード電極8および開口12を省略し、第1アノード電極7をグランドラインに接続するとともに、第1アノード電極7と第2カソード電極9とを配線14により接続してもよい。
【0022】
また、前述した受光素子の各半導体部分の導電型を反転した構成が採用されてもよい。すなわち、p型基板の表層部にn型層を埋設し、そのn型層の表層部にp型層を埋設する。そして、p型基板およびp型層をグランドラインに接続するとともに、p型層とn型層とを配線により接続して、p型層とn型層とのpn接合からなる第2のフォトダイオードのアノード−カソード間を短絡することにより、p型基板とn型層とのpn接合からなる第1のフォトダイオードでの光電変換によって生じる光電流のみをn型層に接続された電極から取り出すようにしてもよい。
【0023】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態に係る受光素子の構造を示す断面図である。
【図2】図1に示す受光素子の分光感度特性を説明するための図である。
【符号の説明】
【0025】
1 受光素子
2 n型基板
3 p型層
4 n型層
14 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型を有する第1半導体層と、
この第1半導体層の表層部に埋設され、前記第1導電型とは異なる第2導電型を有する第2半導体層と、
この第2半導体層の表層部に埋設され、前記第1導電型を有する第3半導体層と、
前記第2半導体層と前記第3半導体層とを接続する配線とを含むことを特徴とする、受光素子。


【図1】
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【図2】
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