説明

受雷検出方法

【課題】 雷サージ電流検出装置を使用することなく、受雷を容易にかつ確実に検出でき、また受雷時にはその雷エネルギーを容易に推定可能とする。
【解決手段】 チタンまたはチタン合金で構成され、表面に金白色とほぼ補色の関係にある酸化膜が形成された避雷針1を使用し、受雷時に雷電流による発熱で形成される金白色領域の存在によって受雷を検出する。特に、避雷針の表面酸化膜による発色が青色またはそれに類似する色調であるときに、きわめて容易に検出することができる。さらに、金白色領域の寸法によって、雷エネルギーの大きさを推定することが可能となることから、その径または面積によって、雷エネルギーの大きさを推定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受雷検出方法、特に受雷の痕跡を容易にかつ明確に確認でき、さらにはその痕跡の寸法から雷エネルギーの大きさを推定することができる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種施設において雷サージによる施設自体の損壊、さらには施設内に設置されている電子機器等の損傷を防止しあるいはその損傷を極力軽減するための雷サージ防護対策が強化されている。その対策として、たとえば、電子機器を収容した建築物を囲むように地中に埋設した防雷環状地線と、この建築物において予想される雷撃点たとえば避雷針等とを絶縁被覆電線で接続し、この絶縁被覆電線を構築物の外壁の内外に沿って配設することが行われている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この種防護システムを施すことによって、施設やその内部に設置された電子機器等の雷被害についての報告がなくなり、防護効果のあることが推定されてはいるものの、それが検証されることがきわめて少なかった。その検証には、雷サージ電流を検出するための装置をシステムに組み込んでおき、これにより、一定の期間毎にあるいは必要に応じて受雷の有無を調べる必要があった。さらに、それにサージ電流値を記録する機能を持たせ、受雷があったときにはそれによるサージ電流を推定することによって、機能の機能・信頼性の確認、その後の改善対策に反映させるためのデータを収集することが行なわれている。
【特許文献1】特開平11−176591号公報(第0037〜0038欄、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような雷サージ電流の検出装置の使用は、システム構築費用を増大させる上に、雷撃を受ける箇所が複数個あると予想されるような建築物等の場合には、予想される箇所それぞれについて設置しなければならず、また、設置のための作業量を大幅に増大させることから、コスト増となることが避けられなかった。
【0005】
ところで、銅合金またはアルミニウム合金からなる従来の避雷針では、受雷した先端部分が溶けてその形状が丸く変形し、あるいは、受雷箇所をほぼ中心にしてその周囲のあれた状態となって、その痕跡が残る。ところが、その痕跡の大きさがきわめて不明瞭なことから、痕跡の大きさにもとづいて雷サージエネルギーの大きさを推測することは困難である。また、一般に受雷の機会が頻繁にあるものでないことから、設置してから受雷するまでに、上述の避雷針ではその表面に酸化膜等が形成され、受雷によって形状が変形に至らない場合には、受雷による表面のあれを明確に視認することが困難であった。
【0006】
さらに、このような視認作業は避雷針を取外してはじめて明らかになるのがほとんどであり、高所に設けられたままの状態で確認できるケースはきわめて稀であった。
【0007】
本発明は、雷サージ電流を検出するための装置を使用することなく、受雷の有無、受雷があったときにはその箇所を直接に視認することができ、さらにはその雷サージエネルギーの大きさを容易に推定することができる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、チタンまたはチタン合金で構成され、あらかじめ所定の色調を発色する膜厚の表面酸化膜が形成された避雷針を使用し、その表面酸化膜による色調と異なる色調の、受雷時に形成される領域の存在によって受雷を検出することを特徴とする。
【0009】
さらに、避雷針の表面酸化膜による色調が、受雷時に形成される領域の色調とほぼ補色の関係としたことを特徴とする。特に、避雷針の表面酸化膜による発色を青色またはそれに類似する色調とすることが推奨される。
【0010】
さらにまた、避雷針の受雷時に形成される領域の寸法によって、雷エネルギーの大きさを推定することを特徴とする。その寸法としては、受雷によって形成された領域の形状が円形であるときにはその径によって、非円形であるときにはその面積によって、雷エネルギーの大きさを推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、チタンまたはチタン合金からなる避雷針は、銅やアルミニウム等で構成された従来の避雷針に比べて融点が高いことから、雷撃を受けても溶融等によって生じる変形があってもそれは実質的に無視できる程度であり、また、熱伝導性も低いことから、雷撃による痕跡とその輪郭が明確に残り、さらに耐候性に優れていることから、その痕跡が長期間にわたって明瞭に保持される。
【0012】
また、雷撃点を中心として、雷エネルギーの大きさに応じて領域が発熱し、溶融点近傍の温度にまで達するため、その温度に応じた膜厚の表面酸化膜が発熱領域に形成されて、金白色の痕跡として鮮明に残ることから、あらかじめこの避雷針表面に陽極酸化法などで金白色とは異なる色、たとえばそれとはほぼ補色関係にある青色またはその類似色で発色する膜厚の酸化膜を形成しておくことにより、受雷をきわめて容易に判定することができ、かなり離れた所からも容易に視認することができる。
【0013】
さらに、雷撃の痕跡の寸法たとえばその径または面積等が、雷エネルギーの大きさに依存することから、その寸法によって受雷エネルギーを容易に推定することが可能となる。
【0014】
そして、このような避雷針を、建造物の雷撃を受ける可能性のある箇所に取付けることで、受雷の有無、受雷のあったときにはその雷エネルギーの概略の大きさを容易に推定することができることから、本発明の方法は防雷対策の効果の検証、さらにはその信頼性向上にきわめて有用である。また、受雷検出や雷エネルギーの測定のための装置、器具を特に必要としないことから、防雷対策の施工費用、現場での敷設のための作業量を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図4に示すように、建造物41の屋上をはじめ必要とする箇所にチタンまたはチタン合金からなる避雷針42〜46を設置するとともに、これら避雷針42〜46にケーブル47を接続するとともに、このケーブル47の他端側を、建造物41を囲むよう配置した環状の埋設接地線49に絶縁被覆ケーブル48で接続することによって、建造物41そのものやその中に設置された各種機器を雷サージから防護する。
【0016】
避雷針42〜46はチタンまたはチタン合金からなり、銅合金やアルミニウム合金と異なり、雷撃を受けると、その受雷箇所をほぼ中心にした特定の領域が溶融点近傍の温度で発熱して表面が酸化されて、金白色の色調で発色させる厚さの表面酸化膜が形成され、雷撃痕として明確に保持される。そして、チタンまたはチタン合金は耐候性に優れていることから、雷撃痕が長期間にわたって保持される。また、雷撃による発色領域の寸法が雷エネルギーの大きさに依存することが発明者の実験によって確認された。これにより、たとえばその領域が円形状に形成されたときにはその径や面積によって、非円形状に形成されたときにはその面積によって、雷エネルギーの大きさを推定できることができ、雷防護システムの信頼性向上のためのデータ収集・蓄積が容易となる。
【0017】
受雷時、チタンまたはチタン合金で構成された避雷針には、雷撃点を中心として雷エネルギーに応じた範囲の領域がその溶融点近傍の温度にまで発熱し、金白色の色調の発色となる膜厚の酸化膜が形成されることから、避雷針をあらかじめ酸化処理たとえば陽極酸化処理を施して、金白色とは異なる色、たとえばそれとほぼ補色の関係にある色調で発色する膜厚の表面酸化膜を形成しておくことで、受雷があったときにはその痕跡をきわめて明瞭に残存させることができ、この痕跡の存在で雷撃のあったことが検出される。
【0018】
そして、この避雷針は耐候性に優れていることから、長期間にわたって明瞭に痕跡を保持することから、複数回、雷撃を受けてもその履歴を確実に保持する。
【実施例1】
【0019】
本発明で使用したチタン避雷針1は、図1に示すように、棒状体でその先端部分がほぼ高さと底面半径が等しい回転円錐体状に構成されたものであって、回転円錐体底面の直径が18mm、先端から180mmの位置での直径が22mm、全長が375mmである。この試料3種を準備し、それぞれについて青色に発色する厚さの表面酸化膜を陽極酸化法で形成した。
【0020】
図2はこの避雷針1についてのインパルス印加試験を行うための装置の構成を示す。避雷針1は良導電性金属たとえば銅からなる支持台2上に固定保持し、その先端を対極3と所定の間隙をおいて対向させて配置した。避雷針試料を支持台2および対極3をインパルス印加試験装置4に接続し、4×10マイクロ秒の波形で波高値電流25.5kA、50.3kA、99.8kAのインパルスを印加して、それぞれのインパルス印加による避雷針1の表面状態の変化を調査した。
【0021】
図3はこのインパルス電流印加による避雷針1の先端の表面状態を示す平面図である。同図(A)は波高値25.5kAの電流印加による表面変化を示し、同図(B)は波高値50.3kAの電流印加による表面変化を、また同図(C)は99.8kAの電流印加による表面変化をそれぞれ示す。
【0022】
図3(A)〜(C)に示すように、避雷針1の青色発色部31の、インパルス電流印加箇所を中心にして円形の金白色の発色領域32がきわめて明確に形成されていることを視認できた。さらに、いずれにおいても金白色発色領域32を囲むほぼ環状の紺色発色領域33が形成されており、これにより発色領域32の輪郭をはっきりと視認することができた。
【0023】
この結果から、チタン避雷針1を用いることで、雷撃を受けたときには受雷の痕跡によってそれを視認によって確実に検出することができた。そして、インパルス電流の大きさに応じて、図3(A)、(B)、(C)に示すように、形成された金白色発色領域32の大きさが異なり、その直径または面積がそのエネルギーの大きさに依存することが明らかとなった。
【0024】
これから、あらかじめ同規格の避雷針についてインパルス電流とそれによる発色領域32の寸法との関係を実験的に求めておくことによって、雷撃を受けた避雷針について、その雷サージによる発色領域の大きさ、すなわち痕跡が円形状であるときにはその径によって、また非円形状であるときにはその面積にもとづいて雷エネルギーの大きさを確実に推定することが可能となる。
【0025】
なお、この例ではチタンからなる避雷針を使用しているが、チタンに代えてその合金、たとえばTi−6Al−4V,Ti−5Ta,Ti−0.15Pd,Ti−15Mo−5Zr−3Al,Ti−13V−11Cr−3Al,Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al,Ti−3Al−8V−6Cr−4Mo−4Zr,Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn,Ti−10V−2Fe−3Al,およびTi−15V−3Cr−3Al−3Sn等からなる避雷針を使用し、また、突針部がチタンまたはその合金からなる避雷針を使用しても上述の効果が得られるのは言うまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上述から明らかなように、本発明の方法によれば、雷撃のあったことを確実に検出することができるだけでなく、さらにはその雷エネルギーの大きさも推定することができる。
【0027】
これにより、雷サージ防護システムの防護機能を的確に検証することができ、かつ、複数の避雷針を使用したシステムにおいては、受雷したものをきわめて容易に識別することができる。
【0028】
さらに、雷サージのエネルギーを推定できることから、防護システム構築にその結果を活用することができ、システムの信頼性、構築費用の低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の方法において使用する避雷針の一例を示す側面図である。
【図2】本発明の方法を検証するためのインパルス印加試験を実施するための装置の公正を示す図である。
【図3】図2に示す装置によるインパルス印加試験の結果を説明するための、避雷針先端の平面図である。
【図4】本発明の方法を適用した雷防護システムの構成を一例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 避雷針
2 保持台
3 対極
4 インパルス印加試験装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金で構成され、あらかじめ所定の色調を発色する膜厚の表面酸化膜が形成された避雷針を使用し、前記表面酸化膜による色調と異なる色調の、受雷時に形成される領域の存在によって受雷を検出することを特徴とする受雷検出方法。
【請求項2】
前記避雷針の表面酸化膜による色調が、受雷時に形成される領域の色調とほぼ補色の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の受雷検出方法。
【請求項3】
前記避雷針の表面酸化膜による発色が青色またはそれに類似する色調であって、受雷時に形成される領域が金白色の色調である請求項1に記載の受雷検出方法。
【請求項4】
前記避雷針の受雷時に形成される領域の寸法によって、雷エネルギーの大きさを推定することを特徴とする請求項1、2または3に記載の受雷検出方法。
【請求項5】
前記避雷針の受雷時に形成される領域の径または面積によって、雷エネルギーの大きさを推定することを特徴とする請求項1、2または3に記載の受雷検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−280764(P2007−280764A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105507(P2006−105507)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000123354)音羽電機工業株式会社 (61)
【Fターム(参考)】