説明

口腔内装置のための重合性材料による一時的コーティングの方法およびそのシステム

口腔内装置(たとえば、歯列矯正用ブラケット(104)および/またはワイヤ(106))を、患者の口内の軟組織への不快感を軽減するように一時的にコーティングする方法とシステム。このようなシステムの1つの実施形態は、少なくとも1つの歯列矯正用ブラケット(104)または歯列矯正用アーチワイヤ(106)と、ブラケット(104)および/またはワイヤ(106)のうちの選択された面のコーティングに使用するための2剤式重合性一時的コーティング組成物(102)を含む。あるシリコーン重合性2剤式組成物(102)はビニルシロキサン成分と架橋結合成分と触媒活性化剤を含み、これらは当初、2剤の間で、成分の中の少なくとも1つが少なくとも1つの他の成分から分離されるように(つまり、当初は3つの成分全部が混合されないように)配分されている。第一剤と第二剤の混合により、組成物は重合を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内装置システム、たとえば、歯間の空隙および歯の方位の矯正に使用される歯列矯正用ブラケットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正は、悪い歯並び、つまり不正歯列の場合に歯を強く圧迫して正しい配列と方位にするために、器械的な力を加える作業を伴う専門的な歯科分野である。歯列矯正処置は、下顎後退や過蓋咬合を矯正するために医学的な必要な歯の移動のほか、歯の美容面の改善にも利用される。たとえば、歯列矯正治療によって、患者の咬合を正しくし、または対応する歯と歯の空間的整合を改善することができる。
【0003】
歯列矯正治療の最も一般的な形態は歯列矯正用ブラケットとワイヤを使用するもので、これらはまとめて「ブレース」と呼ばれる。歯列矯正用ブラケット、より詳しく言えば、歯列矯正用ベースとは、患者の歯に直接取り付けるように、あるいは歯の周辺にセメントその他によって固定されるバンドに取り付けるように構成された、スロットを有する小さな本体である。接着剤またはセメントによってブラケットが患者の歯に固定されると、湾曲したアーチワイヤが各ブラケットのスロットに挿入される。アーチワイヤは、歯を正しい配列へと移動させるように案内するためのテンプレートまたは軌道の役割を果たす。
【0004】
ブラケットベースは、治療中にアーチワイヤからブラケットに伝わる力に耐えられるように、剛性材料、一般的には金属、セラミックまたは剛性プラスチックで形成される。使用されるアーチワイヤもまた金属で形成されるのが一般的である(ステンレススチールまたはニッケルチタン等)。患者に歯列矯正用ブラケットシステムを装着すると、硬い剛性歯列矯正用ブラケットおよび/またはワイヤが、口内の柔らかくて傷つきやすい組織を刺激することがよくある。これは特に治療開始時や何らかの調節が行われた後に起こり、少し時間が経つと口内の組織が幾分硬くなり、ブラケットおよび/またはワイヤの存在による不快感や痛みは軽減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不快感の緩和に役立てるために、治療の初期段階または調節後に、ブラケットおよび/またはワイヤの一部を被覆して患者の口とブラケットおよび/またはワイヤとの接触面を柔らかくすることを目的としたソフトワックスが用いられる。通常、口内の組織は数日から2週間程度で硬化し、ブラケットの存在に適応するが、ソフトワックス材料は数分または2時間もすれば簡単に落ちてしまい、これは不快感の軽減に有効となるには不十分な時間である。ソフトワックスは落ちやすいため、患者はワックスコーティングを頻繁に塗りなおすか、あるいは不快感や痛みを我慢しなければならず、いずれも好ましくない。そこで、不快感を軽減するために歯列矯正用ブラケットシステムの一部を一時的にコーティングする、新たなシステムと方法が提供されれば、当業界の改善となろう。この改善はまた、使用時に装置と口内の柔らかく、傷つきやすい組織との接触によって患者に痛みと不快感を与えるような他の口腔内装置(部分床義歯やブリッジ、口蓋拡大器、または口腔内で使用するその他の装置等)についても有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、患者の口内の軟組織への不快感を軽減するために、口腔内装置(歯列矯正用ブラケットおよび/またはアーチワイヤ)を一時的にコーティングするのに使用されるシステムと方法に関する。このようなシステムの1つの実施形態は、少なくとも1つの口腔内装置と、この口腔内装置の中の選択された面のコーティング(たとえば、歯列矯正システムのブラケットおよび/またはアーチワイヤの中の選択された1つまたは複数の面のコーティング)に使用するための2剤式(two-part)重合性組成物を含む。比較的柔軟で弾力性のある重合性組成物を生成する各種の2剤式重合性組成物が利用可能であるが、その一例として2剤式シリコーン組成物がある。シリコーンが好ましいものの、ポリウレタンおよび/またはエポキシ系の柔軟で弾力性のある重合性組成物でも、柔軟で弾力性のある好適な重合性組成物が得られる。好ましくは、上記のいずれの重合性組成物であっても、その2剤は比較的高い粘度を有し、成形可能なパテ様の稠度(consistency)を有する。
【0007】
好ましい実施形態において、2剤式重合性組成物は2剤式シリコーン組成物からなり、この2剤式シリコーン組成物の第一剤はビニルシロキサン成分と架橋結合成分を含み、第二剤は触媒活性化剤を含む。第一剤と第二剤を混合すると、組成物は重合を開始する。ビニルシロキサン成分と架橋結合成分と触媒活性化剤は、これら3成分のすべてが一緒にされないかぎり(全部を一緒にすると重合反応が開始する)、組成物の第一剤と第二剤に上記とは異なるように配合してもよい。
【0008】
ある実施形態において、第一剤と第二剤は有利なことに、比較的高い粘度を有し、パテ様の稠度を有する2剤が、たとえば患者の指先の上に分注され、その後一緒に丸められ、または練り合わされて、2剤が良く混合される。ある実施形態において、パテ様組成物は成形可能であり(たとえば、クレイ様および/またはシリーパテ(silly putty)に似たもの)、手に付かない程度に乾燥していてもよい(dry to the touch)(つまり、くっつかない)。さらに、組成物はほかにフレーバ剤(flavorant)および/または着色剤を含んでいてもよい。組成物の2剤のうちの一方または両方に着色剤を含めて、各剤を最初から異なる色にすると、2剤を丸め、練り合わせるときに、混合が略完了した時期が視覚的に示される。フレーバ剤を含めることは、組成物が患者の口の中に塗布されることを考えると、特に有益である。フレーバ剤により、組成物はより口当たりのよい味となる。
【0009】
本発明の別の実施形態は、上述の2剤式重合性組成物を使って、歯列矯正用ブラケットおよび/またはワイヤのような1つまたは複数の口腔内装置の所望の表面に一時的コーティングを施す方法に関する。有利な点として、組成物は塗布された表面に、口内の組織がブラケットとワイヤの存在に適応するのに十分な時間だけ接着またはその他の方法で付着し、また有利な点として、このような適応が起こった後にまもなく擦れてなくなる。たとえば、重合性一時的コーティング組成物の第一剤と第二剤は混合され(たとえば、丸め、および/または練り合わせる)、その後、混合された組成物が患者の口内に装着されたブラケットおよび/またはワイヤの中の選択された面に塗布される。組成物は高い粘度を有するパテ様であるため、患者はブラケット、アーチワイヤまたはその他の口腔内装置の装着前および/または後に、これらの装置の上で材料をさらに形作り、成形し、押し付けて、ブラケット、ワイヤまたはその他の口腔内装置による引っ掛かりや擦れを軽減する、快適な結果を導くことができる。材料が重合を開始したところで、これをブラケットおよび/またはワイヤの上の必要な場所に設置できる。組成物はその場で重合工程を完了し、この点は、重合工程がその場で起こるために材料がブラケットおよび/またはワイヤに接着し、またはこれと機械的に噛み合うことからさらに有利である。その場で重合が起こることにより、シリコーン材料は、はるかに簡単に擦れてなくなるワックスほど容易には落ちない。
【0010】
他の点はすべて同じであるとすると、この組成物は有利なことに、塗布された場所にワックスよりずっと長い時間とどまる。たとえば、ある状況においてワックスが数分から1時間程度で擦れてなくなると、本発明による組成物は同様の条件下でずっと長くとどまる。たとえば、一般的な用途で、本発明による組成物は、塗布された場所に少なくとも約8時間、より一般的には少なくとも約1日間、より一般的には少なくとも約2日間とどまる。もちろん、使用者の行動は、組成物が擦れてなくなる、および/または落ちることなくその場にどれだけとどまるかに影響を与える。
【0011】
もちろん、実際の時間は使用者の行動(たとえば、休む、眠る、食べる、飲む、タバコを吸う)によって左右され、一時的コーティング組成物と接触し、これと擦れ合い、あるいはその他これを擦り落としてしまう行動によって組成物がその場にとどまる実際の時間が短縮すると予想される。いずれにせよ、他の点はすべて同じであるとすると、本発明による一時的コーティング組成物は、従来使用されているワックスと比較して、擦れてなくなるまでの時間が大幅に長い。本発明による一時的コーティング組成物は擦れてなくなりにくいため、口腔内の軟組織が硬化し、歯列矯正用ブラケット、ワイヤまたはその他の口腔内装置の存在に適応して、重合性コーティング組成物が不要となるまでに塗布しなければならない回数が少なくてすむ(場合によっては、1回塗布すればよいかもしれない)。有利な点として、組成物は、舌の動き、唾液の作用およびその他の口内の力の当然の結果として、上記の一般的な時間がたつと擦れてなくなるため(たとえば、3−5日以下)、コーティング組成物を除去するための積極的なステップが不要である。これと対照的なのは口腔内装置(たとえば、歯列矯正用ブラケット)の上に取り付けられることのある各種の歯列矯正器具用カバーであり、このようなカバーは比較的かさばり、口腔内の内部軟組織が口腔内装置の存在に適応した時点で患者がかさばるカバーをそれ以上付けておきたくなければ、患者はこれを積極的に除去しなければならない。本発明による一時的コーティング組成物は、使用者が行う必要のある行動を大幅に単純化し、軽減する。
【0012】
本発明の上記およびその他の利点と特徴は、以下の説明と付属の特許請求範囲からさらに十分に明らかとなり、あるいは以下に紹介する本発明の実践からわかってくるであろう。
【0013】
本発明の上記およびその他の利点と特徴をより明確にするために、本発明のさらに詳しい説明を本発明の具体的な実施形態に関して行うものとし、これらの実施形態を添付の図面に示す。これらの図面は本発明の代表的な実施形態を描いたにすぎず、したがって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。添付の図面を使用して、本発明をさらに具体的かつ詳細に説明、解説する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】パテ様の稠度を有する別々の2剤からなる2剤式重合性組成物が、ある人物の指先に分注された様子を示す斜視図である。
【図2】その人物が2剤を練り合わせ、および/または丸めて混合している様子を示す図である。
【図3】混合された一時的コーティング組成物の一部を、部分的に重合した状態でその人物の口内の1つまたは複数の歯列矯正用ブラケットおよび/またはアーチワイヤの上に塗布している様子を示す図である。
【図4】その人物の口を開けた状態であり、シリコーン一時コーティング組成物が歯列矯正用ブラケットおよび/またはワイヤの中の選択された部分(たとえば、門歯用ブラケットと末端ブラケット/アーチワイヤの端部)に塗布された様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.緒言
本発明は、患者の口内の軟組織への不快感を軽減するために、口腔内装置を一時的にコーティングするのに有益な方法とシステムに関する。このようなシステムの1つの実施形態は、少なくとも1つの口腔内装置と、この口腔内装置の中の選択された面のコーティングに使用される2剤式重合性組成物を含む。本発明を特に利用できると考えられる1つの種類の口腔内装置は、一時的にコーティングされる歯列矯正器具(たとえば、歯列矯正用ブラケットおよび/またはアーチワイヤ)である。このほかにも、本発明による利益を享受できる口腔内装置としては、これらに限られないが、部分床義歯(たとえば、剛性金属またはプラスチックで形成されることが多い)、取り外し可能なブリッジ、上顎側方拡張装置および、破損した、またはその他表面が粗くなった義歯等がある。たとえば、ポーセレン義歯やその他の歯列矯正器具は、破損したり、表面が粗くなったりし、それによる不快感は本願によるコーティング組成物によって緩和されるかもしれない。
【0016】
比較的柔軟で弾力性のある重合性組成物を生成する各種の2剤式重合性組成物、例えば2剤式シリコーン組成物を利用してもよい。シリコーンが好ましいものの、ポリウレタンおよび/またはエポキシ系の柔軟で弾力性のある重合性組成物でも、柔軟で弾力性のある好適な重合性組成物が得られる。好ましくは、上記のいずれの重合性組成物についても、2剤は比較的粘度が高く、(たとえば、練り合わせたり、丸めたりすることによって)力を加えないとその形状を保持する、成形可能なパテ様の稠度を有する。このようなパテは同様に、(液体と異なり、)容易に、また素早く、収容される容器の形状と同じ形状となることはない。材料内に気泡が生じるために、パテの粘度を正確に測定することは難しいが、パテの粘度は通常、約1kPa−secから約1,000kPa−sec、より好ましくは約10kPa−secから約500kPa−sec、最も好ましくは約25kPa−secから約300kPa−secの範囲であってよい。組成物の稠度と粘度は主として、組成物の生成に使用された重合性成分の分子量のほか、組成物内に含められたフィラの割合と特性によって決まる。一般に、重合性成分の分子量を増やすと、組成物の粘度が高まる。フィラの含有量を増やしても、粘度は高まる。
【0017】
シリコーンの場合、2剤式組成物はビニルシロキサン成分、架橋結合成分、触媒活性化剤(たとえば、プラチナ)を含む。ビニルシロキサン成分と架橋結合成分と触媒活性化剤は、3つの成分のすべてが一緒にされないかぎり(すべてを一緒にすると、重合反応が始まる)、組成物の第一剤と第二剤に異なる構成で配合してよい。たとえば、触媒活性化剤を2剤のうちの一方に含め、架橋結合成分をもう一方に含め、ビニルシロキサン成分を両方に含めるように配分してもよい。
【0018】
第一剤と第二剤を混合すると、組成物は重合を開始し、重合には一般に約10秒から約3分かかる。材料が重合を開始したところで、これをブラケットおよび/またはワイヤの上の必要な場所に塗布し、シリコーンがその場で重合工程を完了するようにすることができる。重合がその場で完了することにより、材料はその場での重合の結果として、口腔内装置に接着し、および/または機械的に噛み合い(つまり、材料がその下の基板の上に覆いかぶさり、これを機械的に把持し、またはこれと噛み合うように成形し、そのような形状にしてもよい)、それによって、より擦れて落ちやすいワックスほど容易には落ちないようになる。
【0019】
II.重合性一時的コーティング組成物とシステムの例
口腔内での塗布と重合に適していれば、どのような2剤式組成物でも使用できる。このような組成物には、たとえば、柔軟で弾力性があり、重合の前後いずれにおいても成形可能なシリコーン、ポリウレタンおよび/またはエポキシがある。好ましい種類の組成物は、添加型化学により重合するポリビニルシロキサンシリコーンである。たとえば、この種の材料を使用すると、重合は末端にビニル基を有するシロキサン成分について起こり、これらの成分は重合中に、ビニルシロキサン成分と架橋結合可能な水素原子を含む他のシロキサン成分とも架橋結合する。重合反応は、プラチナ触媒によって活性化される。
【0020】
ある実施形態において、2剤式シリコーン組成物の第一剤は架橋結合成分と、ビニルシロキサン成分の少なくとも一部を含み、第二剤は触媒活性化剤(たとえば、プラチナ)と、任意でビニルシロキサン成分の一部を含む(たとえば、ビニルシロキサン成分は一般に3つの必要成分の中で最も重量比が大きいため、この成分を2剤に、2剤のおおよその質量または体積が1:1の比率に保たれるように配分することが好ましいかもしれない)。ビニルシロキサンには、たとえば、反応性ビニル基を有する末端を少なくとも2つ含む好適なシロキサン成分が含まれていてもよい。1つの好ましいビニルシロキサン成分はジメチルシロキサン(DMS)であり、その一般的構造を以下に示す。
【0021】
【化1】

【0022】
文字nは整数であり、その値(およびDMSの分子量)の選択に応じて、組成物の粘度および/または重合時間を変化させることができる。DMSの平均分子量は、好ましくは約10,000から約100万、より好ましくは約15,000から約500,000、最も好ましくは約25,000から約300,000の範囲である。特に断りがないかぎり、本明細書に記されている分子量はすべて平均値であり、単位はダルトンで表される。別の重合性一時的コーティング組成物(たとえば、ウレタンまたはエポキシ系)は、上記のものと同様の範囲内の分子量を有する他の重合性成分(たとえば、ウレタンおよび/またはエポキシ)を用い、またその組成物のフィラ含有量を調整することによってパテ様の稠度にすることができると考えられる。
【0023】
ビニルシロキサンは好ましくは、2剤式組成物の中に、約20から約90重量パーセント、より好ましくは約25から約75重量パーセント、最も好ましくは約35から約65重量パーセントの範囲で含まれる。ある実施形態において、ビニルシロキサンは、組成物の第一剤と第二剤の両方に含まれていてもよい。上記のジメチルシロキサンは、組成物を容易に成形できるようなパテ様であることを特徴とする粘度および、重合が略完了する前に使用者が材料を成形し、所定の場所に押し付けるための時間が確保できることを特徴とする重合時間等、優良な物理的特性を有することが判明したビニルシロキサン材料の一例であるが、こうした所望の特性に基づいて、他の各種のビニルシロキサン材料も選択できる。
【0024】
2剤式シリコーン組成物は架橋結合シロキサン成分も含み、これは重合中にビニルシロキサン成分と架橋結合する。架橋結合可能であれば、どのようなシロキサン共重合体でも使用できるが、その一例は以下の構造式で表されるメチルヒドロシロキサンジメチルシロキサンである。
【0025】
【化2】

【0026】
左側の角括弧内のシリコンと結合したHはビニルシロキサン(たとえば、MDS)のビニル基と反応し、重合が完了すると、架橋結合した重合構造となる。架橋結合構造により、重合材料はより強度を増す。文字mは2以上の整数であり、その値の選択に応じて、重合材料を架橋結合させる程度や、組成物の粘度および/または重合時間を変化させることができる。文字nも整数である(mと違ってもよく、また前述のDMS構造中のnの値と違ってもよい)。架橋結合成分の中のnの値の選択に応じて、組成物の粘度および/または重合時間を変化させることができる。
【0027】
架橋結合成分の分子量は、好ましくは約100から約100,000、より好ましくは約1,000から約10,000、最も好ましくは約2,000から約5,000の範囲である。ある実施形態において、mとnの値は略等しい。たとえば、以下の例1で使用される架橋結合成分のmとnの値は約25であり、分子量は約3,500である。一般に、mおよび/またはnの値を大きくする(つまり、分子量を増やす)と、重合前の材料の粘度が増す。フィラを含めるか否かや、組成物の中のフィラの含有率もまた、重合前の材料の粘度に影響を与え、一般にフィラの濃度を高めると粘度が増す。したがって、ビニルシロキサン成分と架橋結合成分の分子量、フィラの特性および含有量の間には相互作用があり、これらはすべて、所望の濃度と粘度の組成物を得るように調整できる。
【0028】
シロキサン架橋結合成分は組成物の中に、好ましくは約0.5から約10重量パーセント、より好ましくは約1から約8重量パーセント、最も好ましくは約2から約4重量パーセントの範囲で含まれる。架橋結合成分が2剤のうちの一方に含まれる実施形態では、シロキサン架橋結合成分は組成物の2剤のうちの一方に、好ましくは約1から約20重量パーセント、より好ましくは約2から約15重量パーセント、最も好ましくは約4から約8重量パーセントの範囲で含まれる。
【0029】
2剤式重合性一時的コーティング組成物の2剤の一方または両方は、1つまたは複数のフィラを含んでいてもよい。フィラの例としては、これらに限定されないが、バルクガラス粒子フィラ、微粒子シリカフィラ、ポリエチレンおよび/またはその他のポリマフィラ(たとえば、粉砕されたもの)、金属粒子、酸化アルミニウム、二酸化シリコン、二酸化チタン、およびこれらの組み合わせがある。フィラの1つまたは複数は、シラン化によって材料の中の接着性と稠度を改善させてもよい。言い換えれば、シラン化され、表面改質されたフィラは、組成物内の他の成分によってより被覆および/または湿潤されやすくなる。ある特に好ましい実施形態において、組成物の2剤の各々に、バルクガラス粒子フィラ(たとえば、平均粒径が約0.5から約1ミクロンの範囲のもの)と微粒子シリカフィラ(たとえば、平均粒径が約40−80nmの範囲のもの)の両方が含まれる。バルクガラス粒子フィラは粘度を高め、材料のかさを増やし、より強度を持たせるのに対し、微粒子シリカフィラは、材料の粘度を調整し、その操作性を改善する役割を果たす。含まれるフィラはいずれも、2剤式組成物の中に、好ましくは約20から約70重量パーセント、より好ましくは約30から約60重量パーセント、最も好ましくは約40から約55重量パーセントの範囲で含まれる。含められる微粒子シリカフィラ(好ましくは、シラン化されたもの)は、好ましくは組成物の約2重量パーセントから約10重量パーセントを占める。他はすべて同じであるとすると、使用する重合性成分の分子量が大きければ、組成物の中に含められるフィラの割合を小さくして好ましい粘度を実現すればよく、またその逆でもよい。
【0030】
可塑剤を含めることもでき(たとえば、グリセリン)、可塑剤は2剤のうちそれが含まれる方(両方の場合もある)の稠度と、重合した組成物の稠度を変化させる役割を果たす。含められる可塑剤(たとえば、グリセリン)は2剤式組成物の中に、好ましくは約0.1から約10重量パーセント、より好ましくは約0.25から約4重量パーセント、最も好ましくは約0.5から約2重量パーセントの範囲で含まれる。
【0031】
シリコーン組成物の場合、2剤式組成物は、重合開始剤として機能する触媒活性化剤(たとえば、プラチナ)を含む。プラチナ触媒の一例はプラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体であるが、当業者にとっては他のプラチナ触媒も自明であろう。触媒活性化剤は組成物の中に、好ましくは組成物の約0.005から約1重量パーセント、より好ましくは約0.01から約0.25重量パーセント、最も好ましくは約0.025から約0.1重量パーセントの範囲で含まれる。1つの実施形態によれば、触媒活性化剤の全部を2剤のうちの一方(たとえば、第二剤)に含める。前述のように、2剤式組成物の第二剤は、ビニルシロキサン成分の一部、1つまたは複数のフィラおよびグリセリンまたはその他の可塑剤も含んでいてよい。触媒活性化剤の濃度を増減して、組成物の重合時間を変化させることができる(たとえば、重合時間を短縮するには、触媒濃度を高める)。別の系の場合(たとえば、ポリウレタンまたはエポキシ系)、同様に化学的開始剤系(chemical initiator system)の成分の濃度を調整して、組成物の重合時間を変化させることができる。
【0032】
2剤式組成物はまた、フレーバ剤および/または着色剤を含んでいてもよい。フレーバ剤は組成物の中に、好ましくは組成物の約0.01から約3重量パーセント、より好ましくは約0.1から約2重量パーセント、最も好ましくは約0.5から約1重量パーセントの範囲で含まれる。バブルガムは1つの特に好ましいフレーバ剤である。使用できるその他のフレーバ剤としては、たとえば、これらに限定されないが、グレープ、バニラ、ミント、ピーチ、アーモンド、ウィンターグリーン、ストロベリー、チェリー、およびこれらの組み合わせがある。
【0033】
組成物には、好ましくは着色剤を、2剤式組成物の2剤のうちの一方または両方が見て分かる程度に着色されるのに十分な量で含める。2剤のうちの少なくとも一方を見て分かる程度に着色することは、2剤を混合する際、混合が完了した時期を示す視覚的指標となる(つまり、2つの着色部分の区別がなくなる)ため、有益である。これは特に、組成物の2剤を一緒に丸め、および/または練り合わせることによって混合されるパテ様の粘度の高い組成物の場合に有益である。どのような色、あるいは色の組み合わせでも使用できる。たとえば、2剤の一方を無色とし、他方を所望のいずれかの色としてもよい。別の実施形態では、2剤の各々を、成分の天然の色または着色剤の添加によって異なる色にしてもよい。着色剤の例としては、これらに限定されないが、赤、緑、青、橙、白、黄褐色、黄、ピンク、およびこれらの組み合わせがある。着色剤は一般に、組成物の約0.005から約1重量パーセント、より好ましくは約0.01から約0.5重量パーセント、最も好ましくは約0.05から約0.1重量パーセントの範囲で含まれていてもよい。
【0034】
2剤式組成物はまた、抗菌性成分を含んでいてもよい。このような成分の存在は、口腔内装置を用いた治療を受ける患者の一般的な問題である装置周辺の微生物の成長を阻害するのに役立つ。使用できる抗菌性成分の例としては、これらに限定されないが、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、銀およびこれらの組み合わせがある。銀が特に好ましく、これは、銀からなり、治療的効果のある銀イオンを口内に放出できる粉末または粒子を2剤式組成物の2剤の一方または両方に含有させることが容易であるからである。また、麻酔剤を含めてもよく、その例としては、これらに限定されないが、フェノール系成分(たとえば、オイゲノール)、ベンゾカイン、リドカイン、プリロカイン、およびこれの組み合わせがあり、これらの薬剤は、口腔内装置が口内軟組織と擦れることによって生じる不快感をさらに軽減させるのに役立つ。抗う蝕性(たとえば、フッ化物)を加えてもよい。いずれかの抗菌性成分を含める場合、これは一般に組成物の約0.01重量%から約5重量%、より好ましくは約0.1重量%から約2重量%、最も好ましくは組成物の約0.2重量%から約1重量%の範囲であってよい。同様に、麻酔成分は、一般に組成物の約0.01重量%から約5重量%、より好ましくは約0.1重量%から約2重量%、最も好ましくは組成物の約0.2重量%から約1重量%で含められてもよい。
【0035】
好ましいシリコーン組成物を用いる場合、架橋結合剤とビニルシロキサンと触媒活性化剤のすべてが2剤式組成物の2剤の一方に存在しないようにして、早すぎる段階での重合を防止することが重要である。言い換えれば、重合にはこれら3成分のすべてが存在することが必要となる。これらの成分はどのように配分してもよく、たとえば、触媒は架橋結合成分から常に分離しておき、ビニルシロキサン成分は好ましくは組成物の2剤両方に含める。別の例では、触媒と架橋結合成分を、ビニルシロキサンが存在しない方の1剤に含め、ビニルシロキサンをもう一方の1剤(2剤のうち他の2つの成分が存在しない方)に含めてもよい。他の任意の成分(たとえば、フィラ、可塑剤、フレーバ剤、着色剤、抗菌剤、麻酔剤、抗う蝕剤)は、2剤式組成物の2剤の一方または両方に存在させてもよい。
【0036】
III.
【実施例1】
【0037】
例1
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成した。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤(MW3500) 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 37.5%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 42.9%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
【0038】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有し、約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させた。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、成形した。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了したが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了した。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面をつかみ込み、把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物は、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例2】
【0039】
例2
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 37.5%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 40.9%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 2%
【0040】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有し、約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例3】
【0041】
例3
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 37.5%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 42.4%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 0.5%
【0042】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有し、約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例4】
【0043】
例4
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 37.45%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
青色着色剤 0.05%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 42.35%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 0.5%
黄褐色着色剤 0.05%
【0044】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有する。2剤を各々着色し(それぞれ青色と黄褐色)、これらを練り合わせ、一緒に丸めたときに、2剤が十分に混ざったことを目で判断しやすいようにする。2剤を約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例5】
【0045】
例5
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 37.4%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
青色着色剤 0.1%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 42.4%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 0.5%
【0046】
これら2つの成分は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有する。第一剤を当初より青色に着色し、もう一方はほとんど無色であるため、これらを練り合わせ、丸めたときに、2剤が十分に混ざったこと(2色に分かれた部分がなくなる)を目で判断しやすいようにする。2剤を約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例6】
【0047】
例6
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW28,000) 50.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 36.25%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
青色着色剤 0.75%
銀 0.5%
第二剤
DMS(MW28,000) 50.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 41.9%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
銀 0.5%
バブルガムフレーバ 0.5%
【0048】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有する。第一剤を当初より青色に着色し、もう一方はほとんど無色であるため、これらを練り合わせ、丸めたときに、2剤が十分に混ざったこと(2色に分かれた部分がなくなる)を目で判断しやすいようにする。2剤を約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例7】
【0049】
例7
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW17,000) 40.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 47.5%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
第二剤
DMS(MW17,000) 40.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 50.9%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 2%
【0050】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有し、これらを約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【実施例8】
【0051】
例8
2剤式シリコーン組成物の一例を以下の成分から生成する。特にことわりがないかぎり、パーセンテージはすべて重量パーセントである。
第一剤
DMS(MW63,000) 55.0%
メチルヒドロシロキサンジメチルシロキサン
架橋結合剤 6.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 32.5%
シラン化ナノシリコーンフィラ 5.5%
グリセリン 1.0%
第二剤
DMS(MW63,000) 55.0%
シラン化0.7ミクロンガラスフィラ 35.9%
シラン化ナノシリコーンフィラ 6.0%
グリセリン 1.0%
プラチナジビニルテトラメチルシロキサン錯体 0.1%
バブルガムフレーバ 2%
【0052】
これらの2剤は比較的粘度が高く、パテ様の稠度を有し、これらを約30秒間練り合わせて、丸め、2剤を混合させる。混合した組成物を、重合が完了する前に、歯に接着されている歯列矯正用ブラケットの中の選択されたものの唇側面に塗布し、所望の形状でブラケットを覆いこむように形作り、操作する。組成物は最初の混合から約80秒以内に重合を完了するが、この重合はブラケット上の塗布位置で完了する。重合した組成物は柔らかく、ゴム状の感触を有し、ブラケット周辺に接着し、および/またはこれと機械的に噛み合って、ブラケット表面を把持し、ブラケットの表面が歯列矯正患者の口内唇側軟組織と擦れ合うのを防止する。組成物はバブルガムフレーバを有し、ワックスより大幅に長い時間、その場所にとどまり、約8時間から約2日後に、通常の使用中に擦れてなくなり、および/または落ちる。
【0053】
IV.使用方法の例
図1は、デュアルバレルシリンジ100を使って、2剤式重合性一時的コーティング組成物を使用者150の指先に分注する様子を示している。組成物の2剤はどちらも、当初はパテ様の稠度を有するため、2剤102a,102bは当初、別々に分注され、組成物を混合して実質的に均一な組成物とするのは使用者150によって行われる。たとえば、図2に示すように、使用者は別々の2剤を練り合わせ、および/または丸めて、2剤が混合されるようにすることによって、シリコーン一時的コーティング組成物102を形成してもよい。
【0054】
2剤102a,102bを混合すると、重合が開始する。一般に、使用者の指先の間で短時間にわたって2剤を練り合わせ、および/または丸めることによって組成物を混合してもよく、その後、重合が完了する前に組成物を歯列矯正用ワイヤまたはブラケットの上に塗布する。一般に、丸め始めてから、および/または練り合わせ始めてから約5−20秒以内で略混合されるため、使用者にとって、重合が略完了する前に、混合されたコーティング組成物を1つまたは複数の選択されたブラケットおよび/またはワイヤの上に塗布し、組成物を希望にしたがって圧迫および/または成形する時間がある。重合は、約10秒から約3分後、より一般的には約30秒から2分後、最も一般的には約45秒から約90秒後に略完了する。重合が完了すると、使用者が材料を成形して、所望の表面をつかみ込み、これを把持するようにした結果、組成物はそれが塗布されたブラケット、ワイヤまたはその他の口腔内装置の表面に接着および/または機械的な噛み合いによってしっかりと付着する。言い換えれば、ある組成物は下の基板表面に化学的に接着し、また他の組成物では、ブラケットまたはその他の装置またはその一部の周辺との物理的な機械的噛み合いによって組成物がその場に保持される。どのようなメカニズムによって組成物がその場に保持されるかは、選択された組成物および基板の特性によって異なる。
【0055】
図3,4に示すように、使用者は一時的コーティング組成物102を練り合わせ、および/または丸めたものの塊から組成物の一部を分離し(、または塊全体を塗布し)、組成物102を、選択されたブラケット、ワイヤ、その他の口腔内装置またはそれらの一部を覆うように押し付けてもよい。たとえば、使用者は一般に、重合性一時的コーティング組成物102を上下の門歯のブラケット104の上、およびアーチワイヤ106のワイヤ端を覆う、または部分的にのみ覆う末端のブラケットの上に塗布してもよい。これらの場所(門歯用ブラケットと末端ワイヤ端/末端ブラケット)は歯列矯正器具システムに関して組成物102が塗布される可能性が最も高い場所であるが、組成物はどのブラケットまたはアーチワイヤ表面にも、あるいは他の口腔内装置の上にも、使用者の希望に応じて塗布することができる。有利な点として、シリコーン一時的コーティング組成物102はその場で、つまり選択されたブラケットまたはワイヤ上で重合を完了させるため、組成物102はその下のブラケットまたはワイヤに比較的強力に接着またはその他の方法でしっかりと付着する(たとえば、機械的噛み合いによる)。言い換えれば、一時的コーティング組成物はその場で重合するため、従来使用されているワックスと比較して、それが塗布された基板にはるかに強力に付着し、その結果、使用者が材料を塗布しなければならない頻度がずっと少なくなる。
【0056】
さらに、使用者は一時的コーティング材料を除去するために積極的なステップをとる必要がなく、これは、唾液との接触、舌の動きおよび口内のその他の力によって擦れてなくなるからである。有利な点として、上述の一時的コーティング組成物は、本願の発明者により、一般的な条件下で約8時間から約5日間、より一般的には約12時間から約4日間、最も一般的には約1日から約3日間の期間にわたり、ブラケットおよび/またはワイヤに実質的に接着したままであることが確認された。言い換えれば、ある実施形態において、組成物は少なくとも約8時間、より好ましくは約1日、最も好ましくは少なくとも約2日間にわたり接着したままであってもよい。組成物は受動的に擦れてなくなり、および/または落ちるため(たとえば、約3−5日以内)、使用者は、たとえばワイヤによって口内軟組織が擦り切れたり、ワイヤが引っかかったりするのを防止するために、ブラケットおよび/またはワイヤの上に装着されることのある装置の場合に必要となるような追加の動作を行わなくてよい。この短い期間により、口内軟組織が硬化し、または厚くなって、隣接するブラケットおよび/またはワイヤによる刺激を受けなくなる時間が確保できる。この段階で(つまり、軟組織が硬く、または厚くなった時に)、塗布した材料がなくなっていることは、ブラケットおよび/またはワイヤの端部に装着される装置の場合、患者にとってはるかに快適であるため、有利である。
【0057】
本発明は、その思想または本質的特徴から逸脱することなく、上記以外の具体的形態で実施してもよい。上記の実施形態はすべての点において例にすぎず、限定的と考えるべきではない。したがって、本発明の範囲は、上記の説明ではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の意義およびこれと均等の範囲に入る変更はすべて、その範囲に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの口腔内装置を、口腔内の周辺軟組織への不快感を軽減させるために、その場で一時的にコーティングする方法であって、
重合性成分と重合を開始させるための開始剤系を含む2剤式重合性組成物を混合して、前記2剤式重合性組成物の第一剤と第二剤の混合によって前記第一剤と第二剤が重合を開始して重合性一時的コーティング組成物を生成するようにするステップと、
前記重合性一時的コーティング組成物が重合を略完了させる前に前記コーティング組成物を少なくとも1つの口腔内組織の表面に塗布し、前記コーティング組成物が、それが塗布された前記口腔内装置にしっかりと付着するようにするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記重合性組成物がウレタンまたはエポキシのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2剤式重合性一時的コーティング組成物の前記第一剤と第二剤がパテ様の稠度を有し、前記第一剤と前記第二剤を混合するステップが前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記重合性一時的コーティング組成物を、前記2剤式重合性一時的コーティング組成物が重合を略完了する前に、少なくとも1つの口腔内装置の表面の上および/またはその周辺で成形し、および/またはこれに押し付けるステップをさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記重合性一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めてから約10秒から約3分間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記重合性一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めてから後約30秒から約2分間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記重合性一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めから約45秒から約90秒間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティング組成物は、約5日未満の期間で前記口腔内装置の前記表面から自然に擦れてなくなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記2剤式重合性一時的コーティング組成物は着色剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記2剤式重合性一時的コーティング組成物の2剤の各々は着色剤を含み、前記第一剤の中の前記着色剤は前記第二剤の中の前記着色剤とは異なることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記2剤式重合性一時的コーティング組成物はフレーバ剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの口腔内装置を、口腔内の周辺軟組織への不快感を軽減させるために、その場で一時的にコーティングする方法であって、
ビニルシロキサン成分と、架橋結合成分と、触媒活性化剤を含む2剤式組成物を混合し、前記2剤式組成物の第一剤と第二剤の混合によって前記第一剤と第二剤が重合を開始してシリコーン一時的コーティング組成物を生成するようにするステップと、
前記シリコーン一時的コーティング組成物が重合を略完了させる前に前記コーティング組成物を少なくとも1つの口腔内組織の表面に塗布し、前記コーティング組成物が、それが塗布された前記口腔内装置にしっかりと付着するようにするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記2剤式シリコーン一時的コーティング組成物の前記第一剤と第二剤がパテ様の稠度を有し、前記第一剤と前記第二剤を混合するステップが前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせるステップを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記シリコーン一時的コーティング組成物を、前記2剤式シリコーン一時的コーティング組成物が重合を略完了する前に、少なくとも1つの口腔内装置の表面の上および/またはその周辺で成形し、および/またはこれに押し付けるステップをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記シリコーン一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めてから約10秒から約3分間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記シリコーン一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めてから約30秒から約2分間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記シリコーン一時的コーティング組成物は、前記2剤を練り合わせ、および/または丸め合わせ始めてから約45秒から約90秒間の範囲内で重合を略完了させることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項18】
塗布された前記コーティング組成物の実質的部分が、前記口腔内装置の前記表面に少なくとも約8時間しっかりと付着していることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項19】
塗布された前記コーティング組成物の実質的部分が、前記口腔内装置の前記表面に少なくとも約1日間しっかりと付着していることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項20】
塗布された前記コーティング組成物の実質的部分が、前記口腔内装置の前記表面に少なくとも約2日間しっかりと付着していることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記コーティング組成物は、約5日未満の期間で前記口腔内装置の前記表面から自然に擦れてなくなることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項22】
口腔内の周辺軟組織への不快感を軽減させるために、1つまたは複数の口腔内装置をその場で一時的にコーティングするために患者が使用するシステムであって、
少なくとも1つの口腔内装置と、
第一剤と第二剤を含む2剤式シリコーン一時的コーティング組成物とを含み、前記2剤式シリコーン一時的コーティング組成物は、
ビニルシロキサン成分と、架橋結合成分と、触媒活性化剤とを含み、前記ビニルシロキサン成分、前記架橋結合成分または前記触媒活性化剤のうちの少なくとも1つが当初、前記第二剤に含まれる前記ビニルシロキサン成分、前記架橋結合成分または前記触媒活性化剤のうちの別の少なくとも1つから分離された前記第一剤に含まれており、前記第一剤と前記第二剤は、前記第一剤と前記第二剤の混合によって重合を開始することを特徴とするシステム。
【請求項23】
前記シリコーン一時的コーティング組成物の前記2剤が各々パテ様の稠度を有することを特徴とする請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記ビニルシロキサン成分が、分子量約25,000から約300,000kPa−sのジメチルシロキサンを含むことを特徴とする請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記2剤式シリコーン一時的コーティング組成物が、混合され、歯列矯正用ブラケットおよび/または歯列矯正用アーチワイヤの上に塗布された場合、約5日間未満の期間で自然に擦れてなくなり、および/または落ちることを特徴とする請求項22に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−540111(P2010−540111A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527161(P2010−527161)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/077798
【国際公開番号】WO2009/045875
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(399128493)ウルトラデント プロダクツ インコーポレイテッド (30)
【Fターム(参考)】