説明

口腔用組成物

【課題】 適したチキソトロピー性を有し、経時的に安定で、かつ使用感が良好な口腔用組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 粒子が膨潤状態で均一に分散されているモル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有する口腔用組成物を提供する。また、モル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロビルセルロース粉末を懸濁した液を剪断摩砕する口腔用組成物の製造方法、及び、水に溶解しないがアルカリに溶解するモル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをアルカリ水溶液に溶解する工程と、酸を加えて中和しながら又は酸を加えて中和した後、剪断摩砕する工程とを含む口腔用組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用感が良好で、しかも性状安定性に優れた口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤をはじめとする口腔用組成物には、保形性付与のために粘結剤として水溶性ポリマーが配合されている。一般的に用いられる粘結剤としては、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」という。)、ヒドロキシエチルセルロース(以下、「HEC」という。)等の水溶性ポリマーが挙げられる。
しかしながら、CMCやHECを使用する場合、ゲル化に非常に時間がかかる上、チキソトロピー性が低く、使用時に口腔内で粘つきが生じる等、組成物として充分な物性が得られない場合がある。
【0003】
一方、特許文献1及び特許文献2には、チキソトロピー性に優れた非イオン性粘結剤として炭素数の異なる2種のアルキル基を導入した疎水化セルロースエーテルを調製し、これらを含む口腔用組成物を提案しているが、後述する実験から明らかなように、特に界面活性剤との相溶が不安定で、経時的に離液(掖体が固体から分離する現象)が起こることが解った。
以上のことから、適度なチキソトロピー性を有し経時的に安定で、さらに、使用感の良好な口腔内組成物の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平6−100424号公報
【特許文献2】特開平6−166614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、適したチキソトロピー性を有し、経時的に安定で、かつ使用感が良好な口腔用組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、口腔用組成物に低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「L−HPC」という。)を配合することにより、適したチキソトロピー性を有し、経時的に安定で、かつ使用感が良好な口腔用組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
本発明は、粒子が膨潤状態で均一に分散されているモル置換度0.5〜1.0のL−HPCを含有する口腔用組成物を提供する。また、モル置換度0.5〜1.0のL−HPC粉末を懸濁した液を剪断摩砕する口腔用組成物の製造方法、及び、水に溶解しないがアルカリに溶解するモル置換度0.5〜1.0のL−HPCをアルカリ水溶液に溶解する工程と、酸を加えて中和しながら又は酸を加えて中和した後、剪断摩砕する工程を含む口腔用組成物の製造方法を提供する。なお、モル置換度は日本薬局方を参考に測定できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の口腔用組成物は、優れたチキソトロピー性及び経時的安定性を有し、さらに使用感の良好なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳しく説明する。
本発明の口腔用組成物は、L−HPC、特にその水性ゲルを配合するもので、練り歯磨、歯肉マッサージクリーム、ペースト状局所塗布剤、液状歯磨、液体歯磨等に使用できるものである。
ここで、L−HPCは、ヒドロキシプロポキシル基のモル置換度が0.05〜1.0のものである。モル置換度がこれより高くなると水溶性を発現し、逆に低いとアルカリに溶解する性質を失うことになり、本発明に使用する水性分散液(水性ゲルを含む。)を得ることができない。
【0009】
L−HPCの製造方法は公知であり、例えば特公昭57−53100号公報において開示されている。まず、アルカリセルロースの調製をすべく、出発原料であるパルプのシート状のものをアルカリ水溶液、例えば苛性ソーダに浸漬するか、又はパルプのシート状のものをそのままアルカリ溶液と混合したり、パルプ粉末を有機溶剤中に分散させた後でアルカリを加える等する。
次に、アルカリセルロースを反応器に仕込み、プロピレンオキサイド、3−クロロプロパノール等のエーテル化剤を添加した後、加熱して反応させるとL−HPCとなる。反応終了後の粗L−HPCを別のタンクに移し、アルカリを酸で中和して固形物を洗浄、乾燥、粉砕して最終製品とする。または、反応終了後の粗L−HPCを水に完全溶解又は部分溶解させた後で中和し、析出する高分子を分取して洗浄、乾燥、粉砕する方法をとる場合もある。
【0010】
本発明に用いるL−HPCを含む水性分散液は、既に公知の方法、例えば特公昭56−54292号公報、特公昭62−61041号公報、特公平6−49768号公報等に開示されている方法により製造することができる。分散液に用いるL−HPCの平均粒径は、0.1〜100μmが好ましい。
【0011】
また、本発明に用いるL−HPCを含む水性分散液は、L−HPCをアルカリ水溶液に溶解後、中和しながら、又は中和した後でこれに剪断摩砕をかけることにより製造することができる。ここで、前述の方法で一度最終製品とされたL−HPC粉末をアルカリ水溶液に溶かした場合と、反応直後の段階で粗L−HPCを水に溶解した場合でも結果的には同様の効果が得られる。後者の場合は、粗L−HPCがアルカリを含んでいるため溶かす溶媒は水のみでも良いが、溶解を確実にするためにアルカリを追加する場合もある。
【0012】
溶解に使用するアルカリは、苛性カリ、苛性ソーダ等が挙げられ、その濃度は使用するセルロースエーテルの置換基の種類と置換度により異なるので適宜決定するが、通常2〜25重量%、特に3〜15重量%である。典型的な例としては、モル置換度0.2のL−HPCは10重量%の苛性ソーダに溶解する。なお、置換基の分布の違いにより、透明な溶液となる場合と完全に透明でない場合がある。後者の場合、明らかに粘性が上昇している時はこれを溶解しているものと見なす。
【0013】
アルカリ溶液の中和は、当量の塩酸、硫酸、酢酸等を用いればよい。アルカリ溶液を剪断摩砕機にかけ、徐々に酸を加えて中和を進めながら摩砕するか、又は先に当量の酸を加えて中和し、析出した高分子が存在する液をそのまま剪断摩砕する。
【0014】
剪断摩砕の方法は、適当な濃度のL−HPCのアルカリ性溶液又はそれを中和した液を好ましくは乳化分散機を用いて摩砕する方法である。乳化分散機としては、特に限定しないが、振動ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー、プロペラ式ホモジナイザーや高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等のホモジナイザー等が挙げられる。この中でも、好ましくはホモジナイザーであり、高圧をもってバルブの隙間から処理液を噴射させる高圧式ホモジナイザー(例えば、三和機械社製「ホモジナイザー」、スギノマシン社製「アルティマイザーシステム」、みずほ工業社製「マイクロフルイダイザー」、ゴーリン社製高圧ホモジナイザー)、超音波の振動を利用した超音波ホモジナイザー(例えば、日本精機製作所製「超音波ホモジナイザー」)が均一な水分散系を調製する上で好ましい。
このとき、アルカリ性溶液の場合は、これに塩酸、硫酸、酢酸等の酸を徐々に加えながら摩砕を進める。剪断摩砕条件は、特に限定されないが、例えばプロペラ式ホモジナイザーであれば3,000〜15,000rpm、特に10,000〜15,000rpm、高圧ホモジナイザーであれば、圧力100〜2,000kg/cm2、特に200〜2,000kg/cm2好ましい。
【0015】
また、上記の方法によって調製されたL−HPC分散液を噴霧乾燥して得られる粉末を再分散しても同様の効果がある。噴霧乾燥は、例えば、噴霧乾燥装置を用いて20〜150℃で乾燥することにより行われる。
さらに、上記のようにL−HPCをアルカリに溶解することなく、L−HPC(好ましくは平均粒径0.1〜100μm)を水に膨潤分散させ剪断摩砕、好ましくは乳化分散機を用いて剪断摩砕する方法を用いることができる。
【0016】
また、水性分散液の調製に供するL−HPC粉末の濃度は、乾燥固形分にして全体の好ましくは0.01〜20重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。これより濃度が高くなると、粘性が過度に上昇し摩砕が困難になるおそれがある。
【0017】
調製された分散液の中には中和により生じた塩が存在するので、所望によりこれを遠心分離又は透析等の手法で取り除く。なお、本発明の分散液には、ゲル状のものも含まれる。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、公知の方法により練り歯磨、歯肉マッサージクリーム、ペースト状局所塗布剤、液状歯磨、液体歯磨等の剤形とすることができる。この場合、L−HPCの含有量は、乾燥固形分換算で口腔用組成物中、0.01〜95重量%が好ましい。
【0019】
更に、上述した成分に加えてその目的や組成物の種類に応じてその他の成分として、通常の口腔用組成物に使用されている成分を用いることができる。これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
例えば、歯磨類の場合には、研磨剤として、例えば、第二リン酸カルシウム・二水和物及び無水物、第一リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、不溶性メタリン酸ナトリウム、第三リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ポリメタクリル酸メチル、合成樹脂等の非シリカ系研磨剤を単独又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0020】
また、湿潤剤として、例えばソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、キシリット等を単独又は2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0021】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリン酸デカグリセリル、ミリスチン酸ジエタノールアミド等の非イオン性界面活性剤、ベタイン系等の両性界面活性剤を配合することができる。
【0022】
香味剤としては、例えばメントール、カルボン酸、アネトール、サリチル酸メチル、リモネン、n−デシルアルコール、シトロネロール、ワニリン、ペパーミント油、スペアミント油、丁字油、ユーカリ油等の香料を単独で又は組み合わせて配合しても良い。
【0023】
その他に、サッカリンナトリウム、ステビオサイト、グリチルリチン、ペリラルチン等の甘味剤、安息香酸ナトリウム、パラベン等の防腐剤、さらに、塩化リゾチーム、デキストラナーゼクロロへキシジン、ソルビン酸、塩化セチルピリジニウム、トリクロサン、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アズレン、ビタミンE1フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、第四アンモニウム化合物、ヘキサメタリン酸塩等の有効成分等、色素溶剤としてエタノール等も配合しても良い。
【実施例】
【0024】
以下、実施例に基づき本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末(信越化学工業社製、モル置換度0.2)7.5gを6.3重量%NaOH水溶液425gに溶解した。この溶液をホモジナイザー(日本精機製作所製AM−10型)を用いて、5,000rpmで剪断摩砕しながら容器の小さな孔より中和当量の酢酸を5分にわたり滴下した。中和後さらに、10,000rpmで10分間遠心分離し、上澄を捨て沈殿物に固形分濃度が5重量%となるように純水を加えて再分散し、L−HPC分散液(水性ゲル)を得た。
得られた水性ゲル80重量部とグリセリン20重量部を混合・攪拌し口腔用組成物ゲルとした。
【0025】
実施例2
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末(信越化学工業社製、モル置換度0.2)16gを純水384gに投入し、ゴーリン社製高圧ホモジナイザー(15M8TA)を用いて圧力500kg・cm2で15分間循環・分散させL−HPC水性ゲルを得た。
得られた水性ゲル80重量部とグリセリン20重量部を混合・攪拌し、口腔用組成物ゲルとした。
【0026】
比較例1
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(特開平6−100424号公報の実施例1に準じて調製したもの、デシル基のモル置換度0.01,ステアリル基のモル置換度0.0007)1.0gと純水79.0gを混合・攪拌して溶解したもの80重量部にグリセリン20重量部を投入しさらに攪拌をして、口腔用組成物ゲルとした。
【0027】
比較例2
疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース(特開平6−100424号公報の実施例2に準じて調製したもの、デシル基のモル置換度0.018、ステアリル基のモル置換度0.0008)1.0gと純水79.0gを混合・攪拌して溶解したもの80重量部にグリセリン20重量部を投入しさらに攪拌をして、口腔用組成物ゲルとした。
【0028】
比較例3
カルボキシメチルセルロースナトリウム粉末(ウォルフ社製、LP−C−5905、カルボキシメチル基のモル置換度:0.4)2.5gと純水77.5gを混合攪拌して溶解したもの80重量部にグリセリン20重量部を投入し、更に攪拌して口腔用組成物ゲルとした。
【0029】
評価1:ゲルの物性
実施例1、2及び比較例1〜3のゲルにおいて、以下の条件で粘度の測定とニュートン性指数の算出を行ない、結果を表1に示す。
粘度測定条件:BH型粘度計、使用ローターNo.7、2分間
ニュートン性指数は、以下の式により算出される指数で、数値が低い程チキソトロピー性は高くなる。
ニュートン性指数=1−{log(V4/V20)/log(20/4)}=1−[log(V4/V20)]/0.7
(上式中、V20は20rpm測定時の見掛け粘度を表し、V4は4rpm測定時の見掛け粘度を表す。)
実施例1のニュートン性指数は0.09と特に小さく、チキソトロピー性に優れていることが解った。
【0030】
【表1】

【0031】
評価2:ゲルを用いた口腔用組成物の性状特性
実施例1,2及び比較例1〜3の口腔用組成物ゲル99重量部と界面活性剤として1重量部のラウリル硫酸ナトリウムを混合して各種口腔用組成物を調製し、組成物の安定性(液分離)、歯磨用チューブに充填して、組成物のチューブからの押し出し易さ、押し出した組成物の成形性(保形性)、練り肌の荒れ、曳糸性、使用時の口腔中での触感(異味・違和感)をそれぞれ以下に示す観点で評価し、結果を表2に示す。
【0032】
<各種口腔用組成物の安定性>
○・・・調製後、外観に変化無し
△・・・調製後、外観にやや変化が見られる
×・・・調製後、経時的に離液等の変化が認められる。
【0033】
<口腔用組成物のチューブからの押し出し易さ>
○・・・通常の力で簡単に押し出せる
△・・・やや液たれまたは押し出し難い
×・・・液たれして押さずにでてくる、又は押し出しが非常に困難
【0034】
<チューブから押し出したときの成形性>
○・・・歯ブラシにのせやすい適度な形
△・・・歯ブラシにややのせにくい
×・・・歯ブラシにのせにくい
【0035】
<チューブから押し出したときの保形性>
○・・・保形性良く、たれない
△・・・やや液だれして、保形性が劣る
×・・・すぐに液だれして、形が崩れる
【0036】
<チューブから押し出したときの練り肌>
○・・・滑らかで良好な肌を保つ
△・・・やや肌荒れがある
×・・・肌荒れが著しい
【0037】
<チューブから押し出したときの曳糸性>
○・・・糸引きが見られず練り切れ良い
△・・・やや糸引きあり
×・・・糸引きがあり練り切れ悪い
【0038】
<使用感(異昧・違和感)>
○・・・不快な味やネバツキ・ベタツキ等不快な使用感無し
△・・・若干の不快な味、又はネバツキ・ベタツキ等がある
×・・・不快な味又はネバツキ・ベタツキ等が強い
【0039】
【表2】

【0040】
実施例1、2において良好な口腔内組成物が得られた一方、比較例1、2では、界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムを添加すると経時的に離水が起こり口腔内組成物が得られなかった。比較例3は、形状保持性が悪く日中で粘つくことが解った。
表1、2の結果より、L−HPCを配合した口腔用組成物において、チキソトロピー性及び安定性、使用感に優れたものが得られることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が膨潤状態で均一に分散されているモル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
モル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を懸濁した液を剪断摩砕する口腔用組成物の製造方法。
【請求項3】
水に溶解しないがアルカリに溶解するモル置換度0.5〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースをアルカリ水溶液に溶解する工程と、酸を加えて中和しながら又は酸を加えて中和した後、剪断摩砕する工程を含む口腔用組成物の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が膨潤状態で均一に分散されているモル置換度0.05〜1.0の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とする口腔用組成物。

【公開番号】特開2006−117702(P2006−117702A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18925(P2006−18925)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【分割の表示】特願2002−56996(P2002−56996)の分割
【原出願日】平成14年3月4日(2002.3.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】