説明

口腔用組成物

【課題】歯の光沢付与効果に優れた口腔用組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)及び(B)、
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜3質量%、及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.01〜3質量%
を含有し、多価カチオンを含有しないか又はフィチン酸に対して0.1倍モル未満含有し、水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜6.5であって、成分(A)と成分(B)の質量比(B/A)が0.2〜3.0である口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯に光沢を付与できる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歯は、歯石、歯垢のほか、表面に種々の着色物が付着することにより着色し、光沢も低下する。これらの着色や光沢の低下は、美容上好ましいものではなく、歯を白くするための種々の手段が開発されている。
【0003】
フィチン酸は、タバコのヤニの除去、歯石抑制効果、フッ化錫の安定化等の作用を有することが知られており、フィチン酸を含有する洗浄剤や歯磨剤が報告されている(特許文献1)。また、フィチン酸に加えて錫化合物(特許文献2)、ゼオライト(特許文献3)、特定の崩壊強度の粒子(特許文献4)等を配合した歯磨組成物も報告されている。さらに、本出願人は、歯の表面に付着した高さ1μm未満の小さな固形物は、従来の美白剤や研磨剤では十分に除去できないが、フィチン酸を含有し、かつ多価カチオンを配合せず、pHを一定の範囲に調整した組成物を用いれば、歯の表面に付着した微小固形物を除去でき、歯を白くし、かつ歯に光沢を付与できることを報告した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願昭56−18913号公報
【特許文献2】特願昭56−45407号公報
【特許文献3】特開平11−349460号公報
【特許文献4】特開2003−335646号公報
【特許文献5】国際公開WO2010−058522号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記フィチン酸を含有する組成物は、歯に光沢を付与する効果を有するが、さらに短期間の使用によっても優れた光沢を付与する技術の開発が望まれていた。
従って、本発明の課題は、歯への光沢付与効果の即効性に優れた口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、歯の表面に付着する高さ1μm未満の微小な固形生成物中の成分をさらに詳細に解析したところ、リン酸カルシウム類だけでなく有機物も含まれていることを発見した。さらに、本発明者らは、当該有機物とリン酸カルシウム類との混合による歯の表面の微小な固形生成物に対しては、フィチン酸とピロリン酸とを併用し、多価カチオンを配合せず、pHを5.5〜6.5の範囲とし、かつフィチン酸とピロリン酸の比率を一定の範囲とした組成物が、より速やかに除去する効果を有し、かつ光沢付与効果が短期間の使用によって得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関するものである。
[1]次の成分(A)及び(B)、
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜3質量%、及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.01〜3質量%
を含有し、多価カチオンを含有しないか又はフィチン酸に対して0.1倍モル未満含有し、水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜6.5であって、成分(A)と成分(B)の質量比(B/A)が0.2〜3.0である口腔用組成物。
【0008】
本発明は、更に以下の組成物又は方法が好ましい。
[2]成分(A)の含有量が0.01〜1.5質量%、成分(B)の含有量が0.01〜1.5質量%であって、成分(A)と成分(B)の合計含有量が0.02〜2.5質量%である前記[1]記載の口腔用組成物。
[3]さらに成分(C)エリスリトールを含有し、成分(C)と成分(A)及び(B)の合計量の質量比(C/(A+B))が5〜1000である前記[1]又は[2]記載の口腔用組成物。
[4]さらに成分(D)水を12〜25質量%含有し、成分(C)と(D)との質量比(C/D)が1〜6である歯磨組成物である前記[3]に記載の口腔用組成物。
[5](C)エリスリトールの含有量が12〜60質量%である歯磨組成物である前記[3]又は[4]に記載の口腔用組成物。
[6]成分(A)がフィチン酸又はそのアルカリ金属塩である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[7]成分(A)の含有量が0.1〜1.5質量%、成分(B)の含有量が0.1〜1.0質量%であって、成分(A)と成分(B)の質量比(B/A)が0.2〜2.0である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[8]カチオン性抗菌剤を含有しないか、含有量が0.001質量%未満である前記[1]〜[7]のいずれかに記載の口腔用組成物。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の口腔用組成物からなる歯への光沢付与剤。
[10]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の口腔用組成物を歯に適用することを特徴とする歯への光沢付与方法。
[11]歯への光沢付与剤製造のための、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の口腔用組成物の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物を歯に適用すれば、歯の表面の微小汚れ除去効果、及び歯への光沢付与効果を短期間の使用によっても得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】試験例1における輝度(a)と白さ(Δb)(b)の変化を示す図である。
【図2】比較例10の処理後の歯の表面を電子顕微鏡により観察した写真を示す。(a):50倍(b):50000倍
【図3】試験例2における輝度と白さ(Δb)の変化を示す図である。
【図4】試験例3における輝度と白さ(Δb)の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の口腔用組成物に使用される(A)フィチン酸又はその塩は、優れた歯の美白作用及び光沢付与作用を有するが、(B)ピロリン酸又はその塩との併用により、その光沢付与作用は顕著に増強され、短期間の使用によっても優れた光沢付与効果を得ることができる。(B)ピロリン酸又はその塩は、(A)フィチン酸又はその塩の光沢付与増強剤として有効である。フィチン酸は、別名myo−イノシトール6リン酸ともいい、イノシトールリン酸エステル化合物である。種々のリン酸化合物の中で、光沢付与効果は、フィチン酸又はその塩が特に優れている。
その塩としては、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等が挙げられ、味、匂いの観点からアルカリ金属塩が好ましい。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、フィチン酸又はその塩を当該組成物中に0.01〜3質量%含有する。フィチン酸又はその塩の当該組成物中の含有量は、微小な固形生成物除去効果及び光沢付与効果を十分に発揮する観点から0.01質量%以上であって、好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、歯の脱灰を抑制する観点、味やきしみの観点から2質量%以下が好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。本発明の口腔用組成物が練歯磨剤の場合には、味やきしみ等の使用感の観点からフィチン酸又はその塩を当該練歯磨剤中に0.02〜1.5質量%含有するものが好ましい。尚、本発明の口腔用組成物におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和して測定し、全量を酸に換算したものを採用する。
【0013】
本発明に使用される(B)ピロリン酸又はその塩は、(A)フィチン酸又はその塩との併用により、歯の美白作用及び光沢付与作用を増強する。ピロリン酸は、二リン酸ともいう。ピロリン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、ピロリン酸又はその塩を当該組成物中に0.01〜3質量%含有する。微小な固形生成物除去効果、光沢付与効果及び美白効果を十分に発揮する観点から、ピロリン酸又はその塩の当該組成物中の含有量は0.01質量%以上であって、好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、味の観点から2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。本発明の口腔用組成物が練歯磨剤の場合には、味等の使用感の観点からピロリン酸又はその塩を当該練歯磨剤中に0.02〜1.5質量%含有するものが好ましい。尚、本発明の口腔用組成物におけるフィチン酸又はその塩の含有量は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和して測定し、全量を酸に換算したものを採用する。
【0015】
また、本発明の口腔用組成物においては、光沢付与効果を得つつ、味を良好にする観点から、成分(B)の含有量は0.01〜1.5質量%が好ましく、さらにきしみ感を抑制する点から0.05〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜0.7質量%がさらに好ましい。成分(A)と成分(B)の合計含有量は味の点から0.02〜2.5質量%が好ましく、きしみ感を抑制する点から0.1〜2.0質量%がより好ましく、0.2〜1.7質量%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の口腔用組成物における成分(A)と成分(B)の質量比(B/A)は、微小な固形生成物除去効果及び光沢付与効果の増強作用の点、歯の美白作用の点から重要であり、0.2〜3.0である。B/Aは光沢付与効果の即効性の点から0.2〜2.0がより好ましく、さらに0.2〜1.5であることが好ましい。
【0017】
本発明の口腔用組成物は、多価カチオンの含有量を低く抑えることが好ましい。多価カチオンは、フィチン酸を不溶性にしたり固形生成物の除去効果を低下させるため、当該効果の低下を防止するためである。その含有量はICP発光分析法(ICP発光分析装置:Perkin Elmer社 Optima 5300DV)で測定して多価カチオン合計としてフィチン酸に対して0.1倍モル未満が好ましく、さらに0.02倍モル以下が好ましい。すなわち、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等の多価カチオンを主に供給する剤は配合しないことが望ましく、多価カチオンを実質的にほとんど含まないものが好ましい。
また、カチオン性抗菌剤のほか、ゼオライト、活性炭等の吸着剤はフィチン酸による固形生成物除去効果を低下させるため、口腔用組成物中に0.001質量%未満であることが好ましく、さらに0.0001質量%以下であることが好ましく、実質的に含まないものが好ましい。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜6.5である。
すなわち、当該組成物を口腔内に適用した際に微小な固形生成物を除去し、かつ歯の表面の脱灰を抑制し光沢付与効果を奏する観点から、当該組成物を水で30質量%に希釈したときのpHが5.5以上であって、さらに5.8以上とすることが好ましく、固形生成物除去による光沢付与効果を十分に奏する観点から当該pHが6.5以下であって、さらに6.2以下とすることが好ましい。
当該pHは、例えば練歯磨きのように粘度の高い口腔用組成物の場合に正確にpHを測定できないことから、当該組成物を水で30質量%に希釈したものを当該組成物のpHとしている。水で30質量%に希釈したものを採用したのは、口腔用組成物の口腔内に適用した状態を想定したものである。なお、水は、精製水であって蒸留水又はイオン交換水を用いる。
組成物のpHを上記範囲に調整するには、pH調整剤を用いるのが好ましく、当該pH調整剤としては、フィチン酸による微小な固形生成物除去効果を阻害せず、歯の脱灰を抑制できる範囲で、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸等の有機酸塩、フィチン酸及びピロリン酸以外のリン酸(例えば、オルトリン酸)、塩酸、硫酸等の無機酸塩、水酸化ナトリウム等の水酸化物、アンモニア又はアンモニア水、低級アルカノールアミン類、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのpH調整剤のうち有機酸及び無機酸(フィチン酸及びピロリン酸を除く)の含有量は、フィチン酸及びピロリン酸の光沢付与効果を阻害しない観点からフィチン酸に対して質量比で5%以下であることが好ましく、さらに1%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、さらに(C)エリスリトールを含有するものが好ましい。エリスリトールは、光沢付与の観点及びリン酸化合物によるきしみ感を抑制する観点から1〜60質量%含有するものが好ましい。(C)エリスリトールを含有する場合の含有量は、液体口腔用組成物においては、1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。歯磨組成物においては、組成物中に粒子として残存させておくことにより得られる清涼感、味も考慮すると(C)エリスリトールの含有量は12〜60質量%が好ましく、さらに20〜50質量%含有するのが好ましい。歯磨組成物においては、エリスリトールは使用感、清涼感及び味の観点から粒子径が35μm未満の粉末、もしくは粒子状のものを本発明の口腔用組成物に配合することができる。
エリスリトールの構造としては、L−エリスリトール、D−エリスリトール、meso−エリスリトールの3種の異性体が存在するが、本発明はこれらいずれの構造も使用できる。エリスリトールとしては、通常入手可能なものを使用でき、例えばブドウ糖を発酵させた後、再結晶して得られる結晶状のエリスリトール等が挙げられる。結晶状のエリスリトールは、市販品としては、日研化学(株)、三菱化学フーズ(株)、セレスター社、カーギル社製等のものが入手可能である。また、粒径の大きなものは、粉砕して粒子径を調整したものを使用することもできる。エリスリトールの粉砕には、ローラミル、ハンマーミル、高速度粉砕機、パルベライザーなどを使用するのが一般的であるが、粒度の調整が簡便で、かつ、生産効率にも優れる高速度粉砕機、ハンマーミルによる粉砕が好ましい。
【0020】
本発明の口腔用組成物が練り歯磨剤の場合には、エリスリトールは、粉末又は粒子の状態で練り歯磨剤の中に分散しているのが望ましい。そのためには、エリスリトールは製造の最終工程に、粉末又は粒子の状態で投入することが好ましい。また、口腔内で冷涼感が長く続くという観点からは、粒子径は45μm以上355μm未満が好ましく、53μm以上300μm未満がより好ましく、75μm以上250μm未満がさらに好ましい。エリスリトールの粒子径が45μm以上のものは、口の中で瞬時に溶けることがなく、冷涼感が長く続き好ましい。また355μm未満のものは、口腔内で溶けやすく冷涼感を発揮することができる。
【0021】
なお、エリスリトールの粒子径は以下のように測定される。
篩:JIS標準篩 φ75mm
目開き:上段より、それぞれ500μm、355μm、250μm、180μm、125μm、90μm及び45μmの目開きを有する篩の下に受器を有する。
振盪機:ミクロ型電磁振動機M−2型(筒井理化学器機(株))
方法:試料15gを500μm篩上に載せ、電磁振動機にて5分間分級する。250μm、180μm、125μm、90μm及び45μmの目開きを有する篩上に存在するエリスリトールの合計量を粒子径45μm以上355μm未満のエリスリトールとする。
【0022】
本発明の口腔用組成物において(C)エリスリトールを含有する場合における(C)エリスリトールの含有量は、光沢付与効果及び清涼感、使用感の点から成分(C)と成分(A)及び(B)の合計量の質量比(C/(A+B))が5〜1000であるのが好ましく、10〜800であることがより好ましく、15〜500であることがさらに好ましく、20〜500であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の口腔用組成物が歯磨組成物であって、(C)エリスリトールを含有する場合には、(D)水の含有量も重要であり、(D)水の含有量は12〜25質量%が好ましく、さらに12〜20質量%であることが好ましい。また、光沢付与効果、清涼感、使用感の点から、成分(C)と成分(D)との質量比(C/D)は1〜6であるのが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1.5〜4であることがさらに好ましい。
【0024】
また、本発明の口腔用組成物には、フィチン酸又はその塩による光沢付与効果を阻害しない範囲(含有量、剤形等)でフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物を配合してもよい。これらのフッ化物は、当該組成物中に含有しないか、又はフッ素原子換算で500ppm未満であることが好ましく、さらに300ppm以下を含有するものが好ましい。
【0025】
本発明の口腔用組成物には、前記成分の他、例えば発泡剤、発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、粘稠剤、ゲル化剤、粘結剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させ、種々の剤形に応じ当該組成物を製造することができる。また、従来用いられた美白成分であるポリエチレングリコールなどの併用も制限されない。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、例えば溶液状、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、粉歯磨剤、潤性歯磨剤、練歯磨剤、液状歯磨剤などの歯磨組成物、洗口剤等の液体口腔用組成物、或いは、チューインガム、トローチ、キャンディ等の食品として用いたり、シート材や、布、繊維等に含浸させたものをデンタルフロス等の口腔衛生具として用いることができる。
それらどの剤形においてもポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール等を湿潤剤あるいは粘稠剤等の目的で含有させることができる。
【0027】
また、溶液状組成物の粘稠剤あるいはゲル状組成物のゲル化剤としてさらにはペースト状組成物とする場合の粘結剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、グアガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等を1種又は2種以上含有させることができる。このうち、フィチン酸又はその塩の光沢付与効果を十分に発揮させる観点からアルギン酸ナトリウム以外の粘結剤を選択することが好ましい。さらに、使用感や安定性の観点からカルボキシメチルセロースナトリウム等のセルロース系粘結剤に、キサンタンガム等の非セルロース系粘結剤を併用することが好ましい。
また、例えば緩衝液系の為に高塩濃度となる場合は、非イオン性のポリマー、即ちヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース等を1種又は2種以上含有させることもできる。
【0028】
本発明の組成物が歯磨組成物の場合には、十分な光沢付与効果の観点から25℃における粘度が500〜10000dPa・sであるものが好ましく、1000〜7000dPa・sであるものがより好ましく、1200〜5000dPa・sであるものがさらに好ましい。ここで、粘度はヘリパス型粘度計を用いて、測定温度を25℃とし、ロータC、回転数2.5r/min、1分間の測定条件により測定できる。
【0029】
本発明の組成物が歯磨組成物の場合には、顆粒を配合することもできるが、歯のエナメル質表面の微小な凸凹形成を抑制し、光沢形成を阻害しない観点から、顆粒を配合しないか又は乾燥状態で崩壊強度が10g/個以下である顆粒、好ましくは水分共存下で崩壊強度が10g/個以下である顆粒を含有することが好ましい。また、本発明の光沢形成効果を阻害しない範囲で研磨剤を含有することも可能であり、例えば、含水シリカ、無水シリカ、シリカゲル等のシリカ系研磨剤等を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の口腔用組成物を歯に適用するには、そのまま適用してもよいし、水又は唾液等で30質量%程度まで希釈した状態で適用する場合の両者が含まれる。すなわち、洗口剤のような液体口腔用組成物の場合には希釈することなく歯に適用される。一方、歯磨組成物等の場合には唾液により30質量%程度まで希釈された状態で歯に適用されることになる。
このような組成物を人の歯に、10秒から10時間(洗口剤であれば10秒〜3分、組成物が歯磨組成物であれば30秒〜3分、塗布具であれば5分以上)、例えば1日に1〜5回、好ましくは1週間から4週間適用すると、歯のエナメル質表面のナノレベル(1μm未満)の固形生成物を選択的に取り除くことによって、歯のエナメル質そのものへのダメージを抑えつつ歯のエナメル質表面をナノレベルで滑らかにし、エナメル質表面からの反射光を増やすことによって、歯そのものの自然な光沢を得ることができる。即ち、長時間の使用、又は繰り返しの使用によっても、歯のエナメル質表面へのダメージは抑えることができるため、自然な艶や光沢のある歯を得ることができる。また、本発明は、成分(A)と成分(B)の併用によって例えば1日2回適用し、全体で14〜56回(1週間〜4週間)の適用によっても光沢が得られることを確認でき、さらに14〜28回(1週間〜2週間)の適用によっても光沢が得られることを確認することができる。
【0031】
本発明において、歯の表面に生成した固形生成物とは、歯の表面に生成される厚み1μm未満の固形物をいい、これは電子顕微鏡(SEM:日立S−4800)により確認できる。歯の表面に生成される厚み1μm未満の固形物には、厚み500nm以下の固形物の集合も含まれる。この微小な固形生成物は、図2のSEMの写真から理解できるように、厚みが200nm以下、より多くは100nm以下のナノレベルの固形生成物の堆積物であり、唾液中のタンパク質やカルシウム、リン等の成分の沈着によって形成し、形成した沈着物が堆積して形成されていると考えられる。また、この微小な固形生成物は、加齢や唾液分泌の減少による口腔内環境の悪化等によって沈着し生成されやすくなり、通常のブラッシング処理では除去することが難しい。図2は、ヒト歯(抜去歯)の表面の写真であり、下記表1記載の歯磨剤Aによって2分間浸漬しながら歯ブラシ(花王株式会社製クリアクリーン マルチケア歯ブラシ かたさ:ふつう)によるブラッシングを行い、次に室温で人工唾液に8時間浸漬することを28回繰り返し処理した後の状態のSEM写真である。図2(a)は50倍、図2(b)は50000倍のSEM写真である。図2(a)に示すようにマイクロレベルの写真では歯の表面の堆積物は認められないが、図2(b)のナノレベルの写真では歯の表面に堆積物が認められる。
【0032】
【表1】

【0033】
前記のように、本発明の口腔用組成物を用いれば、歯の表面の高さ1μm未満の固形生成物、さらに0.5μm以下の固形生成物を歯の表面に凸凹を形成せずに除去でき、その結果歯に良好な光沢が付与される。このように、本発明組成物によれば、歯の表面にダメージを与えずにナノレベルの固形生成物を選択的に除去できるので、歯の表面を滑らかにして光沢を付与できる顕著な効果を奏する。
【0034】
前記のように、本発明の組成物が歯を白くし、歯に自然な艶や光沢を付与する作用は、歯のエナメル質表面のナノレベルの固形生成物を除去することにより生じると考えられるが、さらに、本発明の組成物は歯のエナメル質内部の小柱間隙に形成された生成物を除去することによって小柱間隙を再形成する作用を有し、小柱間隙再形成作用によって歯の美白作用が生じるものと考えられる。
【実施例】
【0035】
以下の実施例において、%は質量%を意味する。
【0036】
試験例1
表2に示すフィチン酸とピロリン酸を含有する練歯磨剤(実施例1)と、ピロリン酸を含有しない練歯磨剤(比較例1)を製造した。実施例1及び比較例1の練歯磨剤は、多価カチオンを実質的に配合せず、試験溶液中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。なお、実施例1及び比較例1のpHは、イオン交換水で30質量%に希釈したときの測定値である。
【0037】
【表2】

【0038】
(処理方法)
抜去歯に実施例1及び比較例1の練歯磨剤による複数回の処理をし、処理前と、複数回処理後の輝度と白さを後述する方法によって測定した。
練歯磨剤による処理は、実施例1及び比較例1の練歯磨剤を30質量%に希釈した処理液を用い、次の手順により室温(25℃)にて行った。抜去歯をイオン交換水につけて洗浄し、練歯磨剤を30質量%に希釈した処理液に5分間浸漬した。次に、処理液から取り出した抜去歯をイオン交換水で洗浄し、人工唾液に約3時間浸漬することを1回の処理とし、56回までの処理を行い、7回、14回、21回、28回、42回、56回の処理後の輝度、b*を下記の方法によって測定した。なお、抜去歯はヒト歯であって研磨等による汚れを落とす処理がされていないものを各処理液につき3個用いた。人工唾液は、塩化カルシウム(1.0mM)、リン酸水素カリウム(0.9mM)、HEPES(4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonic acid)(2.0mM)の水溶液を水酸化カリウムでpH=7に調整したものを使用した。なお、抜去歯は3個を用い、Δ輝度、Δb*は3個の抜去歯の測定値の平均値により評価した。
【0039】
(輝度の測定方法)
輝度の測定法としては、偏光を利用した画像解析から表面反射光強度を測定する方法を用いた。評価用画像を撮影する装置として、カメラはデジタル一眼レフカメラNikon D70、レンズはAi AFマイクロ・ニッコール105mm F2.8D、ストロボ発光はワイヤレス・リモート・スピードライトSB−R200(いずれもニコン製)を組合せて設置したものを用いた。スピードライトの発光部及びレンズの前にプラスチック偏光板(エドモンド製)を透過軸が30度交差するように配置して撮影した。撮影画像はAdobe Photoshop CS3(アドビシステム製)を用いてハイライト部分の平均輝度を求めた。輝度は数値が大きいほど光沢が高いことを意味する。口腔用組成物による処理前と処理後の後の輝度の差(処理後の輝度−処理前の輝度)を、Δ輝度とし、Δ輝度の数値が大きいほど光沢が増したことを意味する。
【0040】
(白さの評価)
歯(抜去歯)の白さは、デジタルカメラD1x(ニコン製)と白色フラッシュ光源(コニカミノルタ製)を用いて撮影された画像をAdobe Photoshop(アドビシステムズ製)を用いてL*a*b*表色系で表し、b*の値によって評価した。Δb*は、口腔用組成物の処理前と処理後のb*の差{(処理後のb*)−(処理前のb*)}を意味する。b*の値は0に近いほど、黄色味が少なく白さが増すことを意味し、Δb*が小さいほど、即ちΔb*の絶対値が大きいほど白さが増すことを意味する。
【0041】
図1には、実施例1及び比較例1の練歯磨剤の処理前と複数回の処理後の輝度の差(Δ輝度)(a)、白さの差(Δb*)(b)について、処理回数ごとの変化を示す。図1に示すように、実施例1の練歯磨剤は比較例1の練歯磨剤よりも少ない回数でΔ輝度が小さく、即ち−Δb*(Δb*の絶対値)が大きくなっており、成分(A)と成分(B)の併用により、歯に対する光沢付与効果及び美白効果を少ない処理回数で得られることが認められる。
【0042】
試験例2(フィチン酸と他のリン酸化合物との併用による効果)
表3にフィチン酸とピロリン酸、トリポリリン酸又はオルトリン酸とを含有する液体口腔用組成物の各成分及びその含有量を示す。これらの成分を混合した液体口腔用組成物(実施例2)を試験溶液として調製した。実施例2の液体口腔用組成物は多価カチオンを実質的に配合せず、試験溶液中のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム等の多価カチオンはIPC発光分析法で測定してフィチン酸に対して0.02倍モル未満であった。比較例5はpHが7.0である洗口剤、比較例6、7は多価カチオンとして塩化マグネシウムを配合し、多価カチオンはフィチン酸に対して約13モル倍含まれている。
試験溶液のpHは、イオン交換水で30質量%に希釈したときのpHである。試験に用いる歯は、抜去歯(ヒト歯)で研磨等による汚れを落とす処理がされていないものを用いた。
【0043】
表3に示す液体口腔用組成物の試験溶液によるブラッシング処理を次の手順で行った。抜去歯をイオン交換水に浸漬することによって洗浄し、各試験溶液に抜去歯を室温(25℃)で2分間浸漬しながら歯ブラシ(花王株式会社製クリアクリーン マルチケア歯ブラシ かたさ:ふつう)によるブラッシングを行い。その後、イオン交換水に浸漬することによって洗浄し、室温(25℃)の人工唾液に3時間浸漬した。このサイクルを24回実施した後と、48回実施した後に、輝度とb*を試験例1と同様の方法によって測定し、処理前の輝度とb*との差(Δ輝度、Δb*)を求めた。結果を表3に示す。なお、人工唾液は、試験例1と同じものを使用した。なお、抜去歯は3個を用い、Δ輝度、Δb*は3個の抜去歯の測定値の平均値により評価した。
【0044】
抜去歯の表面状態は、上記の24回、48回の処理後の歯をルーペ(倍率10倍)により肉眼で観察して評価したものである。
表3に24回、48回の処理後のΔ輝度、Δb*及び歯の表面状態を示し、図3に実施例2と比較例2〜4の24回処理後のΔ輝度を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3及び図3から明らかように、フィチン酸とピロリン酸とを組み合わせた場合には、光沢付与効果及び美白効果が向上するが、フィチン酸にトリポリリン酸又はオルトリン酸を組み合わせた場合には24回の処理では十分な光沢付与効果及び美白効果が得られなかった。また、pH7.0である比較例5、多価カチオンを含有する比較例6、7は、光沢付与効果及び美白効果が得られなかった。
また、フィチン酸とピロリン酸とを組み合わせた実施例2は、組み合わせないフィチン酸のみの比較例2に比べて、少ない処理回数、すなわち24回の処理において、高い光沢付与効果及び美白効果が認められた。
【0047】
試験例3(フィチン酸とピロリン酸の含有比率)
表4に示すように、フィチン酸とピロリン酸の濃度を変化させた液体口腔用組成物を製造し、試験例2と同様に試験した。その結果を表4及び図4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4及び図4から明らかように、(A)フィチン酸/(B)ピロリン酸の比率が0.2〜3.0の場合は、優れた光沢付与効果、美白効果が得られることが認められた。
【0050】
試験例4
表5に示す液体口腔用組成物を製造し、試験例2と同様に試験した。また、味についても評価した。味の評価は、3名により液体口腔用組成物を含嗽することにより評価し、3名の協議により得られた結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
表5に示すように、(A)フィチン酸と(B)ピロリン酸の含有量の合計が3.0を超えると塩味が強くなることが認められる。
【0053】
試験例5
表6に示す液体口腔用組成物を製造し、試験例2と同様に試験した。また、きしみ感についても評価した。きしみ感は3名により液体口腔用組成物を含嗽することにより評価し、3名の協議により得られた結果を表6に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
表6から明らかなように、フィチン酸、ピロリン酸に加えてエリスリトールを配合すると、光沢付与効果が良好で、歯のきしみが抑制されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B)、
(A)フィチン酸又はその塩 0.01〜3質量%、及び
(B)ピロリン酸又はその塩 0.01〜3質量%
を含有し、多価カチオンを含有しないか又はフィチン酸に対して0.1倍モル未満含有し、水で30質量%に希釈したときのpHが5.5〜6.5であって、成分(A)と成分(B)の質量比(B/A)が0.2〜3.0である口腔用組成物。
【請求項2】
成分(A)の含有量が0.01〜1.5質量%、成分(B)の含有量が0.01〜1.5質量%であって、成分(A)と成分(B)の合計含有量が0.02〜2.5質量%である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
さらに成分(C)エリスリトールを含有し、成分(C)と成分(A)及び(B)の合計量の質量比(C/(A+B))が5〜1000である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
さらに成分(D)水を12〜25質量%含有し、成分(C)と(D)との質量比(C/D)が1〜6である歯磨組成物である請求項3に記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(C)エリスリトールの含有量が12〜60質量%である歯磨組成物である請求項3又は4記載の口腔用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用組成物からなる歯への光沢付与剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用組成物を歯に適用することを特徴とする歯への光沢付与方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219058(P2012−219058A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85968(P2011−85968)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】