説明

口臭検査方法及び口臭検査キット

【解決手段】唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を指標とすることを特徴とする口臭検査方法。
【効果】本発明の口臭検査方法及び口臭検査キットによれば、唾液を用いて簡便な方法で、口臭の程度を判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液中に存在する、口腔内の炎症に伴い組織から漏出する酵素及び/又は口腔内の細菌由来の酵素のうち、特にアルカリフォスファターゼ(以下、ALP)及び乳酸脱水素酵素(以下、LDH)の活性から口臭を予測する口臭検査方法及び口臭検査キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
口臭は自分で認知することが難しいために、客観的な認知手段が求められている。専門施設においては、ガスクロマトグラフィーなどの大型装置を用いて口臭成分(硫化水素、メチルメルカプタンなどの揮発性イオウ化合物)を測定することが可能であるが、日常生活あるいは口腔衛生指導の場面などにおいて、本手段は現実的ではない。従って、簡便に口臭を予測することができれば非常に大きな意義がある。
【0003】
簡便な口臭検査法として、呼気を吹きかけて口臭を判定する簡易型の半導体センサーが市販されているが、半導体センサーは口臭成分以外の成分(例えば、香料、アルコールなど)とも反応するために、正確な口臭の判定が難しいのが現状である。
【0004】
唾液を用いる口臭検査技術としては、唾液中のメチルメルカプタンを測定するものが提案されている(特許文献1,2:特開2001−208753号公報、特開2004−309283号公報)が、メチルメルカプタンは非常に揮発性が高いため、唾液から放出されてしまい、十分な感度が得られない。また、亜硝酸イオンを測定するものも提案されている(特許文献3:特開昭62−294943号公報)が、食べたものに影響され易いという弱点がある。このように従来技術は感度面、口臭との相関性の面で十分満足できるものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−208753号公報
【特許文献2】特開2004−309283号公報
【特許文献3】特開昭62−294943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口臭との相関性が期待できる唾液成分、特に炎症に伴い組織から唾液に漏出する成分及び/又は口腔内の細菌由来の成分、中でも高感度に検出可能な酵素に着眼し、その活性測定システムを口臭検査方法及び口臭検査キットとして提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、唾液中に存在する酵素、特に炎症に伴い組織から唾液に漏出する酵素及び/又は口腔内の細菌由来の酵素のうち、アルカリフォスファターゼ(ALP)活性あるいは乳酸脱水素酵素(LDH)活性と呼気中の口臭主成分であるメチルメルカプタン濃度との間に強い相関性があることを見出した。
【0008】
口臭は口腔内の汚れを口腔内細菌が分解して産生する臭気であり、その主成分はメチルメルカプタンである。従って、口臭の強さと口腔内の汚れ、口腔内細菌との間には相関関係が成立する。口腔内の汚れには食物残渣のような外因性の汚れと口腔粘膜剥離物、歯肉溝浸出液、炎症部位からの漏出物などのような内因性の汚れがあり、前者が一過性の口臭原因であるのに対し、後者は本質的な口臭原因となるものである。また、汚れの増加と口腔内細菌の増加とは切り離せない関係にあり、細菌の増加にともない細菌が産生する物質が増加する。内因性の汚れ、細菌の産生する物質には種々の成分が含まれるが、本発明者らは感度よく測定できる唾液中の酵素に着目した。そして、その唾液中の酵素活性と口臭の主成分である呼気中のメチルメルカプタン濃度との間の相関性を検討した。その結果、唾液中のALP活性、LDH活性と呼気中のメチルメルカプタン量との間に高い関連性があることを新たに見出したもので、唾液中のALP活性、LDH活性を測定することにより、唾液での測定が困難な口臭成分メチルメルカプタンと対応する呼気中のメチルメルカプタン(口臭主成分)を予測可能な口臭検査方法及び口臭検査キットを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記口臭検査方法及び口臭検査キットを提供する。
[I]唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を指標とすることを特徴とする口臭検査方法。
[II]p−ニトロフェニルリン酸塩、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸塩、フェノールフタレインモノリン酸塩のいずれか1種の基質と、25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液とを含み、前記基質と唾液とを前記緩衝液中で反応させ、比色法により、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を測定するようにしたことを特徴とする口臭検査キット。
[III]唾液中の乳酸脱水素酵素活性を指標とすることを特徴とする口臭検査方法。
[IV]基質として、ピルビン酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)もしくはその塩、又は乳酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)とを含み、前記基質と唾液とを反応させて、吸光度により唾液中の乳酸脱水素酵素活性を測定するようにしたことを特徴とする口臭検査キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の口臭検査方法及び口臭検査キットによれば、唾液を用いて簡便な方法で、口臭の程度を判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の口臭検査方法は、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性もしくは乳酸脱水素酵素活性を指標とする。
アルカリフォスファターゼ活性の場合、測定方法は、p−ニトロフェニルリン酸塩、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸塩、フェノールフタレインモノリン酸塩のいずれか1種と唾液とを、25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液中で反応させ、比色法により、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を測定するものである。一方、乳酸脱水素酵素活性の場合、測定方法は、ピルビン酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)もしくはその塩と唾液、又は乳酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)と唾液とを反応させて、吸光度により唾液中の乳酸脱水素酵素活性を測定するものである。
【0012】
アルカリフォスファターゼ(ALP)の活性測定用の基質としては、p−ニトロフェニルリン酸塩、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(以下、BCIP)塩、フェノールフタレインモノリン酸塩などが利用される。p−ニトロフェニルリン酸の塩の種類としては、2ナトリウム塩、マグネシウム塩、2ナトリウム・6水塩、ビス(シクロヘキシルアンモニウム)塩、ビス[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]塩、ジ(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール)塩などが使用され、特に2ナトリウム塩が簡便に使用される。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸の塩としては、2ナトリウム塩、2カリウム塩、パラトルイジン塩が市販されており、パラトルイジン塩が簡便に使用される。フェノールフタレインモノリン酸の塩としては、2ナトリウム塩、モノピリジン塩、ジ(シクロヘキシルアンモニウム)塩等が例示され、このうちジ(シクロヘキシルアンモニウム)塩が好適に利用される。
【0013】
なお、ALPの活性測定における基質濃度としては、緩衝液や唾液サンプルを含む反応液中の濃度として0.001〜50mg/mLが好適に用いられる。
【0014】
ALP活性測定は、25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液中における反応が必須であることから、ジエタノールアミン−塩酸緩衝液、炭酸アンモニウム−アンモニア緩衝液、炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、グリシン−塩化ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液、四ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、四ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液などを用いることができ、とりわけジエタノールアミン−塩酸緩衝液が良好に用いられる。
【0015】
緩衝液の濃度としては、上記緩衝液例のジエタノールアミン−塩酸緩衝液の場合はジエタノールアミン濃度、炭酸アンモニウム−アンモニア緩衝液の場合は炭酸アンモニウム濃度、炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液の場合は炭酸ナトリウム濃度、炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液の場合は炭酸水素ナトリウム濃度、グリシン−塩化ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液の場合はグリシン濃度、ホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液の場合はホウ酸濃度、四ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、四ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液の場合は四ホウ酸ナトリウム濃度として、反応液中0.01〜1mol/Lの範囲が好適に用いられる。
【0016】
また、これら緩衝液中にはアルカリフォスファターゼと基質の反応を効率的に進めるために、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオンなどの金属イオンを添加することができる。中でも、マグネシウムイオンが効果的に用いられる。なお、これらの金属イオンは、金属塩化物等の水への可溶性塩として添加し得る。添加濃度としては、反応液中の金属イオン濃度として0.1〜100mmol/Lが好ましい。
【0017】
アルカリフォスファターゼ活性測定方法としては、公知の方法が採用でき、例えば後述する実施例に示す方法を用いることができる。また、BCIP塩とニトロブルーテトラゾリウム(以下、NBT)を組み合わせた市販キット(Kirkegaard Perry Laboratries社;Bluephos(登録商標))などが好適に用いられるが、これらに制限されるものではなく、アルカリフォスファターゼ活性測定方法であればいずれでも可能である。
【0018】
乳酸脱水素酵素(LDH)は、生体内における解糖系の酵素であり、一般的な測定方法として下記の2種が行われている。一つは、基質に乳酸又はその塩を用い補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)(以下、NAD+)を用いる方法であり、もう一つは、基質にピルビン酸又はその塩を用い、補酵素にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)(以下、NADH)又はその塩を用いる方法である。どちらも、吸光度(340nm)でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)の量変化を測定する方法である。
【化1】

【0019】
なお、乳酸の塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩三水和物、リチウム塩などが使用され、特にナトリウム塩が使用される。ピルビン酸の塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩一水和物などが使用され、特にナトリウム塩が使用される。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)(NADH)の塩としては、2ナトリウム塩が使用される。
【0020】
ここで、基質としての乳酸濃度は反応溶液中で0.01〜100mmol/L、補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)の濃度は反応溶液中で0.01〜100mmol/L、あるいは基質としてのピルビン酸と補酵素であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)濃度はそれぞれ反応溶液中で0.01〜100mmol/L、0.01〜100mmol/Lが好適に用いられる。
【0021】
また、乳酸を基質とし補酵素にNAD+を用いた反応で、生成したNADHをテトラゾリウムとジアホラーゼによって発色させるホルマザン呈色法なども挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
これら以外にも、市販のキットとして和光純薬工業(株)の乳酸脱水素酵素測定用キット「LDH−UVテストワコー」、協和メディックス(株)の体外診断用医薬品「デタミナーLD」、富士フィルムメディカル(株)の「富士ドライケムオートスライドLDH」などが用いられるが、これらに制限されるものではなく、LDH活性測定方法であればいずれでも可能である。
【0024】
ここで、唾液としては口腔内から採取した唾液をサンプルに用いることができる。唾液の種類としては、安静状態で分泌された唾液を吐出して採取した安静唾液、又はパラフィンガムを咀嚼することによって短時間で安静唾液と比較して大量の唾液を採取可能な刺激唾液がある。安静唾液と刺激唾液では、パラフィンガム咀嚼に伴う口腔内刺激の有無によって、唾液の分泌量や歯肉溝液の滲出、口腔内の汚れや細菌数等が異なるとされているが、サンプルにはいずれをも用いることができる。また、唾液を分析に供するサンプルとしては、採取した唾液をそのまま用いる全唾液並びに不溶物を遠心除去した唾液上清がある。全唾液には、口腔内の炎症に伴い組織から漏出する酵素及び/又は口腔内の細菌由来の酵素のうち溶解したもの及び溶解していないものの全てが含まれているが、唾液上清では口腔内の細菌に結合/会合している酵素が除かれている。サンプルとしては全唾液と唾液上清のどちらでも用いることができる。
【0025】
また、サンプルは採取後に凍結することなく4〜10℃で低温保存することが望ましい。また、サンプルは必要に応じて精製水や生理食塩水を用いて希釈することができる。希釈倍率としては1倍〜100倍が好ましく、更に好ましくは1倍〜50倍である。100倍を超えると判定が困難となる場合がある。
【0026】
口臭検査キットは、液体、固体、紙などとして調製できるが、剤型はこれらに制限されるものではない。また必要に応じて試験管などの適切な容器などと組み合わせても構わない。
また、酵素反応の程度を表す発色を識別するために、色調スケールによる判定紙などとの組み合わせによって利用することができる。
【0027】
本発明の口臭検査方法及び口臭検査キットは、アルカリフォスファターゼ活性の場合、ALPの酵素基質と25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液中での反応を必須とし、加えて任意成分として金属塩、剤型に応じて必要な成分、反応停止剤、安定化剤、発色補助剤などを任意に配合することができる。乳酸脱水素酵素活性の場合、LDHの酵素基質を必須とし、加えて任意成分として、剤型に応じて必要な成分、反応停止剤、安定化剤、pH調整剤、発色補助剤などを任意に配合することができる。
【0028】
本発明において、アルカリフォスファターゼ活性の場合、p−ニトロフェニルリン酸塩、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸塩、フェノールフタレインモノリン酸塩のいずれか1種と唾液とを、25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液中で反応させ、比色法により、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を測定し、一方、乳酸脱水素酵素活性の場合、ピルビン酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)もしくはその塩と唾液、又は乳酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)と唾液とを反応させて、吸光度により唾液中の乳酸脱水素酵素活性を測定するが、上記基質と唾液との反応は、アルカリフォスファターゼ活性の場合、15〜50℃、特に25〜40℃にて1〜120分、特に1〜30分行うことが好ましい。また、乳酸脱水素酵素活性の場合、15〜50℃、特に20〜40℃にて0.5〜60分、特に1〜5分反応を行うことが好ましい。
【0029】
上記のように基質と唾液とを反応させてアルカリフォスファターゼ活性又は乳酸脱水素酵素活性を測定するが、これらの測定値が大きい程、メチルメルカプタン濃度が高い、口臭が強いと判断されるものである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例と比較例を示し、本発明の特徴及び優れた効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
以下に示す方法で、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を測定し、口臭成分である呼気メチルメルカプタン濃度との関連性を調べた。
方法:成人66名(男54名、女12名)を対象として、前日夜9時以降当日午前中に唾液と呼気を採取するまでの飲食を禁止した。
唾液は、安静唾液と刺激唾液を各々別容器に採取した。安静唾液は安静な状態で口腔内にたまった唾液を採唾管(喀痰容器 栄研化学製)に吐出し、5分間採取した。一方、刺激唾液はパラフィンワックス(イボクラールビバデント社 代理店白水貿易 CRTパラフィン 0.84g)を3分間咀嚼し、口腔内にたまった唾液を採唾管に吐出し、採取した。採取した唾液サンプルは無処理の全唾液、及び、全唾液を取り分けた後に遠心分離(微量高速冷却遠心機 TOMY MRX−152、条件;3,000rpm、15分、4℃)により沈渣を取り除いた遠心上清の両方を唾液サンプルとした。全唾液と唾液上清の唾液サンプルは使用時まで4℃で保存した。
【0032】
アルカリフォスファターゼ(ALP)は以下の通り測定した。
まず、基質溶液は、p−ニトロフェニルリン酸2ナトリウム・6水塩(Sigma社製)123mgを、予め調製したジエタノールアミン−塩酸緩衝液(pH9.8)50mLに溶解して供した。
なお、ジエタノールアミン−塩酸緩衝液は、精製水700mLにジエタノールアミン(和光純薬社製)97mLと塩化マグネシウム・6水塩(和光純薬社製)0.1gを加え、スターラーで撹拌して混合した。更に、1N塩酸溶液(和光純薬社製)を約150mL添加して25℃におけるpHが9.8となるようにpHメーター(F−21 堀場製作所製)で測定しながら調整し、精製水で1Lにメスアップした。再度、スターラーを停止してから1分後のpHを測定し、25℃のpHが9.8であることを確認して本緩衝液を調製した。
【0033】
上記基質溶液0.5mLをガラス試験管に入れ、恒温水槽(BT−35 ヤマト科学製)中で37℃,3分間保温後、唾液サンプル0.05mLを添加し、37℃で15分間反応させた。その後、0.04N水酸化ナトリウム(和光純薬社製)溶液1.5mLを添加して反応を停止した。撹拌後、遠心分離(高速冷却遠心機 TOMY SRX−200、条件;3,000rpm、10分、室温)して上清を試験管に採取後、そのうち約3mLを10mm×10mmのガラス製セルに入れ、吸光度(OD405nm)を紫外可視分光光度計(UV−1600 島津製作所製)で精製水を対照に測定した。酵素活性は、生じたp−ニトロフェノールの量をモル吸光係数から算出し、求めた。なお、単位は国際単位/L(以下、IU/L)とした。なお、国際単位(IU)は、1分間に1μmolの基質を分解する酵素量である。
【0034】
呼気メチルメルカプタン濃度は以下のように測定した。
呼気サンプルは、1分間口閉じをしたのちに200mLテドラー(登録商標)バッグ(近江オドエアーサービス製)にゆっくりと口腔内の気体を吹き込んで採取した。採取した呼気は、PTR−MS(プロトン移動反応質量分析計;代理店 三友プラントサービス)を用いて、口臭の主成分であるメチルメルカプタンに相当する質量のピーク(M49)を測定した。なお、メチルメルカプタン濃度は、標準ガス(住友精化製)を用いて検量線を作成し、絶対検量線法で求めた。
PTR−MS測定条件(メチルメルカプタン 分子量48)
Mass M49
積算時間 0.1秒
速度定数 2E−09
測定は6サイクル繰り返し、最初と最後を除いた4サイクルの平均値を算出し、呼気中濃度(ppb)とした。
【0035】
上記で得られた、唾液中のALP活性と呼気メチルメルカプタン濃度との関連性を解析した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1には唾液中のALP活性と呼気メチルメルカプタン濃度との関連性をピアソン相関係数で示した。安静唾液、刺激唾液とも全唾液、唾液上清ともにALP活性とメチルメルカプタン相当ピーク(M49)に関連性を認めた。
中でも、刺激唾液の全唾液中のアルカリフォスファターゼ活性と呼気中のメチルメルカプタン相当ピーク(M49)に強い相関性(r=0.674)を示した(図1)。
なお、メチルメルカプタンの呼気中濃度が10ppbの場合、六段階臭気強度表示法(出典:ハンドブック悪臭防止法四訂版、悪臭法令研究会、ぎょうせい)の臭気強度3.5に相当し、それ以上の濃度では口臭が強く、多くの人にとって不快感が感じられるものであるが、このことから、上記刺激唾液のALP活性が72IU/Lであると、メチルメルカプタン濃度10ppbに相当し、それ以上では口臭が強いと評価されるものである。
【0038】
[実施例2]
以下に示す方法で、唾液中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定し、呼気メチルメルカプタン濃度との関連性を調べた。
方法:実施例1と同様に採取した唾液(安静唾液、刺激唾液)について乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定した。本測定では、唾液上清を唾液サンプルとした。
まず、反応混液として、3.0mLの5.0mmol/Lピルビン酸ナトリウム(和光純薬社製)水溶液、2.0mLのリン酸カリウム緩衝液、3.0mLの1.0mmol/Lニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)2ナトリウム塩(和光純薬社製)水溶液と22.0mLの精製水を混合した。
なお、リン酸カリウム緩衝液は、1.0Mのリン酸二カリウム(和光純薬社製)水溶液800mLに、スターラーで撹拌しながら1.0Mのリン酸一カリウム(和光純薬社製)水溶液を約240mL添加して25℃におけるpHが7.4となるようにpHメーター(F−21 堀場製作所製)で測定しながら調整し、スターラーを停止してから1分後のpHを測定し、25℃のpHが7.4であることを確認して本緩衝液を調製した。
【0039】
上記の反応混液3.0mLを10mm×10mmの石英セルに採取し、25℃で5分間保温後、精製水で50倍に希釈した唾液サンプルを0.05mL添加し、ゆるやかに混和後、水を対照に25℃に制御された分光光度計(UV−1600 島津製作所製)で340nmの吸光度変化を2分間(反応時間に相当)記録し、1分間あたりの平均の吸光度変化を求めた。酵素活性は、消費されたNADHの量をモル吸光係数から算出し、求めた。なお、単位は国際単位/L(以下、IU/L)とした。なお、国際単位(IU)は、1分間に1μmolの基質を分解する酵素量である。
【0040】
上記で得られた唾液中のLDH活性と実施例1と同様に測定した呼気中のメチルメルカプタン濃度(ppb)との関連性を解析した。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2には唾液中のLDH活性と呼気メチルメルカプタン濃度との関連性をピアソン相関係数で示した。安静唾液、刺激唾液とも全唾液、唾液上清ともにALP活性とメチルメルカプタン相当ピーク(M49)に関連性を認めた。
図2に、刺激唾液中の乳酸脱水素酵素(LDH)活性と呼気中のメチルメルカプタン相当ピーク(M49)との関連性(相関係数r=0.378)を示した。
なお、上記刺激唾液のLDH活性が170IU/Lであると、メチルメルカプタン濃度10ppbに相当し、それ以上では口臭が強いと評価されるものである。
【0043】
[比較例1]
以下に示す方法で、唾液中の分泌型免疫グロブリンA(以下、sIgA)を測定し、呼気メチルメルカプタン濃度との関連性を調べた。
方法:上記実施例と同様に採取した唾液(安静唾液、刺激唾液)についてsIgA量を測定した。即ち、唾液の遠心上清(高速冷却遠心機 TOMY SRX−200、条件;3,000rpm、15分、4℃)を、酵素免疫測定法(比濁法)で測定した。
【0044】
本試験の原理は、検体中の免疫グロブリン(IgA)が、抗ヒトIgA血清と反応して生じる濁りを測定するものである。今回は、IgAイムノアッセイキットとしてTAC−4テストIgA((株)医学生物学研究所製)を使用した。キットは、第1試液;反応用緩衝液、第2試液;抗ヒトIgAポリクローナル抗体(ヤギ)で構成される。自動分析装置(ネフェロメーター デートベーリング社製)を用いて、機械が自動的に精製水で希釈した唾液サンプル、第1試液及び第2試液を自動的に各々所定量混合し、600nmでの濁度を測定し、sIgA量を求めた。なお、単位はμg/mLとした。
【0045】
表3に、唾液中のsIgA量と呼気中のメチルメルカプタン(M49)との関連性をピアソン相関係数で示した。
【0046】
【表3】

【0047】
表3の結果から、炎症性のバイオマーカーである分泌型免疫グロブリンA(sIgA)と呼気中のメチルメルカプタンには相関性が認められなかった。
即ち、炎症や細菌由来成分であっても、全てが口臭主成分のメチルメルカプタンと相関するわけではないことが明らかとなった。
【0048】
今回の検討から、特に唾液中のアルカリフォスファターゼ活性と呼気中のメチルメルカプタンとに高い相関性がみられ、また唾液中の乳酸脱水素酵素活性とメチルメルカプタンに相関性がみられた。
このことから、唾液を検体として、検体中の酵素活性のうち、特にアルカリフォスファターゼもしくは乳酸脱水素酵素の活性を測定することによって、口臭成分である呼気中のメチルメルカプタンの程度、即ち口臭の強度を予測することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1における刺激唾液の全唾液中のアルカリフォスファターゼ活性と呼気中のメチルメルカプタン相当ピークとの関係を示すグラフである。
【図2】実施例2における刺激唾液中の乳酸脱水素酵素活性と呼気中のメチルメルカプタン相当ピークとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を指標とすることを特徴とする口臭検査方法。
【請求項2】
p−ニトロフェニルリン酸塩、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸塩、フェノールフタレインモノリン酸塩のいずれか1種の基質と、25℃においてpH8〜11の範囲で緩衝作用を有する緩衝液とを含み、前記基質と唾液とを前記緩衝液中で反応させ、比色法により、唾液中のアルカリフォスファターゼ活性を測定するようにしたことを特徴とする口臭検査キット。
【請求項3】
唾液中の乳酸脱水素酵素活性を指標とすることを特徴とする口臭検査方法。
【請求項4】
基質として、ピルビン酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型)もしくはその塩、又は乳酸もしくはその塩とニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型)とを含み、前記基質と唾液とを反応させて、吸光度により唾液中の乳酸脱水素酵素活性を測定するようにしたことを特徴とする口臭検査キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−43220(P2008−43220A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219566(P2006−219566)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】