説明

口金、これを用いたナノ繊維の製造方法およびナノ繊維

【課題】複数の流路が同軸上に高い精度で安定的に形成された口金を提供する。
【解決手段】口金100は、導電材料により構成されたブロック102、ブロック102に設けられた流体の噴出口113、ブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通する第一流路105、およびブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通し、第一流路105と同軸上に配置されるとともに第一流路105の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路111を有する。第一流路105の流路壁と第二流路111の流路壁とがブロック102の壁面の一部により構成されている。第一流路105と第二流路111とが、ブロック102の一部をなす第一キャピラリー106により隔離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金、これを用いたナノ繊維の製造方法およびナノ繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレクトロスプレーイオン化装置として、特許文献1に記載されたものがある。同文献には、試料溶液が導入されるキャピラリーとガスガイド管とを備える質量分析装置用イオン源が記載されている。
【0003】
同文献には、以下のことが記載されている。すなわち、キャピラリーは、キャピラリー保持管により保持固定されている。また、ガスガイド管は、キャピラリーの外周部に沿ってガスを流し、キャピラリーの先端部で大気中に所定のガス流速をもつガスを噴射させるものである。このガスガイド管は、ガスガイド管先端部と、ガスガイド管先端保持部とから構成されている。さらに、キャピラリーの先端におけるキャピラリーの中心軸と、ガスガイド管先端部に形成され、ガスが噴出する出口を形成するための開口部の中心軸とが一致するように、キャピラリーはキャピラリー保持管を介してガスガイド管先端部保持部に固定されている。質量分析の試料(溶質分子)は、高電圧の印加されたニードル(キャピラリー)の先端で荷電される。この際に、窒素などのシースガスを用いて噴霧することにより微小液滴が生じる。溶質分子を含んだ微小液滴は蒸発しながら質量分析装置へと導入される。
【0004】
一方、近年、エレクトロスピニング法を用いたナノ繊維の開発が進められている(特許文献2)。特許文献2によれば、エレクトロスピニング法は、「ポリマーを電解質溶液に溶解し、このポリマー溶液を口金から吐出する時に高電圧を印加し、その静電反発作用でポリマー溶液を無理矢理ひきちぎって極細化する」技術である。
【0005】
また、特許文献2には、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維を溶融紡糸により作製し、このポリマーアロイ繊維から易溶解性ポリマーを除去することにより、ナノ繊維を作製することが記載されている。また、得られたナノ繊維凝集体または分散体にモノマーを含浸させ、その後、重合あるいは加工する機能加工方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−108897号公報
【特許文献2】特開2005−36376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2に記載の方法は、芯部分となるポリマーアロイの設計が煩雑であり、適用できる材料に制限があった、また、ナノ繊維を作製した後、後処理で機能性物質をナノ繊維に担持させるため、複合材料の構造をナノメートルオーダーで安定的に制御する観点で、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明者は、上述したエレクトロスピニング法により、異相構造を有するナノ繊維を安定的に製造することについて鋭意検討を行った。すると、単一のキャピラリーチューブを用いた従来のエレクトロスピニング法では、異相構造を有するナノ繊維の製造が困難であった。
【0008】
また、特許文献1に記載されているような従来のエレクトロスプレーイオン化装置のイオン源を用いてナノ繊維を製造しようとした場合にも、微細な異相構造を安定的に製造する点で、改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明者は、この原因について、さらに検討を行った。その結果、従来のイオン源では、複数のキャピラリーチューブを同軸上に保持する際の同軸上の精度が充分でない場合があることが見出された。また、キャピラリーチューブの耐久性およびチューブ交換等の整備の容易性の点においても、改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
導電材料により構成されたブロックと、
前記ブロックに設けられた流体の噴出部と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通する第一流路と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通し、前記第一流路と同軸上に配置されるとともに前記第一流路の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路と、
を有し、
前記第一流路の流路壁と前記第二流路の流路壁とが、前記ブロックの壁面の一部により構成されており、前記第一流路と前記第二流路とが、前記ブロックの一部をなす隔壁により隔離されている口金が提供される。
【0011】
本発明において、噴出部は、ブロック中に供給された流体が噴出する開口部である。噴出部はブロックに設けられていればよく、たとえばブロックの表面に設けられていてもよいし、ブロックの表面近傍に設けられていてもよい。
【0012】
また、噴出部は、第一流路に供給された第一流体を噴出させる第一噴出部と、第二流路に供給された第二流体を噴出させる第二噴出部とを含んでもよい。第二噴出部は、第一噴出部の外周を取り囲む平面形状を有する。第一噴出部と第二噴出部とは、第一流体と第二流体とが噴出部から同心円状に噴出されるように設けられていればよく、たとえば、第一噴出部と第二噴出部とが同一平面内に配置されていてもよいし、異なる平面内に配置されていてもよい。
【0013】
背景技術の項で前述した従来のイオン源においては、個別に形成されたキャピラリーチューブを後工程で同軸上に配置して固定する構成となっている。このため、前述したように、キャピラリーチューブを同軸上に配置する際の精度に改善の余地があった。
【0014】
これに対し、本発明の口金においては、ブロックの内部に第一流路および第二流路が設けられている。そして、第一流路の流路壁と第二流路の流路壁とが、いずれも、ブロックの壁面の一部により構成されており、第一流路と第二流路とが、ブロックの一部をなす隔壁により隔離されている。このような壁面および隔壁は、ブロックを加工することにより形成される。このため、本発明によれば、後工程において第一流路と第二流路との位置合わせを行い、同軸上に配置して、固定する必要がない。よって、各流路が微細な場合にも、第一流路と第二流路とが所定の位置に確実に形成されており、流路の軸ぶれを抑制することができる。
【0015】
ここで、エレクトロスピニング法を用いて異相構造を有するナノ繊維を製造しようとする場合、流路の軸あわせを高精度で行い、軸ぶれを抑制することが求められる。こうした場合にも、本発明の口金を用いることにより、軸ぶれを抑制して、第一流体から形成される相と第二流体から形成される相とが同心円状に配置されたナノ繊維を安定的に得ることができる。
【0016】
また、本発明によれば、
導電材料により構成されたブロックと、
前記ブロックに設けられた流体の噴出部と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通する第一流路と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通し、前記第一流路と同軸上に配置されるとともに前記第一流路の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路と、
を有し、
前記ブロックの表面から前記ブロックを穴あけ加工することにより前記第一流路および前記第二流路が形成された口金が提供される。
【0017】
本発明においては、第一流路および第二流路が、ブロックの穴あけ加工により形成されている。このため、流路が微細な場合にも、予め定められた位置に第一流路および第二流路を確実に形成し、第一流路と第二流路の軸ぶれを抑制することができる。また、複数の流路が別個の管状部材により構成されている場合と異なり、第一流路と第二流路とを位置あわせして同軸上に配置し、固定する必要がない。
【0018】
また、本発明においては、ブロックが導電材料により構成されているので、放電加工による微細加工が可能である。放電加工は非接触加工であるため、これを用いることにより、第一流路および第二流路の加工精度をさらに向上させることができる。本発明において、前記ブロックの材料は、たとえば金属とすることができる。
【0019】
また、本発明においては、ブロックが導電材料により構成されているので、ブロックに電圧を印加して用いることができる。
【0020】
たとえば、本発明の口金において、前記第一流路に第一流体を供給するとともに前記第二流路に第二流体を供給しつつ、前記ブロックに所定の電圧を印加して、前記第一流体および前記第二流体を前記噴出部から噴出させて用いられてもよい。
【0021】
また、本発明によれば、本発明の口金を用いたナノ繊維の製造方法であって、前記第一流路に第一流体を供給するとともに、前記第二流路に第二流体を供給し、前記口金に所定の電圧を印加して、前記第一流体および前記第二流体を前記噴出部から噴出させる工程を含むナノ繊維の製造方法が提供される。
【0022】
本発明においては、第一流路と第二流路が、ブロックに形成されている。また、ブロックに所定の電圧を印加して、第一流体および第二流体を噴出部から噴出させて用いられる。このため、エレクトロスピニング法におけるキャピラリーヘッドとしてさらに好適に用いられる。
【0023】
本発明において、前記第一流路および前記第二流路には、それぞれ異なる供給口から前記第一流体と前記第二流体が供給されてもよい。このようにすれば、口金をさらに製造安定性に優れた構成とすることができる。
【0024】
本発明において、前記第一流路の先端が、前記ブロックの表面よりも前記ブロックの外側に突出していてもよい。こうすることにより、噴出部に第一流体の液滴が溜まってしまわないようにすることができる。このため、噴出部から第一流体をさらに安定的に噴出させることができる。
【0025】
なお、本発明において、流路の先端は、流路の端部のうち、噴出口側に位置する端部のことを指す。
【0026】
本発明において、前記第二流路の先端が、前記ブロックの表面よりも前記ブロックの外側に突出していてもよい。こうすれば、噴出部に第二流体の液滴が溜まってしまわないようにすることができる。このため、噴出部から第二流体をさらに安定的に噴出させることができる。
【0027】
本発明において、前記第一流路の先端が、前記第二流路の先端よりも前記ブロックの外側に突出していてもよい。こうようにすれば、エレクトロスピニングに適用した際に、さらに確実にスピニングを生じさせることができる。このため、ナノ繊維の製造に用いた際に、ナノ繊維の製造安定性をさらに向上させることができる。
【0028】
本発明において、前記噴出部の近傍において、前記第二流路の側方に、液溜が設けられ、前記液溜が、前記ブロックに設けられるとともに前記ブロックの所定の領域を除去することにより形成された凹部であってもよい。こうすることにより、噴出部から噴出された余剰の流体をさらに効果的に除去し、噴出部付近に溜まらないようにすることができる。
【0029】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
【0030】
たとえば、本発明によれば、上述した本発明のナノ繊維の製造方法により得られるナノ繊維が提供される。
【0031】
本発明において、ナノ繊維とは、ナノメートルオーダーの直径を有する繊維をいう。ここで、直径は、たとえば数平均繊維径とする。本発明のナノ繊維の数平均繊維径は、たとえば5nm以上950nm以下とすることができる。
【0032】
本発明によれば、上述した口金を用いたエレクトロスピニング法により、明瞭な境界を有する微細な異相構造を安定的に製造可能である。このため、本発明によれば、界面が明瞭な異相構造を有するナノ繊維を安定的に得ることができる。
【0033】
本発明において、異相構造とは、隣接する二つの相を有し、これらの相の境界が明瞭な構造をいう。異相構造中に含まれる相は、たとえば中実の領域とする。具体的には、本発明のナノ繊維において、当該ナノ繊維の中心軸方向に延在するコアと、前記コアの外側に設けられた被覆層と、を含んでもよい。
【0034】
また、本発明のナノ繊維において、当該ナノ繊維の中心軸方向に延在するコアと、前記コアの外側に付着した複数のナノ粒子と、を含んでもよい。
本発明において、ナノ粒子とは、ナノメートルオーダーの粒子径を有する粒子をいう。ここで、粒子径は、たとえば数平均粒子径とする。本発明において、ナノ粒子の数平均粒子径は、たとえば5nm以上950nm以下とすることができる。
【0035】
また、本発明において、本発明のナノ繊維において、当該ナノ繊維の中心軸方向に延在する中空領域と、前記中空領域の周囲を取り囲む環状の領域と、を含んでもよい。中空領域は、ナノ繊維の内部に形成されていてもよいし、一部がナノ繊維の外部に露出していてもよい。たとえば、ナノ繊維の両端部において、中空領域がナノ繊維の外部に連通していてもよい。本発明のナノ繊維は、エレクトロスピニング法により得られるため、ナノ繊維が中空領域を有する場合にも、製造安定性に優れ、繊維径および中空領域の径のばらつきが抑制される構成となっている。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように本発明によれば、複数の流路が同軸上に高い精度で安定的に形成された口金が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0038】
(第一の実施形態)
本実施形態では、口金の構成について説明する。
図2は、本実施形態の口金の構成を示す斜視図である。図3は、図2のA−A’断面図である。図4(a)および図4(b)は、図3の噴出口113近傍を模式的に拡大して示す図である。図4(b)および図5は、図4(a)のB−B’断面図である。
【0039】
図2〜図5に示した口金100は、導電材料により構成されたブロック102と、ブロック102に設けられた流体の噴出部(噴出口113)と、ブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通する第一流路105(図2)と、ブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通し、第一流路105と同軸上に配置されるとともに第一流路105の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路111と、を有する。口金100は、第一流路105と第二流路111とが同軸上に設けられた一体成型同軸キャピラリーヘッドである。
【0040】
ブロック102は、所定の形状のブロックであり、本実施形態では直方体のブロックである。ブロック102の材料は、導電材料であればよいが、たとえば、鉄、ステンレス等の鉄合金、その他の金属とする。ブロック102の前端面119、後端面123および側面125は、たとえば一辺の長さが5mm以上50mm以下の矩形とする。
【0041】
口金100は、連続一体なブロック102により構成されている。本明細書において、連続一体とは、連続体として一体に成形されていることをいう。また、ブロック102が単一部材からなり、接合部を有しない構造であることが好ましい。ブロック102が連続一体な部材であれば、たとえばブロック102の壁面に所定のコーティング等が施されていてもよい。
【0042】
また、ブロック102は、その一部をなす部材として、バルク状の支持部と、第一流路105と第二流路111とを隔てる隔壁部とを含む。また、支持部は、第一流路105の側壁を構成する第一壁部と第二流路111の側壁を構成する第二壁部とを含む。つまり、ブロック102においては、第一壁部、第二壁部および隔壁部が連続一体に形成されている。
【0043】
口金100においては、第一流路105の流路壁と第二流路111の流路壁とが、ブロック102の壁面の一部により構成されている。そして、第一流路105と第二流路111とが、ブロック102の一部をなす隔壁(第一キャピラリー106)により隔離されている。こうすれば、複数の微細流路が同軸上に配置された口金100の流路壁を頑強にすることができる。
【0044】
第一流路105および第二流路111は、流路の延在方向に沿って略一定の内径を有する形状であり、同心円状に配置されている。第一流路105および第二流路111には、それぞれ異なる供給口から第一流体(流体A)と第二流体(流体B)が供給される。流体Aおよび流体Bは、それぞれ、異なる材料とすることができる。また、流体Aおよび流体Bは、それぞれ、固体、液体、気体のいずれであってもよい。
【0045】
ブロック102には、第一流路105に連通し、第一流路105中に流体Aを供給する第一供給口(第一供給部101の端部)と、第二流路111に連通し、第二流路111中に流体Bを供給する第二供給口(第二供給部107の端部)と、が設けられ、第二供給部107と第一供給部101とが互いに離隔して形成されている。
【0046】
口金100では、第一供給部101から第一流路105への流体Aの供給方向が、第一流路105の中心軸の延在方向であって、第二供給部107から第二流路111への流体Bの供給方向が、第二流路111の中心軸の延在方向と異なる方向である。
【0047】
第二供給部107と第一供給部101とは、ブロック102の異なる面に設けられている。こうすれば、ブロック102に各流路を形成する際の加工容易性を向上させることができる。このとき、流体Aと流体Bとは、それぞれ異なる面からブロック102中に導入される。第一供給部101には流体Aが導入される。第一供給部101に供給された流体Aは、第一接続部103を経由して第一流路105に至る。また、第二供給部107には、流体Bが導入される。第二供給部107に供給された流体Bは、第二接続部109を経由して第二流路111に至る。
【0048】
第一流路105は、ブロック102の一部をなす第一キャピラリー106の内部の領域である。第一キャピラリー106は、ブロック102の前端面119から突出する突出部115を有する。第一流路105の断面形状は円形であって、第一キャピラリー106の内径は、たとえば0.05mm以上3mm以下とする。また、第一流路105は、前端面119からブロック102の内側に向かって延在している。第一流路105は、第一接続部103および第一供給部101に連通している。
【0049】
第一接続部103および第一供給部101は、ブロック102の所定の領域が除去されてなる管状の領域である。第一供給部101、第一接続部103および第一流路105は同軸上に配置される。また、前端面119から見たときに、第一流路105、第一接続部103および第一供給部101の断面積がこの順に大きくなっている。第一供給部101は、ブロック102の後端面123に設けられた開口部に連通している。
【0050】
また、第二流路111は、第一キャピラリー106と第二キャピラリー121との間の円環状の領域である。第二キャピラリー121は、ブロック102の一部をなし、第一流路105の外側に、第一流路105と同軸上に設けられている。第二キャピラリー121の内径は、たとえば第一キャピラリー106の内径よりも大きく、またたとえば3mm以下とする。第二流路111は、第二接続部109に連通し、第二接続部109は第二供給部107に連通している。
【0051】
第二接続部109および第二供給部107は、ブロック102の所定の領域が除去されてなる管状の領域である。第二接続部109および第二供給部107は、第二流路111の延在方向に対して垂直に延在形成されている。第二供給部107はブロック102の側面125に設けられた開口部に連通している。
【0052】
噴出口113は、ブロック102の表面近傍に設けられている。噴出口113は、ブロック102中に供給された流体が噴出する開口部であって、第一噴出口112および第二噴出口114からなる(図4(a))。第一流路105は第一噴出口112に連通し、第二流路111は第二噴出口114に連通する。第二噴出口114の位置は、ブロック102の表面(前端面119)に一致しており、第一噴出口112は、第二噴出口114よりもブロック102の外側に配置されている。なお、本実施形態では、噴出口113が複数の平面内に設けられているが、噴出口113全体が同一面内に設けられていてもよい。
【0053】
口金100においては、第一キャピラリー106の先端が、ブロック102の表面(前端面119)から突出している。このため、第一流路105の先端が、前端面119よりもブロック102の外側に突出している。そして、第一流路105の先端が、第二流路111の先端よりもブロック102の外側に突出している。つまり、第二キャピラリー121の端部よりも第一キャピラリー106の端部がブロック102の外側に向かって突出して突出部115となっている。このようにすることにより、エレクトロスピニング法に用いた際に、流体Aおよび流体Bのスピニングを確実に生じさせることができる。
【0054】
また、第二流路111の先端近傍において、第二流路111の側方に、液溜117が設けられている。液溜117は、ブロック102に設けられるとともに、ブロック102の所定の領域を除去することにより形成された環状の凹部である。凹部の平面形状は、たとえば、第一流路105の周囲を取り囲む円環状とする。
【0055】
液溜117を設けることにより、第一流路105および第二流路111からあふれた余剰の流体を液溜117内に効率よく導くことができる。このため、噴出口113近傍において、流体Aまたは流体Bの液滴が、ブロック102端面にたまらないようにすることができる。よって、エレクトロスピニング法におけるキャピラリーヘッドに適用した際に、噴出口113において確実に流体のスピニングを生じさせることができる。
【0056】
なお、液溜117は、噴出口113近傍において第一流路105および第二流路111からあふれた余剰の流体を排出可能な構成となっていればよく、第二流路111に連通していてもよいし、第二流路111から離隔して設けられていてもよい。
【0057】
図2〜図5に示した口金100は、ブロック102を加工することにより得られる。ブロック102を加工することにより、ブロック102中の壁面や隔壁が形成される。また、第一流路105および第二流路111は、ブロック102の表面からブロック102を穴あけ加工することにより形成されている。さらに具体的には、第一流路105および第二流路111は、たとえば、ブロック102の所定の面から非接触加工によりブロック102を彫り込むことにより得られる。
【0058】
放電加工やレーザ加工等の非接触加工を用いてブロック102を彫り込むことにより、流路の加工精度をさらに向上させることができる。また、口金100においては、ブロック102の所定の面から彫り込むことにより第一流路105および第二流路111が形成されているため、後工程において第一流路105と第二流路111との位置決めする必要がない。また、流路の軸ぶれが抑制された構成となっている。
【0059】
ブロック102は、導電材料により構成されているので、たとえば放電加工を用いることにより、ブロック102に第一流路105および第二流路111を高い精度で安定的に形成できる。
【0060】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
口金100においては、同軸上に複数の流路が設けられている。これらの複数の流路の流路壁は、ブロック102の壁面の一部により構成されている。また、これらの流路が、ブロック102の一部をなす隔壁により隔離されている。このため、使用時等の後工程で、キャピラリー同士を同軸上に軸あわせする必要がない。また、流路が微細である場合にも流路壁の強度に優れている。このため、液体を加圧した状態で各流路に供給する際にも、各キャピラリーの軸ぶれを抑制することができる。よって、口金100によれば、加圧された多種類の流体を所定の領域から制御性よく噴出させることができる。
【0061】
ここで、従来のエレクトロスプレー法によるイオン化装置においては、内径の異なる細いキャピラリーチューブを同軸上に配した構造を有している。そこで、この構成と本実施形態の構成とを比較して説明する。
【0062】
図12は、エレクトロスプレーイオン化法の概要を示す図である。図12においては、径の異なる二本のキャピラリーチューブとして、第一キャピラリー201および第二キャピラリー203が同軸上に配置されている。これらのキャピラリーに所定の電圧を印加することにより、第一キャピラリー201中の流体205が、MS部に設けられたターゲット207に向かって噴出する。なお、第二キャピラリー203中には、シースガスが供給される。
【0063】
ところが、これらのキャピラリーチューブは、金属製の細管により構成される。このため、キャピラリーチューブの耐久性が充分に得られない場合があった。また、キャピラリーチューブの交換の際、作業が繁雑で手間がかかる懸念があった。このため、キャピラリーチューブの耐久性および整備性の点で改善の余地があった。
【0064】
また、複数のキャピラリーチューブを同軸上に精密に維持した状態を保つことが困難な場合があった。このため、二本の独立した部材からなるキャピラリーチューブを同軸上に固定した場合、精密な軸あわせが必要な際のキャピラリーチューブの同軸上の精度の点で改善の余地があった。
【0065】
本発明者の検討によれば、異相構造を有するナノ繊維の製造にエレクトロスピニング法を適用しようとすると、特に高い流路の軸合わせ精度が必要であった。このため、図12に示したようなキャピラリーチューブを用いた場合、ナノメートルオーダーの異相構造を再現性よく得ることが困難であった。
【0066】
これに対し、本実施形態においては、複数のキャピラリーチューブを独立した部材とせずに、ブロック102を加工することにより、第一流路105および第二流路111が形成される。第一流路105の流路壁と第二流路111の流路壁とが、ブロック102の壁面の一部により構成されており、第一流路105と第二流路111とが、ブロック102の一部をなす第一キャピラリー106により隔離されているため、これらのキャピラリーを所定の位置に安定的に形成することができる。このため、二つのキャピラリーを別個の部材として形成し、同軸上に配置して固定する場合とは異なり、第一流路105と第二流路111とを所定の位置に確実に形成し、軸ぶれを抑制することができる。また、第一キャピラリー106および第二キャピラリー121がブロック102の一部をなすため、これらの強度を向上させることができる。よって、これらのキャピラリーの耐久性および整備性を向上させることができる。
【0067】
また、本実施形態においては、ブロック102が導電材料により構成されているので、口金100は、放電加工を用いて製造可能である。放電加工等の非接触加工による製造可能であるため、微細加工における加工精度に優れた構成となっている。
【0068】
よって、本実施形態の口金100は、エレクトロスピニング法を用いて異相構造を有するナノ繊維を作製する場合のように、流路の軸合わせを特に高精度で行うことが求められる場合にも、充分に適用可能である。また、ブロック102が導電材料である点においても、口金100は、エレクトロスピニング法により得られる微細な異相構造を有するナノ繊維の製造に好適に利用できる。
【0069】
エレクトロスピニング法は、エレクトロスプレーイオン化法と同様の原理を用いたナノサイズの極微細ファイバの製造法である。口金100をエレクトロスピニング法におけるキャピラリーヘッドとして用いることにより、多種類の流体を同軸上に高い精度で安定的に供給し、噴出口113から噴出させることができる。このため、口金100をエレクトロスピング法に適用することにより、異相構造を有するナノ繊維を高い歩留まりで安定的に製造することができる。このとき、口金100は、第一流路105に流体Aを供給するとともに第二流路111に流体Bを供給しつつ、ブロック102に所定の電圧を印加して、流体Aおよび流体Bを噴出口113から噴出させて用いられる。
【0070】
異相構造を有するナノ繊維として、たとえば、中空構造を有するナノ繊維、光触媒ナノ繊維および高強度ナノ繊維等の各種高機能多層ナノ繊維が挙げられる。口金100を用いれば、こうした高機能ナノ繊維を伸延し、高い歩留まりで安定的に製造することができる。なお、高機能多層ナノ繊維として、たとえば、物理的または化学的特性の異なる素材を同軸上に配した多層ナノ繊維が挙げられる。
【0071】
(第二の実施形態)
第一の実施形態において、口金の構成は、以下の構成とすることもできる。
図11(a)および図11(b)は、口金の別の構成を示す図である。図11(a)は、口金を側面から見た図である。図11(b)は、図11(a)の突出部115の近傍を拡大して示す図である。
【0072】
図11(a)および図11(b)に示した口金の基本構成は、図2〜図5に示した口金100と同様である。ただし、本実施形態では、液溜117を設ける代わりに、ブロック102の前端面119をブロック102内部側に後退させている。そして、第二キャピラリー121および第一キャピラリー106が、いずれも前端面119から突出している。また、本実施形態では、第一接続部103が設けられておらず、第一流路105が直接第一供給部101に接続されている。
【0073】
図11(a)および図11(b)に示した口金においては、第二流路111の先端が、ブロック102の端面よりもブロック102の外側に向かって突出しており、第一噴出口112および第二噴出口114が、いずれも、前端面119よりもブロック102の外側に位置している。これにより、エレクトロスピニング法に適用した際に、噴出口113から噴出される液滴が大きくなりすぎてスピニングされなくなることを抑制できる。
【0074】
本実施形態においても、第一の実施形態と同様の効果が得られる。このため、たとえば後述する実施形態に記載のナノ繊維の製造に好適に用いることができる。また、本実施形態によれば、第二キャピラリー121についても前端面119から突出させるため、突出部115から噴出された流体のスピニングをより一層確実に生じさせることが可能な構成となっている。
【0075】
以下の実施形態では、以上の実施形態に記載の口金をエレクトロスピニング法に適用した際に得られる異相構造を有するナノ繊維の例を説明する。こうしたナノ繊維として、たとえば多機能多相ナノ繊維が挙げられる。なお、以下においては、第一の実施形態に記載の口金100を用いる場合を例に説明するが、第二の実施形態に記載の口金を用いてもよい。
【0076】
(第三の実施形態)
図1は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。このナノ繊維110は、エレクトロスピニング法により得られる、異相構造(コア131およびシェル層133)を有する繊維である。異相構造は、繊維の中心軸に沿って延在する第一の相(コア131)と、コア131の延在方向に対する垂直断面において、コア131の外側に配置された第二の相(シェル層133)と、を含む。シェル層133は、コア131に接して設けられ、コア131の側面外周を被覆する被覆層である。
【0077】
コア131は、第一材料により構成された領域である。
また、シェル層133は、コア131に接して設けられ、コア131の側面外周を被覆する領域である。コア131とシェル層133とは、同軸上に配置されている。また、コア131とシェル層133とは、同一工程により同時に形成される。シェル層133は、コア131と異なる第二材料により構成される。
【0078】
コア131およびシェル層133の材料は、エレクトロスピニング可能な材料であれば特に制限はないが、たとえば、ポリアニリン等の有機高分子材料や、シリカ、タイタニア、ジルコニア等の無機材料とする。
また、コア131とシェル層133との材料の組み合わせとしては、たとえば、コア131またはシェル層133の一方をシリカ等の無機材料とし、他方が有機高分子材料とする組み合わせが挙げられる。また、コア131とシェル層133とが、異なる有機高分子材料からなる構成としてもよい。
【0079】
ナノ繊維110の直径は、製造安定性をさらに向上させる観点では、たとえば5nm以上、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。また、ナノ繊維110の直径は、ナノ繊維110の比表面積を増加させる観点では、たとえば950nm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。
【0080】
さらに、コア131の直径は、コア131の製造安定性をさらに向上させる観点では、たとえば2nm以上、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、コア131の直径は、ナノ繊維の相構造をさらに微細化する観点では、たとえば200nm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
【0081】
シェル層133の厚さは、シェル層133の厚さのばらつきを抑制する観点では、たとえば2nm以上、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、シェル層133の厚さは、ナノ繊維の直径を小さくする観点では、たとえば500nm以下、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
【0082】
ナノ繊維110は、エレクトロスピニング法により作製される。ただし、このような多層の断面構造を有するナノ繊維110の作製を、従来のエレクトロスピニング法で得ることは困難である。
【0083】
そこで、本実施形態においては、同軸構造を有するキャピラリーを用い、二種類の原料を用いる。これにより、単一の原料よりなるナノ繊維より高機能なナノ繊維の製造が実現される。また、相反する属性を有する二つの材料が同心円状に形成されたナノ繊維の安定的な製造が可能となる。
【0084】
具体的には、第一または第二の実施形態で前述した口金を用いてナノ繊維110を製造する。以下、第一の実施形態の口金100を用いる場合を例に、ナノ繊維110の製造方法の一例を説明する。
【0085】
本実施形態のナノ繊維110は、口金100の第一流路105に流体Aを供給するとともに、第二流路111に流体Bを供給し、口金100に所定の電圧を印加して、流体Aおよび流体Bを噴出口113から噴出させて得られる。
【0086】
図7(a)および図7(b)は、口金100を用いたナノ繊維110の製造方法を説明する図である。図7(a)は、口金100の噴出口113から流体Aおよび流体Bを噴出させる様子を示している。また、図7(b)は、図7(a)のC−C’断面を示す図である。
【0087】
図7(a)および図7(b)に示したように、ナノ繊維110は、口金100に二種類の異なる流体(流体Aおよび流体B)を供給して、口金100とターゲット(アース)との間に直流電圧を印加し、エレクトロスピニングすることにより得られる。流体Aは、コア131の材料またはその前駆体を含む。また、流体Bは、シェル層133の材料またはその前駆体を含む。コア131またはシェル層133の材料が、たとえば有機高分子材料である場合、口金100に供給する流体を、当該高分子の溶液または融液とする。また、コア131またはシェル層133の材料が無機材料である場合、口金100に供給する流体を、当該無機材料のゾルゲル液とする。
【0088】
図6は、口金100の使用方法を説明する図である。図6には、具体的には、流体Aおよび流体Bの供給系への口金100の接続例が模式的に示されている。図6に示したように、ブロック102の側面125に、ニードルアダプタ127が固定される。ニードルアダプタ127は、第二供給部107(図6では不図示)に連通する中空部を有する接続部材である。ニードルアダプタ127に嵌合して連通するルアーアダプタ129に、第二チューブ151が接続される。第二チューブ151は第二シリンジポンプ153に接続し、流体Bは、第二シリンジポンプ153により圧送されて、所定の速度で第二供給部107に供給される。
【0089】
また、図6には示していないが、後端面123にもニードルアダプタ(不図示)が固定される。このニードルアダプタに嵌合するルアーアダプタ(不図示)に第一チューブ155が接続される。第一チューブ155は、第一シリンジポンプ157に接続される。流体Aは、第一シリンジポンプ157により圧送されて、所定の速度で第一供給部101内に供給される。
【0090】
たとえば、ナノ繊維110のコア131を熱分解性高分子のポリカーボネイトとし、シェル層133をシリカとする場合、ナノ繊維110は以下の条件で作製される。
第一キャピラリー106の内径:100μm
第二キャピラリー121の内径:500μm
突出部115の第一キャピラリー106の延在方向の突出長さ:100μm
流体A:ポリカーボネイトの10質量%ダイクロロメチレン溶液または融液
流体B:シリカゾルゲル液
印加電圧:5.0kV
【0091】
これにより、たとえば、コア131の径が50nm、シェル層133の厚さが50nmの二層構造のナノ繊維110が得られる。二つの流路が同軸上に一体成型された口金100を用いることにより、ナノ繊維110のコア131の太さのばらつきやシェル層133の厚さのばらつきを抑制することができる。このため、ナノオーダーの微細なコアシェル構造を有するナノ繊維110を高い歩留まりで安定的に製造することができる。なお、コア131の径およびシェル層133の厚さは、流体Aおよび流体Bの粘度を調節することにより、より一層精密にコントロールすることができる。
【0092】
ここで、従来のエレクトロスピニング法では、単相のナノ繊維が得られるため、性質の異なる機能、たとえば耐熱性と耐久性等、を単一のナノ繊維中で実現することは困難であった。また、従来のエレクトロスプレーイオン化におけるイオン源を用いて本実施形態のナノ繊維を作製することは困難であった。
【0093】
これに対し、本実施形態では、口金100を用いることにより、特性の異なる機能を単一のナノ繊維で実現することが可能となる。このため、ナノ繊維製品の応用範囲を格段に広げることができる。また、従来の単相ナノ繊維の代わりに高機能多相ナノ繊維を用いることにより、より高感度、高強度等の高性能な製品の製造が可能となる。
【0094】
(第四の実施形態)
第三の実施形態においては、多層構造を有するナノ繊維について説明したが、コア131部分は中空領域であってもよい。
【0095】
図8は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。図8に示したナノ繊維120は、断面円環状のシェル層133の内部に、ナノ繊維120の中心軸方向に延在する中空領域(中空部135)が設けられた構成である。シェル層133は、中空部135の周囲を取り囲む環状の領域である。シェル層133の材料は、たとえばエレクトロスピニング可能な無機材料とする。また、エレクトロスピニング可能な各種有機高分子材料としてもよい。シェル層133の材料としては、たとえば第三の実施形態において前述したものが挙げられる。
【0096】
ナノ繊維120は、たとえば、第三の実施形態のナノ繊維110の製造方法を用いて製造される。このとき、内層に用いる流体Aに熱分解性高分子、外層に用いる流体Bにシリカゾルゲルを用いる。そして、上述したエレクトロスピニング法でナノ繊維110を作製する。その後、ナノ繊維110を所定の条件で加熱して、コア131の熱分解性高分子を蒸発させて、中空部135とする。これにより、中空チューブ状のナノ繊維120が得られる。
【0097】
本実施形態によれば、繊維直径および中空部135の径の制御性に優れた中空状のナノ繊維120が得られる。
得られたナノ繊維120は、たとえば、生体高分子の単一分子検出用流路等に応用することができる。
【0098】
(第五の実施形態)
第三の実施形態では、コア131の外側にシェル層133が設けられたナノ繊維110を例示したが、コア131に配置された領域は、シェル層状の領域には限られず、たとえば、複数のナノ粒子に構成される領域とすることもできる。本実施形態では、こうした構成のナノ繊維について説明する。
【0099】
図9は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。図9に示したナノ繊維130は、繊維の中心軸方向に延在するコア141と、コア141の側面に付着した複数のナノ粒子145とから構成される。
第一の相であるコア141は、第一材料により構成された領域である。また、第二の相は、コア141に付着した微粒子(ナノ粒子145)から構成された領域である。
【0100】
コア141およびナノ粒子145の材料としては、たとえば、第一の実施形態において前述したものが挙げられる。また、ナノ粒子145の材料は、ナノ繊維130に付与する機能に応じて選択することができる。たとえば、ナノ繊維130として、光触媒等の触媒機能を有する材料を用いることができる。こうした材料がコア141の表面に固定化されたナノ繊維は、光触媒機能を有する繊維材料として好適に用いることができる。
【0101】
また、ナノ粒子145の直径は、光活性の観点では、たとえば1nm以上、好ましくは5nm以上とする。また、ナノ粒子145の直径は、ナノ粒子145の比表面積を大きくする観点では、たとえば20nm以下、好ましくは10nm以下とする。
【0102】
ナノ繊維130の製造は、たとえば第三の実施形態に記載の方法を用いて行うことができる。たとえば、シリカからなるコア141の表面に酸化チタンのナノ粒子145が付着したナノ繊維130を製造する場合、以下のようにする。すなわち、内層に用いる流体Aにシリカゾルゲル、外層に用いる流体Bに、酸化チタンを混入したポリビニルピロリドン(PVP)の水溶液を用いる。そして、前述したエレクトロスピニング法でナノ繊維を作製する。図10は、得られたナノ繊維140の構成を示す斜視図である。ナノ繊維140は、コア141と、コア141の側面外周を被覆する被覆層143からなる。
【0103】
つづいて、ナノ繊維140を所定の条件で加熱して、PVPを蒸発させる。これにより、水溶液中の酸化チタンの粒子が析出し、シリカからなるナノ繊維すなわちコア141上に吸着する。こうして、図9に示したナノ繊維130が得られる。
【0104】
得られたナノ繊維130は、酸化チタンによる光触媒反応性を有している。このため、ナノ繊維130に紫外線を照射することで、有機物を分解する機能を有する。こうした光触媒ナノ繊維は、たとえば非常に高い反応性を持った有害物質分解フィルター等に応用することができる。
【0105】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0106】
たとえば、以上の実施形態においては、第一流路105と第二流路111の二つの流路が同軸上に配置された口金を例に説明したが、第二流路111の外側に、さらに一以上の流路が設けられ、この流路が他の流路と同軸上に配置された構成としてもよい。このとき、第三流路は、第二流路111の側面外周を取り囲むように設けられた環状の流路とする。三つまたはそれ以上の流路がブロック102中の同軸上に連続一体に形成された口金を用いれば、たとえば、繊維径方向に三つ以上の層が同心円状に積層された構造を有するナノ繊維を製造することができる。そして、三つまたはそれ以上の各層の材料を適宜選択することにより、ナノ繊維をより一層高機能化することができる。
【0107】
また、以上においては、口金をエレクトロスピニング法に適用する例を示したが、以上の実施形態における口金は、たとえば、質量分析器のエレクトロスプレーイオン化装置用のキャピラリーヘッドに適用することもできる。
【0108】
また、以上において、繊維径は、たとえば電子顕微鏡の観察により測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図2】実施の形態におけるナノ繊維の製造に用いる口金の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の口金のA−A’断面図である。
【図4】図3の口金の噴出口近傍の構成を示す図である。
【図5】図4のB−B’断面図である。
【図6】図2の口金の使用方法を説明する図である。
【図7】実施の形態におけるナノ繊維の製造方法を説明する図である。
【図8】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図9】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図10】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図11】実施の形態におけるナノ繊維の製造に用いる口金の構成を示す断面図である。
【図12】従来のエレクトロスプレーイオン化装置の構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0110】
100 口金
101 第一供給部
102 ブロック
103 第一接続部
105 第一流路
106 第一キャピラリー
107 第二供給部
109 第二接続部
110 ナノ繊維
111 第二流路
112 第一噴出口
113 噴出口
114 第二噴出口
115 突出部
117 液溜
119 前端面
120 ナノ繊維
121 第二キャピラリー
123 後端面
125 側面
127 ニードルアダプタ
129 ルアーアダプタ
130 ナノ繊維
131 コア
133 シェル層
135 中空部
140 ナノ繊維
141 コア
143 被覆層
145 ナノ粒子
151 第二チューブ
153 第二シリンジポンプ
155 第一チューブ
157 第一シリンジポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料により構成されたブロックと、
前記ブロックに設けられた流体の噴出部と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通する第一流路と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通し、前記第一流路と同軸上に配置されるとともに前記第一流路の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路と、
を有し、
前記第一流路の流路壁と前記第二流路の流路壁とが、前記ブロックの壁面の一部により構成されており、前記第一流路と前記第二流路とが、前記ブロックの一部をなす隔壁により隔離されている口金。
【請求項2】
導電材料により構成されたブロックと、
前記ブロックに設けられた流体の噴出部と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通する第一流路と、
前記ブロックの内部に設けられるとともに前記噴出部に連通し、前記第一流路と同軸上に配置されるとともに前記第一流路の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路と、
を有し、
前記ブロックの表面から前記ブロックを穴あけ加工することにより前記第一流路および前記第二流路が形成された口金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の口金において、
前記第一流路に第一流体を供給するとともに前記第二流路に第二流体を供給しつつ、前記ブロックに所定の電圧を印加して、前記第一流体および前記第二流体を前記噴出部から噴出させて用いられる口金。
【請求項4】
請求項3に記載の口金において、
前記第一流路および前記第二流路に、それぞれ異なる供給口から前記第一流体および前記第二流体が供給される口金。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれかに記載の口金において、前記第一流路の先端が、前記ブロックの表面よりも前記ブロックの外側に突出している口金。
【請求項6】
請求項5に記載の口金において、前記第二流路の先端が、前記ブロックの表面よりも前記ブロックの外側に突出している口金。
【請求項7】
請求項5または6に記載の口金において、前記第一流路の先端が、前記第二流路の先端よりも前記ブロックの外側に突出している口金。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれかに記載の口金において、
前記噴出部の近傍において、前記第二流路の側方に、液溜が設けられ、
前記液溜が、前記ブロックに設けられるとともに前記ブロックの所定の領域を除去することにより形成された凹部である口金。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれかに記載の口金を用いたナノ繊維の製造方法であって、
前記第一流路に第一流体を供給するとともに、前記第二流路に第二流体を供給し、前記口金に所定の電圧を印加して、前記第一流体および前記第二流体を前記噴出部から噴出させる工程を含むナノ繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のナノ繊維の製造方法により得られるナノ繊維。
【請求項11】
請求項10に記載のナノ繊維において、
当該ナノ繊維の中心軸方向に延在する中空領域と、
前記中空領域の周囲を取り囲む環状の領域と、
を含むナノ繊維。
【請求項12】
請求項10に記載のナノ繊維において、当該ナノ繊維の中心軸方向に延在するコアと、前記コアの外側に設けられた被覆層と、を含むナノ繊維。
【請求項13】
請求項10に記載のナノ繊維において、当該ナノ繊維の中心軸方向に延在するコアと、前記コアの外側に付着した複数のナノ粒子と、を含むナノ繊維。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図2】
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【図5】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−197860(P2007−197860A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16605(P2006−16605)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(506027941)株式会社ESPINEX (6)
【出願人】(506027871)株式会社吉田鋳造研究所 (2)
【Fターム(参考)】