説明

古来物品における接着部構造

【課題】古来物品を、その構成部品である各木製部材に分解する分解作業が、これら各木製部材を損傷させることなく容易にできるようにすると共に、その後、これら各木製部材を元通りに組み合わせて接着し、古来物品を復元させた場合に、この古来物品の寿命の向上を達成できるようにする。
【解決手段】仏像とその台座など古来物品1を構成する少なくとも2つの木製部材2,3の互いの対向面4,5を、接着剤6により解除可能に接着させるようにする。両対向面4,5のうち、少なくともいずれか一方の対向面を粗面とし、接着剤6がポリビニルアルコールと、水とを含有する。記ポリビニルアルコールを10質量部とし、水を70〜120質量部とする。接着剤6に、分子量が1000〜2000のグリコールを0.05〜0.2質量部含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なものであって、仏像とその台座など古来物品を構成する少なくとも2つの木製部材の互いの対向面を、接着剤により解除可能に接着させるようにした古来物品における接着部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、仏像、仏具などの古来物品には、複数の木製部材を互いに組み合わせて接着した組み合わせ構造とされたものが多く見られる。また、上記各木製部材同士を接着させる接着剤として膠(にかわ)が多用されてきた。
【0003】
上記古来物品は、主に宗教的、文化的な意義の下で多年にわたり受け継がれてきたものであるが、このように多年が経過すると、一般に、上記古来物品の各木製部材は消耗したり損傷したりして、ひび割れや欠損などの支障が生じがちとなる。また、上記膠は害虫に侵され易いものであり、このため、その接着力が早期に低下して古来物品の寿命が低下する、という支障も生じがちとなる。
【0004】
そこで、上記したように古来物品におけるいずれかの木製部材に何らかの支障が生じた場合には、従来、一般に、この古来物品を各木製部材に分解する分解作業と、上記木製部材を所望状態に修復する修復作業と、元の古来物品の姿に戻す復元作業とが順次行われるが、これらの作業は、次の如きものである。
【0005】
即ち、まず、上記古来物品の分解作業として、上記木製部材と、この木製部材に組み合わされた他の木製部材とを接着させている膠に水を付加する。この場合、膠は水により溶解し易い性質を有している。このため、上記した膠は水の付加により容易に溶解することから、これら木製部材同士の接着が解除されて、古来物品が各木製部材に分解される。つまり、この分解作業により、上記木製部材を他の木製部材から離して単品の状態にさせる。すると、上記木製部材についての前記修復作業は、上記他の木製部材からの干渉を何ら受けることなく、容易かつ正確にできる。
【0006】
そして、上記木製部材の修復後には、この木製部材と他の木製部材とを元通りに組み合わせてこれら木製部材同士を上記接着剤により接着し元の古来物品の姿に復元する、という前記復元作業を行う。この場合、上記したように膠は害虫に侵され易いものであるため、近時、膠に代えてエポキシ系の樹脂接着剤による接着が行われている。そして、このエポキシ系の接着剤による上記各木製部材同士の接着は強固であり、かつ、寿命の長いものとされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記古来物品については、上記した修復作業を目的として上記分解作業と復元作業とをする他にも、文化財保護や調査研究などの理由により、将来、上記分解作業をして、これら各木製部材について所望の作業をし、その後、上記復元作業を行う可能性があると考えられる。つまり、これら一連の作業は、ある期間毎に実行される可能性がある。
【0008】
しかし、それ以前の復元作業において、古来物品の各木製部材を上記したようにエポキシ系の接着剤により強固に接着させてしまうと、その後、古来物品を各木製部材に分解する分解作業時には、これら各木製部材を損傷させることなく分解することは極めて煩雑になるおそれがある。
【0009】
なお、上記接着剤はこれにアセトンを付加してやれば、容易に溶解するため、上記分解作業にアセトンを用いることが考えられる。しかし、上記木製部材はアセトンに反応して損傷するおそれがあり、このため、このようなアセトンを用いることは好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、古来物品を、その構成部品である各木製部材に分解する分解作業が、これら各木製部材を損傷させることなく容易にできるようにすると共に、その後、これら各木製部材を元通りに組み合わせて接着し、古来物品を復元させた場合に、この古来物品の寿命の向上を達成できるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、仏像とその台座など古来物品1を構成する少なくとも2つの木製部材2,3の互いの対向面4,5を、接着剤6により解除可能に接着させるようにした古来物品における接着部構造であって、
上記両対向面4,5のうち、少なくともいずれか一方の対向面を粗面とし、上記接着剤6がポリビニルアルコールと、水とを含有することを特徴とする古来物品における接着部構造である。
【0012】
請求項2の発明は、上記ポリビニルアルコールを10質量部とし、水を70〜120質量部としたことを特徴とする請求項1に記載の古来物品における接着部構造である。
【0013】
請求項3の発明は、上記接着剤6に、分子量が1000〜2000のグリコールを0.05〜0.2質量部含有させたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の古来物品における接着部構造である。
【0014】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明による効果は、次の如くである。
【0016】
請求項1の発明は、仏像とその台座など古来物品を構成する少なくとも2つの木製部材の互いの対向面を、接着剤により解除可能に接着させるようにした古来物品における接着部構造であって、
上記両対向面のうち、少なくともいずれか一方の対向面を粗面とし、上記接着剤がポリビニルアルコールと、水とを含有している。
【0017】
このため、上記古来物品を各木製部材に分解する分解作業をする場合には、まず、上記両対向面の間に水(湯を含む)を注入する。すると、この水は上記両対向面のうちの粗面に対し、毛細管現象により迅速に染み込んで、上記両対向面の間の奥深くまで円滑に浸入する。
【0018】
ここで、上記接着剤のポリビニルアルコールは水により溶解し易い性質を有している。このため、このポリビニルアルコールは上記のように両対向面の間の奥深くまで浸入した水により迅速に溶解される。これにより、上記木製部材同士の接着が円滑に解除されて、上記古来物品が各木製部材に分解される。
【0019】
よって、上記古来物品を、その構成部品である各木製部材に分解する分解作業は、これら各木製部材を損傷させることなく円滑かつ容易にできる。
【0020】
そして、上記した分解作業により、木製部材を他の木製部材から離して単品の状態にしてやれば、上記木製部材についての修復作業など所望の作業が、上記他の木製部材からの干渉を受けることなく、容易かつ正確にできる。
【0021】
また、上記木製部についての修復作業など所望の作業後には、この木製部材と他の木製部材とを元通りに組み合わせて、これら木製部材同士を上記接着剤により接着し、古来物品を復元する、という復元作業を行う。この場合、上記接着剤におけるポリビニルアルコールは害虫に侵され難いものであると共に、耐候性を有している。このため、上記したように古来物品を復元させた場合、この古来物品の寿命の向上が達成される。
【0022】
請求項2の発明は、上記ポリビニルアルコールを10質量部とし、水を70〜120質量部としている。
【0023】
ここで、前記したように接着剤は接着成分としてポリビニルアルコールを含有しているが、この接着剤におけるポリビニルアルコールが10質量部であるのに対し、水が70質量部未満であるとすると、上記分解作業時に、ポリビニルアルコールに水を付加しても、このポリビニルアルコールの溶解に長時間を要することとなって好ましくない。一方、水が120質量部を越えると、この接着剤の接着強度が不足しがちとなって好ましくない。
【0024】
そこで、前記したように、接着剤におけるポリビニルアルコールを10質量部、水を70〜120質量部としたのである。そして、これによれば、上記分解作業は、より円滑かつ容易にでき、また、上記修復作業により古来物品を復元したとき、接着剤の接着強度を十分に大きくできるため、古来物品の寿命をより向上させることができる。
【0025】
請求項3の発明は、上記接着剤6に、分子量が1000〜2000のグリコールを0.05〜0.2質量部含有させている。
【0026】
ここで、上記したように、接着剤はグリコールを含有しているが、このグリコールが0.05質量部未満であるとすると、上記接着剤に水を付加しても、このポリビニルアルコールの溶解の促進が不十分となりがちであって好ましくない。一方、上記グリコールが0.2質量部を越えると、この接着剤の接着強度が不足しがちとなって好ましくない。
【0027】
そこで、前記したように、接着剤におけるグリコールを0.05〜0.2質量部としたのである。そして、これによれば、上記接着剤のポリビニルアルコールは、水による溶解が促進されて、上記分解作業が更に円滑容易にでき、また、上記修復作業により古来物品を復元したとき、接着剤の接着強度を十分に大きくできるため、古来物品の寿命をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の古来物品における接着部構造に関し、古来物品を、その構成部品である各木製部材に分解する分解作業が、これら各木製部材を損傷させることなく容易にできるようにすると共に、その後、これら各木製部材を元通りに組み合わせて接着し、古来物品を復元させた場合に、この古来物品の寿命の向上を達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0029】
即ち、古来物品における接着部構造は、仏像とその台座など古来物品を構成する少なくとも2つの木製部材の互いの対向面を、接着剤により解除可能に接着させるようにしたものである。上記両対向面のうち、少なくともいずれか一方の対向面は粗面とされ、上記接着剤がポリビニルアルコールと、水とを含有している。
【実施例】
【0030】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0031】
図において、符号1は古来物品であり、この古来物品1は仏像を形成した木製部材2と、この木製部材2の台座となる他の木製部材3とを備えている。この他の木製部材3の上面に上記木製部材2の下面が全体的に面接触するよう載置されている。これら2つの木製部材2,3の互いの対向面4,5は、接着剤6により互いに解除可能に接着させられている。
【0032】
上記他の木製部材3の対向面5には年輪8が刻まれている。この年輪8は、春から夏にかけて速い速度で生長することにより形成され、断面径が大きく細胞壁の薄い仮導管や木繊維で構成される早材部分9と、主に、冬に生長を止めたときに形成され、細胞壁の厚い細胞で構成される晩材部分10とを備えている。この晩材部分10の比重は上記早材部分9よりも一般に2〜8倍程度大きいものとされ、早材部分9は軟質で、これに対し晩材部分10は硬質とされる。
【0033】
上記古来物品1は多年にわたり受け継がれるものであるが、このように多年が経過すると、その分、上記各木製部材2,3が消耗する。この場合、これら各木製部材2,3における年輪8の早材部分9はその性質により晩材部分10よりも、より大きく体積が収縮して、例えば、他の木製部材3の対向面5を含む各外面には、凹条部12が形成される。一方、上記年輪8の晩材部分10はその性質により上記早材部分9よりも収縮が抑制されて、上記凹条部12に対し相対的に外方に突出して凸条部13が形成される。この結果、上記他の木製部材3の対向面5は粗面とされる。また、上記両対向面4,5同士の外端縁における上記各凹条部12の端部開口は、上記両対向面4,5の間から古来物品1の外部に向かってそれぞれ開口する。
【0034】
なお、上記木製部材2の対向面4も上記他の木製部材3の対向面5と同様の粗面構造とされる。
【0035】
そして、上記両対向面4,5の間において、上記接着剤6は互いに突き合わせ状に対向する両凸条部13,13の間に主に介在して、上記両対向面4,5を互いに接着させる。これら両対向面4,5を接着する際の接着剤6は粘性の低い液体状のものであり、上記両対向面4,5に介在させられた接着剤6は、その後、自然乾燥により硬化させられる。この場合、上記両対向面4,5の間で、特に互いに対向する凹条部12,12間の多くの部分では、これらの表面に接着剤6が塗布されているか否かにかかわらず、厚さの薄い空隙が形成された状態とされる。
【0036】
上記接着剤6は、ポリビニルアルコール(PVA)と、水と、分子量が1000〜2000のポリプレングリコールとを含有したものである。この場合、ポリビニルアルコールは10質量部、水は70〜120質量部、上記グリコールは0.05〜0.2質量部とされる。
【0037】
上記古来物品1を各木製部材2,3に分解する分解作業をする場合には、まず、上記両対向面4,5の間に水(湯を含む)を注入する。すると、この水は上記両対向面4,5のうちの粗面における各凹条部12の端部開口を通し、これら各凹条部12内に毛細管現象により迅速に染み込んで、上記両対向面4,5の間の奥深くまで円滑に浸入する。
【0038】
ここで、上記接着剤6のポリビニルアルコールは水により溶解し易い性質を有している。このため、このポリビニルアルコールは上記のように両対向面4,5の間の奥深くまで浸入した水により迅速に溶解される。これにより、上記木製部材2,3同士の接着が円滑に解除されて、上記古来物品1が各木製部材2,3に分解される。
【0039】
よって、上記古来物品1を、その構成部品である各木製部材2,3に分解する分解作業は、これら各木製部材2,3を損傷させることなく円滑かつ容易にできる。
【0040】
なお、上記ポリビニルアルコールは、常温を越えた温度にまで加熱した湯を用いた方が、常温以下の水よりもより溶解し易い性質を有している。このため、上記分解作業において、上記水に代え湯を用いれば、上記木製部材2,3同士の接着は更に円滑に解除されて、上記古来物品1は各木製部材2,3に、より容易に分解される。
【0041】
そして、上記した分解作業により、木製部材2を他の木製部材3から離して単品の状態にしてやれば、上記木製部材2についての修復作業など所望の作業が、上記他の木製部材3からの干渉を受けることなく、容易かつ正確にできる。
【0042】
また、上記木製部材2についての修復作業など所望の作業後には、この木製部材2と他の木製部材3とを元通りに組み合わせて、これら木製部材2,3同士を上記接着剤6により接着し、古来物品1を復元する、という復元作業を行う。この場合、上記接着剤6におけるポリビニルアルコールは害虫に侵され難いものであると共に、耐候性を有している。このため、上記したように古来物品1を復元させた場合、この古来物品1の寿命の向上が達成される。
【0043】
ここで、前記したように接着剤6は接着成分としてポリビニルアルコールを含有しているが、この接着剤6におけるポリビニルアルコールが10質量部であるのに対し、水が70質量部未満であるとすると、上記分解作業時に、ポリビニルアルコールに水を付加しても、このポリビニルアルコールの溶解に長時間を要することとなって好ましくない。一方、水が120質量部を越えると、この接着剤6の接着強度が不足しがちとなって好ましくない。
【0044】
そこで、前記したように、接着剤6におけるポリビニルアルコールを10質量部、水を70〜120質量部としたのである。そして、これによれば、上記分解作業は、より円滑かつ容易にでき、また、上記修復作業により古来物品1を復元したとき、接着剤6の接着強度を十分に大きくできるため、古来物品1の寿命をより向上させることができる。なお、上記水は80〜100質量部とすることが、より好ましい。
【0045】
また、前記したように、接着剤6はグリコールを含有しているが、このグリコールが0.05質量部未満であるとすると、上記接着剤6に水を付加しても、このポリビニルアルコールの溶解の促進が不十分となりがちであって好ましくない。一方、上記グリコールが0.2質量部を越えると、この接着剤6の接着強度が不足しがちとなって好ましくない。
【0046】
そこで、前記したように、接着剤6におけるグリコールを0.05〜0.2質量部としたのである。そして、これによれば、上記接着剤6のポリビニルアルコールは、水による溶解が促進されて、上記分解作業が更に円滑容易にでき、また、上記修復作業により古来物品1を復元したとき、接着剤6の接着強度を十分に大きくできるため、古来物品1の寿命をより向上させることができる。なお、上記グリコールは0.08〜0.15質量部とすることが、より好ましい。
【0047】
なお、以上は図示の例によるが、上記古来物品1は仏壇、仏具であってもよく、御輿や、だんじりのようなものであってもよい。また、上記古来物品1は3つ以上の木製部材を備えていてもよい。また、上記両対向面4,5のうち、一方のみを粗面としてもよい。また、粗面は多数の回転刃などにより積極的に切削形成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】古来物品の全体図である。
【図2】(1)は、図1のI−I線矢視部分拡大図、(2)は、上記(1)のII−II線矢視図である。
【符号の説明】
【0049】
1 古来物品
2 木製部材
3 木製部材
4 対向面
5 対向面
6 接着剤
8 年輪
9 早材部分
10 晩材部分
12 凹条部
13 凸条部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仏像とその台座など古来物品を構成する少なくとも2つの木製部材の互いの対向面を、接着剤により解除可能に接着させるようにした古来物品における接着部構造であって、
上記両対向面のうち、少なくともいずれか一方の対向面を粗面とし、上記接着剤がポリビニルアルコールと、水とを含有することを特徴とする古来物品における接着部構造。
【請求項2】
上記ポリビニルアルコールを10質量部とし、水を70〜120質量部としたことを特徴とする請求項1に記載の古来物品における接着部構造。
【請求項3】
上記接着剤に、分子量が1000〜2000のグリコールを0.05〜0.2質量部含有させたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の古来物品における接着部構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126592(P2010−126592A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301286(P2008−301286)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(508203725)株式会社メイクリーン (7)
【Fターム(参考)】