説明

可塑化ポリマー組成物

本発明は、N‐アルキル‐2‐ピロリドンと、脂肪酸エステルとを含む可塑化ポリマー組成物を提供する。該組成物は、フタレート系可塑剤の使用なしに高い硬度、引張強度および/または破断点伸びを示す。可塑化ポリマー組成物をシート、チューブ、コーティングのような多種多様な用途に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可塑化ポリマー組成物に関し、より詳細には、ポリ塩化ビニルと、少なくとも一つのN‐アルキル‐2‐ピロリドンおよび少なくとも一つの脂肪酸エステルからなる可塑剤とを含むポリマー組成物に関する。可塑剤の含有量は、引張強度および破断点伸びを増大および/または低温亀裂温度を低下させるのに十分な量とする。本発明はまた、重金属および溶媒を含まず、したがって揮発性有機化合物(VOC)放散の減少を示す上述の組成物に関するものでもある。
【0002】
本発明は更に、これら可塑化ポリマー組成物の高度な特性を享受するあらゆる用途への使用に関するもので、かかる用途としては、限定しないが、ワイヤおよびケーブルコーティング、フィルム、箔、医療用チューブのようなチューブ、屋根ふき膜、床張り材、冷蔵庫用ガスケットのようなガスケット、塗料、接着剤、織物助剤、フィルムコーティング、生地、壁コーティングおよび壁紙コーティングが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
以後PVCと称するポリ塩化ビニルは、多くの分野で広範囲に使用されている。PVCは、通常可塑剤との配合系で使用される。PVCの性質、可塑剤およびこれら2つの材料の比率を選択して、特定の用途に望ましい特性を有するPVC組成物を提供する。可塑化PVC組成物の主な用途の例としては、ワイヤおよびケーブルコーティング、プラグ、フィルム、箔およびシートのような他の電気的用途、床張り材、壁カバーならびに屋根ふき材および膜が挙げられる。他の用途としては、固定フィルム、接着テープおよび農業用フィルムのような各種フィルムが挙げられる。また、PVCは、血液バッグ、チューブおよびボトルキャップのような医療用途、履物、パイプおよび樋材ならびに生地コーティングに使用される。一般に、可塑剤に加えて熱安定化剤、潤滑剤、顔料、充填剤、衝撃改質剤および難燃剤のような他の添加剤を利用して所望の特性を有するPVC組成物を生成する。
【0004】
PVCに追加する可塑剤は、可撓性、柔軟性、良好な触感、加工容易性、伸展性、低溶融温度のような所望の特性を付与する(Encyclopedia of PVC Vol. 1 and 2, L. I. Nass (1976))。可塑剤はPVCに溶解することにより機能し、ポリマー鎖間の凝集エネルギー密度を減少し、また塩素原子に起因する極性力を減少する。有効なPVC可塑剤として機能する有機化合物は、一般に(a)PVCとの高い相溶性、(b)極性基、および(c)その有効寿命の間にポリマー外に拡散・移行する低い傾向を示す。また、可塑剤は、PVCを変色せず、無毒、無臭、低揮発性であるとともに、PVCを可塑剤と混合および配合する温度で熱的に安定であることが望ましい。
【0005】
PVC用の有効な可塑剤として様々な有機化合物が報告されている。これらは、フタル酸無水物と4〜15個の炭素原子を有する脂肪族アルコール(直鎖および分岐)とのエステル、エポキシ化大豆油、トリメリット酸のエステル、リン酸塩、安息香酸のエステル、クエン酸のエステルおよびハロゲン化炭化水素を含む。800原子質量単位(amu)から6000amuのより高い分子量のポリエステルをジオールとアジピン酸またはセバシン酸との縮合により調製することができ、これも可塑剤として使用する。
【0006】
上記のうち、フタレート系可塑剤が、PVCとの優れた相溶性、溶融容易性および総合的に望ましい特性を有することから、最も広く使用されている。使用するフタレートエステルの例としては、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソヘプチルフタレートおよびジ‐2‐エチルヘキシルフタレート(DEHP)が挙げられる。典型的な市販材料としては、International Specialty Products社のFlexidone(登録商標)群の可塑剤、ExxonMobil Chemical社のJayflex(登録商標)可塑剤およびBASF社のPalatinol(登録商標)可塑剤が挙げられる。
【0007】
フタレート化合物は主要な可塑剤であるが、欠点がないわけではない。DEHPは、ラットに肝癌を発症させる発癌物質であると指摘されている。フタレート化合物は、その低分子量によりPVCから外に速やかに拡散し、ガラスおよびその他の透明表面に「曇り」(濁った沈澱物)を生起する可能性がある。また、これらは有機溶媒によって容易に抽出されるので、溶媒との接触を必要とする用途での使用には不向きである。
【0008】
可塑剤の分野における代表的な従来技術は、米国特許第5,777,014号、同第6,118,012号、同第6,706,815号ならびに米国特許出願第2004/0001948号および同第2004/0198909号に記載されている。
【0009】
米国特許第5,294,644号には、農薬および薬剤のような活性有機化合物に特に有効な界面活性剤作用を有する界面活性ラクタムが開示されている。帯電防止特性、ブロッキング防止特性および潤滑特性を含む他の多くの興味深い特性がかかるラクタムに起因する。これらラクタムに特有の有用性は、水不溶性農薬の安定なエマルション濃縮物を形成する能力である。
【0010】
ここに内容全体を参照して援用する米国特許第7,411,012号には、PVC組成物に可撓性、柔軟性、伸展性および/または低溶融温度を付与するようにPVCに長期可塑化を提供するN‐アルキル‐2‐ピロリドン可塑剤が記載されている。
【0011】
ここに内容全体を参照して援用する米国特許第7,211,140号には、PVCと単不飽和脂肪族ジカルボン酸の脂肪族ジエステルとの混合物を形成するステップと、該混合物を溶融して可塑化PVCを得るステップとを備えたPVCの可塑化方法が記載されている。
【0012】
2009年4月6日付け出願で、ここに内容全体を参照して援用する国際特許出願第PCT/US09/39600号には、アルキルピロリドンおよび亜リン酸塩エステルを特徴とする安定な可塑化PVC組成物が記載されている。
【0013】
PVPのようなポリマーを可塑化する際の相当な進展は、生理学的懸念の軽減および/または解消と共にポリマーの可塑化性能を改善する可塑化系により提供される。更に重要なものは、ポリマーの引張強度および/または破断点伸びを増大させる新しいクラスの可塑剤である。
【0014】
また、可溶化温度、加工温度および押込み硬さの低下を示す一方、低温可撓性を改善する可塑化ポリマー組成物が望まれる。特に望ましいのは、ゲル化温度を更に低減するか、または硬いPVCの靭性を向上させる可塑剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,777,014号明細書
【特許文献2】米国特許第6,118,012号明細書
【特許文献3】米国特許第6,706,815号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2004/0001948号明細書
【特許文献5】米国特許出願第2004/0198909号明細書
【特許文献6】米国特許第5,294,644号明細書
【特許文献7】米国特許第7,411,012号明細書
【特許文献8】米国特許第7,211,140号明細書
【特許文献9】国際特許出願第PCT/US09/39600号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Encyclopedia of PVC Vol. 1 and 2, L. I. Nass (1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、PVCの長期可塑化を行うことにより、PVC組成物に可撓性、柔軟性、伸展性および/または低溶融温度を付与することである。
【0018】
本発明の別の目的は、かかる可塑化PVC組成物を、フィルム、サイディング、シート、パイプおよびチューブならびにカレンダーシート、プラスチゾル、フォームおよび分散体のような用途向けに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
少なくとも一つのN‐アルキル‐2‐ピロリドンと、少なくとも一つの脂肪酸エステルとをPVC系組成物に配合することにより、予想外に高い硬度、引張強度若しくは伸縮性および/またはより低い低温亀裂温度を得ることができることを発見した。本発明はまた、費用対効果があり、環境的に安全で、金属成分および揮発性有機炭素(VOC)を含まない熱安定な可塑化PVC組成物を提供する。
【0020】
本発明の組成物は、脂肪酸エステルを好ましくは約1〜約100phr(phr=樹脂100質量部当たりの質量部)、より好ましくは約2phr〜約90phrの量で含む。
【0021】
本発明は、より高い硬度、より高い引張強度、より高い破断点伸び若しくはより低い低温亀裂温度またはこれらの特性の任意の組合せを有する安定なN‐アルキル‐2‐ピロリドン可塑化PVC組成物を提供する。
【0022】
本発明はまた、かかる安定な可塑化組成物をフィルム、サイディング、シート、パイプおよびチューブならびにカレンダーシート、プラスチゾル、フォームならびにフィルム、サイディング、パイプ若しくはチューブにおける分散体等の用途に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】例1に従って製造した組成物に関するショアA硬度を可塑剤比率の関数として示す棒グラフである。
【図2】例2に従って製造した組成物に関する引張強度を可塑剤比率の関数として示す棒グラフである。
【図3】例3に従って製造した組成物に関する破断点伸びを可塑剤比率の関数として示す棒グラフである。
【図4A】例5に従って製造した組成物に関する複素粘度を温度の関数として示すグラフである。
【図4B】例5に従って製造した組成物に関する複素粘度を温度の関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
脂肪酸エステルをN‐アルキル‐2‐ピロリドン可塑剤とポリマー組成物、特にPVCを含むポリマー組成物に併用した際に相乗効果が得られることを発見した。
【0025】
本発明は、下記特性、すなわち
・ゲル化時間、
・低温可撓性温度、
・加工温度、
・可塑剤の使用、
・高温における揮発性および/または
・乾式混合および配合時間ならびにエネルギー消費量
の低減および/または
・硬度、
・低温におけるゲル化、
・低温における可撓性、
・清澄度/透明度および/または
・充填剤負荷容量
の増加を含む有用な特性を示す改良された可塑化ポリマー組成物を提供する。
【0026】
本発明の手法によれば、ポリマー組成物をフタレートの使用なしに可塑化することができる。
【0027】
特に、本発明の組成物は優れた引張強度および伸縮性と、低い低温亀裂温度とを示す。本発明の好ましい組成物はこれら3つの特性のうちのいずれか2つを示す一方、本発明の最も好ましい組成物はこれら3つの特性をすべて備える。
【0028】
本発明の実施に有用なN‐アルキル‐2‐ピロリドンは、下記構造式(1)によって表すことができる。
【0029】
【化1】

【0030】
上式において、Rはあらゆる直鎖アルキル基、分岐アルキル基またはシクロアルキル基である。可塑剤として好ましいN‐アルキル‐2‐ピロリドンは、C4〜C30のN‐アルキル‐2‐ピロリドンを含む。いくつかのN‐アルキル‐2‐ピロリドンが市販されており、N‐メチル‐2‐ピロリドン(M-Pyrol(登録商標))、N‐エチル‐2‐ピロリドン(NEP(登録商標))、N‐シクロヘキシル‐2‐ピロリドン(CHP(登録商標))、N‐オクチル‐2‐ピロリドン(Surfadone(登録商標)LP-100、Flexidone(登録商標)100)、N‐ドデシル‐2‐ピロリドン(Surfadone(登録商標)LP-300、Flexidone(登録商標)300)、C12〜C14の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン(Flexidone(登録商標)400)およびC16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン(Flexidone(登録商標)500)が挙げられ、これらすべてがInternational Specialty Products社(ニュージャージー州ウェイン)の登録商標である。
【0031】
ラクタム環上のカルボニルが電子の非局在化を生起して下記のように双極子モーメントをもたらす。
【0032】
【化2】

【0033】
その結果、N‐アルキル‐2‐ピロリドン分子は、無極性鎖と親水性頭部基との両方を保有する。理論に拘束されることなく、この組合せは、N‐アルキル‐2‐ピロリドンが本発明のPVCのようなポリマー構成要素と脂肪酸エステル成分との両方と相乗的に相互作用するのを可能にすると考えられる。
【0034】
これらN‐アルキル‐2‐ピロリドンは、PVCに対し1phr〜400phr、より好ましくは10phr〜100phrの量で存在してもよい。この量は、所望の用途に要求されるようにポリマーを効果的に可塑化するに十分な量である。
【0035】
本発明は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、リノレン酸等のようなC8〜C22の飽和または不飽和脂肪酸のいろいろなC1〜C10の直鎖または分岐鎖で、環式または非環式の飽和または不飽和アルキルエステルで実施し得ることが予期される。アルキルには非置換および置換アルキルが含まれ、またアルキル鎖中に一つ以上の不飽和位置および/またはアルキル鎖中に一つ以上のエーテル結合を含有するアルキルが含まれる。
【0036】
ここで有用な好ましい脂肪酸エステルは、BYK Additives & Instruments社(独国、アルタナ)から販売されているAdurin(登録商標)PVEである。この材料は主としてオクタデセン酸のメチルエステルを、より少量のオクタデカジエン酸およびオクタデカトリエン酸のメチルエステル異性体と一緒に含むと考えられる。
【0037】
脂肪酸エステルは、好ましくは約1phr〜約100phr、より好ましくは約2phr〜90phrの量で使用することができる。安定なN‐アルキル‐2‐ピロリドン可塑化ポリマーは、約180℃よりも高い温度で長期の熱安定性を有するのが好ましい。脂肪酸エステルをN‐アルキル‐2‐ピロリドンと組合せて可塑化PVCに使用することにより優れた早期色彩および清澄度を達成することができる。
【0038】
好ましい一実施形態において、N‐アルキル‐2‐ピロリドン対脂肪酸エステルの質量比は、100:1〜20:80である。N‐アルキル‐2‐ピロリドン対脂肪酸エステルの質量比が40phrおよび60phrの併用量で50:50の場合、すなわちN‐アルキル‐2‐ピロリドン20phrと脂肪酸エステル20phr、およびN‐アルキル‐2‐ピロリドン30phrと脂肪酸エステル30phrを用いた際に、優れた結果が観察された。
【0039】
本発明の組成物は、第2の可塑剤、安定化剤、潤滑剤、難燃剤、顔料およびその他の配合成分、特にPVC組成物での使用に既知な成分を更に含んでもよい。この可塑剤の量は、好都合な可塑化PVCをフィルム、サイディング、パイプまたはチューブのような用途においてカレンダーシート、プラスチゾル、フォームおよび分散体のような多種多様の形態で形成して、可撓性、柔軟性、伸展性および低溶融温度をPVCに付与するのに適している。
【0040】
本明細書で使用する「安定な」という用語は、従来使用されている他の安定化剤と比較して遥かに優れた早期色彩を有するN‐アルキル‐2‐ピロリドンで可塑化し、有機亜リン酸塩で安定化したPVCを指す。可塑化後のPVCの色の良い方または色変化なしは、その熱安定性を反映する。換言すると、安定性は約140℃より高く約200℃までの温度での長期熱安定性を指す。
【0041】
本発明の好ましい組成物は、400%超の破断点伸びを示す。幾つかの組成物は、450%を超える破断点伸びを有する。約500%の破断点伸びを有する組成物を本発明に従って調製した。
【0042】
本発明の組成物は、約62ポイント以上のショアA硬度を有する。
【0043】
加えて、本発明の組成物は、約8MPa以上の高い引張強度を有する。引張強度は、特定のN‐アルキル‐2‐ピロリドンと、N‐アルキル‐2‐ピロリドン対脂肪酸エステルの質量比とを適切に選択することによりある程度高めることができる。
【0044】
本発明の可塑化PVC組成物での低温折り曲げ試験は、60phrの総可塑剤量(50:50のN‐アルキル‐2‐ピロリドン対脂肪酸エステルの比)での全サンプルに関して、−60℃以下で破断または亀裂を生じなかった。40phrの総可塑剤量(50:50のN‐アルキル‐2‐ピロリドン:脂肪酸エステルの比)では、大部分の組成物が−60℃で破断または亀裂を生じなかった。
【0045】
本発明の組成物は、カレンダー仕上げ、押出成型、プラスチゾル、フォームおよび分散体のような最新技術のうちの一つを使用することにより製造した、ワイヤおよびケーブル用の絶縁体およびジャケット;プール、池、埋立地、潅漑溝用のライナー;ウォーターベット用の敷布;生地コーティング;カーペット裏張り;ダッシュボード、ドアパネル、アームレストその他の自動車部品;車の足回りコーティング;タイル;壁カバー;フローリングシート;包装フィルム;コンベヤベルト;防水シート;屋根ふき膜;電気プラグおよび結線;インフレータブルシェルター;玩具;ガーデンホース;パイプおよびチューブ;農業用フィルム;冷蔵庫および冷凍庫用ガスケット;靴底およびアッパー、ブーツ;フィッシィングルアーのような用途に効果的に使用することができる。
【0046】
以下の例で本発明を更に説明する。
【実施例】
【0047】
[例1]
ドイツ工業規格(DIN)法53,505を使用して、二種のPVCベース処方系の硬度を測定した。四種の組成物をN‐ドデシル‐2‐ピロリドン(Flexidone(登録商標)300)と、より少量のオクタデカジエン酸およびオクタデカトリエン酸のメチルエステル異性体を有する増量のオクタデセン酸のメチルエステル(Adurin(登録商標)PVE、以下実施例において「例1の脂肪酸エステル」と称する)とで可塑化する一方、四種の組成物をC16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン(Flexidone(登録商標)500)と、同量の脂肪酸エステルとで可塑化した。総可塑剤含有量は60phrであった。
【0048】
各処方系において、脂肪酸エステルの追加はショアA硬度の値を増大した(図1)。本発明の組成物は、62ポイント以上のショアA硬度を有する。N‐ドデシル‐2‐ピロリドン:脂肪酸エステルの比を1:0から1:3に増加させると、ショアA硬度が8ポイント増加することが確認された。C16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン処方系で同じように比を増加させると、ショアA硬度は9ポイント増加した。
【0049】
[例2]
DIN法53,504を使用して、例1と同じ組成物(ただし未検査)を対象に引張強度を測定した。
【0050】
脂肪酸エステルの追加は、どちらの処方系でも引張強度の大幅な増加をもたらした(図2)。本発明の組成物は、8MPa以上の引張強度を有する。N‐ドデシル‐2‐ピロリドン:脂肪酸エステルの比を1:0から1:3に増加させると、引張強度が8MPa増加することが測定された。C16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドンのサンプルで同じように比を増加させると、引張強度は5MPa増加した。
【0051】
更に驚くべきことに、(C16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン+例1の脂肪酸)では、1:1の比で引張強度が増加した。
【0052】
[例3]
例2に記載した引張強度の測定と並行して破断点伸びを測定した。
【0053】
本発明の組成物は、200%以上の破断点伸びを有する。
【0054】
N‐アルキル‐2‐ピロリドンと例1の脂肪酸エステルとの組成物は、破断点伸びにおいて予想外のゴム様挙動をもたらした(図3)。N‐ドデシル‐2‐ピロリドン処方系では、破断点伸びが150%(1:0)からほぼ500%(1:1)まで増加した。C16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン処方系でも同様の傾向が観察され、破断点伸びが210%からほぼ500%まで増加した。
【0055】
[例4]
二種の処方PVC組成物につき低温折り曲げ試験を実施した。第一のものは、例1の脂肪酸エステルの有無でのPVCおよびN‐ドデシル‐2‐ピロリドンを含有するものとし、第二のものは、同じ脂肪酸エステルの有無でのPVCおよびC16〜C18の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドンを含有するものとした。それぞれN‐アルキルピロリドンの脂肪酸エステルに対する質量比が等しい二種の総可塑剤量、すなわち40phrおよび60phrにつき評価を行った。
【0056】
その可塑化PVC組成物は、総可塑剤量60phrの全サンプルにつき−60℃以下の条件で破断または亀裂が生じなかった。総可塑剤量40phrにおいて、大部分の組成物は−60℃の条件で破断または亀裂が生じなかった。
【0057】
[例5]
下記の三種のプラスチゾル処方系につき、複素粘度を温度の関数として測定した。
・60phrのDINPを含むPVC、
・50phrの(N‐ドデシル‐2‐ピロリドン+例1の脂肪酸エステル)を(1:3、1:1および3:1の比で)含むPVC、および
・50phrの(C16〜C18のN‐アルキル‐2‐ピロリドン+同じ脂肪酸エステル)を(1:3、1:1および3:1の比で)含むPVC
【0058】
ゲル化の指標である複素粘度の増加は、N‐アルキル‐2‐ピロリドン+脂肪酸エステルに基づく処方系ではより低い温度にシフトした(図4Aおよび図4B)。N‐アルキル‐2‐ピロリドンおよび脂肪酸エステルのタイプならびにこれらの質量比および追加量を適切に選択することにより、所望のゲル化開始温度を達成することができる。
【0059】
プラスチゾル用途に推奨される混合例を以下に示す。
・N‐ドデシル‐2‐ピロリドン+例1の脂肪酸エステル=50:50〜30:70
・C16〜C18のN‐アルキル‐2‐ピロリドン+同じ脂肪酸エステル=70:30〜40:60
【0060】
本発明を特に好ましい実施形態を参照しながら詳述したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱しない限り様々な変更および修正を行い得ることが理解されるであろう。例えば、N‐アルキル‐2‐ピロリドンの官能誘導体(例えばN‐ヒドロキシエチル‐2‐ピロリドン)および他のN‐アルキル‐2‐ラクタム(例えばN‐エチル‐2‐カプロラクタム)は、本明細書に記載したN‐アルキル‐2‐ピロリドンの等価物と考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)N‐アルキル‐2‐ピロリドンと、(b)脂肪酸エステルとを含む可塑化ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマーがポリ塩化ビニルを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記N‐アルキル‐2‐ピロリドンが、C4〜C30の直鎖N‐アルキル‐2‐ピロリドン、C4〜C30のN分岐アルキル‐2‐ピロリドンまたはC4〜C30のN‐シクロアルキル‐2‐ピロリドンである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記N‐アルキル‐2‐ピロリドンが約1phr〜約400phrの量で存在する請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸エステルが脂肪酸のアルキルエステルである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸エステルが、C8〜C22の脂肪酸のC1〜C10の直鎖アルキルエステル、C1〜C10の分岐アルキルエステル、C1〜C10の環状アルキルエステル、C1〜C10の非環状アルキルエステル、C1〜C10の飽和アルキルエステルまたはC1〜C10の不飽和アルキルエステルである請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸エステルが、オクタデカン酸のメチルエステル、オクタデカジエン酸のメチルエステルまたはオクタデカトリエン酸のメチルエステルを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸エステルが、オクタデカン酸のメチルエステル、オクタデカジエン酸のメチルエステルおよびオクタデカトリエン酸のメチルエステルを含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記N‐アルキル‐2‐ピロリドンの脂肪酸エステルに対する質量比が約100:1〜約20:80である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記N‐アルキル‐2‐ピロリドンが約20phr〜約30phrの量で存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記脂肪酸エステルが約1phr〜約100phrの量で存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
約62ポイント以上のショアA硬度を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
約8MPa以上の引張強度を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
約200%以上の破断点伸びを有する請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
−60℃未満の低温亀裂温度を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
第二の可塑剤、安定化剤、潤滑剤、難燃剤、顔料または他の配合成分の一つ以上を更に含む請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
カレンダーシート、プラスチゾル、フォーム、分散体、コーティング、フィルム、箔、チューブ、膜、床張り材、ガスケット、塗料、接着剤、織物、織物助剤または生地の形態の請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2013−507485(P2013−507485A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533230(P2012−533230)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/051273
【国際公開番号】WO2011/044018
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(596121138)アイエスピー インヴェストメンツ インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】ISP INVESTMENTS INC.
【Fターム(参考)】