説明

可塑性生地及びその製造法

【課題】
蛋白質を高度に含有する可塑性生地を製造する場合において、大豆蛋白質高含有の生地に、長時間の連続成型が可能な可塑性、耐熱性を付与することを課題とし、また該生地から得られる菓子に良好な風味・食感を付与し、栄養価の高い菓子を提供することを課題とする。
【解決手段】
油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%であり、かつ水分含量が生地中2〜15重量%であることを特徴とする可塑性生地である。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な生地の成型性を維持した可塑性生地及びその製造法に関する。そして、かかる生地から得られる加熱菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質素材は、スポーツマンにおける筋肉の増強や肥満者のシェイプアップ、手術後の栄養補給、食生活での栄養バランス改善などに利用されてきた。特に、大豆蛋白質は血清コレステロール値の正常化や血清脂質濃度の低減機能等の生理機能を有し、厚生労働省が認可する特定保健用食品の素材として用いられたり、アメリカ食品医薬品局(FDA)において心臓病のリスク低減に効果ある旨のヘルスクレームが認められるなど、健康に係る素材として広く認知され、食生活での大豆蛋白質成分の摂取のニーズは増加している。
【0003】
このような大豆蛋白を高度に配合した高蛋白質含有食品としては、液体飲料、水や牛乳等に溶かして液状に調製して飲食するいわゆるプロテインパウダーなどの粉末状食品、クッキー、シリアル、フードバー(food bar)等の可塑性生地を成形して得られる低水分活性菓子が上市されている。
この中でも特に、加熱菓子などの低水分活性菓子は常温で保管でき、水や牛乳などに溶かす必要が無いため、保存性や摂取簡便性および携帯性の点で優れている。
【0004】
一方、菓子製造の段階において調製した生地は可塑性が長時間安定していることが重要であり、生地の連続成型は60分以上安定であることが作業上好ましい。これは生地の可塑性が経時的に大きく変化すると製造が不安定となり生産に支障をきたすからである。
しかしながら、大豆蛋白は他の蛋白質素材の中でも特に高い吸水性を有するため、生地の混練時に大豆蛋白質と水が直接接触すると、大豆蛋白質が吸水し、その結果ボソボソとしたまとまりの悪い、硬い生地となってしまうことが知られている。そのため大豆蛋白を高配合すると菓子の工業的製造において重要なポイントとなる生地の連続的成型が困難となっていた。
【0005】
一般に、小麦粉を主体とするグルテン系の生地を高蛋白化する場合、添加する水の量が多いほど生地の成型は容易となる反面、焼成時の火抜けが悪くなったり、焼成時間が長くなる問題がある。一方、添加する水の量が少ないと、先にも述べたが、生地がボロボロになり易いだけでなく、焼成後の食感もざらつきを感じやすく官能的に優れた菓子を得ることが困難であった。
このような問題点を解決する従来の手段として、グルテン系の生地ではマーガリンやショートニング等の油脂類と蛋白とを予め混合し、次いで小麦粉と水を混合して生地を調製する方法(特許文献1,2)や、小麦粉と大豆蛋白を含むグルテン系生地の調製時にタピオカ澱粉およびトレハロースを添加する方法(特許文献3)などが開示されている。
これらの方法により生地の製造初期における可塑性は相当改善されるに到った。しかしながら上記の方法を使用した場合でも大豆蛋白質の強い吸水性の影響をなくすことはできず、生地が経時的に硬さが増し、作業性の低下が起こるため、長時間の連続成型が行われる菓子製造において安定的な製造が困難であった。
またこれらの方法に記載される生地は主に小麦粉のグルテン骨格で構成されるものであるため、生地中の蛋白質含有量をさらに高めるには限界があった。
さらに、大豆蛋白質は血中コレステロールを有意に低下させることが知られているが、小麦粉主体の生地に大豆蛋白を添加した加熱菓子の場合は小麦粉と大豆蛋白とが強く加熱されることにより大豆蛋白質が変性してしまうためか、添加した大豆蛋白質の含量が正確に定量できなくなる問題があった。
【0006】
なお、本出願人は、特許文献4において、チョコレートに澱粉性原料及び/又は熱凝固性蛋白質と水を配合して得られる焼き菓子様のサクサクした軽い食感のチョコレート菓子を開示した。さらに特許文献5において、澱粉性原料及び熱凝固性蛋白を含み、かつ11〜30重量%の水分を含有するチョコレート生地を焼成して得られる焼き菓子的な組織と半生菓子的食感を有するチョコレート菓子を開示した。そして上記の開示後に出願された特許文献6に記載のチョコレート菓子も同一の発明である。
特許文献4の食品中の蛋白質含量は、0.1〜10%(好ましくは0.5〜3.5%)とかなり低い領域にあり、特許文献6の食品中の蛋白質含量も0.1〜60%(好ましくは3〜20%)と幅広いものの、具体的な実施例において蛋白質として使用しているのは卵白、粉乳、小麦蛋白などであり、蛋白質含量も多くて8%程度にすぎない。
【0007】
一方、特許文献7には、予め蛋白質、油脂及び糖質を微粉砕してクリーム状予備生成物を形成し、これに糖質と油脂を含む混合物をさらに混合して焼成することにより得られる高蛋白焼成食品が開示されている。
この発明に開示される焼き菓子生地はチョコレート、油脂、小麦粉等の粉体、糖質を主体とする、水をほとんど含まないタイプの焼き菓子生地と考えられる。また蛋白質の好ましい態様はホエー蛋白質であり、その食品中の含有量は15%以上であると記載されるが、その上限は29%に留まっている。
【0008】
(参考文献)
【特許文献1】特公平1−13328号公報
【特許文献2】特許第3405009号公報
【特許文献3】特許第3424502号公報
【特許文献4】国際公開WO00/19834号公報
【特許文献5】特開2000−270775号公報
【特許文献6】特開2002−119215号公報
【特許文献7】国際公開WO2005/51084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の従来技術は、大豆蛋白が高度に配合された生地、特に大豆蛋白が原料中最も多量に配合される生地であっても、生地の可塑性の経時変化が少なく、安定した連続成型が可能な可塑性生地やその製法を開示するものではなかった。
かかる事情に鑑み、本発明は、蛋白質を高度に含有する可塑性生地を製造する場合において、大豆蛋白質高含有の生地に、長時間の連続成型が可能な可塑性、耐熱性を付与することを課題とし、また該生地から得られる菓子に良好な風味・食感を付与し、栄養価の高い菓子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意研究した結果、予め大豆蛋白を高度に配合したチョコレートを調製してから、水を特定量添加し混合すると、長時間の可塑性を有する生地が得られる知見を得た。そしてこれを成型後に加熱することで、フードバーなどの大豆蛋白を高度に含有する加熱菓子を得られる知見を見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち本発明は、
1.油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%であり、かつ水分含量が生地中2〜15重量%であることを特徴とする可塑性生地、
2.該混練物が微粒化処理されている前記1.記載の生地、
3.水性液中の糖質含量が50重量%以下である前記1.記載の生地、
4.混練物がチョコレートである前記1.記載の生地、
5.前記1.記載の生地から得られる加熱菓子、
6.ニュートリション・バーである前記5.記載の菓子、
7.前記5.記載の加熱菓子製造のための油脂及び大豆蛋白を含む混練物の使用、
8.大豆蛋白を生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%配合されるように油脂と混練し、次いで該混練物に対して水性液を生地中の水分が2〜15重量%となるよう混合し、可塑性生地を調製することを特徴とする可塑性生地の製造法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
従来の技術においては、小麦粉を主配合とすることなしに蛋白質を高度に含有する生地を調製することは困難であったが、本発明によれば小麦粉を主配合としなくとも経時的変化の少ない優れた可塑性を発揮する生地を得ることが可能である。
そのため、生地の調製直後から成型機による成型までの製造工程において、生地の硬度が経時的に上昇することが抑制され、食品工場における工業的連続成型に長時間耐えうる優れた成型性を発揮することが可能である。
また焼成等による加熱の際には優れた保形性を発揮し、風味・食感の優れた高蛋白の加熱菓子を提供することができる。しかも従来のクッキーなどの菓子生地のように小麦粉主体の生地とすることを要しないため、さらに蛋白質をより高度に含有させることができ、栄養価の高い菓子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の可塑性生地は、油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%であり、かつ水分含量が生地中2〜15重量%であることを特徴とする。
また、本発明の可塑性生地の製造法は、大豆蛋白を生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%配合されるように油脂と混練し、次いで該混練物に対して水性液を生地中の水分が2〜15重量%となるよう混合し、可塑性生地を調製することを特徴とする。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
(油脂類)
本発明の油脂及び大豆蛋白を含む混練物を構成する油脂類は、融点が50℃以下、好ましくは10〜45℃、さらに好ましくは20〜38℃のものが好ましく、任意の食用油脂を用い得る。かかる範囲であれば菓子の口どけをより良好にすることができる。
このような油脂の例としては、植物性油脂(例えば、ココアバター、菜種油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油及びパーム核油等)、動物性油脂(乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等)、これらの油脂の硬化油脂・分別油脂・エステル交換油脂等の加工油脂などから選択される一種又は二種以上が挙げられる。また、バター、マーガリン、ショートニング、ハードバター等を用いても良い。またジグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイン酸リッチ油脂などの特殊な油脂を上記油脂に加配してもよい。
可塑性生地中の油脂類の配合量は特に限定されないが、乾燥固形分あたり好ましくは10〜60重量%であり、より好ましくは20〜50重量%である。
【0015】
(大豆蛋白)
本発明の油脂及び大豆蛋白を含む混練物を構成する大豆蛋白としては、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、豆乳粉末、脱脂豆乳粉末、大豆粉、脱脂大豆粉等の他、大豆蛋白質の特定の画分を濃縮した分画大豆蛋白、大豆ホエー蛋白等が挙げられる。蛋白質摂取の観点から鑑みると、大豆蛋白中の粗蛋白質含量は、乾燥固形分あたり45重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上が適当である。
大豆蛋白にはプロテアーゼを作用させた大豆蛋白加水分解物を用いることもできる。加水分解の程度は、TCA可溶率(0.22Mのトリクロロ酢酸溶液に可溶な蛋白質量の全蛋白質量に対する割合)が40%未満、好ましくは30%未満、さらに好ましくは20%未満となるように調整することが好ましい。TCA可溶率が高すぎると苦味が生じやすくなる。
また、上記の大豆蛋白を噴霧乾燥して製造する前に、アルカリ土類金属の塩もしくは水酸化物を作用させて得た大豆蛋白を用いることもできる。
大豆蛋白の生地中における配合量は乾燥固形分あたり15重量%以上とし、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは25重量%以上、最も好ましくは30重量%以上に設定することが適当である。このように大豆蛋白の配合量を従来より多くすることにより、成型性を有しつつ加熱による保型性を併せ持つことができる。ただし極端に配合量が高すぎると油脂との混練物を調製しづらくなるため、65重量%以下とする。
【0016】
(油脂及び大豆蛋白を含む混練物)
本発明の生地を構成する油脂及び大豆蛋白を含む混練物は、上記の油脂類、大豆蛋白及び必要に応じて他の原料を混練した油脂性混練物である。
混練物中には上記の油脂と大豆蛋白の他、種々の原料を任意に配合することができる。すなわち、カカオ分(カカオマスやココアパウダー等のチョコレート風味原料)、乳固形分(全脂粉乳や脱脂粉乳あるいはチーズ粉末等の乳製品粉末)、糖類(砂糖、乳糖、ラクトース、糖アルコール等)、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド等)、甘味料(スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK等)、安定剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、ファーセラン、CMC、微結晶セルロース、ペクチン、寒天、カラギーナン、ゼラチン、大豆多糖類))、風味剤(果汁、洋酒、香料等)その他の原料を任意に配合することができる。
油脂性混練物は実質的に水を含まないものであることが好ましく、特に好ましい態様としては、チョコレートが挙げられる。本発明にいうチョコレートは、一般のチョコレート規格に限定されるものでなく、油脂及び大豆蛋白の他、カカオ分を少なくとも含む油脂性混練物をいう。
【0017】
(混練物の混練方法)
混練物にするための混練は通常使用されるコートミキサー等の混練機によって行うことができる。混練は油脂と大豆蛋白が均一に分散されるまで行うことが好ましく、油脂が常温で固体の場合には予め加温溶解させておくことが好ましい。
また、さらに上記混練物をチョコレート精練粉砕機(ロールリファイナー)等の粉砕機で微粒化処理することにより蛋白質が油脂に覆われる表面積が多くなるためか、より連続成型性に優れた可塑性生地を得られるので好ましい。微粒化処理は混練物の平均粒子径が40ミクロン以下、好ましくは30ミクロン以下とするのが適当である。
混練物がチョコレートである場合には、微粒化処理後に通常の方法によりコンチング工程を経ることが好ましい。
【0018】
以上により得られた油脂及び大豆蛋白を含む混練物を、当業者は自身で該混練物を調製してもよいし、また該混練物を購入すること可能であるが、該混練物を用いて本発明の生地を製造することは、いずれの場合も当該製造のための使用に該当する。
【0019】
(水性液)
本発明の生地を構成する水性液は水を含む液体であれば特に限定されないが、水、牛乳、濃縮乳、生クリームや、乳脂の一部又は全部を他の動植物性油脂に置換した合成乳、合成濃縮乳(例えば、「プロベスト」(不二製油(株)製)など)、合成クリーム類等を使用することができる。ただし、水性液中の糖質含量は、50重量%を超えると調製される生地の可塑性が失われる傾向になるため、50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは糖質を含まないことが適当である。
水性液は油脂及び大豆蛋白を含む混練物に混合され、これによって焼き菓子生地状の成型可能な可塑性生地となる。
混練物に混合される量は、配合する大豆蛋白の種類及び大豆蛋白含量などによって変動するため一概には特定できないが、当業者は混練物に対して生地が適正な可塑性状態となるよう生地の状態に注意しつつ水性液を加えていけばよく、適宜設定することができる。例えば、吸水性の高い大豆蛋白を用いた場合や大豆蛋白の配合量が多い場合は、添加する水の量をより多くすると可塑性を有する適正な生地物性が得られ易くなる。一般的な目安としては、概ね生地中水分換算で2〜15重量%、より好ましくは4〜10重量%となるように混練物に混合するのが適当である。
添加する水の量が多すぎると生地がボロボロと崩れた状態となり、可塑性生地が得難く、成型が困難となってしまう。また反対に少なすぎても、生地が弱すぎて纏りに欠け、成型が困難となる。すなわち、混練物に対して混合すべき最適な水分範囲が存在する。
【0020】
(他の生地原料)
本発明の生地には油脂及び大豆蛋白を含む混練物、水性液の他、必要に応じて任意の食品素材を用いることができる。例えば、小麦粉,米粉,トウモロコシ粉等の穀粉類、糖類、油脂類、レシチン,脂肪酸エステル等の乳化剤、牛乳,クリーム等の乳類、全卵,卵白,卵黄等の卵類、重曹,炭酸アンモニウム等の膨張剤、食塩,アミノ酸,シナモン等の調味料等が挙げられる。また、必要に応じてミネラル、ビタミン、イソフラボン、サポニン、機能性油脂等の栄養成分を任意に添加してもよい。
【0021】
(可塑性生地の調製方法)
本発明の可塑性生地の調製方法は特に限定されないが、油脂及び大豆蛋白を含む混練物に水を加えて適当なシェアがかかればよく、使用する機器としてはミキサー、ニーダー等の混合機を例示することが出来る。
【0022】
以上により得られる生地は高蛋白であるにも係わらず成型性に優れた可塑性を具備する。しかもこの物性は経時的な変化が非常に小さく、驚くべきことに24時間以上の保存後においても十分に成型が可能な物性である。したがって食品製造工場において長時間の連続成型が可能である。
【0023】
(加熱菓子)
本発明の加熱菓子は、上記可塑性生地を成型した後、可塑性を失う程度に加熱し、保形性を付与する工程を経て製造される低水分活性の菓子をいう。具体的には焼成、高周波加熱により加熱されて得た菓子をいう。具体例としては、ビスケット、クッキー等が挙げられる。これらは通常小麦粉等の澱粉性原料を含有するものが多いが、これらの菓子の名称や小麦粉の使用の有無に関係なく、これらに類するものも含まれる。また上記の加熱菓子には、近年米国で広く普及しているいわゆるニュートリション・バー(nutrition bar)と呼ばれる棒状の加熱菓子であって蛋白質素材その他の健康素材を配合したものも含まれる。
加熱菓子の製品形態としては任意に種々の形態を採用でき、例えば生地を成型後そのまま加熱したもの、成型した生地に液体物を塗布して加熱したもの、成型した生地をメレンゲで包んで加熱したもの、成型した生地の表面に澱粉、砂糖、穀粉、ナッツなどの粉粒物をまぶして加熱したものなどが挙げられる。
【0024】
(生地の成型)
生地の成型方法は特に限定されるものではなく、例えば、食品製造工場において通常使用されるデポジット成型、ロータリーモールド成型、シート成型、押し出し成型、絞り出し成型等、生地の物性や加熱菓子の品質に合わせ適宜設定すればよい。
【0025】
(生地の加熱)
本発明の可塑性生地の加熱手段は、焼成、高周波加熱等を使用することができる。生地を加熱する場合の装置としては、例えば、オーブン、高周波加熱装置等、従来用いられているものを適宜選択すればよい。また、加熱条件は、加熱装置の機種や菓子の配合、水分、品質等に合わせて適宜設定すればよい。
本発明の可塑性生地は、耐熱性にも優れているため、高温での加熱が可能であり100℃程度の乾燥焼きの条件から250℃までの温度で、焼成時間が5分〜45分という幅広い条件での加熱が可能である。そのため様々な食感を有する菓子が製造可能であり、大豆蛋白の代わりに化工澱粉などの澱粉性原料を使用する場合に比べてさらに汎用性が高い。
【0026】
上記のようにして得られた加熱菓子には、必要に応じ、粉糖等の粉末状食品や、ジャム、ソース、生クリーム、チョコレート等のペースト状食品を塗布したり、サンドしたり、飾り付けする等の様々な加工を施しても良い。
【0027】
本発明の可塑性生地から得られる加熱菓子は、(1)大豆蛋白質を高度に含有し、栄養価が非常に優れる点、(2)長時間の連続成型が可能な可塑性生地により効率的な製造が可能である点、(3)食感にざらつきや粘りがない点、(4)焼成時に加熱耐性がある点、を同時に満足する点に意義を有する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。実施例中の「%」や「部」は、特に断りのない限り、「重量%」、「重量部」を示す。なお、以下の実施例、比較例における生地の成型性、生地の加熱保型性、焼き菓子の食感についての評価を次のように行った。
【0029】
(生地の成型性評価)
生地10gを用いて直径約8mmの円柱状に成型し、折り曲げた時の生地の伸展性を評価した。評価するタイミングは、作製直後と作製60分後とし、60分経過しても良好な折り曲げ状態であるものを成型性が良好であると評価した。
即ち、円柱状に加工した生地を折り曲げた場合に、
・ひびが入らない状態 ◎(安定して生産可能なレベル)
・僅かなひびが入る程度 ○(不安定ながらも生産可能なレベル)
・大きなひびが入る状態 △(手作業であれば可能なレベル)
・折れてしまう状態 ×(成型不可能)
として評価した。
【0030】
(生地の加熱保型性評価)
円形(高さ1cm)に成型した加熱前の生地の直径をAとし、加熱後の菓子の直径をBとした場合に「B/A」で表現した。B/A値が1に近いほど加熱保型性が良く、1よりも大きくなる程悪くなることを示す。また、その数字を元に加熱保型性を3段階で評価した(○、△、×)。
【0031】
(菓子の食感評価)
パネラー8人に依頼し、菓子の食感について5段階評価をしてもらった。得られた評価は平均値で示した。小数点2位以下は四捨五入した。
【0032】
[実施例1] −大豆蛋白高配合チョコレートの調製−
表1の配合に従い、コートミキサーを用い、予め加温溶解させた融点35℃の植物性油脂26部と粉末状大豆蛋白その他の粉体原料(ココア、砂糖、全脂粉乳、カカオマス、バニリン)を混合し、次工程であるリファイニングに適した生地になるまで保温しながら混練した。次に、ローラーを使用してリファイニングを行った。次にジャケット温度を60℃に保ったコンチェを用い約1時間コンチングを実施した。更に、レシチン及び残りの植物性油脂8.5部を添加し、30分間攪拌した生地を型に流し込み固化させた。
【0033】
(表1)大豆蛋白配合チョコレート

【0034】
[実施例2] −可塑性生地及び焼成菓子の製造−
実施例1で得られた大豆蛋白高配合チョコレート100部に対して水8部を加えてコートミキサーを用いて可塑性生地を調製した。
即ち、前日から22℃に温調した大豆蛋白高配合チョコレートを弱攪拌でほぐした後、水を少しずつ添加して練り上げた。低速で約5分程度、掻き落とし工程を入れながら攪拌した。練り上げた生地は可塑性を有するものであった。
次に、生地を約10分程度常温で放置し、ワイヤーカット方式にて高さ約1cmのピースに成型した後、オーブンで160℃×15分間焼成した。
60分間放置後の生地は調製直後と比較して特に大きな変化はなく、まとまりのある生地であり、連続的な機械生産に十分耐えうるものであった。
得られた焼成菓子は、高蛋白であるのに適度なさくさく感がある好ましい食感であり、口溶けに優れ、歯への付着が起こりにくいものであった。
【0035】
[比較例1、実施例3] −大豆蛋白の配合順序の比較−
大豆蛋白を配合しないチョコレートを先に製造し、チョコレートに水を混合する工程で大豆蛋白を添加混合して得た菓子生地(比較例1)と、予めチョコレートに大豆蛋白が配合されたチョコレートを製造し、水を混合して得た菓子生地(実施例3)について、生地の物性を比較した。
【0036】
(比較例1)
表2に従い製造した大豆蛋白未配合のチョコレート100部に対して、粉末状大豆蛋白「プロリーナ800」(不二製油(株)製)を40部添加混合し、水8部を加えてコートミキサーを用いて生地を調製した。即ち、前日から22℃に温調した大豆蛋白未配合チョコレートを弱攪拌でほぐした後、粉末状大豆蛋白を添加し、良く混合した後、添加水を少しずつ添加して練り上げた。低速で約5分程度、掻き落とし工程を入れながら攪拌した。
【0037】
(表2)大豆蛋白を配合しないチョコレート

【0038】
しかし、練り上げた生地はボロボロの状態でとても機械的に成型できる品質ではなかった(図2参照)。そこで、生地を調製するための添加水量を減少させ、上記工程中の添加水を8部から2部に減じて、何とかまとまりのある生地を作成し、実施例1と同様に焼き菓子を製造した。得られた焼き菓子は砂が固まったような食感でボロボロと崩れ易く、嗜好性が高い品質とは言い難いものであった。
【0039】
(実施例3)
表3の配合に従い実施例1と同様にして、大豆蛋白高配合チョコレートを製造し、これを使用して実施例2に倣い焼き菓子を製造した。
【0040】
(表3)大豆蛋白配合チョコレート

【0041】
(表4)比較例1と実施例3の比較評価

【0042】
実施例3で得られた焼き菓子は、適度なさくさく感がある好ましい食感であり、口溶けに優れ、歯付きや起こさないものであった。また、実施例3の生地を常温で60分保存したところ、調製直後と比較して特に大きな変化はなく、まとまりのある生地であり、連続的な機械生産に十分耐えうるものであった(図1参照)。比較例1と実施例3で得られた生地は、その構成成分は全く同一のものであるにも拘わらず、可塑性において似て非なるものであった(図1,図2参照)。
【0043】
[実施例4] −チョコレートに予め配合する大豆蛋白の配合量の検討−
表5の配合に従い、実施例1と同様の方法で、チョコレートを製造し、これを用いて実施例2と同様に焼き菓子を製造した。但し、大豆蛋白配合量が10%(配合4)のチョコレートを用いた場合のみ、生地の状態を考慮し、加水量を4部に設定した。
【0044】
(表5)大豆蛋白の配合量を変化させたチョコレートの配合

【0045】
(表6)実施例4の比較評価

【0046】
大豆蛋白量がチョコレート中39.8%含まれる配合1や29.8%含まれる配合2では、実施例1同様に良好な食感及び作業性の焼き菓子が得られた。しかし、配合3及び配合4のチョコレートを用いた場合は、得られた焼き菓子の食感及び作業性は良好であるが、加熱時の保型性が低下する傾向にあり、大豆蛋白の配合量と相関関係があった(図3参照)。
即ち、予め配合している大豆蛋白量が少なくなると、加熱中に生地がダレて製品の形状が損なわれてしまった。
ちなみに、本現象は大豆蛋白配合量を増加させるか、α化澱粉や小麦粉など吸水性を有する素材を配合すると抑制することが可能であった。
【0047】
[実施例5]チョコレートに添加する水性液の種類の検討
表1の配合で実施例1と同様の方法で、チョコレートを製造し、これを用いて焼き菓子を製造した。その際、添加する水性液の種類によって得られる焼き菓子の品質を比較した。配合を表7に示し、その結果を表8に示した。
【0048】
(表7)チョコレートに添加する水性液の種類の検討用配合

【0049】
(表8)実施例5の比較評価

【0050】
還元澱粉糖化液であるアマミールを加えて調製した生地(配合A)は、作成直後は生地の可塑性があるものの、経時的に生地の可塑性が失われ連続生産性に課題があった。また、焼き上げた菓子の食感は、歯にくっつきやすい食感であり好ましくなかった。それに対し、乳化物である濃縮乳や水を添加した配合B及び配合Cは、適度なさくさく感がある好ましい食感であり、口溶けに優れ、歯付きや起こさないものであった。また、生地を常温で60分保存したところ、調製直後と比較して特に大きな変化はなく、まとまりのある生地であり、連続的な機械生産に十分耐えうるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例3の、予めチョコレートに大豆蛋白が配合されたチョコレートを製造し、水を混合して得た菓子生地の写真である。
【図2】比較例1の、大豆蛋白を配合しないチョコレートを先に製造し、チョコレートに水を混合する工程で大豆蛋白を添加混合して得た菓子生地の写真である。
【図3】実施例4の、チョコレートに予め配合する大豆蛋白の配合量と、生地を加熱した際の保型性との相関を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂及び大豆蛋白を含む混練物、並びに水性液とが混合されてなり、大豆蛋白含量が生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%であり、かつ水分含量が生地中2〜15重量%であることを特徴とする可塑性生地。
【請求項2】
該混練物が微粒化処理されている請求項1記載の生地。
【請求項3】
水性液中の糖質含量が50重量%以下である請求項1記載の生地。
【請求項4】
混練物がチョコレートである請求項1記載の生地。
【請求項5】
請求項1記載の生地から得られる加熱菓子。
【請求項6】
ニュートリション・バーである請求項5記載の菓子。
【請求項7】
請求項5記載の加熱菓子製造のための油脂及び大豆蛋白を含む混練物の使用。
【請求項8】
大豆蛋白を生地の乾燥固形分あたり15〜65重量%配合されるように油脂と混練し、次いで該混練物に対して水性液を生地中の水分が2〜15重量%となるよう混合し、可塑性生地を調製することを特徴とする可塑性生地の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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