説明

可変容量ポンプ

【課題】構造が比較的簡素で安価に製造できると共に、低速回転時においても駆動軸からポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)への動力伝達ロスをほとんど生じない可変容量ポンプ(又は可変容量ギヤポンプ)を提供する。
【解決手段】可変容量ポンプは、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸16及びポンプハウジング内に回転可能に設けられた駆動ギヤ21を備える。駆動ギヤ21の中央には、駆動軸16を挿通するための軸孔24を区画するリング状の永久磁石23が駆動ギヤ21と一体回転可能に設けられている。前記リング状永久磁石23によって区画された軸孔24には、全体が磁性材料(例えば鋼鉄)で形成された駆動軸16が挿通されている。こうして、駆動軸16と駆動ギヤ21との間には、磁力結合(マグネットカップリング)に基づく作動連結関係が構築されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大吐出量を上限規制可能な可変容量ポンプ(特に可変容量ギヤポンプ)に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車の自動変速機(A/T)には、オイルパンから吸い込んだ自動変速機液(ATF)をトルクコンバータ等へ圧送するオイルポンプとして、内接式(内歯噛み合い式)のギヤポンプ又はベーン型ポンプが組み込まれている。一般にA/T用オイルポンプは、スリーブ状のトルクコンバータシャフトを介してエンジンに作動連結されており、エンジン回転数と同じポンプ回転速度で駆動される。
【0003】
A/T用の内接式ギヤポンプは、トルクコンバータシャフトを介してエンジンにより駆動されるアウタギヤと、これに噛み合うインナギヤとを備え、アウタギヤの強制駆動及びそれに伴うインナギヤの連れ回り従動に基づいてATFを吸入及び吐出する構造となっている。かかるギヤポンプには、構造が簡素で安価であるという利点がある反面、ポンプ駆動時のエネルギー効率が必ずしも高くないという欠点がある。つまり、ギヤポンプはその構造上、エンジン回転数(=ポンプ回転速度)が増大するほど吐出量が増大するという特性を持つ。その一方で、エンジン回転数が所定回転数(例えば3000rpm)のときにA/Tにとって最小限必要な量のATFが供給されるように、A/T本体及びそれに組み込まれるギヤポンプを設計するのが通例となっている。このため、エンジン回転数が上記所定回転数を超えているとき、ギヤポンプは必要量以上のATFを吸入・吐出して無駄な仕事をしていることになり、燃費を悪化させる原因となっている(即ちポンプ駆動時のエネルギー効率が低い)。
【0004】
ちなみにベーン型ポンプは、トルクコンバータシャフトを介してエンジンに作動連結されるロータ(ベーン保持体)の回転速度に応じて吐出量を調節する構造を有している場合、エンジン回転数に応じた吐出量制御が可能でポンプ駆動時のエネルギー効率が高いという利点がある。その反面、構造が非常に複雑で高価であるという欠点がある。
【0005】
上記従来のギヤポンプの欠点を解消するものとして、特許文献1のような可変容量ギヤポンプが提案されている。特許文献1に開示された内接式ギヤポンプは、駆動軸としてのトルクコンバータシャフトと、ポンプギヤとしてのアウタギヤとの間に介設された流体伝達要素を具備する。流体伝達要素は、ニードルベアリングに粘性流体を密封してなる粘性クラッチ付きベアリングからなっている。この内接式ギヤポンプは、駆動軸の回転速度が低回転域にあるときには、駆動軸の回転速度(即ちポンプ回転速度)の増大に伴ってポンプ吐出量が増大するという作動特性を示す。これに対し、駆動軸の回転速度が所定回転速度以上の高回転域に入ると、粘性クラッチの作用によりトルクコンバータシャフトの回転に対するアウタギヤの回転追従性が急激に低下する。その結果、トルクコンバータシャフトの回転速度とは無関係にアウタギヤが略一定の回転速度で回転するようになり、ポンプ吐出量が定常化する。このように、駆動軸の回転速度(=エンジン回転数)が所定回転速度を超えたときには、ポンプ吐出量が自動的に上限規制されることにより、無駄な吸入・吐出動作を抑制してポンプ駆動時のエネルギー効率の向上を図っている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−81775号公報(第0009〜0012段落、図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のギヤポンプでは、A/TにおいてATF供給が最も必要とされる時期である駆動軸の低速回転時(=エンジンの低速回転時)にも、粘性クラッチ付きベアリング内での粘性引きずりが小さいことに起因して駆動軸(トルクコンバータシャフト)とポンプギヤ(アウタギヤ)との間でのスリップが避けられず、駆動軸からポンプギヤへの動力伝達ロスが生じて十分な吐出量を確保できないことがある。この問題を解決する対策として、アウタギヤを大型化してエンジンの低速回転時にも必要な吐出量を確保することが考えられる。しかし、このような対策では大型化したアウタギヤの駆動のためにエンジンの動力を費やすことになり、却って低速回転時のエネルギー効率が悪化し可変容量ギヤポンプの長所が損なわれるおそれがある。また、粘性クラッチ付きベアリングからなる流体伝達要素は、ギヤポンプの構造を複雑化して製造コストを上昇させる原因ともなる。
【0008】
本発明の目的は、駆動軸の回転速度が所定回転速度未満の低速回転時には吐出量を可変でき、駆動軸の回転速度が所定回転速度以上の高速回転時には最大吐出量を上限規制できる可変容量ポンプであって、構造が比較的簡素で安価に製造できると共に、低速回転時においても駆動軸からポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)への動力伝達ロスをほとんど生じない可変容量ポンプ(又は可変容量ギヤポンプ)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポンプハウジング、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸、及び、前記ポンプハウジング内に回転可能に設けられたポンプ駆動回転体を備えた可変容量ポンプであって、前記ポンプ駆動回転体の中央には前記駆動軸を挿通するための軸孔が設けられ、前記ポンプ駆動回転体の軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する前記駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されていることを特徴とする可変容量ポンプである(請求項1)。
【0010】
また、本発明は、ポンプハウジング、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸、並びに、前記ポンプハウジング内に回転可能に設けられた駆動ギヤ及び被動ギヤを備えた可変容量ギヤポンプであって、前記駆動ギヤの中央には前記駆動軸を挿通するための軸孔が設けられ、前記駆動ギヤの軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する前記駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されていることを特徴とする可変容量ギヤポンプである(請求項2)。より好ましくは、本発明の可変容量ギヤポンプは、前記駆動ギヤの中央には磁石収容凹部が設けられ、前記駆動ギヤの磁石収容凹部には、前記駆動軸を挿通するための軸孔を区画するリング状の永久磁石が前記駆動ギヤと一体回転可能に設けられており、前記リング状の永久磁石によって区画された軸孔には、少なくとも外周部が前記永久磁石により吸引可能な磁性材料で形成された前記駆動軸が挿通されていることを特徴とするものである(請求項3)。
【0011】
なお、本発明の可変容量ギヤポンプにおいて、前記軸孔の内周壁部と前記駆動軸の外周部との間にはクリアランスが確保され、そのクリアランスは、前記駆動軸が前記軸孔に対してほとんど遊びがない状態で挿通される程度のクリアランスに設定されていること、は好ましい(請求項4)。また、前記駆動軸はトルクコンバータシャフトであり、前記ギヤポンプは自動変速機用オイルポンプとして用いられること、は好ましい(請求項5)。
【0012】
[作用]
請求項1の可変容量ポンプによれば、ポンプ駆動回転体の軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されることで、駆動軸とポンプ駆動回転体との間には磁力結合(マグネットカップリング)に基づく作動連結関係が構築される。請求項2の可変容量ギヤポンプによれば、駆動ギヤの軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されることで、駆動軸と駆動ギヤとの間には磁力結合(マグネットカップリング)に基づく作動連結関係が構築される。請求項3の可変容量ギヤポンプによれば、駆動軸を挿通するための軸孔を区画するリング状の永久磁石が駆動ギヤと一体回転可能に設けられ、前記リング状の永久磁石によって区画された軸孔に挿通される駆動軸の少なくとも外周部が永久磁石により吸引可能な磁性材料で形成されることで、駆動軸と駆動ギヤとの間には磁力結合(マグネットカップリング)に基づく作動連結関係が構築される。
【0013】
以上のような磁力結合によれば、駆動軸の回転速度と、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)側の駆動抵抗とのバランス関係に応じて、駆動軸及びポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)が直結的な作動連結状態を呈する場合と、非拘束的な緩い作動連結状態を呈する場合とに分かれる。即ち、駆動軸の回転速度が所定回転速度(N)未満の低速回転時には、磁力結合に基づいて、駆動軸及びポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)があたかも機械的に直結されているが如き作動連結状態を呈し、低速回転する駆動軸を追いかけるようにポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)も追従回転する。この場合には、駆動軸の回転速度の増大に伴い、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の回転速度が増大してポンプ吐出量も増大するという作動特性を示す(図3参照)。つまり、このポンプは、低速回転時における駆動軸の回転速度に応じて吐出量を変化させるポンプとして作動する。
【0014】
これに対し、駆動軸の回転速度が所定回転速度(N)に達すると、駆動軸に対し追従回転するポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の回転速度も相応に増大し、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)側の駆動抵抗も大きくなる。すると、その駆動抵抗の大きさ故に、駆動軸の回転速度が所定回転速度(N)以上の高速回転時には、駆動軸とポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)との間の磁力結合は見掛け上弱まり、両者は非拘束的な緩い作動連結状態を呈することになり、高速回転する駆動軸に対してポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)が追従回転できなくなる。この場合には、駆動軸の回転速度が更に増大しても、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の回転速度はほぼ定常化してポンプ吐出量も頭打ち傾向になるという作動特性を示す(図3参照)。つまり、このポンプは、高速回転時における駆動軸の回転速度にかかわらず、最大吐出量を上限規制して吐出量をほぼ一定に保つポンプとして作動する。
【0015】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
請求項1〜5おいて、前記ポンプハウジングは非磁性材料で形成されていること。
【0016】
[用語の意味]
明細書及び特許請求の範囲において、「磁性材料」は永久磁石を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の可変容量ポンプ(及び可変容量ギヤポンプ)によれば、上述のように、駆動軸の回転速度が所定回転速度未満の低速回転時には吐出量を可変でき、駆動軸の回転速度が所定回転速度以上の高速回転時には最大吐出量を上限規制して吐出量を一定に保つことができるので、ポンプ駆動時のエネルギー効率を高めることができる。また、駆動軸とポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)との間の作動連結関係を磁力結合に基づいて構築しているため、構造が比較的簡素で安価に製造することができる。更に、磁力結合によれば、駆動軸の低速回転時における駆動軸とポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)との間の作動連結関係は非常に緊密化するので、駆動軸からポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)への動力伝達ロスをほとんど生じず、エネルギー効率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、自動変速機用オイルポンプとして用いられる内接式の可変容量ギヤポンプの一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のギヤポンプは、非磁性材料であるアルミニウム合金でできたポンプボディー11及びポンプカバー12を備え、ポンプボディー11及びポンプカバー12をボルト等で相互に締結することによりポンプハウジング10が形成されている。このポンプハウジング10の内部には、軸長の短い円筒形状のギヤ室13、オイル吸入路14及びオイル吐出路(図示略)が区画形成されており、ギヤ室13は、少なくともオイル吸入路14を介して自動変速機のオイルパン(図示略)と連通する。
【0020】
ポンプハウジング10の中央には、トンネル状のシャフト15がギヤ室13の中央を水平貫通するように設けられている。ポンプハウジング10を形成しているポンプボディー11の中央位置であって前記トンネル状シャフト15の周囲には、駆動軸としてのスリーブ状のトルクコンバータシャフト16が回転可能に設けられている。トルクコンバータシャフト16は、自動変速機のトルクコンバータ(図示略)を介して外部駆動源としてのエンジン(図示略)により回転駆動される。このトルクコンバータシャフト16はその全体が、磁性材料である鋼鉄で作られている。
【0021】
図1に示すように、ギヤ室13内には、駆動ギヤとしてのアウタギヤ21及び被動ギヤとしてのインナギヤ22が設けられている。図2(A)及び(B)に示すように、インナギヤ22は、外周部の輪郭が円形であるところの環形状をなし、短円筒状のギヤ室13内に自由回転可能に収容されている。このインナギヤ22の内側には、インナギヤ22の複数の内周歯に噛み合う複数の外周歯を有するアウタギヤ21が配設されている。こうして両ギヤ21,22の間にはオイルの圧送空間が確保されている。
【0022】
アウタギヤ21の中央には、磁石収容凹部としての中央孔21aが貫設されており、そのアウタギヤの中央孔21a内には、その中央孔21aの内径に符合する外径を持ったリング状の永久磁石23が圧入により固定されている。このため、リング状の永久磁石23はアウタギヤ21と一体回転可能となっている。リング状の永久磁石23はその中央に貫設された軸孔24を有しており、その軸孔24に対し前記スリーブ状トルクコンバータシャフト16の先端部が挿通されている。つまり、リング状の永久磁石23は、駆動軸としてのトルクコンバータシャフト16を挿通可能な軸孔24を区画するリング部材である。なお、駆動時におけるトルクコンバータシャフト16と永久磁石23との間での摩擦接触による摩耗を極力回避するために、トルクコンバータシャフト16の外周部と永久磁石23の軸孔24の内周壁部との間にはクリアランスが確保されている。そのクリアランスは非常に小さく、トルクコンバータシャフト16がリング状永久磁石23の軸孔24に対してほとんど遊びがない状態で挿通される程度のクリアランスに設定されている。
【0023】
尚、本実施形態において、アウタギヤ21及びその中央孔21a内に圧入されたリング状の永久磁石23は、駆動軸を挿通するための軸孔24が中央に設けられたポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)を形成する。リング状の永久磁石23は、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の軸孔24を区画している内周壁部を形成するものである。
【0024】
本実施形態によれば、アウタギヤの中央孔21aに圧入固定されたリング状永久磁石23と、そのリング状永久磁石23の軸孔24に挿通された磁性材料製のトルクコンバータシャフト16との間の磁気的作用により、トルクコンバータシャフト16及びアウタギヤ21間には、磁力結合(マグネットカップリング)に基づく作動連結関係が構築される。上述のようにトルクコンバータシャフト16の外周部と永久磁石23の軸孔24の内周壁部との間のクリアランスは非常に小さいので、トルクコンバータシャフト16の静止時には、アウタギヤ21は永久磁石23を介してシャフト16に対しほぼ吸着又は密着状態となる。
【0025】
エンジンの起動によりトルクコンバータシャフト16が回転を開始すると、シャフト16に対して吸着状態で磁力結合している永久磁石23及びアウタギヤ21も即座に回転を開始する。アウタギヤ21が回転すると、インナギヤ22も連れ回り回転する。両ギヤ21,22の回転に伴い、オイルパンに貯留されていたオイル、即ちATF(自動変速機液)がオイル吸入路14を介してオイル圧送空間へ吸入され、更にはギヤポンプの圧送作用によりオイル圧送空間からオイル吐出路に吐出される。
【0026】
駆動軸としてのトルクコンバータシャフト16の回転速度が所定回転速度N(例えばN=3000rpm)未満のときには、アウタギヤ21及び永久磁石23と、シャフト16とがあたかも機械的に連結されているが如き強い磁力結合状態を呈するため、回転するシャフト16を追いかけるように、アウタギヤ21及び永久磁石23も追従回転する。それ故、所定回転速度N未満の低速回転時には、駆動軸16の回転速度の増大に伴い、アウタギヤ21の回転速度が増大してポンプ吐出量も増大するという作動特性が示される(図3参照)。つまり、このギヤポンプは、駆動軸16の回転速度に応じて吐出量を変化させるポンプとして作動する。
【0027】
アウタギヤ21の回転速度の増大に伴ってポンプ吐出量が増大するということは、それに応じてポンプの駆動抵抗も大きくなるということである。本実施形態のギヤポンプでは、駆動軸16(及びそれに追従回転するアウタギヤ21)の回転速度が所定回転速度Nに達すると、永久磁石23とシャフト16との間の磁力吸着による結合力よりも、アウタギヤ21の駆動抵抗(抵抗トルク)の方が大きくなり、アウタギヤ21及び永久磁石23の回転がシャフト16の回転速度に追従できなくなる。即ち、永久磁石23とシャフト16との間の磁力結合が見掛け上弱まり、アウタギヤ21及び永久磁石23と、シャフト16との間ですべりが発生する。すると、以後トルクコンバータシャフト16の回転速度が所定回転速度Nを上回ったとしても、アウタギヤ21及び永久磁石23は所定回転速度Nに対応した回転速度で定常回転する。つまり、シャフト16からアウタギヤ21へのトルク伝達が一定レベルに制限される。その結果、所定回転速度N以上の高速回転時には、駆動軸16の回転速度が増大しても、アウタギヤ21の回転速度はほぼ定常化してポンプ吐出量も所定吐出量Vで頭打ち傾向になるという作動特性が示される(図3参照)。つまり、このギヤポンプは、駆動軸16の回転速度にかかわらず、最大吐出量を上限規制して吐出量をほぼ一定に保つポンプとして作動する。
【0028】
このように本実施形態のギヤポンプによれば、駆動軸16の回転速度が所定回転速度N未満の低速回転時には、駆動軸16の回転速度に応じて吐出量を可変できる一方で、駆動軸16の回転速度が所定回転速度N以上の高速回転時には、最大吐出量を上限規制して吐出量を一定(吐出量V)に保つことができる。それ故、自動変速機にとって最小限必要な量のATFが供給されるべきときのエンジン回転数(例えば3000rpm)に上記駆動軸16の回転速度Nが合致するように永久磁石23の磁力を設定することで、自動変速機に組み込まれたギヤポンプが、必要量以上のATFを吸入・吐出して無駄な仕事をする事態を回避して、ポンプ駆動時のエネルギー効率を高めることができる。
【0029】
本実施形態のギヤポンプによれば、駆動軸としてのトルクコンバータシャフト16と、駆動ギヤとしてのアウタギヤ21との間の作動連結関係を磁力結合(マグネットカップリング)に基づいて構築しているため、粘性クラッチ付きベアリングによる作動連結構造を持つ従来のギヤポンプに比べて、構造が簡素であり安価に製造することができる。
【0030】
本実施形態のギヤポンプでは、アウタギヤ21及び永久磁石23とトルクコンバータシャフト16とを磁力結合によって作動連結すると共に、トルクコンバータシャフト16の外周部と永久磁石23の軸孔24の内周壁部との間のクリアランスを非常に小さくすることで、シャフト16の静止時及び低速回転時にはアウタギヤ21が永久磁石23を介してシャフト16に対しほぼ吸着状態となるように構成している。それ故、トルクコンバータシャフト16の低速回転時に、シャフト16とアウタギヤ21との間でスリップを生ずることがなく、両者間の作動連結関係は非常に緊密化するので、シャフト16からアウタギヤ21への動力伝達ロスを生じることがない。
【0031】
[変更例]上記実施形態(図1及び図2)では内接式可変容量ギヤポンプの例を示したが、本発明を外接式ギヤポンプに適用してもよい。例えば図4に示すように、駆動ギヤ31の外周歯と被動ギヤ32の外周歯とが噛み合うように構成された外接式ギヤポンプにおいて、上記実施形態と同様、駆動ギヤ31の中央孔内にリング状の永久磁石33を圧入固定して両者を一体回転可能に形成すると共に、磁性材料からなる駆動軸35をリング状永久磁石33の軸孔34に挿通する。図4によれば、図3に示すような作動特性を持った外接式の可変容量ギヤポンプとすることができる。なお、図4の構成では、駆動ギヤ31及びその中央孔内に圧入固定されたリング状永久磁石33により、ポンプ駆動回転体が形成される。
【0032】
[変更例]本発明をベーン型ポンプに適用してもよい。例えば図5に示すように、カムリング40と、複数のベーンを保持したロータ41とを備えたベーン型ポンプにおいて、ロータ41の中央孔内にリング状の永久磁石43を圧入固定して両者を一体回転可能に形成すると共に、磁性材料からなる駆動軸45をリング状永久磁石43の軸孔44に挿通する。図5によれば、図3に示すような作動特性を持ったベーン型の可変容量ポンプとすることができる。なお、図5の構成では、ロータ41及びその中央孔内に圧入固定されたリング状永久磁石43により、ポンプ駆動回転体が形成される。
【0033】
[変更例]図1及び図2に示す上記実施形態、図4の変更例及び図5の変更例では、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の側にリング状の永久磁石を一体回転可能に装着すると共に、リング状永久磁石の軸孔内に磁性材料からなる駆動軸を挿通している。これに代えて、例えば、駆動軸の外周部にリング状の永久磁石を一体回転可能に装着すると共に、ポンプ駆動回転体(又は駆動ギヤ)の側に駆動軸のリング状永久磁石を挿通可能な軸孔を形成し、この軸孔の内周壁部(つまり駆動軸のリング状永久磁石の外周部と対向する部位)を磁性材料で形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施形態に従うギヤポンプの縦断面図。
【図2】図1に示すギヤポンプの主要な構成要素を示し、(A)はその正面図、(B)は(A)のA−A線での断面図。
【図3】図1に示すギヤポンプの作動特性を示すグラフ。
【図4】可変容量ポンプの一変更例である外接式ギヤポンプの要部を示す図。
【図5】可変容量ポンプの一変更例であるベーン型ポンプの要部を示す図。
【符号の説明】
【0035】
10…ポンプハウジング、16…トルクコンバータシャフト(駆動軸)、21…アウタギヤ(駆動ギヤ)、21a…磁石収容凹部としての中央孔、22…インナギヤ(被動ギヤ)、23…リング状永久磁石(21及び23はポンプ駆動回転体を形成する)、24…軸孔、31…駆動ギヤ、32…被動ギヤ、33…リング状永久磁石(31及び33はポンプ駆動回転体を形成する)、34…軸孔、35…駆動軸、41…ベーンを保持したロータ、43…リング状永久磁石(41及び43はポンプ駆動回転体を形成する)、44…軸孔、45…駆動軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジング、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸、及び、前記ポンプハウジング内に回転可能に設けられたポンプ駆動回転体を備えた可変容量ポンプであって、
前記ポンプ駆動回転体の中央には前記駆動軸を挿通するための軸孔が設けられ、
前記ポンプ駆動回転体の軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する前記駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されていることを特徴とする可変容量ポンプ。
【請求項2】
ポンプハウジング、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸、並びに、前記ポンプハウジング内に回転可能に設けられた駆動ギヤ及び被動ギヤを備えた可変容量ギヤポンプであって、
前記駆動ギヤの中央には前記駆動軸を挿通するための軸孔が設けられ、
前記駆動ギヤの軸孔を区画している内周壁部及び前記軸孔の内周壁部に対向する前記駆動軸の外周部のうちの一方が永久磁石で形成され、他方が磁性材料で形成されていることを特徴とする可変容量ギヤポンプ。
【請求項3】
ポンプハウジング、外部駆動源によって回転駆動される駆動軸、並びに、前記ポンプハウジング内に回転可能に設けられた駆動ギヤ及び被動ギヤを備えた可変容量ギヤポンプであって、
前記駆動ギヤの中央には磁石収容凹部が設けられ、
前記駆動ギヤの磁石収容凹部には、前記駆動軸を挿通するための軸孔を区画するリング状の永久磁石が前記駆動ギヤと一体回転可能に設けられており、
前記リング状の永久磁石によって区画された軸孔には、少なくとも外周部が前記永久磁石により吸引可能な磁性材料で形成された前記駆動軸が挿通されていることを特徴とする可変容量ギヤポンプ。
【請求項4】
前記軸孔の内周壁部と前記駆動軸の外周部との間にはクリアランスが確保され、そのクリアランスは、前記駆動軸が前記軸孔に対してほとんど遊びがない状態で挿通される程度のクリアランスに設定されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の可変容量ギヤポンプ。
【請求項5】
前記駆動軸はトルクコンバータシャフトであり、前記ギヤポンプは自動変速機用オイルポンプとして用いられることを特徴とする請求項2,3又は4に記載の可変容量ギヤポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−285270(P2007−285270A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116410(P2006−116410)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】