説明

可変指向性コンデンサマイクロホンユニット

【課題】 単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの後部音響端子を開閉することにより、単一指向性もしくは無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、無指向性に切り替える際の感度低下を防止する。
【解決手段】 前部音響端子11を有する円筒状の筐体10内に、支持リング22に張設された振動板21と台座24に支持された固定極23とをスペーサを介して対向的に配置してなる変換器20が収納されており、台座24に設けられている後部音響端子24aが開放されている場合に単一指向性で、後部音響端子24aが塞がれることにより無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、後部音響端子24a側に無指向性成分を補う空気室A1を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一指向性と無指向性とに切り替え可能な可変指向性コンデンサマイクロホンユニットに関し、さらに詳しく言えば、指向性を切り替えた際に感度変化が生じない可変指向性コンデンサマイクロホンユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
収音状況によって、単一指向性と無指向性とを切り替えたい場合がある。すなわち、収音目的以外の音がある場合や拡声に用いる場合には単一指向性が好ましく、これに対して、例えばスタジオ内で収音目的以外の音がない場合や拡声する必要がない場合には無指向性が好ましい。
【0003】
そのためには、単一指向性,無指向性の2つのマイクロホンを用意して、収音状況に応じてそのいずれか一方のマイクロホンを使用すればよいのであるが、コストや運搬の面で好ましくない。また、ユニット部を交換できるマイクロホンもあるが、その交換に手間がかかるばかりでなく、交換を繰り返すうちに接点などを傷めることがある。
【0004】
他方において、単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの後部音響端子を塞ぐことにより、単一指向性を無指向性に切り替えることができ、その従来例を図4により説明する。図4(a)は単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの正面図,図4(b)はその断面図,図4(c)は無指向性としたときの断面図である。
【0005】
図4(a)(b)を参照して、単一指向性コンデンサマイクロホンユニットは、音源に向けられる側の一端面側に前部音響端子11を有する円筒状の筐体10を備え、筐体10内には静電容量の変化によって音波を電気信号に変換する変換器20が収納されている。
【0006】
変換器20は、支持リング22に張設された振動板21と、電気絶縁性の台座24に支持された固定極23とを図示しないスペーサを介して対向的に組み合わせることにより構成され、例えばロックリング26により筐体10内に固定される。
【0007】
台座24には、図示しない電気導体を介して固定極23と接続される電極引出ロッド25が設けられ、このユニットを図示しないマイクロホン本体に取り付けたとき、電極引出ロッド25はマイクロホン本体が備えるインピーダンス変換器であるFETのゲートに接続される。
【0008】
また、筐体10の後方から回り込む音波を振動板21の背面に作用させるため、固定極23には多数の音通路孔23aが穿設され、台座24には後部音響端子24aが穿設されている。
【0009】
このように、振動板21の前面には前部音響端子11からの音波が作用し、振動板21の背面には後部音響端子24aからの音波が作用するため、このコンデンサマイクロホンユニットは単一指向性として動作するが、図4(c)に示すように、後部音響端子24aを例えばシール板27にて塞ぐことにより無指向性となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図5に単一指向性時の周波数応答特性を示し、図6に無指向性時の周波数応答特性を示す。単一指向性コンデンサマイクロホンユニットは、内部の空気室の容積と無指向性成分の感度が比例する。そのため、図4(c)に示すように、単に後部音響端子24aが塞がれると双指向性成分が取り込まれなくなった分、感度が減少し周波数応答が劣化する。図5と図6を比較すると、無指向性とした場合、単一指向性に比べて感度が約6dB低く周波数応答が劣っている。
【0011】
したがって、本発明の課題は、単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの後部音響端子を開閉することにより、単一指向性もしくは無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、無指向性に切り替える際の感度低下を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、前部音響端子を有する円筒状の筐体内に、支持リングに張設された振動板と電気絶縁性の台座に支持された固定極とをスペーサを介して対向的に配置してなる変換器が収納されており、上記台座に設けられている後部音響端子が開放されている場合に単一指向性で、上記後部音響端子が塞がれることにより無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、上記後部音響端子側に、無指向性成分を補う空気室を備えることを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1において、上記空気室が、上記台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、上記カバー部材はシャッタにより開閉される開口部を備えていることを特徴としている。
【0014】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1において、上記空気室が、上記台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、上記カバー部材が着脱可能であることを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1ないし3のいずれか1項において、上記空気室の容積が、上記固定極と上記台座との間の後部空気室を含む後部側容積とほぼ同じ容積であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、後部音響端子が開放されている場合に単一指向性で、後部音響端子が塞がれることにより無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、後部音響端子側に無指向性成分を補う空気室を備えることにより、指向性を切り替えた際に感度が変化しない可変指向性コンデンサマイクロホンユニットを提供することができる。
【0017】
空気室が台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、カバー部材はシャッタにより開閉される開口部を備えている請求項2に記載の発明によれば、その開口部をシャッタにより開閉するだけで、感度変化を伴うことなく、簡単に指向性を切り替えることができる。
【0018】
空気室が台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、カバー部材が着脱可能である請求項3に記載の発明によれば、そのカバー部材を着脱させるだけで、感度変化を伴うことなく、簡単に指向性を切り替えることができる。
【0019】
空気室の容積を固定極と台座との間の後部空気室を含む後部側容積とほぼ同じ容積とした請求項4に記載の発明によれば、指向性切り替え時にほとんど感度変化が生ずることがなく、周波数応答の劣化も軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1(a)は本発明の実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの正面図,図1(b)はその断面図,図2は本発明の別の実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの断面図,図3は無指向性時の周波数応答特性を示すグラフである。なお、先の図4で説明した従来例と同一もしくは同一と見なされてよい構成要素には同じ参照符号を用いる。
【0021】
図1(a)(b)を参照して、この可変指向性コンデンサマイクロホンユニットは、基本的には、単一指向性コンデンサマイクロホンユニットである。すなわち、音源に向けられる側の一端面側に前部音響端子11を有する円筒状の筐体10を備え、筐体10内には静電容量の変化によって音波を電気信号に変換する変換器20が収納されている。
【0022】
この実施形態においても、変換器20は、支持リング22に張設された振動板21と、電気絶縁性の台座24に支持された固定極23とを図示しないスペーサを介して対向的に組み合わせることにより構成され、例えばロックリング26により筐体10内に固定される。なお、筐体10の後端縁のかしめにより、変換器20が固定されてもよい。
【0023】
台座24には、図示しない電気導体を介して固定極23と接続される電極引出ロッド25が設けられ、このユニットを図示しないマイクロホン本体に取り付けたとき、電極引出ロッド25はマイクロホン本体が備えるインピーダンス変換器であるFETのゲートに接続される。
【0024】
また、筐体10の後方から回り込む音波を振動板21の背面に作用させるため、固定極23には多数の音通路孔23aが穿設され、台座24には後部音響端子24aが穿設されている。
【0025】
このように、振動板21の前面には前部音響端子11からの音波が作用し、振動板21の背面には後部音響端子24aからの音波が作用するため、このコンデンサマイクロホンユニットは単一指向性として動作し、後部音響端子24aを塞ぐことにより、無指向性となるが、その際、感度変化が生じないようにするため、本発明では、後部音響端子24a側に無指向性成分を補う空気室A1を備える。
【0026】
この実施形態において、空気室A1は、台座24の背面側に装着されるカバー部材30aにより形成される。この場合、カバー部材30aは、台座24の背面との間で空気室A1を形成する皿状のカバーからなるが、空気室A1は台座24の背面とカバー部材30aとの間で形成されればよく、したがって、台座24の背面側を空気室A1の容積分だけ凹ませ、カバー部材30aを平板状のカバーとしてもよい。
【0027】
この実施形態におけるカバー部材30aは、その底面(台座24と対向する面)に電極引出ロッド25が気密的に挿通されるロッド挿通孔31のほかに、空気室A1を大気に連通させる開口部32を有するとともに、その開口部32を選択的に開閉するシャッタ33を備える。開口部32の大きさおよび個数は任意に決められてよい。
【0028】
これによれば、開口部32を開放することにより単一指向性となり、シャッタ33により開口部32を塞ぐことにより無指向性となるが、無指向性とする場合、双方向性成分が取り込まれなくなった分、感度が上がるようにするには、空気室A1の容積と、ユニットの後部側容積A2とをほぼ同じとすることが好ましい。
【0029】
厳密に言えば、空気室A1の容積には、開口部32による容積も含まれる。また、ユニットの後部側容積A2には、固定極23と台座24との間の後部空気室の容積のほかに、振動板21と固定極23との間の薄空気層の容積,固定極23に穿設されている音通路孔23aによる容積,後部音響端子24aによる容積が含まれる。
【0030】
シャッタ33に筐体10の外部にまで延びる図示しない操作レバーを設けて、開口部32を開閉可能とすることにより、簡単な操作で単一指向性と無指向性とを切り替えることができるが、別の実施形態として、図2に示すように、底面にロッド挿通孔31のみを有する皿状のカバー部材30bを台座24の背面に対して着脱自在に装着するようにしてもよい。
【0031】
なお、上記カバー部材30a,30bのいずれの場合においても、台座24の背面との間で空気漏れが生じないように、例えばシリコンゴムなどのシール材を介在させることが好ましい。
【0032】
図3のグラフに、上記実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットを無指向性とした場合の周波数応答特性を示す。なお、単一指向性とした場合の周波数応答特性は図5を参照されたい。これによれば、単一指向性の場合と無指向性の場合とで、感度はほとんど変化していない。また、周波数応答も図6の従来例の場合に比べてきわめて良好である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)本発明の実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの正面図,(b)はその断面図。
【図2】本発明の別の実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る可変指向性コンデンサマイクロホンユニットの無指向性時の周波数応答特性を示すグラフ。
【図4】単一指向性コンデンサマイクロホンユニットの正面図,(b)その断面図,(c)は無指向性としたときの断面図。
【図5】単一指向性の周波数応答特性を示すグラフ。
【図6】図4cの無指向性としたときの周波数応答特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0034】
10 筐体
11 前部音響端子
20 変換器
21 振動板
22 支持リング
23 固定極
23a 音通路孔
24 台座
24a 後部音響端子
30a,30b カバー部材
32 開口部
33 シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部音響端子を有する円筒状の筐体内に、支持リングに張設された振動板と電気絶縁性の台座に支持された固定極とをスペーサを介して対向的に配置してなる変換器が収納されており、上記台座に設けられている後部音響端子が開放されている場合に単一指向性で、上記後部音響端子が塞がれることにより無指向性に切り替えられる可変指向性コンデンサマイクロホンユニットにおいて、
上記後部音響端子側に、無指向性成分を補う空気室を備えることを特徴とする可変指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項2】
上記空気室が、上記台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、上記カバー部材はシャッタにより開閉される開口部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項3】
上記空気室が、上記台座の背面側に装着されるカバー部材により形成され、上記カバー部材が着脱可能であることを特徴とする請求項1に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンユニット。
【請求項4】
上記空気室の容積が、上記固定極と上記台座との間の後部空気室を含む後部側容積とほぼ同じ容積であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の可変指向性コンデンサマイクロホンユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−332928(P2006−332928A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151905(P2005−151905)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】