説明

可変減衰力ダンパー

【課題】 可変減衰力ダンパーのピストンが短い周期で往復動する際にバルブプレートの応答性を高める。
【解決手段】 シリンダ22に嵌合するピストン25のオリフィス46,47の開度を変化させる減衰力制御機構が、第1、第2バルブプレート37,38と磁界を発生させる第1、第2コイル44,45とを備えたことにより、第1、第2コイル44,45が発生する磁界で第1、第2バルブプレート37,38を変形させてオリフィス46,47の開度を変化させ、ダンパーの減衰力を任意に制御することができる。その際に、第1バルブプレート37を対応する第1コイル44で変形させ、第2バルブプレート38を対応する第2コイル45で変形させるので、両コイル44,45が励磁および消磁される時間間隔を伸ばし、コイルのインダクタンスの影響を最小限に抑えて電流の立ち上がりを速めることで、ダンパーへの高周波の入力時の応答性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性合金製のバルブプレートと磁界を発生させるコイルとを備え、コイルが発生する磁界でバルブプレートの形状を変化させることで減衰力を任意に制御することが可能な可変減衰力ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
粘性流体が充填されたシリンダを、その内部に摺動自在に嵌合するピストンによって第1、第2流体室に区画し、ピストンを貫通して第1、第2流体室を連通させる流体通路にソレノイドで開閉するスプール弁を配置したものが、下記特許文献1により公知である。この可変減衰力ダンパーによれば、ソレノイドに通電してスプール弁の開度を変化させることでダンパーの減衰力を任意に制御することができる。
【特許文献1】特開2004−225834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に記載された可変減衰力ダンパーは、ピストンの内部にソレノイドで作動するスプール弁を配置する必要があるため、部品点数が増加して構造が複雑化するだけでなく、ソレノイドに通電してからスプール弁の開度が変化するまでにタイムラグが存在するため、応答性が低くなる問題があった。
【0004】
そこで本出願人は、特願2005−231925号により、ピストンに設けたオリフィスを開閉する磁性合金製のバルブプレートを、ピストンに設けたコイルで変形させて減衰力を制御する可変減衰力ダンパーを提案した。
【0005】
この可変減衰力ダンパーによれば、上記特許文献1に記載された可変減衰力ダンパーに比べて高い応答性を得ることが可能であるが、ピストンに入力される荷重の周波数が高くなると、コイルが短い時間間隔で励磁および消磁を繰り返す必要があるため、コイルのインダクタンスの影響で励磁時の電流の立ち上がりが遅れて応答性が低下する可能性があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、可変減衰力ダンパーのピストンが短い周期で往復動する際にバルブプレートが変形する応答性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、粘性流体が充填されたシリンダと、シリンダに摺動自在に嵌合して該シリンダを第1、第2流体室に区画するピストンと、ピストンに連結されてシリンダの端壁を貫通するピストンロッドと、ピストンに設けられて第1、第2流体室を連通させるオリフィスと、ピストンのオリフィスの開度を変化させて減衰力を制御する減衰力制御機構とを備えた可変減衰力ダンパーにおいて、前記減衰力制御機構は、ピストンの軸方向両端に配置された磁性合金製の第1、第2バルブプレートと、第1、第2バルブプレートにそれぞれ対応するようにピストンに配置された第1、第2コイルとを備え、第1、第2コイルが発生する磁界でそれぞれ第1、第2バルブプレートを変形させてオリフィスの開度を変化させることを特徴とする可変減衰力ダンパーが提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ピストンはオリフィスと協働して第1、第2流体室を連通させる流体通路を備えており、前記流体通路はピストンに設けた第1、第2コイルの径方向内側に配置されることを特徴とする可変減衰力ダンパーが提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記ピストンのピストン本体は軸方向一端から他端までが一部材で構成されていることを特徴とする可変減衰力ダンパーが提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記ピストンロッドは前記ピストンの軸方向一端から挿入されて軸方向他端の手前で終わっていることを特徴とする可変減衰力ダンパーが提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、粘性流体が充填されたシリンダと、シリンダの外周を囲むように配置され、下部がシリンダに連通して粘性流体が充填されるとともに上部にガスが充填されたリザーバ室と、シリンダに摺動自在に嵌合して該シリンダを第1、第2流体室に区画する可動ピストンと、可動ピストンに連結されてシリンダの端壁を貫通するピストンロッドと、可動ピストンに設けられて第1、第2流体室を連通させる第1オリフィスと、可動ピストンの第1オリフィスの開度を変化させて減衰力を制御する第1減衰力制御機構と、第2流体室およびリザーバ室を区画するようにシリンダの底部に固定された固定ピストンと、固定ピストンに設けられて第2流体室およびリザーバ室を連通させる第2オリフィスと、固定ピストンの第2オリフィスの開度を変化させて減衰力を制御する第2減衰力制御機構とを備えた可変減衰力ダンパーであって、前記第1減衰力制御機構は、可動ピストンの軸方向下端に配置された磁性合金製の第1バルブプレートと、第1バルブプレートに対応するように可動ピストンに配置された第1コイルとを備え、第1コイルが発生する磁界で第1バルブプレートを変形させて第1オリフィスの開度を変化させるとともに、前記第2減衰力制御機構は、固定ピストンの軸方向下端に配置された磁性合金製の第2バルブプレートと、第2バルブプレートに対応するように固定ピストンに配置された第2コイルとを備え、第2コイルが発生する磁界で第2バルブプレートを変形させて第2オリフィスの開度を変化させることを特徴とする可変減衰力ダンパーが提案される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、粘性流体を充填したシリンダに摺動自在に嵌合するピストンに設けたオリフィスの開度を変化させる減衰力制御機構が、磁性合金製の第1、第2バルブプレートと磁界を発生させる第1、第2コイルとを備えたことにより、第1、第2コイルが発生する磁界で第1、第2バルブプレートを変形させてオリフィスの開度を変化させ、ダンパーの減衰力を任意に制御することができる。その際に、第1バルブプレートを対応する第1コイルで変形させ、第2バルブプレートを対応する第2コイルで変形させることで、これらの第1、第2バルブプレートを共通のコイルで変形させる場合に比べて、第1、第2コイルが励磁および消磁される時間間隔を2倍に伸ばすことができる。これにより、第1、第2コイルのインダクタンスの影響を最小限に抑えて電流の立ち上がりを速め、ダンパーへの高周波の入力時の応答性を高めることができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、オリフィスと協働して第1、第2流体室を連通させる流体通路を、ピストンに設けた第1、第2コイルの径方向内側に配置したので、流体通路を流れる流体の圧力で第1、第2バルブプレートが開こうとしても、コイルが発生する磁力で前記流体の圧力に抗して第1、第2バルブプレートを確実に閉じることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、ピストンのピストン本体を軸方向一端から他端まで一部材で構成したので、それを複数の部材で構成した場合に必要になる流体通路の位相合わせが不要になり、部品点数の削減および組付工数の削減が可能になる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、ピストンロッドはピストンの軸方向一端から挿入されて軸方向他端の手前で終わっているので、ヨークとして機能するピストンの体積がピストンロッドにより減少するのを最小限に抑え、第1、第2コイルに供給する電流を増加させることなく第1、第2バルブプレートの吸着力を高めることができる。
【0016】
また請求項5の構成によれば、粘性流体を充填したシリンダに摺動自在に嵌合する可動ピストンに設けた第1オリフィスの開度を変化させる第1減衰力制御機構が、磁性合金製の第1バルブプレートと磁界を発生させる第1コイルとを備え、かつシリンダおよびリザーバ室間に固定された固定ピストンに設けた第2オリフィスの開度を変化させる第2減衰力制御機構が、磁性合金製の第2バルブプレートと磁界を発生させる第2コイルとを備えたことにより、第1、第2コイルが発生する磁界で第1、第2バルブプレートを変形させて第1、第2オリフィスの開度を変化させ、ダンパーの減衰力を任意に制御することができる。その際に、第1バルブプレートを対応する第1コイルで変形させ、第2バルブプレートを対応する第2コイルで変形させることで、これらの第1、第2バルブプレートを共通のコイルで変形させる場合に比べて、第1、第2コイルが励磁および消磁される時間間隔を2倍に伸ばすことができる。これにより、第1、第2コイルのインダクタンスの影響を最小限に抑えて電流の立ち上がりを速め、ダンパーへの高周波の入力時の応答性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施の形態に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図9は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は車両のサスペンション装置の正面図、図2は可変減衰力ダンパーの拡大断面図、図3は図2の3−3線拡大断面図、図4は図3の4−4線断面図(非励磁、低速時)、図5は図3の5−5線断面図(非励磁、低速時)、図6は図4に対応する作用説明図(励磁、高速時)、図7は図5に対応する作用説明図(励磁、高速時)、図8はピストン速度と減衰力との関係を示すグラフ、図9は磁気粘性流体の効果を説明するグラフである。
【0019】
図1に示すように、四輪の自動車の車輪Wを懸架するサスペンション装置Sは、車体11にナックル12を上下動自在に支持するサスペンションアーム13と、サスペンションアーム13および車体11を接続する可変減衰力のダンパー14と、サスペンションアーム13および車体11を接続するコイルバネ15とを備える。ダンパー14の減衰力を制御する電子制御ユニットUには、バネ上加速度を検出するバネ上加速度センサSaからの信号と、ダンパー14の変位(ストローク)を検出するダンパー変位センサSbからの信号と、車両の操舵角を検出する操舵角センサScからの信号と、車両の横加速度を検出する横加速度センサSdからの信号とが入力される。
【0020】
図2に示すように、ダンパー14は、下端がサスペンションアーム13に接続されたシリンダ22と、シリンダ22の上端および下端をそれぞれ閉塞する上部端板23および下部端板24と、シリンダ22に摺動自在に嵌合するピストン25と、ピストン25から上方に延びて上部端板23に設けたシール部材26を液密に貫通し、上端を車体11に接続されたピストンロッド27と、シリンダ22の下部に摺動自在に嵌合するフリーピストン28とを備える。
【0021】
シリンダ22の内部にピストン25により仕切られた上側の第1流体室29および下側の第2流体室30が区画されており、これらの第1、第2流体室29,30には磁気粘性流体(MRF: Magneto-Rheological Fluids )が充填される。またフリーピストン28の下部には高圧ガスが封入されたガス室32が区画される。
【0022】
図3〜図5に示すように、ピストン25は、ピストンロッド27に上下一対の非磁性体のストッパプレート33,34および磁性体のシム42,43を介してナット35で固定された上下一対のピストン本体36,36を備える。上側のピストン本体36の上面とシム42との間には強磁性合金を円板状に形成した第1バルブプレート37の中央部が固定され、また下側のピストン本体36の下面とシム43との間には強磁性合金を円板状に形成した第2バルブプレート38の中央部が固定される。両ピストン本体36,36の内部を4個の流体通路39,39;40,40が90°間隔で軸方向に貫通しており、そのうち二つの第1流体通路39,39は直径方向両端に配置され、他の二つの第2流体通路40,40は90°ずれた直径方向両端に配置される。
【0023】
第2バルブプレート38には第1流体通路39,39の下端に臨む通孔38a,38a(図4参照)が形成され、第1バルブプレート37には第2流体通路40,40の上端に臨む通孔37a,37a(図5参照)が形成される。また両ピストン本体36,36の外周面には、シリンダ22の内周面に摺接するピストンリング41が装着される。第1バルブプレート37の通孔37a,37aに臨むように、ストッパプレート33には通孔33a,33aが形成され、また第2バルブプレート38の通孔38a,38aに臨むように、ストッパプレート34には通孔34a,34aが形成される。
【0024】
第1、第2流体通路39,39;40,40よりも径方向外側の上側のピストン本体36に、ピストンロッド27を囲むように環状の第1コイル44が埋め込まれており、この第1コイル44は電子制御ユニットUに接続されて通電を制御される。また第1、第2流体通路39,39;40,40よりも径方向外側の下側のピストン本体36に、ピストンロッド27を囲むように環状の第2コイル45が埋め込まれており、この第2コイル45は電子制御ユニットUに接続されて通電を制御される。
【0025】
第1コイル44を励磁すると第1バルブプレート37が上側のピストン本体36の上面に吸着されるが、そのとき第1流体通路39,39の上端が第1流体室29と連通するように、上側のピストン本体36の上面に溝状の第1オリフィス46,46(図4参照)が形成される。また第2コイル45を励磁すると第2バルブプレート38が下側のピストン本体36の下面に吸着されるが、そのとき第2流体通路40,40の下端が第2流体室30と連通するように、下側のピストン本体36の下面に溝状の第2オリフィス47,47(図5参照)が形成される。
【0026】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0027】
図4に示すように、第1、第2コイル44,45を励磁していないとき、ダンパー14が収縮してシリンダ22に対してピストン25が下動すると、第1流体室29の容積が増加して第2流体室30の容積が減少するため、第2流体室30の磁気粘性流体が第2バルブプレート38の通孔38a,38aを通過して第1流体通路39,39に流入する。このとき第2バルブプレート38は閉弁方向の流体圧を受けて下側のピストン本体36の下面に押し付けられる。第1流体通路39,39を通過した磁気粘性流体は第1バルブプレート37の下面を開弁方向(上向き)に付勢するが、ピストン25の下動速度が図8のV1に達するまでは第1バルブプレート37は自己の剛性で開弁しないため、磁気粘性流体は第1バルブプレート37の下面および上側のピストン本体36間の第1オリフィス46,46を通って第1流体室29に流出することになり、第1オリフィス46,46により抵抗が発生してダンパー14の減衰力は急激に増加する。
【0028】
ピストン25の下動速度が図8のV1に達すると、図6に示すように、第1バルブプレート37は流体圧に屈して上方に湾曲し、第1オリフィス46,46が機能しなくなるため、ピストン25の下動速度の増加に応じてダンパー14の減衰力がリニアに増加する(ラインa参照)。
【0029】
このとき、電子制御ユニットUからの指令で第1コイル44に通電すると、第1コイル44が発生する磁界(図6の破線矢印参照)で第1バルブプレート37が下向きに変形しようとして閉弁方向のセット荷重が発生するため、ピストン25の下動速度が更に増加して図8のV2に達するまで第1バルブプレート37が開弁せず、第1オリフィス42の機能でダンパー14の減衰力の立ち上がりが強くなる(ラインb参照)。従って、第1コイル44に供給する電流を変化させることで、ダンパー14の減衰力を任意に制御することができる。
【0030】
尚、ダンパー14に衝撃的な圧縮荷重が加わって第2流体室30の容積が減少するとき、ガス室32を縮小させながらフリーピストン28が下降することで衝撃を吸収する。またダンパー14に衝撃的な引張荷重が加わって第2流体室30の容積が増加するとき、ガス室32を拡張させながらフリーピストン28が上昇することで衝撃を吸収する。更に、ピストン25が下降してインナーシリンダ22内に収納されるピストンロッド27の容積が増加したとき、その容積の増加分を吸収するようにフリーピストン28が下降する。
【0031】
第1、第2流体室29,30に充填された磁気粘性流体は、オイルのような粘性流体に鉄粉のような磁性体微粒子を分散させたもので、磁界を加えると磁力線に沿って磁性体微粒子が整列することで磁気粘性流体が流れ難くなり、見かけの粘性が増加する性質を有している。従って、第1、第2コイル44,45を励磁して磁界が発生すると、第1、第2オリフィス46,46;47,47内の磁気粘性流体の見かけの粘性が増加し、ダンパー14の減衰力が増加する。この減衰力の増加量は、第1、第2コイル44,45に供給する電流の大きさにより任意に制御することができる。
【0032】
従って、ダンパー14の減衰力は、図9のグラフに示すように、第1、第2オリフィス46,46;47,47の開度に応じて変化する成分と、磁気粘性流体の見かけの粘性に応じて変化する成分との和になり、ダンパー14の減衰力の調整可能幅を拡大することができる。
【0033】
以上、ピストン25が下動する場合について説明したが、ピストン25が上動する場合には、第1コイル44の代わりに第2コイル45が励磁することで、同様の作用効果が達成される。
【0034】
しかして、電子制御ユニットUは、バネ上加速度センサSaで検出したバネ上加速度、ダンパー変位センサSbで検出したダンパー変位、操舵角センサScで検出した操舵角および横加速度センサSdで検出した横加速度に基づいて、各車輪W…の合計4個のダンパー14…の減衰力を個別に制御することで、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑えて乗り心地を高めるスカイフック制御のような乗り心地制御と、車両の旋回時のローリングや車両の急加速時や急減速時のピッチングを抑える操縦安定制御とを、車両の運転状態に応じて選択的に実行することができる。
【0035】
第1、第2バルブプレート37,38を構成する強磁性合金は磁界の変化に対する変形の応答性が高いため、ダンパー14の減衰力の制御応答性を高めることができる。また本実施例によれば、ダンパー14の減衰力の制御応答性を、ピストン25のコイルを第1、第2コイル44,45に二分割したことによって高めることができる。
【0036】
即ち、ピストン25のコイルはダンパー14が収縮するとき(ピストン25が下動するとき)とダンパー14が伸長するとき(ピストン25が上動するとき)とに励磁されるが、仮にコイルの個数が1個であるとすると、ダンパー14の伸縮の1周期にコイルは励磁および消磁のサイクルを2回繰り返すことになる。このように、コイルに供給する電流を断続させると、その周期が短くなるほどコイルのインダクタンスの影響を受けて電流の立ち上がりが遅れ、第1、第2バルブプレート37,38を素早く吸着することができなくなって応答性が低下する問題がある。
【0037】
しかしながら、本実施の形態によれば、ピストン25に第1、第2コイル44,45を設けたことにより、第1コイル44はピストン25の下動時にのみ励磁され、第2コイル45はピストン25の上動時にのみ励磁されることになる。その結果、第1、第2コイル44,45はダンパー14の伸縮の1周期に励磁および消磁のサイクルを1回だけ行えば良いことになり、第1、第2コイル44,45に供給する電流の周期を2倍に伸ばしてインダクタンスの影響を受け難くし、電流の立ち上がりの遅れを最小限に抑えて応答性を高めることができる。
【0038】
また第1、第2オリフィス46,46;47,47と協働して第1、第2流体室29,30を連通させる第1、第2流体通路39,39;40,40を、ピストン25に設けた第1、第2コイル44,45の径方向内側に配置したので、第1、第2流体通路39,39;40,40を流れる流体の圧力で第1、第2バルブプレート37,38が開こうとしても、第1、第2コイル44,45が発生する磁力で前記流体の圧力に抗して第1、第2バルブプレート37,38を確実に閉じることができる。
【0039】
次に、図10に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0040】
第1の実施の形態では2個のピストン本体36,36を軸方向に重ねてピストンロッド27およびナット35で一体に締結しているが、第2の実施の形態は前記2分割したピストン本体36,36を一体化したものである。その結果、ピストンロッド27はピストン本体36を軸方向に貫通する必要がなくなり、ピストン本体36の上面から軸方向長さの半分以下の位置まで螺合して一体化されている。ピストン本体36の下面に、第2バルブプレート38、シム43およびストッパプレート34が前記ピストンロッド27とは別個のボルト51およびナット52でピストン36本体の下面に固定される。ピストンロッド27の下端とボルト51の上端との間でピストン本体36は中実になっており、その分だけピストン本体36の体積が増加している。
【0041】
ピストン本体36の外周面、つまりピストン本体36に設けた第1、第2コイル44,45の外周部には筒状のピストン本体外周部36aがねじ結合される。第1の実施の形態では上下のピストン本体36,36の軸方向端面から巻回済みの第1、第2コイル44,45を装着していたが、第2の実施の形態ではピストン本体36の外周面側から第1、第2コイル44,45を直接巻回し、その径方向外側をピストン本体外周部36aで覆うことで組立性を高めることができ、しかも第1、第2コイル44,45の巻数の変更も容易である。
【0042】
第1、第2コイル44,45から延びるハーネス48はピストン本体36の内部に形成したハーネス挿通孔36bから、ピストンロッド27の内部に形成したハーネス挿通孔27aを通して外部に導かれる。
【0043】
この第2の実施の形態のダンパー14の機能は、上述した第1の実施の形態のダンパー14の機能と同じである。第2の実施の形態はピストン本体26を一体化したことで、次のような更なる作用効果を達成することができる。
【0044】
即ち、第1の実施の形態では軸方向に2分割されていたピストン本体36,36を一部材で構成したので、ピストンロッド27をピストン本体36の上端から下端まで貫通させる必要がなくなり、ヨークとして機能するピストン本体36の磁路断面積をピストンロッド27が短くなった分だけ拡大し、同じ電流で第1、第2バルブプレート37および38の吸引力を高めることができる。
【0045】
また第1の実施の形態ではピストン本体36,36を軸方向に2分割していたので、二つのピストン本体36,36を結合する際に、それらの第1流体通路39…および第2流体通路40…の位相合わせが必要であったが、第2の実施の形態では第1流体通路39…および第2流体通路40…が単一のピストン本体36に形成されているため、それらの位相合わせが不要になって組付性が向上する。
【0046】
次に、図11に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0047】
第3の実施の形態はシリンダ22の外周を囲むように円筒状のリザーバ室53が形成されており、シリンダ22の下端およびリザーバ室53の下端は複数の連通孔54…で相互に連通する。シリンダ22の内部およびリザーバ室53の下半部にはオイルが充填され、リザーバ室53の上半部にはガスが充填される。
【0048】
シリンダ22の内部に摺動自在に嵌合する可動ピストン25は、実質的に第1の実施の形態のピストン25(図5参照)の下半部の構成のみを備えている。即ち、可動ピストン25は、ピストン本体36と、第1コイル45と、流体通路39…と、流体通路40…と、第1オリフィス47…と、第1バルブプレート38と、シム43と、ストッパプレート34と、ピストンリング41とを備える。流体通路39…には、下から上への流体の通過を許容し、その逆方向の流体の通過を阻止する第1チェックバルブ55…が設けられるとともに、流体通路39…の下端に対向する第1バルブプレート38には通孔38a…が形成される。
【0049】
またシリンダ22の底部にピストンロッド27′およびナット35′で固定された固定ピストン25′は、前記可動ピストン25と実質的に同じ構成を有するもので、ピストン本体36′と、第2コイル45′と、流体通路39′…と、流体通路40′…と、第2オリフィス47′…と、第2バルブプレート38′と、シム43′と、ストッパプレート34′とを備える。流体通路39′…には、下から上への流体の通過を許容し、その逆方向の流体の通過を阻止する第2チェックバルブ55′…が設けられるとともに、流体通路39′…の下端に対向する第2バルブプレート38′には通孔38a′…が形成される。但し固定ピストン25′はシリンダ22に対して移動しないため、ピストンリング41は備えていない。
【0050】
しかして、第1、第2コイル45,45′を励磁していないとき、ダンパー14が収縮してシリンダ22に対して可動ピストン25が下動すると、シリンダ22内に侵入したピストンロッド27の体積分の磁気粘性流体が、固定ピストン25′の閉弁したチェックバルブ55′…に阻止されて、第2流体室30から固定ピストン25′の第2オリフィス47′…を通過してリザーバ室53に移動するが、そのとき第2バルブプレート38′の弾性で第2オリフィス47′…の開度が増加しないため、ダンパー14の減衰力は急激に増加する。尚、可動ピストン25の下動により第2流体室30の容積が減少して第1流体室29の容積が増加するが、第2流体室30から可動ピストン25の開弁したチェックバルブ55…を介して第1流体室29に流体が移動することで、第1、第2流体室29、30の圧力は等しくなる。
【0051】
可動ピストン25の下動速度が図8のV1に達すると、固定ピストン25′の第2バルブプレート38′が流体圧に屈して下方に湾曲し、第2オリフィス47′…が機能しなくなるため、可動ピストン25の下動速度の増加に応じてダンパー14の減衰力がリニアに増加する(ラインa参照)。
【0052】
このとき、電子制御ユニットUからの指令で第2コイル45′に通電すると、第2コイル45′が発生する磁界で第2バルブプレート38′が上向きに変形しようとして閉弁方向のセット荷重が発生するため、可動ピストン25の下動速度が更に増加して図8のV2に達するまで第2バルブプレート38′が開弁せず、第2オリフィス47′…の機能でダンパー14の減衰力の立ち上がりが強くなる(ラインb参照)。従って、第2コイル45′に供給する電流を変化させることで、ダンパー14の減衰力を任意に制御することができる。
【0053】
逆に、第1、第2コイル45,45′を励磁していないとき、ダンパー14が伸長してシリンダ22に対して可動ピストン25が上動すると、シリンダ22内から抜け出たピストンロッド27の体積分の磁気粘性流体がリザーバ室53から固定ピストン25′の開弁したチェックバルブ55′…を通過して第2流体室30に移動する。しかしながら、リザーバ室53から第2流体室30への磁気粘性流体の流入量よりも、可動ピストン25の上動による第2流体室30の容積減少の方が大きいため、第1流体室29の流体は可動ピストン25の閉弁したチェックバルブ55…に阻止され、可動ピストン25の第1オリフィス47…を通過して第2流体室30に移動する。このとき、第1バルブプレート38の弾性で第1オリフィス47…の開度が増加しないため、ダンパー14の減衰力は急激に増加する。
【0054】
可動ピストン25の上動速度が図8のV1に達すると、可動ピストン25の第1バルブプレート38が流体圧に屈して下方に湾曲し、第1オリフィス47…が機能しなくなるため、可動ピストン25の上動速度の増加に応じてダンパー14の減衰力がリニアに増加する(ラインa参照)。
【0055】
このとき、電子制御ユニットUからの指令で第1コイル45に通電すると、第1コイル45が発生する磁界で第1バルブプレート38が上向きに変形しようとして閉弁方向のセット荷重が発生するため、可動ピストン25の上動速度が更に増加して図8のV2に達するまで第1バルブプレート38が開弁せず、第1オリフィス47…の機能でダンパー14の減衰力の立ち上がりが強くなる(ラインb参照)。従って、第1コイル45に供給する電流を変化させることで、ダンパー14の減衰力を任意に制御することができる。
【0056】
しかして、この第3の実施の形態によっても、第1コイル45は可動ピストン25の上動時にのみ励磁され、第2コイル45′は可動ピストン25の下動時にのみ励磁されることになる。その結果、第1、第2コイル45,45′はダンパー14の伸縮の1周期に励磁および消磁のサイクルを1回だけ行えば良いことになり、第1、第2コイル45,45′に供給する電流の周期を2倍に伸ばしてインダクタンスの影響を受け難くし、電流の立ち上がりの遅れを最小限に抑えて応答性を高めることができる。
【0057】
また第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態が必要としたフリーピストン28やガス室32(図2参照)が不要になるため、可動ピストン25の急激に下降したときにガス室32が高圧になることがなくなり、そのシール等の対策が容易になって構造の簡素化が可能になる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0059】
例えば、実施の形態ではサスペンション装置用のダンパー14を例示したが、本発明の可変減衰力ダンパーは他の任意の用途に適用することができる。
【0060】
また実施の形態では作動流体として磁気粘性流体を使用しているが、普通の粘性流体を使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両のサスペンション装置の正面図
【図2】可変減衰力ダンパーの拡大断面図
【図3】図2の3−3線拡大断面図
【図4】図3の4−4線断面図(非励磁、低速時
【図5】図3の5−5線断面図(非励磁、低速時)
【図6】図4に対応する作用説明図(励磁、高速時)
【図7】図5に対応する作用説明図(励磁、高速時)
【図8】ピストン速度と減衰力との関係を示すグラフ
【図9】磁気粘性流体の効果を説明するグラフ
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る、前記図4に対応する図
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る、前記図5に対応する図
【符号の説明】
【0062】
22 シリンダ
25 ピストン、可動ピストン
25′ 固定ピストン
27 ピストンロッド
29 第1流体室
30 第2流体室
36 ピストン本体
37 第1バルブプレート
38 第2バルブプレート、第1バルブプレート
38′ 第2バルブプレート
39 第1流体通路(流体通路)
40 第2流体通路(流体通路)
44 第1コイル
45 第2コイル、第1コイル
45′ 第2コイル
46 第1オリフィス(オリフィス)
47 第2オリフィス、第1オリフィス(オリフィス)
47′ 第2オリフィス
53 リザーバ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が充填されたシリンダ(22)と、
シリンダ(22)に摺動自在に嵌合して該シリンダ(22)を第1、第2流体室(29,30)に区画するピストン(25)と、
ピストン(25)に連結されてシリンダ(22)の端壁を貫通するピストンロッド(27)と、
ピストン(25)に設けられて第1、第2流体室(29,30)を連通させるオリフィス(46,47)と、
ピストン(25)のオリフィス(46,47)の開度を変化させて減衰力を制御する減衰力制御機構と、
を備えた可変減衰力ダンパーにおいて、
前記減衰力制御機構は、
ピストン(25)の軸方向両端に配置された磁性合金製の第1、第2バルブプレート(37,38)と、第1、第2バルブプレート(37,38)にそれぞれ対応するようにピストン(25)に配置された第1、第2コイル(44,45)とを備え、第1、第2コイル(44,45)が発生する磁界でそれぞれ第1、第2バルブプレート(37,38)を変形させてオリフィス(46,47)の開度を変化させることを特徴とする可変減衰力ダンパー。
【請求項2】
前記ピストン(25)はオリフィス(46,47)と協働して第1、第2流体室(29,30)を連通させる流体通路(39,40)を備えており、前記流体通路(39,40)はピストン(25)に設けた第1、第2コイル(44,45)の径方向内側に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の可変減衰力ダンパー。
【請求項3】
前記ピストン(25)のピストン本体(36)は軸方向一端から他端までが一部材で構成されていることを特徴とする、請求項2に記載の可変減衰力ダンパー。
【請求項4】
前記ピストンロッド(27)は前記ピストン(25)の軸方向一端から挿入されて軸方向他端の手前で終わっていることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の可変減衰力ダンパー。
【請求項5】
粘性流体が充填されたシリンダ(22)と、
シリンダ(22)の外周を囲むように配置され、下部がシリンダ(22)に連通して粘性流体が充填されるとともに上部にガスが充填されたリザーバ室(53)と、
シリンダ(22)に摺動自在に嵌合して該シリンダ(22)を第1、第2流体室(29,30)に区画する可動ピストン(25)と、
可動ピストン(25)に連結されてシリンダ(22)の端壁を貫通するピストンロッド(27)と、
可動ピストン(25)に設けられて第1、第2流体室(29,30)を連通させる第1オリフィス(47)と、
可動ピストン(25)の第1オリフィス(47)の開度を変化させて減衰力を制御する第1減衰力制御機構と、
第2流体室(30)およびリザーバ室(53)を区画するようにシリンダ(22)の底部に固定された固定ピストン(25′)と、
固定ピストン(25′)に設けられて第2流体室(30)およびリザーバ室(53)を連通させる第2オリフィス(47′)と、
固定ピストン(25′)の第2オリフィス(47′)の開度を変化させて減衰力を制御する第2減衰力制御機構と、
を備えた可変減衰力ダンパーであって、
前記第1減衰力制御機構は、
可動ピストン(25)の軸方向下端に配置された磁性合金製の第1バルブプレート(38)と、第1バルブプレート(38)に対応するように可動ピストン(25)に配置された第1コイル(45)とを備え、第1コイル(45)が発生する磁界で第1バルブプレート(38)を変形させて第1オリフィス(47)の開度を変化させるとともに、
前記第2減衰力制御機構は、
固定ピストン(25′)の軸方向下端に配置された磁性合金製の第2バルブプレート(38′)と、第2バルブプレート(38′)に対応するように固定ピストン(25′)に配置された第2コイル(45′)とを備え、第2コイル(45′)が発生する磁界で第2バルブプレート(38′)を変形させて第2オリフィス(47′)の開度を変化させることを特徴とする可変減衰力ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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