説明

可変焦点レンズ

【課題】外乱に比較的強く、かつ、凸レンズ及び凹レンズがいずれも実現可能な構造を持つ可変焦点レンズを提供する。
【解決手段】第1媒質12と第2媒質14は、いずれも流動性を備えており、かつ、互いに異なる屈折率を有している。基板16と第1薄膜18との間には、第1媒質12が充填されている。第1薄膜18と第2薄膜20との間には、第2媒質14が充填されている。第1電極22は、基板16に取り付けられている。第2電極24は、第1薄膜に取り付けられている。第1薄膜18は、第1電極22と第2電極24との間に印加された電圧に応じて変形できる柔軟性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エレクトロウエッティングの技術を用いた可変焦点レンズが記載されている。この技術では、異なる屈折率を持つ2種類の液体を基板上に積層させ、下方の液体と基板との間の濡れ性(接触角)を、電気的に制御する。これにより、2液間の境界面の曲率を変化させる。この境界面が光線屈折面となるため、この技術では、可変焦点レンズを実現することができる。
【0003】
このような可変焦点レンズは、一般的に、
・可動部品がないために壊れにくい
・焦点変化のためにモータやギヤが不要であり、このため、小型化に適する
・構造が単純なので、製造コストを低く抑えることができる
などの利点がある。
【0004】
このため、この種の可変焦点レンズは、携帯電話用の小型カメラや光ピックアップのための光学部品として実用化が期待されている。
【0005】
ところで、前記した特許文献1の技術では、外乱のために、2液間の境界面形状が変形する可能性がある。外乱とは、例えば、振動や重力などの外力および温度変化である。この技術では、2液の比重が異なる場合、2液間の境界面形状が、振動や重力などの外力の影響を受けることにより、変形するおそれがある。初期状態において2液の比重が等しい場合であっても、2液それぞれにおける熱膨張率が異なる場合には、温度変化によって比重が変わってしまう。すると、振動や重力などの外力の影響のため、2液間の境界面形状が変形するおそれがある。
【0006】
このように、この技術では、ある温度において同じ比重の2液を用いたとしても、温度変化により2液の間に比重差が生じるため、動作可能温度の範囲に制限が生じることが考えられる。また、振動や重力の影響の大きさは2液の体積に比例するため、この技術では、レンズ直径を大きくすることが難しく、直径5mm程度が限界であろうと考えられる。
【0007】
さらに、この技術では、液体を封入するケーシングの形状が2液間の境界面形状に大きく影響を及ぼすため、歪みのないレンズ面を得るためには、歪みのないケーシングが必要となる。そのため、ケーシングの作製には高精度の3次元加工を必要とする。
【0008】
一方、本発明者らは、下記非特許文献1に記載の技術を提案している。この技術では、パリレン(パラキシリレン系樹脂の総称)と呼ばれる樹脂で作られた膜と基板との間に、シリコーン樹脂を封止する。また、パリレン膜と基板とにそれぞれ電極を取り付ける。
【0009】
この非特許文献1の技術では、両電極間に電圧を印加することにより、パリレン膜の曲率を変化させることができる。これにより、可変焦点レンズを提供することができる。
【0010】
この技術では、
・外乱(振動や重力、および温度変化)の影響があっても、パリレン膜の曲率は変動しにくいので、外乱に強いレンズを提供できる、
・直径を大きく(例えば10mm以上に)した場合であっても、外乱に強いレンズを提供できる、
・液体を封入するケーシングの形状が液体の形状に影響を及ぼすことがないため、ケーシングを作製する上で高精度の3次元加工が不要である(これは小型化および製造コストの面においてきわめて有利である)、
という利点がある。
【0011】
しかしながら、非特許文献1の技術は、凹レンズを作ることが原理的に難しいという問題がある。
【特許文献1】特開2006−178469号公報
【非特許文献1】Binh-Khiem Nguyen, et. al., "Electrically Driven Varifocal Micro Lens Fabricated by Depositing Parylene Directly on Liquid," pp. 305-308, Proceedings of IEEE MEMS 2007, Kobe, Japan, 21-25 January 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、外乱に比較的強く、かつ、凸レンズ及び凹レンズがいずれも実現可能な構造を持つ可変焦点レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記のいずれかの項目に記載の構成を備えている。
【0014】
(項目1)
第1媒質と、第2媒質と、基板と、第1薄膜と、第2薄膜と、第1電極と、第2電極とを備えており、
前記第1媒質と前記第2媒質は、いずれも流動性を備えており、
かつ、前記第1媒質と前記第2媒質は、互いに異なる屈折率を有しており、
前記基板と前記第1薄膜との間には、第1空間が形成されており、
前記第1薄膜と前記第2薄膜との間には、第2空間が形成されており、
前記第1空間と前記第2空間とは重畳された状態となっており、
前記第1媒質は、前記第1空間の内部に充填されており、
前記第2媒質は、前記第2空間の内部に充填されており、
前記第1電極は、前記基板に取り付けられており、
前記第2電極は、前記第1薄膜に取り付けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間には、電圧を印加できる構成となっており、
前記第1薄膜は、前記第1電極と前記第2電極との間に印加された電圧に応じて変形できる柔軟性を有している
ことを特徴とする可変焦点レンズ。
【0015】
この項目1の可変焦点レンズにおいては、第1電極と第2電極との間に印加された電圧に応じて、第1薄膜を変形させることができる。第1薄膜は、第1媒質又は第2媒質の表面形状を規定する。この表面形状は、これらの媒質を通過する光線に対する屈折面を構成する。したがって、この発明によれば、可変焦点レンズを実現できる。
【0016】
第1媒質と第2媒質の屈折率を適宜に選択することにより、可変焦点レンズにおける屈折力の調整範囲を様々に設定することができる。第1薄膜の変形によって得られる曲率半径や、第1媒質及び第2媒質の屈折率を選択することにより、凹レンズを実現することも可能である。
【0017】
(項目2)
前記第1媒質の屈折率n1と前記第2媒質の屈折率n2とは、n1<n2という関係にあることを特徴とする項目1に記載の可変焦点レンズ。
【0018】
このように構成すると、第1薄膜により凹レンズを構成することが可能となる。
【0019】
(項目3)
前記第1媒質の屈折率n1と前記第2媒質の屈折率n2とは、n1>n2という関係にあることを特徴とする項目1に記載の可変焦点レンズ。
【0020】
このように構成すると、第1薄膜により凸レンズを構成することが可能となる。
【0021】
(項目4)
さらに第3媒質と、第3薄膜とを備えており、
前記第3薄膜と前記第2薄膜との間には、前記第2空間に重畳された第3空間が形成されており、
前記第3媒質は、前記第3空間の内部に充填されている
ことを特徴とする、項目1〜3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【0022】
一般に、本発明においては、第nまでの薄膜(nは2以上の整数)を用いることができる。薄膜間に媒質を充填し、これらの媒質の屈折率を調整することにより、レンズ作用を得ることもできる。薄膜の全てあるいはその一部に電極を取り付け、電極間の電位を調整することにより、薄膜の曲率半径を調整することができる。このようにして、所望の焦点距離を持つ可変焦点レンズを構成することができる。
【0023】
(項目5)
さらに第3電極と第4電極とスペーサとを備えており、
前記スペーサは、前記第1薄膜と前記第2薄膜との間に配置されており、
前記第3電極は、前記スペーサに取り付けられており、
前記第4電極は、前記第2薄膜に取り付けられており、
前記第3電極と前記第4電極との間には、電圧を印加できる構成となっており、
前記第2薄膜は、前記第3電極と前記第4電極との間の電圧に応じて変形できる柔軟性を有している
ことを特徴とする項目1〜4のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【0024】
この発明のように、第2薄膜の曲率半径をさらに調整できるように構成すれば、いわゆるズームレンズを得ることができる。
【0025】
(項目6)
さらに第2基板と第3媒質とを備えており、
前記第2薄膜と前記第2基板との間には、前記第2空間と重畳された第3空間が形成されており、
前記第3媒質は、前記第3空間に充填されている
ことを特徴とする項目1〜3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【0026】
(項目7)
前記基板には開口部が形成されており、
前記第1空間は、前記開口部により、外部の空間に開放されており、
前記第1媒質は空気である
ことを特徴とする項目1〜6のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、外乱に比較的強く、かつ、凸レンズ及び凹レンズがいずれも実現可能な構造を持つ可変焦点レンズを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る可変焦点レンズを、図1〜図4に基づいて説明する。
【0029】
本実施形態の可変焦点レンズは、第1媒質12と、第2媒質14と、基板16と、第1薄膜18と、第2薄膜20と、第1電極22と、第2電極24と、スペーサ26とを主要な構成として備えている。
【0030】
第1媒質12と第2媒質14とは、いずれも流動性を備えている。具体的には、第1媒質12と第2媒質14として、液体が用いられている。さらに、第1媒質12と第2媒質14は、互いに異なる屈折率を有している。第1媒質12あるいは第2媒質14として好適な材料としては、拡散ポンプ油(シリコーンオイル)、液体パラフィン、グリセリン、イオン性液体などがあるが、これらには制約されない。
【0031】
基板16としては、この実施形態では、透明でかつ絶縁性が高い材質が用いられる。このような材質としては、例えば、ガラスがある。他に使用可能な材質としては、PET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂、アクリル樹脂などがあるが、これらには制約されない。
【0032】
基板16と第1薄膜18との間には、第1空間28が形成されている。第1薄膜18と第2薄膜20との間には、第2空間30が形成されている。これらの第1空間28と第2空間30とは互いに重畳された状態となっている。
【0033】
前記した第1媒質12は、第1空間28の内部に充填されている。第2媒質14は、第2空間30の内部に充填されている。
【0034】
第1電極22は、本実施形態では、シート状に構成されており、基板16の表面に取り付けられている。第2電極24は、本実施形態では、シート状に形成されており、第1薄膜18の表面に取り付けられている(図2参照)。これらの電極の具体的な取り付け方法は後述する。
【0035】
第2電極24は、第1電極22に対して、電気的に絶縁されている。さらに、第1電極22と第2電極24との間には、電圧を印加できる電源回路32が接続されており、これらに対して所定の電圧(この実施形態では直流電圧)を供給できるようになっている。
【0036】
第1電極22と第2電極24としては、この実施形態では、いずれも透明性が高く導電性が高い材質が用いられる。このような材質としては、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)や厚さ5nm程度の金属薄膜がある。
【0037】
第1薄膜18は、第1電極22と第2電極24との間に印加された電圧に応じて変形できる柔軟性を有している。
【0038】
なお、図1において符号18aは、第1電極22と第1薄膜18との間に配置された薄膜を示す。同様に、符号20aは、スペーサ26と第2薄膜20との間に配置された薄膜を示す。
【0039】
次に、図3を参照しながら、本実施形態における可変焦点レンズの作用を説明する。
【0040】
まず、この実施形態において、第1媒質12の屈折率n1と第2媒質14の屈折率n2とが、n2>n1の関係を満たすとする。この場合、図3(a)に示すように、基本的には、凹レンズの作用を果たすことが期待できる。図3に示す凹レンズの虚焦点を符号Fで示す。
【0041】
ここで、第1電極22と第2電極24との間に電圧を印加し、両電極間に引力を発生させる。これは、例えば、両電極間に電位差を与えることにより実現できる(図3(b)参照)。
【0042】
すると、第2電極24が取り付けられている第1薄膜18は、第2電極24に加えられた引力により変形し、その曲率半径が小さくなる(図3(b)参照)。その結果、第1薄膜18と基板16との間に充填された第1媒質12の上面(すなわちレンズ面)における曲率半径も小さくなる。
【0043】
すると、第1媒質12の表面(レンズ面)への入射光線の入射角が大きくなり、出射角も大きくすることができる。これにより、図3(b)に示されるように、虚焦点Fの位置を接近させることができる。この例では、このようにして、可変焦点レンズを実現することができる。
【0044】
なお、この説明においては、説明を簡易にするため、第1媒質12の屈折率n1を、基板16の屈折率とほぼ等しいと仮定した。このため、第1媒質12と基板16との境界面における光の屈折は小さいとした(図3(a)参照)。
【0045】
また、厳密には、第1薄膜18及び第2薄膜20の屈折率に応じて、これらの薄膜でのレンズ作用も考えられるが、これらの薄膜の厚さを十分に薄くすれば、実用上は、その影響を無視することが可能である。また、必要に応じて、これらの薄膜の屈折率を、第1媒質12や第2媒質14に近づけることにより、これらの薄膜によるレンズ作用の影響を一層軽減することが可能である。
【0046】
また、本実施形態のレンズにおいては、薄膜によって媒質が覆われているので、外乱(振動や重力、および温度変化)があっても、媒質表面の振動や変形を防止ないし減少させることができるという利点がある。このため、得られる焦点距離の精度を向上させることができる。
【0047】
なお、本実施形態において、第1電極22と第2電極24との間の電位差をほぼ0にすれば、第1薄膜18の弾力により、第1媒質12の上面形状は初期の状態に復帰する。これにより、虚焦点Fの位置を初期の位置に復帰させることができる。第1電極22と第2電極24との間の電位差をほぼ0にするためには、例えば、これらの電極への電圧印加を解除すればよい。
【0048】
なお、ここで、本実施形態のレンズにおける駆動原理を更に詳しく説明する。第1電極22と第2電極24との間に電圧を印加すると、両電極間に引力が働き、第1薄膜18は基板16に引き寄せられる(図3(b)参照)。ここで、第1媒質12の周縁部分は、両電極間の距離が短いため、大きな引力が発生する。一方、第1媒質12の中心付近は、電極間距離が長いため、あまり大きな引力は発生しない。このため、第1媒質12の周縁部分のみが大きく変形し、第1薄膜18が基板16に引き寄せられる。ここで、第1薄膜18と基板16とで封止された液体の体積が一定であることに注意すると、初期状態において周縁部にあった第1媒質12は、電極間に電圧を印加した状態では、中心付近に移動すると考えられる。その結果、電圧を印加した状態では、初期状態に比べて、レンズ口径が小さく、かつ、レンズ高さが大きくなる。つまり、電圧印加により、レンズの曲率半径を小さくすることができる。
【0049】
(レンズの屈折力の調整)
つぎに、レンズの屈折力(レンズパワー)を調整する場合の原理を説明する。まず、符号を以下のように定義する。
n0:レンズ外部における空気の屈折率、
n1:第1媒質の屈折率、
n2:第2媒質の屈折率、
R1:第1薄膜の曲率半径、
R2:第2薄膜の曲率半径。
【0050】
この場合においては、以下のように屈折力が設定できる。
・n2−n0>0:第2媒質14の上面は凸レンズ、
・n1−n2>0:第1媒質12の上面(第1媒質12と第2媒質14の境界面)は凸レンズ、
・n1−n2<0:第1媒質12の上面は凹レンズ、
・(n2−n0)/R2+(n1−n2)/R1>0:レンズ全体として凸レンズ、
・(n2−n0)/R2+(n1−n2)/R1<0:レンズ全体として凹レンズ。
【0051】
ただし、レンズ全体としての二つの式は、厳密にはスペーサ26の厚さがR1、R2に対して小さい場合の近似式である。ある実施形態においてはこの近似式を用いて問題ない。スペーサ26の厚さがR1、R2に対して大きい場合であっても、n0、n1、n2、R1、R2およびスペーサ26の厚さtを用いて屈折力が設定できる。
【0052】
(レンズの作製方法)
つぎに、図4を参照しながら、本実施形態に係る可変焦点レンズの作製方法の一例を説明する。
【0053】
まず、ガラス製の基板16を用意する(図4(a))。ついで、基板16の上面に、第1電極22を形成する。この例では、第1電極22として、透明な電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)が用いられている。
【0054】
ついで、透明樹脂製の薄膜18aをパターニングし、第1電極22の上面を開放させる。この透明樹脂としては、例えば、アモルファスフッ素樹脂(商品名「Cytop」)を用いることができる。この状態で、第1電極22の上面に第1媒質12を配置する。この状態では、第1媒質12は、それ自体の表面張力により、上方に盛り上がった状態となる(図4(b)参照)。この例では、第1媒質12として、液体パラフィンが用いられている。
【0055】
ついで、第1媒質12の上面に、第1薄膜18を形成する(図4(c)参照)。この薄膜18は、この例では、膜厚約500nmのパリレン樹脂が用いられている。このような薄膜は、例えば蒸着により形成することができる。
【0056】
ついで、第1薄膜18の上面に、第2電極24を配置する(図4(d)参照)。この第2電極24は、この例では、膜厚約5nmの金あるいはアルミニウムが用いられている。第2電極24も例えば蒸着により形成することができる。
【0057】
ついで、第1薄膜18の上方に、スペーサ26を配置する(図4(e)参照)。このスペーサ26としては、この例では、ポリ塩化ビニル(PolyVinylChloride)を用いている。さらに、スペーサ26の内部に形成された空間に、第2媒質14を充填する。第2媒質14の材質としては、この例では、シリコーンオイル(silicone fluid)を用いている。
【0058】
その後、第2媒質14の上面に第2薄膜20を形成する(図4(f)参照)。この薄膜20は、この例では、膜厚約1000nmのパリレン樹脂が用いられている。このような薄膜も、例えば蒸着により形成することができる。
【0059】
(実験例)
ついで、図4に示した可変焦点レンズを用いた実験例を、図5及び図6を用いて説明する。
【0060】
図5は、第1電極22と第2電極24との間における電圧を0Vとした場合において、この実施形態のレンズで得られた像を示している。これに対して、図6は、両電極間の電圧を300V(直流)とした場合に得られた像を示している。この図からも、本実施形態のレンズによって焦点距離を可変にできることが判る。
【0061】
なお、この実験例における実験条件は以下の通りである。
【0062】
(実験条件)
撮像方法:本実施形態のレンズを介して、顕微鏡により、物体を観察、
本実施形態のレンズの直径:4mm、
撮像される物体:「MEMS2008」と書かれた紙、
顕微鏡:Keyence製VHX-500、
顕微鏡の倍率:50倍(一定)、
物体とレンズとの距離:29mm(一定)、
レンズと顕微鏡との距離:26mm(一定)。
【0063】
(第2実施形態)
つぎに、図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る可変焦点レンズを説明する。本実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を付すことにより、説明を簡易化する。
【0064】
このレンズは、さらに、第3媒質34、第3薄膜36、第2スペーサ38を備えている。
【0065】
第3薄膜36は、第2薄膜20の上方に重畳された状態で配置されている(図7参照)。第2薄膜20と第3薄膜36との間には、第3空間40が形成されており、ここには、第3媒質34が充填されている。
【0066】
本実施形態では、スペーサ26に第3電極41が取り付けられており、第2薄膜20に第4電極42が取り付けられている。さらに、第2電源回路45により、これらの電極間に電圧を印加できるようになっている。
【0067】
同様に、第2スペーサ38に、第5電極43が取り付けられ、第3薄膜36に第6電極44が取り付けられている。これらの電極にも第3電源回路46が接続されており、独立して所望の電圧を印加できるようになっている。
【0068】
なお、図7において符号36aは、第5電極43と第3薄膜36との間に配置された薄膜を示す。
【0069】
第2実施形態のレンズによれば、それぞれ対向する電極間における電位差を調整することにより第1〜第3媒質の上面の曲率半径をそれぞれ変化させることができる。これにより、焦点距離を変化させることができる。
【0070】
なお、この第2実施形態では、第3媒質までを例示したが、一般に、第n薄膜(nは2以上の整数)を用いることによって、第n媒質を積み上げることができる。これらの媒質の表面の曲率半径を電圧により変化させることで、積み上げられた状態のレンズにおける焦点距離を変化させることができる。
【0071】
第2実施形態における他の構成及び利点は、基本的に第1実施形態と同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0072】
(第3実施形態)
つぎに、図8を参照して、本発明の第3実施形態に係る可変焦点レンズを説明する。本実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を付すことにより、説明を簡易化する。
【0073】
このレンズは、第1実施形態のレンズに加えて、さらに、第3媒質48と、第2基板50とを備えている。
【0074】
第2基板50は、第1実施形態で説明した基板16と平行して、かつ、間隔を空けた状態で配置されている。
【0075】
第2基板50と第2薄膜20との間には、第3空間52が形成されており、その内部に、第3媒質48が充填されている。
【0076】
第2基板50及び第2薄膜20には、それぞれ、第1電極22及び第2電極24とは電気的に絶縁された第3電極53及び第4電極54が取り付けられている。
【0077】
第3及び第4電極53及び54には、電源回路32と同様の第2電源回路55が接続されており、これらに対して独立して所望の電圧を印加できるようになっている。
【0078】
第3実施形態のレンズによれば、第1電極22と第2電極24との間、及び第3電極53と第4電極54との間における電圧を調整することにより、基板間に配置された媒質の曲率半径を変化させることができる。これにより、焦点距離を変化させることができる。
【0079】
第3実施形態における他の構成及び利点は、基本的に第1実施形態と同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0080】
(第4実施形態)
つぎに、図9を参照して、本発明の第4実施形態に係る可変焦点レンズを説明する。本実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を付すことにより、説明を簡易化する。
【0081】
このレンズでは、基板16に開口部161が形成され、第1空間28が外部に露出されている。また、この例では、第1媒質12が、開口部161を介して外部から供給される空気となっている。つまり、この例では、第1媒質12の屈折率n1と空気の屈折率n0とが等しくなっている。すなわち、n1=n0である。
【0082】
さらに、この例では、第2媒質14の屈折率n2が、屈折率n1及びn0と異なっている。このレンズでは、他の実施形態の場合と同様、求める屈折力に対応して、レンズ全体として凸レンズとすることも、凹レンズとすることも可能である。また、他の実施形態の場合と同様、求める屈折力に対応して、n2<n1とすることも、n2>n1とすることも可能である。しかしながら、この実施形態(n1=n0)の場合は、第2媒質14の屈折率n2を第1媒質12の屈折率n1(=空気の屈折率n0)より小さくすることは現実的には難しい。
【0083】
第4実施形態のレンズにおいても、第1実施形態の場合と同様に、第1電極22と第2電極24との間に印加された電圧に対応して、第1媒質12と第2媒質14との境界面(レンズ面)の曲率半径を変化させることができる。これにより、焦点距離を変化させることができる。
【0084】
第4実施形態における他の構成及び利点は、基本的に第1実施形態と同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0085】
(第5実施形態)
つぎに、図10を参照して、本発明の第5実施形態に係る可変焦点レンズを説明する。本実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を付すことにより、説明を簡易化する。
【0086】
このレンズでは、スペーサ26に第3電極41が取り付けられており、第2薄膜20に第4電極42が取り付けられている更に、第3電極41及び第4電極42には、第2電源回路45が接続されており、所望の電圧を独立して印加できるようになっている。
【0087】
また、このレンズにおいては、第2薄膜20は、第3電極41と第4電極42との間の電圧に応じて変形できる柔軟性を有することが好ましい。
【0088】
第5実施形態のレンズにおいては、対向する電極間に対して適宜の電圧を供給することにより、第1媒質12及び第2媒質14の上面の曲率半径をいずれも独立して変化させることができる。このため、本実施形態のレンズにおいては、倍率変更と合焦点が可能となる。つまり、この実施形態によれば、ズームレンズを提供することが可能になる(図11参照)。
【0089】
第5実施形態における他の構成は、基本的に第1実施形態と同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0090】
(第6実施形態)
つぎに、図12及び図13を参照して、本発明の第6実施形態に係る可変焦点レンズを説明する。本実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を付すことにより、説明を簡易化する。
【0091】
このレンズでは、第1薄膜18の上面に第1ミラー56を配置する。さらに、第2薄膜20の上面に第2ミラー58を配置する。
【0092】
図12に示されるように各ミラーを取り付けることで、反射光学系を形成することができる。これらのミラーは、例えばアルミニウムの蒸着などによって製作可能である。第2薄膜20を通過した光は、最初に下部の第1ミラー56で反射し、次に上部の第2ミラー58で反射し、最後に第1薄膜18を通過して焦点を結ぶ。これにより、第2薄膜20を通過した光の本来の焦点(F2)より近いところ(F1)に結像面が得られるため、光学系の薄型化が可能である。また、他の実施形態と同様に、静電気力によって第1薄膜18および第2薄膜20を駆動することで、焦点距離の微調整が可能である。
【0093】
また、第1ミラー56と第2ミラー58とを調光ミラーにより構成することにより、図13に示すレンズ作用を得ることができる。すなわち、下部の第1ミラー56を調光ミラーとすれば、第2薄膜20を通過した光が第1ミラー56を透過するか、反射するかを選択することで、焦点距離を大きく変えることができる。ただし、ここでいう調光ミラーとは、電圧などの作用により、光を反射する「鏡の状態」と、光を透過する「透明な状態」とをスイッチングできる調光材料のことを指す。調光ミラーを用いる場合も、静電気力によって第1薄膜18および第2薄膜20を駆動することで、焦点距離の微調整が可能である。
【0094】
なお、調光ミラーにおける反射透過特性には波長選択性が存在しうるので、目的の波長に対応した調光ミラーを用いることが好ましい。
【0095】
また、調光ミラーの反射透過特性を制御するために、それぞれに対応する電極及び電源回路を設けることが好ましい。
【0096】
第6実施形態における他の構成は、基本的に第1実施形態と同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0097】
なお、前記実施形態及び実施例の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図2】図1に示す可変焦点レンズの分解斜視図である。
【図3】図(a)及び(b)は、図1に示す可変焦点レンズの作用を説明するための説明図である。
【図4】図1に示す可変焦点レンズの作製方法の一例を説明するための説明図である。
【図5】実験例のレンズによって得られた像(電圧0Vの場合)を示す説明図である。
【図6】実験例のレンズによって得られた像(電圧300Vの場合)を示す説明図である。
【図7】第2実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図8】第3実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図9】第4実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図10】第5実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図11】図10の可変焦点レンズにおけるズーム作用を説明するための説明図である。図(a)は、第1薄膜のみを駆動した状態を示す。図(b)は、第2薄膜のみを駆動した状態を示す。
【図12】第6実施形態に係る可変焦点レンズの原理的な構成を示すための断面図である。
【図13】図12の可変焦点レンズにおける調光レンズの作用を説明するための説明図である。図(a)は、調光レンズを光が透過する場合の作用を示している。図(b)は、調光レンズで光が反射される場合の作用を示している。
【符号の説明】
【0099】
12 第1媒質
14 第2媒質
16 基板
161 開口部
18 第1薄膜
18a 薄膜
20 第2薄膜
20a 薄膜
22 第1電極
24 第2電極
26 スペーサ
28 第1空間
30 第2空間
32 電源回路
34・48 第3媒質
36 第3薄膜
36a 薄膜
38 第2スペーサ
40・52 第3空間
41・53 第3電極
42・54 第4電極
43 第5電極
44 第6電極
45・55 第2電源回路
46 第3電源回路
50 第2基板
56 第1ミラー
58 第2ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1媒質と、第2媒質と、基板と、第1薄膜と、第2薄膜と、第1電極と、第2電極とを備えており、
前記第1媒質と前記第2媒質は、いずれも流動性を備えており、
かつ、前記第1媒質と前記第2媒質は、互いに異なる屈折率を有しており、
前記基板と前記第1薄膜との間には、第1空間が形成されており、
前記第1薄膜と前記第2薄膜との間には、第2空間が形成されており、
前記第1空間と前記第2空間とは重畳された状態となっており、
前記第1媒質は、前記第1空間の内部に充填されており、
前記第2媒質は、前記第2空間の内部に充填されており、
前記第1電極は、前記基板に取り付けられており、
前記第2電極は、前記第1薄膜に取り付けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間には、電圧を印加できる構成となっており、
前記第1薄膜は、前記第1電極と前記第2電極との間に印加された電圧に応じて変形できる柔軟性を有している
ことを特徴とする可変焦点レンズ。
【請求項2】
前記第1媒質の屈折率n1と前記第2媒質の屈折率n2とは、n1<n2という関係にあることを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記第1媒質の屈折率n1と前記第2媒質の屈折率n2とは、n1>n2という関係にあることを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項4】
さらに第3媒質と、第3薄膜とを備えており、
前記第3薄膜と前記第2薄膜との間には、前記第2空間に重畳された第3空間が形成されており、
前記第3媒質は、前記第3空間の内部に充填されている
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【請求項5】
さらに第3電極と第4電極とスペーサとを備えており、
前記スペーサは、前記第1薄膜と前記第2薄膜との間に配置されており、
前記第3電極は、前記スペーサに取り付けられており、
前記第4電極は、前記第2薄膜に取り付けられており、
前記第3電極と前記第4電極との間には、電圧を印加できる構成となっており、
前記第2薄膜は、前記第3電極と前記第4電極との間の電圧に応じて変形できる柔軟性を有している
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【請求項6】
さらに第2基板と第3媒質とを備えており、
前記第2薄膜と前記第2基板との間には、前記第2空間と重畳された第3空間が形成されており、
前記第3媒質は、前記第3空間に充填されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。
【請求項7】
前記基板には開口部が形成されており、
前記第1空間は、前記開口部により、外部の空間に開放されており、
前記第1媒質は空気である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の可変焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−229513(P2009−229513A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71407(P2008−71407)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 少子高齢社会と人を支えるIRT基盤の創出」による産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】