説明

可変界磁モータ

【課題】モータが外部から回される場合の鉄損の発生を小さくすると共にコギングトルクの影響を小さくする。
【解決手段】ロータ10に対してステータ20を軸線方向に変位可能に設け外部操作によりステータを変位させて界磁を任意に変えることができる可変界磁モータにおいて、マグネット14の磁極数とステータ20のスロット数との関係を8:9(例えば32極36スロット)や10:12とする。両部材間に磁束が生じる両部材の対向面積を可変にすることができ、ロータからステータを離反させる程モータの有効磁束を減らすことができるため、モータが外部から回された場合にモータに発生する鉄損を低く抑えることができる。そして、磁極数とスロット数との最小公倍数が大きなモータを構成することにより、コギングトルクの小さなモータとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変界磁モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用状況に応じた適切な回転数およびトルクが得られるように界磁を調整できるようにした可変界磁モータを動力源として用いた電気自動車がある。一般的に可変界磁モータは、ステータ又はロータの一方が他方に対して移動可能に設けられ、可変機構部が当該ステータおよびロータの相対位置を変化させることによって、両者の対向面積を増減させて界磁を増減させる。このようなモータが電気自動車に適用された場合には、自動車の加速時に対向面積を増大させて界磁を増加させ、高トルクが得られるようにし、逆に高速走行時には対向面積を減少させて界磁を減少させ、高速回転が可能となる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特願2006−332985
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記可変界磁モータにあっては、自動車を惰走させる場合にモータの駆動を止めるべくモータに通電しないようにするが、車輪のホイールにモータを直結したタイプにあっては車輪が回転している間はモータが回されている状態となる。その時にはモータの鉄損が発生し、その損失分のフリクション(引きずり)が発生する。その場合には、無駄な走行抵抗が生じるだけでなく、モータの温度上昇をもたらすという問題があった。
【0004】
また、自動二輪車のように車体を降りて押す時のような極低速時の場合にはモータのコギングトルクによってガクガクといった振動や騒音が出やすくなる。騒音としては、特にギア減速装置を設けた場合にバックラッシュにより生じ易い。さらに、大出力モータにあっては、コギングトルクも大きくなり、極低速で押して走行させる場合にモータを回す(車体を押す)のに大きな力が必要になり、使い勝手が悪くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決して、モータが外部から回される場合の鉄損の発生を小さくすると共にコギングトルクの影響を小さくすることを実現するために本発明に於いては、ロータと、前記ロータに対して同軸をなし、かつ前記ロータの回転軸の軸線方向に変位自在に設けられたステータと、前記ステータを前記回転軸方向に変位させるステータ移動手段とを有する可変界磁モータであって、前記ロータおよび前記ステータの磁極数とスロット数とが、10極12スロットまたは8極9スロットの各整数倍の組み合わせからなるものとした。
【発明の効果】
【0006】
このように本発明によれば、ロータに対してステータを変位自在に設けた可変界磁モータを用いることから、両部材間に磁束が生じる両部材の対向面積を可変にすることができ、ロータからステータを離反させる程モータの有効磁束を減らすことができるため、モータが外部から回された場合にモータに発生する鉄損を低く抑えることができる。そして、磁極数とスロット数との最小公倍数が大きいほどコギングトルクが小さくなることから、磁極数とスロット数とが10極12スロットまたは8極9スロットの各整数倍の組み合わせからなることにより、両値の最小公倍数が大きなモータを構成することができ、それによりコギングトルクの小さなモータとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明が適用された電気自動車としての自動二輪車における駆動輪に設けられた可変界磁モータを示す断面図であり、図2は図1の矢印II線から見た正面図である。
【0008】
図1に示すように、第1実施形態に係る可変界磁モータMは、アウターロータ型のモータであり、電気自動車の車輪の一部を構成するようにインホイールモータとして車体本体のナックル1に固定されている。
【0009】
車体本体に設けられたナックル1に、ステータ支持構造体としてのステータベース2が固定されている。そのステータベース2は、モータMの回転軸の軸線Aと同軸に配置された円筒形状の円筒形部分3と、円筒形部分3の軸線方向両端部にそれぞれ外向フランジ部を介して半径方向外向きに設けられた図示例では3本ずつの第1突出部分4および第2突出部分5とにより構成されている。第1および第2突出部分4・5は、それぞれ周方向に120度間隔で3箇所に配置されている。なお、第2突出部分5の3本の内のいずれか2本の間にそれぞれを連結するように平板状のブラケットが形成されており、そのブラケットにモータMの回転センサ(図示せず)が設けられている。
【0010】
第1および第2突出部分4・5とのそれぞれ対峙するもの同士間には、軸線Aと平行に掛け渡されるように3本のガイドシャフト6が設けられている。ガイドシャフト6にあっては、その両軸端部を第1および第2突出部分4,5に圧入して固定されている。また、ステータベース2のナックル1側には、後述するステータ移動手段としてのワイヤ式牽引装置30のケーブル端部を固定支持するケーブル固定部分8が設けられている。
【0011】
ステータベース2の円筒形部分3の円筒内には、一対の軸受7a・7bを介してモータMの回転軸としてのシャフト11が回転自在に軸支されている。シャフト11のナックル1とは相反する側の軸線方向端部には、ナックル1側に開口する有底円筒形状のロータ本体12の底部中心が同軸に固着されており、このようにしてモータMのロータ10が構成されている。ロータ10の外周部には、駆動輪Wのホイールが取り付けられている。また、ロータ本体12の周壁13の内周面には、周方向にN・S極を交互に並べた複数のマグネット14が配設されている。
【0012】
複数のマグネット14に外囲されるようにステータ20が設けられている。ステータ20は、上記3本のガイドシャフト6に例えばボールブシュからなる3つのブシュ24を介して摺動自在に支持された環状部分22と、環状部分22に一体に組み付けられかつ半径方向外向きに突出する複数のティースを有する積層鋼板からなるステータコア21と、ステータコア21の各ティース部分に巻回された電機子コイル23とにより構成されている。このようにして、ステータ20はモータM内で軸線A方向に往復移動可能に設けられている。
【0013】
上記したワイヤ式牽引装置30にあっては、一端が環状部材22に連結された軸方向力伝達部材としてのインナケーブル31およびインナケーブル31を軸線方向に移動可能に支持するアウタケーシング32と、例えば運転者により手動操作可能に車両本体の運転席に設けられた手動牽引装置33(図3)とにより構成されている。アウタケーシング32の一端はステータベース2の上記したケーブル固定部分8に固定され、他端は図3に示されるように手動牽引装置33のケーシング34に固定されている。
【0014】
インナケーブル31のモータM側端部はケーブル固定部分8を貫通してステータ20の環状部分22に連結され、他端は図3に示されるように手動牽引装置33の変位部であるドラム35に連結されている。ドラム35はケーシング34に回転可能に設けられている。ドラム35には傾動操作によりドラム35を所定量回転させるべく手動レバー36が固着されており、インナケーブル31を巻き取る方向にレバー36を傾動させることによりロータ10からステータ20が離反する向き(図1の矢印aの向き)に牽引される。
【0015】
レバー36の最も傾動させた位置をステータ最大抜き位置とするが、例えばマグネット14の磁極面とステータコア21の対向面との重なり面積で完全に重なった状態(全入れ)を100%とした場合、最大抜き位置を0〜50%の任意の値に設定して良い。また、インナケーブル31を巻き解く方向(図の実線で示される位置側)にレバー36を傾動させることにより、例えばマグネット14の磁気吸引力または図示されない戻しばねによりステータ20がロータ10の凹部内に戻り得るようになっている。その方向に最大に傾動させた場合にはステータ20はロータ10内に全入れ位置となり、上記100%重なった状態となる。
【0016】
なお、インナケーブル31およびアウタケーシング32は自動二輪車や自転車のブレーキ用ケーブルとして一般的に使用されているものであって良い。ケーブルの代替としてプッシュプルケーブル等を用いても良い。また、図示例では手動操作する手動牽引装置33について示したが、ワイヤ式牽引装置30の軸方向力発生手段にあっては、モータ装置によりドラム35を回転させる自動牽引装置であっても良い。自動牽引装置とした場合には、電気信号により遠隔操作できることから、インナケーブル31およびアウタケーシング32の長さを短く設定して自動牽引装置をモータMと一体に設置することができ、装置をコンパクト化し得る。
【0017】
本図示例にあっては、図2に示されるように、マグネット14は32個配設され、ステータコア21のスロット(ティース)は36個設けられている。それらの数は、磁極数とスロット数との関係を8:9とした場合である。磁極数とスロット数との関係は10:12としても良い。いずれの場合も比で表した数字の整数倍となる磁極数およびスロット数を設ける。コギングトルクは回転方向に働く磁気吸引力の総和となることから、理論上、10極12スロットや8極9スロットなどの組み合わせは磁気吸引力が相殺される効果があるため、それらの整数倍が低コギング化として有効である。
【0018】
このように、界磁を可変制御可能な可変界磁モータであって、さらに磁極数とスロット数との関係をコギングトルクを低減化し得る組み合わせにしたことから、自動車を惰走させる場合にはレバー36をステータ最大抜き位置に操作して、図4に示されるようにステータ20を最大抜き位置まで移動させることができる。これにより、マグネット14とステータコア21との間の有効磁束面積が設計上の最小値となり、惰走時の鉄損の発生量を低減でき、損失分のフリクション(引きずり)の発生を抑制できるため、無駄な走行抵抗が低減されると共にモータMの温度上昇も抑制される。
【0019】
また、停止直前や、車体を降りて押す場合のように極低速で走行させる場合にはモータMのコギングトルクの影響を受け易いが、磁極数とスロット数との関係を上記したように設定したことからステータ20の全入れ状態でも低コギングトルク化され、さらにステータ20を最大抜き位置に位置させることにより、有効磁束が減少されるためより一層低コギングトルク化される。したがって、上記したような極低速時においてステータ20を最大抜き位置最大抜き位置にすることにより、鉄損が少ないことにより走行抵抗が小さくかつコギングトルクの影響がより一層小さくなり、自動二輪車などにおいて車両から降りて押しながら走行させる場合には取り回し性が容易になると共に静かになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用された電気自動車としての自動二輪車における駆動輪に設けられた可変界磁モータを示す断面図である。
【図2】図1の矢印II線から見た正面図である。
【図3】ワイヤ式牽引装置の一例を示す要部破断側面図である。
【図4】ステータを最大抜き位置にした図1に対応する図である。
【符号の説明】
【0021】
10 ロータ
14 マグネット
20 ステータ
21 ステータコア
22 環状部分
23 電機子コイル
24 ブシュ
30 ワイヤ式牽引装置
M モータ
W 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、前記ロータに対して同軸をなし、かつ前記ロータの回転軸の軸線方向に変位自在に設けられたステータと、前記ステータを前記回転軸方向に変位させるステータ移動手段とを有する可変界磁モータであって、
前記ロータおよび前記ステータの磁極数とスロット数とが、10極12スロットまたは8極9スロットの各整数倍の組み合わせからなることを特徴とする可変界磁モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−57209(P2010−57209A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216110(P2008−216110)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】