説明

可溶性アニリン系クロミズムポリマー及びその製造方法

【課題】水性溶媒及び有機溶媒に可溶であり、かつ各種刺激に対して色を敏感に変えることが可能な可溶性アニリン系クロミズムポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】特定の置換基を有する置換アニリン由来部分と非置換アニリン由来部分とからなる繰り返し構造を有し、かつ特定範囲の数平均分子量を有する可溶性アニリン系クロミズムポリマー、及び該可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造の可溶性アニリン系クロミズムポリマー及びその製造方法に関する。本発明は、特に、置換アニリンとアニリンとを共重合し、特定構造の繰り返し単位を有するアニリン系ポリマーとすることにより、水性溶媒及び有機溶媒に可溶であり、各種刺激に対して色を敏感に変えることが可能な可溶性アニリン系クロミズムポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリンはドープにより導電性を示すことがよく知られている。しかしポリアニリンはほとんど全ての溶剤に不溶であり、成形性及び加工性に難点がある。さらに、ポリアニリンが溶媒に不溶であるため、ポリアニリンの導電性以外の機能性に関する研究は困難であり十分に行われたとは言い難い。
【0003】
例えば、特許文献1には、アニリンを電解重合する方法が記載され、電極上にポリアニリンのフィルムを形成することが可能であることが記載されている。しかしながら、ポリアニリンが溶媒に不溶であるため、単離操作が煩雑になること、及び大量合成が困難であるという問題がある。そのため、高い導電性を有するとともに、任意のpHを示す水又は有機溶媒に対して優れた溶解性を示し、塗布等の成形、加工が可能なアニリン系ポリマーが検討されている。例えば、特許文献2には、スルホン基置換アニリン及び/又はカルボキシル基置換アニリンを、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤を用いて重合することで、高分子量の可溶性アニリン系ポリマーが得られることが記載されている。得られたポリマーを酸処理することにより、更に導電性及び溶解性が向上し、かつ、これらポリマーを主成分とする組成物は塗布性が良好で、塗布後の膜強度も優れていることが記載されている。しかしながら、溶解性を向上させるために、酸処理等の後処理が必要であること、導電性を高めると溶解性が低下すること等の問題がある。また、導電性以外の機能性についての記載はない。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−235831号公報
【特許文献2】特許第3475017号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水性溶媒及び有機溶媒に可溶で、成形性及び加工性に優れるとともに、各種刺激に対して色を敏感に変えることが可能な可溶性アニリン系クロミズムポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定構造の繰り返し単位及び数平均分子量を有する可溶性アニリン系クロミズムポリマー、特に、特定の置換アニリンとアニリンとを特定の比率で共重合し、特定構造の繰り返し単位を有するアニリン系ポリマーを合成することにより、水性溶媒及び有機溶媒に可溶で、成形性及び加工性に優れるとともに、各種刺激に対して色を敏感に変えることが可能な可溶性アニリン系クロミズムポリマーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は具体的には、以下の[1]〜[11]の通りである。
【0007】
[1]以下の式(I):
【化1】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示し、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水素原子でなく、m及びnは、0<m<1、0<n<1、m+n=1を満たす。}
で表される繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜500,000である可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0008】
[2]上記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つが酸性基である、上記[1]に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0009】
[3]上記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも2つが、酸性基と、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、水酸基、ハロゲン原子又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基との組合せである、上記[1]又は[2]に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0010】
[4]上記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも2つが、酸性基と水酸基との組合せであり、かつ該酸性基と該水酸基とがo−位に位置する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0011】
[5]上記酸性基がカルボキシル基である、上記[2]〜[4]のいずれかに記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0012】
[6]上記式(I)のmが、0.05≦m≦0.8である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【0013】
[7]以下の式(II):
【化2】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを電解重合させる、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーを製造する方法。
【0014】
[8]上記溶液が酸性水系電解溶液である、上記[7]に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。
【0015】
[9]以下の式(II):
【化3】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)、アニリン(ロ)及び酸化剤(ハ)を含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを酸化重合させる、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーを製造する方法。
【0016】
[10]上記酸化剤(ハ)が過酸化物とペルオキシダーゼとの組合せである、上記[9]に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。
【0017】
[11]上記過酸化物が過酸化水素であり、上記ペルオキシダーゼが西洋ワサビペルオキシダーゼである、上記[10]に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る可溶性アニリン系クロミズムポリマーは、任意のpHを示す水性溶媒及び有機溶媒に対して優れた溶解性を示し、塗布等の成形及び加工が可能であり、かつ、光、熱、圧力、電気、溶媒等の各種刺激に対して色を敏感に変えるクロミズム性を有する。かかるポリマーはイオンセンサー、色素センサー、光化学センサー等のセンサー材料、感熱記録材料、示温材料、カラーフォーマ材料、消色トナー、光記録材料等の広範囲の分野に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のアニリン系クロミズムポリマーは、以下の式(I):
【化4】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示し、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水素原子でなく、m及びnは、0<m<1、0<n<1、m+n=1を満たす。}
で表される繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜500,000である可溶性アニリン系クロミズムポリマーである。
【0020】
式(I)において、R1、R2、R3及びR4は、本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの可溶性を発現する観点から、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基又は炭素数1〜12のフルオロアルキル基である。但しR1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水素原子でない。
【0021】
1、R2、R3及びR4は、互いに同一であっても異なっていてもよい。より多くの溶媒に対する可溶性を発現する観点から、R1〜R4がそれぞれ異なる官能基であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの可溶性をより向上させる観点から、R1、R2、R3及びR4のうち、少なくとも1つは酸性基であることが好ましい。酸性基としては特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、硼酸基等が例示される。特に、水性溶媒への溶解性に優れる点からカルボキシル基、スルホン基が好ましく、さらにカルボキシル基が好ましい。
【0023】
さらに、本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの溶解性をより高くする観点から、R1、R2、R3及びR4のうち、少なくとも2つが、上記酸性基と炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、水酸基、ハロゲン原子又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基との組合せであることが好ましい。官能基の上記組合せはo−位、m−位又はp−位のいずれで存在していてもよい。溶解性をより高めるとともに、クロミズム性をより高感度にするため、R1、R2、R3及びR4のうち、少なくとも2つが、上記酸性基と水酸基との組合せであることが好ましい。該酸性基と該水酸基との組合せはo−位、m−位又はp−位のいずれで存在していてもよいが、クロミズム性がより高感度である点でo−位に位置することが好ましい。
【0024】
炭素数1〜12のアルキル基の中では、有機溶媒への溶解性に優れる点で炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、これらの中ではメチル基が好ましい。
【0025】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜12のアルコキシ基の中では、水性溶媒への溶解性に優れる点で炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられ、これらの中ではメトキシ基が好ましい。
【0027】
式(I)におけるm及びnは、可溶性とクロミズム性とを兼備する観点から、0<m<1、0<n<1、m+n=1を満たす。本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーは、上述の式(I)に示すように、特定の置換基を有する置換アニリン由来部分とアニリン(すなわち非置換アニリン)由来部分とからなる繰り返し単位を有する。置換アニリン由来部分におけるR1、R2、R3及びR4の構造を適宜選択することで、水性溶媒及び有機溶媒に対する可溶性を付与することが可能である。しかし置換アニリン由来部分のみを有するポリマーでは、置換基による電荷密度変化、立体障害等に起因すると推定される、外部刺激に対する色の変化の感度低下が生じやすい傾向にある。本発明のアニリン系クロミズムポリマーは、上記可溶性を付与しつつ外部刺激に対する色の変化の感度を向上させるために、繰り返し単位中にアニリン由来部分を有している。外部刺激に対する色の変化の感度が良好である点では、式(I)で表される繰り返し単位におけるアニリン比率(すなわち式(I)中のnの値)が大きい方が有利である。
【0028】
より溶解性を高め、クロミズム性を高感度にする観点から、好ましくは0.05≦m≦0.8、特に好ましくは0.07≦m≦0.5、さらに好ましくは0.1≦m≦0.5である。mが0.05以上である場合には水性溶媒及び有機溶媒に対する溶解性をより向上させることができ、0.8以下である場合には外部刺激に対する色の変化の感度が良好である。
【0029】
本発明に係る可溶性アニリン系クロミズムポリマーは水性溶媒及び有機溶媒に対する溶解性が良好である。典型的な溶媒としては、水性溶媒として、例えば水、水と水に可溶な無機化合物との混合溶媒、水と水に可溶な有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。水に可溶な無機化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等の無機酸金属塩、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等の水酸化金属塩等が挙げられる。水に可溶な有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン等のケトン類が挙げられる。有機溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る可溶性アニリン系クロミズムポリマーの各種溶媒に対する好ましい溶解度は目的に応じて異なってよいが、例えば、25℃において、水性溶媒に対する溶解度が3〜500g/1L溶媒、であることが好ましい態様として挙げられ、該溶解度は、より好ましくは 5〜200g/1L溶媒、さらに好ましくは5〜100g/1L溶媒である。
【0031】
1、R2、R3及びR4の組合せのより具体的な態様としては、例えば水性溶媒、特に水に対する溶解性が良好である例として、R1がカルボキシル基、R2〜R4が水素の組合せ、R1がカルボキシル基、R2が水酸基、R3とR4が水素の組合せ、R1がカルボキシル基、R2が水酸基、R3が水素、R4がカルボキシル基の組合せ、R1がカルボキシル基、R2がメトキシ基、R3とR4が水素の組合せ、R1がスルホン基、R2が水酸基、R3とR4が水素の組合せ等、有機溶媒として例えばエタノールに対する溶解性が良好である例として、R1がカルボキシル基、R2がn−ブチル基、R3とR4が水素の組合せ、R1がスルホン基、R2がn−ブチル基、R3とR4が水素の組合せ等が挙げられる。
【0032】
本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの数平均分子量は、成形性及び加工性を確保する観点から300〜500,000の範囲である。数平均分子量は3,000〜400,000であることが好ましい。なお上記の数平均分子量は、GPC(例えば昭和電工製Shodex、カラムとして、例えば昭和電工製KD−803、KD−807を直列につなげて使用)を用い、カラム温度40℃、展開溶媒をジメチルホルムアミドとし、流速1mL/minで測定される値である。上記数平均分子量のより具体的な好適範囲は、可溶性アニリン系クロミズムポリマーを構成している繰り返し単位の種類等によって異なり、例えば式(I)中のR1、R2、R3及びR4がそれぞれカルボキシル基、水酸基、水素及びカルボキシル基、m=0.2であるポリマーでは、数平均分子量3,000〜500,000が好ましく、R1、R2、R3及びR4がそれぞれカルボキシル基、n−ブチル基、水素及び水素、m=0.1であるポリマーでは数平均分子量300〜400,000が好ましい。
【0033】
本発明はまた、上述した可溶性アニリン系クロミズムポリマーを製造する方法を提供する。本発明の可溶性アニリン系クロミズムポリマーは、該ポリマーを構成している繰り返し単位に対応した置換アニリンとアニリンとを共重合させることにより調製することができる。
【0034】
本発明は、以下の式(II):
【化5】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを電解重合させる、可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法を提供する。
【0035】
本発明はまた、以下の式(II):
【化6】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)、アニリン(ロ)及び酸化剤(ハ)を含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを酸化重合させる、可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法を提供する。
【0036】
上記置換アニリン(イ)は、特に限定されないが、カルボキシル基置換アニリン、スルホン基置換アニリンが好ましく、さらにカルボキシル基置換アニリンが好ましい。カルボキシル基置換アニリンとしては、例えば、o−、m−、p−アミノベンゼンカルボン酸、アニリン−2,6−ジカルボン酸、アニリン−2,5−ジカルボン酸、アニリン−3,5−ジカルボン酸、アニリン−2,4−ジカルボン酸、アニリン−3,4−ジカルボン酸、メチルアミノベンゼンカルボン酸、エチルアミノベンゼンカルボン酸、n−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、iso−プロピルアミノベンゼンカルボン酸、n−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、sec−ブチルアミノベンゼンカルボン酸、t−ブチルアミノベンゼンカルボン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンカルボン酸類、メトキシアミノベンゼンカルボン酸、エトキシアミノベンゼンカルボン酸、n−プロポキシアミノベンゼンカルボン酸、iso−プロポキシアミノベンゼンカルボン酸、n−ブトキシアミノベンゼンカルボン酸、sec−ブトキシアミノベンゼンカルボン酸、t−ブトキシアミノベンゼンカルボン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類、フルオロアミノベンゼンカルボン酸、クロロアミノベンゼンカルボン酸、ブロムアミノベンゼンカルボン酸等のハロゲン基置換アミノベンゼンカルボン酸等が挙げられる。これらの中では、溶解性を一層高める点でヒドロキシ基置換アミノベンゼンカルボン酸類が好ましく、特に4−ヒドロキシ基置換−3−アミノベンゼンカルボン酸類が好ましい。これらのカルボキシル基置換アニリンはそれぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
スルホン基置換アニリンとしては、例えば、o−、m−、p−アミノベンゼンスルホン酸、アニリン−2,6−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、アニリン−3,5−ジスルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−3,4−ジスルホン酸、メチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso−プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec−ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t−ブチルアミノベンゼンスルホン酸等のアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、メトキシアミノベンゼンスルホン酸、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、n−プロポキシアミノベンゼンスルホン酸、iso−プロポキシアミノベンゼンスルホン酸、n−ブトキシアミノベンゼンスルホン酸、sec−ブトキシアミノベンゼンスルホン酸、t−ブトキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロムアミノベンゼンスルホン酸等のハロゲン基置換アミノベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの中では、ヒドロキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸類が好ましく、特に4−ヒドロキシ基置換−3−アミノベンゼンスルホン酸が好ましい。これらのスルホン基置換アニリンはそれぞれ単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
上記置換アニリン(イ)の由来は、天然由来、石油系原料由来等であることができ特に限定されないが、石油系原料使用量削減の観点から、天然由来が好ましい。天然由来の化合物としては、生物由来化合物(すなわち生物が産生する化合物)、該生物由来化合物の化学的誘導体、バイオ資源から抽出された物質等が例示されるが、特に限定されない。入手容易性から、生物由来化合物、該生物由来化合物の化学的誘導体が好ましく、特に生物由来化合物が好ましい。
【0039】
生物由来化合物としては、4−ヒドロキシ基置換−3−アミノベンゼンカルボン酸類、具体的には3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4−AHB)が例示される。3,4−AHBは放線菌等の微生物から培養法等で、生物由来化合物として産生される。
【0040】
上記置換アニリン(イ)及びアニリン(ロ)は、原料となるこれらのアニリン類を溶解させた溶液中で共重合させることができる。共重合は、例えば電解重合又は酸化重合で行うことができる。
【0041】
電解重合の場合には、例えば、上記置換アニリン(イ)及びアニリン(ロ)を含む溶液中で、白金、炭素等の不活性な電極材料を陰極及び陽極に用いて、2Vの電位によって置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを電解重合させる方法が挙げられる。上記溶液としては、酸性水系電解溶液が好ましく、特に塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸から選ばれる1種以上の酸を含むことが好ましい。酸の濃度は0.1〜5規定、特に0.5〜3規定が好ましい。溶液中の、置換アニリン(イ)のモル量Aとアニリン(ロ)のモル量Bとから算出されるモル分率R=A/(A+B)は、置換アニリン(イ)の種類等によって、一概に決定できないが、通常、m−0.1≦R≦m+0.1(式中、mは前述の式(I)におけるmと同じ意味である)であることが好ましい。また、上記溶液中の置換アニリン(イ)の濃度は、反応条件等によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.05〜10mol/L、好ましくは0.1〜3mol/Lである。
【0042】
電解重合の反応温度は、反応効率を高める観点から、−15℃〜70℃の温度範囲であることが好ましく、さらに好ましくは−5〜60℃である。反応時間は、反応条件等によって異なるので一概にはできないが、通常、1〜72時間程度であり、好ましくは1〜20時間程度である。電極に印加する電圧は、通常0.5〜10V,好ましくは0.5〜5V,さらに好ましくは0.5〜3Vである。電解重合の際の雰囲気は、特に限定されないが、空気中に含まれている酸素が重合反応に関与することを防止するために、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0043】
酸化重合の場合には、上記置換アニリン(イ)及びアニリン(ロ)の共重合は、原料となるアニリン類と酸化剤(ハ)とを含む溶液中で酸化重合を行う。酸化剤(ハ)としては、特に限定されないが、重合反応の効率が優れる点で過酸化物とペルオキシダーゼとの組合せが好ましい。過酸化物としては、過酸化水素、該過酸化水素の金属塩である、過酸化リチウム、過酸化カリウム、過酸化ナトリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム等の無機酸化物、官能基としてペルオキシド構造(−O−O−)を有する、ヒドロペルオキシエタン、ヒドロペルオキシベンゼン、ヒドロペルオキシイソプロピルベンゼン、過酸化ジイソプロピル、過酸化ジ−t−ブチル、エチルフェニルペルオキシド、過酸化ジアセチル、過酸化ジベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシド等の有機過酸化物が挙げられる。重合反応の効率が優れる点で、好ましくは、過酸化水素、過酸化リチウム、過酸化カリウム、過酸化ナトリウムであり、さらに好ましくは、過酸化水素である。
【0044】
ペルオキシダーゼは高等生物から微生物にいたるまで生物界に広く分布し、西洋ワサビ、大豆、玄米、大麦若芽、唾液、微生物等に由来する多くの種類のものが知られており、主なペルオキシダーゼは、活性中心に鉄ポルトポルフィリンを有するヘムタンパクである。この中でも、植物型ペルオキシダーゼについてはよく研究されており、一次構造だけでも100種以上が報告されている。ペルオキシダーゼは過酸化物を還元することによって、置換アニリン(イ)及びアニリン(ロ)を酸化重合させる触媒として作用する。本発明に用いられるペルオキシダーゼの種類は特に限定されないが、入手容易性、取扱いやすさ等から、西洋ワサビペルオキシダーゼが好ましい。
【0045】
中でも、過酸化物が過酸化水素であり、ペルオキシダーゼが西洋ワサビペルオキシダーゼである組合せは特に好ましい。
【0046】
酸化重合において上記溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が好ましく用いられる。また、これらの溶媒は1種又は2種以上を混合して使用することができる。また、液状の酸化剤(ハ)、例えば、過酸化水素を溶媒も兼ねて用いることは好ましい実施態様である。
【0047】
酸化重合において、溶液中の置換アニリン(イ)のモル量Aとアニリン(ロ)のモル量Bとから算出されるモル分率R=A/(A+B)は、置換アニリン(イ)の種類等によって、一概に決定できないが、通常、m−0.1≦R≦m+0.1(式中、mは前述の式(I)におけるmと同じ意味である)であることが好ましい。また、上記溶液中の置換アニリン(イ)の濃度は、反応条件等によって異なるので一概には決定することができないが、通常、0.05〜10mol/L、好ましくは0.1〜3mol/Lである。
【0048】
酸化剤(ハ)の量は、重合に供される置換アニリン(イ)の種類等によって異なるので、一概には決定することができないが、通常、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)との合計100質量部に対して、好ましくは1〜1000質量部、より好ましくは1〜500質量部、さらに好ましくは1〜300質量部である。
【0049】
酸化重合の反応温度は、反応効率を高める観点から、好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは10〜50℃である。反応時間は、反応条件などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、1〜72時間程度であり、好ましくは1〜7時間程度である。反応の際の雰囲気は、特に限定されないが、空気中に含まれている酸素が重合反応に関与することを防止するために、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本発明に用いられる測定法は以下の通りである。
【0051】
(1) 数平均分子量:GPCによって測定した。装置は昭和電工製Shodex、カラムは昭和電工製KD−803、KD−807を直列につなげて用いた。カラム温度40℃、展開溶媒をジメチルホルムアミドとし、流速1mL/minで測定した。
(2) 溶解度(g/L):室温(25℃)において、下記の溶媒10mLにポリマーを少量ずつ加えて、マグネッチクスターラーで攪拌して溶解させた。溶解しなくなった時点で、濾過し、溶解したポリマー量を求め、溶媒1Lに換算して溶解度とした。使用した溶媒は、水(pH7の蒸留水)、エタノール、NMPの3種類である。
(3) 可視光吸光度:下記の溶媒10mLにポリマーを0.1gを加え、マグネチックスターラーで攪拌して溶解させた。溶液の可視光吸光度をパーキンエルマー社製Lambda25で波長400〜800nmで測定し、最大吸光度となる波長を求めた。使用した溶媒は、水性溶媒(pH3の塩酸)、水(pH7の蒸留水)、水性溶媒(pH11の水酸化ナトリウム水溶液)、エタノール、NMP、DMSOの6種類である。
【0052】
実施例1
1規定塩酸200mLに、置換アニリン(イ)として3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンカルボン酸(3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸、以下3,4−AHBと略す)13mmol(2g)とアニリン(ロ)260mmol(24mL)とを溶解させた。この溶液を室温下で攪拌しながら、3Vの電圧を15時間印加し、電解重合を行った。15時間経過後、反応生成物を遠心濾過機にて濾別、乾燥して、若干緑がかった黒色のポリマーを得た。得られたポリマーの赤外線吸収スペクトル(IR)を赤外線吸収スペクトル装置(パーキンエルマー社製、商品名:Spectrum One)で調べた。
【0053】
図1は、実施例1におけるポリマーのIRチャートを示す図である。図1に示すように、1690cm-1付近にカルボニル基の吸収が確認され、置換アニリンとアニリンとが共重合していることを確認した。得られたポリマーの数平均分子量及び所定の溶媒への溶解度、並びにポリマー溶液の可視光吸光度を前述の方法で測定した結果を表1に示す。併せて、図2に、実施例1におけるポリマーの、エタノール、NMP及びDMSOをそれぞれ溶媒とする溶液の可視光吸光度チャートを示す。
【0054】
実施例2〜4
3,4−AHBとアニリンとのモル量の組合せを、25mmolと250mmol(実施例2)、130mmolと130mmol(実施例3)、180mmolと60mmol(実施例4)とした以外は実施例1と同様にして、ポリマーを得た。得られたポリマーの数平均分子量及び所定の溶媒への溶解度、並びにポリマー溶液の可視光吸光度を測定した結果を表1に示す。
【0055】
比較例1、2
3,4−AHBとアニリンとの組合せに代えて、3,4−AHB単独(比較例1)、アニリン単独(比較例2)とした以外は実施例1と同様にしてポリマーを得た。得られたポリマーの数平均分子量及び所定の溶媒への溶解度、並びにポリマー溶液の可視光吸光度を測定した結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より明らかなように、本発明のアニリン系クロミズムポリマーである、各実施例の置換アニリンとアニリンとの共重合ポリマーは、各種溶媒に可溶であるとともに、溶媒により色が変化するソルバトクロミズム性を示した。一方、比較例1より、置換アニリン単独では、溶媒への溶解性が優れるが明瞭なソルバトクロミズム性を示さないことが分かり、比較例2より、アニリン単独では溶媒に対してほとんど溶解性を示さず、ソルバトクロミズム性を示すか否か確認することができないことが分かった。すなわち、特定の置換アニリンとアニリンとを共重合することによって、単独で重合した場合では得られない溶解性とクロミズム性と兼備したポリマーを得ることが可能となる。
【0058】
実施例5〜8
置換アニリン(イ)としてo−アミノベンゼンカルボン酸(以下o−ABCと略す。実施例5)、アニリン−2,4−ジカルボン酸(以下2,4−ADCと略す。実施例6)、n−ブチルアミノベンゼンカルボン酸(以下n−BABCと略す。実施例7)、o−アミノベンゼンスルホン酸(以下o−ABSと略す。実施例8)とした以外は実施例3と同様にして、ポリマーを得た。得られたポリマーの数平均分子量及び所定の溶媒への溶解度、並びにポリマー溶液の可視光吸光度を測定した結果を表2に示す。
【0059】
置換アニリンの種類を変えても、十分大きな数平均分子量を有し、溶媒に対する溶解性とクロミズム性とを兼備したポリマーが得られた。実施例3と実施例5〜8との比較から、置換アニリンのモル分率が同じでも、置換アニリンの種類によって、得られたポリマーのソルバトクロミズム性に相違が見られた。従って、要求されるクロミズム性に応じて、適宜置換アニリンを選択することができることが分かる。
【0060】
実施例9
0.8Mトリス緩衝溶液(pH7.6)300mLに、3,4−AHB13mmol、アニリン230mmol、及び西洋ワサビペルオキシダーゼ100mgを溶解させた。この溶液を攪拌しながら、5%過酸化水素水50mLを溶液に滴下することで重合反応を開始させた。滴下は1時間で終了させ、その後、室温で5時間攪拌を継続した。反応終了後、反応生成物を遠心濾過機にて濾別、乾燥して、黒色のポリマーを得た。得られたポリマーの赤外線吸収スペクトル(IR)を調べたところ、1690cm-1付近にカルボニル基の吸収が確認され、置換アニリンとアニリンとが共重合していることを確認した。得られたポリマーの数平均分子量及び所定の溶媒への溶解度、並びにポリマー溶液の可視光吸光度を測定した結果を表2に示す。
【0061】
酸化重合によっても、十分大きな数平均分子量を有し、溶媒に対する溶解性とクロミズム性とを兼備したポリマーが得られた。実施例1と実施例9との比較から、置換アニリンのモル分率が同じでも、電解重合と酸化重合とでは、得られたポリマーのソルバトクロミズム性に相違が見られた。従って、要求されるクロミズム性に応じて、適宜重合方法を選択することができることが分かる。
【0062】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る可溶性アニリン系クロミズムポリマーは、任意のpHを示す水性溶媒及び有機溶媒に対して優れた溶解性を示し、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、カーテンコート法等の簡便な方法を用いた成形及び加工が可能であり、かつ、光、熱、圧力、電気、溶媒等の各種刺激に対して色を敏感に変えるクロミズム性を有する。よって、本発明が提供する可溶性アニリン系クロミズムポリマーは、イオンセンサー、色素センサー、光化学センサー等のセンサー材料、感熱記録材料、示温材料、カラーフォーマ材料、消色トナー、光記録材料等の広範囲の分野に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1におけるポリマーのIRチャートを示す図である。
【図2】実施例1におけるポリマーの、エタノール、NMP及びDMSOをそれぞれ溶媒とする溶液の可視光吸光度チャートを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示し、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水素原子でなく、m及びnは、0<m<1、0<n<1、m+n=1を満たす。}
で表される繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜500,000である可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項2】
前記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも1つが酸性基である、請求項1に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項3】
前記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも2つが、酸性基と、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、水酸基、ハロゲン原子又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基との組合せである、請求項1又は2に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項4】
前記式(I)の、R1、R2、R3及びR4のうち少なくとも2つが、酸性基と水酸基との組合せであり、かつ前記酸性基と前記水酸基とがo−位に位置する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項5】
前記酸性基がカルボキシル基である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項6】
前記式(I)のmが、0.05≦m≦0.8である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマー。
【請求項7】
以下の式(II):
【化2】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを電解重合させるステップを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーを製造する方法。
【請求項8】
前記溶液が酸性水系電解溶液である、請求項7に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。
【請求項9】
以下の式(II):
【化3】

{式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、スルホン基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、エステル基、チオエステル基、カーボネート基、チオカーボネート基、アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルケニル基、炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のアルキニル基又は炭素数1〜12の直鎖若しくは分岐のフルオロアルキル基を示す。}
で示される置換アニリン(イ)、アニリン(ロ)及び酸化剤(ハ)を含む溶液中で、置換アニリン(イ)とアニリン(ロ)とを酸化重合させるステップを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーを製造する方法。
【請求項10】
前記酸化剤(ハ)が過酸化物とペルオキシダーゼとの組合せである、請求項9に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記過酸化物が過酸化水素であり、前記ペルオキシダーゼが西洋ワサビペルオキシダーゼである、請求項10に記載の可溶性アニリン系クロミズムポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111751(P2010−111751A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284580(P2008−284580)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 高分子学会予稿集 57巻1号〔2008〕(発行所:社団法人 高分子学会、発行日:平成20年5月8日)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】