説明

可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造

【課題】高温環境下において着火する危険性が高い可燃性を有する流体を取り扱う設備における着火防止構造として、より安全性を高める。
【解決手段】可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造であって、高温物体1の外面を断熱材2で被覆するとともに、この断熱材2の外面を金属メッシュ3で覆い、さらに、金属メッシュ3の外側を外装部材4で覆い、この外装部材4の内側の空間にパージガスを供給するパージガス供給管12を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下において着火する危険性が高い可燃性を有する流体を取り扱う設備に適用される着火防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトアルデヒドやトリクロロシランに代表される着火点が低く、可燃性を有する流体を取り扱う際は、それらが漏洩した場合、火災の発生や大事故に繋がるため、着火防止対策をとる必要がある。
この種の可燃性を有する流体の漏洩時の着火を回避するためには、流体と高温の熱源との間の距離を確保することが必要であるが、その他、接触自体を防止して着火を回避する、または、万一着火した場合の延焼を阻止するなどの構造とする必要がある。
【0003】
流体と高温の熱源との接触を防止する構造としては、例えば、特許文献1に示された耐火二層管がある。この耐火二層管では、配管用管の外周に耐火用の繊維混入モルタル製の短管が挿通され、その外周に耐火性繊維材料や接着剤が塗布含浸された耐火性の布帛、耐火性繊維のメッシュが被覆されている。
【0004】
一方、万一着火した場合の延焼を阻止する有効な手段として、フレームアレスタがある。
フレームアレスタは、例えば、金網等で形成された細く長い空間を燃焼ガスを通過させる構造をとることで、火炎はこの細長い空間を通過することにより、伝搬速度が抑制されるとともに、金網などの熱容量によって放熱、冷却され、消炎する効果がある。特許文献2に示されるフレームアレスタでは、バーナと燃料混合器とを結ぶ配管の途中に金網を収容した殻体が挿入され、金網により気体の逆流を阻止するとともに、逆流気体の温度を低下させる構造が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−236312号公報
【特許文献2】特開平10−205719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多結晶シリコン製造プラントで取り扱われるトリクロロシランは、可燃性流体であり、沸点が31℃、引火点が−28℃、着火点が185℃である。このトリクロロシランは酸素の存在下で燃焼反応が生じ、また、水の存在下で加水分解により水素が発生する。また、いずれの場合も固体のシリカが発生する。水素は着火エネルギーが低く、着火し易い。
この種の可燃性を有する流体を取り扱う設備においては、上記特許文献に示される構造よりさらに安全な着火防止対策が望まれる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、高温環境下において着火する危険性が高い可燃性を有する流体を取り扱う設備における着火防止構造として、より安全性を高めた構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造であって、高温物体の外面を断熱材で被覆するとともに、この断熱材の外面を金属メッシュで覆い、この金属メッシュの外側をさらに外装部材で覆ったことを特徴とする。
【0009】
このように高温物体の外面を断熱材で被覆した上で外装部材で覆ったことにより、可燃性を有する流体と高温物体との直接の接触を防止するとともに、外装部材の外面の温度を低下させ、可燃性を有する流体が付近に存在した場合の着火を防止する。また、仮に外装材や断熱材の隙間等を経由して流体と高温物体とが接触することにより着火した場合であっても、その火炎が、断熱材の外面を覆う金属メッシュの隙間を伝播することができず、外部への延焼が阻止される。
高温物体としては、反応容器、配管、タンク、電気設備等の各種設備において、可燃性を有する流体の着火点以上の高温になる物体である。
【0010】
また、本発明において、前記金属メッシュの目開きは、0.25mmより小さい隙間に形成されているとよい。
金属メッシュの目開きが0.25mm以下の隙間であると、最も火炎が伝播し易い可燃性を有する流体の代表である水素に対しても良好な延焼阻止機能を発揮することができる。
【0011】
また、本発明において、前記外装部材の内側の空間にパージガスを供給するパージガス供給管を設けるとよい。
【0012】
パージガス供給管を介して外装部材の内側空間をパージすることにより、この外装部材の内側空間の圧力を外部の圧力よりも高くし、外装部材内への外部流体の侵入を防止することができ、これにより、流体の着火を回避することができる。また、パージガスが外装部材内でメッシュを貫通して流通することにより、メッシュの目詰まりを防止し、例えばトリクロロシランのような固体の発生を伴う可燃性を有する流体に対してもメッシュの延焼阻止機能を良好に維持した状態とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温物体を覆う断熱材により外装部材の表面温度を低下させて、可燃性を有する流体が接触しても着火が抑制され、また万一、断熱材の隙間等を経由して高温物体に直接接触して着火した場合でも、断熱材の外面を覆う金属メッシュにより熱が吸収されるとともに、火炎の伝播が防止される。したがって、高温環境下において着火する危険性が高い可燃性を有する流体を取り扱う設備における着火防止構造として、安全性を高めることができる。
また、金属メッシュの外側を外装部材で覆ってパージガスを供給することにより、外部からの流体の侵入を防止することができ、また、金属メッシュの目詰まりも防止して、その健全性を維持することができ、より安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の着火防止構造をなす断熱材等の被覆状態を段階的に破断して示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
この実施形態の着火防止構造は、多結晶シリコン製造設備に適用され、可燃性を有する流体としてトリクロロシラン、水素等を対象としている。
図1においては、高温物体1として、高温流体が流通する配管の継手部付近の着火防止構造を示しており、図2には、その高温物体(配管)1に対する断熱材2、金属メッシュ3、外装部材4の被覆構造を示している。
【0016】
この実施形態の着火防止構造においては、高温物体1の外面1aが断熱材2で被覆されるとともに、この断熱材2の外面2aがさらに金属メッシュ3で覆われ、更に、この金属メッシュ3の外側が、外装部材4で覆われている。
【0017】
高温物体1は、図示例では高温流体が流通する配管であるが、その他、例えば、タンク、電気設備等の各種設備で、例えば表面温度が500℃以上の高温になる物体に適用される。また、図1においては、高温物体1にはシール部材5を介してフランジ6を突き合わせてなる継手部7が設けられている。
【0018】
断熱材2は、グラスウール、ロックウール等の繊維系材料が好適に用いられるが、一般に使用されている各種の材料を用いることができる。この断熱材2は、円弧板状のセグメントに形成され、これらが高温物体1の周方向及び長さ方向に複数組み合わせられることにより、配管としての高温物体1の外周面全面を被覆しており、断熱材2の外面温度をトリクロロシランが着火する可能性がある最低表面温度(185℃)未満に保持している。断熱材2は継手部7の両面及び外周面にも設けられる。
【0019】
金属メッシュ3は、伝熱性を有する金属材料によって形成され、断熱材2の外周面に巻き付けられるように設けられ、配管としての高温物体1の長さ方向に沿って複数設けられることにより、高温物体1の外側の断熱材2の全面を覆っている。この場合、図2に示すように、断熱材2に巻き付けた金属メッシュ3の両端部は重ねられ、また、長さ方向に複数設けられる各金属メッシュ3も相互に端部どうしが重ねられており、金属メッシュ3間に隙間が生じないような構成とされている。継手部7の周囲に設けた断熱材2の外面も金属メッシュ3により覆われている。また、金属メッシュ3と断熱材2とは密着させないで、金属メッシュ3のフレームアレスタとしての機能を有効に発揮させるために、若干の隙間を設けた方がよい。
この金属メッシュ3の材料としては燃えない金属材料であれば各種の材料を用いることができ、金属メッシュ3の金属線8どうしにより形成されるメッシュの目開き9は、後述するように水素を想定して0.25mm以下とされる。
【0020】
外装部材4は、例えば金属板などの適宜の材料よりなり、金属メッシュ3の外周面に巻き付けられるように設けられるとともに、高温物体1の長さ方向に沿って複数設けられることにより、金属メッシュ3の外側を全面的に覆っている。また、金属メッシュ3の場合と同様に、外装部材4の端部どうしが重ねられることにより、外装部材4間に隙間が生じないようにされている。継手部7の周囲にも金属メッシュ3を覆うように外装部材4が設けられる。この場合も、金属メッシュ3と外装部材4とは密着させないで、若干の隙間を設けた方がよい。
【0021】
この外装部材4には、外装部材4により囲まれた内側空間11にパージガスを供給するパージガス供給管12が取り付けられており、このパージガスにより、外装部材4の内側空間11が大気圧よりも高く維持されることにより、外装部材4に常に内圧が作用するようになっている。パージガスとしては、例えば、空気、窒素ガス、二酸化炭素ガスなどの各種ガスを用いることができる。
【0022】
このように構成した着火防止構造においては、高温物体1の外面1aが断熱材2で被覆されているので、その外側表面の温度が低く抑えられており、付近に可燃性を有する流体が存在した場合でも断熱材2の外側での着火が防止される。また、断熱材2の外面2aがさらに金属メッシュ3で覆われ、その金属メッシュ3の外側が外装部材4で覆われていることにより、高温物体1は三重に覆われており、可燃性を有する流体が外装部材4間の隙間から内部に侵入して、金属メッシュ3の目を通り、かつ断熱材2の隙間を経由して高温物体1に接触することは極めて少なく、高い安全性を有している。
【0023】
また、仮に、可燃性を有する流体が、これら外装部材4間の隙間から侵入して、金属メッシュ3、断熱材2の隙間を経由して高温物体1に接触することにより着火したとしても、その火炎は、金属メッシュ3に接触することにより、金属メッシュ3の金属線8に熱を奪われるとともに、その金属メッシュ3の目開き9が0.25mmより小さいことから、この目を通過する火炎の伝播が抑制され、外部への延焼が阻止される。
【0024】
以上のような着火防止構造を、多結晶シリコン製造設備の各種機器や配管、炉などに適用することにより、トリクロロシラン等のクロロシラン類や水素などの可燃性を有する流体が高圧物体1に接近した場合でも、着火を防止し、また万一着火した場合でも延焼を阻止することができる。
この場合、特に、トリクロロシランの加水分解等により生じる水素は、他のガスと比較して火炎速度が速く、小さな開口部を通過伝播しやすく、空気中の濃度が最小4%から最大75%までの広い燃焼範囲を有しており、水素による火炎を抑制することは特に難しい。上記実施形態においては、金属メッシュ3の最大安全隙間(金属線8の目開き9)を0.25mmよりも小さく形成していることにより、万一の高温物体1と流体との直接の接触により流体が着火したとしても、この隙間の金属メッシュ3により、延焼を確実に阻止することができる。
【0025】
更に、金属メッシュ3を外装部材4で覆い、この外装部材4の内側空間11にパージガス供給管12を介してパージガスを供給しているので、外装部材4の内側空間11の圧力を外側空間の圧力(大気圧)より高めて、外側から外装部材3内へのガス等の侵入を防止することができる。また、クロロシラン類が酸素又は水と反応してシリカ(SiO)が生成すると、固形物として堆積し易いが、パージガスが外装部材4の内側空間11から外側に向けて流通するので、金属メッシュ3を通過するパージガスの流れにより、金属メッシュ3にシリカ等が付着して目詰まりが生じることが防止され、常に最大安全隙間を確保して、延焼阻止機能を健全に維持することができる。さらに、パージガスにより高温物体1の表面温度を低下させ、可燃性を有する流体が接触したときの着火の阻止または着火の可能性をより低くする効果もある。
【0026】
本発明の着火防止構造は、上述した多結晶シリコン製造設備以外にも、四塩化珪素からトリクロロシランへの転換設備、トリクロロシランを使用したエピタキシャル設備等にも適用でき、また、エチレンガスやプロパンガス等の可燃性流体やその他の可燃性を有する流体を取り扱う化学プラント一般などにも広く適用できる。
なお、本発明の具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 高温物体
2 断熱材
3 金属メッシュ
4 外装部材
5 シール部材
6 フランジ
7 継手部
8 金属線
9 目開き
11 内側空間
12 パージガス供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性を有する流体を取り扱う設備の着火防止構造であって、高温物体の外面を断熱材で被覆するとともに、この断熱材の外面を金属メッシュで覆い、前記金属メッシュの外側をさらに外装部材で覆ったことを特徴とする着火防止構造。
【請求項2】
前記金属メッシュの目開きは、0.25mmより小さい隙間に形成されていることを特徴とする請求項1記載の着火防止構造。
【請求項3】
前記外装部材の内側の空間にパージガスを供給するパージガス供給管を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の着火防止構造。

【図1】
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【図2】
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