説明

可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合器

【課題】可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合しても、燃焼反応の拡大を抑え得る濃度範囲に速やかに混合することのできるより安全性の高い混合器を提供する。
【解決手段】可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合する混合器(10)は、可燃性ガス供給口(2)を有する一端(1a)と、混合ガス排出口(3)を有する他端(1b)との間に亘って延在する管状混合部(1)と、管状混合部(1)の一端(1a)および他端(1b)の間にて管状混合部(1)内に挿入され、先端(4a)が封止され、かつ少なくとも1つの助燃性ガス供給口を先端近傍側面部(4b)に有する助燃性ガス供給管(4)とを含み、先端近傍側面部(4b)における助燃性ガス供給管(4)の中心軸が、管状混合部(1)の長尺方向に対して略平行に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合する混合器等に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性ガスと助燃性ガスとの混合ガスは、様々な反応プロセスに利用されている。例えば、可燃性ガスであるメタンなどの炭化水素ガスに酸素などの助燃性ガスを混合して得られる混合ガスは、一酸化炭素および水素を製造する不均化反応に利用されており、例えば、水素を含有する可燃性ガスと、酸素を含有する助燃性ガスとを混合して得られた混合ガスは、過酸化水素を製造する酸化反応、更に該過酸化水素がオレフィンをエポキシ化するエポキシ化反応に利用することが知られている。
【0003】
可燃性ガスと助燃性ガスとの混合装置としては、例えば、可燃性ガスおよび助燃性ガスが供給される混合容器内に充填物を充填して多数の狭隘なガス流路を形成し、混合容器内を流れるガスの流速を大きくした混合装置が知られている(特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−29680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の混合装置で可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合すると、混合している間に燃焼反応が生じる恐れがあり、該燃焼反応が拡大する心配がある。より安全に混合するために、かかる燃焼反応が生じても、その拡大の恐れがない混合装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下、可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合装置について鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
[1] 可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合する混合器であって、
可燃性ガス供給口を有する一端と、混合ガス排出口を有する他端との間に亘って延在する管状混合部と、
管状混合部の一端および他端の間にて管状混合部内に挿入され、先端が封止され、かつ少なくとも1つの助燃性ガス供給口を先端近傍側面部に有する助燃性ガス供給管と
を含み、先端近傍側面部における助燃性ガス供給管の中心軸が、管状混合部の長尺方向に対して略平行に配置されていることを特徴とする、混合器。
[2] 管状混合部の長尺方向と、助燃性ガス供給口の開口面とが、略平行である、前記[1]記載の混合器。
[3] 助燃性ガス供給管は、先端と先端近傍側面部との間において、略流線形状の外形を有する、前記[1]または[2]記載の混合器。
[4] 前記[1]〜[3]のいずれか記載の混合器にて、可燃性ガスを管状混合部の一端に位置する可燃性ガス供給口から管状混合部内に供給し、助燃性ガスを助燃性ガス供給口から管状混合部内に供給し、助燃性ガス供給口と管状混合部の他端との間で該可燃性ガスおよび該助燃性ガスを混合し、得られた混合ガスを管状混合部の他端に位置する混合ガス排出口から排出することを特徴とする混合ガスの製造方法。
[5] 助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速が可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上となるように、管状混合部への可燃性ガスの供給を調節することを更に含む、前記[4]記載の混合ガスの製造方法。
[6] 可燃性ガスが水素を含み、助燃性ガスが酸素を含む、前記[4]または[5]記載の混合ガスの製造方法。
[7] 可燃性ガスがプロピレンを更に含む、前記[6]記載の混合ガスの製造方法。
[8] 可燃性ガスが不活性成分を更に含む、前記[6]または[7]記載の混合ガスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合しても、燃焼反応の拡大を抑え得る濃度範囲に速やかに混合することのできるより安全性の高い混合器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の1つの実施形態における混合器を示す図であって、図1(a)は混合器の概略断面図であり、図1(b)は図1(a)中の領域Xの拡大概略断面図であり、図1(c)は図1(b)に対応する図であって、先端近傍側面部における助燃性ガス供給管の中心軸Cを示す図である(但し、図1(b)および(c)において助燃性ガス供給管は管状混合部への挿入部を省略して斜視図にて示す)。
【図2】プロピレン5重量部および水素1.7重量部の可燃性ガス(プロピレン+H)、助燃性ガス(酸素、O)、および不活性ガス(窒素、N)の正三角形座標グラフである。
【図3】比較例の混合器の部分拡大概略断面図である。
【図4】本発明のもう1つの実施形態における混合器を示す図であって、図4(a)は混合器の概略断面図であり、図4(b)は図4(a)中の領域Xの拡大概略断面図である(但し、図4(b)において助燃性ガス供給管は管状混合部への挿入部を省略して斜視図にて示す)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態1)
本発明の1つの実施形態における混合器および混合ガスの製造方法について図1を参照して説明する。
【0010】
図1(a)を参照して、本実施形態の混合器10は、一端1aと他端1bとの間に亘って延在する管状混合部1と、管状混合部1の一端1aおよび他端1bの間にて管状混合部1内に挿入された助燃性ガス供給管4とを備える。
【0011】
管状混合部1は、その内部において可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合するためのものであり、一端1aに可燃性ガス供給口2を有し、他端1bに混合ガス排出口3を有する。管状混合部1は、これら両端1aおよび1bの間が連続的に繋がっているものであればよい。管状混合部1は、任意の断面形状および断面積を有し得るが、図示する態様では略円形断面を有するものとする。
【0012】
助燃性ガス供給管4は、図1(a)に示すように、管状混合部1の一端1aおよび他端1bの間にて管状混合部1内に挿入され、図1(b)に示すように、その先端4aが封止されており、先端近傍側面部4bに少なくとも1つの助燃性ガス供給口5を有する。図1(c)に示すように、先端近傍側面部4bにおける助燃性ガス供給管4の中心軸C(図1(c)中、一点鎖線にて示す)は、管状混合部1の長尺方向に対して略平行に配置されている。管状混合部1の長尺方向(一端1aおよび他端1bを通る方向)と、助燃性ガス供給口5の開口面とが、略平行であることが好ましい。助燃性ガス供給管4は、例えば、図1(a)に示すように、管状混合部1の一端1aおよび他端1bの間にて管状混合部1内に挿入され、図1(c)に示すように、先端近傍側面部4bにおける助燃性ガス供給管4の中心軸Cが、管状混合部1の長尺方向に対して略平行に、好ましくは管状混合部1と同軸上になるように曲げられ得、これにより、助燃性ガス供給口5の開口面が管状混合部1の長尺方向と略平行となり得る。助燃性ガス供給口5は、少なくとも1つあればよいが、速やかな混合のためには複数あることが好ましく、複数の助燃性ガス供給口5が存在する場合には、これら助燃性ガス供給口5は先端近傍側面部4bの周囲に均等に配置されることが好ましい。また、助燃性ガス供給管4は、図1(b)に示すように、先端4aと先端近傍側面部4bとの間の部分4cにおいて、略流線形状の外形を有することが好ましい。助燃性ガス供給管4は、この部分4c以外においては、任意の適切な断面形状および断面積を有し得るが、図示する態様では略円形断面を有するものとする。助燃性ガス供給管4には、その内部を通る助燃性ガスの流量を調節し得る調節弁(図示せず)が一般的に設けられ得るが、本実施形態に必須ではない。
【0013】
このような混合器10を用いて、可燃性ガスと助燃性ガスとを混合する。可燃性ガスは、酸素と反応して燃焼し得る成分(以下、「可燃性成分」という)を含有するものであればよく、例えば水素、オレフィンを含む炭化水素系化合物、ならびにこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。可燃性ガスは、可燃性成分に加えて、不活性成分、例えば窒素、水蒸気などを更に含んでいてもよい。助燃性ガスは、酸素を含有するものであればよく、例えば酸素ガス、空気などが挙げられる。
【0014】
可燃性ガスを、例えば遠心圧縮機、軸流圧縮機、容積圧縮機、ファン、ブロワーなどの可燃性ガス輸送機(図示せず)を用いて、管状混合部1内にその一端1aに位置する可燃性ガス供給口2から供給する。また、助燃性ガス供給管4を通じて助燃性ガスを管状混合部1内に助燃性ガス供給口5から供給する。このようにして供給された可燃性ガスは、助燃性ガス供給管4の先端近傍側面部4bの周囲を通過するときに、助燃性ガス供給口5から供給された助燃性ガスと一緒になって管状混合部1内を流れ、最終的に、管状混合部1の他端1bに位置する混合ガス排出口3から可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスが得られる。尚、図中、可燃性ガスを点線矢印で、助燃性ガスを一点鎖線矢印で、混合ガスを白色矢印で示す。
【0015】
一方、図3に示すように、助燃性ガス供給管64が、先端64aにて開口している一般的な管である場合には、可燃性ガスと助燃性ガスとが混合する際に、助燃性ガス供給口65の付近(先端64aの端部下流側)に渦流(図3中、渦模様として模式的に示す)が形成され、この渦流により、可燃性ガスおよび助燃性ガスの速やかな混合が抑制される傾向にある。
【0016】
これに対し、本実施形態によれば、助燃性ガス供給管4の先端近傍側面部4bに助燃性ガス供給口5を設けているので、可燃性ガスと助燃性ガスとが混合する際に助燃性ガス供給口5では渦流が形成されない(図1(b)を参照のこと)。この結果、可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合しても、燃焼反応の拡大を抑え得る濃度範囲に速やかに混合でき、燃焼反応の発生および拡大が生じにくく、安全性が高い。
【0017】
また、本実施形態においては、好ましくは、管状混合部1の長尺方向と、助燃性ガス供給口5の開口面とが、略平行であるので、助燃性ガス供給口5における混合をより速やかに行うことができる。更に、本実施形態においては、好ましくは、助燃性ガス供給管4は、先端4aと先端近傍側面部4bとの間の部分4cにおいて、略流線形状の外形を有するので、先端部4aでの渦流の形成を効果的に回避でき、これにより、燃焼反応の発生および拡大をより生じにくくすることができる。
【0018】
加えて、本実施形態において、助燃性ガス供給口5における可燃性ガスの流速が、可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上になるように、管状混合部への可燃性ガスの供給を調節することが好ましい。このように調節することによって、燃焼反応が発生したとしても、可燃性ガスが燃焼速度以上の流速で流れているので、燃焼反応が拡大することを効果的に防止できる。
【0019】
「助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速」が可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上であることにより、助燃性ガス濃度が比較的高いと考えられる助燃性ガス供給口5の近傍においても、燃焼反応の発生および拡大を抑制する傾向がある。助燃性ガス濃度は低いほうが着火しにくくなる傾向があることから好ましい。助燃性ガス供給口5における可燃性ガスの流速は、用いる管状混合部1の寸法および形状ならびに助燃性ガス供給口5の管状混合部1内での位置などにより求められ、可燃性ガス供給口2からの可燃性ガスの供給量を変化させることによって調節できる。
【0020】
可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度は、混合ガスの組成に応じて求められる。所定の組成の混合ガスの燃焼速度は、竹野忠夫、飯島敏雄、「球形容器法による燃焼速度の測定」、東京大学宇宙航空研究所報告、1980年、第17巻、第1号(B)、p.261−272に記載される既知の球形容器法に従って測定可能である。概略的には、所定の組成に調製した混合ガスを球形容器に入れ、着火し、圧力の時間的変化を測定し、この測定結果から燃焼速度を求めることができる。
【0021】
可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの組成は、管状混合部1の他端1bにおいては、供給した可燃性ガスおよび助燃性ガスを合わせた組成に等しいものと考えられる。管状混合部1内でのガスの組成は、助燃性ガス供給口5より上流側(図1(a)〜(c)の左側)においては、供給した可燃性ガスの組成に略等しく、助燃性ガス供給口5より下流側近傍においては、微視的に見れば、流動状態(または混合状態)により組成が異なり得る。
【0022】
可燃性ガスが不活性成分を含まない場合、「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」として、可燃性ガスの可燃性成分と助燃性ガスの酸素の二成分に関し、可燃性成分を燃焼するのに必要な理論量で酸素が存在する組成(以下、「量論組成」と言う)を有する混合ガスの燃焼速度を適用し得る。可燃性ガスに助燃性ガスを徐々に混合していくと、混合途中のガス組成は、供給する可燃性ガスの可燃性成分に等しい組成から、供給する助燃性ガスの酸素量に等しい組成へと変化し、そして、量論組成となったときに、可燃性成分の燃焼に必要な酸素量に過不足がないために最大の燃焼速度を与えるものと考えられ、「助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速」が、かかる量論組成での燃焼速度以上となっていれば、燃焼反応の拡大を十分に防止できるものと考えられる。
【0023】
可燃性ガスが不活性成分を含む場合、可燃性ガスの可燃性成分と助燃性ガスの酸素と可燃性ガスの不活性成分の三成分の正三角形座標グラフ(vol%)において、可燃性成分および酸素が量論組成を成す量論組成線と、供給する可燃性ガスの可燃性成分と不活性成分の組成を示す点と、供給する助燃性ガスの酸素量を示す点とを結んだ線(以下、「操作線」と言う)との交点の組成を有する混合ガスの燃焼速度を適用し得る。可燃性ガスに助燃性ガスを徐々に混合していくと、供給する可燃性ガスの可燃性成分と不活性成分の組成を示す点から、供給する助燃性ガスの酸素量を示す点に向かって操作線上を移動し、そして、量論組成となったときに最大の燃焼速度を与えるものと考えられ、「助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速」が、かかる量論組成での燃焼速度以上となっていれば、燃焼反応の拡大を十分に防止できるものと考えられる。
【0024】
以下、「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」を決めるための混合ガスの組成について、図2を参照しながらより具体的に説明する。
【0025】
図2は、プロピレン5重量部および水素1.7重量部の可燃性ガス(プロピレン+H)、助燃性ガス(酸素、O)、および不活性ガス(窒素、N)の正三角形座標グラフである。点Xにおいてプロピレン+H=100vol%、点YにおいてO=100vol%、点ZにおいてN=100vol%である。
【0026】
可燃性ガスの可燃性成分としてプロピレン5重量部および水素1.7重量部の混合ガスを用いる場合、可燃性成分および酸素の量論組成は、窒素なしでは、図2の点A(プロピレン+H=22.2vol%、O=77.8vol%)となる。この混合ガスに不活性成分として窒素を添加していくと、可燃性成分および酸素の量論組成を維持したまま、点Aから点Zに向かって直線AZ上を移動し、窒素の割合があまり高くなると爆発を生じなくなる。この境界における酸素濃度を限界酸素濃度と言い、図2中の点B(プロピレン+H=2.3vol%、O=8.0vol%)にて表わされる。直線ABは量論組成線を成す。他方、窒素が存在しない場合も、酸素濃度が低すぎても、高すぎても爆発を生じない。この境界における酸素濃度を爆発下限界濃度(O)および爆発上限界濃度(O)とし、それぞれ点C(プロピレン+H=49.5vol%、O=50.5vol%)および点D(プロピレン+H=2.3vol%、O=97.7vol%)にて示す。直線BCおよび直線BDは爆発限界であり、点BCDで囲まれる領域が爆発範囲である。
【0027】
可燃性ガスが、可燃性成分としてプロピレン5重量部および水素1.7重量部の混合ガスから成り、不活性成分を含まない場合、可燃性成分および酸素の量論組成は図2の点Aとなる。助燃性ガスとして酸素ガス(O=100vol%)を用い、これを上記の可燃性ガスに徐々に混合していくと、混合途中のガス組成は、点Xから点Yに向かって直線XY(N=0vol%)上を移動し、そして、点Aにて量論組成となったときに最大の燃焼速度を与えるものと考えられる。よって、点Aの組成を有する混合ガスの燃焼速度が「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」として適用される。
【0028】
可燃性ガスが、可燃性成分としてプロピレン5重量部および水素1.7重量部の混合ガスと、不活性成分として窒素ガスとから成る場合、供給する可燃性ガスの組成を、ここで便宜的に点E(プロピレン+H=6.9vol%、O=1.7vol%、N=91.4vol%)とする。助燃性ガスとして酸素ガス(O=100vol%)を用い、これを上記の可燃性ガスに徐々に混合していくと、混合途中のガス組成は、点Eから点Yに向かって直線EY上を移動し、そして、点Hにて量論組成となったときに最大の燃焼速度を与えるものと考えられる。点Hは、操作線である直線EYと、量論組成線である直線ABとの交点であり、点Fおよび点Gは、操作線である直線EYと、それぞれ直線BCおよび直線BDとの交点であり、限界濃度(点Eの組成を有するガスと点Yの組成を有するガス(O=100vol%)を混合したときの燃料濃度の上限および下限)を示す。よって、点Hの組成を有する混合ガスの燃焼速度を「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」として適用される。
【0029】
可燃性ガスおよび助燃性ガスとしてその他の成分を用いる場合にも、上記の説明を参照して「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」を求めることができ、「助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速」が「可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度」以上となるように、可燃性ガス輸送機を用いて調節できるであろう。
【0030】
この結果、燃焼反応が発生したとしても、可燃性ガスが燃焼速度以上の流速で流れているので、可燃性ガスによって吹き消され、燃焼反応が拡大することを効果的に防止できる。燃焼反応の拡大を防止する効果が高いので、可燃性ガスおよび/または助燃性ガスにおける不活性ガスの含有量を低減させることができ、容積あたりの混合ガスの生産効率を向上させることができる。また、充填物を用いないか、低減させることができることから、容積あたりの混合ガスの生産効率を向上させるとともに、混合ガス生産時における可燃性ガスおよび/または助燃性ガスの供給圧力の圧力損失を低減させることができる。
【0031】
このような本実施形態の混合器は、充填物が充填された従来の混合器に比べ、圧力損失が小さく、非常に効率的であり、可燃性ガス輸送機の動力コストが低減される傾向がある。
【0032】
しかしながら、助燃性ガス供給口5における可燃性ガスの流速が、可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上になるように、管状混合部への可燃性ガスの供給を調節することは、本発明に必須でないことに留意されたい。
【0033】
上記のようにして得られた混合ガスは任意の用途に使用され得る。本実施形態を限定するものではないが、可燃性ガスとしてオレフィンおよび水素を用い、助燃性ガスとして酸素を用いた場合、得られた混合ガスは、水素および酸素から過酸化水素を生じ得るので、オレフィンのエポキシ化反応に利用可能である。例えば、オレフィンとしてプロピレンを用いた場合、プロピレンオキシドを製造することが可能となる。
【0034】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。例えば、図1においては助燃性ガス供給管4が、先端4aと先端近傍側面部4bとの間の部分4cにおいて、最も好ましい形状である略流線形状の外形を有するものとして図示したが、例えば円錐、三角錐、四角錐などの錐体、錐体の頂点が曲面となったもの、錐体の側面の辺が曲面となったもの、半球状などの回転体などの外形を有していてもよい。
【0035】
(実施形態2)
本発明のもう1つの実施形態における混合器および混合ガスの製造方法について図4を参照して説明する。本実施形態は、上述の実施形態1を改変したものであり、特に説明のない限り実施形態1と同様とする。
【0036】
本実施形態の混合器10’では、図4(a)に示すように、助燃性ガス供給口5が存在する位置における管状混合部1’の断面積が、管状混合部の一端1aの近傍における管状混合部1’の断面積より小さくなるように、これらの位置の間にテーパー部1cを有する。
【0037】
管状混合部が略円形断面を有する場合、管状混合部の一端1aの近傍における管状混合部1’の内径D1は、助燃性ガス供給口5が存在する位置における管状混合部1’の内径D2より大きい。図4(a)に示すように、テーパー部1cより上流側(一端1a側)の略円筒部と、テーパー部1cより下流側(他端1b側)の略円筒部とが実質的に同軸上に配置され得、テーパー部1cが略円錐台形状を有してこれらの間を連続的に繋げている。
【0038】
尚、図示する態様では、助燃性ガス供給口5が存在する位置における管状混合部1’の内径D2は、テーパー部1cより下流側の略円筒部の内径と等しいが、本実施形態はこれに限定されないことに留意されたい。
【0039】
本実施形態においても、図4(b)に示すように、助燃性ガス供給管4は、その先端4aが封止されており、先端近傍側面部4bに少なくとも1つの助燃性ガス供給口5を有する。また、助燃性ガス供給管4は、先端4aと先端近傍側面部4bとの間の部分4cにおいて、略流線形状の外形を有することが好ましい。
【0040】
本実施形態によれば、可燃性ガスは、助燃性ガス供給口5においてより小さい断面積を通ることになるので、可燃性ガスの流速をより一層増すことができる。その分、可燃性ガス輸送機の負担を更に減らすことができ、助燃性ガス供給口5における可燃性ガスの流速を、可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上に効率的に調節することができる。あるいは、可燃性ガス輸送機の運転条件を維持する場合には、可燃性ガスの流速が増すことにより、燃焼反応が拡大することをより確実に防止できる。
【0041】
本実施形態も、実施形態1と同様の改変が可能である。
【0042】
(実施形態3)
本発明、より具体的には、実施形態1および2の混合器および混合ガスの製造方法は、特開2010−159245号公報に記載されるような酸化化合物の製造方法、特にエポキシ化合物の製造方法を実施するために利用され得る。
【0043】
まず、可燃性ガスとしてオレフィンおよび水素を用い、助燃性ガスとして酸素を用い、これらを本発明の混合装置、例えば実施形態1および2の混合器を用いて混合し、得られる混合ガスを反応器に供給する。
【0044】
そして、反応工程として、反応器中にて、オレフィン、酸素、および水素を、チタノシリケート(I)またはそのシリル化物、および貴金属触媒の存在下に反応させることにより、エポキシ化合物が得られる。酸素および水素は、貴金属触媒の存在下に、過酸化水素を生じ、過酸化水素は、オレフィンに対して酸化剤として作用して、エポキシ化合物を生じる。
【0045】
以下、本実施形態において用いるチタノシリケート(I)またはそのシリル化物およびその調製方法と、これを用いた反応工程とについて詳述する。
【0046】
・チタノシリケート(I)またはそのシリル化物およびその調製方法
チタノシリケート(I)は、下記X線回折パターンを有するチタノシリケート(II)と、構造規定剤と、を接触させることにより得られる。
X線回折パターン
(格子面間隔d/Å)
12.4±0.8
10.8±0.3
9.0 ±0.3
6.0 ±0.3
3.9 ±0.1
3.4 ±0.1
【0047】
チタノシリケートとは、4配位Ti(チタン)を持つシリケートの総称である。本明細書において、チタノシリケートとは、実質的に4配位Tiを持つチタノシリケートを意味し、200nm〜500nmの波長領域における紫外可視吸収スペクトルが、210nm〜230nmの波長領域で最大の吸収ピークが現れるものを表す(例えば、Chemical Communications 1026−1027,(2002) 図2(d)、(e)参照)。
上記紫外可視吸収スペクトルは、拡散反射装置を付属した紫外可視分光光度計を用いて、拡散反射法にて測定することができる。
Ti−MWWとは、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートを意味する。MWW構造とは、国際ゼオライト学会(IZA)が規定する構造コードで表される分子ふるいの構造であり、酸素10員環からなる細孔と酸素10員環からなる入口とを持つスーパーケージ(0.7×0.7×1.8nm)と酸素12員環からなる入口を持つハーフカップ状のサイドポケットを有している。
【0048】
上記チタノシリケート(I)は、チタノシリケート(II)と、構造規定剤と、を接触させることにより得られるので、該チタノシリケート(II)に基づく多孔質構造において構造規定剤を含む細孔が一定の割合で存在すると考えられる。上記チタノシリケート(I)がこのような多孔質構造であることは、X線回折パターンから確認される。
更に、上記チタノシリケート(I)は、該チタノシリケート(II)と、構造規定剤と、の接触により焼成工程を経ずに得られるので、X線回折パターンのピーク強度比がMWW構造とは異なる。上記チタノシリケート(I)は、有機化合物の酸化反応(本実施形態においてはオレフィンのエポキシ化反応)の触媒として優れた活性を示す。
【0049】
上記チタノシリケート(I)は、紫外可視分光光度計を用い、拡散反射法(ベースライン用標準物質:スペクトラロン)にて測定した紫外可視吸収スペクトルにおいて210nm〜230nmの波長領域で吸収ピークを示す。
該チタノシリケート(I)は、下記X線回折パターンを示す。
(格子面間隔d/Å)
12.4±0.8
10.8±0.3
9.0 ±0.3
6.0 ±0.3
3.9 ±0.1
3.4 ±0.1
上記格子面間隔において、「d/Å」は、面格子間隔dの単位がオングストロームであることを表す。
チタノシリケート(I)は、さらにX線回折パターンにおいて、(9.0±0.3)のピーク強度Xと、(3.4±0.1)のピーク強度Xと、の強度比X/Xが、0を超え、0.4以下である関係を示す。
上記X線回折パターンは、銅K−アルファ放射線を照射するX線回折装置を用いて測定することができる。
【0050】
上記チタノシリケート(I)において、ケイ素と窒素とのモル比(Si/N比)は、特に制限されないが、5以上50以下であることが好ましい。
上記Si/N比の下限は、より好ましくは8以上であり、さらに好ましくは10以上である。上記Si/N比の上限は、より好ましくは35以下であり、さらに好ましくは18以下であり、特に好ましくは16以下である。
チタノシリケート(I)は、Si/N比が上記範囲内にある場合、良好な触媒活性を有する。
なお、上記Si/N比は、被測定試料を元素分析することにより求められる。この元素分析は、以下の通り一般的な方法で実施することができる。Ti(チタン)、Si(ケイ素)及びB(ホウ素)の含量は、アルカリ融解−硝酸溶解−ICP発光分析法にて測定できる。N(窒素)の含量は、酸素循環燃焼・TCD検出方式にて測定できる。
【0051】
上記チタノシリケート(I)は、水蒸気吸着法により測定した比表面積値(SHO)と、窒素吸着法により測定した比表面積値(SN)と、の比(SHO/SN)が0.7以上であると好ましく、0.8以上であるとさらに好ましい。該SHO/SNの上限は、1.5以下であると好ましく、1.3以下であるとさらに好ましい。
上記SNは、被測定試料を150℃で脱気した後、窒素吸着法により測定し、BET法により算出される。上記SHOは、被測定試料を150℃で脱気した後、298Kの吸着温度にて水蒸気吸着法により測定し、BET法により算出される。
【0052】
上記チタノシリケート(I)のシリル化物は、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤でチタノシリケート(I)をシリル化することにより得られる。
【0053】
本明細書において、構造規定剤とは、ゼオライト構造の形成に利用される有機化合物を意味する。上記構造規定剤は、その周囲にポリケイ酸イオンやポリメタロケイ酸イオンを組織することによりゼオライト構造の前駆体を形成することができる(ゼオライトの科学と工学33−34頁 2000年 講談社サイエンティフィク 参照)。
上記構造規定剤としては、MWW構造を有するゼオライトを形成することができる窒素含有化合物が好ましく、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン等の有機アミン;N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウム塩(N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムイオダイド等)やChemistry Letters 916−917 (2007)記載のオクチルトリメチルアンモニウム塩(オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド等)等の4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
特に好ましい構造規定剤は、ピペリジン又はヘキサメチレンイミンであり、これらは併用することもできる。
【0054】
上記チタノシリケート(I)の製造において、該構造規定剤の量は、上記チタノシリケート(II)1質量部に対し、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、2質量部以上が特に好ましい。該構造規定剤の量は、上記チタノシリケート(II)1質量部に対し、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、15質量部以下がより一層好ましく、10質量部以下が特に好ましい。
【0055】
該構造規定剤の量が上記範囲内にある場合、チタノシリケート(I)を容易に調製することができる。
【0056】
上記チタノシリケート(II)と、該構造規定剤と、の接触は、該チタノシリケート(II)と該構造規定剤とをオートクレーブ等の密閉容器に入れ、加熱しつつ加圧する方法で行ってもよいし、大気下、ガラス製フラスコ等の容器中で該チタノシリケート(II)と該構造規定剤とを撹拌しながら、あるいは撹拌せずに混合する方法で行ってもよい。
接触の際の温度は、その下限は0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましく、100℃以上が特に好ましい。該温度の上限は、250℃程度であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
かかる接触の際の圧力は、特に制限は無いが、ゲージ圧力で0〜10MPa程度が好ましい。接触により得られたチタノシリケート(I)は、例えば、ろ過により分離される。必要により、分離したチタノシリケート(I)を、洗浄、乾燥等の後処理を行ってもよい。得られるチタノシリケート(I)における構造規定剤の量は、この後処理の操作により調整することもできる。
【0057】
チタノシリケート(I)は、上記接触後、さらに洗浄を行うことにより得られるものが好ましい。かかる洗浄を行うことにより、得られるチタノシリケート(I)の純度が上がるだけでなく、チタノシリケート(I)に存在する構造規定剤の量が調整されると考えられる。上記洗浄は、必要により洗浄液の量やpH等を適宜調整して行えばよい。上記洗浄は、洗浄液として水を用いることが好ましく、洗浄液のpHが7〜11となるまで行うことがより好ましい。上記接触後に乾燥を行う場合、温度等の条件は、下記のチタノシリケート(I)の特徴が損なわれない範囲で適宜設定することができる。
なお、チタノシリケート(I)は、焼成することによりMWW構造に変換されるので、Ti−MWW前駆体に分類される。
【0058】
上記チタノシリケート(II)としては、例えば、MWW構造またはMSE構造を有する結晶性チタノシリケート、Ti−MWW前駆体(a)、Ti−YNU−1が挙げられる。
上記Ti−YNU−1としては、例えば、アンゲバンテヒミー・インターナショナルエディション(Angewandte Chemie International Edition)43,236−240,(2004)に記載されたTi−YNU−1等が挙げられる。
上記MWW構造を有する結晶性チタノシリケートとしては、例えば、特開2003−327425号公報に記載されたTi−MWW等が挙げられる。
上記MSE構造を有する結晶性チタノシリケートとしては、例えば、特開2008−50186号公報に記載されたTi−MCM−68等が挙げられる。
【0059】
本明細書において、Ti−MWW前駆体は、層状構造を有するチタノシリケートを意味する。このようなTi−MWW前駆体は、焼成することによりTi−MWWとなる性質を示す。
上記Ti−MWW前駆体(a)は、焼成することによりTi−MWWに変換される層状チタノシリケートである。該Ti−MWW前駆体(a)は、ケイ素と窒素のモル比(Si/N比)が21以上であることが好ましい。上記Ti−MWW前駆体(a)として、チタノシリケート(I)を用いることもできる。
Ti−MWW前駆体(a)としては、例えば、特開2005−262164号公報に記載されたTi−MWW前駆体等が挙げられる。
上記チタノシリケート(II)としては、MWW構造もしくはMSE構造を有する結晶性チタノシリケート、又はTi−MWW前駆体(a)が好ましく、MWW構造を有するTi−MWW、又はTi−MWW前駆体(a)がより好ましい。
【0060】
上記チタノシリケート(II)は、上述の文献に記載された方法等、公知の方法で製造することができる。MWW構造を有する結晶性チタノシリケートは、例えば、Ti−MWW前駆体(a)を焼成することにより製造することもできる。
【0061】
・反応工程
上記チタノシリケート(I)またはそのシリル化物を、本実施形態のオレフィンのエポキシ化反応(オレフィン化合物が対応するエポキシ化合物に変換される反応)において触媒として使用する。本実施形態において、オレフィンのエポキシ化反応のための酸化剤となる過酸化水素は、酸化反応と同一反応系内で製造することにより供給され、より具体的には、貴金属触媒の存在下で酸素と水素から製造される。かかる反応工程は、溶媒を含む液相中で行われることが好ましい。
【0062】
本実施形態において、チタノシリケート(I)は、予め過酸化水素を接触させた後に反応に供することもできる。
上記接触における過酸化水素として、過酸化水素溶液を用いることができる。該過酸化水素溶液の濃度は0.0001質量%〜50質量%の範囲であると好ましい。過酸化水素溶液は、水溶液であってもよいし、水以外の溶媒の溶液であってもよい。水以外の溶媒としては、酸化反応の溶媒等の中から好適な溶媒を選択することができる。上記接触の温度は、0〜100℃の範囲で行われると好ましく、0〜60℃の範囲で行われるとさらに好ましい。
【0063】
オレフィン(またはオレフィン化合物)としては、置換もしくは無置換のヒドロカルビル基又は、水素がオレフィン二重結合を構成する炭素原子に結合した化合物が挙げられる。
ヒドロカルビル基の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基及びニトロ基等が挙げられる。ヒドロカルビル基としては、飽和のヒドロカルビル基が例示され、飽和のヒドロカルビル基としてはアルキル基が例示される。
オレフィンとしては、具体的には、炭素数2〜10のアルケン、及び炭素数4〜10のシクロアルケンが例示される。
炭素数2〜10のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、2−ブテン、イソブテン、2−ペンテン、3−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、2−ノネン、3−ノネン、2−デセン及び3−デセン等が例示される。
炭素数4〜10のシクロアルケンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン等が例示される。
本実施形態において、オレフィンとしては、炭素数2〜10のアルケンがより好ましく、炭素数2〜5のアルケンが更に好ましく、プロピレンが特に好ましい。
【0064】
該貴金属触媒としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金等の貴金属、またはそれらの合金もしくは混合物があげられる。好ましい貴金属としては、パラジウム、白金、金が挙げられる。より好ましい貴金属はパラジウムである。パラジウムとしては、例えば、パラジウムコロイドを用いてもよい(例えば、特開2002−294301号公報、実施例1等参照)。上記貴金属触媒として、酸化反応系内で還元することにより貴金属に変換される貴金属化合物を用いてよく、好ましい貴金属化合物はパラジウム化合物である。なお、該貴金属触媒として、パラジウムを用いる場合、更に白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等のパラジウム以外の金属も添加混合して用いることができる。好ましいパラジウム以外の金属としては、白金があげられる。
【0065】
該パラジウム化合物として、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価のパラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ(ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジブロモテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)等の2価パラジウム化合物類が例示される。
【0066】
貴金属は、担体に担持して使用されることが好ましい。貴金属は、チタノシリケート(I)に担持して使用することもできるし、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア等の酸化物;ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、チタン酸等の水化物;炭素;あるいはそれらの混合物に担持して使用することもできる。チタノシリケート(I)以外に貴金属を担持させた場合、貴金属を担持した担体をチタノシリケート(I)と混合し、当該混合物を触媒として使用することができる。チタノシリケート(I)以外の担体の中では、炭素が好ましい担体として挙げられる。炭素担体としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が知られている。
【0067】
貴金属担持触媒の調製方法としては、例えば、貴金属化合物を担体上に担持した後、還元する方法が知られている。貴金属化合物の担持は、含浸法等の従来公知の方法を用いることができる。
還元方法としては、水素等の還元剤を用いて還元してもよいし、不活性ガス雰囲気下、熱分解時に発生するアンモニアガスで還元してもよい。還元温度は、貴金属化合物の種類等によって異なるが、貴金属化合物としてジクロロテトラアンミンパラジウム(II)を用いた場合は、100〜500℃の範囲が好ましく、200〜350℃の範囲が更に好ましい。
上記貴金属担持触媒は、貴金属を0.01〜20質量%の範囲、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で含む。
貴金属の使用量は、チタノシリケート(I)1質量部に対し、0.00001質量部以上であればよく、0.0001質量部以上が好ましく、0.001質量部以上が更に好ましい。該貴金属の使用量は、チタノシリケート(I)1質量部に対し、100質量部以下であればよく、20質量部以下が好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0068】
反応系に用いる溶媒としては、水、有機溶媒あるいは両者の混合物等が挙げられる。
有機溶媒としては、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、及びそれらの混合物が挙げられる。
脂肪族炭化水素溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が挙げられる。
上記アルコール溶媒としては、炭素数1〜6の1価アルコール、炭素数2〜8のグリコール等が挙げられる。上記アルコール溶媒としては、炭素数1〜8の脂肪族アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びtert−ブタノール等の炭素数1〜4の1価アルコールがより好ましく、tert−ブタノールが更に好ましい。
上記ニトリル溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル等の炭素数2〜4のアルキルニトリル及びベンゾニトリルが好ましく、アセトニトリルが特に好ましい。
上記有機溶媒としては、触媒活性、選択性の観点から、アルコール溶媒及び/又はニトリル溶媒が好ましい。
【0069】
この反応工程において、緩衝剤を反応系に存在させた場合、触媒活性の減少を防止したり、触媒活性をさらに増大させたり、することができ、原料ガスの利用効率を向上させることができる。
該緩衝剤は、液相中に溶解させることにより反応系に存在させることが典型的であるが、予め貴金属錯体の一部に含ませておいてもよい。例えば、パラジウム(Pd)テトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等を担体上に含浸法等によって担持した後、還元し、アンモニウムイオンを残存させ、エポキシ化反応中に緩衝剤を発生させる方法がある。緩衝剤の添加量は、液相の溶媒1kgあたり、0.001〜100mmol/kgであると好ましい。
該緩衝剤としては、
1)硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸2水素イオン、ピロリン酸水素イオン、ピロリン酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、水酸化物イオン、及び、炭素数1〜10のカルボン酸イオンからなる群より選ばれるアニオンと、
2)アンモニウム、炭素数1〜20のアルキルアンモニウム、炭素数7〜20のアルキルアリールアンモニウム、アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属からなる群より選ばれるカチオンと、
からなる緩衝剤が例示される。
ここで、炭素数1〜10のカルボン酸イオンとしては、酢酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、カプリル酸イオン、カプリン酸イオン、及び安息香酸イオン等が例示される。
炭素数1〜20のアルキルアンモニウムの例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、及びセチルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカチオンの例は、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、及びバリウムカチオン等が例示される。
【0070】
好ましい緩衝剤としては、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩;及び酢酸アンモニウム等の炭素数1〜10のカルボン酸のアンモニウム塩;が挙げられ、好ましいアンモニウム塩としては、リン酸2水素アンモニウムが挙げられる。
【0071】
本実施形態のように、酸化反応と同一反応系内で酸素と水素から過酸化水素を合成して使用する場合は、キノイド化合物を反応系に存在させることにより、酸化化合物の選択性をさらに増大させることができる。
【0072】
上記キノイド化合物としては、下記式(1)のρ−キノイド化合物及びフェナントラキノン化合物が例示される。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、水素原子を表すかあるいは、RとR、あるいはRとRは、それぞれ独立に、その末端で結合し、それぞれが結合している炭素原子と一緒になって、置換基を有していてもよいナフタレン環を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子もしくはNH基を表す。)
【0073】
式(1)の化合物としては、
1)式(1)において、R、R、R及びRが全て水素原子であり、X及びYが共に酸素原子であるキノン化合物(1A)、
2)式(1)において、R、R、R及びRが全て水素原子であり、Xが酸素原子であり、YがNH基であるキノンイミン化合物(1B)、
3)式(1)において、R、R、R及びRが全て水素原子であり、X及びYがNH基であるキノンジイミン化合物(1C)が例示される。
【0074】
式(1)のキノイド化合物には、下記のアントラキノン化合物(2)が含まれる。
【化2】

(式中、X及びYは式(1)において定義されたとおりであり、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基もしくはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基)を表す。)。
式(1)及び式(2)において、X及びYは好ましくは、酸素原子を表す。
【0075】
上記キノイド化合物は、反応条件によっては、一部が水素化されたキノイド化合物のジヒドロ体となり得るが、これらの化合物を使用してもよい。
【0076】
上記キノイド化合物としては、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アルキルアントラキノン化合物、ポリヒドロキシアントラキノン、ρ−キノイド化合物、及びο−キノイド化合物等があげられる。
上記アルキルアントラキノン化合物としては、例えば2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−ブチルアントラキノン、2−tert−アミルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン、2−s−ブチルアントラキノン及び2−s−アミルアントラキノン等の2−アルキルアントラキノン化合物;1,3−ジエチルアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、1,4−ジメチルアントラキノン及び2,7−ジメチルアントラキノン等のポリアルキルアントラキノン化合物が挙げられる。上記ポリヒドロキシアントラキノンとしては、2,6−ジヒドロキシアントラキノン等が挙げられる。上記ρ−キノイド化合物としては、ナフトキノン、1,4−フェナントラキノン等が挙げられる。上記ο−キノイド化合物としては、1,2−、3,4−及び9,10−フェナントラキノン等が挙げられる。
好ましいキノイド化合物としては、アントラキノンや、2−アルキルアントラキノン化合物(式(2)において、X及びYが酸素原子であり、Rが2位に置換したアルキル基であり、Rが水素を表し、R及びRが水素原子を表す。)が挙げられる。
【0077】
用いるキノイド化合物の量は、液相の溶媒1kgあたり、0.001〜500mmol/kgの範囲であり、0.01〜50mmol/kgであると更に好ましい。
【0078】
さらに本実施形態においては、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩又はアルキルアリールアンモニウム塩と、キノイド化合物と、を同時に反応系中に加えることも可能である。
【0079】
上記キノイド化合物は、該キノイド化合物のジヒドロ体を反応系内で酸素等を用いて酸化させることにより調製することもできる。例えばヒドロキノンや、9,10−アントラセンジオール等のキノイド化合物が水素化された化合物を液相中に添加し、反応器内で酸素により酸化してキノイド化合物を発生させて使用してもよい。
【0080】
上記キノイド化合物のジヒドロ体としては、前記式(1)及び式(2)の化合物のジヒドロ体である下記の式(3)及び(4)の化合物が例示される。
【化3】

(式中、R、R、R、R、X及びYは、前記式(1)に関して定義されたとおりである。)
【化4】

(式中、X、Y、R、R、R及びRは前記式(2)に関して定義されたとおりである。)
式(3)及び式(4)において、X及びYは、好ましくは酸素原子を表す。
好ましいキノイド化合物のジヒドロ体としては、上述の好ましいキノイド化合物に対応するジヒドロ体が挙げられる。
【0081】
反応形式としては、固定床反応、攪拌槽型反応、流動層反応、移動層反応、気泡塔型反応、管型反応、循環式反応等、特に、流通式固定床反応、流通式スラリー完全混合反応等があげられる。
【0082】
本実施形態において、反応ガス雰囲気に制限はない。
本実施形態のように、同一反応系内で、貴金属の存在下に酸素と水素とから過酸化水素を製造させる場合、反応器に供給する酸素と水素との分圧比は、酸素:水素=1:50〜50:1の範囲である。好ましい酸素と水素の分圧比は、酸素:水素=1:2〜10:1である。酸素と水素との分圧比が高すぎると、エポキシ化合物の生成速度が低下する場合がある。また、酸素と水素との分圧比が低すぎると、アルカン化合物副生の増大によりエポキシ化合物の選択率が低下する場合がある。
本実施形態において、酸素及び水素は、他のガスにより希釈されていてもよい。希釈に用いる他のガスとしては、窒素、アルゴン、二酸化炭素、メタン、エタン及びプロパンがあげられる。希釈用ガスの濃度に制限は無いが、必要により、酸素あるいは水素を希釈して反応は行われる。
【0083】
原料ガスである酸素は、酸素ガスそのものを用いても、空気を用いてもよい。酸素ガスは安価な圧力スウィング法で製造した酸素ガスも使用できるし、必要に応じて深冷分離等で製造した高純度酸素ガスを用いることもできる。
【0084】
反応温度は0℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が特に好ましい。一方、該反応温度の上限は、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が特に好ましい。
反応温度が低すぎると反応速度が遅くなる傾向があり、反応温度が高くなりすぎると副反応による副生成物が増加する傾向がある。
【0085】
反応圧力は、ゲージ圧力で0.1MPa〜20MPaの範囲が好ましく、1MPa〜10MPaの範囲が更に好ましい。
反応後、反応生成物の回収は、蒸留分離等の公知の方法により行うことができる。
【0086】
本実施形態において、チタノシリケート(I)又はシリル化物の量は、反応の種類、特に用いるオレフィンの種類等に応じて適宜選択することができるが、液相の溶媒の合計量に対して、下限は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が特に好ましい。一方、その上限は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。
【0087】
本実施形態において、オレフィン化合物の量は、その種類や反応条件等に応じて適宜選択することができるが、液相の溶媒の合計量100質量部に対して、下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上が特に好ましい。一方、その上限は1000質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0088】
酸化剤の量は、オレフィン化合物の種類や反応条件等に応じて任意に選択することができるが、オレフィン化合物100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。上記酸化剤の量は、オレフィン化合物100質量部に対して、好ましい上限が100質量部以下、より好ましい上限が50質量部以下である。
【0089】
本実施形態によれば、オレフィンのエポキシ化をより安全に実施することができる。
【0090】
(実施形態4)
本発明、より具体的には、実施形態1および2の混合器および混合ガスの製造方法は、特開2008−106030号公報に記載されるようなエポキシ化合物の製造方法を実施するために利用され得る。
【0091】
まず、可燃性ガスとしてオレフィンおよび水素を用い、助燃性ガスとして酸素を用い、これらを本発明の混合装置、例えば実施形態1および2の混合器を用いて混合し、得られる混合ガスを反応器に供給する。
【0092】
そして、反応工程として、反応器中にて、オレフィン、酸素、および水素を、液相中、MEL構造、MTW構造、BEA構造、MWW構造もしくはDON構造を有する結晶性チタノシリケート、メソポーラスチタノシリケートおよび層状チタノシリケートからなる群から選ばれるチタノシリケート(X)、貴金属触媒、およびキノイド化合物もしくはキノイド化合物のジヒドロ体の存在下に反応させることにより、エポキシ化合物が得られる。本実施形態においても、酸素および水素は、貴金属触媒の存在下に、過酸化水素を生じ、過酸化水素は、オレフィンに対して酸化剤として作用して、エポキシ化合物を生じる。
【0093】
以下、本実施形態において用いるチタノシリケート(X)と、これを用いた反応工程とについて詳述する。なお、本実施形態において、特に説明のない限り実施形態3と同様とする。
【0094】
・チタノシリケート(X)
チタノシリケート(X)は、MEL構造、MTW構造、BEA構造、MWW構造もしくはDON構造を有する結晶性チタノシリケート、メソポーラスチタノシリケートおよび層状チタノシリケートからなる群から選ばれる。
【0095】
本実施形態において用いられるチタノシリケート(X)としては、以下のものが例示される。
国際ゼオライト学会(IZA)が規定する構造コードで、MEL構造を有するTS−2、MTW構造を有するTi−ZSM−12(例えば、Zeolites 15, 236-242, (1995)に記載されたもの)、BEA構造を有するTi−Beta(例えば、Journal of Catalysis 199, 41-47, (2001)に記載されたもの)、MWW構造を有するTi−MWW(例えば、Chemistry Letters 774-775,(2000)に記載されたもの)、DON構造を有するTi−UTD−1(例えば、Zeolites 15, 519-525, (1995)に記載されたもの)等の結晶性チタノシリケートが例示される。
層状チタノシリケートとしては、Ti−MWW前駆体(例えば、特開2003−32745号公報に記載されたもの)やTi−YNU−1(例えば、Angewandte Chemie International Edition 43, 236-240, (2004)に記載されたもの)のようにMWW構造の層間が広がった構造を持つチタノシリケート等が例示される。
メソポーラスチタノシリケートは、通常2〜10nmの規則性細孔を持つチタノシリケートの総称で、Ti−MCM−41(例えば、Microporous Materials 10, 259-271, (1997)に記載されたもの)、Ti−MCM−48(例えば、Chemical Communications 145-146, (1996)に記載されたもの)、Ti−SBA−15(例えば、Chemistry of Materials 14, 1657-1664, (2002)に記載されたもの)等が例示される。また、Ti−MMM−1(例えば、Microporous and Mesoporous Materials 52, 11-18, (2002)に記載されたもの)のようにメソポーラスチタノシリケートとチタノシリケートゼオライトの両方の特徴を併せ持つチタノシリケートも例示される。
【0096】
これらチタノシリケート(X)のうち、酸素12員環以上の細孔を有する結晶性チタノシリケートあるいは層状チタノシリケートが好ましい。
酸素12員環以上の細孔を有する結晶性チタノシリケートとしては、Ti−ZSM−12、Ti−Beta、Ti−MWW、Ti−UTD−1があげられる。
酸素12員環以上の細孔を有する層状チタノシリケートとしては、Ti−MWW前駆体、Ti−YNU−1があげられる。より好ましいチタノシリケートとしては、Ti−MWW、Ti−MWW前駆体があげられる。
【0097】
本実施形態において用いられるチタノシリケート(X)は、通常、型剤あるいは構造規定剤として界面活性剤を使用し、チタン化合物とケイ素化合物を加水分解させ、必要に応じて水熱合成等で結晶化あるいは細孔規則性を向上させた後、焼成あるいは抽出により界面活性剤を除去する方法で合成される。
【0098】
MWW構造を持つ結晶性チタノシリケートは、通常、次のようにして調製される。すなわち、ケイ素化合物およびチタン化合物を構造規定剤存在下、加水分解しゲルを調製する。次いで、得られたゲルを水熱合成等により水存在下で加熱処理を行い層状の結晶前駆体を調製する。さらに得られた層状の結晶前駆体を、焼成により結晶化してMWW構造を持つ結晶性チタノシリケートが調製される。
【0099】
本実施形態において用いられるチタノシリケート(X)は、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤を用いてシリル化したものも含む。シリル化することで、さらに活性あるいは選択性を高くすることができるため、シリル化したチタノシリケートも好ましいチタノシリケート(例えば、シリル化したTi−MWW等)である。
【0100】
・反応工程
上記チタノシリケート(X)を、本実施形態のオレフィンのエポキシ化反応(オレフィン化合物が対応するエポキシ化合物に変換される反応)において触媒として使用する。本実施形態において、オレフィンのエポキシ化反応のための酸化剤となる過酸化水素は、酸化反応と同一反応系内で製造することにより供給され、より具体的には、貴金属触媒の存在下で酸素と水素から製造される。かかる反応工程は、キノイド化合物もしくはキノイド化合物のジヒドロ体の存在下に、溶媒を含む液相中で行われる。
【0101】
本実施形態で用いられる貴金属触媒は、実施形態3と同様のものが使用され得る。
【0102】
本実施形態において、チタノシリケート(X)は、適切な濃度の過酸化水素溶液で処理することにより活性化し使用することもできる。通常、過酸化水素溶液の濃度は0.0001〜50質量%の範囲で実施することができる。過酸化水素溶液の溶媒は、特に限定されないが、水あるいはプロピレンオキサイド合成反応に用いる溶媒が、工業的に簡便であり、好ましい。
【0103】
本実施形態で用いるオレフィン、貴金属触媒、反応系に用いる溶媒は、実施形態3にて説明したものと同様とし得る。また、本実施形態で用いるキノイド化合物またはキノイド化合物のジヒドロ体は、実施形態3にて説明したものと同様とし得る。
【0104】
本実施形態では、貴金属触媒は、チタノシリケート(X)に担持して使用することができる。貴金属触媒のチタノシリケート(X)に対する質量比(貴金属の質量/チタノシリケートの質量)は、好ましくは、0.01〜100質量%、より好ましくは0.1〜20質量%である。
【0105】
反応工程は、通常、水、有機溶媒あるいはその両者の混合物からなる液相中で行われ、これにキノイド化合物もしくはキノイド化合物のジヒドロ体もしくは両者の混合物を添加して使用され、キノイド化合物誘導体は、好ましくは液相中に溶解させて使用される。液相に有機溶媒が含まれることにより、キノイド化合物誘導体が効率的に作用する傾向があるので、液相に有機溶媒が含まれない場合に比べて、キノイド化合物誘導体の使用量を削減しても、エポキシ化合物を良好な選択率で得ることができる。
【0106】
水と有機溶媒の混合物を使用する場合、水と有機溶媒の比率は、通常、質量比で90:10〜0.01:99.99であり、好ましくは、50:50〜0.01:99.99である。水の比率が大きくなりすぎると、エポキシ化合物が水と反応して開環劣化しやすくなる場合があり、エポキシ化合物の選択率が低くなる場合もある。逆に有機溶媒の比率が大きくなりすぎると、溶媒の回収コストが高くなる。
【0107】
反応形式としては、固定床反応、攪拌槽型反応、流動層反応、移動層反応、気泡塔型反応、管型反応、循環式反応等があげられる。
【0108】
本実施形態において、チタノシリケート(X)の量も、反応の種類、特に用いるオレフィンの種類等に応じて適宜選択することができ、実施形態3と同様とし得る。その他の反応条件も実施形態3と同様である。
【0109】
本実施形態によっても、オレフィンのエポキシ化をより安全に実施することができる。
【0110】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これら実施形態は種々の改変が可能である。
【0111】
実施形態1および2の混合器および混合ガスの製造方法は、実施形態3および4にて説明したような方法のほか、任意の適切な方法、例えば以下の文献に記載されるような方法を実施するために利用され得る:国際公開第99/52884号(特表2002−511454号公報)、国際公開第99/52885号(特表2002−511455号公報)、国際公開第2001/023370号(特表2003−510314号公報)、国際公開第2001/062380号、国際公開第2002/008214号、国際公開第2002/068401号、国際公開第2002/057245号、国際公開第2003/031423号(特表2005−511524号公報)、国際公開第2003/044001号(特表2005−514364号公報)、国際公開第2003/035631号(特表2005−510502号公報)、国際公開第2003/035630号、国際公開第2003/035632号、国際公開第2003/048143号、国際公開第2004/026852号、国際公開第2005/077531号、国際公開第2005/082533号、国際公開第2005/092502号、国際公開第2005/092874号、米国特許出願公開第2005/0282699号明細書、米国特許出願公開第2005/0277542号明細書、国際公開第2006/065311号、国際公開第2007/018684号、米国特許出願公開第2007/0027347号明細書、国際公開第2007/046958号、国際公開第2007/050193号、米国特許出願公開第2007/0142651号明細書、米国特許出願公開第2007/0093668号明細書、米国特許出願公開第2008/0003175号明細書、米国特許出願公開第2008/0015372号明細書、米国特許出願公開第2008/0021230号明細書、米国特許第7387981号明細書、米国特許出願公開第2008/0146825号明細書、米国特許出願公開第2008/0146826号明細書、米国特許出願公開第2008/0255379号明細書、米国特許第7470801号明細書、米国特許出願公開第2009/0112006号明細書、米国特許第7501532号明細書。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明によれば、可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合しても、燃焼反応の拡大を抑え得る濃度範囲に速やかに混合することのできるより安全性の高い混合器が提供される。
【符号の説明】
【0113】
1、1’、61 管状混合部
1a 一端
1b 他端
1c テーパー部
2 可燃性ガス供給口
3 混合ガス排出口
4、64 助燃性ガス供給管
4a、64a 先端
4b 先端近傍側面部
4c 先端と先端近傍側面部との間の部分
5、65 助燃性ガス供給口
10、10’ 混合器
D1、D2 内径
X プロピレン+H(可燃性ガスの可燃性成分)100vol%
Y O(助燃性ガス)100vol%
Z N(可燃性ガスの不活性成分)100vol%
A 量論組成
B 限界酸素濃度
直線AB 量論組成線
C 爆発下限界濃度(O
D 爆発上限界濃度(O
直線BC、直線BD 爆発限界
E 供給する可燃性ガスの組成
直線EY 操作線
F、G 限界濃度
H 量論組成線と操作線との交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性ガスおよび助燃性ガスを混合する混合器であって、
可燃性ガス供給口を有する一端と、混合ガス排出口を有する他端との間に亘って延在する管状混合部と、
管状混合部の一端および他端の間にて管状混合部内に挿入され、先端が封止され、かつ少なくとも1つの助燃性ガス供給口を先端近傍側面部に有する助燃性ガス供給管と
を含み、先端近傍側面部における助燃性ガス供給管の中心軸が、管状混合部の長尺方向に対して略平行に配置されていることを特徴とする、混合器。
【請求項2】
管状混合部の長尺方向と、助燃性ガス供給口の開口面とが、略平行である、請求項1記載の混合器。
【請求項3】
助燃性ガス供給管は、先端と先端近傍側面部との間において、略流線形状の外形を有する、請求項1または2記載の混合器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の混合器にて、可燃性ガスを管状混合部の一端に位置する可燃性ガス供給口から管状混合部内に供給し、助燃性ガスを助燃性ガス供給口から管状混合部内に供給し、助燃性ガス供給口と管状混合部の他端との間で該可燃性ガスおよび該助燃性ガスを混合し、得られた混合ガスを管状混合部の他端に位置する混合ガス排出口から排出することを特徴とする混合ガスの製造方法。
【請求項5】
助燃性ガス供給口における可燃性ガスの流速が可燃性ガスおよび助燃性ガスの混合ガスの燃焼速度以上となるように、管状混合部への可燃性ガスの供給を調節することを更に含む、請求項4記載の混合ガスの製造方法。
【請求項6】
可燃性ガスが水素を含み、助燃性ガスが酸素を含む、請求項4または5記載の混合ガスの製造方法。
【請求項7】
可燃性ガスがプロピレンを更に含む、請求項6記載の混合ガスの製造方法。
【請求項8】
可燃性ガスが不活性成分を更に含む、請求項6または7記載の混合ガスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−92927(P2011−92927A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214927(P2010−214927)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】