説明

可視性が低いレーザーでマーキングを行うための添加物(ナノサイズのアンチモン−錫酸化物(ATO)粒子を含んで成るレーザーでマーキングを行うための添加物)

大きさが100nm未満の粒子状のレーザー・マーキング用添加物をプラスティックスに混入することによりレーザーによりプラスティックス材料にマークを付けることができる。YAGレーザーを用いる場合、レーザー・マーキング用添加物としては粒子の大きさが10〜70nmの錫およびアンチモンの混合酸化物の粒子が有用である。さらに金属の粉末を加えてマーキングを行う際のコントラストを改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2003年11月7日出願の暫定米国特許出願第60/518,483号明細書、および2004年8月30日出願の暫定米国特許出願第60/605,888号明細書に対する優先権を請求する。
【技術分野】
【0002】
本発明は可視性が低いレーザーでマーキングを行うための添加物(以後「レーザー・マーキング用添加物」という)、および特に多様な種類のプラスティックス製品および被膜にマーキングを行うためのこのような添加物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
製品にマーキングを行うための印刷技術、例えばスクリーン印刷法および転写印刷法を含む印刷技術は良く知られている。これらの技術は一般に表面印刷法であり、このことは得られた識別マークが機械的な損傷、摩耗、化学的な影響等によって読取り不可能になる可能性をもっていることを意味している。このような印刷法は曲がった或いはテクスチャー加工された表面に対しては特に適用が困難であり、特に加工のために必要なコストが製品の全体的なコストに加えられる。
【0004】
製品にラベルを付けることは実質的に産業界の全体に亙って重要性を増してきている。即ち例えば製造日、賞味期限、バーコード、会社のロゴマーク、製造番号等は頻繁に付けられなければならない。現在、これらのマークは主として印刷、エンボッシング、刻印、およびラベル表示のような慣用の方法でなされている。しかし、レーザーを使用する非接触型の極めて迅速で融通性をもったマーキングの方法が、特にプラスティックスの場合に増えている。この方法では、例えば平らでない表面の上でも高速でバーコードのような図形的な銘刻(inscription)を付けることが可能である。銘刻はプラスティックス製品自身の中に付けられるから、耐久性があり、耐摩耗性をもっている。
【0005】
レーザーシステムを使用して製品にマーキングを行うことが望ましいことは良く知られている。マーキングすべき製品に衝突したビームによって所望の大きさの文字および/または数字、並びに画像の形の細い線が得られるのに十分な焦点合わせができるように、レーザーの開発が行われてきた。レーザーは製品の表面に、または表面の下にマークを付けることができる。多くの場合、マークが消え難くするために、マークは表面の下に配置することが望ましい。このような表面の下にあるマークは例えば偽造防止効果の役に立つことができる。またレーザーによるマーキング法は、マークが表面の上または表面の下のいずれに付けられるにせよ、例えば製品の製造中に電子的に走査を行い制御する目的に使用されてきた。
【0006】
製品の一部の表面に識別マークを焼き付けるためのいくつかのレーザービーム法が知られている。得られる粗い表面は汚れる危険があるために、また美しくない感覚を与えるために、通常その表面を透明なラッカーで被覆しなければならない。このことは大量生産される部品の場合非常に厄介な操作となり、製品のコストを増加させる。
【0007】
レーザービームにより表面の下にマークを付けるマーキングシステムの使用も良く知られている。このようなシステムではマークを付けるべき製品を特殊な形状をした材料で構成しなければならないか、或いはこのようなシステムは、レーザービームに露出した場合
目に見えるようになるかまたは何らかの方法で目に見えるようにするための材料を製品の内部に混入することによってマークを付けることに基づいている。
【0008】
例えば特許文献1には、第2のプラスティックス材料の層の中で吸収させるために、レーザービームが第1のプラスティックス材料の表面を通過するシステムが記載されている。このシステムではマークを付ける部分が構造材料の特殊な構成をもっていることが必要である。他のシステムでは或る量のカーボンブラック、被覆されないまたは被覆された「珪酸塩含有」材料、例えば雲母、タルク、カオリン、或いは高い吸収性をもった緑色顔料を混入する。これらすべての材料はレーザービームからエネルギーを吸収し目に見えるマークを生じる。しかしこれらの材料は、レーザービームをかける前でも十分目に見えるような濃い色をもっているか或いはプラスティックスに高度の曇りを与え、レーザービームをかけた後に得られるマークを見えなくするかその明瞭度を妨害する可能性がある。マークを付けるべき製品の中にこれらの添加物を高い充填量で加える必要がある傾向をもっているから、上記の不利な特徴はさら増大する。高い充填量が必要なことは外見に与える効果が望ましくないばかりではなく、製品の物理的および機械的性質にも影響を与える。さらにレーザービームを吸収すると局所的に加熱され、また泡が生じ、これにより細かいはっきりとした暗色のマークの生成が損なわれ、その結果汚れた製品が生じる。
【0009】
典型的にはこれらの添加物はレーザーから放射される波長に対し特定的である傾向をもっている。例えば二酸化炭素レーザーと組合わされて初期に開発されたレーザー・マーキング用材料は、その後次第に普及してきた1064nmで吸収する材料が必要なイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)レーザーを用いた場合、あまり良好には(或いは全く)作動しない。
【0010】
特許文献2には、YAGレーザー用の新規マーキング用添加物(MARK−ITTM)およびその使用が記載されている。このYAGレーザー・マーキング用添加物は共沈させた錫およびアンチモンの混合酸化物をカ焼した粉末である。この粉末がYAGレーザーのエネルギーを吸収し、これが熱に変わる場合、周囲を取り囲む材料の炭化が起こり、その結果残りの周囲の区域に対してコントラストをもった黒色または暗色のマークが生じる。粉末の粒径およびその効率のために、この粉末はそれが混入された物体の中に顕著な量の色を生じない。また過剰の泡を生じないから、得られるマークは組織が滑らかである。
【0011】
レーザー・マーキング用添加物はレーザー光に対する光吸収剤として作用することにより重合体をレーザーによってマーキングできるようにする。このような能力をもった作用をする材料はしばしば可視光も吸収し、これによってマーキングすべき部材を着色させる。この色は部材の所望の色に対してコントラストをもっているか、或いは所望の色を薄めることができる。またこの添加物は透明な部材の透明度を減少させる。また添加物による光の散乱のために外観の変化が生じることもある。このことは、添加物が着色しているかどうかに拘わらず起こることができる。その結果、レーザー・マーキング用添加物は低濃度で使用しなければならないか、および/または透明な外観のものに対しては使用されない。
【特許文献1】米国特許第4,822,973号明細書
【特許文献2】2004年、2月17日付けの同一譲渡人に対する米国特許第6,693,657号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って本発明の目的は、レーザーエネルギーに露出した場合周囲の区域に対してコントラストをもった黒色または暗色のマークを生じるが、露出前においては周囲の区域に対して認め得るほどの色を賦与しないか、或いは添加された材料の性能に著しい変化を与えな
いレーザー・マーキング用添加物を提供することである。従来の添加物は透明な重合体に曇りを生じさせる。何故ならこのような重合体は光学的な透明性を失い、もはやクリスタルに透明ではなくなるからである。本発明によれば、通常のレーザー・マーキング用添加物と同等な充填量において色或いは外観を変化させず、部材のレーザーによるマーキング特性を保持しているレーザー・マーキング用添加物がつくられる。さらに曇りのない透明な重合体の光学的な透明性が保持される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の概要
本発明によれば、製品の色または光学的な透明性を含む外観を変化させず、部材のレーザーによるマーキング特性を保持したレーザー・マーキング用添加物が提供される。本発明のレーザー・マーキング用添加物は、透明なプラスティックス成分を含むプラスティックス製品、並びに重合体の被膜またはインクにマーキングを行うのに特に有用である。本発明の添加物を含んだ重合体はレーザーにより容易にマーキングできる。透明な重合体は本来の光学的透明性を保持し、本発明の添加物を混入した場合およびまたそれからつくられた製品にレーザーマーキングを行った場合、曇って見えることはない。本発明のレーザー・マーキング用添加物は、レーザーの波長における吸光係数を保持することによりレーザー・マーキング用添加物に対する主要な要件であるレーザー光の吸収性を保持している。何が減少しているかといえば顔料の散乱能力である。散乱を起こす粉末は部材の内部で顔料の可視性を決定する成分である。添加物の粒径を極端に小さくすることにより、即ちナノサイズ(ナノメートル程度の大きさ)にすることにより、本発明の添加物の散乱能力は減少する。本発明においてレーザー・マーキング用添加物の大きさは100nm未満である。
【0014】
本発明の詳細な説明
本発明のレーザーによりマーキングを行う方法においては、パルスの強さ、パルスの継続時間、およびパルスの周波数のようなレーザーエネルギーの特性を支配する変動パラメータを容易に調節できる任意のレーザーを用いることができる。好ましくは、レーザーの波長は近赤外領域(780〜2000nm)、可視領域(380〜780nm)または近紫外領域(150〜380nm)の波長である。適当なレーザーには、これだけに限定されないが、固体パルス・レーザー、パルス金属蒸気レーザー、エキシマ・レーザーおよびパルス変調された連続波のレーザー、例えば市販のNd:YAGレーザー(波長1064nm)、周波数倍増Nd:YAGレーザー(波長532nm)、エキシマ・レーザー(波長193〜351nm)、およびCOレーザー(10.6μm)が含まれる。
【0015】
本発明におけるレーザーによるマーキングに適したプラスティックス製品には、型成形、押出し、または公知の従来法でつくられた任意のプラスティックス製品が含まれる。これらのプラスティックス製品は樹脂および下記のレーザーエネルギー吸収用添加物を含んで成り、さらにこれらの製品に対するレーザーによるマーキングを妨害しない限り他の添加物を含んでいることができる。このような他の添加物は重合体の配合の専門家には公知であり、これだけには限らないが、補強用の充填材、燃焼遅延性、酸化防止剤、分散剤、衝撃変性剤、紫外線安定剤、可塑剤等を含んでいる。また本発明のレーザーエネルギー吸収添加物は、重合体材料、または粉末状の重合体被膜の水溶液、非水溶液または分散物からつくられた被膜またはインクを含むプラスティックス被膜の中に混入することができる。これらの被膜またはインクはプラスティックス、金属、ガラス、セラミックス、木材等からつくられた任意の製品の表面の上に被覆することができる。従って、本発明のレーザー・マーキング用添加物を含むプラスティックス被膜は任意の種類の基質にレーザーによるマーキングを行うのに使用することができる。
【0016】
本発明において、レーザーエネルギーを吸収する添加物は好ましくは近赤外領域、可視
領域および/または近紫外領域の光を吸収することができる。例となる添加物には、これだけには限定されないが、カーボンブラック、グラファイト、珪酸ジルコニウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、コージエライト、雲母、カオリン、タルク、シリカ、珪酸アルミニウム、金属塩、例えば燐酸銅等が含まれる。任意の市販の有機顔料または無機顔料は着色剤として使用するのに適している。有機顔料の例には、これだけには限定されないが、Barium red 1050(R)(Cook Son)、Filamid yellow R(R)、Filamid red GA(R)、Heliogen green K8730(R)、Heliogen blue K6911 D(R)、LISA
red 57Y(R)LISA red 61R(Bayer)、1290 RightfitTM Yellow、2920 RightfitTM Brilliant Orange、1112 RightfitTM Scarlet(Engelhard)等が含まれる。
【0017】
上記および下記に挙げたようなレーザー・マーキング用添加物は大きさが100nm未満である。下記にもっと詳細に説明するようにレーザー・マーキング用添加物をナノサイズの粒子にするには種々の公知方法が用いられる。典型的にはレーザー・マーキング用添加物は、プラスティックスの製品または被膜をつくる樹脂成分の0.01〜5重量%含んで成っている。これよりも含有量が多い場合でさえも、本発明のナノサイズの添加物が存在することによる樹脂の色の変化をなお最低限度に抑制することができる。
【0018】
本発明においては、特に有用な添加物はYAGレーザーと組み合わせて使用するのに適合した添加物である。有用な一例は錫およびアンチモンの混合酸化物の粉末である。この粉末は主として酸化錫から成り、Sbとして表わして少量しか酸化アンチモンを含んでいない。Sbの濃度は混合酸化物の最高約17%であることができる。好ましくは酸化アンチモンの量は混合酸化物の約1〜5重量%である。錫とアンチモンの混合酸化物の特定の例では粒子の大きさが約10〜70nm、さらに好ましくは20〜50nmであろう。混合酸化物中のSbの含有量が2重量%のものが特に有用であることが見出だされている。
【0019】
ナノサイズの材料をつくる技術は一般に下記の三つの範疇に入る。即ち、機械的処理法、化学的処理法、または物理的(熱的)処理法の三つである。機械的処理法では通常高速ボールミルのような破砕法を用いて大きな粒子から細かい粉末をつくる。化学的処理法では、有機金属化合物(互いに結合した炭素と金属の組合せを含む物質)として知られている一群の材料または種々の金属塩を用い種々の大きさおよび形の粒子を沈澱させる反応からナノサイズの材料をつくる。しばしば化学的処理法は熱的方法、例えば熱分解法と組み合わされる。
【0020】
化学的処理法は気相または液相で行うことができる。気相合成法には金属蒸気の凝縮および酸化、スパッタリング、レーザーによる削磨(laser−ablating)、プラズマを用いる化学蒸着法、およびレーザー誘起化学蒸着法が含まれる。液相の処理法は沈澱法、およびゾル−ゲル法を含んでいる。エアロゾル法には噴霧乾燥法、噴霧熱分解法、ハロゲン化物の焔による酸化/加水分解を含んでいる。
【0021】
セラミックス粉末を製造するのに使用できるエアロゾル処理法の中では、ハロゲン化物の噴霧熱分解法および焔による酸化法が超微細粉末をつくるのに使用される主要な方法である。両方の方法では金属の塩またはアルコキシドの溶液のミクロン以下のサイズの液滴を標準的なエアロゾル化の技術によってつくることができる。噴霧熱分解法では、得られるエアロゾルを熱分解し、エアロゾルの液滴を熱分解により変化させ、元の溶液と同じ化学量論的な組成をもつ個々のセラミックス粒子にする。この工程の中における熱的な現象には溶媒の蒸発、溶質の沈澱、沈澱のセラミックスへの熱転化、および十分な密度への粒
子の焼結が含まれる。
【0022】
噴霧熱分解法は金属性のセラミックス粉末を製造する最も普通の方法である。得られる粉末は典型的には100〜10,000nmの範囲の大きさをもっている。製造される粒子の大きさはエアロゾル内部の液滴の大きさおよび溶液中に溶解した固体分の重量%によって調節される。最終的な粒子の大きさは、最初の液滴の大きさが小さいほど、また溶液中に溶解した固体分の濃度が低いほど小さくなる。
【0023】
エアロゾル化はいくつかの公知の技術によって達成することができる。例えば前駆体の溶液を高圧で拘束ノズルに通して噴霧状にするか、高容積、低圧のガス流の中に吹込むことができる。このようなアトマイザー(噴霧器)を使用する場合、高容積のガス流は空気、酸素に富んだ空気、または好ましくは実質的に純粋な酸素でなければならない。拘束オリフィスを通す高圧の噴霧化を使用する場合には、上記のガスの一つ、好ましくは酸素のジェットによりオリフィスを取囲むことが好ましい。エアロゾル化のために2個以上のアトマイザーを焔による熱分解室の内部に配置することができる。他のエアロゾル製造法、例えば超音波またはピエゾ電気を使用して液滴をつくる方法も使用することができる。しかしこれらの方法のいくつかは生産速度に望ましくない影響を与える。超音波を発生させる方法が好適であり、エアロゾルの発生器はその室内における酸素流と液体との共鳴作用によって超音波を発生させる。
【0024】
エアロゾルを適当な方法、例えばレーザーエネルギー、白熱した針金、放電によって燃焼させるが、好ましくは酸水素または炭化水素ガス/酸素トーチによって燃焼させる。燃焼開始前に、焔による熱分解室を予め所望の操作範囲の温度の500〜2000℃、好ましくは700〜1500℃、最も好ましくは800〜1200℃に予熱する。予熱により粒子の粒径分布が改善され、システムの中における水の凝縮が最低限度に抑制される。予熱は燃焼トーチだけを用いるか、純粋な溶媒、即ちエタノールをアトマイザーを通して供給し燃焼させることにより、または抵抗加熱により或いはマッフル炉の中に閉じ込めることにより、或いはまた他の方法で達成することができる。
【0025】
下記の米国特許明細書にはナノサイズの粒子をつくる方法の本発明を限定しない例が記載されている。これらの特許は引用により全文が本明細書に包含される:米国特許第5,128,081号明細書;同第5,486,675号明細書;同第5,711,783号明細書;同第5,876,386号明細書;同第5,958,361号明細書;同第6,132,653号明細書;同第6,600,127号明細書。
【0026】
ナノサイズの粒子をつくる他の方法は米国アリゾナ州、TucsonのNanoproducts Corporationに譲渡された米国特許第5,788,738号明細書、同第5,851,507号明細書;同第5,984,997号明細書;および同第6,569,397号明細書に記載されている。これらの特許は引用により全文が本明細書に包含される。
【0027】
米国特許第5,788,738号明細書には、高温の蒸気を境界層合流−分流(boundary−layer converging−diverging)ノズルを通して超高速で熱的に急冷する処理によりナノスケールの粉末を製造する熱反応器システムが記載されている。前駆体材料の気相懸濁物を熱反応器室に連続的に供給し、過熱を最低限度に抑制し得られる蒸気の造核が有利になるような条件下において蒸発させる。Joule−Thompsonの断熱膨張の原理を使用し高温の蒸気を急冷する。最初の造核段階の直後において蒸気流をノズルに通し、少なくとも1,000℃/秒、好ましくは1,000,000℃/秒の速度で膨張させて急冷し、核になった粒子が連続的に成長するのを防ぎ、狭い粒径分布をもったナノサイズの粉末の懸濁物をつくる。
【0028】
米国特許第5,851,507号明細書には、異なった種類の前駆体材料を蒸発させ、蒸発相を合流−分流型膨張ノズルの中で急冷することによりこれらの材料からナノスケールの粉末を製造する連続法が記載されている。担体ガスに懸濁された前駆体材料を、得られた蒸気の造核が有利になる条件下において熱反応室の中で連続的に蒸発させる。造核段階の直後に蒸気流を少なくとも1,000K/秒、好ましくは1,000,000K/秒以上の速度で迅速に且つ均一に急冷し、核になった粒子が連続的に成長するのを阻止し、粒径分布の狭いナノサイズの粉末の懸濁物をつくる。次にこのナノサイズの粉末を急冷した蒸気流から濾過し、担体媒質を精製し、圧縮し、供給流中の新しい前駆体材料と混合するために循環させる。
【0029】
米国特許第5,984,997号明細書および同第6,569,397号明細書には、所望の粉末組成物のすべての元素を含む乳化液と燃焼用燃料を混合し、次いでこの乳化液を燃焼させ粉末をつくることによりナノスケールの粉末を製造する方法が記載されている。50nm未満の平均粒径(median particle size)をもった粉末は従来からこの方法でつくられてきた。この方法は、単一の、ドーピングした、および多金属系の粉末の粒子およびナノウィスカー(nanowhisker)を含む多くの種類の粉末の製造に適している。
【0030】
レーザー・マーキング用添加物をナノサイズの粒子にする特定の方法が本発明を実施する上で特に必須な方法であるとは考えられない。約100nm未満の粒子を与える任意の方法を採用することができる。
【0031】
上記のSbをドーピングしたナノサイズのSnOはYAGレーザー・マーキング用添加物として極めて効果的である。この効率によりマーキングすべき材料に加える粉末の量を少なくすることができ、所望のマークを付けることができる。一般にレーザー・マーキング用添加物の充填量はマークを付けるべき製品の全重量の約0.01〜5%、好ましくは約0.01〜0.1%である。添加物の濃度が少なくとも0.025重量%の場合特に有用である。SbをドーピングしたSnOのレーザー・マーキング用添加物はYAGレーザーの照射線に対して透明な任意のプラスティックス材料に任意の方法で混入することができる。
【0032】
ナノサイズのマーキング用添加物をプラスティックスの中に分散することには問題が多い。マーキング用添加物の粒径が小さいため添加物の凝集が起こり、プラスティックス組成物および最終的に得られる製品の内部における分散または混合はあまり均一ではなくなる。従って、レーザー・マーキング用添加物の表面処理を行い凝集を減少させることが有利である。このような表面処理は当業界には公知であり、例えばシラン、脂肪酸、低分子量の重合体ワックス、チタン酸塩等用いる方法が含まれる。官能基をもったシランは特に有用である。というのは官能基はまたプラスティックスに対する相容性を該添加物に賦与し、プラスティックス内部の混合を均一にして添加物の凝集を避けることができるからである。典型的には処理されたものでも未処理のものでも、成形を行うか被膜として被覆する前に粉末の形の添加物をプラスティックスと混合する。成形するプラスティックスはチップ、粉末、またはペレットの形をしていることができる。次いでこの固体混合物を熔融し、射出成形法、吹込み成形法、または押出し成形法等のような方法で混合する。別法として、レーザー・マーキング用添加物を熔融した樹脂と十分に混合し、成形してチップ、粉末またはペレットにし、成形する直前にこれを再び熔融する。
【0033】
さらに、金属または半金属性の粉末の添加物をレーザー・マーキング用添加物に関し例えば0.5〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%、特に0.5〜5重量%の濃度で加えると、熱可塑性プラスティックスをレーザーによりマーキングを行う際のコントラス
トが改善されることが見出だされた。
【0034】
従ってさらに本発明によれば、プラスティックスが少なくとも1種の金属粉末または半金属の粉末、好ましくはアルミニウム、硼素、チタン、マグネシウム、銅、錫、珪素および亜鉛から成る群から選ばれるドーピング剤を含んで成ることを特徴とするレーザーによりマーキングし得るプラスティックスが提供される。硼素と珪素に加えて、他の使用可能な半金属はSb、As、Bi、Ge、Po、SeおよびTeである。ドーピング剤は好ましくは粒子の大きさが500nm未満、さらに好ましくは200nm未満である。
【0035】
しかしプラスティックス中のドーピング剤の濃度は使用するプラスティックス系に依存する。ドーピング剤の割合が少なすぎると、プラスティックス系はあまり変化せず、処理性に影響を与えない。上記の金属および半金属粉末の中では珪素粉末のが好適である。これらの金属または半金属粉末の他に、混合物もドーピング剤として使用することができる。金属対半金属の混合の割合は好ましくは1:10〜10:1であるが、金属および/または半金属の粉末は他の任意の割合で混合することができる。好適な金属粉末の混合物は珪素/硼素、珪素/アルミニウム、硼素/アルミニウム、および珪素/亜鉛である。
【0036】
ドーピング剤の或る組成物においては、レーザーによりプラスティックスにマークを付ける際のコントラストを得るために、少量の金属ハロゲン化物、好ましくは塩化カルシウムを加えることも好適である。
【0037】
ナノサイズのレーザー・マーキング用添加物および金属および/または半金属のドーピング剤粉末をプラスティックスに混入するには、プラスティックスの粒状物を該添加物と混合した後、この混合物に熱をかけて成形する。それぞれの金属および/または半金属の粉末および粉末混合物、並びにマーキング用添加物のプラスチックへの添加は同時に或いは順次行うことができる。ドーピング剤を混入する際、操作条件下で熱的に安定な任意の粘着性賦与剤、有機物、重合体と相容性をもった溶媒、安定剤および/または表面活性剤をプラスティックスの粒状物に加えることができる。一般に、プラスティックスの粒状物を適当な混合機に導入し、任意の添加物でこれを湿らせ、次いでマーキング用添加物およびドーピング剤を加え、これを混入することによりドーピングされたプラスティックスの粒状物をつくる。一般に、着色用濃縮物(マスターバッチ)または配合組成物によってプラスティックスに顔料を加える。この方法で得られた混合物を直接押出し機または射出成形機の中で加工することができる。この処理の途中で得られる成形品にはドーピング剤が非常に均一に分布している。次いで、適当なレーザーを用いレーザーによるマーキングを行う。被覆された被膜に対しては、該添加物を重合体の被覆材料に対する担体と単に混合するか、或いは固体の形で粉末の被覆組成物に加える。
【0038】
マーキングを行う材料は有機性の製品、例えばプラスティックスまたは重合体製品であることができる。適当な樹脂には、これだけには限定されないが、任意の天然産重合体、または重合、縮重合または付加重合でつくられた合成品の重合体、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリブタジエン、ABS、エチレンビニルアセテート、ポリアミド、ポリイミド、ポリオキシメチレン、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリアセタール、フェノール樹脂類、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリーレート、ポリエーテルケトン、およびこれらの混合物および共重合体が含まれる。また上記重合体を当業界に公知のように配合して被覆組成物にし、公知被覆技術により任意の基質に被覆することができる。
【0039】
本発明のナノサイズのレーザー・マーキング用添加物は任意の大きさまたは形状につくられた樹脂の中に混入することができる。マーキングすべき製品の形に関する制限は考慮されていない。三次元のプラスティックス部材、容器、包装品等は、それが射出成形、押出し、吹込み成形等のどのような方法でつくられたかには無関係に、本発明のナノサイズの添加物を含ませ、当業界に公知のレーザー技術によってマークを付けることができる。
【0040】
三次元の部材、容器、包装品などの他に、本発明のナノサイズの添加物は例えばプラスティックスのフィルムまたはシートの中に混入し、レーザーにより暗色のマークを付け得る透明な(または色がついていない)プラスティックスのシート地をつくることができる。潜在的な用途には包装用、ラベル添付用、および積層用のプラスティックス・シート地が含まれる。ナノサイズの添加剤を同時押出しした多層のフィルム、例えば真珠光沢をもったフィルムの中に混入し、レーザーでマークが付けられる特殊効果をもったフィルムをつくることができる。マーキングを行う一つの方法では上記と同様な暗色のマークをつくり、他の方法では低出力のレーザーを使い焦がすのではなくてフィルムを加熱して熔融し、元の真珠光沢をもったフィルムとは異なった光学的性質をもつマークをつくる。潜在的な用途には包装用、ラベル添付用、および積層用のプラスティックス・シート地が含まれる。ナノサイズの添加剤を吹込み成形されるプラスティックスの中に混入し、レーザーにより暗色のマークを付け得る透明な(または色がついていない)プラスティックスの袋をつくることができる。潜在的な用途は、袋の内容についての情報が書かれたラベルを含む任意の目的のためのプラスティックスの袋にマーキングを行うことである。
【実施例1】
【0041】
SbをドーピングしたSnO混合酸化物粉末の装入物0.05重量%をPETG(ポリエチレンテレフタレートグリコール)のペレットと混合する。この混合酸化物の粉末はSbの充填量が2重量%であり、大きさは20〜50nmであった。ナノサイズの添加物およびPETGペレットの混合物を射出成形してステップ・チップ(step chip)にする。得られたステップ・チップに対し、電流13〜16アンペア、パルス周波数1〜9kHz、走査速度300mm/秒、孔の大きさ0.0635インチでYAGレーザーのビームを照射する。幅が約0.1mmのはっきりした線が得られることが見出だされた。これは、レーザー・マーキング用添加物がYAGレーザーのエネルギーを吸収し、これを熱に変えて周囲の重合体材料を炭化し、これによって周囲の区域に対してコントラストをもった黒色または暗色のマークができた結果である。立体顕微鏡を用いると、このマークは期待したとおり重合体が著しく泡状になり炭化したことによるものであることが判った。
【0042】
PETGは極めて透明な重合体である。0.05重量%の充填量において、重合体は僅かに青い色合いを帯びるが、元の透明さを保っている。2〜3μのSbをドーピングしたSnO粒子は、同じ充填量で使用した場合、曇って着色した重合体を生じる。
【実施例2】
【0043】
アンチモンをドーピングした大きさが50nmの実施例1の酸化錫ナノ粒子を低密度ポリエチレンのプラスティックスシート地に混入して透明なプラスチックシート地をつくる。添加物の充填量は0.05重量%である。このプラスティックスシート地をYAGレーザーによりマーキングし、暗色のマークを得た。
【実施例3】
【0044】
アンチモンをドーピングした大きさが50nmの実施例1の酸化錫ナノ粒子を真珠光沢をもった表皮層に混入し、レーザーでマーキングし得る特殊効果をもったフィルムをつくる。添加物の充填量は0.05重量%である。この特殊効果をもったフィルムをYAGレーザーによりマーキングし、暗色のマークを得る。
【実施例4】
【0045】
実施例3の特殊効果をもったフィルムをYAGレーザーでマーキングしたが、レーザーの出力を低くし、炭化させないでフィルムを加熱して熔融するように設定し、元の真珠光沢をもったフィルムとは異なった光学的性質をもったマークを得た。
【実施例5】
【0046】
アンチモンをドーピングした大きさが50nmの酸化錫ナノ粒子を充填量0.05重量%で低密度ポリエチレンに混入した。ナノ粒子を装入したLDPEを吹込み成形して透明なプラスティックスの袋をつくる。このプラスティックスの袋をYAGレーザーでマーキングし、暗色のマークを得た。
【実施例6】
【0047】
大きさ50nmのSiOナノ粒子を低密度ポリエチレンのプラスティックスシート地に混入して透明なシート地をつくる。添加物の充填量は0.50重量%である。このプラスティックスシート地をCOレーザーでマーキングし、暗色のマークを得た。
【実施例7】
【0048】
大きさが50nmのSiOナノ粒子を真珠光沢をもった表皮層に混入し、レーザーでマーキングし得る特殊効果をもったフィルムをつくる。SiOの充填量は0.50重量%である。この特殊効果をもったフィルムをCOレーザーによりマーキングし、暗色のマークを得た。
【実施例8】
【0049】
実施例7の特殊効果をもったフィルムをCOレーザーでレーザーマーキングしたが、レーザーの出力を低くし、炭化させないでフィルムを加熱して熔融するように設定し、元の真珠光沢をもったフィルムとは異なった光学的性質をもったマークを得た。
【実施例9】
【0050】
大きさが50nmのSiOナノ粒子を充填量0.50重量%で低密度ポリエチレンに混入した。この粒子を装入したLDPEを吹込み成形して透明なプラスティックスの袋をつくる。このプラスティックスの袋をCOレーザーでマーキングし、暗色のマークを得た。
【実施例10】
【0051】
実施例2を繰り返したが、それに加えて、アンチモンをドーピングした酸化錫のナノ粒子の添加量に関し10重量%の量の珪素の粉末を加え、これを低密度ポリエチレンのプラスティックに混入して透明なプラスチックシート地をつくる。このプラスティックスシート地をYAGレーザーでマーキングし、高いコントラストをもった暗色のマークを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の大きさが100nm未満のアンチモンと錫の混合酸化物の粒子を含んで成ることを特徴とするYAGレーザーでマーキングを行うための添加物。
【請求項2】
酸化アンチモンが混合酸化物の最高17重量%の量で存在することを特徴とする請求項1記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物添加物。
【請求項3】
酸化アンチモンが混合酸化物の約2〜5重量%の量で存在することを特徴とする請求項1記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物。
【請求項4】
粒子の大きさが約10〜70nmであることを特徴とする請求項1記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物。
【請求項5】
粒子の大きさが約20〜50nmであることを特徴とする請求項1記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物。
【請求項6】
酸化アンチモンが混合酸化物の約2〜5重量%の量で存在することを特徴とする請求項5記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物。
【請求項7】
レーザー光に対して透明なプラスティックス、および請求項1記載のYAGレーザーでマーキングを行うための添加物を含んで成ることを特徴とするレーザーでマーキングし得るプラスティックス。
【請求項8】
該混合酸化物の最高17重量%の量の酸化アンチモンを含んで成ることを特徴とする請求項7記載のレーザーでマーキングし得るプラスティックス。
【請求項9】
酸化アンチモンは該混合酸化物の約2〜5重量%をなしていることを特徴とする請求項8記載のレーザーでマーキングし得るプラスティックス。
【請求項10】
レーザーでマーキングを行うための添加物が約0.01〜5重量%の量で存在することを特徴とする請求項7記載のレーザーでマーキングし得るプラスティックス。

【公表番号】特表2007−512215(P2007−512215A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538495(P2006−538495)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/036869
【国際公開番号】WO2005/047009
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(591044371)エンゲルハード・コーポレーシヨン (43)
【氏名又は名称原語表記】ENGELHARD CORPORATION
【Fターム(参考)】