説明

可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ

【課題】筆記後の乾燥が早く、高濃度に紙や金属、フィルム等に繰り返し筆記したとしても書き味に変化がなく、カスレやハジキのないマーキングが可能な耐水性に優れ、接着性に優れた、高濃度の可逆感温変色性油性マーキングインキ、及び油性マーキングペンを提供すること。
【解決手段】(1)非凝集性の可逆感熱変色性マイクロカプセルを、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に粒子径を保持したまま分散させた可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ、(2)マイクロカプセルの平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下である1記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ、(3)可逆感熱変色性マイクロカプセルが、ロイコ色素、顕色性物質及び変色温度調整剤からなる可逆感熱変色性組成物を内包するものである1又は2記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ、及び該インキを充填したマーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機顔料や蛍光顔料を固着剤とともに水に分散させた水性マーキングペン、又は油溶性染料と固着剤を溶剤に溶解させた油性マーキングペンが知られている。
それらのマーキングペン容器の構造としては、低粘度のインキを中芯と呼ばれるフェルト又は繊維束にインキを含浸させ、毛細管の働きでペン先にインキを導く方法、又はカートリッジ製容器にインキを充填し、ペン先のフェルト或いは繊維束にインキを導く方法のマーキングペン容器が用いられている。
可逆感熱変色性のインキを用いたマーキングペンとしては、(1) 軸方向の毛管インキ路に固着されてなり、軸洞内に収容されているインキがペン体の後部から前記インキ路毛管作用により筆記先端へ供給される機構の筆記具において、前記インキは電子供与呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び変色温度を決める有機化合物及び変色温度を決める有機化合物からなる可逆熱変色性組成物を内包する微少カプセルが水性ビヒクルに分散されてなる水性インキであり、可逆熱変色性組成物の微少カプセルが粒子径10μm以下で、微少カプセルと水性ビヒクルとの比重差が0.05以下であるあることを特徴とする筆記具(特許文献1)、(2)(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.5〜2.0μmの範囲にあり、且つ、4.0μmを超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であり、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上であることを特徴とする可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物(特許文献2)、(3)(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体の均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセル壁膜に内包したマイクロカプセル顔料と、溶剤とから少なくともなるインキ組成物であって、前記マイクロカプセル顔料は、感温変色性色彩記憶性組成物と壁膜の重量比が5:1〜1:1の範囲にあり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.5〜2.0μmの範囲にあり、且つ、4.0μmを超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であって、2.0μm未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上である加熱により発色状態から消色状態に変位し、消色状態が常温域において記憶保持されることを特徴とする感熱消色性筆記具用インキ組成物(特許文献3)等がある。
【0003】
上記の特許文献1、2のインキに用いる可逆感温変色性のマイクロカプセルは、水中でマイクロカプセル化することから、一次粒子径のままインキとして用いることができるため、筆記中にペン先が目詰まりすることは殆どなかったが、これは水性マーカーペンであるがゆえに可能なものである。
しかし、水性マーキングペンで筆記した印字部分は、水性インキであるから、耐水性が悪く、紙等に筆記する場合には問題とならないが、金属やフィルムなどの耐水性を必要とする用途には問題を有していた。また、金属やフィルム等は、紙と異なり、インキの吸い込みがないため、水性インキでは、乾燥速度が遅く作業性に問題を有していた。
一方、上記の特許文献3は、油性インキにも使用可能であるとされれいるが、この方法は、4μm以上の粒子径のマイクロカプセルがインキ中に存在し、繰り返し筆記した場合にペン先の繊維束又はフェルトを目詰まりさせ、特に油性インキを用いた場合には、水中で得られたマイクロカプセルを乾燥する必要があり、乾燥工程でのマイクロカプセルの二次凝集が発生することから書き味が悪く、カスレが生ずる欠点を有していた。また、二次凝集したマイクロカプセルをミルなどの高負荷をかけ一次粒子とした場合は、マイクロカプセルが破壊し、濃度低下を起こす問題を有していた。
以上のように、従来の可逆感温変色性マイクロカプセルを用いたマーキングペンは、水性インキとした場合は、乾燥速度が遅い、耐水性が悪い、接着性が悪い等の問題を有し、油性インキとした場合は、繰り返し筆記の書き味、カスレ、マイクロカプセル破壊による濃度低下等の問題を有している。
従って、上記のような問題を解決した可逆感温変色性のマーキングペンインキの開発が待たれている。
【0004】
【特許文献1】特許2540341号公報
【特許文献2】特開2006−335848号公報
【特許文献3】特開2007−126554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筆記後の乾燥が早く、高濃度に紙や金属、フィルム等に繰り返し筆記したとしても書き味に変化がなく、カスレやハジキのないマーキングが可能な耐水性に優れ、接着性に優れた、高濃度の可逆感温変色性油性マーキングインキ、及び油性マーキングペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、マーキングペンのペン先のフェルト又は繊維束を目詰まりすることなく通過させるには、可逆感温変色性マイクロカプセルの平均粒子径が微細でなければならないが、該微細粒子は乾燥工程で二次凝集し易いので、これを防止するためには、目的の粒子径の一次粒子に特定の表面処理を施せばよいことを知り、更に、研究を重ねた結果、本発明の可逆感熱変色性の油性マーキングペンインキ、及び、マーキングペンを完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の発明から構成されるものである。
1.非凝集性の可逆感熱変色性マイクロカプセルを、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に粒子径を保持したまま分散させた可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
2.マイクロカプセルの平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下である上記1記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
3.可逆感熱変色性マイクロカプセルが、ロイコ色素、顕色性物質及び変色温度調整剤からなる可逆感熱変色性組成物を内包するものである上記1又は2記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
4.マイクロカプセルの非凝集性は、マイクロカプセル化に用いた保護コロイド剤を分離除去した後、両親媒性物質で表面処理(被覆)することにより生起するものである上記1〜3のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
5.両親媒性物質が、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、又はそれらの混合物である上記1〜4のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
6.可逆感熱変色性マイクロカプセルと両親媒性物質との比率が1:0.02〜0.3である上記1〜5のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
7.マイクロカプセルの膜剤が、メラミン樹脂又はエポキシ樹脂である上記1〜6のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
8.可逆感熱変色性組成物が、40℃〜100℃の範囲のヒステリシス幅を有する上記1〜7のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
9.有機溶剤が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸エステル、又はこれらの混合物から選ばれたものを用いた上記1〜8のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
10.沈降防止剤が配合されたものである上記1〜9のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
11.インキ粘度が200mPa・s以下である上記1〜10のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
12.ロイコ色素、顕色性物質及び変色温度調整剤からなる可逆感熱変色性組成物を、水中で保護コロイド剤の存在下マイクロカプセル化して、平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下のマイクロカプセルを形成した後、マイクロカプセル含有液から保護コロイドを除去し、得られたマイクロカプセル水分散体を、両親媒性物質とともに乾燥することにより、非凝集性のマイクロカプセルとし、次いで、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に、該マイクロカプセルを、その一次粒子径を保持したままの状態で分散させることを特徴とする上記1〜11のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキの製造方法。
13.上記1〜12のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキが、バルブ構造のインキ吸蔵体であり、繊維束構造又はフェルト構造のペン先を持つ筆記具に充填された可逆感熱変色性マーキングペン。
14.上記13記載の可逆感熱変色性マーキングペンにより筆記した熱インジケーター、熱消去性物品又はセキュリティ物品。
15.上記14記載の熱インジケーターが、結線・接続不良による発熱を感知するために筆記された電気配線、電気器具又は電気接続部品。
【0008】
本発明の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキは、両親媒性物質で二次凝集防止化された、平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下である可逆感熱変色性マイクロカプセルを、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に、該粒子径を保持したまま分散させものであり、優れた特性を有する点に特徴を有するものである。
本発明の油性インキを用いると、筆記後の乾燥が速く、インキのペン先からの通過性がよく、一定な高濃度で、ペン先に目詰まりすることがなく、耐水性にも優れているという特段の特性を有する可逆感温変色性のマーキングペンを得ることが可能になる。
【0009】
本発明は、以下の知見に基づいてなされたものである。
(1)水性インキ
従来、可逆感熱変色性組成物をマイクロカプセルとした水性インキが毛細管経路を有するペン体に充填したマーキングペンが知られていたが、従来のインキは、水性インキであることから、紙などの吸い込みのある素材に筆記する場合には問題とならないが、金属やフィルムに筆記すると乾燥が遅く長時間の乾燥を必要とし、極めて効率が悪く、しかも耐水性にも劣る問題を有していた。
そこで、乾燥速度を解決するためインキ中に多量の低沸点アルコールなどを添加することも考えられるが、水とアルコールの混合溶媒に対する可逆感熱変色性マイクロカプセルの壁膜が、これ等の混合溶媒で侵食され、この方法では、長期保管で感熱変色性機能を示さなくなるという問題が発生する。
また、金属やフィルムに筆記してインジケーターとして使用する場合、その筆記部分に耐水性を必要とする。しかし、水性インキを用いた場合には、耐水性や擦過強度が得られず、接着性にも問題がある。
即ち、水性インキによる可逆感熱性マーキングペンインキは、固着剤が水性糊料、或いは、アルカリ可溶性糊料であることから筆記部分の耐水性は得られない。
そこで、耐水性を得るため固着剤としてエマルジョン樹脂をインキ中に配合することが考えられるが、エマルジョン樹脂は乾燥すると、再湿潤することなく膜を張ることから、ペン先が直ぐに乾燥し、水不溶性の膜を張った状態となり、ペン先を目詰まりさせ、カスレや濃度低下を生じ、繰り返しの連続した筆記ができなくなる問題を有していた。
また、水性インキの場合、インキの表面張力が高いため、インキ粘度を高粘度とした場合には、フェルトや繊維束としての毛細管経路を通過することができず、概ね10mPa・s以下の低粘度のインキしか充填することができなかった。
そのため、該インキ中に配合できるマイクロカプセルの量が少ないこと、及び、低粘度であるためインキのペン先からの通過量が少なく、筆記した濃度が薄く、紙などの白い隠蔽性のあるものでは視認できるが、金属色や透明なフィルムでは明瞭な視認ができず、明確な感熱変色性の変化が得られない問題を有していた。
【0010】
(2)油性インキ
上記の水性インキの問題は、油性インキを採用することにより、多くは解決し得る。
しかしながら、可逆感熱変色性組成物のマイクロカプセルを油性インキに利用する場合、以下述べるように、解決すべき問題点を有していることが分かった。
油性インキ用の可逆感熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、通常、可逆感熱変色性組成物を、水中でマイクロカプセルの粒子径調整用の保護コロイド剤の存在下、水に分散させ、得られた分散液に、カプセル膜剤を添加、攪拌して、油滴状とし、加熱することにより、目的の粒子径のマイクロカプセルとする方法により行っているが、この場合、以下の理由により、マイクロカプセルの二次凝集化の問題が発生する。
上記のマイクロカプセルを用いて、感熱変色性油性インキにする場合、可逆感熱変色性組成物を水中でマイクロカプセル化して得られたマイクロカプセルは、乾燥してパウダー状とした後、油性ビヒクルに混合されるが、その場合、保護コロイド剤が、親水性糊料であるため、固着剤として働き、二次凝集体を形成した粗い粒子径状態となるという問題を発生する。
また、上記のように、保護コロイド剤を除去しただけで、そのまま、得られたマイクロカプセルを乾燥させると、乾燥工程において、マイクロカプセルは寄り集まった二次凝集粒子体となり、ミキサーやミルによる弱い負荷では、一次粒子化することが完全にはできないという問題が発生する。
従って、上記のように、二次凝集粒子体となった粗いマイクロカプセルを用いたインキは、ペン先のフェルトや繊維束を目詰まりさせ、連続した筆記ができず、また、ペン先からのインキ通過性が悪く低濃度のマーキングしかできない問題を発生する。
仮に、二次凝集体となった粗いマイクロカプセルを強力なミルに通し微分散したとしても、その負荷により、マイクロカプセルが破壊し、本来の可逆感温変色機能を殆ど示さないものとなるという問題が発生する。
そこで、上記のマイクロカプセルの二次凝集化の防止について検討したところ、該防止は、以下の2段階で行えばよいことが分かった。
先ず、マイクロカプセル化した後のマイクロカプセルの二次凝集化は、保護コロイド剤の固着性が原因であると考えられるので、原因物資である、該保護コロイド剤を分離除去する必要がある。
次いで、乾燥工程における二次凝集化は、得られたマイクロカプセルの付着活性が原因であると考えられるので、原因となる、該付着活性を劣化するため、マイクロカプセルを両親媒性物質により表面処理(被覆)して、付着活性を劣化させる必要がある。
【0011】
(3)筆記部分の耐水性
可逆感熱変色性マーキングペンの筆記部分の耐水性の維持は、前記したように、水性インキでは不可能である。
これに対して、油性インキは、耐水性の固着剤を含むので、その結果、筆記部分の耐水性が得られる。仮に、油性固着剤がペン先で乾燥したとしても、インキ中の有機溶剤により再可溶するため、再湿潤し目詰まりが改善され、繰り返しの連続筆記性に優れたマーキングペンとなることが分かった。
【0012】
(4)筆記部分の乾燥速度
油性インキに用いる有機溶剤としては、マイクロカプセル壁膜に対する影響がないものでなければならない。そのような有機溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸エステル、及び、それ等の混合溶剤であることが好ましく、極性の高いアルコール溶剤やケトン系溶剤は、可逆感温変色性マイクロカプセルの膜剤を侵し、変色機能を損なう恐れがあることから好ましくないことが分かった。
上記の有機溶剤は、水と異なり自由に沸点の異なる有機溶剤を選択することが可能であり、自由に乾燥速度をコントロールすることができ、金属やフィルムにも問題なく筆記できる点で有利である。
【0013】
(5)マイクロカプセル壁膜
可逆感熱変色性マイクロカプセルを得るカプセル膜剤としては、公知の種々のものがあるが、取り分け、油性インキ中でマイクロカプセル壁膜が溶解、膨潤又は侵食されるものであっては、有機溶剤が可逆感熱変色性成分の減感剤となるため、設定した変色温度を狂わすこととなるため、インキ中に用いる溶剤に対し耐性のある膜剤でなければならない。そのような油性マーキングペンインキ中で安定な膜剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等が好適に用いることができることを知った。
【0014】
(6)インキ中でのマイクロカプセルの沈降防止
可逆感熱変色性マーキングペン用インキは、フェルト又は繊維束構造体からインキをスムーズに通過させる必要があり、そのためには、インキの粘度が低くなければならない。
しかし、インキの粘度が低いと、インキビヒクルとマイクロカプセルの比重差から、マイクロカプセルは沈降を生ずる。
従って、インキ中で、マイクロカプセルが沈降しないようインキの設計をする必要があるが、本発明の油性マーカーペンインキでは、脂肪酸アマイドを沈降防止剤として用いることにより、マイクロカプセルの沈降を長期間防止することができ、長期安定性の優れたものとすることができることが分かった。
【0015】
(7)インキ粘度とペン先からのインキの通過量
ペン先からのインキ通過量は、マイクロカプセルの平均粒子径と最大粒子径、ペン先素材の材質、及び、その素材のインキ通過孔の大きさ等が、インキ粘度に大きく関係する。
ペン先のフェルト又は繊維束は、細い繊維を樹脂で固着した構造のものであるから、一本のペン先でその空隙の大きさは、通常5〜200μmと広い幅で存在している。
粒子径が4μm以上の大きなものがインキ中に存在すれば、ペン先の狭い空隙部分を徐々に目詰まりさせ、連続した筆記を行うと徐々にインキの通過量が減じ、完全な目詰まりは生じなくてもマーキング濃度を低下させる。
従って、長期に安定したペン先からのインキの通過を行うには、4μを超える粒子が存在してはならないため、可逆感熱変色性マイクロカプセルの粒子径は、油性マーキングインキ中で平均粒子径が0.5〜1.0μm、最大粒子径が4μm以下とする必要があることを知った。
一方、インキの通過性を高める手段として、ペン先素材の空隙(通過孔)を大きくして、高粘度のインキを用いる方法もあるが、あまりにも高粘度の場合には、ペン先からのインキの通過量が少なくなり、又、通過孔が大きすぎるとインキが過剰に通過しボタ落ちなどの問題を生ずる。
従って、インキ粘度としては、筆記濃度と連続筆記性を考えると、200mPa・s以下の粘度とし、ペン先素材の空隙の大きさが5〜200μmのものを用いることが好ましいことが分かった。
【0016】
(8)可逆感温変色性マーカーペン容器の形態
マーキングペン容器としては、繊維束又はフェルトにインキを含浸させた毛細管経路によるインキ通過方式は、インキの分離による連続筆記性に劣ることや筆記濃度に劣ることから好ましくない。
従って、バルブ構造のペン体で、インキ吸蔵部に金属球、或いは、鉄芯を入れた構造のペン容器が好ましく、このようなペン容器を用いることでインキの分離が解決され、筆記濃度が向上することが分かった。
【0017】
以上、本発明は、上記のような問題の解決を図って、完成したものであるが、本発明の最大の課題は、可逆感熱変色性組成物を内包するマイクロカプセルを油性インキに適用するに際し、目的の粒子径としたマイクロカプセルが、再度、二次凝集化することを如何に防止するかにあった。
そこで、研究を重ねたところ、上記の二次凝集化の問題は、マイクロカプセル化に用いた保護コロイド剤を分離除去した後、両親媒性物質で表面処理(被覆)するという手段を採用すると、解決できることを知り、本発明を完成した。
本発明の油性インキは、筆記後の乾燥が速く、インキのペン先からの通過性がよく、一定な高濃度で、ペン先に目詰まりすることがなく、耐水性にも優れているという特段の特性を有するので、可逆感温変色性のマーキングペンとして極めて有用であり、多くの用途に利用し得る点で特段の効果を奏するものである。
【0018】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキは、平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下である、非凝集性の可逆感熱変色性マイクロカプセルを、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に、該粒子径を保持したまま分散させたものである点に特徴を有するものである。
本発明を構成する、1.可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ、2.可逆感熱変色性マーキングペン、3.可逆感熱変色性マーキングペンの用途等について、以下説明する。
【0019】
1.可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ
本可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキの成分は、(1)可逆感熱変色性マイクロカプセル、(2)有機溶剤、(3)固着剤、(4)沈降防止剤、(5)添加剤等からなる。
また、可逆感熱変色性油性マーキングペン用油性インキの粘度は、200mPa・s以下が好ましく、より好ましくは、150mPa・s以下がよい。インキ粘度が200mPa・s以上の場合には、連続筆記性に劣り、かすれやペン先の目詰まりが生じ、インキのペン先の通過量も低くなり、筆記濃度が低下するため好ましくない。
(1)可逆感熱変色性マイクロカプセル
本可逆感熱変色性マイクロカプセルの可逆感熱変色性は、可逆感熱変色性組成物により生起するものであるが、該感熱変色性組成物は、外的物質により、発色機能、変色温度に影響を受け、所望の感熱変色機能を示さなくなるので、感熱変色性の油性マーキングインキとして利用するには、該感熱変色性組成物をマイクロカプセル化し、外的物質から保護することが必須である。
【0020】
1)粒径
本可逆感熱変色性マイクロカプセルは、平均粒径0.5〜1.0μmの平均一次粒子径、最大粒子径4μm以下とし、油性マーキングペンインキとした場合においても、その一次粒子径を保持するものでなければならない。平均粒子径が0.5μmより小さい場合には、感熱変色性色素の着色濃度に劣り、1.0μmより大きい場合には、最大粒子径が4μm以上のものが存在し、連続筆記中にペン先を目詰まりさせ、又、インキの通過が少なく筆記濃度を低下させる。
【0021】
2)可逆感熱変色性組成物
本可逆感熱変色性組成物は、温度変化により狭い変色温度幅で可逆的変色を呈するもの、及び温度変化により広いヒステリシス幅を持って可逆的変色を呈するもののいずれも用いることができ、その変色温度は、変色温度調整剤により調整するものを用いることが必要である。
可逆感熱変色性組成物としては、(イ)ロイコ色素、(ロ)顕色性物質、及び(ハ)変色温度調整剤からなるものを用いるのがよい。
【0022】
(イ)ロイコ色素
本ロイコ色素は、以下の顕色性物質と呈色反応を生起して発色する成分である。
ロイコ色素としては、感圧複写紙用色素、感熱記録紙用色素として通常知られているものや、その他の感熱変色性組成物として従来公知のもの等いずれも用いることができる。
、例えば、トリフェニルメタンフタリド系、フルオラン系、フェノチアジン系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系、スピロピラン系、ローダミンラクタム系、トリフェニルメタン系、トリアゼン系、スピロフタランキサンテン系、ナフトラクタム系、アゾメチン系等が挙げられる。
このようなロイコ色素の具体例としては、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジブトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6,8ジメチルフルオラン、3−クロロ−6−フェニルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3‘−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−ジエチルアミノ−7−フェニルアミノフルオラン、3,3−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチル)フェニル−3−(1,2−メチルインドール−3−イル)フタリド、2’−(2−クロロアニリノ)−6‘−ジブチルアミノスピロ(フタリド−3,9’−キサンテン)などを挙げることができるが、勿論これ等に限定されるものではない。
本発明においては、これらのロイコ色素を1種又は2種以上組み合わせて用いることができ、これにより、発色状態の色相を任意とすることができる。
【0023】
(ロ)顕色性物質
本顕色性物質は、電子受容性化合物からなるものであって、前記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分である。
顕色性物質としては、感圧複写紙、感熱記録紙などの顕色性物質として通常知られている有機系顕色性物質や、その他の感熱変色性組成物を構成するものとして従来公知のもの等いずれも用いることができる。
このような顕色性物質としては、例えば、5−ブチルベンゾトリアゾール、ビスベンゾトリアゾール−5−メタン等の1,2,3−ベンゾトリアゾール類;フェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、2,2‘ビフェノール、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2−2−ビス(4−ヒドロキシー3−メチルフェニル)プロパン、2−2−ビス(4−ヒドロキシー3−メチルフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルヘキサン、β―ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、パラオキシ安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル等のフェノール類;p−フェニルフェノール−ホルマリン樹脂、p−ブチルフェノール−アセチレン樹脂等のフェノール樹脂;蓚酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸類;安息香酸、没食子酸、没食子酸エステル、サリチル酸、ナフトエ酸等の芳香族カルボン酸類;ベンジルアシッドホスフェート、メチルアシッドフォスフェート、ジラウリルホスフェート等の酸性リン酸エステル類等を挙げることができる。
更に、上記した各種の有機系顕色性物質の金属塩なども用いることができるが、勿論これ等に限定されるものではない。
本発明においては、これ等の顕色性物質を1種又は2種以上組み合わせて用いることにより、発色時の色彩濃度を自由に調整することができる。
従って、その使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、前記したロイコ色素1重量部に対して、0.1〜100重量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
【0024】
(ハ)変色温度調整剤
本変色温度調整剤は、前記ロイコ色素と顕色性物質の呈色において、感熱変色性組成物の変色温度を決める物質であり、温度変化により狭い変色温度幅で可逆的変色を呈する物質、及び、温度変化により広いヒステリシス幅を持って準可逆的変色を呈する物質があり、下記の変色温度調整剤を選択し用いることにより、感熱変色性組成物の変色温度、及びヒステリシス幅を自由に調整することができる。
変色温度調整剤としては、従来公知の有機媒体であればいずれも用いることができ、例えば、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、アマイド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などの中から広範囲のものが選択できる。
変色温度調整剤としては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ラウリルアルコール、オクチルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、エイコシルアルコール、ドコシルアルコール等のアルコール類;ステアリン酸ラウリル、ミリスチン酸ラウリル、カプリン酸セチル、ステアリン酸パルミチル、ラウリン酸ラウリル、ラウリン酸パルミチル、カプリン酸ステアリル、カプリン酸ミリスチル、カプリン酸ドコシル、ラウリン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸n−デシル、ミリスチン酸3−メチルブチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ネオペンチル、パルミチン酸ノニル、パルミチン酸シクロヘキシル、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸2−メチルブチル、ステアリン酸n−ウンデシル、ステアリン酸ペンタデシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸シクロヘキシルメチル、ベヘン酸イソプロピル、ベヘン酸ヘキシル、ベヘン酸ラウリル、ベヘン酸ヘキシル、ベヘン酸ラウリル、ベヘン酸ラウリル、ベヘン酸ベヘニル、安息香酸セチル、ブチル安息香酸ステアリル、フタル酸ジミリスチル、マロン酸ジセチル、グルタル酸ジラウリル、アジピン酸ジウンデシル、アゼライン酸ジラウリル、p−クロロ安息香酸セチル、p−フルオロ安息香酸ステアリル、p−メトキシ安息香酸セチル、ステアリン酸p−クロロベンジル、ステアリン酸p−メトキシベンジル、ステアリン酸p−クロロフェネチル、ステアリン酸p−メトキシフェネチル、4,4´−(−α−メチルベンジリデン)ビスフェノールジパルミテート、4,4´−(−α−メチルベンジリデン)ビスフェノールジステアレート、4,4´−(−α−メチルベンジリデン)ビスフェノールジベヘネート等のエステル類;ジオクチルケトン、ジノニルケトン、ジウンデシルケトン、ジトリデシルケトン、ジペンタデシルケトン、フェニルトリデシルケトン、2−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、8−ペンタデカノン、3−ヘキサデカノン、9−ヘプタデカノン、2−ペンタデカノン、2−オクタデカノン、10−ノナデカノン、2−エイコサノン、2−ヘンエイコサノン、2−ドコサノン等のケトン類;ヘキサン酸アミド、オクタン酸アミド、ウンデカン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ドコサン酸アミド等のアミド類;ジエイコシルエーテル、ジオクタデシルエーテール、ジペンタデシルエーテル、ジドコシルエーテル、ジテトラデシルエーテル、ジトリデシルエーテル等のエーテル類;極めてヒストリシス幅が広くなるエステル類としては、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジカプレート、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジラウレート、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジミリステート、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジパルミテート、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジウンデカノエート、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビフェノールジトリデカエート等のエステル化合物等が挙げられる。
上記の変色温度調整剤を適宜用いることで変色温度幅、ヒステリシス幅、変色温度を自由に調節することができ、これ等を2種以上組合すことで変色温度の微調整も可能である。
また、本変色温度調整剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常ロイコ色素1重量部に対して、1〜1000重量部程度の範囲で使用することが好ましい。
【0025】
3)マイクロカプセル化方法
前述したように、本発明のマイクロカプセル化は、マイクロカプセルの二次凝集化の防止に留意して行わなければならない。
そのためには、(1)マイクロカプセル化に用いた、二次凝集の原因物質である保護コロイド剤を分離除去すること、及び(2)二次凝集防止機能を有する両親媒性物質で表面処理(被覆)する手段を採用することが必要がある。
以下の方法で行うのがよい。
可逆感熱変色性組成物を、水中でマイクロカプセルの粒子径調整用の保護コロイド剤の存在下、水に分散させ、得られた分散液に、カプセル膜剤を添加、攪拌して、油滴状とし、加熱することにより、目的の粒子径のマイクロカプセルとした後、該保護コロイド剤を分離除去し、次いで、得られたマイクロカプセルを、両親媒性物質の存在下乾燥することにより、両親媒性物質で表面処理(被覆)されたマイクロカプセルとする。
上記方法における、(イ)保護コロイド剤とその分離、(ロ)カプセル膜剤、(ハ)両親媒性物質での表面処理(被覆)等について、以下説明する。
(イ)保護コロイド剤とその分離
可逆感熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、可逆感熱変色性組成物を、水中でマイクロカプセルの粒子径調整用の保護コロイド剤の存在下、攪拌して、可逆感熱変色性組成物を油滴状とし、カプセル膜剤を用いて、界面重合法、insitu重合法等により被覆形成するにより、マイクロカプセル化して、水中に分散した感熱変色性のマイクロカプセルとする方法により行われる。
上記の水中で可逆感熱変色性組成物をマイクロカプセル化した後、該マイクロカプセルを油性マーカーペンインキ用ビヒクルに分散させるには、該マイクロカプセルを乾燥させパウダー化する必要がある。
その場合、保護コロイド剤を含んだ状態で、該マイクロカプセルを乾燥すると、該保護コロイド剤が固着剤となり、マイクロカプセルは二次凝集状態となり大きな粒子となる。その二次凝集した大きな粒子を、物理的な負荷、即ち、ビーズミルや三本ロールなどをかけ粉砕したとしても、保護コロイド剤の固着力は強く、弱い負荷で一次粒子径までに微粒子化することは困難である。また、より強い負荷で粉砕すると、マイクロカプセルは、破壊し感熱変色機能を示さなくなる。
このため、得られたマイクロカプセルは、乾燥工程前に、保護コロイド剤を除去した後、乾燥を行うことが必要がある。
このように、保護コロイド剤は、マイクロカプセルの粒子径を調整するために使用するものであるが、マイクロカプセル形成後には、除去することが必要がある。
従って、保護コロイド剤としては、pH変化で分散力が変化する水溶性糊料、又は酵素で分解が可能な水溶性糊料等を用いるのがよい。
pH変化で分散力が変化する水溶性糊料を用いた場合は、得られたマイクロカプセル水分散体のpHを調整し、該保護コロイド剤の分散力を低下させることにより除去することができる。
pH変化で分散力が変化する水溶性糊料は、pHが3〜5の範囲で優れた分散性を呈し、pH2以下、若しくは、pH7以上では分散力が極めて低下する性質があり、特にpH2以下で極端な分散力低下を起こす性質の糊料である。
pH変化で分散力が変化する水溶性糊料としては、例えば、エチレン・マレイン酸共重合樹脂、スチレン・マレイン酸共重合樹脂、メチルビニルエーテル・マレイン酸共重合樹脂、イソブチレン・無水マレイン酸共重合樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
次に、酵素で分解が可能な水溶性糊料を用いた場合は、酵素を添加し、該保護コロイド剤の分散力を低下させることにより除去することができる。
酵素で分解が可能な水溶性糊料としては、例えば、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系糊料が挙げらる。
上記の酵素で分解が可能な水溶性糊料を用いた場合は、マイクロカプセル形成後、セルロース分解酵素を分散液に添加し、該保護コロイド剤の分散力を低下させて、ろ過、水洗を行うことにより、水分散体から保護コロイド剤を容易に除去することができる。
何れにおいても、得られたマイクロカプセルと保護コロイド剤は、ろ過により容易に分離することができる。その後、更に2〜3回の水洗、ろ過を繰り返すことで分散液中の保護コロイドが90%以上除去できる。
本発明のマイクロカプセル化に用いる保護コロイド剤は、上記のようなpH変化で分散力が変化する水溶性糊料、又は酵素で分解が可能な水溶性糊料であれば、上記の例示した糊料に必ずしもこれ等に限定するものでなく、上記以外のものであっても用いることができる。
【0026】
(ロ)マイクロカプセル膜剤
本マイクロカプセル膜剤は、可逆感熱変色性組成物を製膜するものであって、マイクロカプセル化に不可欠のものである。
マイクロカプセル膜剤としては、例えば、ポリ尿素壁膜を形成するための多価アミンとカルボニル化合物、ポリアミド壁膜を形成するための多塩基性クロライドと多価アミン、ポリウレタン壁膜を形成するための多価イソシアネートとポリオール化合物、エポキシ樹脂壁膜を形成するためのエポキシ樹脂化合物と多価アミン、メラミン樹脂壁膜を形成するためのメラミン・ホルマリンプレポリマー、メチロールメラミンプレポリマー、メチル化メラミンプレポリマー、尿素樹脂壁膜を形成するための尿素・ホルマリンプレポリマー、フェノール樹脂壁膜を形成するためのフェノール樹脂プレポリマー、ビニル系壁膜を形成するための酢酸ビニル、スチレン(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、塩化ビニルなどの各種モノマー類、ゼラチン、アラビアガム、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
しかし、本発明の感熱変色性マイクロカプセルを用いた油性マーキングペンインキとするには、マイクロカプセルがインキ中の溶剤成分により、膨潤或いは溶解などにより侵食される膜剤であってはならない。
従って、本発明のインキに用いるマイクロカプセルの膜剤としては、耐溶剤性に優れたメラミン樹脂又はエポキシ樹脂が最も適する。
【0027】
(ハ)両親媒性物質
本両親媒性物質は、有機溶剤と水の両方に親和性を有する特性を有するものである。
上述したように、保護コロイド剤を除去する必要があるが、保護コロイド剤の除去のみで、マイクロカプセルを乾燥させた場合、乾燥工程でマイクロカプセルは寄り集まった二次凝集粒子体となるため、ミキサーやミル等による弱い負荷では、目的の粒子径の一次粒子を得ることができないという問題がある。
そこで、保護コロイド剤を除去したマイクロカプセル分散液に、両親媒性物質を添加し、乾燥を行うことにより、マイクロカプセル表面を両親媒性物質が被覆し、インキ中の溶剤が両親媒性物質を溶解又は膨潤させる結果、弱い負荷であっても、容易に油性マーカーペンインキ中に一次粒径の状態で分散することが可能となる。
両親媒性物質としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、又はそのらの混合物が挙げられる。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキル(アリル)エーテルのリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステルのナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム、ひまし油硫酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、カルボン酸型界面活性剤のアンモニウム塩等が挙げられる。
次に、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ソルビタンモノオレエート、ポリエチレングリコールエーテル、ポリエチレングリコールジステアレートなどが挙げられるが、取り分けHLBが8〜16のものが有機溶剤と水の両方に親和性に優れるため好適である。
また、上記の界面活性剤以外に、ポリビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体も、有機溶剤と水の両方に親和性に優れるため、マイクロカプセルの分散助剤として用いることができる。
両親媒性物質の添加量は、可逆感熱変色性マイクロカプセル成分と両親媒性物質成分との比率が1:0.02〜0.3の範囲が良く、1:0.02より少ない場合には、一次粒子径となり難く、1:0.3より多いと接着性を阻害するため好ましくない。
以上、本両親媒性物質は、マイクロカプセルの両親媒性物質による表面処理(被覆)によって、マイクロカプセルの二次凝集粒子体の形成を防止し、目的の粒子径の一次粒子径を保持することことによって、可逆感熱変色性マイクロカプセルの油性マーキングペンインキへの適用を可能にしたものであるから、本発明では重要な成分である。
【0028】
(ニ)マイクロカプセルの乾燥
上述したように、水中で保護コロイドの存在下、本発明の一次粒子径に調整した感熱変色性組成物をマイクロカプセル化した後、保護コロイド成分を除去し、両親媒性物質とともに乾燥することにより、目的の可逆感熱変色性マイクロカプセルパウダーが得られる。
上記の乾燥方法としては、常温放置や加熱オーブンなどによっても行うことができるが、インキ化工程でより微細な状態なパウダーとすることで、より弱い負荷で油性マーキングインキ用ビヒクル中に一次粒子径の状態で分散することができる。
上記の微細なパウダーとして乾燥する方法としては、スプレードライ法が最も適し、より安定した状態で、油性マーキングペンインキ用ビヒクル中に、一次粒子径の状態で微分散することが可能となる。
【0029】
(2)有機溶剤
本有機溶剤としては、いかなる有機溶剤も用いることができるが、該インキ中の可逆感熱変色性マイクロカプセルに対する耐性、即ち、長期保存安定性を考慮すると、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸エステル、又はそれらの混合物等を用いるのが好ましい。
例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−ペンタン、n−オクタン、ミネラルスピリッツ等の脂肪族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸セロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチル−ブチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の脂肪酸エステル等が挙げられるが、必ずしも、これ等に限定されるものではない。
また、これ等の有機溶剤を2種以上混合し、乾燥速度や、固着剤の溶解性を調整することができる。
【0030】
(3)固着剤
本固着剤としては、用途に応じて、被着体への接着性を考慮し、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、石油樹脂、ロジン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、エステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、スチレンブタジエン樹脂、スチレンイソプレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、スチレン樹脂等の1種又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
固着剤の添加量としては、インキ中に、0.1〜20部がよく、より好ましくは、0.5〜15部の範囲で用いるのがよい。0.1部より少ない場合には、長期保存中に感熱変色性マイクロカプセルの沈降が起こり、20部より多い場合には、インキの粘度が高くなり、マーカーペンインキとしての書き味が悪くなるため好ましくない。
【0031】
(4)沈降防止剤
インキの長期保管中に、可逆感熱変色性マイクロカプセルが沈降することを防止するため、インキをチクソトロピックな粘性にする必要がある。
インキにチクソトロピックな粘性を与えるものとして、微粒子酸化ケイ素、ベントナイト化合物、ワックス類、脂肪酸アマイド類等の沈降防止剤が挙げられるが、特に、脂肪酸アマイドが好ましい。
【0032】
(5)添加剤
インキ中に、非変色性の有機顔料、無機顔料を添加することにより、有色から有色へ変色するマーキングペンインキが得られる。
また、インキ中に、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、Wax類、シリコーンなどの滑剤、消泡剤、レベリング剤、パール顔料、アルミ顔料、蓄光性顔料等も配合することができる。
【0033】
2.可逆感熱変色性油性マーキングペン
本可逆感熱変色性油性マーキングペンは、消色時の温度と発色時の温度幅が狭いもの、及び消色時の温度と発色時の温度幅が広い、即ち、ある温度で消色、或いは発色させた場合温度履歴を生ずるヒステリシスな変色挙動を示す可逆感熱変色性色素のいずれも使用することができるが、該マーキングペンで筆記したマークを熱インジケーター、熱消去性マークとして利用する場合には、40℃乃至100℃の範囲のヒステリシス幅を有する可逆感熱性機能を有するものを用いることが好ましい。
可逆感熱変色性油性マーキングペンは、上記の可逆感熱変色性油性マーキングペン用インキを、ペン容器に充填することで得られる。
ペン容器としては、中芯式、蛇腹式、バルブ式等を用いることができるが、可逆感熱変色性機能をより明確に機能させるためには、インキの通過量が安定し、通過性のよい構造の容器とペン先、即ち、バルブ式でペン先の繊維束の空隙が5〜200μmの範囲のものが、可逆感熱変色性油性マーキングペンとして適している。
容器の材質としては、インキは有機溶剤を含む油性インキであるため、その耐溶剤性を考慮すると、ポリプロピレンやポリエチレン等の熱可塑性プラステックは好ましくなく、ガラス、アルミ、熱硬化性プラステック等からなるものが好ましい。
また、長期保存時のインキの攪拌を考慮して、ペンのインキ吸蔵容器中に金属球又は鉄芯を1〜2個入れておくことが好ましい。
ペン先としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維等の繊維集合体をポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等で固着した繊維束を用いることができ、筆記の線幅に応じて1〜20mmの幅のものを任意に用いることができる。
【0034】
3.用途
本発明の可逆感熱変色性油性マーキングペンの用途としては、以下のものが挙げられる。
(1)紙などに絵や文字を書くことにより、2色の色変化を楽しむことのできるファンシー商品や玩具用途として利用できる。
(2)変色温度幅の広い、いわゆるヒストリシス機能を持った感熱変色性マイクロカプセルを用いた油性マーキングペンは、各種インジケーターとして利用することができる。 例えば、電気配線上にマーキングする、電気器具の接続ネジやボルトにマーキングする、配電盤中の電気接続部品にマーキングする等により、結線不良や接続不良による過電流での配線部品の発熱を明瞭に視認することができる、危険や事故防止としてのインジケーターとして利用できる。
尚、従来、この様なインジケーターとしてタックシール型のものが用いられていたが、単価が高く、貼り付けるのに手間が掛かり、視認性にも欠けるものであった。
(3)医療用の袋や容器等にマーキングして、滅菌処理の有無などを確認するためのインジケーターとしても利用できる。
(4)紙等に筆記した絵柄や文字を、消しゴム等の擦過具を用いて、発熱させることでマーキング部を消去したり、再度冷却することで復色させたりすることもできる。
(5)冷凍保存されたケースや箱にマーキングしておくことで、解凍したか否かを視認できるインジケーターとして利用できる。
(6)証券や機密文書にマーキングすることで、各種セキュリティ用途として利用できる。
以上のように、本可逆感熱変色性マーキングペンを用いた用途は、意外性を発現させる玩具やファンシー用途から、産業資材としての各種インジケーター、セキュリティ用途まで幅広く利用でき、しかも、印刷、塗装、タックシールなどと異なり、マーキングする手間が極めて簡単、且つ、短時間で安価に行うことが可能であり、更に、筆記したマークが速乾性で且つ耐水性や固着強度等に優れたものであるから、産業上の利用価値は高いものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキは、マーキングペンに用いた場合、筆記後の乾燥が早く、高濃度に紙や金属、フィルム等に繰り返し筆記したとしても書き味に変化がなく、カスレやハジキのないマーキングが可能であるとともに、耐水性や接着性等にも優れており、特段の効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これ等に限定されるものではない。
以下の実施例等において「部」、「%」とあるのは、特に断りのない限り、「重量部」、「重量%」を意味する。
【0037】
(実施例1)
<可逆感熱変色性マイクロカプセル>
1リットルのガラスビーカー中で、保護コロイド剤のメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合樹脂(ガンツレッツAN139:ISP(株)製)20部、水200部を、苛性ソーダでpHを4.0に調整して溶解し、90℃に加熱した。
また、100ccガラスビーカーに、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン1部、ビスフェノールA5部、p−クロロ安息香酸セチル50部を計量し、100℃に加熱して、該3成分からなる可逆感熱変色性組成物を溶解した。
次いで、先の保護コロイド剤のメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合樹脂溶液を攪拌しながら、上記の溶解した可逆感熱変色性組成物を徐々に添加し、平均粒子径が0.5〜1.0μmになるように、攪拌速度を調整し、分散して、可逆感熱変色性組成物の分散液を得た。
次いで、得られた分散液中に、メラミン樹脂(スミテックスレジンM−3:(株)住友化学製)20部を徐々に添加し、90℃で30分間加熱して、マイクロカプセル化を行って、マイクロカプセル分散液を得た。
得られたマイクロカプセル分散液を、常温まで冷却し、水を加えて液量を500部とした後、5%硫酸を加えて、分散液のpHを1.5に調整し、保護コロイド剤の分散力を低下させた後、ろ過して、保護コロイド剤は除去した。
上記のろ過物に、水を加えて、再度500部の分散液とし、再度ろ過を行い、可逆感熱変色性マイクロカプセルから、保護コロイド剤を除去し、含水率40%のマイクロカプセル100部を得た。
得られた含水率40%のマイクロカプセル100部に、水500部、両親媒性物質のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル(ラテムルP−909:花王(株)製)10部を加え、スプレードライ機により乾燥し、上記の両親媒性物質で表面処理(被覆)された、可逆感熱変色性マイクロカプセルパウダー60部を得た。
<マーキングインキ>
上記のマイクロカプセルパウダー40部、固着剤の脂肪族飽和炭化水素樹脂(アルコンM−100:荒川化学工業(株)製)24部、酢酸セロソルブ36部を混合し、三本ロールで混練し、油性ビヒクル中に、目的の粒子径(平均一次粒子径0.5〜1.0μmの範囲にあり、且つ、最大粒子径が4μm以下)が保持された状態でマイクロカプセルを分散して、カラーペーストを得た。
得られたカラーペースト60部、沈降防止剤の脂肪族飽和炭化水素樹脂18部、キシレン22部を混合して、粘度60mPa・sの可逆感熱変色性マーキングインキを得た。
<マーキングペン>
上記の得られたマーキングインキを、バルブプッシュ式ペン体に直径3mmの金属ボールと共に5g充填し、可逆感熱変色性マーキングペンを得た。
得られたマーキングペンで、紙に「A」の文字を筆記したところ、黒色の「A」の文字となり、筆記した文字を消しゴムで擦過したところ、擦過熱により黒色のAの文字は消色し、紙上から「A」の文字が視認できなくなった。そのときの変色温度を測定したところ、消色ロック温度が48℃であり、20℃の常温に戻したとしても、再び「A」の文字は発色せず、ヒストリシス幅40℃の可逆感熱変色性を示すものであった。また、消色した文字を−10℃に冷却したところ、再び黒色の「A」の文字が発色した。
そして、得られたマーキングペンの連続筆記性を確認したところ、5gのインキ全てを使い切った状態においても、ペン先に目詰まりが認められず、何等、筆記性に変化がなく、濃度も初期の状態を維持していた。
次に、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度に何等変化がなく、インキ表面に僅かに溶剤が浮いている程度であり、ペン体を軽く2〜3回振るだけで均一なものとなるものであった。
【0038】
(実施例2)
<マーキングペン>
実施例1で得られた可逆感熱変色性マイクロカプセルパウダー12部、固着剤の飽和ポリエステル樹脂(バイロン670:(株)東洋紡製)13部、有機溶剤として、酢酸セロソルブ20部とキシレン53部、両親媒性物質のポリオキシアルキレンアルキルエーテルHLB12.5(エマルゲンLS106:花王(株)製)1部、ラテムルP−909 1部、ピグメントイエロー#83 0.05部を、アトライター分散機で1時間処理し、油性ビヒクル中に、目的の粒子径(平均一次粒子径0.5〜1.0μmの範囲にあり、且つ、最大粒子径が4μm以下)が保持された状態でマイクロカプセルを分散して、粘度100mPa・sの可逆感熱変色性マーキングインキを得た。
上記のマーキングインキを、バルブプッシュ式ペン体に長さ1cmの鉄製金属芯を入れると共に6g充填し、可逆感熱変色性マーキングペンを得た。
上記の得られたマーキングペンで、電気配電盤の金属ネジ頭部にマーキングしたところ、こげ茶色の金属ネジとなり、該金属ネジを用いて電気配電盤の結線をした後、通電したところ、金属ネジの締め付けが悪い場合に、電気配線に過電流が流れ、ネジ部分が発熱しマーキング部が黄色に変化した。
即ち、電気配線における過電流のインジケーターとして、該マーカーペンは使用できるものであり、該マーキングペンが簡易な操作で、危険防止としてのインジケーターとして利用できるものであった。
そして、上記のインキは、ヒストリシス幅が40℃あることから、発熱異常後、通電を停止したとしても黄色を呈しており、視認性に優れたものであった。
更に、金属ネジを水に浸漬したとしても、インキが脱落することなく、耐水性に優れたものであった。
また、6ヶ月経過後にマーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度に何等変化がなく、インキ表面に僅かに溶剤が浮いている程度であり、ペン体を軽く2〜3回振るだけで均一なものとなるものであった。
【0039】
(実施例3)
<マーキングインキ>
実施例1で得られた可逆感熱変色性マーキングインキ100部に、沈降防止剤の脂肪酸アマイド分散物(ディスパロンPFA220:楠本化成(株)製)1部を添加して、粘度100mPa・sの可逆感熱変色性マーキングインキを得た。
<マーキングペン>
上記のマーキングインキを、実施例1同様のペン体に充填し、ポリエチレン製医療用滅菌袋に「滅菌処理前」の文字を筆記した。筆記した袋に医療用廃棄物を入れ、オートクレーブで滅菌処理を行ったところ、「滅菌処理前」の黒色文字が消色し、滅菌処理されたことが明瞭に視認でき安価で簡単な操作で滅菌処理に対するインジケーターとして利用できるものであった。
そして、上記のマーキングペンの連続筆記性を確認したところ、5gのインキ全てを使い切った状態においても、ペン先に目詰まりが認められず何等筆記性に変化のないものであった。
次に、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度に何等変化がなく、インキの分離もなく、極めて安定なものであった。
【0040】
(実施例4)
(可逆感熱変色性マイクロカプセル)
1リットルのガラスビーカー中で、保護コロイド剤のゼラチン200(新田ゼラチン(株)製)20部、水200部を溶解し、90℃に加熱して、ゼラチン水溶液を得た。
また、100ccガラスビーカーに、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン1部、ビスフェノールA3部、4,4‘−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート50部を秤量し、得られた可逆感熱変色性組成物を100℃に加熱して溶解した後、エポキシ樹脂(JER828:ジャパンエポキシレジン(株)製)10部を加えて、可逆感熱変色性組成物とエポキシ樹脂の混合物を得た。
次に、先のゼラチン水溶液中に、上記の可逆感熱変色性組成物とエポキシ樹脂の混合物を徐々に添加し、平均粒子径が所期の粒径(0.5〜1.0μm、且つ、最大粒子径4μm以下)になるように、攪拌速度を調整し、乳化分散して、可逆感熱変色性組成物とエポキシ樹脂の混合物の分散液を得た。
そして、20%に水で希釈したエポキシ樹脂硬化剤(JERキュアU:JER(株)製)15部を、上記の分散液中に徐々に添加し、90℃で5時間加熱して、マイクロカプセル化を行って、マイクロカプセル分散液を得た。
得られたマイクロカプセル分散液を、50℃に冷却し、ゼラチン分解酵素(エンチロンSAL−300:洛東化成工業(株)製)0.5部を加え、保護コロイドとしてのゼラチンを分解し、分散力のないものとした後、ろ過した。
次いで、ろ過物に再度水を加えろ過を2回繰り返し、可逆感熱変色性マイクロカプセルから保護コロイド剤を除去し、含水率40%のマイクロカプセル100部を得た。
得られた含水率40%のマイクロカプセル100部に、水500部、両親媒性物質のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル(ラテムルP−909:花王(株)製)10部、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合樹脂(PVP/VAコポリマーW735:ISP(株)製)3部を加え、スプレードライ機により乾燥し、膜剤がエポキシ樹脂からなる可逆感熱変色性マイクロカプセル60部を得た。
(マーキングインキ)
上記の可逆感熱変色性マイクロカプセルパウダー40部、アクリル樹脂溶液(ダイヤナールLR163:三菱レーヨン(株)製)60部を混合し、三本ロールミル機に通し、目的の粒子径(平均一次粒子径0.5〜1.0μmの範囲にあり、且つ、最大粒子径が4μm以下)にマイクロカプセルパウダーを微分散し、カラーペースト100部を得た。
得られたカラーペースト32部、アクリル樹脂溶液(ダイヤナールLR163:三菱レーヨン(株)製)25部、トルエン43部を混合し、可逆感熱変色性マーキングインキ100部を得た。
(マーキングペン)
上記のマーキングインキ5gを、バルブプッシュ式ペン体に直径3mmの金属ボール2個と共に充填し、可逆感熱変色性マーキングペンを得た。
得られたマーキングペンを、電気配線の結束端子に塗布し、赤色とし、通電試験を行ったところ、結束が緩い箇所の結束端子は85℃に発熱し、端子の赤色は消色し、無色に変化し、発熱異常の危険防止としてのインジケーターとなった。
また、上記のいインキは、ヒストリシス幅が90℃あることから、発熱異常後、通電を停止したとしても、無色を呈しており、異常検知の視認性に優れたものであった。
そして、上記の端子を、−25℃に冷却したところ、再び赤色に発色し、再度利用することができるものであった。又、端子を水に浸漬したとしてもインキが脱落することなく耐水性に優れたものであった。
更に、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度に何等変化がなく、インキ表面に僅かに溶剤が浮いている程度であり、ペン体を軽く2〜3回振るだけで均一なものとなるものであった。
【0041】
(比較例1)
実施例1のマイクロカプセル化操作で、攪拌速度を調整し、平均一次粒子径が2μm、最大粒子径が12μmの粒子径とした以外は、全て実施例1同様にして、可逆感熱変色性マーキングインキ、及び、マーキングペンを得た。
得られたマーキングペンで、実施例1同様に、紙に「A」の文字を筆記したところ、黒色の「A」の文字となり、筆記した文字を消しゴムで擦過したところ、擦過熱により黒色のAの文字は消色し、紙上から「A」の文字が視認できなくなった。
得られたマーキングペンの連続筆記性を確認したところ、約1mの長さを筆記したところから、徐々にペン先の繊維束の通過孔が目詰まりして、筆記濃度が低下し、その後、筆記を続けると書けなくなった。
次に、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度には変化が認められなかったが、マイクロカプセルが沈降しハードケーキ状となり、ペン体を数回振っても、均一なものにならなかった。
【0042】
(比較例2)
実施例1のマイクロカプセルのパウダー化工程で保護コロイド剤を除去しないでパウダー化した以外は、全て実施例1同様にして、可逆感熱変色性マーキングインキ、及び、マーキングペンを得た。
得られたマーキングインキ中のマイクロカプセルの粒子径を測定したところ、水中での平均粒子径が0.5〜1.0μm、且つ、最大粒子径4μm以下であったが、油性ビヒクル中では微分散することなく、平均粒子径が10μmであり、最大粒子径が20μmのものであった。
得られたマーキングペンは、実施例1同様に可逆変色機能は示したが、書き味が悪く、濃度も低く、連続筆記性については、直ぐに、ペン先の繊維束の通過孔が目詰まりし、かすれてしまうものであった。
次に、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度には変化が認められなかったが、マイクロカプセルが沈降して、ハードケーキ状となり、ペン体を数十回振っても均一なものとならなかった。
【0043】
(比較例3)
実施例1のマイクロカプセルのパウダー化工程で、両親媒性物質のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル(ラテムルP−909:花王(株)製)10部を加えず、スプレードライ機により乾燥し、マイクロカプセルパウダーを得た以外は、全て実施例1同様にして、可逆感熱変色性マーキングインキ、及び、マーキングペンを得た。
得られたマーキングインキ中のマイクロカプセルの粒子径を測定したところ、水中での粒子径が平均粒子径で0.5〜1.0μm、且つ、最大粒子径4μm以下であったが、油性ビヒクル中では微分散することなく、平均粒子径が8μmであり、最大粒子径が18μmのものであった。
得られたマーキングペンは、実施例1同様に可逆変色機能は示したが、書き味が悪く、濃度も低く、連続筆記性については、直ぐに、ペン先の繊維束の通過孔が目詰まりし、かすれてしまうものであった。
次の、6ヶ月経過後に、マーキングペンの放置試験を行ったところ、発色濃度には変化が認められなかったが、マイクロカプセルが沈降しハードケーキ状となり、ペン体を数十回振っても均一なものとならなかった。
【0044】
(比較例4)
比較例3で得られたマイクロカプセルパウダーを用いて、実施例1同様に、可逆感熱変色性カラーペーストを作成し、該カラーペーストを、三本ロールミルで微分散したところ、平均粒子径で2.0μm、且つ、最大粒子径8μmの粒子径まで、油性ビヒクル中で分散することができた。
しかし、完全なる一次粒子径まで微分散することはできず、しかも、実施例1より三本ロールミルの通過回数を10倍必要とし、その結果、マイクロカプセルの一部が破壊し、着色濃度が1/3に低下した。
また、連続筆記性についても、実施例1より劣ったものであった。
【0045】
(比較例5)
比較例2で得られたマイクロカプセルパウダーを用いて、実施例1同様に、可逆感熱変色性カラーペーストを作成し、該カラーペーストを三本ロールミルで微分散したところ、平均粒子径で5.0μm、且つ、最大粒子径15μmの粒子径まで、油性ビヒクル中で分散することができた。
しかし、完全なる一次粒子径まで微分散することはできず、しかも、比較例4と同様に、三本ロールミルの通過回数を10倍としても、更に分散性が悪く、その結果、マイクロカプセルの一部が破壊し、着色濃度が1/5に低下した。
また、連続筆記性についても、実施例1、比較例4より、更に劣ったものであった。
【0046】
(比較例6)
実施例1で得られた可逆感熱変色性マイクロカプセルパウダー15部、固着剤の飽和ポリエステル樹脂(バイロン670:(株)東洋紡製)17部、酢酸セロソルブ20部、キシレン43部、両親媒性物質のポリオキシアルキレンアルキルエーテルHLB12.5(エマルゲンLS106:花王(株)製)1部、両親媒性物質のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル(ラテムルP−909:花王(株)製)1部、ピグメントイエロー#83 0.05部を、アトライター分散機で1時間処理し、平均一次粒子径0.5〜1.0μmの範囲にあり、且つ、最大粒子径が4μm以下にマイクロカプセルを微分散して、粘度450mPa・sの可逆感熱変色性マーキングインキを得た。
得られたマーキングインキを、バルブプッシュ式ペン体に長さ1cmの鉄製金属芯を入れるとともに、6g充填して、可逆感熱変色性マーキングペンを得た。
得られたマーキングペンで、電気配電盤の金属ネジ頭部にマーキングしたところ、実施例2同様に、こげ茶色の金属ネジとなり、該金属ネジを用いて電気配電盤の結線をした後、通電したところ、金属ネジの締め付けが悪い場合に、電気配線に過電流が流れ、ネジ部分が発熱しマーキング部が黄色に変化した。
しかし、マーキングペンは、初期の着色濃度は、粘度が高いため濃く筆記できたが、直ぐに、カスレが生じ、極めて書き味が悪く、又連続筆記性においても目詰まりが生じ、問題であった。
【0047】
(比較例7)
実施例1で得られた、水中での可逆感熱変色性マイクロカプセル分散液を実施例1同様のペン体に充填し、水性のマーキングペンを得た。
得られたペン体で、実施例1同様の筆記試験を行ったところ、連続筆記性については問題なかったが、耐水性が悪く、紙に筆記した文字に水がかかると、直ぐに、にじみが生じ、視認できなくなった。
また、紙に筆記した場合には、乾燥速度に問題がなかったが、金属のネジやフィルムに筆記した場合には、乾燥速度が極めて遅く、作業効率に劣るものであった。
【0048】
上記の実施例と比較例の結果から、以下のこと分かる。
(1)油性インキ中の可逆感熱変色性マイクロカプセルが、粒径(平均粒径0.5〜1.0μmの平均一次粒子径、最大粒子径4μm以下)と非凝集性を具備しないと、本発明の所期の目的は達成し得ない(比較例1〜5)。
(2)インキ粘度が200mPa・s以下でないと、本発明の所期の目的は達成し得ない(比較例6)。
(3)油性インキではなく、水性インキであると、本発明の所期の目的は達成し得ない。
(比較例7)
(4)油性インキ中の可逆感熱変色性マイクロカプセルが、本発明の粒径(平均粒径0.5〜1.0μmの平均一次粒子径、最大粒子径4μm以下)及び非凝集性を満たす場合には、本発明の所期の目的が達成される(実施例1〜4)。
以上のことから、本発明の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキにおける、粒径(平均粒径0.5〜1.0μmの平均一次粒子径、最大粒子径4μm以下)と非凝集性(保護コロイド剤の分離除去と両親媒物質による表面処理)の採用には、格別の意義があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキは、可逆感熱変色性マーキングペンに用いることにより、簡単且つ安価に該ペンにより筆記した熱インジケータ、熱消去性物品又はセキュリティ物品を得ることができる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
非凝集性の可逆感熱変色性マイクロカプセルを、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に粒子径を保持したまま分散させた可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項2】
マイクロカプセルの平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下である請求項1記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項3】
可逆感熱変色性マイクロカプセルが、ロイコ色素、顕色性物質及び変色温度調整剤からなる可逆感熱変色性組成物を内包するものである請求項1又は2記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項4】
マイクロカプセルの非凝集性は、マイクロカプセル化に用いた保護コロイド剤を分離除去した後、両親媒性物質で表面処理(被覆)することにより生起するものである請求項1〜3のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項5】
両親媒性物質が、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、又はそれらの混合物である請求項1〜4のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項6】
可逆感熱変色性マイクロカプセルと両親媒性物質との比率が1:0.02〜0.3である請求項1〜5のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項7】
マイクロカプセルの膜剤が、メラミン樹脂又はエポキシ樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項8】
可逆感熱変色性組成物が、40℃〜100℃の範囲のヒステリシス幅を有する請求項1〜7のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項9】
有機溶剤が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸エステル、又はこれらの混合物から選ばれたものを用いた請求項1〜8のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項10】
沈降防止剤が配合されたものである請求項1〜9のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項11】
インキ粘度が200mPa・s以下である請求項1〜10のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキ。
【請求項12】
ロイコ色素、顕色性物質及び変色温度調整剤からなる可逆感熱変色性組成物を、水中で保護コロイド剤の存在下マイクロカプセル化して、平均一次粒子径が0.5〜1.0μm、及び最大一次粒子径が4μm以下のマイクロカプセルを形成した後、マイクロカプセル含有液から保護コロイドを除去し、得られたマイクロカプセル水分散体を、両親媒性物質とともに乾燥することにより、非凝集性のマイクロカプセルとし、次いで、有機溶剤と固着剤からなる油性マーキングペン用ビヒクル中に、該マイクロカプセルを、その一次粒子径を保持したままの状態で分散させることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の可逆感熱変色性マーキングペン用油性インキが、バルブ構造のインキ吸蔵体であり、繊維束構造又はフェルト構造のペン先を持つ筆記具に充填された可逆感熱変色性マーキングペン。
【請求項14】
請求項13記載の可逆感熱変色性マーキングペンにより筆記した熱インジケーター、熱消去性物品又はセキュリティ物品。
【請求項15】
請求項14記載の熱インジケーターが、結線・接続不良による発熱を感知するために筆記された電気配線、電気器具又は電気接続部品。