説明

台車の補助車輪装置

【課題】 古い台車や、磨耗によって一部の車輪の動きの悪くなった台車でも簡単に対応でき、また四つの車輪とも回転する台車において、長距離移動等の際の安定性を効果的に高めることができるようにする。
【解決手段】 基板2の下面側に左右一対の補助車輪4をお互いに傾けて配設し、基板2の上面側に突設されるロッド5に摺動自在に嵌合するスライダ6を設けて、スライダ6の立壁部6aの前面に押圧部材7を固着する。また基板2に鉤型の係合部材8を一対取り付け、スライダ6を上昇または降下させることのできるハンドル10を設け、ロッド5とスライダ6とハンドル10の間にトグル機構11を設ける。台車20の下部フレーム21に係合部材8を係合させるよう補助車輪装置1をセットした後、ハンドル10を操作してトグル機構11をクランプ状態にすると、補助車輪4の接地によって台車20の一方側の車輪23aが浮き上がるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車輪を有するワーク搬送台車の移動作業を安定させたり、車輪の磨耗などによる台車の重い動きを軽減させたりするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両を組み立てる際の組立てラインサイドや溶接ラインサイドなどにおいて、作業者が手押しにてワークを搬送する場合、四隅に設けた車輪が360度旋転可能な台車とか、または台車の前後いずれかの2つの車輪が旋転可能で、他の2つの車輪が直線走行用に固定されている台車を使用することが多い。
この場合、前者の台車では、すべての車輪が旋転可能なため、小回りがきくものの、比較的長い距離を移動する場合は車輪が安定せず、作業者が常にバランスをとりながら移動させなければならないという特性があり、また後者の台車では固定車輪を前方にして移動させれば安定した操作性が得られるものの、小回り性が若干劣るため、例えば所望の位置にぴったりと横付けするような場合には作業が難しくなる。
このため、例えば台車の前後いずれかの車輪を浮かせて補助的な車輪を使用することにより、直線走行性と小回り性の両立を図るような技術が知られており(例えば、特許文献1参照。)、この技術では、キャスタを備えた台車において、起伏自在なハンドル枠の先端に固定補助車輪を設け、ハンドル枠を起立させて固定補助車輪を接地させると、一部のキャスタが床面から浮上するようにされている。
【特許文献1】特開昭58−52860号公報
【0003】
また、自在車輪の直進性を向上させ操向性を良くするための技術として、各車輪の角度を、移動方向から見て、逆ハの字形に傾斜させるような技術も知られている。(例えば、特許文献2参照。)
【特許文献2】特開2004−249837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の台車において、例えばいずれかの車輪が磨耗して動きが重くなった場合、その都度車輪を交換して対応しなければならず、多数存在する台車の管理に多大な労力を必要とする。
一方、前記特許文献1の技術の場合、車輪が磨耗した場合は固定補助車輪を使用して補完することができるが、浮上する車輪が決まっているので全ての場合に補完できるとは限られず、また、ハンドル枠や固定車輪を予め各台車ごとに付設しておく必要があるため汎用性に欠けるという問題がある。
【0005】
また、直進性を向上させるための特許文献2の技術の場合、車輪を傾けているのが自在車輪であるため、直線的に移動させる場合は、固定車輪に較べて依然として作業者のバランス感覚を必要とし、特に長い距離を移動させる場合には不便である。
【0006】
そこで本発明は、古い台車や、磨耗によって一部の車輪の動きの悪くなった台車でも簡単に対応でき、特に四つの車輪とも旋転する台車において、特に長い距離を移動させる場合でもその安定性を効果的に高めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、台車の移動を補助するため、台車に着脱自在に構成される補助車輪装置において、基板の下面側に取り付けられる補助車輪と、基板の上面側に突設されるロッドと、このロッドに摺動自在に嵌合し且つ一部に立壁部を有するスライダと、このスライダの立壁部の前面に固着され且つ台車のフレームの一部を上方に押圧することのできる押圧部材と、前記基板に取り付けられ且つ台車の一部に係合可能な係合部材と、前記スライダをトグル機構を介して上昇または降下させることのできるハンドルを設けた。
【0008】
そして、台車の一部に前記係合部材を係合させるよう補助車輪装置をセットした後、前記ハンドルを操作して前記トグル機構がクランプ状態になるまでスライダを上昇させると、前記補助車輪の接地によって台車の車輪の一部が浮き上がるようにする。
このように、台車に着脱自在な補助車輪装置を設け、台車の一部に係合部材を係合させて補助車輪で代用できるようにすれば、磨耗等によって一部の車輪の動きが悪い台車の場合でも使い勝手良く使用できるようになり、汎用性が増すと同時に、台車に急な不具合が生じた場合でも対処できるようになる。
また、必要に応じて、四輪すべての車輪が自在車輪であるような場合に二輪を浮かせるように使用すれば、直線走行を安定して操作できる。
【0009】
また本発明では、前記補助車輪を、進行方向に対して左右に一対一体的に設け、またこれら一対の補助車輪は、お互いの方向に対して、上方側が狭く下方側が開く状態で傾いて取り付けるようにした。
このように左右一対の補助車輪を一体的に設け、下方が広がるような状態に取り付ければ、仮にワークの積載位置が偏っていても、また、直線移動距離が長い場合でも安定した状態で移動させることができ、また、停止した時の安定性を増すことができる。
【0010】
そして、前記トグル機構として、前記ハンドルに固着され且つ前記ロッドにリンク結合する第1リンク部材と、この第1リンク部材及び前記スライダにリンク結合する第2リンク部材を設ければ好適であり、また、前記係合部材を、前記基板に対して所定間隔で複数設ければ、補助車輪装置を台車に安定した状態で取り付けることができる。
【発明の効果】
【0011】
補助車輪の台車への取り付けが簡単で迅速に行えることから、急な台車の不具合等に対処でき、また、各種台車に適用できるため汎用性が増す。
また、補助車輪として二つの車輪を一体的に角度を持たせて設けることにより、長距離の直線移動の際でも安定した操作が可能で、しかも台車を停止させた際に安定した姿勢を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態について添付した図面に基づき説明する。
ここで図1は補助車輪装置の正面図、図2は補助車輪装置の側面図で、(a)はクランプ前の状態、(b)はクランプ状態の説明図、図3は補助車輪装置を台車に取り付ける状態の説明図、図4は台車への取り付け状態を示す斜視図、図5は補助車輪装置を取り付けた台車の操作の一例を示す説明図である。
【0013】
本発明に係る台車の補助車輪装置は、例えば古い台車や、磨耗によって一部の車輪の動きの悪くなった台車でも簡単に対応してその動きを軽快にすることができ、また、特に、四つの車輪とも自在に旋転する台車において、特に長い距離を移動させる場合でもその安定性を効果的に高めることができるようにされている。
【0014】
すなわち、図1、図2に示すように、本補助車輪装置1は、基板2の下面側に溶着される車輪保持部材3に取り付けられる左右一対の補助車輪4と、基板2の上面側に若干斜めに傾いて突設されるロッド5と、このロッド5に摺動自在に嵌合するスライダ6を備えており、このスライダ6には立壁部6aや両側の側壁部6bやスライダ本体6cが一体的に設けられるとともに、前記立壁部6aの前面側には押圧部材7が固着されている。
【0015】
また、基板2の両サイドには、略L字型の鉤型の係合部材8が一対溶着されており、後述する台車の下部フレームに引っ掛けることができるようにされるとともに、前記ロッド5の上端には、スライダ6を昇降動させるためのハンドル10が連結されている。そして、前記ロッド5と、スライダ本体6cと、ハンドル10の間にはトグル機構11が設けられている。
【0016】
前記トグル機構11は、ハンドル10に固着され且つロッド5の上端に第1ピン12によりリンク結合される第1リンク部材13と、この第1リンク部材13に第2ピン14によりリンク結合するとともに、前記スライダ本体6cに第3ピン15によりリンク結合する第2リンク部材16を備えており、いわゆるトグルクランプ構造が構成されている。そして、図2(a)に示すアンクランプ状態(ハンドル10をスライダ6の立壁部6a上端に当接するまで立てた状態)から、ハンドル10を操作して、図2(b)に示すクランプ状態(ハンドル10を回転させて寝かせた状態)に移行すると、スライダ6が上昇して第1ピン12、第2ピン14、第3ピン15がほぼ直線上に並び、トグル機能によりスライダ6に対し下方に向けて強い力がかかった場合でも、スライダ6が下降動することがないようにされている。
【0017】
また、前記補助車輪4は、図1に示すように、台車の移動方向に対して左右に一対設けられており、左右方向に対して下方側の間隔が広く、上方側の間隔が狭まるようにハの字型に傾斜して設けられている。なお、本実施例では、補助車輪4の取付け角度(ハの字の開く角度)を120度としているが、力の分散を考慮すると120〜60度の範囲に設定することができる。すなわち、120度以上の角度になると、荷重によって車輪の動きが悪くなり、60度以下であると、台車に積載されるワークのバランスによって台車20の姿勢が不安定になりがちである。
【0018】
このような補助車輪装置1が取り付けられる台車20は、図3、図4に示すように、補助車輪装置1の係合部材8を引っ掛けて係合させるための下部フレーム21と、この下部フレーム21より所定間隔で高い位置に設けられる上部フレーム22と四隅に車輪23a、23b(図5)を備えており、この台車20の下部フレーム21と上部フレーム22の間隔は、図2(a)に示すアンクランプ状態の係合部材8と押圧部材7の間隔より広く、且つ、図2(b)に示すクランプ状態の係合部材8と押圧部材7の間隔より狭くなるようにされている。
【0019】
そして、前記補助車輪装置1と台車20の関係は、図3(a)に示すように、係合部材8と押圧部材7を下部フレーム21と上部フレーム22の間に挿入し、図3(b)に示すように、係合部材8を下部フレーム21に引っ掛けるようにセットした後、図3(c)に示すように、ハンドル10をクランプ側に操作すると、係合部材8と押圧部材7が広がって、補助車輪装置1が台車20にしっかりと固定されると同時に、接地した補助車輪4によって押圧部材7が上部フレーム22を持ち上げるようになり、台車20の一方側の車輪23aが浮き上がるようにされている。
すなわち、クランプ状態の補助車輪装置1の補助車輪4底部から押圧部材7の上面との間隔が、台車20の車輪23a底部から上部フレーム22下面との間隔より広くなるようにされている。
【0020】
以上のような補助車輪装置1の作用等について説明する。
台車20のいずれかの車輪23a、23bが動かなくなったり、または、四輪とも自在車輪でありながら長い距離を移動させる必要がある場合など、本補助車輪装置1を既存の車輪23a、23bの一部の代用として使用する。
【0021】
まず、図3(a)に示すように、台車20の移動方向の前方あるいは後方の下部フレーム21と上部フレーム22の間からアンクランプ状態の補助車輪装置1を挿入し、台車20の左右方向中間部の下部フレーム21(図4に示す位置)に係合部材8を引っ掛けるようにセットした後、ハンドル10を操作してスライダ6を上昇させる。すると、補助車輪4が接地した状態で、立壁部6aの押圧部材7が上部フレーム22を持ち上げるようになり、台車20の移動方向の一方側の車輪23aが浮き上がる。
【0022】
この状態で図5に示すように、作業者が台車20を押して進めば、台車20の車輪23aの急な不具合や、四輪とも自在回転車輪である場合でも、安定して移動させることができる。
この際、左右一対の補助車輪4は角度をもって一体化されているため、走行時の左右への曲りもスムーズで、しかも停止した際でも安定した姿勢を保持することができる。
そして、このような補助車輪装置1は、下部フレーム21と上部フレーム22の間隔が同じタイプの台車すべてに使用することができ、また補助車輪装置1の装着位置は、台車20の前だけでなく、横にも後ろにも装着できるため汎用性が高い。
【0023】
なお、本発明は以上のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
例えば係合部材8の鉤型形状等は一例であり、台車20の下部フレーム21の形状等に合わせて任意の形状にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
台車の車輪の不具合や、すべての車輪が旋転可能な台車や、前か後ろの一方側の車輪が旋転可能な台車を移動させる際に、簡単に取り付けることにより、安定して移動させることができるため、特に多数の台車を保有し管理する職場等に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】補助車輪装置の正面図
【図2】補助車輪装置の側面図で、(a)はクランプ前の状態、(b)はクランプ状態の説明図
【図3】補助車輪装置を台車に取り付ける状態の説明図
【図4】台車への取り付け状態を示す斜視図
【図5】補助車輪装置を取り付けた台車の操作の一例を示す説明図
【符号の説明】
【0026】
1…補助車輪装置、2…基板、4…補助車輪、5…ロッド、6…スライダ、6a…立壁部、7…押圧部材、8…係合部材、10…ハンドル、11…トグル機構、13…第1リンク部材、16…第2リンク部材、20…台車、21…下部フレーム、22…上部フレーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の移動を補助するため、台車に着脱自在に構成される補助車輪装置であって、基板の下面側に取り付けられる補助車輪と、基板の上面側に突設されるロッドと、このロッドに摺動自在に嵌合し且つ一部に立壁部を有するスライダと、このスライダの立壁部の前面に固着され且つ台車のフレームの一部を上方に押圧することのできる押圧部材と、前記基板に取り付けられ且つ台車の一部に係合可能な係合部材と、前記スライダをトグル機構を介して上昇または降下させることのできるハンドルを備えたことを特徴とする台車の補助車輪装置。
【請求項2】
前記補助車輪は、進行方向に対して左右に一対一体的に設けられ、またこれら一対の補助車輪は、お互いの方向に対して、上方側が狭く下方側が開く状態で傾いて取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の台車の補助車輪装置。
【請求項3】
前記トグル機構は、前記ハンドルに固着され且つ前記ロッドにリンク結合する第1リンク部材と、この第1リンク部材及び前記スライダにリンク結合する第2リンク部材を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の台車の補助車輪装置。
【請求項4】
前記係合部材は、前記基板に対して所定間隔で複数設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の台車の補助車輪装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−195266(P2008−195266A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33480(P2007−33480)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】