説明

各シール段階での流体量の精密制御を伴う磁性流体シールの製造方法、及び磁性流体シール

本発明に係る磁性流体シール製造方法は、回転可能なシャフトまたは磁極リングの中に形成される複数の溝のうちの、少なくとも一つの溝の中に強磁性流体を適用する工程と、複数の溝のうちの、少なくとも一つの溝の中に設置される強磁性流体を冷凍する工程であって、該強磁性流体が液体状態から固体状態に変化することにより、強磁性流体が不動化される工程と、強磁性流体が前記固体状態から液体状態に変化する前に、磁性流体シールのハウジングの開口部の中にシャフトまたは磁極リングを設置する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性流体シールシステム、並びに同シールシステムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性流体シールの稼動時、該磁性流体シールの回転の開始および停止に伴い、磁性流体シールから低圧真空内にガスのマイクロバーストが発生することが、長年観察されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
「バーピング」としても知られる、このマイクロバースト作用は、個々の段階でのガス圧保持能力を超えた圧力の磁性流体シールの各シール輪の中で捕捉されたガスから発生する。また、前記磁性流体のシールの回転の開始および停止に伴い、磁性流体シールの動的特性が僅かに変化し、捕捉されたガスの一部が磁性流体シールの低圧側および真空容積内に退避し、全体的な圧力の思わぬ上昇を招く。
【0004】
また、磁性流体シールの用途の幾つかにおいて、外気側からの組立てによりシールを構成することが受入れ可能である。別の用途では、上記シールの組立ては、真空側から行う必要があるという制約がある。後者の場合、シールアセンブリの中で最終的な流体供給を統括する上で実質的により大きな困難を伴う傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
先行技術の欠点を克服する中、磁性流体シールを製造する方法は、(1)回転可能なシャフトまたは磁極リングの中に形成される複数の溝のうちの、少なくとも一つの中に強磁性流体を適用するステップと、(2)前記複数の溝のうちの、前記少なくとも一つの中に設置される前記強磁性流体を冷凍するステップと、(3)前記強磁性流体が解凍する前に、前記強磁性流体シールのハウジングの開口部の中に前記シャフトまたは前記磁極リングを設置するステップと、を含む。前記磁性流体シールのハウジングの開口部は、外気側開口部、真空側開口部の何れでもあってもよいため、該磁性流体シールの組立てについても真空側、外気側の何れでも行えると理解される。
【0006】
強磁性流体を冷凍することにより、磁性流体シールの組立て時に正確な量の強磁性流体を所定位置に保持することができる。以下の各段落で説明されるように、この技術を使ってマイクロバースト作用を最小化または解消することができることが発見されている。また、複数の段階を有する磁性流体シールは、前記複数の溝を以って設置される強磁性流体の量が、磁場の所定の強度および形状の関数として変化する場合に、より高い機能を実現することが発見されている。これにより、以下の段落に記載される方法を使用して、前記複数の溝を以って設置される強磁性流体の量を正確に変化させて、より高い機能を実現することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の特徴によれば、マイクロバースト作用を最小化または解消することができる磁性流体シールの製造方法、及び磁性流体シールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の原理を取り入れた磁性流体シールの実施態様の一部の図を示す。
【図2】図2は、図1の磁性流体シールの実施態様の一部の拡大図を示す。
【図3】図3は、本発明の原理を取り入れた磁性流体シールの第2の実施様態の一部の切欠図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1および図2を参照して、磁性流体シール10の第1の実施態様を示す。ここでは、真空側14と、外気側16との間にシャフト12が延びている。一片の強磁性ステンレス鋼、例えば、17−4 PH合金または400シリーズ・ステンレス鋼合金は、外径上にO−リング・シール溝20aおよび20bを形成し、内径上に磁極先端部22を形成した状態で磁極リング18になるまで加工される。磁極リング18の内径にある磁極先端部22は、磁極リング18の内径において、一連の小さい、V字型の溝24として加工される。
【0010】
磁極リング18は、最初に、綿密に統括された径の滑らかな口径を以って作成される。その後、大型のスロット26aおよび26bが、磁極リング18の内径になるまで加工される。更にその後、隣接したV字型の溝の各対の間で、元の内径の小さい部分をそのままの残した深さになるまで、一連のV字型の溝24が加工される。図2は、元の内径の口径から結果的に磁極先端部22が残された状態での構成における、二つのスロット26aおよび26bと、複数のV字型の溝と、を示す。これら磁極先端部22と、シャフト12との間の隙間内では、非常に強力な磁場が発生し、(図2のドット30に代表される)磁性流体が、磁力によって保持される。
【0011】
スロット26aおよび26bは、それぞれ、磁石32aおよび32bを受け入れるのに十分な寸法である。このスロットの幅は、磁石の厚さよりも幾分大きくなっている(例えば、2.00ミリメートルの磁石の厚さに対しては、2.05ミリメートルのスロットの幅となる)。これにより、磁石32aおよび32bを簡単に挿入することができ、同磁石をスロットの中で半径方向および長手方向に移行させることができる。より多くの磁石が挿入されるにつれて、互いに反発する力が働いて、各磁石32aおよび32bを互いに等距離に隣接させて位置決めさせることにより、磁石層全体に渡って均等な空間を自動的に付与する。磁石32aおよび32bは、これ以上の磁石を前記スロットが受け入れられなくなるまで、各スロット26aおよび26bに追加される。
【0012】
通常、磁石32aおよび32bは、背の低い円柱形であるが、四分円、六分円、八分円の何れであってもよい。以下に述べる固有のシャント効果から発生する損失を克服するには、高いエネルギー積(20ないし35 MGO)を有する、サマリウム・コバルトまたはネオジム硼化鉄などの希土類磁石が好適である。磁石32aおよび32bは、(シャフト軸と平行な)該磁石の厚さを通じて分極される。各磁石スロット26aおよび26bの中では、極性は同じである。極性はスロットによって変化するため、磁石層は交互に対向している。使用可能な磁石層の数は任意であるが、(弱磁場の打ち消しのため)偶数であることが好適である。通常用いられるのは二層であるが、全ての真空用途について一層でも十分である。圧力差がより大きくなる場合の用途については、使用可能な層数も、より増加する。磁極片18の外表面は、外気側から真空側にかけて連続しているので注意されたい。磁極片12の連続的な外表面により、各磁石周辺の磁石シャントが付与される。これにより、各シールギャップを包含する磁石回路に利用可能な磁石エネルギーの一部が放出される。
【0013】
本明細書全体を通じて参照によって組み込まれた特許参照文献、ヘルゲランドに付与された米国特許第5,826,885号に記載される通り、磁性流体22は、各先端部22の内部に設けられ、磁極片18は、(開口部35aおよび35bを有する)ハウジング34に取り付けられ、該ハウジング34は、フランジ(不図示)に取り付けられている。また、このフランジは、この二つの外気側の間に配置される適切な固定具に取り付けられてもよく、その場合シャフト12は、該二つの外気側の間で延びた状態となる。開口部35aは、外気側16に直ぐ隣接する一方、開口部35bは、真空側14に直ぐ隣接するものと理解される。
【0014】
図3を参照して、磁性流体シール40の別の実施様態を示す。磁性流体シール40は、ハウジング42と、磁極リング44と、シャフト46と、を有する。磁極リング44は、内径48と、外径50と、を有する。シャフト46は回転可能で、外径52を有する。シャフト46は、外気側と、真空側54と間で磁極リング44の内径48に沿って延びるように構成される。該真空側は、通常、外気側54と対向する。
【0015】
磁極リング44の外径50は、スロット56aおよび56bを含むような寸法および形状とされる。磁石57aおよび57bは、それぞれスロット56aおよび56bの中に設置される。しかし、図1に示すように、これらスロットは、磁極リング44の内径48の上に形成してもよいと理解される。
【0016】
磁石57aおよび57bは、所定の寸法および形状を有する磁場を放出する。後に説明されるように、この磁場は、シャフト16と、磁極リング14との間にシールを形成するように強磁性流体を所定位置に保持する機能を有する。
【0017】
シャフト46は、少なくとも一つのシール段階60を含む。図1に見られるように、シール段階60は、シール段階の第1セット62の一部であってもよい。この第1セット62は、五つのシール段階を含む。第2セット64は、十のシール段階を含む。本実施態様は、シャフト46の外径52の上に形成されるシール段階の第1セット62および第2セット64を示すが、これらシール段階の第1セット62および第2セット64は、図1および図2に示すように、磁極リング44の内径48の上に形成してもよいと理解される。
【0018】
シール段階60は、一般的に、磁極先端部68を画定するV字型の溝66を含む。強磁性流体は、各シール段階60の中で設置される。磁石57aおよび57bから磁場に、この流体が曝される場合、最も強力な磁場が発生するのが、磁極先端部68と、磁極リング44との間の隙間中であり、磁場によって強磁性流体が保持されるのも、この隙間中である。
【0019】
また、発明者は、各シール段階の中に配置される強磁性流体の量が磁場の所定の強度および形状の関数として変化する場合、複数のシール段階を有する磁性流体シールが、より高い機能を実現することを発見した。各シール段階の中で強磁性流体を変化させることが困難であることは、取りも直さず、磁性流体シール40が作成される場合、各シール段階60の溝66の中に強磁性流体を設置および保持することが困難であることと同等である。図1〜図3に図示される堆積物の何れかに同等に適用可能な、以下に記載する方法を使えば、溝付きで設置される強磁性流体の量を正確に変化させて、より高い機能を実現することができる。
【0020】
この方法は、(1)シャフト46(または図1の磁極リング18)の中に形成される複数の溝66のうちの少なくとも一つの中に強磁性流体を適用するステップと、(2)前記複数の溝36の中に配置される前記強磁性流体を冷凍するステップと、(3)前記強磁性流体が解凍される前に、前記磁性流体シール40のハウジング42の開口部67の中にシャフト46(または図1の磁極リング18)を設置するステップと、を含む。一般的に、強磁性流体は、シリンジ状のデバイス経由で適用される。また、前記磁性流体シールのハウジング42の開口部は、外気側54、真空側の何れであってもよいため、磁性流体シールの組立てについても、外気側54、真空側の何れでも行えると理解される。
【0021】
上記方法は、前記複数の溝の中に、異なった量の強磁性流体を適用するか、上記溝のうちの幾つかの中に強磁性流体を適用する一方、他の溝の中には強磁性流流体を適用しないようにするステップを、更に含んでもよい。一般的に、磁性流体シールの外気側に、より近接して配置される溝は、充填される強磁性流体の量も多くなり、該磁性流体シール10の真空側に、より接近して(または隣接して)配置される溝に対向させているが、強磁性流体の含有量は、少なくても皆無であってもよい(実質的にシール段階として「乾燥」状態でもよい)。また、溝に適用される強磁性流体の量は、高機能を実現するように、磁石57aおよび57bによって生成される磁場の所定の強度および形状の関数として変化してもよい。前記磁場の所定の強度および形状に基づく、この変化は、実験および実証的証拠によって決定してもよい。
【0022】
前述の「背景技術」の項でも言及したが、これら各種磁性流体シールの稼動時、該磁性流体シールの回転の開始および停止に伴い、磁性流体シールから低圧真空内にガスのマイクロバーストが発生することが、長年観察されている。また、真空側に隣接した個々のシール段階の中で捕捉されたガスの圧力を低減することにより、このマイクロバースト作用を最小化または解消することが示されている。また、真空側に最も近い、一つ以上の乾燥段階を創設し、これら乾燥段階に直ぐ隣接する一つ以上の段階に、強磁性流体を統括して充填することを検討することにより、該強磁性流体の一部が、該一つ以上の乾燥段階に移行することも観察されている。この移行処理時、処理中の段階の中で捕捉されるガスは、該シールの真空側内部に益々拡がり、処理ポンプによって排出される。これにより、非常に低い圧力のガスが、新しいシール段階の中に残され、この新しく形成されたシール段階の後に該圧力を低減させることにより、マイクロバースト作用を防ぐ条件を満たしている。この方法は、非常に低い圧力にポンプダウンされ、上記マイクロバーストから発生する望ましくないガスを除去するアクティブポンピングが殆ど、または全く無い状態で封止される系統には非常に重要である。
【0023】
本発明は、特に、同発明の好適な実施様態を参照して図示および記載されているが、本発明の意図および範囲から逸脱しない限り、本明細書において、その様態および細部に渡って様々な変更が行えると当業者に理解される。また当業者は、本明細書に具体的に記載される発明の具体的な実施様態に対する多くの等価物を、定型の実験を行うだけで認識または確認可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体シールを製造する方法であって、、
回転可能なシャフトまたは磁極リングの中に形成される複数の溝のうちの、少なくとも一つの溝の中に強磁性流体を適用する工程と、
前記複数の溝のうちの、前記少なくとも一つの溝の中に設置される前記強磁性流体を冷凍する工程であって、該強磁性流体が液体状態から固体状態に変化することにより、前記強磁性流体が不動化される工程と、
前記強磁性流体が前記固体状態から液体状態に変化する前に、前記磁性流体シールのハウジングの開口部の中に前記シャフトまたは前記磁極リングを設置する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記複数の溝は、前記回転可能なシャフトの中に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の溝は、前記磁極リングの中に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記磁性流体シールの前記ハウジングの前記開口部は、該磁性流体シールの真空側に直ぐ隣接する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記磁性流体シールの前記ハウジングの前記開口部は、該磁性流体シールの外気側に直ぐ隣接する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の溝は、前記磁性流体シールの外気側と、該磁性流体シールの真空側との間に延びている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記磁性流体シールの前記真空側よりも該磁性流体シールの前記外気側に近接して配置される溝のうちの、少なくとも一つ溝の中に強磁性流体を適用するステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の溝の中に異なった量の強磁性流体を適用するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
磁場の所定の強度および形状に基づいて、前記複数の溝の中に異なった量の強磁性流体を適用するステップを更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記磁場は、前記磁極片に結合される磁石によって放出される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
磁性流体シールであって、
所定の内径を有する磁極リングと、
所定の外径を有する回転可能なシャフトであって、外気側と、真空側との間に前記磁極リングの前記内径に沿って延びるように構成される、前記回転可能なシャフトと、
前記磁極リングに結合される、少なくとも一つの磁石であって、所定の強度および形状を有する磁場を放出するように構成される、前記少なくとも一つの磁石と、
前記磁極リングの内径または前記シャフトの外径の上に形成される複数の溝と、を備え、
前記複数の溝のうちの少なくとも一つの溝は、強磁性流体を含有し、
前記複数の溝は、前記磁性流体シールの外気側と、該磁性流体シールの真空側との間で延び、
前記複数の溝のうちの、少なくとも一つの溝の中に含有される前記強磁性流体は、前記磁石によって放出される前記磁場の所定の強度および形状の関数として変化する、磁性流体シール。
【請求項12】
前記複数の溝のうちの、少なくとも一つの溝は、強磁性流体を含有しない、請求項11に記載の磁性流体シール。
【請求項13】
前記複数の溝は、前記磁極リングの内径の上に形成される、請求項11に記載の磁性流体シール。
【請求項14】
前記複数の溝は、前記シャフトの外径の上に形成される、請求項11に記載の磁性流体シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−501063(P2011−501063A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530109(P2010−530109)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/080157
【国際公開番号】WO2009/052282
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509241889)リガク イノベイティブ テクノロジーズ インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】