説明

合成ペプチド及びその利用

【課題】人工的に貝殻様の炭酸カルシウム結晶が形成できる合成ペプチドおよびその利用方法を提供する。
【解決手段】Gly−Leu−Ser−Gly−Serで表される配列を含み、20以下のアミノ酸からなる合成ペプチドである。この合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、を混合することにより、貝殻様の異形の炭酸カルシウムを結晶化することができる。かかる合成ペプチドは、天然の貝殻の特性を備える新規な無機有機ハイブリッド素材の開発に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形の炭酸カルシウム結晶を形成する合成ペプチド及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機成分に有機成分を混在させることによって、新たな機能が発揮できるようにした、いわゆる無機有機ハイブリッド素材の開発が注目されている。無機有機ハイブリッド素材は、ガラスとプラスチックの中間的な特性を有すると予想されており、とくにその特性を活かして、電子材料や医療材料として新規な応用が期待されている。
【0003】
ところで、貝殻は、有機基質(タンパク質)と炭酸カルシウムの結晶とで構成されていて、軽量でありながら強度が高く、しかも難燃性という優れた特性を備えており、いわば天然の無機有機ハイブリッド素材と言える。
【0004】
貝殻に関するこの種の先行技術としては、例えば、特許文献1〜3がある。
【0005】
特許文献1および特許文献2は、いずれも真珠層の製造方法に関するものであり、炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶で構成された、真珠層様の構造体を得ることができるとしている。
【0006】
一方、特許文献3はフジツボの付着機構に関するものであり、フジツボのキプリス幼生が分泌するセメント関連タンパク質及びこれをコードする遺伝子について開示されている。
【特許文献1】特開2003−12696号公報
【特許文献2】特開2006−1851号公報
【特許文献3】特開2006−223226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまでの無機有機ハイブリッド素材の開発では、シリカなどの無機成分に加える有機成分として、ポリアクリル酸やポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などの化学合成成分に限られていたことから、そこから創出できる無機有機ハイブリッド素材としての機能にも限界があった。
【0008】
一方、自然界では、様々な生物によって多種多様な無機有機ハイブリッド素材が作り出されている。しかしながら、生物が無機有機ハイブリッド素材を生み出すメカニズムはほとんど解明されておらず、産業的利用が全くなされていないのが実情である。
【0009】
貝殻にしても、これを構成する成分及びその構造、生成機構等は、貝の種類によっても様々であり、いまだ具体的に特定されるまでには至っていない。先の特許文献1〜3においても、天然成分から特定物質を抽出してその利用可能性を提案している段階であり、産業的に利用できるような実用化レベルには至っていない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、人工的に貝殻様の異形の炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)を形成することができ、しかも実用化も容易な合成ペプチド、およびその利用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、Gly−Leu−Ser−Gly−Serで表されるアミノ酸配列を含み、20以下のアミノ酸からなることを特徴とする合成ペプチドである。例えば、配列表の配列番号5に表されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドを挙げることができる。
【0012】
上記合成ペプチドを、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液に混合する炭酸カルシウムの結晶化方法によれば、これまでにない炭酸カルシウム結晶を得ることができる。
【0013】
その場合、合成ペプチドの濃度は、100μM以上に設定するのが好ましい。
【0014】
例えば、上記合成ペプチドを、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液と混合して、炭酸カルシウム結晶を生成させる工程を含む製造方法によれば、これまでにない炭酸カルシウム粒子を製造することができる。
【0015】
上記合成ペプチドと、Gly−Proで表されるアミノ酸配列を含み、Glyと、Proと、Tyrと、Asp又はGluと、で構成されている合成ペプチドと、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液と、を混合して炭酸カルシウムの結晶化を行ってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入手容易な合成ペプチドを用いて、人工的に貝殻様の異形の炭酸カルシウム結晶を形成することが可能となるため、軽量でありながら強度が高く、しかも難燃性という、天然の貝殻の特性を備える新規な無機有機ハイブリッド素材の開発に利用できる。
【0017】
すなわち、無機有機ハイブリッド素材の形成に用いる有機成分として、人工の合成ペプチドを用いるので、貝殻などの天然素材を原料として複雑な処理を経て初めて入手できる従来法に比べて、極めて簡単に入手でき、品質も安定するため、量産化が容易である。工業的にも量産に移行し易く、産業的利用に好適である。
【0018】
高分子量のタンパク質とは異なり、低分子量のペプチドであるため、化学的安定性に優れ、それだけ利用価値も高い。
【0019】
複雑な処理を経る必要がなく、極めて簡単な処理で異形の炭酸カルシウム結晶を生成できるため、量産化等への移行も容易に達成でき、短期間での産業的利用が期待できる。
【0020】
とくに、常温・常圧の条件下で合成でき、特殊な処理条件を必要としないことから、適用範囲が広い。汎用性に富み、製造コストも少なく済むため、建築素材や医療素材、食品素材、ナノテクノロジーなどの分野にも適用でき、様々な用途に利用できる。
【0021】
例えば、研磨剤や凝集沈澱剤等の用途であれば直ぐにでも実用化可能であり、これまでにない新たな機能を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
本発明者らは、マガキの貝殻形成に関与しているタンパク質を同定していたところ、その過程において、特異的なアミノ酸の繰り返し配列を持つ新規なタンパク質を見出した。そのタンパク質のアミノ酸配列には、意外にも、クモの粘着糸のアミノ酸配列に高度に類似したクモ糸領域と、ダニのセメントタンパクのアミノ酸配列に高度に類似したダニセメント領域とが含まれているという知見を得た。以下にまずその詳細を説明する。
【0024】
(タンパク質の同定)
マガキ(Crassostrea gigas)など、二枚貝の貝殻の主たる構成要素は、炭酸カルシウムである。マガキの殻体(貝殻)は、殻体の外側から内側に向かって順に、殻皮層、稜柱層、葉状層、及びチョーク構造と、それぞれ異なる構造が積層されて構成されている。具体的には、殻皮層は、主に有機基質と呼ばれるタンパク質でできており、石灰化はしていない。稜柱層は、殻の内外方向に沿って柱状に伸びる炭酸カルシウムの結晶で構成されている。葉状層は、細長く薄い板状の炭酸カルシウムの結晶と、シート状の有機基質とが交互に積層されて構成されている。チョーク構造は、薄い板状の炭酸カルシウムの結晶が格子状に組み合わさって構成されている。
【0025】
このように、一枚の貝殻は、内外に異なる炭酸カルシウムの結晶構造が積層されて形成されているのであるが、その積層された炭酸カルシウムの結晶構造の中には、有機基質というタンパク質が0.1〜10重量%含まれており、本発明者らはこの有機基質に着目して以下のような研究を行った。
【0026】
まず、貝殻形成には、貝殻直下に存在する外套膜という組織が重要な役割を果たしていることがわかっているため、その外套膜の辺縁部において特異的に発現する遺伝子をサブトラクション法によりクローニングした。
【0027】
その結果、得られたcDNAの塩基配列(配列番号1)にコードされているタンパク質(以下、oySLPという)のアミノ酸配列を図1に示す(配列番号2)。尚、このアミノ酸配列は、同定したcDNAの塩基配列に対し、配列情報解析ソフト:DNASIS(登録商標、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社製)で処理して翻訳を行ったものであり、図中の各アミノ酸は所定の一文字表記で示してある。
【0028】
(シグナルペプチド)
oySLPのN末端側、図1において符号1で示す1〜18番目のアミノ酸の領域には、細胞内で合成されたタンパク質が細胞外に分泌される際に必須であるシグナルペプチドと呼ばれる配列が存在し、oySLPは細胞内ではなく、細胞外に分泌されて働くことが示唆された。
【0029】
また、貝殻形成にこのoySLPが関与していることを確かめるために、マガキの貝殻抽出液中にこのoySLPが存在しているかどうか、ウエスタンブロット法を用いて検証試験を行ったところ、マガキの貝殻抽出液中にoySLPが存在していることを確認した。
【0030】
従って、oySLPは、外套膜の辺縁部から分泌されて、貝殻の炭酸カルシウムで構成された各種結晶構造の積層化に直接関与しているものと考えられた。
【0031】
そこで、このoySLPについて更に詳しくしらべるために、そのアミノ酸配列について、データベース(DDBJ:DNA Data Base of Japan)における相同性検索ソフト(FASTA)を用いてこのoySLPと相同性の高いタンパク質を調べた。その結果、意外にも、その前半の領域に、蜘(アメリカジョロウグモ)が生成するクモ糸(flagelliform silk protein)のタンパク質との間で45%の高い相同性が認められる領域が存在し(クモ糸領域)、その後半の領域には、マダニ(コイタマダニ)が生成するセメントタンパク質(cement protein)との間で33.3%の高い相同性が認められる領域が存在することを発見した(ダニセメント領域)。
【0032】
(クモ糸領域)
クモ糸領域は、図1の符号2で示す124〜225番目のアミノ酸の領域である。とくにこの領域にはG(Gly)、P(Pro)が多く認められることから、この特徴的なアミノ配列が何らかの形で貝殻形成に大きく関与していると考えた。
【0033】
すなわち、各アミノ酸の機能を考慮すると、D(Asp)又はE(Glu)は、カルシウムイオンを捕捉して、カルシウムとの結合に重要な役割を果たしていると考えられ、P(Pro)は、タンパク質を折り曲げ、タンパク質構造に重要な役割を果たしていると考えられる。そして、Y(Tyr)が有するOH基は、結晶の安定化に重要な働きをしていると予想されることから、G、P、Yのアミノ酸と、D又はEのアミノ酸とで合成したペプチドによって、従来とは異なる貝殻様の炭酸カルシウム結晶が形成できると考えた。
【0034】
そこで、このクモ糸のアミノ酸配列との間で認められるモチーフを参考にして、その領域に含まれるアミノ酸配列の一部である、ポリペプチド「GPGPYGPGPYGPGDGP」(P1、配列番号3)と、ポリペプチド「YGPGD」(P2、配列番号4)とを人工的に合成し、これらを用いて貝殻様の炭酸カルシウム結晶構造の形成が可能かどうか実験を行った。尚、これら比較的短鎖の合成ポリペプチドは、そのアミノ酸配列を指定して所定のメーカーに注文をすれば入手可能である。ここでは、シグマアルドリッチジャパン株式会社に上記配列を指定して注文することにより入手した。
【0035】
(炭酸カルシウム結晶の形成)
上記合成ペプチドP1及びP2それぞれについて以下の実験を行った。すなわち、合成ペプチドをDimethyl−Sulfoxide(DMSO、和光純薬工業株式会社製)に、3mg/mlの割合で溶解してペプチド溶液を作製し、そのペプチド溶液10μlを100μlのNaHCO溶液に加えて混合した。
【0036】
次いで、そこに100μlのCaCl溶液を添加して混合し、常温で3日間放置した(テストサンプル)。尚、NaHCO溶液はNaHCO(和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解して作製したものであり、CaCl溶液はCaCl(ナカライテスク株式会社製)を純水に溶解して作製したものである。
【0037】
一方、比較対照として、ペプチド溶液を添加せずに同様の処理を行った(コントロールサンプル)。
【0038】
3日間放置後、各溶液中に形成された炭酸カルシウム結晶を100%エタノールで軽く洗った後、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所:S−4500)にて結晶構造の観察を行った。
【0039】
その結果、コントロールサンプルは、きれいな立方体形状をした炭酸カルシウム結晶が得られたのに対し、P1、P2いずれのテストサンプルも、同じような花びら様の特殊形状をした異形の炭酸カルシウム結晶が得られ、両者の結晶形態は全く相違していた。
【0040】
尚、合成ペプチドは、少なくとも100μM以上の濃度(終液に対するモル濃度)であれば、この異形の炭酸カルシウム結晶が形成されることを確認している。
【0041】
その各サンプルの電子顕微鏡写真を図2、図3に示す。図2はコントロールサンプルであり、図3はテストサンプルである。
【0042】
テストサンプルで得られた異形の炭酸カルシウム結晶について、X線結晶構造解析を行ったところ、その炭酸カルシウム結晶は天然の貝殻と同様の三方晶系の構造を有していることが確認された。
【0043】
炭酸カルシウム結晶は、三方晶のカルサイト(方解石)、斜方晶のアラゴナイト(あられ石)、六方晶のバテライト(ファーテル石)の3種に分類されており、このうち貝殻の結晶はカルサイトとアラゴナイトである。炭酸カルシウムを自然に結晶化させると形成されるのがカルサイトであることから、カルサイトが最も安定的な結晶構造であると考えられる。結晶構造が安定していることは工業的に好ましく、合成ペプチドによって得られる結晶構造は、無機有機ハイブリッド素材としても有利であると考える。
【0044】
(ダニセメント領域)
ダニセメント領域は、先のクモ糸領域に続く、図1の符号3で示す226〜431番目のアミノ酸の領域である。まず最初に、この領域との間で高い相同性が認められたマダニ(コイタマダニ)のセメントタンパク質について説明しておく。マダニは動物の皮膚に口器を差し込んで血を吸う吸血性の寄生虫である。マダニは、いったん口器を皮膚に差し込んで吸血を始めると、数日間に亘ってその動物から離れないようセメント状に硬化する分泌物を皮膚内に注入し、自身の体を動物の皮膚に固定する機能を備えている。その分泌物がセメントタンパク質(cement protein)と呼ばれているものである。
【0045】
このマダニのセメントタンパク質の機能からすると、oySLPのダニセメント領域は、貝殻の生成機構、特に炭酸カルシウム結晶を強化するうえで何らかの重要な役割を果たしていると考えられたことから、このoySLPのダニセメント領域と、マダニのセメントタンパク質とでアミノ酸配列の比較を行ったところ、G−L(Leu)−Xで構成されるアミノ酸配列からなるモチーフが認められた。尚、XはS(Ser)、G、Dのいずれか1つのアミノ酸を示している。
【0046】
そこで、先のクモ糸領域と同様にこのモチーフを参考に、短鎖ポリペプチドとして、図1に下線で示すダニセメント領域内のアミノ酸配列である、ポリペプチド「GLSGSGLSGFG」(P3、配列番号5)と、ポリペプチド「GLSGS」(P4、配列番号6)とを人工的に合成し、これらを用いて貝殻様の炭酸カルシウム結晶を形成させることが可能かどうか、以下の実験を行った。
【0047】
(炭酸カルシウム結晶の形成)
上記合成ペプチドP3及びP4でペプチド溶液を作製し、これを用いて炭酸カルシウム結晶の形成実験を行った。実験の具体的条件は先のクモ糸領域と同じであるため、その説明は省略する。
【0048】
その結果、P3及びP4のいずれのテストサンプルにおいても、立方体形状をした複数の炭酸カルシウム結晶が直鎖状に連なる独特の形態をした炭酸カルシウム結晶構造体が認められた。得られた各サンプルの電子顕微鏡写真を図4、図5に示す。図4がコントロールサンプルであり、図5がテストサンプルである。
【0049】
図5のテストサンプルの炭酸カルシウム結晶は、合成ペプチドが溶液中で会合して繊維状となり、これに沿って炭酸カルシウム結晶が形成されたものと考えられた。そこで、免疫電子顕微鏡法により、このタンパクの貝殻中における存在部位を観察したところ、炭酸カルシウム結晶の間に存在する薄膜状のシート体に発現することを確認した。
【0050】
例えばコンクリートなどに繊維体を混合してその強度を向上させる技術が知られているが、このダニセメント領域もそれと同様に、貝殻の炭酸カルシウム結晶の積層構造を強化する役割を果たしているものと考えられる。
【0051】
つまり、このダニセメント領域由来の合成ペプチドであれば、結晶の形成過程で炭酸カルシウム結晶を連鎖状に結合させてその積層構造を強化することができ、炭酸カルシウムを主体とする無機有機ハイブリッド素材の開発に有用であると思われる。
【0052】
以上の実験結果より、常温常圧下で、上記所定の合成ペプチドを、例えばNaHCO溶液等の炭酸イオン含有溶液と、例えばCaCl溶液等のカルシウムイオン含有溶液とを混合して、合成ペプチドと炭酸イオンとカルシウムイオンとが共存する溶液を作製し放置するだけで、新規な異形の炭酸カルシウム結晶を形成させることができる。
【0053】
さらには、上記所定の合成ペプチドを、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液と混合する工程を備える製造方法によれば、貝殻様の炭酸カルシウム結晶構造、すなわち天然の無機有機ハイブリッド素材の製造も可能になる。
{実施例}
先の実験方法によって得られる異形の炭酸カルシウム結晶の微粒子は、そのまま研磨剤や補強剤などに利用できる。
【0054】
例えば、炭酸カルシウムの粉末は研磨剤として多用されている。しかし、その炭酸カルシウム結晶は、先に示したとおり通常は立方体形状をしているため、その外表面に存在する切削部位が少なく、必ずしも研磨剤としては効果的な形状であるとはいえない。それに対して、上記方法で得られる異形の炭酸カルシウム結晶は、極めて複雑な形態をしており、研磨剤に適している。とくに、結晶レベルの極めて微小な構造であることから、これまでは研磨できなかったような微細な部分の研磨も可能となり、ナノテクノロジーなどの分野への利用も期待できる。
【0055】
具体的には、上記合成ペプチドを、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液とを加えて混合する工程と、混合した溶液から形成された炭酸カルシウム結晶を取り出す工程と、粉砕や篩い分けして、取り出した炭酸カルシウム結晶の粒度を整える整粒工程とを含む製造方法により、これまでにない新規な研磨剤を得ることが可能となる。
【0056】
合成ペプチドは、上記の各合成ペプチド単独でも、また組み合わせて用いてもよい。特に、クモ糸領域由来の合成ペプチドであるP1やP2と、ダニセメント領域由来の合成ペプチドP3やP4とを組み合せれば、異なる機能が期待できるため、効果的である。
【0057】
その他、凝集沈澱剤としてもそのまま利用できると思われる。例えば、カルシウムイオンと炭酸イオンとが含まれる対象溶液に、上記合成ペプチドを添加すれば常温常圧で炭酸カルシウム結晶を形成させることができ、結果として凝集沈澱効果を得ることができる。
【0058】
特に、ダニセメント領域由来の合成ペプチドP3やP4の場合、炭酸カルシウム結晶を結合させる機能が認められることから、添加剤として、炭酸カルシウムを含む素材の成形時に添加すれば、その強度向上が期待できる。また、上記方法で製造された炭酸カルシウム結晶も、その細長い形態を活かしてそのまま補強用の添加剤として利用することも可能である。
【0059】
もちろん、本発明は、これらの実施例に限られるものではない。例えば、クモ糸領域であれば、Gly−Pro、Gly、Pro、Tyr、Asp(Glu)のアミノ酸を用いて20以下、好ましくは15以下のアミノ酸からなる短鎖合成ペプチドを合成することで、異形の炭酸カルシウム結晶を形成することができると考える。
【0060】
同様に、ダニセメント領域であれば、P4のアミノ酸配列や、G−L−X(XはS、G、Dのいずれか1つのアミノ酸)で構成されるアミノ酸配列からなるモチーフを含む、20以下、好ましくは15以下のアミノ酸からなる短鎖合成ペプチドを合成することで、異形の炭酸カルシウム結晶を形成することができると考える。
【0061】
従って、このように簡単に設定でき、入手も容易な合成ペプチドを用いて、新規な貝殻様の炭酸カルシウム結晶を形成することが可能となることから、本発明は、有機無機ハイブリッド素材として、電子材料や医療材料、食品添加物、建築素材、ナノテクノロジーなど、広範な技術分野への利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】タンパク質(oySLP)のアミノ酸配列を示す図である。
【図2】クモ糸領域由来の合成ペプチドによる炭酸カルシウム結晶形成実験のコントロールサンプルの電子顕微鏡写真である。
【図3】クモ糸領域由来の合成ペプチドによる炭酸カルシウム結晶形成実験のテストサンプルの電子顕微鏡写真である。
【図4】ダニセメント領域由来の合成ペプチドによる炭酸カルシウム結晶形成実験のコントロールサンプルの電子顕微鏡写真である。
【図5】ダニセメント領域由来の合成ペプチドによる炭酸カルシウム結晶形成実験のテストサンプルの電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly−Leu−Ser−Gly−Serで表される配列を含み、20以下のアミノ酸からなる合成ペプチド。
【請求項2】
配列表の配列番号5に表されるアミノ酸配列からなる合成ペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合成ペプチドを、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液に混合することを特徴とする炭酸カルシウムの結晶化方法。
【請求項4】
請求項3記載の炭酸カルシウムの結晶化方法であって、
合成ペプチドの濃度が、100μM以上に設定されていることを特徴とする炭酸カルシウムの結晶化方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の合成ペプチドを、炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液と混合して、炭酸カルシウム結晶を生成させる工程、を含む炭酸カルシウム粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の合成ペプチドと、
Gly−Proで表されるアミノ酸配列を含み、Glyと、Proと、Tyrと、Asp又はGluと、で構成されている合成ペプチドと、
炭酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液と、
を混合することを特徴とする炭酸カルシウムの結晶化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−126811(P2009−126811A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302567(P2007−302567)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】