説明

合成ポリマーを生分解性化する方法

1種または複数種の酵母を合成材料に添加する結果として、合成ポリマー材料を生分解性化するための方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ポリマー材料を生分解性化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は、その極めて高い多用途性、低コスト性および機械的特性により、著しく普及し、我々の生活の実質的に全ての分野に広がっていることは周知である。また、プラスチック材料を産業において特に魅力的なものとしているその耐薬品性および耐熱性がまさに、その分解に極めて長い時間を要することから、その処分を困難なものとし、プラスチック材料廃棄物によるソイリング(soiling)という実際の問題も生じていることが知られている。
【0003】
ますます深刻化しているこの問題を解決しようと、様々な試みがなされている。
【0004】
まず、海への放出または雨への暴露によりそれらが消失するように、水溶性プラスチック材料の創出に向けた試みがなされている。しかしながら、そのような材料は、まさにその溶解性により、いくつかの用途において使用可能でないことに加え、土壌汚染の問題を解決したものの、水流の汚染、および全般的な水資源の汚染をもたらした。
【0005】
次の段階では、光に暴露されるとそのモノマー成分に分解する傾向を有する、光分解性プラスチック材料の獲得に向けた試みがなされている。しかしながら、モノマーは多くの場合毒性物質であり、いずれの場合も土壌および地下水面へのその拡散が制御できないことから、この解決策もまた、より大規模な汚染をもたらすことが多かった。
【0006】
その後に、例えばNovamont社によるいわゆるMaterBi等のデンプン系プラスチック材料が製造されている。しかしながら、原材料として食用作物を使用する(したがって、食用作物がその主要および不可欠な用途から差し引かれる)という問題をもたらすことに加え、デンプン系プラスチック材料は剛性であり、そのためその主要な用途には不適当であった。
【0007】
本出願人により提案されている(PCT/IT2005/000166、イタリア特許出願第AN2008A000024号)好適な天然可塑剤の使用は、どうにか剛性の問題を解決し、最も多様な用途における使用を可能とするのに十分にこれらの材料を弾性化した。しかしながら、未解決の原材料供給という深刻な問題が残されている。さらに、そのようなプラスチック材料は、一般の合成ポリマー材料よりも著しく高価である。
【0008】
次の試みにおいて、本出願人は、イタリア特許出願第AN2008A000013号において、大多数の合成プラスチック材料をタンパク質により機能化することにより、生分解性化することを提案した。しかしながら、このようにして得られた結果は、得られた生成物が十分に生分解性でないことが明らかとなったことから、完全に満足のいくものではない。
【0009】
国際公開第2007129861号は、発泡材料により生成される揮発性有機化合物の生成を低減することを目指した、酵母を含む発泡ポリウレタンを記載している。得られた材料の生分解特性については、全く触れられていない。
【0010】
米国特許第4605622号は、印刷された粒状物に微生物、中でも特に酵母を固定するための方法を記載している。しかしながら、粒状物は、微生物を触媒として使用するための担体として作用し、廃棄物処理の問題に対処するものではない。
【0011】
欧州特許第0052829号において、同様の問題が対処および解決されているが、これも廃棄物処理に対処するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】PCT/IT2005/000166
【特許文献2】イタリア特許出願第AN2008A000024号
【特許文献3】イタリア特許出願第AN2008A000013号
【特許文献4】国際公開第2007129861号
【特許文献5】米国特許第4605622号
【特許文献6】欧州特許第0052829号
【非特許文献1】UNI EN13432:2000(第A.2.2.2項)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の根底にある問題は、合成ポリマー材料を生分解性化することができる方法を提案することであり、この方法は直接食品原材料を使用する必要がなく、これは、低い製造コストおよび高い性能を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、1種または複数種の酵母を合成材料に添加するステップを含むことを特徴とする、合成ポリマー材料を生分解性化するための方法により達成される。
【0015】
本発明はまた、そのようなポリマー材料を製造するための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による方法は、プラスチック材料への酵母の混合を行う。そのような添加は、材料の機械的特性および耐熱性に影響しない。好ましくは、そのような酵母の添加は、可塑剤の添加前に実行される。いくつかの場合において、そのような添加は、重合反応の前に、そのモノマーの1種または複数種に対して行われる。そのような混合は、通常の重合条件に影響しない。
【0017】
本発明には、全ての酵母菌株を使用できる。特に、酵母菌株クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)およびサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(ビール酵母)を用いて、良好な結果が得られている。
【0018】
本発明を適用することができるプラスチック材料は、ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタン、PVC、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマー(EVA)、ナイロン、レーヨン等の、官能基を有する全てのプラスチック材料である。さらに、本発明は、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の、官能基を有さない材料にも適用することができる。
【0019】
例えば、ポリウレタンの場合、添加は、ポリオール中での重合前であっても行われ、一方、PVCおよび一般に押出ポリマーの場合、既に重合させた原料生成物に、好ましくは乾式粉砕により押出前に添加される。
【0020】
酵母は、好ましくは生きた状態で、モノマーの全重量の0.3から30%の間の範囲、好ましくはモノマーの全重量の2から7%の間の範囲、さらにより好ましくはモノマーの全重量の5%の量で添加されるべきである。
【0021】
このようにして得られるポリマー材料は、高い生分解特性を示す。理論に束縛されることは望まないが、酵母は、最終ポリマーを構造的に変化させ、土壌中および/または他の廃棄物の中央に含まれる細菌により攻撃し得るようにし、そのため生物分解が短時間で非常に速い速度で起こると考えられる。酵母は生きている生物であるが、それ自体は人間の栄養に必須ではなく、したがってその使用は食料資源不足の問題をもたらさない。使用可能な酵母は毒性を有さず、また病気を媒介することもないため、本発明によるプラスチック材料は、食品および/または製薬分野においても使用することができる。さらに、本発明による材料は、随意に可塑化することができ、所望の剛性を有する最終生成物をもたらすことができるため、他のいくつかの目的に使用することができる。
【0022】
酵母、特にサッカロマイセス・セレビシエおよびクリベロマイセス・フラギリスの菌株の酵母は、容易に入手可能であり、安価であり、取扱いが非常に容易であり、健康および/または環境上の害をもたらさない。得られるプラスチック材料は、合成プラスチック材料に関しては一般的である低コストで製造することができ、したがって、同じ生分解性を有するにもかかわらず、例えばトウモロコシデンプンから得られるものより安価である。
【0023】
本発明はまた、特定のプラスチック材料に特有の標準的な処理段階を含み、さらに、重合前の1種または複数種の酵母のモノマーへの添加を含む、生分解性ポリマー材料の製造方法にも及ぶ。
【0024】
本発明はまた、1種または複数種の酵母を含む重合キットに関する。前記キットは、有利には、濃度を記載した取扱説明書を含む。さらにより有利には、前記キットは、パッケージ上に記載された一定量のプラスチック材料を生分解性化するために投入される一定量の酵母を含む。
【0025】
しかしながら、本発明は、本発明の単なる例示的実施形態を構成する上記の特定の構成に限定されるものとみなしてはならず、以下の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲から逸脱せずに、いくつかの変形形態が可能であり、その全ては当業者が知り得る範囲内であることが理解される。
【実施例】
【0026】
ポリウレタンの製造のために、同等量(50モル%−50モル%)のポリオールおよびイソシアネートを調製した。ポリオールに、その全重量の5%のサッカロマイセス・セレビシエを添加した。次いで、2つの成分を混合し、通常の反応条件下で反応および重合させた。ポリウレタンが得られ、これをシート状に成形した。シートを粉砕し、技術規格により規定される条件に供した。54日後、ポリウレタンは、堆肥化において生分解性であり、規格UNI EN13432:2000(第A.2.2.2項)により要求される90%を超える平均生分解性値に達することが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種の酵母を合成材料に添加することを含むことを特徴とする、合成ポリマー材料を生分解性化するための方法。
【請求項2】
前記1種または複数種の酵母を、合成材料への可塑剤の添加前に添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵母を、重合反応前にモノマーの1種または複数種に添加することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成ポリマー材料が、ポリウレタン、PVC、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマー(EVA)、ナイロン、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー材料がポリウレタンであること、および、酵母を、重合前にポリオールに添加することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酵母が、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromices fragilis)および/またはサッカロマイセス・セレビシエであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
投入量の1種または複数種の酵母を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項8】
合成ポリマー材料を生分解性化するための酵母の使用。
【請求項9】
前記酵母が、クリベロマイセス・フラギリスおよび/またはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomices cerevisiae)であることを特徴とする、請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2013−518141(P2013−518141A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549460(P2012−549460)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050310
【国際公開番号】WO2011/089582
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512191993)クイーンズブルック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】