説明

合成樹脂製タンクの冷却装置及び合成樹脂製タンクの冷却方法

【課題】設備にかかるコストを低減するとともに、短時間で効率よくタンクを冷却する。
【解決手段】熱可塑性合成樹脂材により中空に形成されたタンクTを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置1であって、熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクTに外接する形状保持部材25,26を備えた治具2と、治具2に装着され、タンクTの外面に当該タンクTの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付ける吹付手段3と、治具2に装着され、タンクTの内面に当該タンクTの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段4と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や船舶の燃料タンクとして用いられる熱可塑性合成樹脂材によって中空に形成されたタンクを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置及び合成樹脂製タンクの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性合成樹脂材のブロー成型などによって中空に形成されたタンクが、自動車や船舶の燃料タンクとして用いられることが一般化している。このブロー成型法は、押出機から押し出された溶融樹脂材料を金型ならびに型締め機によって挟み込み、圧縮空気を吹き込んで溶融樹脂材料を膨らませて金型内面に転写し、さらに冷却するというものである。従来は、金型から取り出したタンク(成型品)が外力を加えても変形しないように、タンクが十分に硬化するまで金型内で冷却していた。そのため、金型のサイクルタイムが長くなりがちであり、金型の回転率を高めて生産性を上げることは困難であった。このような不都合を回避し、金型の回転率を高めるための手法として、型開き以前にパリソン内へ冷媒を注入し、成型品の金型内での冷却時間の短縮を企図した技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、この技術によると、金型構造の複雑化を招き、設備費用が増大しがちである上、冷媒として液体を用いた場合は、成型品内に付着した冷媒を除去することが厄介である。金型から取り出した後に二次加工が可能な程度にまでさらにタンクを冷却するための手法として、タンクを水槽に水没させて冷却する手法や、タンク内に冷却するを注入する手法も知られているが、前者は浮力や水圧でタンクに歪みが生ずることが懸念される上、水流を起こしたり、製品を揺らしたりして常に新鮮な冷却水をタンクに接触させないと思ったほどに冷却効率が高まらないという欠点がある。また、後者の手法は、冷却時間の短縮化には優れているものの、排水に長時間を要するという欠点があり、トータル的に見るとさほど生産性を高める上で有利にはならない。
このような問題を解決する手段として、タンク内部に冷却気を吹き込みつつ、タンク外側に冷却水をシャワー状に吹きかける方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−328551号公報
【特許文献2】特開2004−202728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献2のような方法によると、冷却のために大量の液体(水)が必要であり、回収した液体を冷却する設備(熱交換器・クーリングタワーなど)が必要である。また、この設備は冷却液が設備外へ流出・漏出したり、飛び散ったりすることを防ぐために、設備全体をオイルパンやカバーなどで囲む必要があり、また、冷却液による発錆によって設備の劣化が進むことを防ぐため、設備自体をステンレス素材で製造するなど防錆仕様とする必要がある。また、タンクの外側に付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が必要である。また、タンクの内部に冷却気を流通させるべく、当該タンクに設けられた開口からタンク内に連通可能な給排気管の、前記開口の周囲に当接する部分に、タンク内へ冷却液が侵入することを防ぐためのシール手段を設ける必要がある。よって、タンクを短時間で効率よく冷却するために必要な設備が増大し、設備にかかるコストが高騰するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、設備にかかるコストを低減するとともに、短時間で効率よくタンクを冷却することができる合成樹脂製タンクの冷却装置及び合成樹脂製タンクの冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、熱可塑性合成樹脂材により中空に形成されたタンクを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置であって、前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクに外接する形状保持部材を備えた治具と、タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付ける吹付手段と、タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
ここで、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能とは、熱可塑性合成樹脂材が融点に近い温度のため軟らかくなっているもののその温度によりタンクの形状が崩れることなく一定の状態で維持することが可能な状態をいう。
また、高湿度の冷却空気とは、その冷却空気に含まれる水分がタンクの外面に接触した際に気化熱によりタンクの熱を奪ってタンクが所定時間内に所望する状態まで冷却されるのに必要な湿度をいう。従って、タンクの大きさ、凹凸の数により変動する表面積、タンクの肉厚、熱可塑性合成樹脂材の材料特性(融点等)によって、吹付手段から吹き付けられる冷却空気に求められる湿度は異なることとなる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、熱可塑性合成樹脂材により中空に形成されたタンクを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置であって、前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクに外接する形状保持部材を備えた治具と、タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する霧状の水を含む冷却空気を吹き付ける吹付手段と、タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能とは、熱可塑性合成樹脂材が融点に近い温度のため軟らかくなっているもののその温度によりタンクの形状が崩れることなく一定の状態で維持することが可能な状態をいう。
また、霧状の水を含む冷却空気には、その冷却空気に含まれる霧状の水分がタンクの外面に接触した際に気化熱によりタンクの熱を奪ってタンクが所定時間内に所望する状態まで冷却されるのに必要な量の水が含まれている。従って、タンクの大きさ、凹凸の数により変動する表面積、タンクの肉厚、熱可塑性合成樹脂材の材料特性(融点等)によって、吹付手段から吹き付けられる冷却空気に求められる湿度は異なることとなる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置において、前記送気手段により前記タンクの内面に送気される冷却空気として、ボルテックスクーラーにより冷却された空気を使用することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置を用いた合成樹脂製タンクの冷却方法であって、前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で前記タンクを成型金型から取り出す取出工程と、前記形状保持部材に前記タンクの外面を当接させて当該タンクを前記治具に装着する装着工程と、前記吹付手段により前記タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付けると同時に、前記送気手段により前記タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気して前記タンクを冷却する冷却工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
ここで、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能とは、熱可塑性合成樹脂材が融点に近い温度のため軟らかくなっているもののその温度によりタンクの形状が崩れることなく一定の状態で維持することが可能な状態をいう。
また、高湿度の冷却空気とは、その冷却空気に含まれる水分がタンクの外面に接触した際に気化熱によりタンクの熱を奪ってタンクが所定時間内に所望する状態まで冷却されるのに必要な湿度をいう。従って、タンクの大きさ、凹凸の数により変動する表面積、タンクの肉厚、熱可塑性合成樹脂材の材料特性(融点等)によって、吹付手段から吹き付けられる冷却空気に求められる湿度は異なることとなる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置を用いた合成樹脂製タンクの冷却方法であって、前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で前記タンクを成型金型から取り出す取出工程と、前記形状保持部材に前記タンクの外面を当接させて当該タンクを前記治具に装着する装着工程と、前記吹付手段により前記タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する霧状の水を含む冷却空気を吹き付けると同時に、前記送気手段により前記タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気して前記タンクを冷却する冷却工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
ここで、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能とは、熱可塑性合成樹脂材が融点に近い温度のため軟らかくなっているもののその温度によりタンクの形状が崩れることなく一定の状態で維持することが可能な状態をいう。
また、霧状の水を含む冷却空気には、その冷却空気に含まれる霧状の水分がタンクの外面に接触した際に気化熱によりタンクの熱を奪ってタンクが所定時間内に所望する状態まで冷却されるのに必要な量の水が含まれている。従って、タンクの大きさ、凹凸の数により変動する表面積、タンクの肉厚、熱可塑性合成樹脂材の材料特性(融点等)によって、吹付手段から吹き付けられる冷却空気に求められる湿度は異なることとなる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、治具に備えられた形状保持部材によりタンクが保持された状態で、吹付手段によりタンクの外面から高湿度の冷却空気を吹き付けることで、タンクの外面に付着した水分が空気の流動により気化し、その際の気化熱によりタンクの熱を奪い、タンクの外面は冷却され、送気手段によりタンクの内面に冷却空気を送気することによりタンクの内面は冷却される。
これにより、タンクは外面からも内面からも気体である空気により冷却されるので、従来のようにタンクの外側に吹きかけた冷却液を回収する設備が不要となり、設備を簡素化できる。また、冷却液が設備外へ流出・漏出したり、飛び散ったりすることを防ぐために、吹付手段や送気手段等の設備全体をオイルパンやカバー等で囲む必要がなく、設備を簡素化できる。
【0016】
また、冷却液によって設備が錆びることを防ぐため、設備をステンレス素材で製造するなど防錆仕様とする必要がなく、設備を簡素化でき、設備の材料コストを低減できる。
また、タンクの外側に付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクの内部に冷却気を流通させるべく、当該タンクに設けられた開口からタンク内に連通可能な給排気管の、前記開口の周囲に当接する部分に、タンク内へ冷却液が侵入することを防ぐためのシール手段を設ける必要がないため、設備を簡素化できる。
また、回収した冷却液を冷却する設備(クーリングタワーなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、治具に備えられた形状保持部材によりタンクが保持された状態で、吹付手段によりタンクの外面から霧状の水を含む冷却空気を吹き付けることで、タンクの外面に付着した水分が空気の流動により気化し、その際の気化熱によりタンクの熱を奪い、タンクの外面は冷却され、送気手段によりタンクの内面に冷却空気を送気することによりタンクの内面は冷却される。
これにより、タンクは外面からも内面からも気体である空気により冷却されるので、従来のようにタンクの外側に吹きかけた冷却液を回収する設備が不要となり、設備を簡素化できる。また、冷却液が設備外へ流出・漏出したり、飛び散ったりすることを防ぐために、吹付手段や送気手段等の設備全体をオイルパンやカバー等で囲む必要がなく、設備を簡素化できる。
【0018】
また、冷却液によって設備が錆びることを防ぐため、設備をステンレス素材で製造するなど防錆仕様とする必要がなく、設備を簡素化でき、設備の材料コストを低減できる。
また、タンクの外側に付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクの内部に冷却気を流通させるべく、当該タンクに設けられた開口からタンク内に連通可能な給排気管の、前記開口の周囲に当接する部分に、タンク内へ冷却液が侵入することを防ぐためのシール手段を設ける必要がないため、設備を簡素化できる。
また、回収した冷却液を冷却する設備(クーリングタワーなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、冷却液を吹き付ける場合に比べて使用する水の量が少なくて済むので、冷却後の処理や設備のメンテナンス等を簡素化できる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、送気手段により送気される冷却空気をボルテックスクーラーにより生成することで、フロン又は代替フロン等を使用しないので、環境に優しい冷却装置を構成できる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、取出工程において、熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度でタンクを成型金型から取り出す。次いで、装着工程において、形状保持部材にタンクの外面を当接させて当該タンクを治具に装着する。そして、冷却工程において、吹付手段によりタンクの外面に当該タンクの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付けると同時に、送気手段によりタンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気してタンクを冷却する。
【0021】
これにより、タンクは外面と内面から同時に冷却された気体である空気によって冷却されるので、タンクに冷却液等を付着させることなく冷却することができる。よって、冷却後のタンクに付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクを外面と内面から同時に冷却することにより、タンクの外部と内部の気温差によってタンクが膨張したり収縮して寸法誤差の拡大による品質の低下を防止できる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、取出工程において、熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度でタンクを成型金型から取り出す。次いで、装着工程において、形状保持部材にタンクの外面を当接させて当該タンクを治具に装着する。そして、冷却工程において、吹付手段によりタンクの外面に当該タンクの外面を冷却する霧状の水を含む冷却空気を吹き付けると同時に、送気手段によりタンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気してタンクを冷却する。
【0023】
これにより、タンクは外面と内面から同時に冷却された気体である空気によって冷却されるので、タンクに冷却液等を付着させることなく冷却することができる。よって、冷却後のタンクに付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクを外面と内面から同時に冷却することにより、タンクの外部と内部の気温差によってタンクが膨張したり収縮して寸法誤差の拡大による品質の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、合成樹脂製タンクの冷却装置及び合成樹脂製タンクの冷却の冷却方法の最良の形態について詳細に説明する。
<合成樹脂製タンクの冷却装置の構成>
図1は、合成樹脂製タンクの冷却装置1(以下、冷却装置1という)の概略構成を示す図である。冷却装置1は、冷却時に熱可塑性合成樹脂製タンクT(以下、タンクTという)を保持する治具2と、この治具2に装着され、タンクTの外面に当該タンクTの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付ける吹付手段としての冷気吹付装置3と、治具2に装着され、タンクTの内面に当該タンクTの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段としての冷気送気装置4と、を備えている。
【0025】
(治具)
治具2は、作業場の床上に設けられた土台Fに載置される下部治具フレーム21と、この下部治具フレーム21の上方に当該下部治具フレーム21に対して一端が回動自在に連結された上部治具フレーム22と、を備えている。
下部治具フレーム21は、底部21aと、この底部21aに立設された壁部21bと、を備えている。壁部21bの上端の一部には、上部治具フレーム22が回動自在に設けられている。壁部21bの外面のうち、上部治具フレーム22の回動支点22pに対向する位置には、上部治具フレーム21で下部治具フレーム21の内部に蓋をしたときの上部治具フレーム22と下部治具フレーム21に連結させて上部治具フレーム22の回動を防止するクランプ機構23が設けられている。
【0026】
クランプ機構23は、シリンダ装置24を備えており、このシリンダ装置24は、ピストンロッド24aが上下方向に沿って進退自在となるように設けられている。ピストンロッド24aの先端には、下部治具フレーム21の壁部21bに設けられた支持部材24bによって端部が上下方向に回動自在とされた連結部材24cの一端に連結されている。連結部材24cの中央近傍は支持部材24bに回動自在に連結され、連結部材24cの他端は、ピストンロッド24aが上方に進出した際に、下方に移動して上部治具フレーム22の一部を上方から押さえつけるとともに、ピストンロッド24aが下方に後退した際に、上方に移動して上部治具フレーム22の押さえつけを解放し、上部治具フレーム22の回動を許容することができるように構成されている。
【0027】
下部治具フレーム21の底部21aには、タンクTを形成する熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクTに外接する複数の形状保持部材25が設けられている。形状保持部材25は、タンクTの外縁が湾曲する箇所や他の部品の取り付け場所のように、タンクTの比較的高い精度が要求される場所を保持するように設けられている。ここで、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能とは、熱可塑性合成樹脂材が融点に近い温度のため軟らかくなっているもののその温度によりタンクTの形状が崩れることなく一定の状態で維持することが可能な状態をいう。
形状保持部材25は、底部21aに対して直角に立設され、その上端は、成型されるタンクTに密着できるようにタンクTの形状に合わせた形状となるように形成されている。
【0028】
上部治具フレーム22は、閉じた際に下部治具フレーム21に対向し、下部治具フレーム21の内部空間を上方から覆う天井部22aと、この天井部22aに下方に向けて立設された壁部22bと、を備えている。壁部22bの下端の一部には、下部治具フレーム21が回動自在に設けられている。壁部22bの外面のうち、上部治具フレーム22の回動支点22pに対向する位置には、クランプ機構3により押さえつけられる外部に向けて突出形成された突部22cが形成されている。
【0029】
上部治具フレーム22の天井部22aには、タンクTを形成する熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクTに外接する複数の形状保持部材26が設けられている。
形状保持部材26は、天井部22aに対して下方、すなわち、下部治具フレーム21の底部21aに向かうように直角に立設され、その下端は、成型されるタンクTに密着できるようにタンクTの形状に合わせた形状となるように形成されている。形状保持部材26のうち、一部の形状保持部材26は、その上下方向、すなわち、下方の下部治具フレーム21の底部21aに向かって伸縮自在に構成され、成型されたタンクTを変形させることができるようになっている。
【0030】
(冷気吹付装置)
冷気吹付装置3は、霧状の水を含む空気を生成するミスト生成装置31と、このミスト生成装置31にて生成された霧状の水を含む空気をタンクTの外面に吹き付ける複数のエアーブローノズル32と、を備えている。
ミスト生成装置31は、下部治具フレーム21の壁部21bの外部側に設けられ、外部のコンプレッサーから供給される圧縮空気と水源から供給される水を混合させて微細な霧状の水を含む冷却空気を生成する。ここで、ミスト生成装置31で生成される冷却空気には、霧状の水を十分に含ませ、通常の空気に対して高湿度の空気となっている。具体的に、高湿度の冷却空気とは、その冷却空気に含まれる水分がタンクTの外面に接触した際に気化熱によりタンクTの熱を奪ってタンクが所定時間内に所望する状態まで冷却されるのに必要な湿度をいう。従って、タンクTの大きさ、凹凸の数により変動する表面積、タンクTの肉厚、熱可塑性合成樹脂材の材料特性(融点等)によって、生成される冷却空気に求められる湿度は変化することとなるが、周囲環境の空気に対して湿度を高くする必要があるのは当然である。例えば、比熱0.39、質量8kgの合成樹脂から成型されたタンクTを60℃冷却(100℃から40℃まで冷却)するときに放出される熱量は、水348gの気化熱に相当するため、吹き付けられる冷気に同量程度の水をミスト状にして含ませておくことが必要である。
【0031】
エアーブローノズル32は、下部治具フレーム21の底部21aに立設され、タンクTの存在する上方に向けてミスト生成装置31で生成された冷却空気をタンクTに吹き付けることができるように構成されている。
また、エアーブローノズル32は、下部治具フレーム21の壁部21bにも立設され、タンクTの存在する側方に向けてミスト生成装置31で生成された冷却空気を吹き付けることができるように構成されている。
また、エアーブローノズル32は、上部治具フレーム22の天井部22aにも立設され、タンクTの存在する下方に向けてミスト生成装置31で生成された冷却空気を吹き付けることができるように構成されている。
【0032】
従って、エアーブローノズル32は、タンクTの周囲から冷却空気を吹き付けるように配置されており、タンクTのほぼ全方位から冷却空気を吹き付けることでタンクTの外面を均等に冷却できるようになっている。
各エアーブローノズル32は、それぞれエアー配管33によりミスト生成装置31に連結され、ミスト生成装置31にて生成された高湿度の冷却空気はエアー配管33を介して各エアーブローノズル32に送られる。なお、エアー配管33は、下部治具フレーム21及び上部治具フレーム22内に埋設してもよいし、下部治具フレーム21及び上部治具フレーム22の内面に沿わせるように設けてもよい。
【0033】
(冷気送気装置)
冷気送気装置4は、上部治具フレーム22に設けられ、外部のコンプレッサーから供給された圧縮空気を熱気と冷気に分離させるボルテックスクーラー41と、このボルテックスクーラー41により分離された冷気をタンクT内に送気する送気ノズル42と、を備えている。
ボルテックスクーラー41は、筒状に形成されたゼネレータ41aにより、そのゼネレータ41aの内部で供給された圧縮空気を渦状に高速回転させることにより、二つに分岐された排出口のうち、一方の熱気排出口43から周囲環境の気温よりも高温の熱気を排出し、他方の冷気排出口44から周囲環境の気温よりも低温の冷気を排出するように構成されている。
【0034】
送気ノズル42は、冷気排出口44に連結されるとともに上部治具フレーム22に取り付けられた送気管45の先端に設けられており、上部治具フレーム22をクランプ機構23により下部治具フレーム21に連結した際に、タンクT内に挿入される。
【0035】
<タンクのブロー成型処理及び冷却処理>
次に、熱可塑性合成樹脂材により成型されるタンクTのブロー成型処理及び冷却装置1によるタンクTの冷却処理について説明する。
熱可塑性合成樹脂材からタンクTを成型する際には、図2(a)に示すように、押し出し機100により、熱が加えられて可塑化した樹脂を押し出し機100の吐出口となるダイ101で円筒状のパリソンPとして押し出す。
次いで、図2(b)に示すように、パリソンPを一対の合わせ金型102,102で挟み、パリソンPの上下を閉じてから、空気を吹き込む吹き込みノズル103を通じてパリソンP内に空気を吹き込み、パリソンPを膨らませて金型102,102の内面に押しつける。内部に空気が吹き込まれたパリソンPは、金型102,102に押しつけられ、金型102,102の内面形状に従ったタンクTが形成される。
【0036】
図2(c)に示すように、金型102,102により成型されたタンクTは、当該タンクTを形成する熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度であるときに金型102,102から取り出される(取出工程)。
金型102,102から取り出されたタンクTは、図3(a)に示すように、冷却装置1内に収容される。タンクTを冷却装置1内に収容する際には、クランプ機構3を解除して上部治具フレーム21を回動させ、上部治具フレーム22と下部治具フレーム21との間からタンクTを収容する。収容させるタンクTは、予めタンクTの形状に合わせて形成された形状保持部材25に装着される(装着工程)。
タンクTを形状保持部材25に保持させた後は、図3(b)に示すように、上部治具フレーム22を回動させて、再度クランプ機構3により下部治具フレーム21と連結する。すると、上部治具フレーム22に設けられた形状保持部材26がタンクTの外面に当接してタンクTを保持するとともに、タンクTを成型することができる。また、一部の形状保持部材26を、その上下方向、すなわち、下方の下部治具フレーム21の底部21aに向かって伸ばすことにより、成型されたタンクTを変形させることができる。
【0037】
そして、形状保持部材26によりタンクTの成型を行った後は、冷気吹付装置3のミスト生成装置31にて生成された霧状の水を含む空気を各エアーブローノズル32からタンクTの外面に吹き付ける(冷却工程)。また、同時に、冷気送気装置4のボルテックスクーラー41により分離された冷気を送気ノズル42からタンクT内に送気する(冷却工程)。送気ノズル42から送気された冷気はタンクTに予め形成された換気口hやその他の複数の孔からタンクTの外に排出され、タンクT内外の温度が均一になるように調整され、タンクTの片面のみの膨張や収縮を防止することができる。
冷気吹付装置3及び冷気送気装置4によるタンクTの冷却により、タンクTは、当該タンクTを形成する熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度から低下して固化した状態となる。
タンクTが固化した後は、図3(c)に示すように、クランプ機構3を解除して上部治具フレーム22を回動させ、形状保持部材25に保持された冷却後のタンクTを取り出す。
【0038】
<作用効果>
実施形態における合成樹脂製タンクTの冷却装置1によれば、治具2に備えられた形状保持部材25によりタンクTが保持された状態で、冷気吹付装置3によりタンクTの外面から霧状の水を含んだ高湿度の冷却空気を吹き付けることで、タンクTの外面に付着した水分が空気の流動により気化し、その際の気化熱によりタンクTの熱を奪い、タンクTの外面は冷却され、冷気送気装置4によりタンクTの内面に冷却空気を送気することによりタンクTの内面は冷却される。
【0039】
これにより、タンクTは外面からも内面からも気体である空気により冷却されるので、従来のようにタンクTの外側に吹きかけた冷却液を回収する設備が不要となり、設備を簡素化できる。また、冷却液が設備外へ流出・漏出したり、飛び散ったりすることを防ぐために、冷気吹付装置3や冷気送気装置4等の設備全体をオイルパンやカバー等で囲む必要がなく、設備を簡素化できる。
【0040】
また、冷却液によって設備が錆びることを防ぐため、設備をステンレス素材で製造するなど防錆仕様とする必要がなく、設備を簡素化でき、設備の材料コストを低減できる。
また、タンクTの外側に付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクTの内部に冷却気を流通させるべく、当該タンクTに設けられた開口からタンクT内に連通可能な送気ノズル42の、開口の周囲に当接する部分に、タンクT内へ冷却液が侵入することを防ぐためのシール手段を設ける必要がないため、設備を簡素化できる。
また、回収した冷却液を冷却する設備(クーリングタワーなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
【0041】
また、冷気送気装置4により送気される冷却空気をボルテックスクーラー41により生成することで、フロン又は代替フロン等を使用しないので、環境に優しい冷却装置1を構成できる。
【0042】
また、合成樹脂製タンクTの冷却方法によれば、取出工程において、熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度でタンクTを成型金型から取り出す。次いで、装着工程において、形状保持部材25,26にタンクTの外面を当接させて当該タンクTを治具2に装着する。そして、冷却工程において、冷気吹付装置3によりタンクTの外面に当該タンクTの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付けると同時に、冷気送気装置4によりタンクTの内面に当該タンクTの内面を冷却する冷却空気を送気してタンクTを冷却する。
【0043】
これにより、タンクTは外面と内面から同時に冷却された気体である空気によって冷却されるので、タンクTに冷却液等を付着させることなく冷却することができる。よって、冷却後のタンクTに付着した冷却液を取り除く設備(拭き取り装置や、水切り用噴射ノズルなど)が不要となり、設備を簡素化できる。
また、タンクTを外面と内面から同時に冷却することにより、タンクTの外部と内部の気温差によってタンクTが膨張したり収縮して寸法誤差の拡大による品質の低下を防止できる。
また、タンクTの内部に冷気を送気することにより、タンクT内の内圧がわずかに上昇するので、タンクTは外側に押し広げられ、形状保持部材25,26に押し当てた状態が維持される。
なお、上記実施形態において、冷気吹付装置3及び冷気送気装置4は治具2に装着されているが、必ずしも治具2に装着する必要はなく、その他の支持手段により安定した状態で冷気の吹き付け及び送気を行うことができるように支持されていれば、その取り付け方法は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】冷却装置の概要を示す図。
【図2】(a)はパリソンの押し出し工程を示す図、(b)はパリソン内に空気を注入してタンクを成型する工程を示す図、(c)は成型されたタンクの金型からの取り出す工程を示す図。
【図3】(a)はタンクの冷却装置への装着工程を示す図、(b)はタンクの冷却工程を示す図、(c)は冷却後のタンクの冷却装置からの取り出し工程を示す図。
【符号の説明】
【0045】
1 合成樹脂製タンクの冷却装置
2 治具
3 冷気吹付装置(吹付手段)
4 冷気送気装置(送気手段)
25 形状保持部材
26 形状保持部材
41 ボルテックスクーラー
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性合成樹脂材により中空に形成されたタンクを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置であって、
前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクに外接する形状保持部材を備えた治具と、
タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付ける吹付手段と、
タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段と、
を有することを特徴とする合成樹脂製タンクの冷却装置。
【請求項2】
熱可塑性合成樹脂材により中空に形成されたタンクを冷却する合成樹脂製タンクの冷却装置であって、
前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で成型金型から取り出したタンクに外接する形状保持部材を備えた治具と、
タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する霧状の水を含む冷却空気を吹き付ける吹付手段と、
タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気する送気手段と、
を有することを特徴とする合成樹脂製タンクの冷却装置。
【請求項3】
前記送気手段により前記タンクの内面に送気される冷却空気として、ボルテックスクーラーにより冷却された空気を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置。
【請求項4】
請求項1に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置を用いた合成樹脂製タンクの冷却方法であって、
前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で前記タンクを成型金型から取り出す取出工程と、
前記形状保持部材に前記タンクの外面を当接させて当該タンクを前記治具に装着する装着工程と、
前記吹付手段により前記タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する高湿度の冷却空気を吹き付けると同時に、前記送気手段により前記タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気して前記タンクを冷却する冷却工程と、
を有することを特徴とする合成樹脂製タンクの冷却方法。
【請求項5】
請求項2に記載の合成樹脂製タンクの冷却装置を用いた合成樹脂製タンクの冷却方法であって、
前記熱可塑性合成樹脂材の融点よりやや低く、当該熱可塑性合成樹脂材が自己保形可能な温度で前記タンクを成型金型から取り出す取出工程と、
前記形状保持部材に前記タンクの外面を当接させて当該タンクを前記治具に装着する装着工程と、
前記吹付手段により前記タンクの外面に当該タンクの外面を冷却する霧状の水を含む冷却空気を吹き付けると同時に、前記送気手段により前記タンクの内面に当該タンクの内面を冷却する冷却空気を送気して前記タンクを冷却する冷却工程と、
を有することを特徴とする合成樹脂製タンクの冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−261164(P2007−261164A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91045(P2006−91045)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(394026150)日研プラント株式会社 (2)
【Fターム(参考)】