説明

合成樹脂製プーリ

【課題】軽量化と、オフセット荷重に対する応力集中回避可能な合成樹脂製プーリの提供。
【解決手段】外径側円筒部4、内径側円筒部6、これらを軸方向に対して所定の肉厚Tで連結する連結部8、連結部の周面部8sに放射状に、周方向に対して所定の肉厚で軸方向へ突設され、外径側が外径側円筒部、内径側が内径側円筒部と結合する複数のリブ10を備えたプーリ2において、リブは、軸方向への突設端面10sが外径側円筒部の内周面と連続する部分、内径側円筒部の外周面と連続する部分を、いずれも軸方向へ凹ませて内周面及び外周面と結合させる外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を有し、外径側突設端面円弧部は外径端から内径側へ向かうに従って、内径側突設端面円弧部は内径端から外径側へ向かうに従っていずれも連結部の周面部からの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト伝動機構、例えば、自動車において、エアコンディショナ用コンプレッサ等の補機を無端ベルトにより駆動する機構や、クランクシャフトの端部に固定したクランクプーリとカムシャフトの端部に固定したカムプーリとの間でタイミングベルトにより回転力を伝達する機構などに組み込んで使用される合成樹脂製のガイドプーリやテンションプーリ等の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト伝動機構に組み込まれて使用されるガイドプーリやテンションプーリなどのプーリとして、軽量化やコストの低減化を図るべく、従来から合成樹脂製のプーリが使用されている(特許文献1参照)。
図4には、このような合成樹脂製プーリを組み込んだプーリ装置の一構成例を示している。かかるプーリ装置は、外周面にベルトを架け渡すための合成樹脂製のプーリ50と、当該プーリ50を支持軸(図示しない)などに回転自在に支持するための軸受(一例として、単列深溝型のラジアル玉軸受)70から構成される。軸受70は、外周面に単列の内輪軌道72rを有する内輪72と、内周面に前記内輪軌道72rと対向する外輪軌道74rを有する外輪74と、これら内輪軌道72rと外輪軌道74rとの間に転動自在に配された複数の転動体(一例として、玉)76を備えている。そして、かかる軸受70の外輪74の外周部に対し、プーリ50が固設されている。
【0003】
プーリ50は、互いに同心をなすように配された2つの円筒部(外径側円筒部52及び内径側円筒部54)と、これらの円筒部52,54を相互に連結する円環状の連結部56を備えている。連結部56は、外径側円筒部52の内周面の軸方向(図4においては、左右方向)の中間部位と、内径側円筒部54の外周面の軸方向の中間部位との間の円周域を、所定の肉厚(軸方向に対する厚み)で延設している。そして、連結部56の軸方向両側の周面部には、それぞれ複数本ずつの補強片(リブ)58が放射状に、周方向に対して所定の肉厚で軸方向へ突設されている。これらのリブ58は、その外径側が外径側円筒部52の内周面と、その内径側が内径側円筒部54の外周面とそれぞれ結合している。また、各リブ58は、軸方向に対して連結部56の周面部とは反対側の端面(軸方向への突設端面、以下、軸方向突設端面という)58sが外径側円筒部52の内周面と連続する部分を、軸方向に対して当該連結部56の周面部側へ凹ませた構造となっている。すなわち、かかる連続部分は、各リブ58と外径側円筒部52の内周面との結合部位(図4に示すJ1)と、これら各リブ58と内径側円筒部54の外周面との結合部位(同、J2)とを結ぶ直線を母線とする仮想円すい曲面(同、S)よりも、軸方向に対して連結部56の周面部側へ凹むように湾曲している(以下、当該湾曲部分を湾曲部58rという)。これらの湾曲部58rにより、各リブ58の軸方向突設端面58sの外径側端部と、外径側円筒部52の内周面とが滑らかに連続されている。
【0004】
ところで、合成樹脂製のプーリ50を使用した場合、金属製のプーリを使用した場合に比べて装置自体の強度は劣ることとなる。このため、外径側円筒部52の内周面と内径側円筒部54の外周面の間に連結部56を延設するとともに、複数本のリブ58を介在させることで、プーリ50の強度の向上を図っている。
また、各リブ58に対して湾曲部58rを形成することで、プーリ50を省スペース化し、結果的にその軽量化を図っている。すなわち、リブ58の軸方向突設端面58sを前記仮想円すい曲面Sと一致させた場合のプーリ構成と比較して、湾曲部58rの分だけリブ58を小さくできるとともに、周辺部材との干渉も防止可能な構成となる。
【0005】
しかしながら、このように各リブ58に対して湾曲部58rを形成した場合、当該湾曲部58rを形成しないリブ構造(一例として、リブ58の軸方向突設端面58sを前記仮想円すい曲面Sと一致させたリブ構造)と比べ、プーリ50の強度の低下を招き易い。したがって、例えば、プーリ50に架け渡した無端ベルトから過大な荷重が負荷された場合、当該プーリ50が一部のリブ58の湾曲部58rに沿って撓み、当該リブ58の軸方向突設端面58sが外径側円筒部52の内周面と連続する部分(端的には湾曲部58r)に破損などの損傷が生じる虞がある。
そこで、上記のようにリブ58に対して湾曲部58rを形成することに加えて、当該リブ58の外径側が外径側円筒部52の内周面と結合する部分の周方向の両側(リブ58の外径側周方向両端部)を、凹円弧状に滑らかに連続させることで(以下、当該凹円弧状部分を外径側周方向円弧部という)、強度向上を図ったプーリ構成も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−290402号公報
【特許文献2】特開2005−127465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように湾曲部58rに加えて前記外径側周方向円弧部を形成したプーリ構成であっても、例えば、プーリ50に架け渡した無端ベルトから負荷される荷重がオフセットされた場合、当該オフセット荷重に対する応力が、リブ58の軸方向突設端面58sと内径側円筒部54の外周面とが連続する部分(図4において、J2で示す部分)に集中してしまう虞がある。したがって、かかる構成とした場合であっても、上述したようなオフセット荷重が負荷された際、当該オフセット荷重に対する応力が特定の箇所(特に、前記連続部分)に集中することを回避し、当該応力を緩和させるには不十分であることは否めない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、軽量化を図りつつ、オフセット荷重が負荷された場合であっても、当該オフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力をプーリ全体で確実に緩和させることが可能な合成樹脂製プーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明に係る合成樹脂製プーリは、外周面にベルトを架け渡すための外径側円筒部と、前記外径側円筒部の内径側に当該外径側円筒部と同心に配された内径側円筒部と、前記外径側円筒部の内周面の軸方向中間部位と前記内径側円筒部の外周面の軸方向中間部位との間の円周域へ軸方向に対して所定の肉厚で延設され、これら外径側円筒部と内径側円筒部とを連結する円環状の連結部と、前記連結部の軸方向両側の周面部にそれぞれ放射状に、周方向に対して所定の肉厚で軸方向へ突設され、外径側が前記外径側円筒部と、内径側が前記内径側円筒部とそれぞれ結合する複数のリブとを備えている。かかる合成樹脂製プーリにおいて、前記リブは、軸方向への突設端面が前記外径側円筒部の内周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該外径側円筒部の内周面と結合させる外径側突設端面円弧部を有するとともに、前記突設端面が前記内径側円筒部の外周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該内径側円筒部の外周面と結合させる内径側突設端面円弧部を有している。そして、前記外径側突設端面円弧部は、その外径端から内径側へ向かうに従って前記連結部の周面部からの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなすとともに、前記内径側突設端面円弧部は、その内径端から外径側へ向かうに従って前記連結部の周面部からの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなす。
【0010】
この場合、前記外径側円弧部は、その曲率半径を5mm以上、14mm以下に設定するとともに、前記内径側円弧部は、その曲率半径を1mm以上、20mm以下に設定することが好ましい。
また、前記外径側円弧部と前記内径側円弧部とは滑らかに連続させ、前記リブの突設端面の全体が軸方向に対して1つの凹曲面状をなすように構成すればよい。
さらに、前記連結部の軸方向に対する肉厚は、前記リブの周方向に対する肉厚よりも大寸に設定すればよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量化を図りつつ、オフセット荷重が負荷された場合であっても、当該オフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力をプーリ全体で確実に緩和させることが可能な合成樹脂製プーリを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る合成樹脂製プーリの構成を示す図であって、(a)は、要部断面図、(b)は、外径側突設端面円弧部及び内径側突設端面円弧部に設定する曲率半径の説明図である。要部断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る合成樹脂製プーリの構成を示す図であって、(a)は、全体構成を示す平面図、(b)は、同図(a)の要部を拡大して示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る合成樹脂製プーリの応力緩和効果を検証するための試験結果を被験体(プーリ)ごとに示す図である。
【図4】従来の合成樹脂製プーリの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の合成樹脂製プーリについて、添付図面を参照して説明する。本発明に係る合成樹脂製プーリは、所定のベルト伝動機構、例えば、自動車において、エアコンディショナ用コンプレッサ等の補機を無端ベルトにより駆動する機構や、クランクシャフトの端部に固定したクランクプーリとカムシャフトの端部に固定したカムプーリとの間でタイミングベルトにより回転力を伝達する機構などに組み込んで使用されること、すなわち、ガイドプーリやテンションプーリ等として構成することを想定可能であるが、これに限定されるものではない。なお、本発明に係るプーリを構成する合成樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド12、ポリアミド612などのポリアミド樹脂や、直鎖状あるいは分岐状のポリフェニレンサルファイド樹脂などを使用することが可能である。また、低吸水性、耐疲労性及び成形精度の向上を図るべく、2種類以上のポリアミド樹脂を混合して使用しても構わない。さらに、強度を高めるべく、繊維状充填剤(例えば、ガラス繊維やカーボン繊維など)や、粒子状充填剤(例えば、シリカやアルミナなど)を上記各種の合成樹脂に充填してもよい。
【0014】
図1及び図2には、本発明の一実施形態に係る合成樹脂製プーリ(以下、単にプーリともいう)2の構成が示されている。
かかるプーリは、外周面にベルトを架け渡すための外径側円筒部4と、前記外径側円筒部4の内径側に当該外径側円筒部4と同心に配された内径側円筒部6と、前記外径側円筒部4の内周面の軸方向(図1(a)においては、左右方向)の中間部位と前記内径側円筒部6の外周面の軸方向中間部位との間の円周域へ軸方向に対して所定の肉厚(同図に示す寸法T)で延設され、これら外径側円筒部4と内径側円筒部6とを連結する円環状の連結部8と、前記連結部8の軸方向両側の周面部8sにそれぞれ放射状に、周方向に対して所定の肉厚(図2(b)に示す寸法W)で軸方向へ突設され、外径側が前記外径側円筒部4と、内径側が前記内径側円筒部6とそれぞれ結合する複数のリブ10とを備えている。
【0015】
この場合、外径側円筒部4の軸方向に対する幅寸法は、内径側円筒部6の軸方向に対する幅寸法よりも全周に亘って大寸に設定され、これらの外径側円筒部4及び内径側円筒部6は、径方向に対する肉厚(各円筒部4,6の外内径寸法差)をそれぞれ一定に保つとともに、その軸方向の中間部位が互いに軸方向に対して同一の位相となるように配されている。なお、外径側円筒部4及び内径側円筒部6の各外内径寸法、径方向に対する肉厚、軸方向に対する幅寸法などは、プーリ2が組み込まれるベルト伝動機構の構成に応じて任意に設定することが可能であり、ここでは特に限定しない。また、図2(a)には、連結部8の軸方向片側の周面部8sに48個(軸方向両側で96個を想定)のリブ10を突設したプーリ2の構成を示しているが、リブ10の突設数はこれに限定されるものではなく、任意に設定して構わない。いずれの突設数であっても、これらのリブ10は、連結部8の周面部8sに放射状に等間隔で配するとともに、軸方向両側の2つの周面部8sで同じ数だけ周方向に同一位相で並び、一対となるように配することが好ましい。
【0016】
内径側円筒部6の内周部には、軸受12が配設されており、当該軸受12により、プーリ2はベルト伝動機構の支持軸(図示しない)に回転自在に支持されている。図1(a)には、かかる軸受12として、単列深溝型のラジアル玉軸受を適用した構成を一例として示しているが、軸受構成はこれに限定されるものではない。要するに、プーリ2をベルト伝動機構の支持軸に対して回転自在に支持することが可能であれば、いかなる軸受構成(例えば、軸受タイプ、外内輪及び転動体の形状、保持器及び密封部材の有無などは不問)であっても構わない。
これらのプーリ2及び軸受12により、1つのプーリ装置が構成される。そして、かかるプーリ装置は、所定の支持軸(例えば、エンジンのシリンダブロックの固定部分に配設されたシャフトなど)に軸受12の内輪12aを外嵌固定し、プーリ2の外径側円筒部4の外周面に無端ベルト(図示しない)を架け渡した状態で、当該無端ベルトの走行に伴ってプーリ2を回転させ、ベルトの巻き付け角度や張力などを調整、確保する。
【0017】
なお、プーリ2は、内径側円筒部6を軸受12の外輪12bの外周部に射出成形によって固設されている。すなわち、軸受12をインサート部品とし、外輪12bの外周部を成形体(成形後にプーリ2となる構造体)の内周側にモールドした状態で、金型内に設けたプーリ2の外郭形状に対応した内郭形状を有するキャビティ内に、溶融した上述の各種合成樹脂(熱可塑性樹脂)を注入する。そして、注入した熱可塑性樹脂を冷却、固化させた後に前記金型を開き、成形体であるプーリ2を軸受12とともにキャビティ内から取り出せばよい。
【0018】
本実施形態において、リブ10は、軸方向への突設端面10sが外径側円筒部4の内周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該外径側円筒部4の内周面と結合させる外径側突設端面円弧部14を有するとともに、前記突設端面10sが内径側円筒部6の外周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該内径側円筒部6の外周面と結合させる内径側突設端面円弧部16を有している。外径側突設端面円弧部14は、その外径端(図1(a)においては、上端)から内径側(同、下側)へ向かうに従って連結部8の周面部8sからの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなすとともに、内径側突設端面円弧部16は、その内径端(同、下端)から外径側(同、上側)へ向かうに従って連結部8の周面部8sからの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなしている。すなわち、リブ10の突設端面10sは、外径側突設端面円弧部14によって外径側円筒部4の内周面といわゆるR状に連続し、内径側突設端面円弧部16によって内径側円筒部6の外周面といわゆるR状に連続している。
【0019】
なお、リブ10の突設端面10sに形成する外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1、及び内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2は、プーリ2の材質やリブ10の大きさなどに応じて任意に設定することが可能である(図1(b))。例えば、外径側突設端面円弧部14は、その曲率半径R1を5mm以上、14mm以下に設定するとともに、内径側突設端面円弧部16は、その曲率半径R2を1mm以上、20mm以下に設定すればよい。その際、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1、及び内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2は、すべてのリブ10(突設端面10s)で同一の設定とすればよい。ただし、これらの曲率半径R1,R2を所定のリブ10ごとに異なる設定とすることも可能である。例えば、複数の曲率半径R1,R2に設定(一例として、R1を5mm、R2を1mmに設定、及びR1を10mm、R2を3mmに設定)した外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を突設端面10sにそれぞれ形成し、これらの異なる曲率半径R1,R2を有する複数組(一例として、上記のような二組)のリブ10を周方向へ所定の位相で(一例として、交互に)並べた構成なども想定可能である。
【0020】
また、図1(a)に示すように、外径側突設端面円弧部14は、その外径端(同図においては、上端)を外径側円筒部4の内周縁と一致させた構成とし、内径側突設端面円弧部16は、その内径端(同、下端)を内径側円筒部6の外周縁と一致させた構成とすることが好ましい。このような構成とすることで、後述するリブ10の突設端面10sと外径側円筒部4の内周面とが連続する部分、及び突設端面10sと内径側円筒部6の外周面とが連続する部分に作用する応力の緩和効果をより高めることができる。ただし、外径側突設端面円弧部14の外径端を外径側円筒部4の内周面上とした構成や、内径側突設端面円弧部16の内径端を内径側円筒部6の外周面上とした構成とすることも想定可能である。
これらの外径側突設端面円弧部14と内径側突設端面円弧部16は、所定の凹部(段部)や凸部(角部)などを介して連続させてもよいが、双方を滑らかに連続させ、リブ10の突設端面10sの全体が軸方向に対して1つの凹曲面状をなすように構成することが好ましい。すなわち、リブ10の突設端面10sは、外径側円筒部4の内周面と連続する部分(外径側突設端面円弧部14の外径端)から内径側円筒部6の外周面と連続する部分(内径側突設端面円弧部16の内径端)に到るまでの全面を、2つの円弧を連続させて全体的に滑らかに凹ませた構成とすることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態において、連結部8の軸方向に対する肉厚Tは、リブ10の周方向に対する肉厚Wよりも大寸に設定されている(T>W)。この場合、連結部8は、外径側円筒部4の内周面の軸方向中間部位と内径側円筒部6の外周面の軸方向中間部位との間の円周域の全体に亘って均一の肉厚(軸方向に対する肉厚)Tで延設するとともに、すべてのリブ10を同一の肉厚(周方向に対する肉厚)Wで前記連結部8の周面部8sに放射状に突設し、これらリブ10の肉厚Wよりもかかる連結部8の肉厚Tの方が大寸となるように構成すればよい。なお、連結部8の肉厚Tとリブ10の肉厚Wは、当該リブ10の肉厚Wよりも前記連結部8の肉厚Tの方が大寸に設定されている限り、プーリ2の大きさや材質などに応じて任意に設定することが可能であり、特に限定されない。
【0022】
このように、リブ10の突設端面10sに対し、外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を形成することで、例えば、プーリ2に架け渡した無端ベルトから負荷される荷重(一例として、モーメント荷重)がオフセットされた場合であっても、当該オフセット荷重に対する応力を、リブ10の突設端面10sと外径側円筒部4の内周面とが連続する部分、及び突設端面10sと内径側円筒部6の外周面とが連続する部分のみに集中させることなく、外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16の全体に前記応力を作用させることができる。すなわち、かかる応力を外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16の全体に分散させることができ、前記連続部分に作用する応力を緩和させることが可能となる。
【0023】
また、リブ10の周方向に対する肉厚Wよりも連結部8の軸方向に対する肉厚Tを大寸に設定することで、連結部8にも前記応力を効果的に逃がすことができ、リブ10に作用される当該応力を低減させることができる。この結果、リブ10の突設端面10sと外径側円筒部4の内周面とが連続する部分、及び突設端面10sと内径側円筒部6の外周面とが連続する部分に作用する前記応力をさらに緩和させることが可能となる。
【0024】
加えて、本実施形態においては、図2に示すように、突設端面10sに外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を形成するだけでなく、リブ10の外径側が外径側円筒部4と結合する部分の周方向の両側(リブ10の外径側周方向両端部)を凹円弧状に滑らかに連続させる外径側周方向円弧部20を設けるとともに、リブ10の内径側が内径側円筒部6と結合する部分の周方向の両側(リブ10の内径側周方向両端部)を凹円弧状に滑らかに連続させる内径側周方向円弧部22を設けている。これにより、前記リブ10の外径側周方向両端部、及び内径側周方向両端部の強度を高め、外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を形成することによるリブ10の小型化によって生じ得るプーリ2の強度低下の防止を図っている。
【0025】
上述したように、本実施形態においては、各種合成樹脂(熱可塑性樹脂)を射出することによりプーリ2を成形する場合を想定している。プーリ2をこのように射出成形した場合、成形時の質量が大きい部分は、冷却時の収縮変形が大きくなり、真円度が悪化する可能性がある。また、射出後の保圧時間が十分でない場合も同様の事態が生ずる虞がある。しかしながら、本実施形態においては、突設端面10sに外径側突設端面円弧部14及び内径側突設端面円弧部16を形成することでリブ10を小型化し、その質量を軽減させるとともに、リブ10の周方向に対する肉厚Wよりも連結部8の軸方向に対する肉厚Tを大寸に設定することで、ゲートクローズまでの時間を引き延ばすことができる。したがって、プーリ2全体における冷却時の収縮変形を僅かに止めることが可能となるとともに、成形後の真円度悪化を有効に抑制することが可能となる。
【0026】
以上のように、本実施形態に係るプーリ2によれば、軽量化を図りつつ、上述したようなオフセット荷重が負荷された場合であっても、当該オフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力をプーリ2全体で確実に緩和させることができる。すなわち、プーリ2の小型軽量化と、強度向上(耐久性向上)を同時に実現することが可能となる。
【0027】
ここで、リブ10の突設端面10sに形成する外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1、及び内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2の設定をそれぞれ変化させ、これらを任意に組み合わせたリブ10を構成することで、上述したようなオフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力を確実に緩和させ、プーリ2の破損防止を図ることが可能か否かを所定の試験により検証した。以下、その検証結果について説明する。
【0028】
図3には、かかる試験における設定曲率半径R1,R2の組み合わせ、及び各組み合わせの検証結果をプーリ2の破損有無として示す。かかる試験においては、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1を5mmから12mmの範囲の所定値に設定するとともに、内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2を0mm(内径側突設端面円弧部16が未形成の場合に相当)から20mmの範囲の所定値に設定したリブ10を備えた10個の被験体aからj(プーリ2)を用意した。なお、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1、及び内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2の設定以外の他のプーリ構成(材質、大きさ(外径側円筒部4及び内径側円筒部6の外内径寸法、肉厚、幅寸法、あるいはリブ10の個数及び肉厚W、連結部8の肉厚Tなど)は、各被験体(プーリ2)で共通としている。そして、これらの被験体(プーリ2)に架け渡した無端ベルトから所定のラジアル荷重(2000N)を負荷させた状態で、各被験体(プーリ2)を所定速度(各被験体(プーリ2)において共通)で100時間にわたって回転させ、100時間経過後に破損が確認されるか否かを調べた。なお、かかるベルトから所定のラジアル荷重(2000N)を負荷させる際には、プーリ2(外径側円筒部4)の外周面の軸方向に対する幅寸法の10%程度で前記ベルトがオフセットするように調整した。
【0029】
図3から明らかなように、被験体aからjのうち、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1を5mm、内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2を0mm(内径側突設端面円弧部16が未形成の場合に相当)にそれぞれ設定した場合(被験体a)、及び曲率半径R1を4mm、曲率半径R2を1mmにそれぞれ設定した場合(被験体c)を除き、いずれの被験体(被験体b,dからj)においても破損は確認されなかった。すなわち、被験体b,dからjにおいては、上述したようなオフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力を確実に緩和させる効果が認められることが検証できた。
なお、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1を14mmよりも大寸に設定した場合、当該外径側突設端面円弧部14が凹曲面状よりも平面状に近くなり(つまり、凹曲面状ではなく、略平面状となってしまい)、内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2を20mmよりも大寸に設定した場合も同様に、当該内径側突設端面円弧部16が凹曲面状よりも平面状に近くなる。このため、いずれの場合もリブ10の小型軽量化を図る上では不利な構成となり、結果として、プーリ2の重量増を招くことともなり、好ましくない。
【0030】
したがって、かかる検証結果を踏まえれば、軽量化を図りつつ、上述したようなオフセット荷重が負荷された場合であっても、当該オフセット荷重に対する応力の集中を回避し、当該応力を確実に緩和させるという効果を最大限に発揮させるためには、外径側突設端面円弧部14の曲率半径R1を5mm以上、14mm以下に設定するとともに、内径側突設端面円弧部16の曲率半径R2を1mm以上、20mm以下に設定したプーリ構成とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
2 プーリ
4 外径側円筒部
6 内径側円筒部
8 連結部
8s 連結部周面部
10 リブ
10s リブ軸方向突設端面
14 外径側突設端面円弧部
16 内径側突設端面円弧部
T 連結部軸方向肉厚
W リブ周方向肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にベルトを架け渡すための外径側円筒部と、
前記外径側円筒部の内径側に当該外径側円筒部と同心に配された内径側円筒部と、
前記外径側円筒部の内周面の軸方向中間部位と前記内径側円筒部の外周面の軸方向中間部位との間の円周域へ軸方向に対して所定の肉厚で延設され、これら外径側円筒部と内径側円筒部とを連結する円環状の連結部と、
前記連結部の軸方向両側の周面部にそれぞれ放射状に、周方向に対して所定の肉厚で軸方向へ突設され、外径側が前記外径側円筒部と、内径側が前記内径側円筒部とそれぞれ結合する複数のリブとを備えた合成樹脂製プーリであって、
前記リブは、軸方向への突設端面が前記外径側円筒部の内周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該外径側円筒部の内周面と結合させる外径側突設端面円弧部を有するとともに、前記突設端面が前記内径側円筒部の外周面と連続する部分を、軸方向へ凹ませて当該内径側円筒部の外周面と結合させる内径側突設端面円弧部を有し、
前記外径側突設端面円弧部は、その外径端から内径側へ向かうに従って前記連結部の周面部からの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなすとともに、前記内径側突設端面円弧部は、その内径端から外径側へ向かうに従って前記連結部の周面部からの突出高さが徐々に低くなる凹円弧状をなすことを特徴とする合成樹脂製プーリ。
【請求項2】
前記外径側円弧部は、その曲率半径が5mm以上、14mm以下に設定されているとともに、前記内径側円弧部は、その曲率半径が1mm以上、20mm以下に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製プーリ。
【請求項3】
前記外径側円弧部と前記内径側円弧部とは滑らかに連続され、前記リブの突設端面の全体が軸方向に対して1つの凹曲面状をなしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成樹脂製プーリ。
【請求項4】
前記連結部の軸方向に対する肉厚は、前記リブの周方向に対する肉厚よりも大寸に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の合成樹脂製プーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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