説明

合成樹脂調合ペイント

【課題】従来品と同等の塗膜外観や硬化性等の性能を維持しながら、高価なホルムアルデヒドキャッチャー剤の配合量を低減しても膜生成時にホルムアルデヒドの放散量を低減することが可能な溶剤形の合成樹脂調合ペイントを提供する。
【解決手段】不飽和脂肪酸成分としてハイジエン脂肪酸を含有するアルキッド樹脂を含有することを特徴とする合成樹脂調合ペイント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂調合ペイントに関し、特に詳しくは、ホルムアルデヒドキャッチャー剤の配合量を低減できる合成樹脂調合ペイントに関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂調合ペイント等の酸化重合タイプの塗料は、安価で隠蔽性、作業性及び仕上がり性に優れるため、鉄部や木部を中心に幅広く使用されてきた。しかし、その乾燥過程でシックハウスの要因の一つであるとされるホルムアルデヒドが放散されるため、屋内での使用については、建築基準法による規制の対象となり、ホルムアルデヒド放散等級F☆☆☆☆、つまり放散量0.12mg/l以下(JIS K−5601−4−1に記載のデシケータ法による)を満たすことになっている。このため、塗料成分中にホルムアルデヒド吸着成分を加え、酸化重合時に発生するホルムアルデヒドを抑制する手法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、シックハウスの要因の一つであるホルムアルデヒドを吸着する材料として、尿素化合物であるエチレン尿素が広く用いられている。尿素化合物は、ホルムアルデヒド吸着能は高いものの、その有機溶剤への溶解性の低さから、合成樹脂調合ペイント等の溶剤系塗料に対して、均一かつ安定に入れることが困難であった。
【0004】
この課題を解決するため、高極性溶媒に尿素化合物を溶解させることにより、これを溶剤系塗料に加えることが考えられる。しかし、一般に高極性溶媒は親水性が高く、溶解力が強い。そのため、高極性溶媒にエチレン尿素を溶解させて溶剤系塗料に加えた場合、高湿度下で水分を呼び込んで塗膜が白化したり、下地の錆止め塗料の塗膜を再溶解したり、塗重ね時に1コート目を浸したりといった、高極性溶媒の添加に起因する課題が発生する。また、酸化重合タイプの塗料にエチレン尿素やアジピン酸ジヒドラジド等の含窒素化合物を添加すると、硬化阻害を起こし、乾燥が遅くなる等の不具合が生じる課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特開2004−352764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホルムアルデヒドの放散量低減が要求される室内用塗料において、依然、ホルムアルデヒドが放散される合調ペイントの使用量は多い。現在、合調ペイントの放散量を低減させる手法として、従来品に対して高価なホルムアルデヒドキャッチャー剤を配合して目的を達成しているが、材料コストが高くなる、変色しやすい、耐水性が悪くなる等の課題があった。
【0007】
本発明の目的は、従来品と同等の塗膜外観や硬化性等の性能を維持しながら、高価なホルムアルデヒドキャッチャー剤の配合量を低減しても膜生成時にホルムアルデヒドの放散量を低減することが可能な溶剤形の合成樹脂調合ペイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗料組成物は、アルキッド樹脂に用いる油の構成を替えることで、ホルムアルデヒド放散量を低減可能とした。即ち、コスト高を抑さえ、変色、耐水性についても従来品同等の性能を達成することが出来、本発明を完成した。
【0009】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、不飽和脂肪酸成分としてハイジエン脂肪酸を必須の成分として含有するアルキッド樹脂を含有する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、従来品と同等の性能を発揮しながら、高価なホルムアルデヒドキャッチャー剤の配合量を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、不飽和脂肪酸成分としてハイジエン脂肪酸を必須成分として含有するアルキッド樹脂からなる。
【0012】
本発明で用いるアルキッド樹脂は、ハイジエン脂肪酸を不飽和脂肪酸成分として含有することで、塗膜生成時の酸化重合時に発生するホルムアルデヒドの放散量が低減されており、建築基準法により区分されるホルムアルデヒド放散等級F☆☆☆☆、つまり放散量0.12mg/l以下(JIS K−5601−4−1に記載のデシケータ法による)を満たすことができる。
【0013】
本発明で用いるアルキド樹脂は、多価アルコール成分、及び不飽和脂肪酸成分を縮重合することにより得られる。
【0014】
上記多価アルコール成分として、特に代表的なもののみを例示するに止めれば、エチレングリコールや、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールの如き、各種のアルキレングリコール類;1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−ヒドロキシエチルテレフタレート、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の如き、各種の芳香族ないし脂環式グリコール類等であるし、加えてモノエポキシ化合物も該アルコール成分として併用することもできるし、また、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、マンニットをはじめ、各種のグリコール成分と、ε−カプロラクトンとの付加物のような、種々のポリエステル化合物も使用することができる。
【0015】
また、アルキド樹脂を調整するに際して用いる脂肪酸として、特に代表的なモノのみを例示するにとどめれば、オクチル酸や、パルミチン酸、ステアリン酸、バーサチック酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸をはじめ、ハイジエン、ハイジエン脂肪酸、やし油脂肪酸、水添やし油脂肪酸、トール油脂肪酸、やまし油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、あまに油脂肪酸、大豆油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸の如き、C8以上の長鎖の飽和−又は不飽和−塩基酸類等であるが、溶剤類への溶解性、塗膜の耐候性及び経済性等を考慮して、適宜、選択して用いるべきである。本発明で用いるアルキド樹脂としては、例えば、分子量800〜50,000、好ましくは1,000〜50,000のものが適当である。
【0016】
本発明の合成樹脂調合ペイントで用いられる金属ドライヤーとしては、有機金属化合物又は金属を含有する化合物を必須の構成成分とするもので、ラジカル重合における酸素阻害を押さえ、外気と接触する部分(表面)の硬化を促進し、未硬化の発生を抑える、いわゆる乾燥性を高める作用があるものとされている。有機金属化合物として、例えば、金属石鹸(酢酸、オクチル酸、ステアリン酸等の脂肪酸又はナフテン酸のMg、Ca、Zn、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Pb、Cu、Zr、Ba、Li、La、K、Na、Sn等の金属の金属塩)や有機金属錯体(コバルトアセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトナート等の遷移元素のアセチアセトン錯体等)が挙げられる。また、これら金属石鹸と珪酸カルシウムやパラフィンとの混合物も金属ドライヤーとして挙げられる。
【0017】
本発明の合成樹脂調合ペイントでは、オクチル酸コバルト及びオクチル酸バリウムの両成分を含有することが、塗料の乾燥性の点で、特に好ましい。
【0018】
金属ドライヤーの配合量については、アルキド樹脂100質量部に対し、0.1〜1.5質量部が好ましい。金属ドライヤーの配合量が、上記範囲から外れると塗料の乾燥性の点で好ましくない。
【0019】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、上記のアルキッド樹脂を含有してなり、上記成分以外に通常塗料に使用されている各種着色顔料、体質顔料、防食顔料等が特に制限なく使用でき、例えば、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ホタル石、燐灰石、含水酸化鉄、黒色酸化鉄、アナターゼ酸化チタン、ルチル酸化チタン、二酸化ケイ素、アルミナ、炭化ケイ素、アルミニウム粉、鉄粉、ステンレス粉、カーボン等が代表的なものとして挙げられる。
【0020】
その他、酸化クロム、酸化ジルコニウム、複合酸化物等の酸化物顔料、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等のリン酸塩、エチドロン酸亜鉛、エチドロン酸カルシウム、エチドロン酸メラミン等のホスホン酸塩、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン酸塩、バナジン酸塩、ホウ酸塩、クロム酸塩、鉛酸塩、ケイ酸塩等の塩類顔料、窒化ケイ素、ガラスビーズ、リン鉄粉、その他フタロシアニン、キナクリドン等の耐熱性有機顔料等も代表的なものとして挙げられる。これらの顔料の平均粒径は、30μm以下、好ましくは、25μm以下が適当であり、30μmを超えると、塗膜がポーラスな膜となり易くなる。塗膜形成性分として必要に応じて配合される改質樹脂としては、キシレン樹脂や、石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0021】
これら塗膜形成成分を溶解もしくは分散させるために配合される溶剤としては、例えば、トルエンや、キシレン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルコール類、水等が代表的なものとして挙げられる。
【0022】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、上記配合の化合物の他に、ホルムアルデヒドキャッチャー剤を添加してもよい。
【0023】
ホルムアルデヒドキャッチャー剤としては、例えば、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、5−ヒドロキシプロピレン尿素、5−メトキシプロピレン尿素、5−メチルプロピレン尿素、4,5−ジメトキシエチレン尿素、メラミン若しくはこれらの初期縮合物又は化合物、一価フェノールや、レゾルシン、アルキルレゾルシン等の多価フェノール若しくはこれらの初期縮合物(レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂を含む)、ジシアンジアミド、パラバン酸、亜硫酸ナトリウム、アンモニウムコバルト、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)、タンニン、カテキン類、フラボノイド類(フラボン、フラボノール、ジヒドロフラボノール、イソフラボン、フラバノン、カルコン、アントシアニン等)、フロログルシン、アセチルアセトン、キトサン、活性炭、木炭、ヤシガラ、木粉、樹皮、蛋白質等が挙げられ、各々単独で又は2種以上混合して使用することができる。なお、ホルムアルデヒドキャッチャー剤として活性炭や木炭等を使用すれば、ホルムアルデヒド以外の有害物質や悪臭をも捕捉、吸収することができる。
【0024】
ホルムアルデヒドキャッチャー剤の配合量は、アルキッド樹脂100質量部に対し、1.5〜9.0質量部が好ましく、1.5〜2.0質量部の配合量がより好ましい。
【0025】
しかしながら、ホルムアルデヒドキャッチャー剤は、できる限り少ない量で配合することが望ましい。これは、ホルムアルデヒドキャッチャー剤が高価なことや本発明のように特定のアルキッド樹脂を使用した場合に使用量を削減できることが確認されているためである。
【0026】
本発明の合成樹脂調合ペイントは、上記配合の化合物の他に、塗料として各種機能を付与させるために、ダレ防止剤、顔料分散剤や沈降防止剤等の一般的に塗料に用いられる各種添加剤を配合するのが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」は何れも質量基準によるものとする。
【0028】
<製造例1>
攪拌機、温度計、冷却器、分水器及び窒素ガス道入管を付けた反応容器にハイジエン脂肪酸300部、ペンタエリスリトール85部、エチレングリコール13部、無水フタル酸117部及びキシレン20部を仕込み、窒素雰囲気下で230℃において反応させ、固形分酸価が15に達した時点で反応を終了し、冷却後に溶剤としてミネラルスピリット300部にて希釈し、固形分が60%の目的とするアルキッド樹脂溶液Aを得た。
【0029】
<製造例2>
攪拌機、温度計、冷却器、分水器及び窒素ガス道入管を付けた反応容器に大豆油脂肪酸300部、ペンタエリスリトール67部、グリセリン35部、エチレングリコール25部、無水フタル酸170部及びキシレン15部を仕込み、窒素雰囲気下で240℃において反応させ、固形分酸価が12に達した時点で反応を終了し、冷却後に溶剤としてミネラルスピリット540部にて希釈し、固形分が50%の目的とするアルキッド樹脂溶液Bを得た。
【0030】
上記製造例1〜2で得たアルキッド樹脂溶液を用いて下記表1に示した各実施例及び比較例の塗料を得た。
【0031】
(実施例1)
上記アルキッド樹脂溶液Aを固形分として50部、塗料用シンナー11.9部、顔料(酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、炭酸カルシウム)を35部、分散剤(レシチン)、ダレ止め防止剤(楠本化成工業社製商品名:ディスパロン4200−10)、消泡剤(信越シリコーン社製商品名:KF信越シリコーンKF69)、皮張り防止剤(楠本化成工業社製商品名:ディスパロン501)等の添加剤として1部、オクチル酸コバルトとオクチル酸バリウムからなる金属ドライヤーを1.1部、ホルムアルデヒドキャッチャー剤としてエチレン尿素1部を添加し、実施例1の塗料を得た。
【0032】
(実施例2〜4及び比較例1〜4)
上記アルキッド樹脂溶液A,Bを用いて表1に記載の添加量に変更した以外は実施例1と同様の方法により、実施例2〜4及び比較例1〜4の塗料を得た。
【0033】
「塗板の作製」
<ホルムアルデヒド放散量の測定>
得られた塗料組成物を、JIS−H−4000で規定されるアルミニウム板2枚にそれぞれ塗布量が130g/mとなるように刷毛で塗装した。これらは23℃で24時間放置した後、更に塗布量が130g/mとなるよう、刷毛で塗り重ねを行った。得られた2枚の塗板は23℃で7日間乾燥した後、JIS−K−5601−4−1に記載のデシケータ法に従い、ホルムアルデヒド放散量(mg/L)を求めた、結果を表1に合わせて示した。
【0034】
<硬化阻害の有無>
得られた塗料組成物をブリキ板に塗布量130g/mとなるように刷毛で塗り、23℃で16時間放置した。更に塗布量130g/mとなるように刷毛で塗り重ねを行った。塗膜に縮みが発生しない場合を○、一部に発生する場合を△、全面に縮みが発生する場合を×とした。同様に5℃、24時間を乾燥条件として、上記と同様に塗膜を作製し、評価を行った。結果を表1に合わせて示した。
【0035】
<塗膜外観>
得られた塗料組成物をブリキ板に塗布量130g/mとなるように刷毛で塗り、これを相対湿度70%に保ち、23℃16時間放置した。更に塗布量130g/mとなるように刷毛で塗り重ねを行った。こうして得られた塗膜の外観を目視で評価した。特に問題がない場合は○、白化が認められる場合を×とした。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和脂肪酸成分としてハイジエン脂肪酸と金属ドライヤーとを有するアルキッド樹脂を含有することを特徴とする合成樹脂調合ペイント。
【請求項2】
金属ドライヤーとして、オクチル酸コバルト及びオクチル酸バリウムを含有する請求項1に記載の合成樹脂調合ペイント。
【請求項3】
前記アルキッド樹脂100質量部に対し、ホルムアルデヒドキャッチャー剤を1.5〜9.0質量部配合する請求項1又は2に記載の合成樹脂調合ペイント。
【請求項4】
前記ホルムアルデヒドキャッチャー剤が、エチレン尿素である請求項3に記載の合成樹脂調合ペイント。

【公開番号】特開2010−235827(P2010−235827A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86549(P2009−86549)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】