説明

合成粘土材料及び粘土フィルム

【課題】粘土材料が本来有する優れた可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも水蒸気バリア性に十分優れる粘土フィルムを形成可能な合成粘土材料を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は、水に対する分散性を示し、かつ400℃での加熱処理により前記分散性を失う合成粘土材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成粘土材料及び粘土フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイデバイスは、主にガラス基板上に形成されてきた。しかし、最近これらのディスプレイデバイスについては、曲面表示を可能とすることや軽量大型化の要求が高まっている。そこで、ディスプレイデバイスを可とう性を有するフィルム基材上に形成したいとの要求が高まっている。
【0003】
かかる用途に用いられるフィルム基材には、可とう性と共に優れたガスバリア性を備えることが求められる。このようなガスバリア性を備えるフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルム上に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機系薄膜を形成することによって、水蒸気や酸素などのガスバリア性を向上させたものが知られている。これらは現在、主に食品や医薬品などの変質を嫌う材料の包装材料として使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、この他に、ガスバリア性を有するフィルム基材として、ナイロンなどのポリアミド樹脂中に、粘土材料をナノオーダーで均一に分散させたフィルムが提案されており、これによってガスバリア性や機械強度を向上させることが提案されている(例えば特許文献2、非特許文献1参照)。また、ガスバリア性、耐熱性、可とう性に優れるフィルム基材として、粘土材料を積層して形成される粘土フィルムや、表面にフッ素系膜、シリコン系膜、金属蒸着膜などの防水処理等が施された粘土フィルムが提案されている(特許文献3及び4参照)。
【特許文献1】特許第2700019号公報
【特許文献2】特開昭62−74957号公報
【特許文献3】特開2006−77237号公報
【特許文献4】特開2006−188408号公報
【非特許文献1】野中裕文、工業材料、Vol.51、No.12(52−56)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように樹脂フィルムをベースとした樹脂フィルム基板ではガラス基板に比べてガスバリア性が劣るという問題がある。このような樹脂フィルム基板をディスプレイ用途に用いた場合、水蒸気や酸素などが樹脂フィルム基板を透過して液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの素子部に侵入し、薄膜トランジスタや液晶材料、発光材料などの特性を劣化させ表示品質の低下を招く。また、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機系薄膜層を厚く形成すればガスバリア性は向上するが、無機系薄膜層は脆く、曲げ応力が加わるとミクロなクラックが発生してガスバリア性を低下させてしまう。一方で、無機系薄膜層を薄く形成すると、可とう性は向上するものの優れたガスバリア性が得られない。すなわち、可とう性とガスバリア性とがトレードオフの関係にあることから、両性能を満足するフィルムを得ることができず、ディスプレイ用途への適用が困難になっている。また、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂フィルムの耐熱性は高いものであっても300℃以下であり、フィルム上へのポリシリコン膜の形成などの高温処理が必要なディスプレイ用途には適用できない。
【0006】
また、特許文献2のように樹脂材料中に粘土材料をナノオーダーで均一に分散させた粘土ナノ分散フィルムの場合、樹脂材料中に粘土材料を高濃度に添加することは難しいため、ガス透過率を粘土材料添加前の1/2程度までにしか低減できない。このため、このようなフィルムは、包装用途等には使用可能であるが、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどディスプレイに要求されるガスバリア性を満足するものではない。また、この粘土ナノ分散フィルムも樹脂を含むため300℃以上の耐熱性を確保することは困難になっている。
【0007】
一方、特許文献3のように粘土材料を積層して形成される粘土フィルムは、ガスバリア性、耐熱性、可とう性に優れている。また、この粘土フィルムはガラスと同等の透明性を有していながら、ガラスよりも軽量である。しかし、このような粘土材料からなる粘土フィルムは水蒸気バリア性が十分ではない。通常、粘土材料の形状は薄片状の粒子であり、これらの粒子が分散した分散液から溶媒を除去して乾燥しフィルム化すると粘土粒子がフィルム状に配向している。そのため、粘土フィルムは、酸素や窒素などのガスに対して優れたバリア性を有する。しかし、従来の粘土フィルムは吸湿性があるために水蒸気に対するバリア性が十分ではない。
【0008】
この点を改善すべく、特許文献4では粘土フィルムの表面にフッ素系膜、シリコン系膜、金属蒸着膜などの防水処理等を施すことが提案されている。しかし、この場合、表面に設けられる膜が有機物であると得られる粘土フィルムの耐熱性が十分ではなく、無機物であると得られる粘土フィルムの可とう性が十分ではない。つまり、上述の表面処理がなされた粘土フィルムでは、粘土フィルムが本来有する耐熱性と可とう性とを両立することができない。
【0009】
そこで、本発明は、粘土材料が本来有する優れた可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも水蒸気バリア性に十分優れる粘土フィルムを形成可能な合成粘土材料及び粘土フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来の粘土材料は水に浸漬すると水中に分散することが知られている。例えば、スメクタイト系の粘土材料は薄片状の粒子を含有し水に対する分散性を示す。この分散性を利用して、粘土材料の水分散液を作製し、更に乾燥することで粘土の粒子が配向した粘土フィルムが得られる。この粘土フィルムは、酸素や窒素等のドライガスに対して優れたバリア性を示す。本発明者らは、かかる水への分散性が粘土材料の吸湿性と関連することに着目して鋭意検討した。そして、粘土材料が水への分散性を失えば、吸湿性が低減して水蒸気バリア性を大幅に向上できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、水に対する分散性を示し、かつ400℃での加熱処理により上記分散性を失う合成粘土材料を提供する。ここで、水に対する分散性(以下、「水分散性」という。)の有無は、粘土材料を投入した水を超音波等の物理的エネルギーにより撹拌した後に、水中での粘土材料の層構造を確認することで判断できる。例えばX線回折法により粘土材料の層構造を調べた結果、粘土材料特有の層間隔を示すピークが明らかに確認できれば、水分散性が失われている(又は水分散性がない)と判断できる。一方、粘土材料特有の層間隔を示すピークが確認できない、あるいは、ほとんど確認できなければ、水分散性を示す(又は水分散性がある)と判断できる。
【0012】
本発明の合成粘土材料は水に対する分散性(以下、「水分散性」という。)を示すため、この合成粘土材料から作製した粘土フィルムは、酸素や窒素等のドライガスに対して優れたバリア性を有する。また、本発明の合成粘土材料は400℃での加熱処理により水分散性を失うと共に吸湿性も失うため、従来よりも水蒸気バリア性に十分優れた粘土フィルムを形成可能である。
【0013】
なお、400℃を超える温度で粘土材料を加熱して水分散性を失う場合、同時に粘土材料の主成分が焼結して可とう性を失うため、粘土フィルムとしての形態をも失うこととなる。すなわち、400℃での加熱処理では水分散性を失わず、400℃を超える温度で加熱すると水分散性を失うような粘土材料は、粘土フィルムを形成しない。
【0014】
本発明の合成粘土材料が水分散性及び吸湿性を失う要因は概ね以下のとおりであると、本発明者らは推測している。すなわち、粘土材料は八面体シート及び四面体シートを積層した層を有しており、その層間に交換性陽イオンを有している。水分散性及び吸湿性はその交換性陽イオンの水和力に起因するものである。したがって、交換性陽イオンを何らかの形で水和し難い状態にすれば、粘土材料の水分散性及び吸湿性は失われる。本発明者らは、400℃での加熱処理により、その交換性陽イオンが粘土材料の層内に移動して水和しなくなるため、水分散性及び吸湿性が失われると考えている。
【0015】
かかる見地から、本発明は、主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有する八面体結晶構造からなる八面体シートと、主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有する四面体結晶構造からなる四面体シートとを備える層、並びに、上記層の間に挟まれたリチウムイオンを含む合成粘土材料を提供する。
【0016】
また、本発明の合成粘土材料を用いると、粘土材料が本来有する結晶構造を維持した粘土フィルムを形成できる。このような粘土フィルムは、優れた耐熱性及び透明性をも具備している。さらに本発明の合成粘土材料から得られる粘土フィルムは、リチウムイオンを有する場合であっても、高い透明性を維持することができる。そのため、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのフィレキシブルディスプレイ用の基板フィルムとして好適に用いることができる。
【0017】
本発明の合成粘土材料は、交換性陽イオンをイオン交換容量で50〜150ミリ当量/100g含有するものであり、上述の加熱処理によりイオン交換容量が30ミリ当量/100g以下に減少すると好ましい。これにより、本発明の合成粘土材料はより確実に水分散性を示すためフィルム成形性に優れ、上記加熱処理によって更に確実に水蒸気バリア性を高めることができる。
【0018】
本発明の合成粘土材料は、交換性陽イオンの80原子%以上がリチウムイオンであると好適である。リチウムイオンは粘土材料の層間に容易に移動して水和しなくなるため、この合成粘土材料を用いれば、水蒸気バリア性が向上した粘土フィルムを一層確実に形成可能となる。
【0019】
本発明の合成粘土材料は、主としてモンモリロナイト構造及び/又はスティーブンサイト構造を有すると好ましい。これによって、より一層水蒸気バリア性に優れる粘土フィルムを得ることができる。
【0020】
本発明の合成粘土材料は、交換性陽イオンとしてのナトリウムイオンのイオン交換容量が20ミリ当量/100g以下であると好適である。粘土材料を加熱処理しても、ナトリウムイオンに起因する水和力は低減され難い。そこで、ナトリウムイオンのイオン交換容量を上述のように少なくすることで、加熱処理に伴って合成粘土材料の水和力は容易に低減し、粘土フィルムの水蒸気バリア性を更に改善することが可能となる。
【0021】
本発明の合成粘土材料は、吸水率が10%以上であり、上記加熱処理により吸水率が5%以下に減少すると好適である。このような合成粘土材料から形成される粘土フィルムは水蒸気バリア性に優れたものとなる。なお、吸水率は、相対湿度60%、温度25℃の雰囲気中に放置して十分に吸湿した後の合成粘土材料の質量を基準として、吸湿後の合成粘土材料を25℃から300℃まで昇温した際の質量減少分の百分率で示される。
【0022】
本発明は、上述の合成粘土材料をフィルム状に成形してなる粘土フィルムを提供する。本発明の粘土フィルムは、上記合成粘土材料から得られる。そのため、この粘土フィルムに対して更に400℃での加熱処理を施すことで、可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも水蒸気バリア性に十分優れる粘土フィルムが得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、粘土材料が本来有する優れた可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも水蒸気バリア性に十分優れる粘土フィルムを形成可能な合成粘土材料及び粘土フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0025】
本発明は、水に対する分散性(以下、「水分散性」という。)を示し、かつ400℃での加熱処理により水分散性を失う合成粘土材料を提供する。図1に、その好適な実施形態に係る合成粘土材料の層構造を模式的に示す。本実施形態に係る合成粘土材料100は、八面体結晶構造からなる八面体シート1及び四面体結晶構造からなる一対の四面体シート3を有する層10と、複数の層10間、すなわち層間に存在するリチウムイオンとを含む。層10において、一対の四面体シート3は八面体シート1を挟んでいる。また、八面体結晶構造は、主としてアルミニウムイオン(Al3+)及び/又はマグネシウムイオン(Mg2+)と酸素イオン(O2−)及び/又は水酸化物イオン(OH)とを有するものである。この八面体結晶構造は、アルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとからなるものであると好ましいが、微量の鉄イオンや亜鉛イオンなどを有していてもよい。一方、四面体結晶構造は主としてケイ素イオン(Si4+)と酸素イオンとを有するものである。この四面体結晶構造はケイ素イオンと酸素イオンとからなるものであると好ましいが、微量のアルミニウムイオンなどを有していてもよい。
【0026】
本実施形態では、合成粘土材料としてスメクタイト構造を有する材料を好適に使用することができる。スメクタイト構造は、四面体シート3または八面体シート1の金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるため、層10内に負電荷を有している。この負電荷を補償して電気的中性を保つために、合成粘土材料100がスメクタイト構造を有する場合、層10間に交換性陽イオンであるリチウムイオン(Li)を有する。
【0027】
スメクタイトの具体的な構造としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等の構造が知られている。これらのうち、合成粘土材料の構造としてはモンモリロナイト及び/又はスティーブンサイト構造が好ましい。これらの構造は、金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるために八面体シート1が負に帯電している。その結果、これらの構造は八面体シート1に空きサイトを有しており、後述の移動後のリチウムイオンが安定して存在できる。
【0028】
なお、本明細書における「スメクタイト構造」、「モンモリモナイト構造」及び「スティーブンサイト構造」等は、八面体結晶構造からなる八面体シートを四面体結晶構造からなる一対の四面体シートで挟んだ層の基本構造を意味する。すなわち、リチウムイオンが八面体シート1内に保持されている結晶構造も、「スメクタイト構造」、「モンモリモナイト構造」及び「スティーブンサイト構造」等に含まれ得る。
【0029】
合成粘土材料100は、層間に存在する交換性陽イオンとしてリチウムイオンを有している。これにより、合成粘土材料100は、400℃での加熱処理によって分散性を失う。従来の粘土材料において層間に存在する陽イオンの半径は、例えばナトリウムイオンで0.097nmである。一方、リチウムイオンのイオン半径は上述のナトリウムイオンよりも小さく、0.068nmである。本実施形態によると、合成粘土材料100の層10間に存在するリチウムイオンは、イオン半径が小さいため、加熱処理により八面体シート内への移動が可能となる。以上の知見は本発明者らが独自に得たものである。
【0030】
図1では交換性陽イオンとしてリチウムイオンを示しているが、合成粘土材料100がその他の交換性陽イオンを更に有していてもよい。その具体例としては、例えば、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)及びアンモニウムイオン(NH)が挙げられる。合成粘土材料100は、これらの交換性陽イオンの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0031】
ただし、上記交換性陽イオンの80原子%以上がリチウムイオンであると好ましく、90原子%以上がリチウムイオンであるとより好ましく、95原子%以上がリチウムイオンであると更に好ましい。後述する加熱処理により層10間から八面体シート1内へ移動できない陽イオンが10原子%を超える場合、粘土フィルムの吸水量が多くなり水蒸気バリア性が低減する傾向にある。
【0032】
合成粘土材料100における交換性陽イオンの含有量は、イオン交換容量で50〜150ミリ当量/100gであることが好ましい。このイオン交換容量が50ミリ当量/100gよりも少ないと水を吸着する交換性陽イオンが少ないため、水中で膨潤して安定な分散液の形成が困難となる結果、配向性の優れた粘土フィルムを形成し難くなる傾向にある。一方、イオン交換容量が150ミリ当量/100gを超える場合、層10の相互間のイオン結合力が強固になるため水中で膨潤して安定な分散液の形成が困難となり、配向性の優れた粘土フィルムを形成し難くなる傾向にある。ここで、「イオン交換容量」とは、八面体シートを含む層(本実施形態における層10)間に存在する陽イオン量であり、Schllenberger法によって測定できる。
【0033】
また、交換性陽イオンとしてのナトリウムイオンのイオン交換容量が20ミリ当量/100g以下であると好ましく、10ミリ当量/100g以下であることがより好ましい。ナトリウムイオンは交換性陽イオンの中でも特に水和力が高いため、イオン交換容量が20ミリ当量/100gを超えると、最終的に得られる粘土フィルムの水蒸気バリア性が低下する傾向にある。
【0034】
本実施形態の合成粘土材料100は、上述の構成を有することにより水分散性を示す。これは、層10の間に存在する交換性陽イオンが水和するためである。また、この合成粘土材料100は、吸水率が10質量%以上であると好ましい。かかる合成粘土材料100は、配向性の高い良好なフィルムを形成できる。
【0035】
本実施形態の合成粘土材料100は、400℃での加熱処理により水分散性を失う。これは、層10の間に存在していたリチウムイオンが加熱処理により層10内に移動するため、交換性陽イオンが減少して水和力が低下するためである。また、この合成粘土材料100は、上記加熱処理により吸水率が5質量%以下になると好適であり、1質量%以下となるとより好適である。かかる合成粘土材料100は、水への再分散性がより有効に抑制され、最終的に得られる粘土フィルムの水蒸気バリア性が更に優れたものとなる。
【0036】
さらには、本実施形態の合成粘土材料100は、上述の加熱処理によりイオン交換容量が30ミリ当量/100g以下になると好ましく、15ミリ当量/100g以下になるとより好ましい。このような合成粘土材料100は、加熱処理により水和性の高い交換性陽イオンの多くが層10内に移動する。その結果、粘土フィルムの水蒸気バリア性が更に向上する。
【0037】
なお、上記加熱処理の温度は、リチウムイオンが層10内に速やかに移動できる150〜400℃であってもよい。
【0038】
合成粘土材料100について、上記加熱処理前後の水分散性、吸水率及びイオン交換容量は、例えば、粘土材料の構造(例えばモンモリロナイト構造を選択する等)、並びに、層10間に存在する交換性陽イオンの種類、及びそれらのイオン交換容量を調整することで制御できる。
【0039】
続いて、上記合成粘土材料100の好適な製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係る合成粘土材料100の製造方法を模式的に示す工程図である。この合成粘土材料100の製造方法は、八面体シート1及び一対の四面体シート3を有する層10と、層10間に存在する陽イオンとを含有する第1の粘土材料を準備する第1工程と、第1の粘土材料を水に分散させる第2工程と、陽イオンの少なくとも一部をリチウムイオンに置換して第2の粘土材料を得る第3工程と、第2の粘土材料を乾燥して合成粘土材料100を得る第4工程とを備える。以下、各工程について詳細に説明する。
【0040】
(第1工程)
第1工程では、八面体結晶構造からなる八面体シート1及び四面体結晶構造からなる一対の四面体シート3を有する層10と、層10間、すなわち層間に存在する交換性陽イオンとを含有する第1の粘土材料を準備する。層10において、一対の四面体シート3は八面体シート1を挟んでいる。また、八面体結晶構造は、主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有するものである。この八面体結晶構造は、アルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとからなるものであると好ましいが、微量の鉄イオンや亜鉛イオンなどを有していてもよい。一方、四面体結晶構造は主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有するものである。この四面体結晶構造はケイ素イオンと酸素イオンとからなるものであると好ましいが、微量のアルミニウムイオンなどを有していてもよい。
【0041】
本実施形態において、第1の粘土材料は、例えば金属酸化物の共沈ゲルに交換性陽イオンを添加したスラリーを水熱合成することにより得られる。より詳細には、まず、硫酸マグネシウムや塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩溶液及び/又は硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩溶液とケイ酸ナトリウム溶液とを所定のpHに保持して沈殿を生成する。次いで、沈殿物を水洗、ろ過することで共沈ゲルが得られる。
【0042】
共沈ゲルに添加される交換性陽イオンとしては特に限定されないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン及びアンモニウムイオンが挙げられる。これらの交換性陽イオンは、水酸化ナトリム、水酸化カリウム及びアンモニアの水溶液として共沈ゲルに添加され、更に攪拌される。こうしてスラリーが得られる。
【0043】
次に、得られたスラリーをオートクレーブに仕込み、100℃〜450℃、自生圧力の条件下で数時間から数日間水熱処理を行う。これにより所望の第1の粘土材料が得られる。
【0044】
なお、このようにして合成された第1の粘土材料は水分散性を示し、その水分散液を乾燥することによりフィルムを作製することができる。ただし、得られる粘土フィルムには耐水性に劣り、水に浸漬すると容易に再分散し、水分散溶液となってしまう。従来、粘土フィルムの水に対する分散を防止するには、粘土の層状構造を破壊するまでの加熱処理(例えば600℃以上)を施さなければならない。このことは、粘土フィルムが水分散性と共に可とう性を有しなくなることを意味し、粘土フィルムとして安定的に存在できなくなる。
【0045】
上述の所望の第1の粘土材料として、従来の合成粘土材料であるスメクタイトを好適に使用することができる。スメクタイトは、四面体シート3または八面体シート1の金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるため、層10内に負電荷を有している。この負電荷を補償して電気的中性を保つために、スメクタイトは層10間にナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンなどの陽イオンを1種以上有する。
【0046】
スメクタイトとしては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等が知られている。これらのうち、モンモリロナイト及び/又はスティーブンサイトが好ましい。これらのスメクタイトは、金属元素の一部に低原子価金属元素との同型置換や欠陥があるために八面体シート1が負に帯電している。その結果、これらのスメクタイトは八面体シート1に空きサイトを有しており、後述の粘土フィルム形成の際に移動後のリチウムイオンが安定して存在できる。
【0047】
図2(a)は、第1工程で準備される第1の粘土材料の層構造を模式的に示す図である。第1の粘土材料は、複数の層10と層10間に存在する交換性陽イオンであるナトリウムイオンとを有する。層10は八面体シート1と、その八面体シート1を挟む四面体シート3とを備えている。八面体シート1は、主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有する八面体結晶構造からなる。一方、四面体シート3は、主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有する四面体結晶構造からなる。ナトリウムイオンは、負電荷を有する八面体シート1を含む層10間に存在して、第一の粘土材料の電気的中性を保っている。
【0048】
(第2工程)
第2工程では、第1の粘土材料を水に分散させて粘土分散液を得る。図2(b)は、水に分散させた際の第1の粘土材料の層構造を模式的に示す図である。第1の粘土材料は層10間に水和力の高い交換性陽イオンであるナトリウムイオンを有するため水に容易に分散し、粘土分散液を得ることができる。この際、層10間のナトリウムイオンには水(吸着水)が吸着する。また、第1の粘土材料をリチウムイオンと共に水中に分散させることが好ましく、第2工程と後述の第3工程とを同時に行うことが好ましい。
【0049】
(第3工程)
第3工程では、上述の粘土分散液において、層10間に存在する交換性陽イオンの少なくとも一部をリチウムイオンに置換して第2の粘土材料を得る。第1の粘土材料による粘土分散液に、リチウム化合物を加えると、層10間にある陽イオンとリチウムイオンとがイオン交換する。これにより、第1の粘土材料の層10間に存在した陽イオンの少なくとも一部がリチウムイオンに置換された第2の粘土材料を得ることができる。
【0050】
ここで用いるリチウム化合物としては、水酸化リチウムや塩化リチウム、硫酸リチウムなどの1種類以上のリチウム化合物が挙げられる。これらのうち、不純物となる陰イオンを含まないことから水酸化リチウムが最も好ましい。リチウム化合物は、イオン交換を十分に行う観点から、第1の粘土材料のイオン交換容量に対して、1倍から30倍の量を添加することが好ましい。
【0051】
図2(c)は、水に分散されている第2の粘土材料の層構造を模式的に示す図である。第2の粘土材料は、上述のイオン交換によって、層10間にリチウムイオンを有している。層10間のリチウムイオンには水(吸着水)が吸着している。当該イオン交換の際、リチウム化合物を粘土分散液に加えてから5分間〜3時間放置することが好ましい。イオン交換における放置時間が5分未満であると、イオン交換反応が平衡に達し難くなり、第1の粘土材料に当初から含まれる交換性陽イオンが層10間に多く残ってしまう傾向にある。放置時間が3時間を超えると、イオン交換反応は平衡に達し、それ以上放置しても、当初から含まれる交換性陽イオンからリチウムイオンへのイオン交換率は向上しない。
【0052】
イオン交換の温度は室温でもよく、80℃程度まで加温してもよい。加温によりイオン交換速度を向上させ放置時間を短縮することができる。
【0053】
また、イオン交換の際、更に下記操作を行ってもよい。まず、上述の放置の後に遠心沈降等により粘土分散液を上澄み液及び沈降した第2の粘土材料に分離する。次いで、上澄み液を廃棄した後、沈降物である第2の粘土材料に再度水を加えて粘土分散液を調製する。そして、その粘土分散液にリチウム化合物を加えて放置する。この一連の操作を繰り返し行うことにより、イオン交換率が向上する。
【0054】
(第4工程)
そして、第4工程において、第2の粘土材料から水分を乾燥除去することにより合成粘土材料100が得られる。この際、リチウムイオンを含む交換性陽イオンに水和していた水分が除去される。合成粘土材料100は、通常フィルム状に形成されるが、その後に粉砕されてもよい。
【0055】
このようにして得られた合成粘土材料100は、水分散性を示し、かつ400℃での加熱処理により水分散性を失う。これは、交換性陽イオンであるリチウムイオンが加熱処理により層10内に移動し、水が吸着できなくなるからである。よって、この合成粘土材料100を原料として得られる粘土フィルムは、本来の優れた可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、従来の粘土フィルムよりも十分に良好な水蒸気バリア性を示すという有利な効果を奏する。
【0056】
また、この合成粘土材料100は、粘土材料が本来有するものと同等以上に優れた耐熱性並びに酸素や窒素等のドライガスに対するガスバリア性を示す。さらに、合成粘土材料100は、天然粘土材料とは異なるため、実質的に不純物を含まない。その結果、この合成粘土材料100は着色が少なく透明性に優れているので、ディスプレイデバイス用途の透明フィルムの製造に適している。
【0057】
特に、合成粘土材料100は、上述のように一対の四面体シート3と、その一対の四面体シート3に挟まれた八面体シート2とを基本構成単位とする層10が積層されているため、上述の有利な効果をより高めることができる。更に、その層10間に50〜150ミリ当量/100gの交換性陽イオンを有し、そのうちの80原子%以上がリチウムイオンであることで、上記有利な効果がより格別なものとなる。
【0058】
次に、上記合成粘土材料100を原料とした、好適な粘土フィルムの製造方法について説明する。この実施形態に係る粘土フィルムの製造方法は、合成粘土材料100をフィルム状に成形する第5工程と、フィルム状の合成粘土材料100に加熱処理を施して粘土フィルムを製造する第6工程とを有する。
【0059】
(第5工程)
まず、第5工程において、合成粘土材料100を水に分散させて分散液を得た後、水分を乾燥除去してフィルム状の合成粘土材料100を得る。分散液中の合成粘土材料100の含有量は0.5〜10質量%であることが好ましい。分散液中の合成粘土材料100の含有量が0.5質量%未満の場合には乾燥に長時間を所要する傾向がある。また、合成粘土材料100の含有量が10質量%を超える場合には、合成粘土材料100の分散性が低下し、均一な膜厚を有するフィルム状のものを形成するのが困難になる傾向がある。また、より均一な膜厚を有し緻密なフィルム状の合成粘土材料100を得る観点から、乾燥の温度は水の沸点未満とすることが好ましい。乾燥速度は、乾燥装置内の温度、相対湿度を制御等することにより、分散液表面からの水の蒸発速度として0.01〜1.0g/cm2・hとすることが好ましい。蒸発速度が0.01g/cm・h未満の場合、水分の乾燥除去に長時間を所要する傾向がある。蒸発速度が1.0g/cm・hを超える場合、緻密なフィルム状のものが得られ難くなる傾向がある。
【0060】
(第6工程)
次に、第6工程において、フィルム状の合成粘土材料100に加熱処理を施して粘土フィルムを製造する。合成粘土材料100に加熱処理を施すことによって、層10間にあるリチウムイオンの少なくとも一部を八面体シート1内に移動することができる。加熱処理の条件は、温度150〜600℃、時間1分間〜1時間とすることが好ましい。加熱処理の温度が150℃よりも低い場合、リチウムイオンの層10間から八面体シート1内への移動が起こりにくい傾向がある。加熱処理の温度が600℃を超える場合、合成粘土材料100中の構造水が脱水し、スメクタイトとは異なる結晶相となるため、可とう性がなくなりやすくなる傾向がある。なお、加熱処理の時間が1時間を超えても問題はないものの、実用的ではない。一方、加熱処理の時間が1分間未満であると、層10間から八面体シート1内へのリチウムイオンの移動に要する時間として短いため、層10間にリチウムイオンが多く残る傾向にある。加熱処理は通常の空気中で行うことができる。
【0061】
図3は、上述の製造方法により得られた粘土フィルムの層構造を模式的に示す図である。粘土フィルムは、主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有する八面体結晶構造からなる八面体シート2が、主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有する四面体結晶構造からなる一対の四面体シート3に挟まれている層20を複数含有する。また、少なくとも一部の八面体シート2内にリチウムイオンを有する。
【0062】
かかる層構造を有する粘土フィルムは、粘土フィルムを構成する層20間への水の吸着量、すなわち粘土フィルムの吸水率を十分低くすることができ、水蒸気バリア性に優れる。また、水に浸漬しても膨潤・溶解することは殆どなく、耐水性にも優れる。
【0063】
加熱処理された粘土フィルムのイオン交換容量は、30ミリ当量/100g以下であることが好ましく、20ミリ当量/100g以下であることがより好ましい。イオン交換容量が30ミリ当量/100gを越える場合、吸水量が大きくなり、水蒸気バリア性が低下する傾向がある。
【0064】
粘土フィルムに含有される層10は、モンモリモナイト構造及び/又はスティーブンサイト構造を有することが好ましい。
【0065】
本実施形態により得られる粘土フィルムは、粘土フィルムが本来有する可とう性及びガスバリア性を維持しつつ、水蒸気バリア性に十分優れるという有利な効果を奏する。更に、この粘土フィルムは、粘土材料が本来有する結晶構造を維持しつつ、リチウムイオンを八面体シート2中に取り込んだものであるため、優れた耐熱性及び透明性をも具備するという有利な効果を奏する。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。すなわち、合成粘土材料が水分散性を示し、かつ400℃以下の温度での加熱処理により水分散性を失うものであれば特に限定されない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
<第1の粘土材料の調製(第1工程)>
まず、3号水ガラス(SiO含有割合:28質量%)17.2gを水100gに添加して希釈溶液を調製した。次いで、16規定の硝酸6mLをその希釈溶液に加えた後、更に1モル/リットル濃度の塩化アルミニウム水溶液33mL、1モル/リットル濃度の塩化マグネシウム水溶液7mLを添加した。次いで、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を更に加えてpHを10に調整した。これにより生じた共沈ゲルをろ過し、300mLの純水で5回洗浄した後、更に全体量が120mLとなるよう水を添加した。そこに、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10.5に調整してスラリーを得た。
【0069】
続いてステンレス製オートクレーブ中にスラリーを仕込み、350℃、24時間、自生圧力の条件下で水熱反応させた。得られた反応生成物を、80℃で乾燥し、更に粉砕した。こうして、交換性陽イオンとしてナトリウムイオンを有するモンモリロナイト型合成粘土材料である第1の粘土材料を得た。
【0070】
<イオン交換(第2、第3及び第4工程)>
得られた第1の粘土材料2gをビーカー中に入れ、これに50gの純水(20℃)を加えてテフロン(登録商標)回転子で撹拌することにより、第1の粘土材料が水に分散した分散液を得た。この分散液に、水酸化リチウム一水和物を0.8g加えて、25℃、大気中で1時間放置した。
【0071】
その後、市販の遠心分離器を用いて、3000Gの遠心加速度で10分間回転して分散液から上澄み液を除去し、純水を50g加えた(遠心分離操作1)。この遠心分離操作1を合計3回繰り返し行って、第1の粘土材料の層間にあるナトリウムイオンの少なくとも一部がリチウムイオンに置換された分散液を得た。
【0072】
次いで、上述の遠心分離器を用いて、3000Gの遠心加速度で10分間回転して該分散液から上澄み液を除去し、再び純水を50g加えた(遠心分離操作2)。この遠心分離操作2を合計3回繰り返し行って、過剰のリチウムイオンを洗浄除去した。その後、分散液から、上記遠心分離条件によって上澄み液を除去し沈降物を得た。この沈降物を80℃で乾燥して、更に粉砕することにより、交換性陽イオンの少なくとも一部がリチウムイオンである合成粘土材料を得た。
【0073】
<粘土フィルムの作製(第5及び第6工程)>
得られた合成粘土材料0.5gをビーカー中に入れ、これに25gの純水(20℃)を加えてテフロン(登録商標)回転子で撹拌することにより、合成粘土材料が水に分散した分散液を得た。この分散液を5cm角の底面を有する直方体形状のポリプロピレン製容器に高さ5mmまで注いだ。次に、その容器を熱風循環式の乾燥機(いすゞ株式会社製、製品名:EPFH)中に収容し、60℃で4時間加熱して、分散液中の水分を乾燥除去した。こうして、層間にリチウムイオンを有する厚さ約80μmのフィルム状の合成粘土材料を得た。
【0074】
次いで同じ熱風循環式の乾燥機中で300℃、30分間の加熱処理を上記合成粘土材料に施し、層間のリチウムイオンを層の内部に移動させて粘土フィルムを得た。
【0075】
(実施例2)
水酸化リチウム一水和物0.8gの代わりに塩化リチウム0.8gを使用したこと以外は実施例1と同様にして合成粘土材料及び粘土フィルムを作製した。
【0076】
(実施例3)
合成粘土材料に施す加熱処理の条件を、300℃、30分間から、150℃、1時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして粘土フィルムを作製した。
【0077】
(実施例4)
第1の粘土材料の調製(第1工程)を下記のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして合成粘土材料及び粘土フィルムを作製した。
【0078】
まず、3号水ガラス(SiO含有割合:28質量%)17.2gを水100gに添加して希釈溶液を調製した。次いで、16規定の硝酸6mLをその希釈溶液に加えた後、更に1モル/リットル濃度の塩化マグネシウム水溶液56mLを添加した。次いで、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を更に加えてpHを10に調整した。これにより生じた共沈ゲルをろ過し、300mLの純水で5回洗浄した後、更に全体量が120mLとなるよう水を添加した。そこに、1規定の水酸化ナトリウム水溶液を加えpHを10.5に調整してスラリーを得た。
【0079】
続いてステンレス製オートクレーブ中にスラリーを仕込み、250℃、3時間、自生圧力の条件下で水熱反応させた。得られた反応生成物を、80℃で乾燥し、更に粉砕した。こうして、交換性陽イオンとしてナトリウムイオンを有するスティーブンサイト型合成粘土材料である第1の粘土材料を得た。
【0080】
(比較例1)
イオン交換(第2、第3及び第4工程)を省略し、粘土フィルムの作製(第5及び第6工程)を下記のようにした以外は実施例1と同様にして粘土フィルムを得た。
【0081】
第1の粘土材料0.5gをビーカー中に入れ、これに25gの純水(20℃)を加えてテフロン(登録商標)回転子で撹拌することにより、第1の粘土材料が水に分散した分散液を得た。この分散液を5cm角の底面を有する直方体形状のポリプロピレン製容器に高さ5mmまで注いだ。次に、その容器を熱風循環式の乾燥機(いすゞ株式会社製、製品名:EPFH)中に収容し、60℃で4時間加熱して、分散液中の水分を乾燥除去した。こうして、層間にナトリウムイオンを有する厚さ約80μmのフィルム状の第1の粘土材料を得た。
【0082】
次いで同じ熱風循環式の乾燥機中で300℃、30分間の加熱処理を上記第1の粘土材料に施して粘土フィルムを得た。
【0083】
<合成粘土材料の評価>
上記合成粘土材料について、加熱処理前後の水分散性をX線回折測定により評価した。また、合成粘土材料の加熱処理前後の吸水率及びイオン交換容量も評価した。
【0084】
[水分散性評価]
水中に合成粘土材料を投入し、超音波により十分撹拌した。その後、合成粘土材料が混在した状態の水をX線回折装置((株)リガク製、商品名「ATX−G」)セルにセットして、水中での合成粘土材料のX線回折を測定した。測定は、CuKα線を使用して、2θを2度から70度まで2度/分でスキャンして行った。その結果、合成粘土材料が本来有すべき(001)面の面間隔に起因するピークが認められない場合を水分散性「あり」と判断し、そのようなピークが認められた場合を水分散性「なし」と判断した。結果を表1に示す。
【0085】
次に、合成粘土材料に対して、上記熱風循環式の乾燥機中で、400℃、30分間の加熱処理を施した。加熱処理後の合成粘土材料を上記と同様に水に投入して撹拌した後、水中でのX線回折を測定した。その結果、上記と同様にして水分散性の有無を判断した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
[吸水率測定]
合成粘土材料を相対湿度60%、温度25℃の雰囲気中に放置して十分に吸湿させた。その吸湿後の合成粘土材料の質量を測定した。次いで、吸湿後の合成粘土材料を熱重量分析装置のセルにセットして熱重量分析を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分、系内の空気流量50cc/分、測定温度範囲25℃〜300℃とした。熱重量分析による質量減少率から吸水率を導出した。結果を表1に示す。
【0088】
次に、合成粘土材料に対して、上記熱風循環式の乾燥機中で、400℃、30分間の加熱処理を施した。加熱処理後の合成粘土材料について上記と同様にして吸水率を導出した。結果を表1に示す。
【0089】
[イオン交換容量の測定]
まず、Schllenberger法で合成粘土材料中の交換性陽イオンをアンモニウムイオンに交換した。その後、さらにアンモニウムイオンをナトリウムイオンに交換し、その際に溶出したアンモニウムイオンを定量することにより行った。具体的には、まず、1gの合成粘土材料を秤量し、5gのシリカ分と混合して浸出管に充填した。次いで、その浸出管に1Nの酢酸アンモニウム溶液100mLを10時間かけて滴下して、交換性陽イオンをアンモニウムイオンに交換した。その後、その浸出管に80質量%のエタノール水溶液を1時間かけて滴下して、過剰のアンモニウムイオンを洗浄除去した。次に、その浸出管に10%塩化ナトリウム溶液を5時間かけて滴下して、アンモニウムイオンを抽出した。そして、抽出したアンモニウムイオンをイオンクロマト法により定量し、イオン交換容量を算出した。結果を表1に示す。
【0090】
次に、合成粘土材料に対して、上記熱風循環式の乾燥機中で、400℃、30分間の加熱処理を施した。加熱処理後の合成粘土材料について上記と同様にしてイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
<粘土フィルムの評価>
上記粘土フィルムを試料フィルムとして、浸漬試験、X線回折測定及び水蒸気透過率測定を行った。また、実施例1の粘土フィルムの作製(第5及び第6工程)の途中で得られたフィルム状の合成粘土材料を試料フィルムとして、同様に浸漬試験、X線回折測定及び水蒸気透過率測定を行った。
【0092】
[浸漬試験]
100gの純水中に試料フィルム4cmを浸漬し、25℃で24時間放置した後、試料フィルムを純水中に保持したまま目視で形状観察を行い、変形の有無を判定した。結果を表1に示す。
【0093】
[X線回折測定(XRD)]
上記と同じX線回折装置を用いて試料フィルムのX線回折を測定した。測定は、CuKα線を使用して、2θを2度から70度まで2度/分でスキャンして行った。測定結果から、試料フィルムの(001)面の面間隔を求めた。原料として用いたNa型モンモリロナイトの(001)面の面間隔と測定結果から得られる(001)面の面間隔とを比較した。結果を表1に示す。
【0094】
[水蒸気透過率測定]
感湿センサー(Lyssy社製、商品名:L80−5000型)を用いて水蒸気透過率測定を行った。50cmの試料フィルムで上下に隔てられた空間の下側の雰囲気を相対湿度100%に、上側の雰囲気を相対湿度9.9%以下にそれぞれ調整した。そして、この粘土フィルムを透過する水蒸気によって、試料フィルムの上側の雰囲気の相対湿度が9.9%から10.1%になるまでの時間から水蒸気透過率(g/(m・day))を算出した。結果を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】実施形態に係る合成粘土材料の層構造を部分的に示す模式図である。
【図2】実施形態に係る合成粘土材料の製造方法を模式的に示す工程図である。
【図3】実施形態に係る合成粘土材料から得られる粘土フィルムの層構造を部分的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0096】
1、2…八面体シート、3…四面体シート、10、20…層、100…合成粘土材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する分散性を示し、かつ400℃での加熱処理により前記分散性を失う合成粘土材料。
【請求項2】
交換性陽イオンをイオン交換容量で50〜150ミリ当量/100g含有し、前記加熱処理により前記イオン交換容量が30ミリ当量/100g以下に減少する、請求項1記載の合成粘土材料。
【請求項3】
前記交換性陽イオンの80原子%以上がリチウムイオンである、請求項2記載の合成粘土材料。
【請求項4】
主としてモンモリロナイト構造及び/又はスティーブンサイト構造を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成粘土材料。
【請求項5】
前記交換性陽イオンとしてのナトリウムイオンのイオン交換容量が20ミリ当量/100g以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の合成粘土材料。
【請求項6】
吸水率が10%以上であり、前記加熱処理により前記吸水率が5%以下に減少する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の合成粘土材料。
【請求項7】
主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有する八面体結晶構造からなる八面体シートと、
主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有する四面体結晶構造からなる四面体シートと、
を備える層、並びに、
前記層の間に挟まれたリチウムイオン
を含む合成粘土材料。
【請求項8】
主としてアルミニウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと酸素イオン及び/又は水酸化物イオンとを有する八面体結晶構造からなる八面体シートと、
主としてケイ素イオンと酸素イオンとを有する四面体結晶構造からなる四面体シートと、
を備える層、並びに、
前記層の間に挟まれたリチウムイオン
を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の合成粘土材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の合成粘土材料をフィルム状に成形してなる粘土フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247695(P2008−247695A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93444(P2007−93444)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】