説明

合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法

【課題】 最適な合金層を形成することによりウィスカの発生を防止することができる合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】 錫メッキ銅線条体10を高周波電圧が印加され磁界が生じたコイル12の上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体10に誘導電流を発生させて発熱させるので、急峻な立ち上がりで錫メッキ銅線条体10を加熱することができ、合金層11を形成することができる。また、温度の調整は、高周波電圧の制御のみならず、錫メッキ銅線条体10の送り速度の調整、非接触なのでコイル12と錫メッキ銅線条体10との距離の調整等により行うことができる。このとき、錫メッキ銅線条体10を錫の融点より若干低い温度に加熱するので、合金層11を形成するとともに錫だまりの発生を抑えて、ウィスカの発生を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法に係り、例えば錫メッキ銅を合金化する合金の製造方法および電子機器等に用いられる多心のフラットケーブルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化に伴い、これらに搭載される電子部品、配線用部品等の小型化が進んでいる。特に、電気配線のための配線部材は、限られたスペースで高密度の配線が可能なものが要望されている。このような配線部材としては、可撓性の回路基板や平型導体を用いたフラットケーブル、また、これらの接続に用いられる電気コネクタ等がある。これらの配線部材は、多数の電気導体が高密度に配され互いに電気的に絶縁されるとともに、良好な電気接続の保証が求められている。
【0003】
これらの配線部材の電気導体には、通常、導電率がよく、延性に富み、適度な強度を有し、他の金属によるメッキが容易な銅が用いられている。この銅を用いた配線部材には、一般に、耐腐食性、半田付け性を目的として錫メッキが施されている。錫メッキは、通常、電気メッキにより形成されるが、この電気錫メッキの表面に針状結晶体(以下、「ウィスカ」という。)が発生することが知られている。
【0004】
特に、銅系の金属材料に錫メッキをすると、銅原子が錫メッキ膜中に拡散して、銅−錫金属間化合物を作る。この金属間化合物は、錫と結晶構造が異なり、格子間距離に歪ができるため、錫メッキ膜中に圧縮応力が生じる。この圧縮応力がウィスカ成長の駆動力となるので、銅系材料上に錫メッキを施した場合には、ウィスカが発生しやすいとも言われている。例えば、図5に示すような、平角の錫メッキ銅線101を上下フィルム102、103によってラミネートしたフラットケーブル100においてウィスカ104が発生すると、錫メッキ銅線101間を電気的に短絡する原因となるため、今までに種々の改善策が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、錫メッキ導体を圧延または伸線した後に、温度232℃〜350℃で0.5秒〜3秒熱処理することにより、フラットケーブルにおけるウィスカの発生を抑えることが示されている。また、特許文献2には、ウィスカの発生を抑えるために、錫メッキ材を180℃〜錫の融点温度の範囲内の所定温度まで、昇温速度5℃〜100℃/秒で急速加熱し、所定温度に180秒以内の間保持して熱処理することが示されている。
【特許文献1】特開2001−73186号公報
【特許文献2】特公昭62−3239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、銅導体からなる平角導体を備えたフレキシブルなフラットケーブルを製造するためには、圧延した平角導体を熱処理して軟化させて良好な可撓性を確保する必要があり、このため、平角導体に通電してジュール熱を発生させて加熱する通電アニールを行っている。
しかし、この通電アニールは、温度を細かく制御することができないため、銅導体に形成された錫メッキが溶けだして長さ方向に移動してしまい、錫メッキの厚さにばらつきが生じてしまう。
【0007】
そして、このように錫メッキの厚さにばらつきが生じると、特許文献1、2のようなウィスカの低減のための熱処理を行ったとしても、錫メッキの厚さが厚くなった部分にコネクタ端子が当たることにより、ウィスカが成長して短絡が発生するなどの不具合が生じてしまう。また、錫メッキの厚さが薄くなった部分では、コネクタ端子との接続信頼性が低下してしまうという不都合がある。
【0008】
例えば、特許文献1に記載の熱処理では、錫の融点以上で加熱を行うために、溶融した錫が移動して錫メッキの厚さにばらつきが生じやすい。
また、特許文献2に記載の熱処理では、基材の銅を軟化させるものではなく、良好な可撓性を有するフラットケーブルの導体を形成する際の熱処理として適していない。
【0009】
本発明の目的は、最適な合金層を形成することによりウィスカの発生を防止することができる合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明にかかる合金の製造方法は、錫メッキ銅線条体に錫銅合金層を形成する合金の製造方法であって、前記錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイル上を通過させて、前記錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させることにより発熱させて前記錫銅合金層を形成することにある。
【0011】
このように構成された合金の製造方法においては、錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイルの上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させて発熱させるので、急峻な立ち上がりで錫メッキ銅線条体を加熱することができ、合金層を形成することができる。また、温度の調整は、高周波電圧の制御のみならず、錫メッキ銅線条体の送り速度の調整、コイルと錫メッキ銅線条体との距離の調整等により行うことができる。
【0012】
また、本発明にかかる合金の製造方法では、前記錫メッキ銅線条体を錫の融点よりも低い温度で加熱することが望ましい。この場合、合金層を形成するとともに錫だまりの発生を抑えるので、ウィスカの発生をさらに抑えることができる。
【0013】
また、本発明にかかるフラットケーブルの製造方法は、複数本の錫メッキ銅線条体を一つの面上に供給して配列し、配列された前記複数本の錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイル上を通過させて、前記錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させることにより発熱させて錫銅合金層を有する錫メッキ銅線条体を形成し、前記錫メッキ銅線条体を絶縁樹脂で被覆することにある。
【0014】
このように構成されたフラットケーブルの製造方法においては、一つの面上に供給されて配列された複数本の錫メッキ銅線条体を、高周波電圧が印加されたコイルの上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させて発熱させるので、急峻な立ち上がりで錫メッキ銅線条体を加熱することができ、合金層を形成することができる。このとき、温度の調整は、高周波電圧の制御や錫メッキ銅線条体の送り速度等により行うことができる。また、コイルと錫メッキ銅線条体との距離を調整することでも温度調整を行うことができる。その後、整列された複数本の錫メッキ銅線条体を絶縁樹脂で被覆してフラットケーブルを製造する。
【0015】
また、本発明にかかるフラットケーブルの製造方法では、前記錫メッキ銅線条体を錫の融点よりも低い温度で加熱することが望ましい。この場合、合金層を形成するとともに錫だまりの発生を抑えるので、ウィスカの発生をさらに抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイルの上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させて発熱させるので、極短時間のうちに錫メッキ銅線条体を錫銅合金が形成される温度にまで昇温することができ、合金層形成の効率がよい。また、コイルの上方を通過した錫メッキ銅線条体を絶縁樹脂で被覆してフラットケーブルとする場合には、錫銅合金が形成される温度にまで錫メッキ銅線条体を昇温する時間が極短いので、線速を上げてフラットケーブルの生産効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る合金の製造方法を示す斜視図であり、図1(A)はコイルが単円の場合を示す斜視図、図1(B)はコイルが多重円の場合を示す斜視図、図2(A)は合金層が形成された錫メッキ銅線条体の断面図、図2(B)は従来のメッキ層の断面図である。
【0018】
図1(A)および(B)に示すように、本発明の一実施形態である合金の製造方法では、錫メッキ銅線条体10に錫銅合金層11(図2(A)参照)を形成するために、錫メッキ銅線条体10を高周波電圧が印加され磁界が生じたコイル12上を通過させて、錫メッキ銅線条体10に誘導電流を発生させることにより発熱させて錫銅合金層11を形成する。
なお、コイル12には、錫メッキ銅線条体10を錫の融点よりも僅かに低い温度、例えば230℃程度まで加熱する磁力を発生させるように高周波電圧を印加する。
【0019】
コイル12は、図1(A)に示すような単円(一重)でもよいが、その他、磁場分布を均一にするためには、図1(B)に示すような多重円のものがよい。また、コイル12を形成する材料は、冷却構造を有する。例えば、冷媒を流すことのできる銅パイプ(例えば直径数mm)が使用可能である。磁場を整えるためにフェライト等を使用すると、誘導電流の発生効率が上がる。
【0020】
また、錫メッキ銅線条体10を一定の温度以下に抑えるためには、コイルが発生する磁束を制御する。磁束を制御するために、コイルに印加される高周波電圧を制御する。その他、錫メッキ銅線条体10の送り速度等を調整することにより制御することが可能である。また、錫メッキ銅線条体10とコイル12とは非接触なので、錫メッキ銅線条体10とコイル12との距離を調整することでも温度調整できる。また、これらを同時に制御することも可能である。
【0021】
図2(A)には、本発明に係る合金の製造方法によって合金化した錫メッキ銅線条体10Bの断面が示されている。すなわち、図2(B)に示すように、合金化前の錫メッキ銅線条体10Aにおいては、3層構造のCuSn/CuSn/Snのメッキ層においてSuCu合金形成は不十分である。一方、図2(A)に示すように、本発明を適用した錫メッキ銅線条体10では、コイル12の上を通過させて加熱することにより、合金層11が厚くなってSu層が薄くなっている。
【0022】
以上、前述した合金の製造方法によれば、錫メッキ銅線条体10を高周波電圧が印加され磁界が生じたコイル12の上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体10に誘導電流を発生させて発熱させるので、急峻な立ち上がりで錫メッキ銅線条体10を加熱することができ、錫メッキ銅線条体が合金層11を形成するのに必要な温度となるまでの時間が極短い。このとき、錫メッキ銅線条体10を錫の融点より若干低い温度(例えば230℃)に加熱するようにするので、合金層11を形成するとともに、錫だまりの発生を抑えて錫層を薄く(例えば、0.1μm以下)して、ウィスカの発生を抑えることができる。
【0023】
次に、本発明の実施形態に係るフラットケーブルの製造方法について説明する。
図3はフラットケーブルの断面図であり、図4は本発明に係るフラットケーブルの製造方法を実施するための製造装置の一例を示す構成図である。なお、合金の製造方法において前述した図1および図2における部位と共通する部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略することとする。
本発明に係るフラットケーブルの製造方法では、図3に示すように、複数本(例えば60心)の錫メッキ銅線条体10を一つの面上に供給して配列し、配列された複数本の錫メッキ銅線条体10を高周波電圧が印加され磁界が生じたコイル12上を通過させて、錫メッキ銅線条体10に誘導電流を発生させることにより発熱させて錫銅合金層を有する錫メッキ銅線条体10を形成する。その後、錫メッキ銅線条体10を絶縁樹脂で被覆してフラットケーブル30を製造するものである。錫メッキ銅線条体を絶縁樹脂で被覆するのは、図4に示したように、絶縁フィルム13a、13bで上下に挟んでローラ25で絶縁フィルム13a、13bを加熱・加圧しながら圧着して、錫メッキ銅線条体10をラミネートする方法がある。この他に絶縁樹脂を押出被覆することもできる。
【0024】
フラットケーブル30の断面として、幅0.3mm、厚さ0.035mmの平角型の錫メッキ銅線条体10を、0.2mmの間隔で60本配列したものを例示することができる。
コイル12は、錫メッキ銅線条体10を錫の融点よりも僅かに低い温度(例えば、230℃)まで加熱する電力が供給されている。なお、コイル12の形状や温度調整等に付いては、合金の製造方法において説明したものと同様であるが、コイル12の直径は、上記の寸法のフラットケーブル(60本の導体の幅が30mm)だと、60mm程度が望ましい。
【0025】
図4に示すように、本発明に係るフラットケーブルの製造方法を実施するフラットケーブルの製造装置20は、上流側に、平角の錫メッキ銅線条体10が巻き取られている複数個の銅線条体供給リール21を有しており、この銅線条体供給リール21から供給される複数本の錫メッキ銅線条体10を平面上に並列するローラ22を有している。ローラ22の下流側には、錫メッキ銅線条体10を加熱するコイル12を有する加熱手段23が設けられており、ここで錫メッキ銅線条体10は加熱されて合金層11を形成する。加熱手段23の下流側には、並列されて合金層が形成された錫メッキ銅線条体10の上下に絶縁フィルム13a、13bを供給する一対の絶縁フィルム供給リール24と、供給された絶縁フィルム24で錫メッキ銅線条体10をラミネートする一対のロール25、25が設けられている。このロール25、25は、絶縁フィルム13を加熱すると同時に加圧して、上下の絶縁フィルム13を一体化させる。絶縁フィルム13がラミネートされて形成されたフラットケーブル30は、巻取りリール26に巻き取られる。
【0026】
以上、前述したフラットケーブルの製造方法によれば、一つの面上に供給されて配列された複数本の錫メッキ銅線条体10を、高周波電圧が印加され磁界が生じたコイル12の上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体10に誘導電流を発生させて発熱させるので、錫メッキ銅線条体10を急速に加熱することができ、線速を上げても合金層11を形成することができる。フラットケーブルの製造工程に錫銅合金層形成工程を組み込んで、しかも合金層形成のために余分な時間を必要としない。このとき、錫メッキ銅線条体10を錫の融点より若干低い温度に加熱するので、合金層11を形成するとともに錫だまりの発生を抑えて、ウィスカの発生を抑えることができる。
【0027】
なお、本発明の合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、前述した実施形態においては、コイル12の形状として円形の場合を例示したが、その他、楕円形、長円形、U字状等でも可能である。
また、錫メッキ銅線条体10として、銅の上下一方の面にのみ錫をメッキした場合について説明したが、銅の上下両面に錫メッキした場合もまったく同様に適用することができる。
【0028】
なお、コイル12の上を通過する時間が、合金層11を形成するのに必要な時間よりも短い場合には、コイル12を進行方向へ複数個並べて、コイル12の上にある時間を調整することも可能である。錫銅メッキ線条体を発熱させて錫銅合金層を形成する工程を、錫メッキ銅線条体に樹脂フィルムをラミネートする工程の直前に同一のラインで実施することにより、別に加熱する必要がなく、工程削減による製造コストの低減が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上のように、本発明に係る合金の製造方法およびフラットケーブルの製造方法は、錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加され磁界が生じたコイルの上方を通過させることにより、錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させて発熱させるので、急峻な立ち上がりで錫メッキ銅線条体を加熱することができ、合金層を形成することができる。また、錫メッキ銅線条体を錫の融点より若干低い温度に加熱することにより、合金層を形成するとともに錫だまりの発生を抑えて、ウィスカの発生を抑えることができるという効果を有し、錫メッキ銅を合金化する合金の製造方法および電子機器等に用いられる多心のフラットケーブルの製造方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)はコイルが単円の場合を示す斜視図である。 (B)はコイルが多重円の場合を示す斜視図である。
【図2】(A)は合金層が形成された錫メッキ銅線条体の断面図である。 (B)は従来のメッキ層の断面図である。
【図3】フラットケーブルの断面図である。
【図4】本発明に係るフラットケーブルの製造方法を実施するための製造装置の一例を示す構成図である。
【図5】従来の錫メッキ銅線条体における問題点を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 錫メッキ銅線条体
11 錫銅合金層
12 コイル
13 絶縁フィルム
30 フラットケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫メッキ銅線条体に錫銅合金層を形成する錫銅合金の製造方法であって、
前記錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイル上を通過させて、前記錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させることにより発熱させて前記錫銅合金層を形成することを特徴とする合金の製造方法。
【請求項2】
前記錫メッキ銅線条体を錫の融点よりも低い温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の合金の製造方法。
【請求項3】
複数本の錫メッキ銅線条体を一つの面上に供給して配列し、配列された前記複数本の錫メッキ銅線条体を高周波電圧が印加されたコイル上を通過させて、前記錫メッキ銅線条体に誘導電流を発生させることにより発熱させて錫銅合金層を有する錫メッキ銅線条体を形成し、前記錫メッキ銅線条体を絶縁樹脂で被覆することを特徴とするフラットケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記錫メッキ銅線条体を錫の融点よりも低い温度で加熱することを特徴とする請求項3に記載のフラットケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−311258(P2007−311258A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140758(P2006−140758)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】