説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】Fe-Zn合金めっき相を少なくとも鋼板の片面に有し、さらに、前記Fe-Zn合金めっき相の表面には、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物を共存させること、さらにSnの付着量が0.05g/m2以上であり、Znを必須成分とする酸化物の平均膜厚が10nm以上であることにより、過酷な条件でのプレス成形時にも優れた摺動性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高く型かじりを生じやすい材料においても、優れたプレス成形性を有する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は合金化処理を施さない亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用されている
。そのような用途での合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での合金化溶融亜鉛めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で合金化溶融亜鉛めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散し合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金相を形成させたものである。このFe−Zn合金相は、通常、Γ相、δ相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ1相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0004】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じやすい問題を有している。このため特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられる。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、加工性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
特許文献4には亜鉛系めっき鋼板表面に、リン酸ナトリウム5〜60g/lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行う、または上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術が開示されている。
【0008】
特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術が開示されている。
【0009】
特許文献6には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液に接触させることで鋼板表面にZnを主体とする酸化物を形成させ、めっき層とプレス金型の凝着を抑制し、摺動性を向上させる技術が開示されている。
【0010】
亜鉛系めっき層の上層に金属酸化物被膜を形成する技術として、特許文献7には、Mo,V,Cu,Snの金属酸化物皮膜、特許文献8には、Ni,Mn,Ti,Co,Ca,V,W,Sn,Feの金属酸化物被膜を形成する技術が開示されている。また、特許文献9には、亜鉛系めっき層の上に形成された金属酸化物被膜を、島状またはモザイク状に分布させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開平1−319661号公報
【特許文献2】特開昭53-60332号公報
【特許文献3】特開平2−190483号公報
【特許文献4】特開平4−88196号公報
【特許文献5】特開平3−191093号公報
【特許文献6】特開2003-306781号公報
【特許文献7】特開平5-214558号公報
【特許文献8】特開平7-18400号公報
【特許文献9】特開平6−116746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜9は、自動車外板に多く使用される比較的強度の低い合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対しては有効であるが、プレス成形時の荷重が高いがゆえに金型との接触面圧が上昇する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、必ずしもプレス成形性の改善効果を安定して得ることはできない。
【0012】
また、特許文献7〜9に開示されている、亜鉛系めっき鋼板の表面層にSnの酸化物被膜を形成する技術は、Snの酸化物がめっき層と比べて硬質であることを利用するもので、Zn系酸化物のみの場合よりは改善効果は見られるものの、改善効果は不十分であった。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑み、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板などの成形荷重が高く型かじりが生じやすい材料においても優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、さらに鋭意研究を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
【0015】
特許文献6の方法により製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面には、Znを主体とする酸化物層が形成されており、このZnを主体とする酸化物層がプレス時に金型との凝着を抑制し摺動抵抗を低減している。しかし、めっきの下地鋼板として高強度鋼を使用する場合は、軟質鋼よりも成形荷重が高く型かじりや割れを生じやすく、特許文献6に記載されるZn系酸化物層では効果が不十分であることがわかった。また、特許文献7〜9に記載されているようにSn酸化物層を存在させると改善効果は見られるものの、不十分であることがわかった。
【0016】
そして、さらに研究を進めた結果、本発明者らは、Zn系酸化物層のみでは成形荷重が高い場合でも高い潤滑性を発現するには限界があり、Zn系酸化物層に加えて金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子を混在させることで、格段に高い摺動性が得られることを知見した。この理由は、明らかではないが、めっき成分であるZn-Fe合金やZn系酸化物と比較してやわらかい金属(Sn)が表面に存在することにより、金型とのせん断抵抗が低下する効果が付与されたためだと考える。また、本発明では金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子とZn系酸化物とを混在させることにより、Zn系酸化物による凝着抑制効果との協奏効果もあると推定している。
【0017】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]Fe-Zn合金めっき相を少なくとも鋼板の片面に有し、さらに、前記Fe-Zn合金めっき相の表面には、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物が存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]前記[1]において、Snの付着量が0.05g/m以上であり、Znを必須成分とする酸化物の平均膜厚が10nm以上であることを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、優れたプレス成形性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、その表面がFe-Zn合金で構成されている。プレス成形性を安定して改善するためには、上記のようなFe-Zn合金で構成されている合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面における金型との摺動抵抗を小さくすることが重要である。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の摺動抵抗を小さくする方法として、めっき表面にZn系の酸化物を存在させることが挙げられる。このめっき表面のZn系の酸化物は金型との凝着を防止し、摺動特性の向上に有効である。しかし、プレス成形時の荷重が高い場合等、より厳しい条件になると、めっき表面と金型との高面圧で接触し、高面圧で摺動を受けるため、めっき表面にZn系酸化物が存在してもめっき表面と金型とが直接接触し凝着を起こす。その場合はめっき合金と金型とのせん断応力が大きな摺動抵抗となる。ここで、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子を混在させると、この摺動抵抗が低減する。この理由は、軟らかい金属Snが存在することにより、それが摺動時に延ばされめっき表面と金型との間に広がり両者の直接接触を防止することによると考えている。金属Snは非常にせん断応力が小さいことから、金型とめっき表面の接触抵抗は小さいものとなる。ただし、金属SnはZn系酸化物と同時に存在することが必要である。例えば、合金化溶融亜鉛めっき表面に金属Snだけを付与しても接触抵抗を低減する効果はあるが、Sn層は変形しやすいためめっきの凹凸の頂点や金型の凹凸部で容易に寸断され、短時間でその効果は消失する。従って、その効果は不十分である。また、本発明では、金属SnをZn系酸化物と混在させることにより、比較的高融点で硬いZn系酸化物の凝着抑制も利用する。また、金属Snを層状ではなく粒子状にすることで潰れた場所でその効果を発揮できるようにしている。Zn系酸化物は、また、金属Sn粒子をめっき表面で保持する効果もあるとも推定している。
【0020】
以上より、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、Fe-Zn合金めっき相を少なくとも鋼板の片面に有し、さらに、前記Fe-Zn合金めっき相の表面には、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物が存在することとする。これは本発明において、最も重要な要件である。
【0021】
粒子中のSnは、金属状態を主体とするが、表面等、一部が酸化物となっていてもよい。Sn付着量もZnを必須成分とする酸化物の平均膜厚も増加するほど高い摺動性向上効果が得られるが、Sn付着量0.05g/m以上、Znを必須成分とする酸化物膜厚10nm以上とすることが好ましい。めっき表面に調質圧延などにより平坦な凸部を設けている場合は、少なくともその部分のZnを必須成分とする酸化物膜厚が10nm以上であることが好ましい。
【0022】
Sn付着量もZnを必須成分とする酸化物膜厚も特に上限は定めないが、Sn付着量5g/m超、Znを必須成分とする酸化物の平均膜厚80nm超では改善効果が小さくなり不経済である。
【0023】
また、金属Sn粒子の形状は特に規定するものではなく、円形に限らず、いびつな形状でもよい。粒子の大きさも特に規定するものではなく、剥離に問題がなければよい。例えば、粒子の最も長い部分と短い部分の平均値を平均粒子径とすると、平均粒子径2μm以下のような微粒子で十分効果を発揮する。
また、金属Sn粒子の分布状態も特に規定するものではなく、偏析していてもよいが、金属Sn粒子の個数が20μm×20μmの面積あたり、1個以上存在することが好ましい。めっき表面に調質圧延などにより平坦な凸部を設けている場合、そこに優先的に金属Snを付与することは、平坦な凸部が金型と直接接触する確率が高いため、より効果的である。
【0024】
図1は、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の一実施形態を示す透過電子顕微鏡写真である。詳細には、図1は、本発明例の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面から、アセチルセルロースフィルムを用いて付着物をはぎとった状態の、透過電子顕微鏡(TEM)像である。図1において、像のなかで暗く見える粒子状の物質は金属Sn粒子である。図1では、1μm程度以下の粒子径の金属Snが分散している様子がわかる。
TEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDS)により図1中の粒子を分析した結果、主成分はSnであったが、ZnやOなども検出された。このように、金属Sn粒子は若干のZnを含有したり、表層等の一部が酸化している可能性があるものの、主体は金属Sn粒子である。
また、Znを必須成分とする酸化物層とは、少なくともZnとOを含んでいればよく、水酸化物など、その他の元素が結合している場合も含まれる。
【0025】
なお、本発明では、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物が鋼板表面に存在していれば摺動性に優れるため、その他の金属イオンや無機化合物などを金属粒子中あるいは酸化物層中に不純物として、あるいは故意に含有していても本発明の効果が損なわれるものではない。
【0026】
鋼板表面に、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物が存在すればよく、形成方法は特に規定するものではないが、例えば、Snを含む酸性溶液に接触させる方法が挙げられる。製法の一例を以下に示す。具体的には、鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、さらに加熱処理により合金化し、必要により調質圧延を施して平坦部を形成した後、Snイオンを含む酸性溶液に接触させ、接触終了後1〜120秒放置した後、水洗を行うことにより、めっき表面に金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子とZn系酸化物を同時に形成することができる。酸により、Znの溶解および水酸化Znの沈殿と、金属Snの置換析出を同時に起こさせることがポイントである。酸性溶液中のSn濃度やSn源は、表面に金属Sn粒子が存在するように適宜選択して調整すればよいが、例えば、Snの硫酸塩、硝酸塩、塩化物、リン酸塩等を、Snイオン濃度として0.1〜50g/lの範囲で含有することが好ましい。イオン濃度が0.1g/l未満では、金属Snの析出が不十分であり摺動性向上効果が不十分な場合がある。一方、50 g/lを超えると、Zn系酸化物の形成が不安定な場合がある。
【0027】
使用する酸性溶液は、pH2.0〜5.0の領域においてpH緩衝作用を有するものが好ましい。これは、pH2.0〜5.0の領域でpH緩衝作用を有する酸性溶液を使用すると、酸性溶液に接触後、所定時間保持することで、酸性溶液とめっき層の反応によるZnの溶解とZn系酸化物の形成反応が十分に生じ、鋼板表面に酸化物層を安定して得ることができるためである。Snはこの間に金属Snとして表面に析出する。このようなpH緩衝性を有する酸性溶液としては、酢酸ナトリウム(CH3COONa)などの酢酸塩やフタル酸水素カリウム((KOOC)2C6H4)などのフタル酸塩、クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7)やクエン酸二水素カリウム(KH2C6H5O7)などのクエン酸塩、コハク酸ナトリウム(Na2C4H4O4)などのコハク酸塩、乳酸ナトリウム(NaCH3CHOHCO2)などの乳酸塩、酒石酸ナトリウム(Na2C4H4O6)などの酒石酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種類以上を、前記各成分含有量を5〜50g/lの範囲で含有する水溶液を使用することが好ましい。前記濃度が5g/l未満では、亜鉛の溶解とともに溶液のpH上昇が比較的すばやく生じるため、摺動性の向上に十分な酸化物層を形成することができない。一方、50g/lを超えると、亜鉛の溶解が促進され、酸化物層の形成に長時間を有するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。
酸性溶液のpHとしては0.5〜2.0の範囲にあることが望ましい。酸性溶液のpHが0.5〜2.0の範囲より高い場合は硫酸等のpH緩衝性のない無機酸でpH調製することが好ましい。
【0028】
酸性溶液の温度は、20〜70℃の範囲であることが好ましい。20℃未満では、酸化物層の生成反応に長時間を有し、生産性の低下を招く場合がある。一方、温度が高い場合には、反応は比較的すばやく進行するが、逆に鋼板表面に処理ムラを発生しやすくなるため、70℃以下の温度に制御することが望ましい。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、めっき鋼板を酸性溶液に浸漬する方法、めっき鋼板に酸性溶液をスプレーする方法、塗布ロールを介して酸性溶液をめっき鋼板に塗布する方法等があり、最終的に薄い液膜状で鋼板表面に存在することが望ましい。これは、鋼板表面に存在する酸性溶液の量が多いと、亜鉛の溶解が生じても溶液のpHが上昇せず、次々と亜鉛の溶解が生じるのみであり、酸化物層を形成するまでに長時間を有するだけでなく、めっき層の損傷も激しく、本来の防錆鋼板としての役割も失うことが考えられるためである。この観点から、鋼板表面に形成する溶液膜量は、100g/m2以下に調製することが好ましい。なお、溶液膜量の調整は、絞りロール、エアワイピング等で行うことができる。
【0029】
また、酸性溶液に接触後、水洗までの時間(水洗までの保持時間)は、1〜120秒間が好ましい。水洗までの時間が1秒未満であると、溶液のpHが上昇し金属Sn粒子とZn系酸化物層が形成される前に、酸性溶液が洗い流されるために、摺動性の向上効果が得られない。また120秒を超えても、鋼板表面に形成する溶液膜量が少ない場合は、金属Snの量およびZn系酸化物量に大きな変化が見られず、また、生産性を低下させることになるため120秒以上の処理時間は好ましくない。
また、これらの製品を製造するにあたっては、溶融金属と素地鋼板との界面に硬くて脆い合金層が成長するのを抑制しめっき密着性を向上させるために、主成分(ZnやAl等)である溶融金属中に主成分以外の成分が少量添加されることが多い。
【0030】
また本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板への添加元素成分は特に限定されるものではなく、通常添加されるAl以外にも、例えば、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0031】
さらに、酸化処理などに使用する処理液中に不純物が含まれることによりS、N、Pb、Cl、Na、Mn、Ca、Mg、Ba、Sr、Siなどが酸化物層中に取り込まれても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【実施例1】
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。引き続き、酸化物形成処理として、酢酸ナトリウム40g/lの酸性水溶液にSnイオン源としてSnSO4を用い、その添加量を適宜変えた酸性溶液に浸漬後、ロール絞りを行い、液量を調整した後、大気中、室温にて所定時間放置し、十分水洗を行った後、乾燥を実施した。比較材として、Snを添加しないで上記と同様の処理を行った材料、および酸性溶液処理そのものを行わない試料を作製した。
【0033】
以上のように作製した鋼板について、めっき表面の酸化物層の厚さ、およびSnの存在形態を評価するとともに、プレス成形性を簡易的に評価する手法として摩擦係数の測定を行った。なお、測定方法は以下の通りである。
【0034】
(1) 酸化物層厚さの測定
オージェ電子分光(AES)によりめっき表面について、Arイオンスパッタリングを用いて、構成元素の深さ方向分析を行い、深さ方向の各元素の組成分布を測定した。その組成分布において、O濃度が、最大値より深い位置で、最大値と一定値との和の1/2となる深さを酸化物層の厚さとした。調質圧延時の平坦部(凸部)および凹部の各2箇所について酸化物層の厚さを測定し、平均値を酸化物層の厚さとした。
【0035】
(2) めっき表面における金属Snの存在形態
平坦部における金属Snの評価は、レプリカ法を用いた。処理を施した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に、アセチルセルロースフィルムを、アセトンを介して試料表面に30秒間圧着し、剥離した。剥離面にカーボンを蒸着したのちアセチルセルロースを溶解して透過電子顕微鏡(TEM)用の薄片試料とした。TEM(フィリップス社製 CM30)を用い加速電圧200kVで、薄片試料の明視野像観察を行い、金属Snの粒子径と個数を確認した。また、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて金属Snが主成分であることを確認した。なお、金属Snの分散状態は、加速電圧を低く、例えば1 kV以下にした走査電子顕微鏡でも行うことができる。
【0036】
(3)摺動性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図2は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押し上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押し付け荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取り付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取り付けられている。なお、潤滑油としてスギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料1の表面に塗布して試験を行った。
図3は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が摩擦係数測定用試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図3に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。
摩擦係数の測定に対しては、成形荷重が高く型かじりが生じやすい高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板での過酷なプレス環境を想定して、室温(25℃)において、押し付け荷重Nを400kgfおよび1500kgfに変化させて行った。なお試料の引抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度)は100cm/min。これらの条件で、押し付け荷重Nと引抜き荷重Fを測定し、供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0037】
以上より得られた試験結果を表1に示す。なお、表1において条件1は、押付荷重400kgf、試料温度25℃(室温)を、条件2は押付荷重1500kgf、試料温度25℃(室温)をそれぞれ指す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
No14の比較例1は、酸化処理を行っていないものである。平坦部の酸化物厚は8nm程度であり摩擦係数は条件1、2とも本発明例よりも高い。
No.15,16の比較例2、3は、酸性溶液での処理を行っているもののSnを添加しないで作製したものでめっき表面にSnを含有していない。この場合、めっき表面の平坦部にはZnを主体とする酸化物層が形成されている。そのため、酸性溶液処理を行わない合金化溶融亜鉛めっき鋼板の摩擦係数(比較例1)よりも低くなっているが、本発明例の摩擦係数に比べると高く、特に条件2では高い摩擦係数を示している。
No.1〜13は、金属SnとZn系酸化物層を含む本発明例である。本発明例の摩擦係数は比較例よりも低くなっている。特に、面圧の高い条件2においての摩擦係数が低位で安定している。
また、酸化物層の厚みが同程度で金属Snを含む本発明例と金属Snを含まない比較例(例えば、No.1の本発明例1とNo.15と比較例2や、No.2の本発明例2とNo.16の比較例3)で比較すると、金属Snを含む発明例は比較例に比べて、摩擦係数が低く、金属Snを付与した効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、成形荷重が高く型かじりや割れを生じやすい場合や厳しい成形加工が必要で割れ等を生じやすい場合の使用においても、従来製品より優れたプレス成形性を有するので、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の一実施形態を示す透過電子顕微鏡写真。
【図2】摩擦係数測定装置を示す概略正面図。
【図3】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0042】
1摩擦係数測定用試料
2試料台
3スライドテーブル
4ローラ
5スライドテーブル支持台
6ビード
7第一ロードセル
8第二ロードセル
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe-Zn合金めっき相を少なくとも鋼板の片面に有し、
さらに、前記Fe-Zn合金めっき相の表面には、金属状態を主体とするSnを必須成分とする粒子と、Znを必須成分とする酸化物が存在することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
Snの付着量が0.05g/m以上であり、Znを必須成分とする酸化物の平均膜厚が10nm以上であることを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−184619(P2008−184619A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16288(P2007−16288)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】