合金粉末製造方法
【課題】合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮により、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減できる合金粉末製造方法を提供する。
【解決手段】希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する工程を備える。
【解決手段】希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する工程を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属を含む合金粉末は、永久磁石合金、水素吸蔵合金、光磁気記録合金をはじめとし、磁歪合金、磁気センサ合金、磁気冷凍作業用合金等などの合金材料として有用である。特許文献1〜3には、還元拡散法を用いて、希土類金属を含む合金粉末を製造する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−248307号公報
【特許文献2】特開2000−63914号公報
【特許文献3】特開2004−43979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された従来の還元拡散法においては、還元拡散反応を促進し、合金粉末の品質を向上させるために反応炉を600〜1300℃、好ましくは800〜1100℃程度の高温に保持し、数時間の熱処理を施す必要があった。該熱処理は合金粉末製造時の投入エネルギーを増大させ、製造コストを引き上げる要因となっている。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮によって、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる合金粉末製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る合金粉末製造方法は、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法であって、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する加熱工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化によって発熱する還元剤とを、水素雰囲気中で加熱する。水素雰囲気中で前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を加熱した場合、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元反応熱による自己伝播反応を利用した還元拡散反応が起こる。本発明における自己伝播反応とは、前記水素化及び還元反応によって発生した熱を、合金粉末に係る合成反応の促進及び伝播に使用する手法である。自己伝播反応の主な特徴は、エネルギーを投入しなくても燃焼温度が例えば1500℃〜3000℃に達する点、自己伝播反応を利用しない場合に比べてより速やかに合成が完了する点にある。従って、従来の手法に比べて、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーは低減する。また、自己伝播反応を利用した還元拡散反応は、従来手法に比べて短時間で完了するため、合金粉末の製造時間が短縮される。
一方、希土類金属酸化物と、他の金属と、窒化によって発熱する還元剤とを、窒素雰囲気中で加熱した場合も同様の反応が起こり、従来の手法に比べて、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーが低減し、合金粉末の製造時間が短縮される。
【0008】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤は粉末であり、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する前に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を混合する工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤が粉末であるため、各原料粉末の接触面積を増大させ、より効果的に自己伝播反応を利用した還元拡散反応を促進させることが可能である。
【0010】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記加熱工程は、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始された後、前記還元拡散反応が完了する前に加熱を停止させることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応開始後、還元拡散反応完了前に加熱を停止させるため、従来手法のように800〜1100℃の高温で長時間保持する場合に比べて、投入エネルギーは低減する。
【0012】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記希土類金属酸化物、他の金属又は還元剤の温度を検出する工程と、検出された温度に基づいて、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたか否かを判定する工程とを有し、前記加熱工程は、前記還元剤及び前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させるため、投入エネルギーの制御が可能であり、より効果的に投入エネルギーを低減させることが可能である。また、水素化又は窒化反応は従来の還元拡散反応が進行する温度よりも低温で生じるため、加熱を停止しない場合でも必要とされる加熱温度を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮によって、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】合金粉末製造装置の一構成例を示した横断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】合金粉末製造方法を示した工程図である。
【図4】原料粉末及び反応炉の温度変化を示したタイミングチャートである。
【図5】水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における原料粉末の温度変化を対比して示したタイミングチャートである。
【図6】溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のXRDパターンである。
【図7】水素雰囲気及びアルゴン中で合成した合金粉末の1回目の水素吸蔵速度を対比して示したグラフである。
【図8】溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中及びアルゴン雰囲気中で製造した合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。
【図9】本実施の形態に係る合金粉末製造方法にて製造した他の合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
<合金粉末製造装置>
図1は、合金粉末製造装置の一構成例を示した横断面図、図2は、図1のII−II線断面図である。本発明の実施の形態に係る合金粉末製造装置は、希土類金属を含む合金粉末を合成するための反応器1を備える。反応器1は、アルゴン雰囲気及び水素雰囲気に置換可能に構成された10気圧耐圧の容器であり、中空略直方体形状をなしている。
【0017】
反応器1の側壁には、アルゴンガス及び水素ガスを供給するガス供給管2と、反応器1内部のガスを排気する排気管3と、反応器1内部の圧力を検出する圧力計4とが設けられている。ガス供給管2には、電磁弁21,22を介してアルゴンガス供給部23及び水素ガス供給部24が接続されている。また、排気管3には電磁弁31を介して真空ポンプ32、例えばロータリーポンプ、ドライポンプ等が接続されている。電磁弁21,22,31の開度を調整することによって、合成反応時における反応器1内部の圧力を所定圧力範囲、例えば大気圧〜10気圧の範囲内の任意の圧力に保持することができる。なお、本実施の形態に係る合金粉末製造方法は、反応器1に水素ガスを密閉させて合金粉末を合成する密閉式であるが、水素ガスを通流させる流通式であっても良い。但し、水素ガスの消費量及び圧力制御の観点から、密閉式で圧量制御可能な装置が好ましい。
【0018】
反応器1の略中央には、反応炉5が配されている。反応炉5は、原料粉末が充填される黒鉛るつぼ6と、該黒鉛るつぼ6の側壁及び底部に沿って配されており、合金の原料粉末を加熱するヒータ7とを備える。ヒータ7は、例えば黒鉛製であり、黒鉛るつぼ6を約1500℃まで加熱することができる。なお、ヒータ7は、加熱手段の一例であり、誘導加熱コイル、その他の手段を採用しても良い。また、反応器1には、黒鉛るつぼ6及び装置全体を冷却するための図示しない冷却水循環装置が設けられている。
【0019】
また、合金粉末製造装置は、反応炉5の温度を検出する熱電対8と、黒鉛るつぼ6内に充填された原料粉末の温度を検出する熱電対9とを備える。熱電対8,9は、例えば保護管付きのR型である。なお、熱電対8,9は温度センサの一例であり、非接触の放射温度センサ等、その他の温度検出手段を採用しても良い。
【0020】
<合金粉末製造方法>
図3は、合金粉末製造方法を示した工程図である。以下、希土類金属を含む合金粉末の一例として、ランタン−ニッケル系の合金粉末LaNi5 の製造方法を説明する。また、以下の説明では合金粉末製造方法の操作主体を明示しないが、操業者又は合金粉末製造装置を制御する制御部のいずれであっても良い。まず、目的とする合金粉末の組成に応じた原料粉末を混合し(ステップS1)、混合した原料粉末を黒鉛るつぼ6に充填する(ステップS2)。具体的には、原料粉末は、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化によって発熱する還元剤とを含む。希土類金属酸化物は、粒径が45μm未満の酸化ランタンLa2 O3 、他の金属は、粒径が3〜5μmのニッケルNi、還元剤は、粒径が1〜3mmのカルシウムCaである。原料粉末の粒径は接触面積の観点から、できるだけ小さいものが望ましい。以上の原料をモル比La2 O3 :Ni:Ca= 1:10:6となるよう秤量し、混合して、黒鉛るつぼ6に充填する。なお、カルシウム量は化学量論比、即ちすべての酸化ランタンLa2 O3 が還元できるカルシウム量の2倍とした。還元反応の促進と自己伝播反応の有効利用の観点からカルシウム量は化学量論比の1.5〜3倍が好ましい。
【0021】
そして、反応器1を水素雰囲気に置換する(ステップS3)。具体的には、電磁弁21,22を閉鎖して電磁弁31を開き、反応器1内の酸素を除去するために真空ポンプで真空引き、次いで、電磁弁31,22を閉鎖して電磁弁21を開いて大気圧までアルゴンガスを導入という操作を複数回、例えば3回繰り返した後、電磁弁21,31を閉鎖し、電磁弁22を開くことによって、反応器1内部のガスを10気圧の水素雰囲気に置換する。
【0022】
次いで、ヒータ7に通電させることによって、水素雰囲気中で、黒鉛るつぼ6内の原料粉末、即ち希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤の加熱を開始させる(ステップS4)。
【0023】
そして、熱電対8にて、原料粉末の温度を検出する(ステップS5)。次いで、検出された温度に基づいて、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元反応による自己伝播反応が開始されたか否かを判定する(ステップS6)。自己伝播反応が開始されたか否かの判定方法の詳細は後述する。自己伝播反応が開始されていないと判定した場合(ステップS6:NO)、ステップS5の工程に戻って原料粉末の温度検出を行い、自己伝播反応の開始判定の処理を繰りかえす。自己伝播反応が開始されたと判定した場合(ステップS6:YES)、ヒータ7への通電を停止することによって、加熱を停止させる(ステップS7)。
【0024】
図4は、原料粉末及び反応炉5の温度変化を示したタイミングチャートである。横軸は、ヒータ7による原料粉末の加熱を開始した後の経過時間、図4(a)及び(b)における縦軸はそれぞれ原料粉末及び反応炉5の温度を示している。図4(a)に示すように、自己伝播反応が開始されると、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元による反応熱によって、原材料温度が急激に上昇し、外部からのエネルギー投入を待たずに約1300(K)程度に達する。原料粉末の温度が約1300(K)に達したときの反応炉5の温度は900(K)であり、自己伝播反応による反応熱によって原料粉末の還元拡散反応が進行していることが分かる。
【0025】
自己伝播反応とは、化合物を合成する際に発生する化学反応熱を自己の合成反応の促進及び伝播に利用する手法である。自己伝播反応の特徴は、エネルギーを投入しなくても燃焼温度が例えば1500℃〜3000℃に達する点、200種類を超えるさまざまな化合物粉末を合成することが可能である点、一度反応が励起された場合、自己伝播反応を利用しない場合に比べてより速やかに合成が完了する点、少品種大量生産及び多品種少量生産のいずれにも対応することが可能である点、熱力学データにより比較的容易に合成反応の理論予測が可能である点などが挙げられる。
このような特徴を有する自己伝播反応によれば、一度反応が開始すると該反応は外部からのエネルギー投入なしに、瞬時に進行する。特に金属元素の水素化、窒化等の気固反応は発熱量が非常に大きく、かつ反応速度が速いため、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーを低減し、合金粉末の製造時間を短縮することができる。
【0026】
自己伝播反応が開始されたか否かの判定は、例えば、図4(a)に示した原料粉末の急激な温度上昇が検出されたか否かを判定することによって行う。また、原料粉末の温度の極大が検出されたか否かを判定するようにしても良い。あるいは、所定温度、例えば自己伝播反応が開始されたと考えられる所定温度が検出されたか否かを判定することによって行っても良い。所定温度は、反応条件によって異なるが、例えば、700〜1200(K)における任意の温度に設定すれば良い。図4に示した例では、原料粉末の温度の極大を越えた時点でヒータ7による加熱を停止している。
【0027】
一方、反応時間に関しては、原料粉末の温度がピークに達するまでの時間はわずか0.24(ks)であり、その後、原料粉末の温度は急激に降下し、約0.35(ks)でLa−Ni系合金の共晶点以下となる。共晶点以上の温度範囲では、合金粉末の合成が進行しており、共晶点未満になった場合、合金粉末の合成が完了していると考えられる。図4に示した例では、ヒータ7による加熱開始後、約0.35(ks)で還元拡散反応による合成反応が完了している。
【0028】
ステップS7の処理によって加熱を停止させた後は、直ちに原料粉末を自然冷却し、図3に示すように、湿式処理を行い(ステップS8)、処理を終える。具体的には、黒鉛るつぼ6から反応混合物を取り出し、該反応混合物を水中に投入する。水中に投入された反応混合物は容易に崩壊し、スラリー状となり、合金粒子と還元剤とは遊離した状態となる。この崩壊によって生成したスラリーの上部は、例えば水酸化カルシウム等の水酸化物の懸濁液であるので、デカンテーション、注水、デカンテーションの繰り返しによって、その大部分を除去することができる。微量に残存した水酸化物の除去及び合金粉末表面の酸化物を除去するためには、希酸による洗浄を行うことが好適である。希酸洗浄は、例えば酢酸、塩酸等を用いてpH4〜7で行われる。希酸洗浄後の合金粉末は、アルコール、アセトン等の有機溶剤で洗浄され、真空乾燥等により有機溶剤が除去される。
【0029】
次に、水素雰囲気中における還元拡散反応の効果、水素雰囲気中で製造された合金粉末が有する特性について説明する。
【0030】
<水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における還元拡散反応の対比>
図5は、水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における原料粉末の温度変化を対比して示したタイミングチャートである。比較のため、水素雰囲気中と、大気圧のアルゴン雰囲気中とで、同一の原料粉末を加熱し、合金粉末を合成する実験を行った。アルゴン雰囲気中において原料粉末を加熱した場合、自己伝播反応が起こらず、水素雰囲気中で原料粉末を加熱した場合に比べて、温度が緩やかに上昇する。また、アルゴン雰囲気中の場合、原料粉末の温度が極大を越えたところでヒータ7による加熱を停止した後も、原料粉末の温度はゆっくりと低下しており、共晶点未満に到達するまでに相当の時間を要している。つまり、アルゴン雰囲気における合金粉末の合成は、水素雰囲気で行う場合に比べて、反応の完了までに時間を要する。また、原料粉末の温度が極大を越えたところでヒータ7による加熱を停止させた場合、後述するように、アルゴン雰囲気中における合金粉末の合成が完了しないまま反応が停止してしまう。
以上のように、水素雰囲気中で原料粉末を加熱した場合、300℃付近のカルシウムの水素化反応に伴い大きな発熱を生じ、原料粉末の温度が急激に上昇し、合成反応が完了する。従って、アルゴン雰囲気中で加熱する場合に比べて、大幅に加熱温度を低減し、かつ製造時間を短縮できる。
【0031】
<水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中で合成された合金粉末の特性の対比>
図6は、溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のXRDパターンである。水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のいずれもLaNi5 試薬と同様のXRDパターンを呈しており、LaNi5 試薬と同様の相を形成していることがわかる。
【0032】
次に、合金粉末LaNi5 の水素吸蔵特性について説明する。
図7は、水素雰囲気及びアルゴン中で合成した合金粉末の1回目の水素吸蔵速度を対比して示したグラフである。水素雰囲気中にて合成された合金粉末は急激に水素と反応し、かつ水素吸蔵量は溶解法製のLaNi5 試薬と同等であった。一方、アルゴン雰囲気中で合成された金属粉末は、水素雰囲気中で合成された合金粉末に比べて、水素吸蔵量が低い。水素吸蔵量が低いという事実は、アルゴン雰囲気中での合金粉末の合成においては、反応炉5を高温で数時間保持する熱処理工程なしには還元拡散反応が完了しないことを示している。
一般に、溶解法及びアルゴン等の不活性ガス中での還元拡散法により製造された水素吸蔵合金は合金表面に存在する酸化皮膜等の影響により水素化が阻害され、特に初めて水素と接触させた際の水素吸蔵速度が極めて遅いという問題がある。ところが、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にあっては、水素雰囲気中で合成された合金粉末の自然冷却時に一度水素と反応するため水素の進入経路が合金粉末に確保され、合金粉末に係る水素吸蔵の初期活性を向上させることができる。従って、本実施の形態に係る合金粉末製造方法によれば、複数回高圧の水素を印加する活性化処理を行わなくても、水素吸蔵の初期活性に優れた水素吸蔵合金粉末を製造することができる。
【0033】
図8は、溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中及びアルゴン雰囲気中で製造した合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。横軸は、水素吸蔵量、縦軸は圧力を示している。図8に示したグラフより、水素雰囲気中で合成した合金粉末の平衡圧力及び最大水素吸蔵量は、溶解法製のLaNi5 試薬と同様であることが分かる。即ち、水素雰囲気中で合成した合金粉末は、プラトー領域が平坦であり、LaNi5 試薬と同等の水素吸蔵量を有するという優れた特徴を有している。これらの優れた特徴を有する水素吸蔵合金は、ケミカルヒートポンプの構成部材として有用である。ケミカルヒートポンプは、平衡水素圧が異なる2種類の水素吸蔵合金を組み合わせ、圧力及び温度制御により両合金間を水素が移動する際の発熱あるいは吸熱を利用し熱あるいは冷熱を発生させる装置である。
【0034】
以上のように、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にあっては、希土類金属酸化物、その他の金属及び還元剤を含む原料粉末を水素雰囲気中で加熱することによって、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮を図り、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる。
【0035】
また、本実施の形態に係る合金粉末製造方法によれば、高温で試料を長時間保持する熱処理を行うこと無く、試薬と同等の水素吸蔵量、水素吸蔵に係る初期活性、プラトー領域を有する水素吸蔵合金を製造することができる。
【0036】
なお、上述の実施の形態では、合金粉末としてLaNi5 の製造方法について説明したが、任意の希土類金属酸化物と、その他の金属と、還元剤とを混合した原料粉末を加熱して合金粉末を製造する場合においても、投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮により、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減できる。
【0037】
一般的には、下記化学式(1)で表される合金粉末の製造方法に本発明を適用することができる。
【0038】
【化1】
【0039】
また特に、下記化学式(2)で表されるLa−Ni系の合金粉末の製造方法にも本発明を適用することができる。
【0040】
【化2】
【0041】
本発明において使用される希土類金属酸化物としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテニウム(Lu)、プロメチウム(Pm)、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)等が包含される。
【0042】
また、本発明おいて使用されるその他の金属としては、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、マグネシウム(Mg)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)等の遷移金属が包含される。これらは単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。なお、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等の半金属元素も必要に応じて添加することが可能である。また、少量であれば、酸化物や塩化物として使用することもできる。
【0043】
なお、希土類金属酸化物及び他の金属の混合比は、目的とする合金粉末のモル比によって決定される。
【0044】
更に、本発明において使用される還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの水素化物等を例示することができ、具体例としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びこれらの水素化物を挙げることができる。特に、取扱の安全性及びコストの点から金属カルシウムが最も好適な還元剤である。
【0045】
図9は、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にて製造した他の合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。具体的には、La−Y−Ni−Mn、La−Ce−Ni−Co、La−Y−Ni−Al四元系合金のPCT特性を示す。図9から、いずれの合金粉末においても、ヒステリシス性が小さく、一定のプラトー領域を有する水素吸蔵特性を備えていることが分かる。
【0046】
更にまた、上述の実施の形態では、水素化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する方法について説明したが、窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造するように構成しても良い。還元剤としては、上述したカルシウムなどを利用することができ、水素の代わりに窒素を反応器へ供給するようにすれば良い。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 反応器
2 ガス供給管
3 排気管
4 圧力計
5 反応炉
6 黒鉛るつぼ
7 ヒータ
8、9 熱電対
21、31 電磁弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属を含む合金粉末は、永久磁石合金、水素吸蔵合金、光磁気記録合金をはじめとし、磁歪合金、磁気センサ合金、磁気冷凍作業用合金等などの合金材料として有用である。特許文献1〜3には、還元拡散法を用いて、希土類金属を含む合金粉末を製造する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−248307号公報
【特許文献2】特開2000−63914号公報
【特許文献3】特開2004−43979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された従来の還元拡散法においては、還元拡散反応を促進し、合金粉末の品質を向上させるために反応炉を600〜1300℃、好ましくは800〜1100℃程度の高温に保持し、数時間の熱処理を施す必要があった。該熱処理は合金粉末製造時の投入エネルギーを増大させ、製造コストを引き上げる要因となっている。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮によって、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる合金粉末製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る合金粉末製造方法は、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法であって、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する加熱工程を有することを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化によって発熱する還元剤とを、水素雰囲気中で加熱する。水素雰囲気中で前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を加熱した場合、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元反応熱による自己伝播反応を利用した還元拡散反応が起こる。本発明における自己伝播反応とは、前記水素化及び還元反応によって発生した熱を、合金粉末に係る合成反応の促進及び伝播に使用する手法である。自己伝播反応の主な特徴は、エネルギーを投入しなくても燃焼温度が例えば1500℃〜3000℃に達する点、自己伝播反応を利用しない場合に比べてより速やかに合成が完了する点にある。従って、従来の手法に比べて、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーは低減する。また、自己伝播反応を利用した還元拡散反応は、従来手法に比べて短時間で完了するため、合金粉末の製造時間が短縮される。
一方、希土類金属酸化物と、他の金属と、窒化によって発熱する還元剤とを、窒素雰囲気中で加熱した場合も同様の反応が起こり、従来の手法に比べて、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーが低減し、合金粉末の製造時間が短縮される。
【0008】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤は粉末であり、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する前に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を混合する工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤が粉末であるため、各原料粉末の接触面積を増大させ、より効果的に自己伝播反応を利用した還元拡散反応を促進させることが可能である。
【0010】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記加熱工程は、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始された後、前記還元拡散反応が完了する前に加熱を停止させることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応開始後、還元拡散反応完了前に加熱を停止させるため、従来手法のように800〜1100℃の高温で長時間保持する場合に比べて、投入エネルギーは低減する。
【0012】
本発明に係る合金粉末製造方法は、前記希土類金属酸化物、他の金属又は還元剤の温度を検出する工程と、検出された温度に基づいて、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたか否かを判定する工程とを有し、前記加熱工程は、前記還元剤及び前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させるため、投入エネルギーの制御が可能であり、より効果的に投入エネルギーを低減させることが可能である。また、水素化又は窒化反応は従来の還元拡散反応が進行する温度よりも低温で生じるため、加熱を停止しない場合でも必要とされる加熱温度を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮によって、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】合金粉末製造装置の一構成例を示した横断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】合金粉末製造方法を示した工程図である。
【図4】原料粉末及び反応炉の温度変化を示したタイミングチャートである。
【図5】水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における原料粉末の温度変化を対比して示したタイミングチャートである。
【図6】溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のXRDパターンである。
【図7】水素雰囲気及びアルゴン中で合成した合金粉末の1回目の水素吸蔵速度を対比して示したグラフである。
【図8】溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中及びアルゴン雰囲気中で製造した合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。
【図9】本実施の形態に係る合金粉末製造方法にて製造した他の合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
<合金粉末製造装置>
図1は、合金粉末製造装置の一構成例を示した横断面図、図2は、図1のII−II線断面図である。本発明の実施の形態に係る合金粉末製造装置は、希土類金属を含む合金粉末を合成するための反応器1を備える。反応器1は、アルゴン雰囲気及び水素雰囲気に置換可能に構成された10気圧耐圧の容器であり、中空略直方体形状をなしている。
【0017】
反応器1の側壁には、アルゴンガス及び水素ガスを供給するガス供給管2と、反応器1内部のガスを排気する排気管3と、反応器1内部の圧力を検出する圧力計4とが設けられている。ガス供給管2には、電磁弁21,22を介してアルゴンガス供給部23及び水素ガス供給部24が接続されている。また、排気管3には電磁弁31を介して真空ポンプ32、例えばロータリーポンプ、ドライポンプ等が接続されている。電磁弁21,22,31の開度を調整することによって、合成反応時における反応器1内部の圧力を所定圧力範囲、例えば大気圧〜10気圧の範囲内の任意の圧力に保持することができる。なお、本実施の形態に係る合金粉末製造方法は、反応器1に水素ガスを密閉させて合金粉末を合成する密閉式であるが、水素ガスを通流させる流通式であっても良い。但し、水素ガスの消費量及び圧力制御の観点から、密閉式で圧量制御可能な装置が好ましい。
【0018】
反応器1の略中央には、反応炉5が配されている。反応炉5は、原料粉末が充填される黒鉛るつぼ6と、該黒鉛るつぼ6の側壁及び底部に沿って配されており、合金の原料粉末を加熱するヒータ7とを備える。ヒータ7は、例えば黒鉛製であり、黒鉛るつぼ6を約1500℃まで加熱することができる。なお、ヒータ7は、加熱手段の一例であり、誘導加熱コイル、その他の手段を採用しても良い。また、反応器1には、黒鉛るつぼ6及び装置全体を冷却するための図示しない冷却水循環装置が設けられている。
【0019】
また、合金粉末製造装置は、反応炉5の温度を検出する熱電対8と、黒鉛るつぼ6内に充填された原料粉末の温度を検出する熱電対9とを備える。熱電対8,9は、例えば保護管付きのR型である。なお、熱電対8,9は温度センサの一例であり、非接触の放射温度センサ等、その他の温度検出手段を採用しても良い。
【0020】
<合金粉末製造方法>
図3は、合金粉末製造方法を示した工程図である。以下、希土類金属を含む合金粉末の一例として、ランタン−ニッケル系の合金粉末LaNi5 の製造方法を説明する。また、以下の説明では合金粉末製造方法の操作主体を明示しないが、操業者又は合金粉末製造装置を制御する制御部のいずれであっても良い。まず、目的とする合金粉末の組成に応じた原料粉末を混合し(ステップS1)、混合した原料粉末を黒鉛るつぼ6に充填する(ステップS2)。具体的には、原料粉末は、希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化によって発熱する還元剤とを含む。希土類金属酸化物は、粒径が45μm未満の酸化ランタンLa2 O3 、他の金属は、粒径が3〜5μmのニッケルNi、還元剤は、粒径が1〜3mmのカルシウムCaである。原料粉末の粒径は接触面積の観点から、できるだけ小さいものが望ましい。以上の原料をモル比La2 O3 :Ni:Ca= 1:10:6となるよう秤量し、混合して、黒鉛るつぼ6に充填する。なお、カルシウム量は化学量論比、即ちすべての酸化ランタンLa2 O3 が還元できるカルシウム量の2倍とした。還元反応の促進と自己伝播反応の有効利用の観点からカルシウム量は化学量論比の1.5〜3倍が好ましい。
【0021】
そして、反応器1を水素雰囲気に置換する(ステップS3)。具体的には、電磁弁21,22を閉鎖して電磁弁31を開き、反応器1内の酸素を除去するために真空ポンプで真空引き、次いで、電磁弁31,22を閉鎖して電磁弁21を開いて大気圧までアルゴンガスを導入という操作を複数回、例えば3回繰り返した後、電磁弁21,31を閉鎖し、電磁弁22を開くことによって、反応器1内部のガスを10気圧の水素雰囲気に置換する。
【0022】
次いで、ヒータ7に通電させることによって、水素雰囲気中で、黒鉛るつぼ6内の原料粉末、即ち希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤の加熱を開始させる(ステップS4)。
【0023】
そして、熱電対8にて、原料粉末の温度を検出する(ステップS5)。次いで、検出された温度に基づいて、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元反応による自己伝播反応が開始されたか否かを判定する(ステップS6)。自己伝播反応が開始されたか否かの判定方法の詳細は後述する。自己伝播反応が開始されていないと判定した場合(ステップS6:NO)、ステップS5の工程に戻って原料粉末の温度検出を行い、自己伝播反応の開始判定の処理を繰りかえす。自己伝播反応が開始されたと判定した場合(ステップS6:YES)、ヒータ7への通電を停止することによって、加熱を停止させる(ステップS7)。
【0024】
図4は、原料粉末及び反応炉5の温度変化を示したタイミングチャートである。横軸は、ヒータ7による原料粉末の加熱を開始した後の経過時間、図4(a)及び(b)における縦軸はそれぞれ原料粉末及び反応炉5の温度を示している。図4(a)に示すように、自己伝播反応が開始されると、還元剤の水素化及び希土類金属酸化物の還元による反応熱によって、原材料温度が急激に上昇し、外部からのエネルギー投入を待たずに約1300(K)程度に達する。原料粉末の温度が約1300(K)に達したときの反応炉5の温度は900(K)であり、自己伝播反応による反応熱によって原料粉末の還元拡散反応が進行していることが分かる。
【0025】
自己伝播反応とは、化合物を合成する際に発生する化学反応熱を自己の合成反応の促進及び伝播に利用する手法である。自己伝播反応の特徴は、エネルギーを投入しなくても燃焼温度が例えば1500℃〜3000℃に達する点、200種類を超えるさまざまな化合物粉末を合成することが可能である点、一度反応が励起された場合、自己伝播反応を利用しない場合に比べてより速やかに合成が完了する点、少品種大量生産及び多品種少量生産のいずれにも対応することが可能である点、熱力学データにより比較的容易に合成反応の理論予測が可能である点などが挙げられる。
このような特徴を有する自己伝播反応によれば、一度反応が開始すると該反応は外部からのエネルギー投入なしに、瞬時に進行する。特に金属元素の水素化、窒化等の気固反応は発熱量が非常に大きく、かつ反応速度が速いため、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーを低減し、合金粉末の製造時間を短縮することができる。
【0026】
自己伝播反応が開始されたか否かの判定は、例えば、図4(a)に示した原料粉末の急激な温度上昇が検出されたか否かを判定することによって行う。また、原料粉末の温度の極大が検出されたか否かを判定するようにしても良い。あるいは、所定温度、例えば自己伝播反応が開始されたと考えられる所定温度が検出されたか否かを判定することによって行っても良い。所定温度は、反応条件によって異なるが、例えば、700〜1200(K)における任意の温度に設定すれば良い。図4に示した例では、原料粉末の温度の極大を越えた時点でヒータ7による加熱を停止している。
【0027】
一方、反応時間に関しては、原料粉末の温度がピークに達するまでの時間はわずか0.24(ks)であり、その後、原料粉末の温度は急激に降下し、約0.35(ks)でLa−Ni系合金の共晶点以下となる。共晶点以上の温度範囲では、合金粉末の合成が進行しており、共晶点未満になった場合、合金粉末の合成が完了していると考えられる。図4に示した例では、ヒータ7による加熱開始後、約0.35(ks)で還元拡散反応による合成反応が完了している。
【0028】
ステップS7の処理によって加熱を停止させた後は、直ちに原料粉末を自然冷却し、図3に示すように、湿式処理を行い(ステップS8)、処理を終える。具体的には、黒鉛るつぼ6から反応混合物を取り出し、該反応混合物を水中に投入する。水中に投入された反応混合物は容易に崩壊し、スラリー状となり、合金粒子と還元剤とは遊離した状態となる。この崩壊によって生成したスラリーの上部は、例えば水酸化カルシウム等の水酸化物の懸濁液であるので、デカンテーション、注水、デカンテーションの繰り返しによって、その大部分を除去することができる。微量に残存した水酸化物の除去及び合金粉末表面の酸化物を除去するためには、希酸による洗浄を行うことが好適である。希酸洗浄は、例えば酢酸、塩酸等を用いてpH4〜7で行われる。希酸洗浄後の合金粉末は、アルコール、アセトン等の有機溶剤で洗浄され、真空乾燥等により有機溶剤が除去される。
【0029】
次に、水素雰囲気中における還元拡散反応の効果、水素雰囲気中で製造された合金粉末が有する特性について説明する。
【0030】
<水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における還元拡散反応の対比>
図5は、水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中における原料粉末の温度変化を対比して示したタイミングチャートである。比較のため、水素雰囲気中と、大気圧のアルゴン雰囲気中とで、同一の原料粉末を加熱し、合金粉末を合成する実験を行った。アルゴン雰囲気中において原料粉末を加熱した場合、自己伝播反応が起こらず、水素雰囲気中で原料粉末を加熱した場合に比べて、温度が緩やかに上昇する。また、アルゴン雰囲気中の場合、原料粉末の温度が極大を越えたところでヒータ7による加熱を停止した後も、原料粉末の温度はゆっくりと低下しており、共晶点未満に到達するまでに相当の時間を要している。つまり、アルゴン雰囲気における合金粉末の合成は、水素雰囲気で行う場合に比べて、反応の完了までに時間を要する。また、原料粉末の温度が極大を越えたところでヒータ7による加熱を停止させた場合、後述するように、アルゴン雰囲気中における合金粉末の合成が完了しないまま反応が停止してしまう。
以上のように、水素雰囲気中で原料粉末を加熱した場合、300℃付近のカルシウムの水素化反応に伴い大きな発熱を生じ、原料粉末の温度が急激に上昇し、合成反応が完了する。従って、アルゴン雰囲気中で加熱する場合に比べて、大幅に加熱温度を低減し、かつ製造時間を短縮できる。
【0031】
<水素雰囲気及びアルゴン雰囲気中で合成された合金粉末の特性の対比>
図6は、溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のXRDパターンである。水素雰囲気中で合成した合金粉末、及びアルゴン雰囲気中で合成した合金粉末のいずれもLaNi5 試薬と同様のXRDパターンを呈しており、LaNi5 試薬と同様の相を形成していることがわかる。
【0032】
次に、合金粉末LaNi5 の水素吸蔵特性について説明する。
図7は、水素雰囲気及びアルゴン中で合成した合金粉末の1回目の水素吸蔵速度を対比して示したグラフである。水素雰囲気中にて合成された合金粉末は急激に水素と反応し、かつ水素吸蔵量は溶解法製のLaNi5 試薬と同等であった。一方、アルゴン雰囲気中で合成された金属粉末は、水素雰囲気中で合成された合金粉末に比べて、水素吸蔵量が低い。水素吸蔵量が低いという事実は、アルゴン雰囲気中での合金粉末の合成においては、反応炉5を高温で数時間保持する熱処理工程なしには還元拡散反応が完了しないことを示している。
一般に、溶解法及びアルゴン等の不活性ガス中での還元拡散法により製造された水素吸蔵合金は合金表面に存在する酸化皮膜等の影響により水素化が阻害され、特に初めて水素と接触させた際の水素吸蔵速度が極めて遅いという問題がある。ところが、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にあっては、水素雰囲気中で合成された合金粉末の自然冷却時に一度水素と反応するため水素の進入経路が合金粉末に確保され、合金粉末に係る水素吸蔵の初期活性を向上させることができる。従って、本実施の形態に係る合金粉末製造方法によれば、複数回高圧の水素を印加する活性化処理を行わなくても、水素吸蔵の初期活性に優れた水素吸蔵合金粉末を製造することができる。
【0033】
図8は、溶解法製のLaNi5 試薬、水素雰囲気中及びアルゴン雰囲気中で製造した合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。横軸は、水素吸蔵量、縦軸は圧力を示している。図8に示したグラフより、水素雰囲気中で合成した合金粉末の平衡圧力及び最大水素吸蔵量は、溶解法製のLaNi5 試薬と同様であることが分かる。即ち、水素雰囲気中で合成した合金粉末は、プラトー領域が平坦であり、LaNi5 試薬と同等の水素吸蔵量を有するという優れた特徴を有している。これらの優れた特徴を有する水素吸蔵合金は、ケミカルヒートポンプの構成部材として有用である。ケミカルヒートポンプは、平衡水素圧が異なる2種類の水素吸蔵合金を組み合わせ、圧力及び温度制御により両合金間を水素が移動する際の発熱あるいは吸熱を利用し熱あるいは冷熱を発生させる装置である。
【0034】
以上のように、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にあっては、希土類金属酸化物、その他の金属及び還元剤を含む原料粉末を水素雰囲気中で加熱することによって、合金粉末の製造に必要な投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮を図り、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減させることができる。
【0035】
また、本実施の形態に係る合金粉末製造方法によれば、高温で試料を長時間保持する熱処理を行うこと無く、試薬と同等の水素吸蔵量、水素吸蔵に係る初期活性、プラトー領域を有する水素吸蔵合金を製造することができる。
【0036】
なお、上述の実施の形態では、合金粉末としてLaNi5 の製造方法について説明したが、任意の希土類金属酸化物と、その他の金属と、還元剤とを混合した原料粉末を加熱して合金粉末を製造する場合においても、投入エネルギーの低減及び製造時間の短縮により、希土類金属を含む合金粉末の製造コストを低減できる。
【0037】
一般的には、下記化学式(1)で表される合金粉末の製造方法に本発明を適用することができる。
【0038】
【化1】
【0039】
また特に、下記化学式(2)で表されるLa−Ni系の合金粉末の製造方法にも本発明を適用することができる。
【0040】
【化2】
【0041】
本発明において使用される希土類金属酸化物としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテニウム(Lu)、プロメチウム(Pm)、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)等が包含される。
【0042】
また、本発明おいて使用されるその他の金属としては、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、マグネシウム(Mg)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)等の遷移金属が包含される。これらは単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。なお、ホウ素(B)、ケイ素(Si)等の半金属元素も必要に応じて添加することが可能である。また、少量であれば、酸化物や塩化物として使用することもできる。
【0043】
なお、希土類金属酸化物及び他の金属の混合比は、目的とする合金粉末のモル比によって決定される。
【0044】
更に、本発明において使用される還元剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びこれらの水素化物等を例示することができ、具体例としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びこれらの水素化物を挙げることができる。特に、取扱の安全性及びコストの点から金属カルシウムが最も好適な還元剤である。
【0045】
図9は、本実施の形態に係る合金粉末製造方法にて製造した他の合金粉末のPCT特性を対比して示したグラフである。具体的には、La−Y−Ni−Mn、La−Ce−Ni−Co、La−Y−Ni−Al四元系合金のPCT特性を示す。図9から、いずれの合金粉末においても、ヒステリシス性が小さく、一定のプラトー領域を有する水素吸蔵特性を備えていることが分かる。
【0046】
更にまた、上述の実施の形態では、水素化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する方法について説明したが、窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造するように構成しても良い。還元剤としては、上述したカルシウムなどを利用することができ、水素の代わりに窒素を反応器へ供給するようにすれば良い。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 反応器
2 ガス供給管
3 排気管
4 圧力計
5 反応炉
6 黒鉛るつぼ
7 ヒータ
8、9 熱電対
21、31 電磁弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法であって、
前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する加熱工程を有する
ことを特徴とする合金粉末製造方法。
【請求項2】
前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤は粉末であり、
水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する前に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を混合する工程を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の合金粉末製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、
前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始された後、前記還元拡散反応が完了する前に加熱を停止させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合金粉末製造方法。
【請求項4】
前記希土類金属酸化物、他の金属又は還元剤の温度を検出する工程と、
検出された温度に基づいて、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたか否かを判定する工程と
を有し、
前記加熱工程は、
前記還元剤及び前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合金粉末製造方法。
【請求項1】
希土類金属酸化物と、他の金属と、水素化又は窒化によって発熱する還元剤との還元拡散反応によって、希土類金属を含む合金粉末を製造する合金粉末製造方法であって、
前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を、水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する加熱工程を有する
ことを特徴とする合金粉末製造方法。
【請求項2】
前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤は粉末であり、
水素雰囲気又は窒素雰囲気中で加熱する前に、前記希土類金属酸化物、他の金属及び還元剤を混合する工程を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の合金粉末製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、
前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始された後、前記還元拡散反応が完了する前に加熱を停止させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合金粉末製造方法。
【請求項4】
前記希土類金属酸化物、他の金属又は還元剤の温度を検出する工程と、
検出された温度に基づいて、前記還元剤の水素化又は窒化反応を契機とした前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたか否かを判定する工程と
を有し、
前記加熱工程は、
前記還元剤及び前記希土類金属酸化物の還元反応が開始されたと判定した場合、加熱を停止させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の合金粉末製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−202225(P2011−202225A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70007(P2010−70007)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、環境省、地球温暖化対策技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、環境省、地球温暖化対策技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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