説明

吊り具

【課題】 外形円柱状の被保持物の抜落ちを確実に防止して、吊下げ状態の保持や吊下状態での搬送を安全・確実におこなうことができる吊り具を提供する。
【解決手段】 上面に吊手3を取付けた基板2の左右方向の一端部に、前後方向に延びるピン5により各リンクを屈曲自在に連結したローラチェーン4の一端部を枢着し、このローラチェーン4の他端部を、基板2の左右方向の他端部に設けた締付具12に連結するとともに、棒体の表面部に該棒体の長手方向に間隔をおいて複数個の突起22を形成して成る2本の支持部材21を、前記長手方向を前後方向に向け且つ左右方向に所定の間隔をおいて、基板2の下面に固着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は吊り具に関し、さらに詳しくは、外形円柱状の被保持物を吊下げるのに好適な吊り具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械設備の設置現地において、保守時に大型のプーリやギヤを軸から抜取ったり、大型のベアリングをフレーム部から抜取る際には、たとえばシリンダ部外径が100mm前後の可搬式の油圧ジャッキを、プランジャ軸心を横向きにして使用することが多い。この抜取作業の抜取り完了時点に、油圧ジャッキは加圧対象物離間により該対象物から外れて自重で下方へ落下することになるが、上記の小型の油圧ジャッキは一般にシリンダ部に吊手が付設されていないので、この落下防止のためには、抜取作業開始前にシリンダ部をワイヤロープにより目通し吊り状態とし、このワイヤロープをクレーンフックなどで吊り下げた状態としておくのが一般的であった。しかしこの場合は抜取り完了時点に油圧ジャッキが自重で傾いた際に、上記のワイヤロープから抜落ちて下方へ落下することが多く、安全上および機器損傷上極めて好ましくないものであった。
【0003】
また円柱体の吊上げ用治具としては、たとえば特許文献1には、閉ループ状のチェーンが、外表面に突起を有する筒体に、回転が阻止された状態で挿通されている吊上げ用治具が提案されている。
【特許文献1】特開平10−25085号公報
【0004】
ところが上記特許文献に記載の吊上げ用治具は、チェーンはいずれの方向にも屈曲自在なリンクチェーンであるうえ、円柱体の外周より長いループ状であって円柱体の表面には締付けられていないので、チェーンは円柱体が抜落ちる際のすべり止めとしては機能せず、また筒体は円柱体の長手方向に対して直交する形で延びる突起が円柱体の表面に点接触するだけであり、かつ上記の緩く捻れやすいリンクチェーンによる筒体の回り止めは不完全である。このため、上記特許文献の吊上げ対象物である電極棒に比べて表面が平滑で高硬度である油圧ジャッキにこの吊上げ治具を使用した場合は、前記抜取り完了時点で、水平状態から上記特許文献の図4に図示されたような斜め吊り状態となった油圧ジャッキは、一気に下方へ抜落ちてしまい、到底使用に耐えるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記従来の問題点を解決しようとするもので、外形円柱状の被保持物の抜落ちを確実に防止して、吊下げ状態の保持や吊下状態での搬送を安全・確実におこなうことができる吊り具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の吊り具は、上面に吊手を取付けた基板の左右方向の一端部に、前後方向に延びるピンにより各リンクを屈曲自在に連結したローラチェーンの一端部を枢着し、このローラチェーンの他端部を、前記基板の左右方向の他端部に設けた締付具に連結するとともに、棒体の表面部に該棒体の長手方向に間隔をおいて複数個の突起を形成して成る2本の支持部材を、前記長手方向を前後方向に向け且つ左右方向に所定の間隔をおいて、前記基板の下面に固着したことを特徴とする。
【0007】
この発明の吊り具によれば、ローラチェーンの締付具による引締めにより、2本の支持部材が外形円柱状の被保持物の外周部に長手方向にそれぞれ複数点にわたって圧接されるとともに、ローラチェーンはそのリンクプレート部が被保持物の外周部に沿って多数個所で圧接された状態となり、かつローラチェーンは横方向(ピン連結による屈曲方向に対して直角な方向)の曲げに対しては剛性が大であるので、被保持物はこれらの支持部材およびローラチェーンを介して基板部に強固に一体化した形で保持され、自重によってこれら各部から抜落ちることなく吊り具により確実に保持される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、この発明の吊り具によれば、突起部を有する支持部材およびローラチェーンと被保持物の外周面部との圧接により、外形円柱状の被保持物の抜落ちを確実に防止して、吊下げ状態の保持や吊下状態での搬送を安全・確実におこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1〜図5に示す一例により、この発明の実施の形態を説明する。図1および図2は、吊り具1を、被保持物である油圧ジャッキ30に取付けた状態を示し、31は油圧ジャッキのシリンダ、32はプランジャである。この取付状態の油圧ジャッキ30の長手方向と同方向である前後方向X(図2参照)に対して左右方向に延びる基板2の上面には、吊手3を取付けてある。
【0010】
4は、前後方向Xに延びるピン5により、ローラリンク6とピンリンク7からなる各リンクを屈曲自在に連結したローラチェーンで、その一端部は、基板2の左右方向の一端部に締付固着した連結具11の頭部に、連結ピン8により回動自在に取付けられている。またローラチェーン4の他端部は、基板2の左右方向の他端部に設けた締付具12の頭部に、連結ピン9により回動自在に取付けられている。
【0011】
締付具12は、そのねじ棒12a部に螺合するナット12bの回動操作により、ねじ棒12a部を上方へ引上げてローラチェーン4を油圧ジャッキ30(のシリンダ31)の回りに圧接するように締付けるものである。またこの例では、連結具11の基板2を貫通して延びるねじ棒11a部は、ナット11bにより締結後、吊手3にねじ込まれ、吊手3の固定用具を兼ねている。
【0012】
一方、基板2の下面には、2本の棒状の支持部材21,21を、その長手方向を前後方向Xに向け且つ左右方向に所定の間隔S(図2参照)をおいて、溶接Wにより固着してある。支持部材21は図4に示すように、長手方向に間隔をおいて複数個の突起22を形成した丸棒体からなり、この例では図示の突起をそなえた異形鉄筋を所定長さに切断して用いている。
【0013】
上記構成の吊り具1の使用にあたっては、締付具12をゆるめて図1の状態よりたるませた状態のローラチェーン4のループの中に、油圧ジャッキ30を挿入後、締付具12の締付けによりローラチェーン4を図1および図2に示すように油圧ジャッキ30のシリンダ31部外周に圧接させる。これによってローラチェーン4の各ローラリンク6の2枚のリンクプレートは、1リンク当り4点でシリンダ31の外周に圧接され、2本の支持部材21,21もそれぞれ図3に示すように複数の突起22の頂部がシリンダ31の外周に圧接された状態になる。
【0014】
この油圧ジャッキ30により、たとえば図5に示すように機械設備の設置現地で電動機41の軸42からプーリ43を抜取るには、常法に従って棒状の支持材45を貫通させた2本のねじ棒46,46の先端部をプーリ43のリブ部にねじ込み、この支持材45と軸42の端面42aとの間に前記吊り具1を装着した油圧ジャッキ30を位置させ、吊り具1の吊手3に挿通したワイヤロープ47を上側のねじ棒46に巻掛けて落下防止を図るとともに、プーリ43のリブ間の貫通穴部に通したワイヤロープ48を、図示しないクレーンのフック等に引掛けて、プーリ43を含む各部の落下防止を図る。
【0015】
この状態で油圧ジャッキ30を油圧によりプランジャ32突出方向に駆動することにより、プーリ43は軸42から抜出す方向(図5(a)における右方向)に駆動され、軸42部から抜取られると、この抜取時点で、油圧ジャッキ30はこれと一体の吊り具1の吊手3部がねじ棒46にワイヤロープ47で吊られた状態となる。なおこのねじ棒46は、ワイヤロープ48で吊られたプーリ43により支持されている。
【0016】
そして吊り具1は、前述のようにローラチェーン4の締付具12による引締めにより、2本の支持部材21がシリンダ31の外周部に長手方向にそれぞれ複数点(この例では5点)にわたって圧接されるとともに、ローラチェーン4はそのリンクプレート部がシリンダ31の外周部に沿って多数個所(この例では計24箇所)で圧接された状態にあり、かつローラチェーン4は横方向(図1における前後方向)の曲げに対しては剛性が大であるので、油圧ジャッキ30はこれらの支持部材21およびローラチェーン4を介して基板2部に強固に一体化した形で保持され、自重によってこれら各部から抜落ちることなく吊り具1により確実に保持されるのである。
【0017】
このように油圧ジャッキ30の吊り具1からの抜落ちは確実に防止され、プーリ43の抜取り完了時点での油圧ジャッキ30の落下によるジャッキ自身の損傷や作業員への危害を生じることなく、油圧ジャッキ30の吊下げ状態の保持を安全・確実におこなうことができるのである。
【0018】
なお上記の吊り具1を装着した油圧ジャッキ30は、上記のプーリ43以外の部材の抜取りなどにも使用でき、また落下防止のための吊手3部の保持は、上記のねじ棒46以外の固定物やクレーンフックなどを利用しておこなってもよい。
【0019】
この発明は上記の例に限定されるものではなく、たとえば締付具12は上記以外の構成を有するものとしてもよく、また連結具11は基板2に溶接した耳片などで構成してもよく、また支持部材21は丸棒以外の角形断面を有する棒材で構成したり、その突起22はたとえば棒材にローレット掛けにより形成した網目状のものなどとしてもよい。また基板2は図1のような左端部が若干傾斜したもののほか、平板状のものとしてもよく、また吊手3は基板2の左右方向中央部などに設けてもよい。
【0020】
またこの発明の吊り具は、上記の油圧ジャッキやその他の外形円柱状の被保持物の吊下状態保持用の吊り具のほか、丸棒材や管材などを吊下げて搬送する際の吊り具にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態の一例を示す吊り具の使用状態の正面図である。
【図2】図1の吊り具の使用状態の平面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】図1における支持部材の側面図である。
【図5】図1の吊り具による吊下げ使用状態を示す図面で、(a)は一部縦断正面図、(b)は支持材部分の右側面図である。
【符号の説明】
【0022】
1…吊り具、2…基板、3…吊手、4…ローラチェーン、8…連結ピン、9…連結ピン、11…連結具、12…締付具、21…支持部材、22…突起、30…油圧ジャッキ、31…シリンダ、42…軸、43…プーリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に吊手を取付けた基板の左右方向の一端部に、前後方向に延びるピンにより各リンクを屈曲自在に連結したローラチェーンの一端部を枢着し、このローラチェーンの他端部を、前記基板の左右方向の他端部に設けた締付具に連結するとともに、
棒体の表面部に該棒体の長手方向に間隔をおいて複数個の突起を形成して成る2本の支持部材を、前記長手方向を前後方向に向け且つ左右方向に所定の間隔をおいて、前記基板の下面に固着したことを特徴とする吊り具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62106(P2009−62106A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228916(P2007−228916)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(591231524)サンエイ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】