説明

吊り戸の下部振止装置

【課題】ガイドピンの保持を確実にして吊り戸を安定的にガイドできるようにした吊り戸のガイド装置を提供すること。
【解決手段】ガイドピン4及びケース3に、ばね7a、7bにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピン4の突出状態を保持する係止部材8a、8bを設けるとともに、案内溝部材6の端部に、突出したガイドピン4に摺接することによりガイドピン4を係止部材8a、8bに抗して退入させる傾斜面9を設る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り戸の下部振止装置に関し、特に、ガイドピンの保持を確実にして吊り戸を安定的にガイドできるようにした吊り戸のガイド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されるように、天井レールにランナーを介して走行自在に吊り下げられた吊り戸に対し、床面に設置した床面設置部材に磁力によって突出可能に設けられたガイドピンが、吊り戸本体の下面に形成された案内溝に挿入されることにより、吊り戸のガイドを行う吊り戸の下部振止装置が知られている。
この吊り戸の下部振止装置は、床に配設されるケースと、該ケースに上方に突出可能に収納されたガイドピンとを備え、ガイドピンを突出させた状態を磁力により維持しながら吊り戸のガイドを行うようにしている。
【0003】
しかしながら、上記従来の吊り戸のガイド装置は、ガイドピンを突出させた状態を磁力により維持する方式のため、ガイドピンの保持が不確実となりやすく、吊り戸を安定的にガイドできないという問題があった。
また、従来の吊り戸のガイド装置は、ガイドピンを含む床面設置部材側に磁石を設けるようにしているため、床面設置部材の構造が複雑になり製造コストがかかるとともに、床面設置部材側に設けた磁石に鉄粉や金属片が吸着されることにより故障の原因となるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−71954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来の吊り戸の下部振止装置が有する問題点に鑑み、ガイドピンの保持を確実にして吊り戸を安定的にガイドできるようにした吊り戸のガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の吊り戸の下部振止装置は、床面に設置されるケース及び該ケースに上方に突出可能に収納されたガイドピンを備えた床面設置部材と、該床面設置部材の突出したガイドピンが挿入される吊り戸本体の案内溝部材とを備え、前記ガイドピンを案内溝部材との間で作用する磁力により突出させるようにした吊り戸の下部振止装置において、ガイドピンとケースの少なくとも一方に、ばねにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピンの突出状態を保持する係止部材を設けるとともに、案内溝部材の端部に、突出したガイドピンに摺接することによりガイドピンを係止部材に抗して退入させる傾斜面を設けたことを特徴とする。
【0006】
この場合において、相手側部材の被係止部の後方に、係止部材が突出状態で摺動可能に挿通する溝を形成することができる。
【0007】
また、ガイドピンの少なくとも一部を磁性体材料で構成するとともに、吊り戸本体の端部側にのみガイドピンを吸着する磁石を配設することができる。
【0008】
また、ガイドピンを複数段の入れ子状の筒体により形成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吊り戸の下部振止装置によれば、ガイドピンとケースの少なくとも一方に、ばねにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピンの突出状態を保持する係止部材を設けるとともに、案内溝部材の端部に、突出したガイドピンに摺接することによりガイドピンを係止部材に抗して退入させる傾斜面を設けることから、磁力により突出状態としたガイドピンを係止部材により保持するとともに、吊り戸の端部では案内溝部材の傾斜面によって突出状態のガイドピンを退入させることができる。
【0010】
この場合、相手側部材の被係止部の後方に、係止部材が突出状態で摺動可能に挿通する溝を形成することにより、被係止部を乗り越えた係止部材と相手側部材との間の抵抗をなくし、ガイドピンをスムーズに退入させるとともに、この溝をガイドとして係止部材が挿通することにより、ガイドピンの昇降を円滑に行うことができる。
【0011】
また、ガイドピンの少なくとも一部を磁性体材料で構成するとともに、吊り戸本体の端部側にのみガイドピンを吸着する磁石を配設するようにすることにより、ガイドピンを含む床面設置部材側に磁石を設ける必要がなく、床面設置部材の構造を簡易にして製造コストを低廉にするとともに、床面設置部材側に故障の原因となる鉄粉や金属片が吸着されないようにすることができる。
【0012】
また、ガイドピンを複数段の入れ子状の筒体により形成することにより、ガイドピンに必要なストロークと剛性を確保しながら、ケースを短く形成することができ、これにより、床材の厚さの範囲に収まる浅い埋め込み孔でも設置できるようになり、床スラブが障害となるような建物の床面にも吊り戸の下部振止装置の床面設置部材を容易に設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の吊り戸の下部振止装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1〜図6に、本発明の吊り戸の下部振止装置の一実施例を示す。
この吊り戸の下部振止装置は、床面2に設置されるケース3及び該ケース3に上方に突出可能に収納されたガイドピン4を備えた床面設置部材1と、該床面設置部材1の突出したガイドピン4が挿入される吊り戸本体5の案内溝部材6とを備え、前記ガイドピン4を案内溝部材6との間で作用する磁力により突出させるようにしている。
そして、この吊り戸の下部振止装置は、ガイドピン4及びケース3に、ばね7a、7bにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピン4の突出状態を保持する係止部材8a、8bを設けるとともに、案内溝部材6の端部に、突出したガイドピン4に摺接することによりガイドピン4を係止部材8a、8bに抗して退入させる傾斜面9を設けている。
【0015】
ケース3は、鍔部31を備えた円筒体からなり、後述するガイドピン4の第1筒体4aの下部に係止することによりこの第1筒体4aの突出状態を保持する係止部材8aを備えている。
係止部材8aは、ばね7aにより付勢されたボールからなり、通常は半径内方向に一部が突出した状態にあり、第1筒体4aの下部が通過する際に押圧されて退入する。
なお、本実施例においては、係止部材8aは、ケース3にばね7aと共に挿入され、ばね7aの背面に栓部材35を配設することにより、ケース3に抜け止め状態に封入されるようにしている。
また、ケース3は、抜け止めピン32によって、第1筒体4aの退入時の下限位置決めを図るとともに、図示省略する係合手段により、第1筒体4aの突出時の上限位置決めを図るようにしている。
【0016】
ガイドピン4は、ケース3に直接摺動可能に収納された第1筒体4aと、該第1筒体4aの内部に摺動可能に収納された第2筒体4bとを備え、これら第1筒体4aと第2筒体4bとは、2段の入れ子状に形成されている。
第1筒体4aは、抜け止めピン41によって、第2筒体4bの退入時の下限の位置決めを図るとともに、図示省略する係合手段により、第2筒体4bの突出時の上限位置決めを図るようにしている。
これにより、磁石10により第1筒体4aが引き上げられると、前記係合手段により、続いて第2筒体4bが第1筒体4aを介して引き上げられる。
【0017】
第1筒体4aは円筒体からなり、ケース3の抜け止めピン32が挿通する切欠部42を係止部材8側に有し、浅くなった外周の下部43を係止部材8の被係止部とするとともに、この被係止部の後方に、係止部材8が突出状態で摺動可能に挿通する溝44を軸方向に形成している。
また、第1筒体4aの内周の上部45は、後述する第2筒体4bの係止部材8bの被係止部となっており、この被係止部の後方には、係止部材8bが突出状態で摺動可能に挿通する溝46が軸方向に形成されている。
このように被係止部の後方に、係止部材8a、8bが突出状態で挿通する溝44、46を形成することにより、被係止部を乗り越えた係止部材8a、8bと第1筒体4a及び第2筒体4bとの間の抵抗をなくし、第1筒体4a及び第2筒体4bをスムーズに退入させるとともに、この溝44、46をガイドとして係止部材8a、8bが挿通することにより、第1筒体4a及び第2筒体4bの昇降を円滑に行うことができる。
【0018】
第2筒体4bは有蓋の円筒体からなり、第1筒体4aの上部45に係止することによりこの第2筒体4bの突出状態を保持する係止部材8bを備えている。
係止部材8bは、ばね7bにより付勢されたボールからなり、通常は半径外方向に一部が突出した状態にあり、第1筒体4aの上部45を通過する際に押圧されて退入する。
また、第2筒体4bは、鉄等の磁性体材料からなり、案内溝部材6の端部に配設した磁石10に吸着されるようにする。
なお、本実施例においては、係止部材8bは、分割形成した第2筒体4bにばね7bと共に挿入され、分割形成した第2筒体4bをねじ47により一体化することにより、第2筒体4bに抜け止め状態に封入されるようにしている。
【0019】
一方、本実施例の吊り戸の下部振止装置においては、ガイドピン4を、ケース3に対して偏心して配設しており、これにより、ケース3を床面2に設置する際に、ケース3を回転することによって、ガイドピン4の吊り戸本体5の案内溝61に対する位置を調整できるようにしている。
この場合、ケース3とガイドピン4とが同心となるように配設することもできる。
【0020】
さらに、本実施例の吊り戸の下部振止装置においては、ケース3を床面2に設置するに当たり、図6に示すように、ケース3を、合成樹脂等の材料で形成したアウター部材11を介して、床面2に設置するようにしている。
アウター部材11には、ケース3の外周面に形成した抜け止め用溝34に嵌合する抜け止め用突起(図示省略)を形成するようにする。
これにより、ケース3を床面2に一旦設置した後でも、アウター部材11内でケース3を回転することが可能となり、ケース3の設置状態が緩むことなく、ガイドピン4の吊り戸本体5の案内溝61に対する位置調整を、容易に、かつ何度でも行うことができる。
また、ケース3の底面及びアウター部材11の内底面は、ケース3とアウター部材11とが任意の回転位置で嵌合できる嵌合構造の凹凸33が形成されており、これにより、ケース3とアウター部材11との位置関係を正確に保持することができる。
【0021】
一方、吊り戸本体5は、天井レールにランナー(図示省略)を介して走行自在に吊り下げられており、その下面には案内溝部材6が配設されている。
案内溝部材6は、床面設置部材1のガイドピン4が挿入される案内溝61が形成されるとともに、案内溝部材6の端部には、突出したガイドピン4に摺接することによりガイドピン4を係止部材8a、8bに抗して退入させる傾斜面9が設けられている。
また、案内溝部材6は、吊り戸本体5の端部側にのみガイドピン4を吸着する磁石10を配設するようにしており、本実施例では、前記傾斜面9を磁石10により形成している。
【0022】
次に、この吊り戸の下部振止装置の動作を説明する。
この吊り戸の下部振止装置は、吊り戸本体5が、床面2に設置された床面設置部材1の上方位置に来ると、図1(a)及び図2に示すように、吊り戸本体5の端部側に配設した磁石10によって第2筒体4bが吸着され、図1(b)及び図3に示すように、ガイドピン4(第1筒体4a及び第2筒体4b)はケース3内から上方に突出し、吊り戸本体5の案内溝部材6の案内溝61に自動的に挿入される。
このとき、図1(b)及び図3に示すように、第2筒体4bの係止部材8bが第1筒体4aの上部45を乗り越えて、この第1筒体4aの上部45に係止するとともに、ケース3の係止部材8が第1筒体4aの下部43を乗り越えて、この第1筒体4aの下部43に係止することにより、第1筒体4aと第2筒体4bは突出状態に保持される。
これにより、図1(b)及び図3に示すように、ガイドピン4を吸着する磁石10が存在しない吊り戸本体5の中央部においても、ガイドピン4を確実に保持することができる。
【0023】
そして、図1(c)及び図4に示すように、さらに吊り戸本体5が移動して端部に来ると、案内溝部材6に形成した傾斜面9が、突出する第1筒体4aと第2筒体4bに摺接し、これら第1筒体4aと第2筒体4bとを係止部材8a、8bに抗して押し下げる。
これにより、図1(d)及び図5に示すように、第1筒体4aと第2筒体4b、すなわちガイドピン4をケース3内に退入させることができる。
【0024】
かくして、本実施例の吊り戸の下部振止装置によれば、ガイドピン4とケース3の少なくとも一方に、ばね7a、7bにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピン4の突出状態を保持する係止部材8a、8bを設けるとともに、案内溝部材6の端部に、突出したガイドピン4に摺接することによりガイドピン4を係止部材8a、8bに抗して退入させる傾斜面9を設けることから、磁力により突出状態としたガイドピン4を係止部材8a、8bにより保持するとともに、吊り戸の端部では案内溝部材6の傾斜面9によって突出状態のガイドピン4を退入させることができる。
【0025】
この場合、相手側部材の被係止部の後方に、係止部材8a、8bが突出状態で摺動可能に挿通する溝44、46を形成することにより、被係止部を乗り越えた係止部材8a、8bと相手側部材との間の抵抗をなくし、ガイドピン4をスムーズに退入させるとともに、この溝44、46をガイドとして係止部材8a、8bが挿通することにより、ガイドピン4の昇降を円滑に行うことができる。
【0026】
また、ガイドピン4の少なくとも一部を磁性体材料で構成するとともに、吊り戸本体5の端部側にのみガイドピン4を吸着する磁石10を配設するようにすることにより、ガイドピン4を含む床面設置部材1側に磁石を設ける必要がなく、床面設置部材1の構造を簡易にして製造コストを低廉にするとともに、床面設置部材1側に故障の原因となる鉄粉や金属片が吸着されないようにすることができる。
【0027】
また、ガイドピン4を複数段の入れ子状の筒体4a、4bにより形成することにより、ガイドピン4に必要なストロークと剛性を確保しながら、ケース3を短く形成することができ、これにより、床材の厚さの範囲に収まる浅い埋め込み孔でも設置できるようになり、床スラブが障害となるような建物の床面にも吊り戸の下部振止装置の床面設置部材1を容易に設置することができる。
【0028】
以上、本発明の吊り戸の下部振止装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明の吊り戸の下部振止装置は、上記実施例の構成に限定されるものではなく、例えば、ガイドピンを3段以上の入れ子状に形成したり、入れ子状とせずに1段で構成したり、ガイドピンの突出状態を保持する係止部材を1つのガイドピンに2箇所以上配設するようにする等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜に変更することが可能である。
また、上記各実施例の吊り戸の下部振止装置は、特に材料を限定していない部材については、合成樹脂のほか、金属等の任意の材料で形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の吊り戸の下部振止装置は、ガイドピンの保持を確実にして吊り戸を安定的にガイドできることから、鉄筋コンクリートの建物等において床スラブ等が障害となって深い埋め込み孔を形成することが困難な場合等を含め、吊り戸の下部振止の用途に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の吊り戸の下部振止装置の一実施例を示し、(a)はガイドピンが突出過程にある状態を示す断面図、(b)はガイドピンが突出した状態を示す断面図、(c)はガイドピンが退入過程にある状態を示す断面図、(d)はガイドピンが退入した状態を示す断面図である。
【図2】同吊り戸の下部振止装置のガイドピンが突出過程にある状態を示す断面図である。
【図3】同吊り戸の下部振止装置のガイドピンが突出した状態を示す断面図である。
【図4】同吊り戸の下部振止装置のガイドピンが退入過程にある状態を示す断面図である。
【図5】同吊り戸の下部振止装置のガイドピンが退入した状態を示す断面図である。
【図6】同吊り戸の下部振止装置の吊り戸に直交する方向の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 床面設置部材
2 床
3 ケース
31 鍔部
32 抜け止めピン
33 凹凸(嵌合構造)
34 抜け止め用溝
4 ガイドピン
4a 第1筒体
4b 第2筒体
41 抜け止めピン
42 切欠部
43 下部
44 溝
45 上部
46 溝
5 吊り戸本体
6 案内溝部材
61 案内溝
7a ばね
7b ばね
8a 係止部材
8b 係止部材
9 傾斜面
10 磁石
11 アウター部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に設置されるケース及び該ケースに上方に突出可能に収納されたガイドピンを備えた床面設置部材と、該床面設置部材の突出したガイドピンが挿入される吊り戸本体の案内溝部材とを備え、前記ガイドピンを案内溝部材との間で作用する磁力により突出させるようにした吊り戸の下部振止装置において、ガイドピンとケースの少なくとも一方に、ばねにより付勢された状態で退入可能に突出し、相手側部材の一部に係止することによりガイドピンの突出状態を保持する係止部材を設けるとともに、案内溝部材の端部に、突出したガイドピンに摺接することによりガイドピンを係止部材に抗して退入させる傾斜面を設けたことを特徴とする吊り戸の下部振止装置。
【請求項2】
相手側部材の被係止部の後方に、係止部材が突出状態で摺動可能に挿通する溝を形成したことを特徴とする請求項1記載の吊り戸の下部振止装置。
【請求項3】
ガイドピンの少なくとも一部を磁性体材料で構成するとともに、吊り戸本体の端部側にのみガイドピンを吸着する磁石を配設したことを特徴とする請求項1又は2記載の吊り戸の下部振止装置。
【請求項4】
ガイドピンを複数段の入れ子状の筒体により形成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の吊り戸の下部振止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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