説明

吊り戸棚

【課題】吊り戸棚からの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚への収納作業をより行いやすくすると共に、収納物に崩れなどが生じてこれが戸体に支えられるようになっていてもこれを落下させることなく戸体の開放ができるようにする。
【解決手段】吊り戸棚Sの棚本体1の前面開放部を、この棚本体1に上下方向にスライド移動可能に組み合わされた戸体2を上昇終了位置に位置づけることで、閉塞するようにしてなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、キッチンや居室などの天井側に取り付けられて収納に用いられる吊り戸棚の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
キッチンなどの天井側の壁面に取り付けられて収納に用いられる吊り戸棚は、一般に開き戸あるいは引き戸により開放可能に閉塞されている。
【0003】
しかるに、開き戸を備えた吊り戸棚にあっては、解放時には開き戸が前方に突き出すため、吊り戸棚の前方に位置しての吊り戸棚からの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚への収納作業において、この開き戸が邪魔となる場合がある。特に、踏み台などに乗って前記のような作業をする場合、体をのけぞらしながら開き戸を操作しなければならない場合も少なくない。
【0004】
また、引き戸を備えた吊り戸棚にあっては、吊り戸棚の横幅一杯に吊り戸棚を開放させることができないため、大型の収納物の出し入れに不便な場合がある。
【0005】
さらに、開き戸を備えた吊り戸棚にあっては、地震時などによって積み重ね状に納めた収納物が崩れるなどして閉じ位置にある開き戸の内面によってかかる収納物が支えられるような状態となったときには、開き戸を操作したと同時にこうした収納物の落下が生じるため、耐震ラッチなどが設けられている場合でも、地震後の開放には格別の注意を払わせる。
【0006】
また、引き戸を備えた吊り戸棚にあっては、地震時などによって積み重ね状に納めた収納物が崩れるなどして閉じ位置にある引き戸の内面によってかかる収納物が支えられるような状態となったときには、これが引き戸の内端に引っかかって開放操作を不能あるいは困難とする場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする主たる問題点は、吊り戸棚からの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚への収納作業をより行いやすくすると共に、収納物に崩れなどが生じてこれが戸体に支えられるようになっていてもこれを落下させることなく戸体の開放ができるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために、この発明にあっては、吊り戸棚を、棚本体の前面開放部を、この棚本体に上下方向にスライド移動可能に組み合わされた戸体を上昇終了位置に位置づけることで、閉塞するようにしてなるものとした。
【0009】
かかる吊り戸棚にあっては、上昇終了位置にある戸体を下方にスライド移動させることで棚本体の前面開放部を開放させる機能を有する。かかる吊り戸棚の戸体は、吊り戸棚の前面開放部を両開きの開き戸や片開きの開き戸により閉塞させる在来の吊り戸棚にように、開放時に前方に突き出すことはなく吊り戸棚の前面開放部の前方に位置しての吊り戸棚からの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚への収納作業において戸体が邪魔となることがない。また、かかる吊り戸棚の戸体は、吊り戸棚の前面開放部を引き戸により閉塞させる在来の吊り戸棚に比べ開放時には前面開放部をその横幅一杯に開放させる。さらに、地震時などによって積み重ね状に納めた収納物が崩れるなどして上昇終了位置にある戸体の内面によってかかる収納物が支えられるような状態となったときには、戸体を徐々に下方にスライド移動させるように操作してこのような収納物を戸体により崩れ落ちないように支えながら戸体上で部分的に開かれた前面開放部から取り出したり、積みなおしたりすることができる。
【0010】
前記戸体を、上昇終了位置において棚本体の前面開放部の上側を閉塞する上側戸体と、上昇終了位置において棚本体の前面開放部の下側を閉塞する下側戸体とより構成させておけば、棚本体の上側と下側をそれぞれ個別に開放させることができる。この場合さらに、上昇終了位置にある上側戸体の下端部の内方に上昇終了位置にある下側戸体の上端部が位置されるようにしておけば、それぞれ上昇終了位置にある上側戸体と下側戸体とによって前面開放部を隙間なく閉塞させることができると共に、前記収納物の崩れなどが生じた場合に、上側戸体の下辺部に収納物が入り込んで上側戸体の下降操作を妨げるような事態を生じさせないようにすることができる。
【0011】
かかる戸体の全部又は一部を透明又は半透明にして戸体を介して棚本体内に収納されている物品の収納状態を視認可能にしておけば、前記収納物の崩れなどの有無を戸体を下降操作する前に操作者に認識させることができると共に、崩れなどが生じている場合には収納物の落下を生じさせないで戸体を下げることが可能なレベルを操作者に認識させることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明にかかる吊り戸棚によれば、吊り戸棚の前方に位置しての戸体の開放操作において戸体は操作者の邪魔にならず、また、棚本体の横幅一杯の開放が可能であり、吊り戸棚からの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚への収納作業は行いやすく、また、収納物に崩れなどが生じてこれが戸体に支えられるようになっていてもこれを落下させることなく戸体を開放することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図1〜図6に基づいて、この発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0014】
なお、ここで図1は実施の形態にかかる吊り戸棚Sの利用状態を表しており、また、図2および図3はその吊り戸棚Sを正面から見た状態として、図4および図5はその前側を断面にした状態として示している。また、図6は図1〜図5に示される吊り戸棚Sの構成の一部を変更させた例を示している。図3および図5において戸体2は下降終了位置にあり、図2、図4および図6において戸体2は上昇終了位置にある。
【0015】
この実施の形態にかかる吊り戸棚Sは、キッチンや居室などの天井側に取り付けられて収納に用いられるものである。すなわち、本明細書において吊り戸棚Sとは、ウォールキャビネットないしウォールユニットを含む概念である。
【0016】
かかる吊り戸棚Sは、棚本体1の前面開放部10を、この棚本体1に上下方向にスライド移動可能に組み合わされた戸体2を上昇終了位置に位置づけることで、閉塞するようにしている。
【0017】
図示の例では、棚本体1は、天板11と底板12と背板13と左右側板14、14より構成され、背板13の外面を壁面への添装面としている。
【0018】
前面開放部10の左右両側にはそれぞれ、上下方向に沿ったレール部15がレール口15aを前面開放部10の内方に向けるようにして設けられている。戸体2は、正面視略方形をなす板状体であって、その上下方向に沿った右辺部21を右側のレール部15に入れ込み、かつ、その上下方向に沿った左辺部20を左側のレール部15に入れ込ませて、棚本体1に上下方向にスライド移動可能に組み合わされている。
【0019】
戸体2の左右辺部20、21間の寸法は、左右のレール部15のレール口15a間の寸法よりは大きいが、左右のレール部15の内奥部15b間の寸法よりは小さくなるように構成されている。そして、戸体2の左右方向に沿った上辺部22と右辺部21との隅部と、この上辺部22と左辺部20との隅部とにはそれぞれ、レール部15の内奥部15bに向けて突き出す抜け止め部24が設けられている。一方、レール部15の下端には規制部16が設けられており、戸体2は抜け止め部24をこの規制部16に上方から引っかける位置まで下降可能とされこの位置において前面開放部10がもっとも大きく開放されるようになっている。(下降終了位置/図3、図5)
【0020】
また、戸体2の下辺部23には、この下辺部23に亘ってこの下辺部23から前方に突き出すカバー部25が形成されている。かかるカバー部25の左端部25aは戸体2の下辺部23と左辺部20との隅部から側方に突き出しており、また、かかるカバー部25の右端部25aは戸体2の下辺部23と右辺部21との隅部から側方に突き出している。戸体2によって前面開放部10を完全に閉塞した状態において、カバー部25は吊り戸棚Sの底板12の前端12aの前方に作られる戸体2を納めるための隙間17を下方より塞ぐ。(上昇終了位置/図2、図4)また、この状態において左側の前記規制部16にカバー部25の左端部25aが掛合し、また、右側の前記規制部16にカバー部25の右端部25aが掛合されるようになっている。これにより戸体2によって前面開放部10を完全に閉塞した状態を維持できるようになっている。図示の例では、規制部16の下部とカバー部25の端部25aの上部とが、これらにそれぞれ設けた吸着部材3(互いに吸着しあう磁石または磁石と磁性体)により、磁力により吸着されるようにして両者の掛合を実現させている。図示の例では、前面開放部10を完全に閉塞した戸体2のカバー部25に指をかけて、かかる掛合を解く大きさの力で戸体2を下方に引くことで、前面開放部10を開放させるようになっている。このカバー部25の前端面に指かけ部などを形成させておけば、戸体2を操作させやすくできる。戸体2の下降には、公知の各種の手段(例えば、戸体2及び棚本体1のいずれか一方に設けたラックにかみ合うピニオンをこれらの他方に設けると共に、このピニオンをロータリーダンパーのローターに接続させるなど)により制動を付与して、この戸体2の下降はゆっくりなされるようにすることが好ましい。なお、図示の例では、棚本体1は仕切り棚体4において上下に二分されている。
【0021】
かかる吊り戸棚Sにあっては、上昇終了位置にある戸体2を下方にスライド移動させることで棚本体1の前面開放部10を開放させる機能を有する。かかる吊り戸棚Sの戸体2は、吊り戸棚Sの前面開放部10を両開きの開き戸や片開きの開き戸により閉塞させる在来の吊り戸棚Sにように、開放時に前方に突き出すことはなく吊り戸棚Sの前面開放部10の前方に位置しての吊り戸棚Sからの収納物の取り出し作業ないしは吊り戸棚Sへの収納作業において戸体2が邪魔となることがない。また、かかる吊り戸棚Sの戸体2は、吊り戸棚Sの前面開放部10を引き戸により閉塞させる在来の吊り戸棚Sに比べ開放時には前面開放部10をその横幅一杯に開放させる。さらに、地震時などによって積み重ね状に納めた収納物が崩れるなどして上昇終了位置にある戸体2の内面26によってかかる収納物が支えられるような状態となったときには、戸体2を徐々に下方にスライド移動させるように操作してこのような収納物を戸体2により崩れ落ちないように支えながら戸体2上で部分的に開かれた前面開放部10から取り出したり、積みなおしたりすることができる。
【0022】
かかる戸体2の全部又は一部を透明又は半透明にして戸体2を介して棚本体1内に収納されている物品の収納状態を視認可能にしておけば、前記収納物の崩れなどの有無を戸体2を下降操作する前に操作者に認識させることができると共に、崩れなどが生じている場合には収納物の落下を生じさせないで戸体2を下げることが可能なレベルを操作者に認識させることができる。
【0023】
かかる戸体2の全体を強化ガラスや、透明又は半透明の特性を持つエンジニアプラスチックなどで構成すれば、戸体2の全部を透明又は半透明とすることができる。戸体2にこのような透明又は半透明の強化ガラスなどで閉塞させた窓などを形成させておけば、戸体2の一部が透明又は半透明となる。
【0024】
図6は、戸体2を、上昇終了位置において棚本体1の前面開放部10の上側を閉塞する上側戸体2’と、上昇終了位置において棚本体1の前面開放部10の下側を閉塞する下側戸体2”とより構成させた例を示している。このようにした場合、棚本体1の上側と下側をそれぞれ個別に開放させることができる。
【0025】
この実施の形態にあっては、さらに、上昇終了位置にある上側戸体2’の下端部23aの内方に上昇終了位置にある下側戸体2”の上端部22aが位置されるようになっている。
【0026】
図示の例では、レール部15が上側戸体2’の支持部15cを前側に位置させ、下側戸体2”の支持部15dをその後側に位置させており、棚本体1の前面開放部の上側のみを開放するときは、下側戸体2”の前面側に下降終了位置にある上側戸体2’が位置され両者が前後に略重なり合うようになっている。
【0027】
このようにした場合、それぞれ上昇終了位置にある上側戸体2’と下側戸体2”とによって前面開放部を隙間なく閉塞させることができると共に、前記収納物の崩れなどが生じた場合に、上側戸体2’の下端部23a下に収納物が入り込んで上側戸体2’の下降操作を妨げるような事態を生じさせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】吊り戸棚Sの使用状態を示した構成図
【図2】吊り戸棚Sの正面構成図
【図3】吊り戸棚Sの正面構成図
【図4】吊り戸棚Sの要部縦断面構成図
【図5】吊り戸棚Sの要部縦断面構成図
【図6】吊り戸棚Sの縦断面構成図
【符号の説明】
【0029】
S 吊り戸棚
1 棚本体
10 前面開放部
2 戸体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り戸棚であって、棚本体の前面開放部を、この棚本体に上下方向にスライド移動可能に組み合わされた戸体を上昇終了位置に位置づけることで、閉塞するようにしてなることを特徴とする吊り戸棚。
【請求項2】
戸体が、上昇終了位置において棚本体の前面開放部の上側を閉塞する上側戸体と、上昇終了位置において棚本体の前面開放部の下側を閉塞する下側戸体とよりなることを特徴とする請求項1に記載の吊り戸棚。
【請求項3】
上昇終了位置にある上側戸体の下端部の内方に上昇終了位置にある下側戸体の上端部が位置されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の吊り戸棚。
【請求項4】
戸体の全部又は一部が透明又は半透明とされて戸体を介して棚本体内に収納されている物品の収納状態が視認可能となっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の吊り戸棚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−77774(P2009−77774A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247511(P2007−247511)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】