説明

吊戸の下部ランナ装置

【課題】下部ランナが下部レールの継ぎ目、T字状、L字状または十字状のコーナー部を移動しようとするときに、吊戸の動作が滑らかな状態を維持し、さらに下部ランナの円盤部が下部レールの溝内に落ち込むことがない吊戸の下部ランナ装置を提供すること。
【解決手段】下部レール10と下部ランナ20とを有する。下部ランナ20は、下部レール10の鍔部10c上を摺動する円盤部26bと鍔部10c間に位置するガイド部26cと該ガイド部26cの下面より突出する乗り上げ部材27とを含んでなる下向きに付勢されたコマ部材26を有する。下部レール10は、継ぎ目部またはコーナー部等に浮かし部材30A〜30Dを備えている。吊戸Dが移動され下部ランナ20が下部レール10の継ぎ目部またはコーナー部に向かうとき、乗り上げ部材27が浮かし部材30A〜30Dに乗り上げて下部ランナ20が上方に押し上げられ、円盤部26bと鍔部10cとの接触が解除される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部で荷重が支えられた吊戸の下部側の案内構造である吊戸の下部ランナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大広間の間仕切りとして、複数枚の吊戸を連結してなる折戸が用いられる。例えば、特許文献1の図3に示すように、折戸を構成している各吊戸は、天井に備えられた上部レールと、扉の上端の扉幅方向に離れた2箇所に設けられ上部レールに係合し移動される一対の上部ランナ(吊具)とからなる上部ランナ装置により、荷重が支えられ移動されると共に、床面に備えられた下部レールと、扉の下端の扉幅方向に離れた吊具に対応する2箇所に設けられ下部レールに係合案内される一対の下部ランナとからなる下部ランナ装置により、振れを抑えられ案内され、もって上部ランナ装置と下部ランナ装置との協働作用により安定して移動され、間仕切りとして展開され、また、収納位置に折り畳まれる。なお、吊戸は、折戸以外にも適用される。
【0003】
特許文献2の図1に示された吊戸の下部ランナ装置は、下部レールの内部空隙に下部ランナのコマ部材が収容された構成である。この構成では、下部ランナのコマ部材の大径部を傾斜させることで、大径部を下部レールの上部開口から通過させて内部空隙にセットすることができるが、吊戸の下端が下部レールから脱出しにくいので、逆に吊戸を取り外したいときに取り外しが難しく、また吊戸に垂直方向の外力が加わったときに、吊戸が下部レールが脱出できないから吊戸の下部ランナの収容部分が損壊することがある。
【0004】
特許文献1の図3に示された吊戸の下部ランナ装置は、上側が開いた溝形状をなし床面に形成された溝内に収容固定される下部レールと、吊戸の下端に取付けられ前記下部レールに沿って摺動する下部ランナとを有してなる。下部レールは、底面部と、該底面部と両側縁より一体に立ち上がる側面部と、該側面部の上端より外向きに突出する鍔部と、各側面部の内面中途より内向きに突出する段部とからなる。下部ランナは、回転不能かつばねにより下方へ付勢されるピボット軸と、ピボット軸に回転可能に設けられ両側の段部上を摺動する円盤部と段部間に位置する短円筒状のガイド部とを有している。この構成では、吊戸を取り外したいときに取り外しが容易である。
【0005】
特許文献1の図3に示された吊戸の下部ランナ装置は、低コストな下部レールの提供と、吊戸を一層取り外し容易とした図13に示すような簡素な構造に改善されている。すなわち、改善された構成によれば、下部レール6は、底面部6aと、該底面部6aの両側縁より一体に立ち上がる側面部6bと、該側面部6bの上端より外向きに突出する鍔部6cとから浅溝に形成されてなり、特許文献1の図3に示されたレール溝内の段部がない。下部ランナ7は、吊戸Dの下端面より上方向に穿孔された円筒空間に下方から差し込まれた筒状体であるホルダ7aと、ホルダ7aに収容支持さればねにより下方へ付勢されるピボット軸7bと、ピボット軸7bに回転可能に設けられ下部レール6の両側の鍔部6c上を転動する案内輪7cとを有している。案内輪7cは、鍔部6c上に載って移動する円盤部7c1と、鍔部6c間に位置しいずれかの鍔部6cに当接する短円筒状のガイド部7c2とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−275409号公報
【特許文献2】特開2000−170432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図13に示す吊戸の下部ランナ装置によれば、以下の問題がある。下部レール6は、例えば2メートルの長さの直線部材を継ぎ足して構成されていると共に、吊戸の移動方向を直角に変える箇所では、L字状、T字状または十字状のコーナー用部材を配置し直線部材と継ぎ足して構成されているので、継ぎ目部分に段差が生じていることが多く、この段差が生じている箇所で低い側から高い側へ吊戸Dを移動しようとすると、低い側の鍔部6c上を摺動する下部ランナ7の円盤部7c1が下部レール6の高い側の鍔部6cの端面に衝突し、吊戸の移動が円滑に行われない。
【0008】
また、下部ランナ7がL字状、T字状または十字状のコーナー用部材のコーナー部に対応して吊戸を直角方向に向きを変えて移動しようとするときには、下部ランナ7の円盤部7c1が下部レール6の溝内に落ち込むことにより吊戸の動作が滑らかでなくなる。コーナー部で吊戸を持ち上げつつ直角に向きを変えるようにしてもピボット軸が下向きに付勢しているので、下部ランナ7の円盤部7c1が下部レール6の溝内に落ち込むことは避けられない。下部ランナ7の円盤部7c1が下部レール6の溝内に落ち込むことが発生するのは、レールがコーナー部で円弧状に曲がっておらず直角に曲がっており、この角の対角線部分長さが他の部分のレール幅よりも広いためである。
【0009】
さらに、上部ランナ(吊具)の吊軸の中心線と下部ランナ7のピボット軸の中心線とが一致して存在せず、戸の板面方向にオフセットしている場合には、ランナがL字状、T字状または十字状になるコーナー用部材のコーナー部において、上部ランナまたは下部ランナの一方が先にコーナー部に至り、他方が直線部に存在するという状況が生じ、やはり吊り戸の円滑な移動を妨げる要因となる。このような中心線のオフセットは、戸の組立工程において避けることが困難である。
【0010】
また、吊戸に人がぶつかるなど板面方向に垂直な力がかかった際に下部ランナ7や吊り戸自体が損壊するおそれがある。下部ランナ7の円盤部7c1が下部レール6から外れた場合には損壊が防げるものの、円盤部7c1を下部レール6の溝内に戻す際に、大変手間がかかる。
【0011】
特許文献1の図3に示された吊戸の下部ランナ装置は、特許文献2の図1に示された吊戸の下部ランナ装置に比べ、吊戸の取り外しが容易になったが、吊戸に垂直方向に外力が加わったときに、吊戸が下部レールから脱出できず吊戸の下部ランナの収容部分が損壊することを解消するための改善は行われていない。
【0012】
本発明は、上述した問題点に解消するために案出されたもので、下部ランナが下部レールの継ぎ目、L字状、T字状または十字状のコーナー部を移動しようとするときに、吊戸の動作が滑らかな状態を維持し、さらに下部ランナの円盤部が下部レールの溝内に落ち込むことがない吊戸の下部ランナ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の吊戸の下部ランナ装置は、上側が開いた溝形状をなし床面に形成された溝内に設けられる下部レールと、吊戸の下端に取付けられ前記下部レールに沿って摺動する下部ランナとを有し、前記下部ランナは、前記下部レールの幅方向両縁に設けられた鍔部上を摺動する円盤部と前記鍔部間に位置するガイド部と該ガイド部の下面より突出する乗り上げ部材とを含んでなる下向きに付勢されたコマ部材を有し、前記下部レールは、継ぎ目部またはコーナー部において該下部レール内に設けられ、上面が該継ぎ目部またはコーナー部から離れるにつれて漸次低くなるよう傾斜した浮かし部材を有し、前記吊戸が移動し前記下部ランナが前記下部レールの前記継ぎ目部またはコーナー部に向かうとき、前記乗り上げ部材が前記浮かし部材に乗り上げて前記コマ部材が上方に押し上げられることを特徴とする。
【0014】
本発明による吊戸の下部ランナ装置は、好ましくは、乗り上げ部材の外径が下部レールの幅より小さい。
【0015】
本発明による吊戸の下部ランナ装置は、好ましくは、乗り上げ部材が、 浮かし部材に球面対偶するように備えられた球体である。
【0016】
本発明による吊戸の下部ランナ装置は、好ましくは、鍔部の内辺には内側に向かって下方傾斜する第1の傾斜面が形成され、ガイド部は下端に向かって漸次小径となる略円錐面をなし、吊戸に対し前記下部レールの幅方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、ガイド部が鍔部の第1の傾斜面により上方に案内されることで鍔部を乗り越え、下部ランナが下部レールから脱出する。
【0017】
本発明による吊戸の下部ランナ装置は、好ましくは、鍔部の外辺には外側に向かって下方傾斜する第2の傾斜面が形成され、吊戸が下部レールから外れた状態から、吊戸に対し下部レールに係合復帰する方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、ガイド部が鍔部の第2の傾斜面により上方に案内されることで鍔部を乗り越え、下部ランナが下部レール内に復帰する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、乗り上げ部材が浮かし部材に乗り上げてコマ部材が上方に押し上げられる構成であるから、下部ランナが下部レールの継ぎ目を移動しようとするとき、並びにT字状、L字状または十字状のコーナー部に対応して吊戸を直角方向に向きを変えて移動しようとするときに、下部ランナの円盤部が下部レールの溝内に落ち込むことがない吊戸の下部ランナ装置を提供することができる。
【0019】
また、乗り上げ部材の外径が前記下部レールの幅より小さいことにより、上方に押し上げられた状態において下部レールの溝に対する下部ランナの水平方向の遊びが生じるから、上部ランナと下部ランナとの中心軸のオフセットがあったとしても、吊戸をL字状、T字状または十字状のコーナー部に対応して直角方向に向きを変えて移動することが円滑にできる。
【0020】
乗り上げ部材が、浮かし部材に球面対偶するように備えられた球体であることにより、乗り上げ状態での動きがより円滑になる。
【0021】
鍔部の内辺に内側に向かって下方傾斜する第1の傾斜面が形成され、ガイド部は下端に向かって漸次小径となる略円錐面をなすことにより、吊戸に対し下部レールの幅方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、ガイド部が鍔部の第1の傾斜面により上方に案内されることで鍔部を乗り越え、下部ランナが下部レールから脱出することができるから、吊戸や下部ランナの破損を防ぐことができる。
【0022】
鍔部の外辺には外側に向かって下方傾斜する第2の傾斜面が形成されることにより、吊戸が下部レールから外れた状態から、吊戸に対し下部レールに係合復帰する方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、ガイド部が鍔部の第2の傾斜面により上方に案内されることで鍔部を乗り越え、下部ランナが下部レール内に復帰することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る吊戸装置を上方から見た斜視図である。
【図2】図1に示す吊戸装置の下部レールの平面図である。
【図3】図1に示す吊戸装置の縦断側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る吊戸の下部ランナ装置の拡大側面図を示す。
【図5】図4に示す下部ランナの分解斜視図である。
【図6】下部レールのL字状レール部分に設けられた浮かし部材上を乗り上げ部材が乗り上げる状態を示す斜視図である。
【図7】下部レールの十字状レール部分に設けられた浮かし部材上を乗り上げ部材が乗り上げる状態を示す斜視図である。
【図8】下部レールのT字状レール部分に設けられた浮かし部材上を乗り上げ部材が乗り上げる状態を示す斜視図である。
【図9】(a)は下部ランナが下部レールの浮かし部材のない箇所を走行する通常走行状態を示す図であり、(b)は下部ランナが下部レールに収容固定された浮かし部材上に乗り上げた状態を示す図である。
【図10】下部ランナが下部レールの継ぎ目に収容固定された浮かし部材上に乗り上げて通過する状態を示す動作工程図である。
【図11】下部ランナが下部レールのL字状レール部分またはT字状レール部分に収容固定された浮かし部材上に乗り上げる状態を示す動作工程図である。
【図12】(a)は吊戸が間仕切り位置に位置され、下部ランナが下部レールに載置した状態を示す図、(b)は下部ランナが下部レールの鍔部に乗り上げた状態を示す図、(c)は下部ランナが下部レールの側方へ離脱した状態を示す図である。
【図13】従来例の下部ランナ装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
<構成>
図1は、本発明の実施形態に係る吊戸装置を上方から見た斜視図を示す。図2は、下部レールの平面図を示す。図3は、吊戸装置の縦断側面図を示す。この吊戸装置1は、天井Cに備えられた上部レール3と、床面Fに備えられた下部レール10とが水平面に関して対称的に備えられ、吊戸Dが、吊戸Dの上端の戸幅方向に離れた2箇所に設けられ上部レール3に係合し移動される一対の上部ランナ4により、荷重が支えられ移動されると共に、扉の下端の戸幅方向に離れた吊具に対応する2箇所に設けられ下部レール10に係合案内される一対の下部ランナ20により振れを抑えられつつ案内され、間仕切り位置と収納位置との間を移動される。上部レール3と下部レール10は、それぞれ直線レールと、L字状レールと、T字状レールと、十字状レールとを適宜に継ぎ足して成る。
【0025】
上部レール3と上部ランナ4とで上部ランナ装置2が構成され、下部レール10と下部ランナ20とで下部ランナ装置5が構成される。吊戸装置1は、上部ランナ装置2と下部ランナ装置5との協働作用により安定して移動され、間仕切りとして展開され、また、収納位置に折り畳まれる。
【0026】
図1、図2に示すように、上部レール3と下部レール10は、部屋の配置、間仕切り位置、吊戸収納位置に対応して、直線レールと、L字状レールと、T字状レールと、十字状レールとが水平面に関して対称となるように所要に接続されてなる。具体的には、吊戸Dを間仕切りするために案内する位置では、例えば2mの長さの直線状のレールを継ぎ足して用いられ、また吊戸Dを水平面内に直角に方向変換するように案内する位置や収納する位置では、直線状のレールにL字状レール、T字状レール、十字状レールが接続される。そして、収納する位置では、L字状レール、T字状レール、十字状レールのいずれかの各2つのコーナー部より互いに平行にレールが延びていて、このレール間の間隔は、吊戸に備えるランナの間隔に対応している。
【0027】
図4は吊戸の下部ランナ装置5の拡大側面図を示す。下部レール10は、底面部10aと、該底面部10aの両側縁より一体に立ち上がる側面部10bとから上側が開いた溝形状をなし、各側面部10bの上端より外向きに突出する鍔部10cを有する。鍔部10cには、内辺に内側に向かって下方傾斜する第1の傾斜面10dが形成され、外辺に外側に向かって下方傾斜する第2の傾斜面10eが形成されている。
【0028】
図1,図2,図6〜図8に示すように、下部レール10のコーナー部である、L字状レール10B、十字状レール10C、T字状レール10Dの溝内には、L字状、十字状またはT字状の浮かし部材30A,30B,30Cが収容固定されている。また、図9に示すように、下部レール10である、直線レール10A同士の継ぎ目部の溝内には、浮かし部材30Dが収容固定されている。各浮かし部材30A,30B,30C,30Dは、上面がコーナー部、または継ぎ目部から離れるに連れて漸次低くなる傾斜面となっている。
【0029】
図5は下部ランナ20の分解斜視図を示す。下部ランナ20は、ホルダ21と、ロッド22と、コイルばね23と、キャップ24と、止め板29Aと、ベース軸25と、コマ部材26と、Eリング29Bと、樹脂製球体からなる乗り上げ部材27と、微小球体28と、ピン29Cとを有してなり、これらが組み立てられた後に、吊戸Dの下端面より上方向に穿孔された円筒空間に下方から差し込まれることにより、吊戸Dに装着されている。
【0030】
図4、図5に示すように、ホルダ21は、下側に小径円筒孔21aを有し上側に六角筒孔21bを有し貫通された筒状体であり、外面下端にフランジ部21cを有している。ホルダ21は、フランジ部21cが吊戸Dの下端面に当接した状態で嵌合固定されている。なお、ホルダ21と吊戸Dの下端面より上方向に穿孔された円筒空間との嵌合が緩いときは、吊戸Dの厚み方向にホルダ21に対応させてキリ孔をあけてこのキリ孔に螺入する木ねじでホルダ21を固定する。
【0031】
図4に示すように、ロッド22は、スライド軸部22aと、六角頭部22bと、ピボット軸部22cとを有する段軸形状であり、スライド軸部22aが、ホルダ21の小径円筒孔21aに軸方向に摺動可能に収容され該小径円筒孔21aより下方へ突出していてホルダ21に対して回転不可能かつ持ち上がり可能であり、六角頭部22bがホルダ21の六角穴の奥行き端に当接されている。ピボット軸部22cは、後述するコマ部材26を支持する。
【0032】
図4に示すように、コイルばね23がロッド22上に載るようにホルダ21内に上方から収容され、次いでキャップ24が、コイルばね23を圧縮してホルダ21内の上部に収容され、該キャップ24に貫通して穿設された矩形貫通孔とホルダ21の上部両側部に水平方向に貫通して穿設された矩形貫通孔とが合わされて、これら矩形貫通孔にキャップ24の外方から止め板29Aが嵌められている。これにより、ロッド22は、圧縮状態にホルダ21内に設けられたコイルばね23の付勢により下方へ突出するように移動され、上端鍔部10cがホルダ21の円環状段部に当接されることで突出する方向に移動が停止され、下方から持ち上げ外力が作用すると、コイルばね23を圧縮してホルダ21内に引退するように動作する。
【0033】
ベース軸25は、軸孔と横穴とを有する短軸形状であり、軸孔がロッド22のピボット軸部22cに嵌合され、横穴を通してEリング29Bがピボット軸部22cに設けられた周溝に嵌着されていることにより、ピボット軸部22cから離脱不能であり、ピボット軸部22cに対して回転自在である。
【0034】
図4に示すように、コマ部材26は、キャップ状円筒部26aと、キャップ状円筒部26aの下端に連設された円盤部26bと、円盤部26bの下面に連設され下端に向かって漸次小径となる略円錐面をなすガイド部26cとを有してなる。コマ部材26は、キャップ状円筒部26aがベース軸25に被さり連結ピンを打ち込まれベース軸25と一体に固定され、円環状鍔部10cがコイルばね23の付勢により下部レール10の幅方向両縁に設けられた鍔部10cに載り、円錐状のガイド部26cが一方側の鍔部10cに対して当接し他方側の鍔部10cに対して例えば0.1〜0.2mm位の微小隙間を有し鍔部11間に位置され、吊戸Dが移動されるときに、下部レール10の該吊戸Dが振れる側の鍔部10cに円環状鍔部10cとガイド部26cが当接することで回転される。ガイド部26cの円錐面の角度θ2は下部レール10の鍔部10cの第1の傾斜面10dの角度θ1よりも僅かに大きく設定されている。
【0035】
乗り上げ部材27は、この実施形態では樹脂製の球体よりなり、ベース軸25の下端面に形成された円形凹部25a内の円周トラックに並んで配設された適数個の鋼製の微小球体28に着座し、コマ部材26のキャップ状円筒部26aが被さりコマ部材26から離脱不能であり、ガイド部26cの下面より突出していて、円滑な球面運動が自在である。乗り上げ部材27の露出部分の直径は、下部レール10の幅の4分の1程度である。
【0036】
<作用>
図6は、下部ランナ20が下部レール10のL字状レール部分に設けられた浮かし部材30Aに乗り上げた状態を示す斜視図である。図7は、下部ランナ20が下部レール10の十字状レール部分に設けられた浮かし部材30Bに乗り上げた状態を示す斜視図である。図8は、下部ランナ20が下部レール10のT字状レール部分に設けられた浮かし部材30Cに乗り上げた状態を示す斜視図である。
上記構成の吊戸の下部ランナ装置5によれば、図6〜図8に示す何れの場合も、吊戸Dが移動され下部ランナ20が下部レール10のL字状レールのコーナー部、十字状のコーナー部、T字状レールのコーナー部またはレール同士の継ぎ目部に向かうときに、乗り上げ部材27が浮かし部材30A,30B,30Cまたは30Dに乗り上げていく。このとき、ロッド22は、乗り上げ高さに応じてホルダ21内のコイルばね23を圧縮してホルダ21内に引退する。乗り上げ部材27が浮かし部材30A,30B,30Cまたは30Dに乗り上げると、コマ部材26の円盤部26b及びガイド部26cと下部レール10の鍔部10cとの接触が解除され、吊戸Dの幅方向の移動が乗り上げ部材27が規制される下部レール10の溝幅内で自由になる。
【0037】
吊戸Dが移動され下部ランナ20が下部レール10の継ぎ目部分を通過する場合の下部ランナ20の動作を図9(a)→(b)→(c)に示す。図9(a)は、下部ランナ20が下部レール10に乗って移動する状態である。すなわち、下部ランナ20が下部レール10の浮かし部材がない箇所を走行する通常走行状態であり、このときの下部レール10に直角方向の断面図を図10(a)に示す。
下部ランナ20が下部レール10の継ぎ目部分に移動する過程で、図9(b)に示すように、下部ランナ20が下部レール10に収容固定された浮かし部材30D上に乗り上げる。このときの下部レールに直角方向の断面図を図10(b)に示す。この状態では、コマ部材26が下部レール10による案内作用の規制から解除される。このため、下部ランナ20のコマ部材26が下部レール10の継ぎ目の段差面に衝突することが回避され、吊戸Dの移動が下部レール10の継ぎ目部分でも円滑に走行することができる。
図9(c)に示すように、下部ランナ20が下部レール10の継ぎ目部分を通過すると、再び図10(a)に示す下部ランナ20が下部レール10に乗って移動する状態に戻る。
【0038】
図11(a)は、下部ランナ20が下部レール10のL字状レール部分またはT字状レール部分に収容固定された浮かし部材上に乗り上げる前の状態を示し、図11(b)は、下部ランナ20が浮かし部材上に乗り上げた状態を示す。
【0039】
これにより、下部ランナ20のコマ部材26がT字状レール、L字状レールまたは十字状レールのコーナー部の溝内に落ち込むことがなくなる。また、 吊戸Dの幅方向の移動が乗り上げ部材27が規制される下部レール10の溝幅内で自由になるから、上部ランナ4の吊軸の中心線と下部ランナ20のロッド22の軸心とが板面方向にずれていることに起因するコマ部材26の引っ掛かりが回避されるので、下部ランナ20がT字状、L字状または十字状レールのコーナー用部材のコーナー部に対応して吊戸を直角方向に向きを変えて移動しようとするときに、吊戸の動作が滑らかに保たれる。
【0040】
吊戸は間仕切り壁を構成するため、部屋の利用者がぶつかったりすることがある。上記構成の吊戸の下部ランナ装置5によれば、鍔部10cの内辺には内側に向かって下方傾斜する第1の傾斜面10dが形成され、ガイド部26cは下端に向かって漸次小径となる略円錐面をなしていて、加えて、ガイド部26cの円錐面の角度θ2は下部レール10の鍔部10cの第1の傾斜面10dの角度θ1よりも僅かに大きく設定されていて、ガイド部26cが下部レール10の鍔部10cの第1の傾斜面10dに乗り上げて脱出しやすくなっているので、図12(a)に示すように、吊戸が間仕切り位置に位置され、下部ランナ20が下部レール10に載置した状態において、吊戸Dに対し下部レール10の幅方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、図12(b)に示すように、ガイド部26cが鍔部10cの第1の傾斜面10dにより上方に案内されることで鍔部10cを乗り越え、図12(c)に示すように、下部ランナ20が下部レール10から脱出するので、吊戸Dの下部ランナ20を支持している部分の損壊を回避することができる。また、脱輪して逃げた際に、乗り上げ部材27のボールによって床を傷つけることがない。
【0041】
さらに、上記構成の吊戸の下部ランナ装置5によれば、鍔部10cの外辺には外側に向かって下方傾斜する第2の傾斜面10eが形成されているので、図12(c)に示すように、吊戸Dが下部レール10から外れた状態から、吊戸Dに対し下部レール10に係合復帰する方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、図12(b)に示すように、ガイド部26cが鍔部10cの第2の傾斜面10eにより上方に案内されることで鍔部10cを乗り上げ、次いで図12(a)に示すように、下部ランナ20が下部レール10内に復帰する。すなわち、下部ランナ20を下部レール10に係合した状態に復帰させることが容易である。
【0042】
本発明の要部は、下部レール10と下部ランナ20とからなる下部ランナ装置5にあり、上部ランナ装置構成が特に限定されるものではない。従来において公知のいずれかの上部ランナ装置を採用することができ、車輪走行によらないで戸を吊って上部レールに案内される構成を含む。
【0043】
<その他の実施形態>
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて把握される技術的範囲には、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々、設計変更した形態が含まれる。
【0044】
上記の実施形態では、乗り上げ部材について、浮かし部材に球面対偶するように備えられた球体を1つ備えた構成としたが、例えば4つの球体を下部レールの溝幅内に正列配置する構成としてもよい。また、乗り上げ部材を、球体として構成せず、浮かし部材に対して点接触ではなく線接触または面接触となって滑らかに乗り上がる構成であってもよい。この場合、乗り上げ部材は、浮かし部材に対して乗り上がる位置で下部レールの溝幅方向に僅かに移動可能な状態を保持する。さらに、浮かし部材は下部レールの溝内に別体として収容する構成のみならず、下部レールと一体に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
床面F
吊戸D
下部レール10
鍔部10c
浮かし部材30A〜30D
第1の傾斜面10d
第2の傾斜面10e
下部ランナ20
コマ部材26
円盤部26b
ガイド部26c
乗り上げ部材27

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側が開いた溝形状をなし床面に形成された溝内に設けられる下部レールと、吊戸の下端に取付けられ前記下部レールに沿って摺動する下部ランナとを有し、
前記下部ランナは、前記下部レールの幅方向両縁に設けられた鍔部上を摺動する円盤部と前記鍔部間に位置するガイド部と該ガイド部の下面より突出する乗り上げ部材とを含んでなる下向きに付勢されたコマ部材を有し、
前記下部レールは、継ぎ目部またはコーナー部において該下部レール内に設けられ、上面が該継ぎ目部またはコーナー部から離れるにつれて漸次低くなるよう傾斜した浮かし部材を有し、
前記吊戸が移動し前記下部ランナが前記下部レールの前記継ぎ目部またはコーナー部に向かうとき、前記乗り上げ部材が前記浮かし部材に乗り上げて前記コマ部材が上方に押し上げられることを特徴とする吊戸の案内装置。
【請求項2】
前記乗り上げ部材は、外径が前記下部レールの幅より小さい、請求項1に記載の吊戸の案内装置。
【請求項3】
前記乗り上げ部材は、前記浮かし部材に球面対偶するように備えられた球体である、請求項1または2に記載の吊戸の案内装置。
【請求項4】
前記鍔部の内辺には内側に向かって下方傾斜する第1の傾斜面が形成され、前記ガイド部は下端に向かって漸次小径となる略円錐面をなし、前記吊戸に対し前記下部レールの幅方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、前記ガイド部が前記鍔部の第1の傾斜面により上方に案内されることで前記鍔部を乗り越え、前記下部ランナが前記下部レールから脱出する、請求項1から3のいずれかに記載の吊戸の案内装置。
【請求項5】
前記鍔部の外辺には外側に向かって下方傾斜する第2の傾斜面が形成され、前記吊戸が前記下部レールから外れた状態から、前記吊戸に対し前記下部レールに係合復帰する方向に一定以上の強さの外力が加わったときには、前記ガイド部が前記鍔部の第2の傾斜面により上方に案内されることで前記鍔部を乗り越え、前記下部ランナが前記下部レール内に復帰する、請求項4に記載の吊戸の案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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